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アインズが陽光聖典との戦いを終えた頃…。
ウルは、ナーベラルとデクリメントとの話が盛り上がった後、スイートルームのベッドの上でゴロゴロした後、聖王国に帰るためにアインズに挨拶を申し出た。
結果、アインズと2人で話をする時間をこぎつける。
何やら忙しそうにしていたので、アインズが来るまでに現状の整理をすることになった。
もちろん、同じ空間にナーベラルとデクリメントがいるため、一人ごとを呟くわけにもいかず、頭の中で整理していくことになる。
まず、一番に警戒しなければならないのは、ナザリック地下大墳墓は、この世界において圧倒的な力、武力を持っているということである。
もちろん、ウル自身の力も絶大であることは同じである。そればかりか、『個』という戦力においては、アインズを大きく上回り、ナザリックの最強NPCであるルベドに対しても引けを取らないであろう。ウルが装備、アイテム、スキル…持ちうる全ての力と知識をもってすればまず負けることはない。
…しかし、これはあくまで『個』の戦力である。
『集団』という点においては、ウルはアインズ、並びにナザリック勢に対して決して敵わない。
アインズと全階層守護者程度であれば、束になってかかってきてもウルであれば勝てる。しかし、ナザリック全軍がウルに攻撃を仕掛けた場合は、為す術などありはしない。
そればかりか、アインズとルベドがタッグを組んで攻めてきただけで、ウルは苦戦を強いられることになる。
故に、友人関係という点を除いて考えても、ウルの中で『単騎』でナザリック勢と敵対するのは避けるという選択に至った。
次に問題なのは、『ナザリックのNPC達の邪悪さ』である。
アインズと青空を眺めに行った際に初めて気づいたが、この世界の住人に対する配慮というモノを一切感じなかった。
それは、デミウルゴスの『世界征服』という言葉を聞いてのモノであったが、今では確信に変わっていた。
目の前にいるナーベラルですら、『人間はゴミ』発言をしているのだ。
その時に、不快な目線を向けると、ナーベラルはすぐに『ウル様は別です!!』と弁明したが、ウルがそのような弁明を求めていないのは言うまでもない。
このことから、ナザリックのNPCをいかに誘導するかが明暗を分けることになる。
幸いなことに、『なるべく敵を作らず友好的に』という思いは、アインズも感じていたらしく、それだけでも大きな救いではあるが、一番の収穫は、恐らくナザリックで一番の切れ者であるデミウルゴスが、ウルに狂信的なまでの忠誠を示していることである。
こればかりは、デミウルゴスを作ったのが弟のウルベルトでよかったと、心から感じている。
そして、アインズ・ウール・ゴウンとも仲良くしていた自分にも感謝を告げるこことなっている。
加えて、1,500人の大侵攻があった際に恩を売っていたのも大きい。
上記二つが、ナザリックのNPCが自身に対して敵対どころか友好的を通り越して忠誠心に近いものを見せてくれている理由であることは明白である。
ウルにとっては、これほど好都合なことはない。
一先ずは、アインズの力も借りながら、時に助け舟を出しつつ、ナザリックのNPCを正しく導いていかなければならない。
ウルはそこまで考え、パンクしそうな頭を何とか落ち着かせ、大きくため息をついた。
アインズが、スイートルームにいるウルと2人きりで話を進めている頃…。
ナザリック地下大墳墓では、ナーベラルがソリュシャンに、デクリメントが一般メイド数人に詰められるように質問攻めにあっていた。
「ナーベラル!!ウル様より至高の41人の御方々のお話を聞いたというのは本当なの!?」
「ええ、ソリュシャン、本当よ…。もちろん、あなたの創造主でであられるヘロヘロ様のお話もお聞きしたわ…!」
ナーベラルは、ソリュシャンに対し、自慢げに口を開く。
「そ、それで…ウル様はなんと…」
「ヘロヘロ様は、お酒がお好きだそうよ…。それにお酔いになられると、素晴らしいお声を以て歌われるそうよ」
ナーベラルの言葉に、ソリュシャンは身を震わせながら喜ぶ。
「まあっ!…ヘロヘロ様が…。是非そのお歌をお聞きしたものだわ…」
「それだけじゃないわ…。ヘロヘロ様には、なんとあのウル様を以てしても、『仕事の処理能力と決断力の早さ』は敵わないと教えて頂いたわ…」
続けて、自身の創造主であるヘロヘロの威光を知ることになったソリュシャンは、思わず身体が崩れかける。
「なっ!アインズ様と同等の頭脳を持つウル様を以てして、仕事の処理能力と決断力の速さはヘロヘロ様の方が上だと仰るのっ!!」
「ええ、そのようです。…アインズ・ウール・ゴウン、至高の41人の御方々のお力は、我々の想像など優に超えているということを改めて思い知らされたわ…」
ナーベラルもどこか誇らしげに言って見せる。
「それにね、ソリュシャン…ウル様からお聞きしたお話はそれだけじゃないのよ…」
「ま、まだ何かあるというのっ!?」
既にヘロヘロの貴重な話を聞いたソリュシャンは満足した様子であったが、ナーベラルの勿体ぶったような言動に心がざわつくのを感じる。
じっとナーベラルの話を待っていたソリュシャンであったが、ナーベラルがゆっくりと目を閉じるのを見て、少し疑念を抱く。
そしてその疑念は、ナーベラルの目尻に溜まり始める涙を見て驚きに変わる。
「ちょっと、ナーベラル?大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ、ごめんなさい…」
ナーベラルは溜まっていた涙を軽くふいて見せると、ソリュシャンの目をまっすぐに見つめて口を開く。
「ヘロヘロ様は…『ソリュシャンのことを愛している』というお気持ちを…何度もウル様にお話ししていたそうよ…」
ここで、ソリュシャンはなぜナーベラルが涙を流しかけていたのか理解する。
自身の感情が、濁流のように押し寄せてくるのが分かる。
創造主であるヘロヘロ様が自信を必要としてくれるだけでも、これ以上にない喜びを感じるのは言うまでもない。
しかし、ヘロヘロ様は私のことを愛されている…。
その話を聞いて、これ以上の喜びはないと感じるほどに、心が、身体が、魂が震えるのをこれでもかと感じている…。
ソリュシャンは一瞬身を固めたかと思うと、少しして身体を震わせ、嬉しさのあまりその場で泣き崩れてしまった。
…ナーベラルがソリュシャンに話したのと同じように、デクリメントも一般メイド数人に話すことになる。
もちろん、ソリュシャンと同じように一般メイドも泣きながら喜び感動に身を震わせていたのは言うまでもない。
そして、この話が他の全ての一般メイド、そして次第に他の守護者や階層守護者に知れ渡っていくことになる。
それは、全てのNPCが『自身の創造主のお話を聞きたい』という感情が生まれることとなった。
ウルとアインズが再び話し合いの場を設けて語り合う。
まず、モモンガから齎された情報と願いは、
・アインズが近くのカルネ村を救ったこと。そしてそのカルネ村を訪れたリ・エスティーゼ王国のガゼフ・ストロノーフと知り合ったこと。
・カルネ村の襲撃はスレイン法国の仕業であり、その部隊である陽光聖典の隊長ニグンという男と、数名の隊員を捕らえたこと。
・今後ナザリックを守っていくためにも、NPCを導いていく必要があること。そのために、ウルに協力を仰ぎたいこと。
・周辺に多くの国があることから、なるべく友好的にことを進めていきたいが、ナザリックに害する者を許すことはできないこと。
・自身も冒険者として活動したい。そして名声を高めたいこと
大きくまとめると以上のような話であった。
このことに関して、ウルが大きく異を唱えることはなかった。
唯一引っかかったのは、『ナザリックに害する者を許すことはできない』という点であったが、これについては主語が『聖王国』になれば、ウルも同じような発言をしていたと感じたため、強くは言えなかった。
現にウルも、多くの亜人をその手にかけている。その上で、人間だけはやめてほしい、などというつもりはなかった。
しかし、牽制の意味も込めて、『無意味な殺害や大虐殺は互いに控える』という約束をこぎつけた。
ウルからの情報はすでにアインズに伝えてしまっていたので、願いのみを話す形となった。
・聖王国への手出しをしないこと。その上で、何か聖王国に対して相談事があるのであれば、どんな些細なことでもウルに伝えること。
・NPCに、アインズに対して報告連絡相談を徹底させ、どのような些細なことでもアインズの耳に入るように導くこと。
・NPCが外部で活動する際には、NPCと場所をウルにも教えてほしいこと。
・そして、冒険者をしようと思っているのであれば、自身、白銀のウルとは知り合いで、かつて共に手を組んで戦っていたことにしてほしいこと。それに加えて、ウルが災厄の大魔皇を追っていることになっている話を再度伝えた。
アインズが冒険者となり活動するのであれば、自身と同じようにすぐにでもアダマンタイト級になるであろう。
そしてそのアインズと知り合いということであれば、自身の身分の証明にもなると考えた。
嘘を嘘で塗り固めるとはこのことである。
そして思いだしたようにして、南方から来たことになっていることも伝えると、アインズも冒険者モモンとして南方からの冒険者である、という設定にすることになった。
1人で冒険者をするのかを訪ねると、ナーベラルと共に登録する予定であることを知り、2人で、ナーベという偽名にすることも決めた。
しかし、同郷…ということにすると、なぜ一緒に行動していないのか怪しまれる可能性があるかも…ということで、南方ではあるが、国は違う…という方向性に決まった。
またエ・ランテルで冒険者登録をするとのことだったため、その前にウルがエ・ランテルに赴き、なんとなく知り合いのフラグを立てておくことを伝えた。
…とここまで話したことで、全てが悉くマッチポンプであることに気付いて『これでいいんですか?』と伝えるアインズであったが、すでにウルは慣れていたこともあり、『マッチポンプで世界が平和になるならいいでしょ!』という回答を聞き、アインズはウルが弟のウルベルトと同じように中二病であったことを今更ながらに思いだすことになったのだった。
そうして話を進め、終えたところでウルが聖王国に帰ることを知ったアインズは、見送りのために玉座の間へと階層守護者とセバス、プレアデスを集める。
簡単な挨拶と、今後の方針の再確認、ウルとナザリックの関係性を明確に確認した後、ウルはナザリック地下大墳墓を離れることになった。
ウルがナザリック地下大墳墓に滞在していたのは、6時~16時の10時間であり、意外にも短かった。
移動時間を含めても15時間程度であったことを知ると、あまりにも濃い時間を過ごしたと実感する。
既に日も落ちてきたころであったが、ウルはカルネ村を横目にエ・ランテルへと向かった。
急いでいるわけでもなかったため、ゆっくりと歩いて向かうことにした。
その道中、伝言が飛んでくる。
カルカからであった。
『ウル様、カルカです…今お忙しいですか?』
『カルカ様、大丈夫ですよ?何かありましたか?』
ウルはカルカからの伝言に答え、優しく語り掛ける。
『いえ、少し…その、お声をお聞きしたくて…///』
『そうでしたか…。あ、実は今バハルス帝国との国境付近のリ・エスティーゼ王国にいるんですけど、これだけ離れていても明瞭に聞こえますね。安心しました』
『そうですね…そんなに離れていてもこんなに…。って!王国と帝国の国境近くにっ!!ど、どうしてですか!!!ま、まさか…聖王国を去るおつもりですか!!??』
ウルの報告に、カルカは思わず大声を張り上げる。
ウルは突然叫んだカルカに驚き、思わず手を耳から遠ざける。
別にそのようなことをしても音が小さくなるわけではないのだが、思わず行動してしまう。
『いえ、違いますよ…。なんなら今から聖王国に戻るところです』
『そ、そうですか~…。よかったです…。わ、私てっきり…。で、ではなぜそのような場所に…?』
カルカは安心しきった様子で、少し声が震えていた。
カルカの質問に、ウルは頭を悩ませる。まさか異形種が跋扈している遺跡に言っていたなど口が裂けても言えなかった。
『何も言わずに聖王国を離れたりしませんよ…。あー、それはですね…。えっと、災厄の大魔皇のお話は覚えていらっしゃいますか?』
『はい…。ウル様のいらっしゃられたお国を…その…』
ウルの回答に、カルカは思わず口を紡ぐ。
ウルからしてみれば、嘘でカルカに言いづらい思いをさせてしまったことを申し訳なく思いながら口を開く。
『ええ、その災厄の大魔皇の痕跡らしきものを調査に行っていました。…まあ、結果から申し上げると何もなかったのですが…。それで今から聖王国に、カリンシャに戻るところです』
『そ、そうなのですね…。あ、あの、ウル様。1つお願いがあるんですけれど…』
『はい、何でしょうか??』
カルカは勿体ぶる。そして、意を決したように言葉を発した。
『えっと…、聖王国を…北部聖王国を離れる際には…一報を頂いてもよろしいですか?ぶ、不躾なお願いであることはわかっているのですが…。その…とても心配なので…』
ウルはその発言を聞いて、思わず足を止める。
アインズやナザリックのNPCに散々報連相の話をしておきながら、自分ができていないことに気付いたからだ。
申し訳ない気持ちが心を支配する。そしてそれは言葉に現れる。
『そうですよね…。ご心配をおかけし、申し訳ありません。以後きちんと報告させて頂きますね』
ウルは心の底から申し訳ないと思っていたが、実際は、別にカルカの直属の部下でもなく、ましてや『今はまだ』許嫁でもないのだ。報告の義務など発生しないのは明白であった。
そのように考えていたカルカからすれば、ウルの謝罪は求めていた物ではなかったので、大きな戸惑いを見せる。
『い、いえ!ウル様が謝ることでは…。私のわがままですので…。えっと、でも報告いただけるということで…ありがとうございます…』
『寛大なお心に感謝いたします、カルカ様。では、また聖王国に着きましたご連絡させて頂きますので…。一度伝言を切っても大丈夫ですか?』
『そ、そんな…お礼なんて…///。は、はい…。お忙しいのにありがとうございました。…では、ご連絡お待ちしてます…』
プツッという音をもって、伝言が切られる。
「報連相…俺もしっかりしないとなー…」
ウルは反省を口にしながら、エ・ランテルを目指して歩みを進めていくのであった。
カルカとの伝言を終える頃には日も大分落ち、次第に月明りのみが街道を照らすことになった。
月明りのみとはいえ、空気が澄んでいるこの異世界では、比較的遠くまで認識できるくらいには明るい。
さて、そんな街道をエ・ランテルに向けて歩みを進めているウルであったが、不穏な人影…というよりも雰囲気を感じてゆっくりと立ち止まる。
一見すると周りには人一人いないほどの静寂に包まれていたが、ウルにははっきりとその雰囲気を感じ取れていた。
「…隠れていないで出てきたらどうです?」
感情のこもっていない声であったが、静寂に包まれたここでは酷く鮮明に響いている。
「あっちゃー、みつかっちゃったかー」
物陰から、金髪に濃い紫色のローブを纏った女が出てくる。
歳の頃は20代半ばであろうか。
見るからに怪しそうな女は、ニタニタとした表情を浮かべ、ウルを見つめている。
「何か御用ですか?」
「用ってほどでもないんだけどさーあー…その鎧、たっかそうだねぇー…」
ウルは一つため息をついて見せる。
「なるほど、盗賊ってやつですか…」
「ん~、まあ、似たようなものかな~」
「そうですか…。なら、大人しく捕まる気はありますか?」
「はぁ?てめぇ…舐めてんのか?誰に向かって口きいてんだ??くそ野郎が…っ!!」
「…なるほど、サイコパスってやつか…。頭だけじゃなくて口も悪いとは…救いようがありませんね…」
ウルの言葉に、女の顔に皺が寄るのが見える。相当お怒りのご様子であった。
「……はなっから殺すつもりだったけどよ~…。散々痛めつけてから殺すにけってーいっ!!」
「はぁ…まあ、こういうバカには実力で潰すに限るか…それに俺のことも知らないみたいだしな…」
「ああ?ばっかだなー!全身鎧をきたてめぇが、あたしのスピードについてこられるわけねーだろーがっ!!」
女はそう笑いながらも、ウルの動きをしっかりと捉えていた。
「(あの鎧を破壊するのは難しい…だが、目元にスッといってドスッだ…それで終わり…)」
ウルは女の言動と、戦闘前の集中力に些少の違和感を感じる。
「(サイコパス女だと思っていたが…敵の観察は冷静だな…こいつ…まあ、面倒だしすぐ終わらせるか…)」
ウルは一呼吸おいてから、再度女へと目線を向ける。
女はそれと同時に、辺りの空気が重くなるような印象を受けた。
兜を纏っているため、目元は見えない。
だが、それでも感じるのだ。
自身の身体を貫く様な視線を…。
何かが漏れ出しているような、その眼光を…。
危険だ…。
この目の前の男は、自身が考えているよりも危険だ…。
そう感じて、身体を動かそうとした瞬間…。
圧倒的なまでの力が、男から爆発したかのように溢れ出る。
「ひっ…あっ…あああ…」
女は、自身の口から出た呻き声が、何を意味しているのかを認知してしまう。
「どうした?構えを崩していいのか?」
溢れ出ている力が収まることはない。
聖なる力とでもいおうか…。その力をまともに喰らえば、死ぬどころか身体ごと砂のように消滅しかねない。
ウルは、一歩、女へと歩みを進める。
「ひっ…ひっ…く、くるな……。な、なんなんだ…お、まえは…!」
女は尻もちをついて震えだす。身体が言うことを聞かない。
「(ありえない、ありえない…こんな力…あっていいわけがない…)」
また一歩、ウルが近づく。
「なるほど、座って仕掛ける攻撃か?…ほら、どうした?見せてみろ…」
ウルは更に力を解放する。…先ほどの力は全力ではなかったのだ。
「ぁ…あぅ…や、めて…やめてください…お、おえねが、しましゅ…」
女は自身の股に嫌な温かみを感じとる。
恐怖と絶望のあまり、失禁してしまったようだ。
だが、女にそれを恥ずかしく思う余裕はなかった。
「その言葉、お前の胸当てにある冒険者プレートの数だけ…お前が聞いてきたんじゃないのか?」
ウルは女の胸当てを見る。
豊満な胸を覆うようにしてできた、ビキニアーマーを思わせるその胸当てには、無数の冒険者プレートが見て取れた。
恐らくは、初心者狩りともいえる冒険者狩りでもしていたのだろう。
「ご、ごめんなしゃい…ご、ごめん…な…さい…」
「謝る相手は…俺じゃないだろ?…そいつらに、直接謝らないとなぁ??」
一歩一歩近づいていたウルであったが、次第に距離は近づき、遂には後1mにまで迫っていた。
「確かに雑魚狩りをするプレイヤーってのはいたが…お前ほど悪趣味な奴はいなかったよ…」
…一瞬、女が小さく目を見開いて見せたが、ウルは特に気にすることもなく、刀を一本抜き、振り上げる。
「…ひぃ…ま、まって…」「じゃあな…」
ここでウルは、何か思い立ったように刀を止める。
…一体何をしているんだと…。
冷静さを取り戻す。
そして、振り上げた刀をゆっくりと降ろすと、女へと視線を向ける。
涙をボロボロと流し、恐怖も相まって顔はぐちゃぐちゃになっていた。
つんっとした刺激臭に近い臭いも立ち込めている。
小さくため息を漏らす。そして、ゆっくりと刀を鞘に納める。
と同時に、ふっと解放していた力も抑え込む。
「やめだ…お前みたいな雑魚を殺したところで…なんにも…」
「か、神様!!プレイヤー様!!申し訳ございませんでした!!」
女は土下座をして叫び散らす。
ウルは女に皮肉をぶつけようとしたが、思わぬ発言に目を見開く。
「はぁ?神様?プレイヤー様?何言ってんだ、お前は…」
「プ、プレイヤー様ですよね?あ、あたし知ってます、プレイヤーのこと!!だ、だから…」
ウルはここで初めて事の重要性に気付く。
『プレイヤー』という言葉は、ユグドラシルを知るモノか、リアルにいる人間しか知らないはずだ。
神様というのはよくわからないが、次第に目の前の女に興味を抱く。
「なんだと…?お前…名前は…?」
「ク、クレマンティーヌと申します!!スレイン法国で、漆黒聖典という部隊にいました!!な、何でも話します!だ、だから…殺さないで…ください…っ!!」
ウルは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「わかった…お前の知っていること全部話せ…有益なものがあれば、見逃してやる…」
「なるほどな…。過去にもプレイヤーが存在していたのか…」
クレマンティーヌと名乗る相手から得られた情報は、とても有益な者であった。大きなものを上げると、
・スレイン法国とは、過去に六大神というプレイヤーが作り上げた国であること。
・100年周期でプレイヤーが降臨すること。
・人間以外の異種族に対して差別的であること。
・八欲王と呼ばれるプレイヤーに闇の神スルシャーナが滅ぼされたこと。
・過去に十三英雄が滅ぼした魔神とは、六大神のNPC(従属神)であること。
他にも細かい情報があったが、これらの情報は非常に有益な者であった。
「は、はい…。神さ…ウル様と同じように、過去にはおりました…」
クレマンティーヌは最初に比べれは怯えはなくなっていたが、まだウルに対しての恐怖心が心を支配していた。
それも当然と言えば当然である。あれだけの力を目にしたのだ。
加えて、祖国が神と崇めているプレイヤーであったのだ。
神に対しての不敬、極刑に値する。
それを、一時的とは言え、許されているのだ。
恐怖が拭えるわけはない。
「そうか…。わかった…。ありがとうな、もう行っていいぞ」
「え…えぇ…」
ウルの言葉に、クレマンティーヌは酷く困惑して見せる。
「…お前の情報は有益だった…だから見逃す…最初に言っただろうが…」
「ほ、ほんとうに…本当によろしいのですか…」
ウルは兜を掻きむしりながら、面倒だと言わんばかりに口を開く。
「しつこい奴だな…いいって言ってんだろ…」
「も、申し訳ありません!!」
クレマンティーヌは再度土下座して見せる。
「…ただしだ…冒険者狩りも、悪事もなしだ…。ズーラーノーンだっけか?それも脱退しろ…いいな?」
「は、はい!承知いたしました!」
ウルは大きくため息をつくと、踵を返して歩み始めた。
土下座をしたままのクレマンティーヌであったが、このままでよいのかという感情が心に生まれる。
相手は神…。恐らく、法国で一番の力を持つあの女より強い…。
そして自身は諸事情で追われている身…であれば、神であるウルの傍にいた方が安全ではなかろうか?
例え法国に見つかったとしても、ウルは神であるため、その傍にいれば極刑は免れる…。
そう考えたウルは、立ち去ろうとするウルに勇気を振り絞り声を掛ける。
「ウ、ウル様!お待ちください!!」
「あ?まだ何かあるのか?」
ウルは少し不機嫌そうにしていた。
少しおじけづく…。だがチャンスは今しかないと、震える心を抑え込み、口を開いた。
「わ、私を…私を一緒に連れて行ってください!!な、何でもしますから…傍においてください!!!」
…この言葉を聞いたウルが、酷く困惑したのは言うまでもない。