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エ・ランテルの城壁入り口に着いたウルは、ふと後ろにいる女に目をやる。
先ほど仲間にして欲しいと言った、クレマンティーヌである。
サイコパス人殺し女など、仲間にする気などさらさらなかったが、彼女の異常ともとれる嘆願や、ウルも薄々気づいていた作りこんでいたサイコパス(実際には根っからのサイコパスというわけではなかった)であったことが発覚し、折れる形で行動を共にしていた。
それに、祖国から逃げ回っているとはいえ、現地のこの世界の情報を多く持っているクレマンティーヌを傍に置いておくのも悪くないと考えていた。
加えて、クレマンティーヌの話から、スレイン法国にあまり良い印象を持たなかったというのも理由の一つにある。
それに、人殺しという点では、亜人を滅多切りにしたウルも、(亜)人殺しであることに変わりはない。
加えて、自分の力を間近で、ピンポイントで浴びせたのだ。
変に反抗する気もないのは明白であった。
聖王国に着いたら、屋敷の一室でも貸し与えてやろうくらいに思っていた。
さて、エ・ランテルの城門前には衛兵がいたが、なんと顔パスも同然で通されてしまう。
なんでも、聖王国のアダマンタイト級冒険者、白銀の聖騎士ウルという名は、王国にも広がりを見せている様子であった。
ウルとしては、大した偉業を成し遂げたつもりではないのだが、現地の住民からすると、英雄的功績である。
ちなみに、ウルはクレマンティーヌにまともに自己紹介をしていなかったため、ウルが聖王国のアダマンタイト級冒険者であることを知ったのはこの時点である。
酷く困惑していたが、ウルが首に下げたアダマンタイト級の冒険者プレートを見せると、酷く納得した様子であった。
…こいつ、今まで気づかなかったのかよ…とも思ったウルであったが、まあ、あの暗闇であの絶望である、無理もない。
こうして顔パスでエ・ランテルに入り、夜も更けていたため、早々に宿屋を目指していた。
衛兵に勧められたのは、黄金の輝き亭というエ・ランテルで最も高級な宿屋であった。
アダマンタイト級冒険者として、安宿に泊まるのは不適切であるというのは、カリンシャで学習済みであるが、どうしても染みついた貧乏癖が抜けず、足取りは重い。
そうしてついた黄金の輝き亭で部屋を取る手続きを済ませる。
もちろん、サイコパスとは別の部屋である。
クレマンティーヌもその辺は了承…というか、未だ恐怖が拭えていないためか、快く了承してくれた。
各部屋に入る前に、クレマンティーヌが訪ねてくる。
「ウル様…エ・ランテルの冒険者ギルドに、一体何の御用がおありなのですか?」
「探し人だ…あと、様をつけるな、ウルでいい」
「か、神様に対して呼び捨てなど…」
「…てめぇとか言ってただろうが」
「そ、それは知らなかったからで…申し訳ありません」
ウルはいたずら心でクレマンティーヌをいじり倒す。
「わかったわかった…。じゃあウルさんにしろ。これは命令だ」
「しょ、承知しました…。ウルさーーん」
「なんだその間延びした呼び方は…まあいい、聖王国に着くまでには直しとけよ、それ」
「が、頑張ります…はい」
そして、それぞれがそれぞれの部屋へと入り、休息をとるのであった。
翌朝、ウルはクレマンティーヌの準備が終わるのを待った後、冒険者ギルドへと足を運んだ。
ウルがこのエ・ランテルに来たという話は、朝一番には各所に伝えられ、すでに街中で噂になっていた。
たったの1か月でアダマンタイトまで上り詰めた圧倒的な強さに加え、世界一のイケメンとまで言われたその顔と姿を一目見ようと、黄金の輝き亭の前には人だかりができていた。
その人だかりを、悪いうわさが立たぬように優しく跳ね除け、冒険者ギルドの扉を叩く。
立派な白銀の鎧、そして首元に輝くアダマンタイトのプレートで、ギルド内にいた者は一瞬で白銀のウルであることを認識すると、皆が羨望の眼差しを向ける。
そしてその羨望の眼差しは、『あの女は誰だ?』と言った様子でクレマンティーヌにも降りかかる。
ウルはそんな眼差しをものともせずに受付嬢の元へ行くが、クレマンティーヌは慣れぬ様子でいそいそとウルの後ろを歩いていた。
「アダマンタイト級冒険者、ウル様。エ・ランテルの冒険者ギルドへようこそ。ご用件がおありですか?」
「はじめまして。お忙しいところすみません。人を探しているのですが、お聞きしても大丈夫ですか?」
「人探し…ですか?ご依頼ですか?」
「いや、話しを聞きたいだけです…。真っ黒な全身鎧を身に着けたモモンという人物を探しているんです。後、一緒にナーベという美人の魔法詠唱者も一緒なのですが、お心当たりはありますか?」
受付嬢は、少し悩む素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「私の記憶では、そのようなお姿の冒険者の方はいらっしゃいませんね…。お知合いですか?」
「ええ、国は違うのですが、私と一緒で南方から来た流れ者なんですが…実力は私と同格程度なので、もし知っていたらと思ったのですが…」
ウルの言葉に、ギルド内が騒然とする。受付嬢も目を見開いていた。
「アダマンタイト級冒険者であるウル様と同格…ですか?」
「ええ、まあ、彼は…恐らく冒険者としては活動していないと思いますが…。過去に私と共に強大な相手と戦ったことがありまして…」
「そうだったのですか…お力になれず、申し訳ありません」
受付嬢は、小さく頭を下げ、陳謝する。
「とんでもない、私こそお忙しい中、申し訳ありません。…それでは、私はこれで失礼いたします…」
ウルは踵を返して立ち去ろうとする。
そんなウルを受付嬢が引き止めるようにして立ち上がる。
「お待ちください、ウル様」
「…何でしょうか?」
引き留められたウルは、ゆっくりと振り向いて見せる。
「よろしければ、当ギルド長、アインザックとお会いすることは可能でしょうか?」
「…ギルド長と?」
「はい、もしお時間が大丈夫でしたら…」
「…わかりました、お会いしましょう」
ウルは受付嬢の提案を快く受け入れ、アインザックのいる部屋へ案内された。
アインザックとの面談は、いわゆる顔なじみになっておきたいというモノであった。
オリハルコン級の冒険者になった頃から、この手の営業に似た挨拶は覚悟していたが、自身の心に沸々と煮えたぎる中二病をロールプレイする気持ちには代えがたい。
聖王国において、すでに何度も行っていたおかげで手慣れたものであった。
アインザックから特に大した話もなく、ウルはあえてアインザックに対しても黒い全身鎧を身に着けたモモンとナーベの話をしつつ、その内のモモンが自身と同格の力を持つことを伝える。
受付嬢のみよりも、ギルド長であるアインザックにも伝えた方が効果的だと考えたからだ。
もちろん、アインズがモモンとして冒険者を始めれば、どんなにアダマンタイトのウルが宣伝していたとしても、カッパーから始まるであろう。
そして、それ相応の実力を示しつつクエストをクリアしていく必要があることに変わりはない。
そのため、ウルの真の狙いはそこではない。
自身の不安定な出生に対する保険である。
将来のアダマンタイト級冒険者と知り合いであると証明できれば、変に詮索をされてもごまかしがきくからである。
まあ、つまりは1人が言うよりも2人が言う方が話の信ぴょう性が高い…。ということである。
さて、そのように話を進め、ウルとクレマンティーヌは冒険者ギルド、引いてはエ・ランテルを後にする。
エ・ランテルから数キロ歩いたところで、クレマンティーヌは沸々と溜まっていた不安を漏らし始める。
「あの…ウルさん…ここ、リ・エスティーゼ王国の端の方ですよ…聖王国と反対側の…」
「ああ、そうだな…」
「…え、このまま歩いていくんですか?」
「そんなわけないだろ?あんまり周りに見られたくないから、エ・ランテルから離れるまでは歩いてただけだよ」
ウルはその言葉を皮切りに、立ち止まる。
そして、クレマンティーヌを見つめる。
「クレマンティーヌ…」
「な、なんでしょうか?」
「ここが、お前の人生で大きな分岐点…選択の時だ…」
「え…?」
クレマンティーヌは大きな疑問を抱く。
「…今ここでなら、俺についてこない…という選択肢も与えてやれる。だが、この先はお前の意思で俺の元を去ることは許せなくなる…。もちろん、お前を奴隷のように扱うつもりはない。働いてはもらうが、普通以上の生活は保障しよう。…だが、自由は大きく制限させてもらう…。それでも…来るか?」
「行きます。…もう私には、ウルさんと共に歩む道しかありません」
ウルは想像とは違った反応に、目を見開く。
「(あ…結構悩むもんだと思ったけど…)」
「…怖くないのか?俺が…」
「…正直に言えば、恐ろしいです。ですが、ウルさんの力をこの身に受けてから…何というか心の腫物というか、今までのドス黒い何かが消えたような感覚を得ました…。ですから、私も行かせてください」
クレマンティーヌはまっすぐとした視線をウルに向ける。
ウルは少し悩んだ素振りを見せたが、小さくため息をついて再度口を開く。
「わかった…お前がそれでいいなら、それでいい。あと、敬語はやめろ…とは言わんが、変にかしこまらなくていい…。いいか、今この瞬間から…お前は俺の仲間だ」
「ウルさん……。わかりました!」
クレマンティーヌはニコッと笑って見せる。
なんだ、こんな女の子らしい笑顔もできるんじゃねーか…と思いながら、手を差し出す。
「…?ウルさん、これは?」
「掴まれ、移動するぞ」
「え、移動ってどういう…」
「『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』」
「…こと…です…か……。って、ええええぇぇぇぇ!!」
クレマンティーヌの疑問は、エ・ランテル近郊とカリンシャにあるウルの屋敷の二つに分かれることとなった。
ローブル聖王国。北部城塞都市カリンシャ。
ここ、カリンシャの街だけでなく、聖王国全体の話になるが、ある日を境に、3週間で見違えるほどの活気で溢れている。
事の発端は、アベリオン丘陵から悪魔と亜人が押し寄せてきた
日。
あれ以降、今日までのおよそ3週間…。
ウルの存在が、カリンシャや聖王国の兵士の士気の向上につながり、治安の安定にも繋がっている。
そして、市民からは心の拠り所となっているのは周知の事実である。
そして最近ではもう一つ…。
アベリオン丘陵において、亜人が全くと言っていいほど確認されていない。
そう、『ウルがいれば、亜人は恐れて聖王国に攻めてこない』という噂…というよりも事実に近い話が各地で触れ回っている。
カリンシャや聖王国に住む民が活気に満ち溢れるのも理解できる。
さて、そんな風に皆ハッピー…というわけにはいかないのが人の世である。
南部聖王国である。
勿論、南部聖王国もこのウルの活躍で、甘い汁をすすれている部分はある。
だが、ウルが聖王女公認…というのが良くない。
カルカの影響力に向上に関わってくるからだ。
既に、ウルの活躍と功績は、カルカが公式に認めている。
つまり、これによって、ウルの活躍は実質的にカルカの功績とも捉えられるのである。
南部聖王国の貴族連中からすれば、面白くないのも当然である。
もちろん、表立ってこれを崩そうとする輩はいないが、裏で様々手回しを始めているのは言うまでもない。
…そしてそれが、とんでもない方向に向かっていき、ウルに不快感を思わせることになるのは、もう少し先の話である。
『なるほど…スレイン法国…随分ときな臭い国のようですね…』
『ああ、特に異形種狩り…まあ、それは俺のいる聖王国もそうだが、スレイン法国は更に酷いって感じだな…』
『そうですね…まあ、そのクレマ…なんとかって女の言うことを信じるのであれば、そうなってしまう経緯もわからなくはないですが…』
『クレマンティーヌな…。まあ実際、スレイン法国が南方の亜人軍勢を塞き止めているからこそ、王国や帝国は比較的平和らしい…』
ウルは、アインズとの定期連絡のなかで、クレマンティーヌから得た情報を伝えていた。
過去にいたプレイヤーやらNPCの話、その他諸々伝えた上で、しっとりと話し合いが続く。
『なあ、アインズさん。もし仮にスレイン法国がナザリックを害した場合はどうする?』
『潰しますね。間違いなく…』
『…まあ、そうだよなー…聖王国が主語なら、俺も同じ判断するわ…』
『…意外ですね…。てっきりやめろと言われると思ってました』
アインズはそこそこ驚いた様子で答えた。
『…まあ、皆殺しとか、虐殺ってなると話は変わってくるが…。全部が全部平和的にってわけにはいかんだろ…向こうから仕掛けてきたら、ただ黙って指くわえてるわけにもいかないし…』
『まあ、それはそうですけど…』
『でも…はっきり言うと、ナザリックのNPCなら平気でやるだろうな…』
『ええ、やると思います…相手が人間であれ異形であれ、お構いなしって感じですね…』
モモンガは大きくため息をついて見せる。
『まあ、そうだろうな…カルマ値底辺が沢山いるしな…アインズさんがどれだけNPCの思考と行動を制御できるかに全てがかかってるな…』
『ちょ、丸投げですか!?ウルさん!!協力してくださいよ!』
『ははっ!冗談だよ、冗談。もちろん協力するさ。…正直な話さ…』
『はい…?なんですか?』
勿体ぶる様なウルの言葉に、アインズは疑問を投げかける。
『アルベドとデミウルゴス…この2人をうまく誘導できるかにかってると思うんですよ…』
『そうですね…特にその2人は、知能が高い設定のNPCなので…』
『…アインズさん、提案なんだが、デミウルゴスは俺に任せてくれるか?』
『もちろんですよ!ウルさんであればうまく話せそうです!』
モモンガは肩の荷がおりた様子で、嬉しそうに言葉を漏らす。
『その代わり、アルベドはアインズさんが何とかしろよ?…嫁としてもさ…』
『ちょっ!不意に不穏なこと言わないでくださいよっ!』
『ははっ!悪い悪い…冗談だよ、半分…』
『半分は本気なんですか…?まったく…って、あ…』
アインズは何かを思い出したように言葉を止める。
『なんだ?どうかしたか?』
『ウルさん…もう一人いました…アルベドとデミウルゴス並みに知能が高いの…』
『え?誰?』
『パンドラズアクターです…』
ウルも思いだしたようにあっと言葉を漏らす。
『まあ、それは、あれだな…。アインズさんに任せる!!!』
『えっ、ちょ、待って…ウルさ…!!』
ウルは、そこで一方的に通話を切り、「ふぅ~…!」と吐息を漏らす。
そしてゆっくりと椅子から立ち上がると、少し笑みを浮かべて口を開いた。
「がんばれ…アイ…モモンガさん…ぷっ!」
パンドラズアクターと関りながら、過去の黒歴史を掘り返されるアインズを創造し、笑いをこぼした。
数日後…。
アインズがナーベラルを連れ、エ・ランテルで冒険者デビューを果たしたことを報告される。
ウルが事前にフラグを立てていたため、比較的スムーズに事が運んでいるらしい。
また、階層守護者やプレアデスを、周辺に調査に出す予定であることも教えてもらった。
ナザリックはナザリックで事を進めている間、ウルは屋敷の大広間へと足を運ぶ。
「あ、ウルさん、大事な用ってのは終わったの?」
ウルに声を掛けてきたのは、この前この屋敷に連れてきたクレマンティーヌであった。
上位転移でエ・ランテル近郊から連れてきた後は、屋敷中にクレマンティーヌの叫び声が、何度も響いたものである。
まあ、第七位階の上位転移を目の当たりにし、しかも屋敷にいるルカとクルミがNPC…従属神であったのだから無理もない。
加えてクレマンティーヌからすれば、従属神ですら自身では到底敵わない実力を有している上、屋敷でメイドとして暮らしているのだ。
驚くなという方が無理な話である。
さて、そんなクレマンティーヌであったが、もちろん顔も髪も特に変わったことはない。
だが、服装だけは大分変わっているのである。
「ウルさん……??」
いつまでたっても返事なく、それでいて何かをこらえる様にしてプルプルと震えるウルに、クレマンティーヌはどこか不信感を覚える。
そして、次の瞬間、その不信感は羞恥心へと変わる。
「ぷっ!っはは…はっはっはっはっはっは!!!!!」
ウルが大爆笑をして見せたのだ。
「な、何で笑ってんだ!」
クレマンティーヌは、なぜウルが笑っているのかすぐに理解できた。
間違いなく自分の服装である。
「だって…だってよ…ぷっ!!…あのクレマンティーヌが…メイド服着てんだぜ…。これがお前…笑わずにいられるかよ…ははっ!!!」
クレマンティーヌは、まるでゆでだこのように顔を赤らめると、一目瞭然と言った様子で怒りを顔に表す。
「なっ!!わ、笑うんじゃねーよ!!メイドとして働いてみたらって言ったのはウルさんだろうが!!!」
「いや、そうなんだけどさ…っ!サイコパス気取って『てめぇ…ぶっ殺すぞ!!』って言ってたお前が…メイドって…だーはっはっはっはっは!!!!」
「~~~~っ!!!!殺す!!殺してやるっ!!!」
クレマンティーヌは更に顔を真っ赤にして地団太を踏んで見せる。
「や、やめて…wwwwその格好でそんなこと言うの反則wwwww。ぶっ!あっはっはっはっは…あでっ!!!!」
笑いを抑えきれないといった様子で腹を抱えていたウルであったが、どこからともなく飛んできた酒ビンが頭に直撃し、その笑いを止める。
「ウル…笑いすぎ。失礼よ…。クレマンティーヌが可哀そうでしょ…」
ビンをウルに向かって投げつけたのは、ウルのNPCであるルカであった。
「ルカさ~ん、ウルがいじめてくるの~…」
クレマンティーヌは、ルカの傍まで行くと、ルカをぎゅっと抱きしめて離さない。
「…可哀そうに…よしよし…。ウル、クレマンティーヌに謝りなさい…」
「えー…でもこいつ、俺のこと殺そうとしたんだぜ?可哀そうなのは俺の方…」「謝りなさい」「ごめんなさい…」
ウルはルカの気迫に一瞬で負け、素直に頭を下げた。
「くぅ~!ルカさんまじかっけー!!さいこー!!!…へへ、いいよ、ウルさん。仕方ないから許してあげる~!!」
「そんなことはありません。ウルがアホなだけです…。よかったですね、ウル。クレマンティーヌが優しくて」
「ぐぐぐ…NPCのくせに~!」
「あなたがそう作ったんでしょ…後悔しても遅いわよ」
先ほどのクレマンティーヌの地団太を、今度はウルが踏むことになる。
そうして暫く騒いでいたが、更にクルミが話に入ってきて、クレマンティーヌの味方をしたことで、ウルは更に不利な立場になるのであった。
アインズが冒険者モモンとして、漆黒の剣と共にンフィーレアの依頼を受けている頃。
ウルはナザリック地下大墳墓の地表へ転移し、出迎えてくれたデミウルゴスに案内される形で、以前滞在していたスイートルームの一室へと移動する。
勿論、両者ともスイートルームへ入ることは、アインズより許可されている。
以前ウルがいた時とは違い、一室内には一般メイドもおらず、デミウルゴスと2人きりという形であった。
ウルは、自身の胃が少し痛むのを感じる。
一瞬たりとも気は抜けない。
いくら弟の作ったNPCで、且つ自身に対し忠誠を誓ってはいる者の、ナザリック一の切れ者という設定である。
加えてカルマ値は最低値の大悪魔…。足元を掬われるのだけは避けなければならない。
…だが、このウルの心配事は杞憂に終わる。
なぜならば、頭が良すぎるせいで、ウルのあらゆる行動が、デミウルゴスからすれば自身をも超える知略によって張り巡らされているからだと勘違いするからである。
しかし、これをウルが知るのはだいぶ先なので、現時点での胃痛の緩和にはつながらない。
さて、デミウルゴスとの話し合いでは、デミウルゴスが今後の課題と流れをウルに相談するというモノであった。
1つは低位魔法のスクロールの不足が予想されるというモノであった。
アインズやナザリック地下大墳墓をもってしても、低位の魔法を封じ込めておく羊皮紙を、自前で何とかするのは難しいらしく、それを定期的に量産できるようにしていきたいというモノであった。
様々な実験を繰り返す必要はあるものの、現時点での有効な材料が人間であることを知ったウルは、相当な懸念を示すこととなる。
それをあらかじめ理解していたデミウルゴスは、謝罪をしつつ、一つの提案をしてきた。
それが、周辺国家の犯罪者や犯罪組織を利用するというモノであった。
今すぐに動けるわけではなかったが、デミウルゴスはウルの機嫌と怒りを買わぬように細心の注意を払って言葉を発した。
ウルとしても、犯罪者や殺人犯を有効的に再利用するという点では賛同するところであったが、一つの疑念が生まれる。
「犯罪者や犯罪組織の人間だけ攫って利用するなんて回りくどいやり方…俺やアインズさんならともかく…お前にできるのか?」
…大嘘である。ウルとアインズにそんなことはできるわけはない。だが、あえてデミウルゴスを焚きつける形で厭味ったらしく口を開く。
「お任せください。確かに、ウル様やアインズ様と比べれば、時間がかかるかもしれませんが、このデミウルゴス!必ずや成功させて見せます!!」
…と言った様子で、とりあえずはウルの思惑通りに事が運ぶ。
そしてもう一つが、ウルが苦し紛れについた『災厄の大魔皇』である。
ただの苦し紛れについた嘘であったが、これもまたデミウルゴスは、素晴らしい知略の下に描かれた計画であると誤認している様子であった。
「この災厄の大魔皇を利用し、ウル様とアインズ様の名声を高める…という解釈でよろしいですかな?」
「ああ、大方は間違っていない…だがそうだな8割正解だ…名声を高める人物がもう一人いる…」
「もう一人…ですか…。ウル様とアインズ様以外にそのような者は…っ!!ま、まさか!!」
「お、気付いたか!さすがデミウルゴスだな…」
「おお、まさかそこまでお考えだったとは…このデミウルゴス、称賛の意を送りたいと思っております」
「…別にいい。それよりも、そのもう一人の名声を高めることで、特にアインズさんの名声はより強固なものになるだろう…」
ウルは適当なことを言ってごまかす。
「ええ、今アインズ様が行われている冒険者モモンとしての活動…それにより得た名声を、そっくりそのままアインズ様が取り込むわけですね!」
…ん?そうなの?よくわからないけどそうゆうことにしておこう。
「そういうことだな…。なんだ、結構頭いいじゃんか」
「滅相もございません…私など、まだまだにございます…その証拠に、未だあの青空で提示いただいたウル様の言葉を理解できていないのですから…」
ウルは、そんなこともあったなーと言った様子で口を開く。
「あー、ウルベルトの悪についてだったな」
「はい、ウルベルト様の御考えの一端を知りたく考えておりますが…『悪を憎み、悪を倒すために悪となった』…今だその真意には届いておりませぬ…」
「まあ、そりゃそうだろ…その言葉の意味を知るということは、ウルベルトの生き様を知るってことだ…そう易々とわかるもんじゃない…」
…嘘です。ウルベルトがユグドラシルをやる上で掲げていたコンセプトにすぎません。
…まあ、実際にはそのコンセプトを掲げるに至った過去の経緯はあるのだが…。
そう考えると、あながち嘘でもない。
「そうだな…。1つヒントをやるとすれば、たっちみーとセバスだな」
「たっちみー様と…セバス…でございますか?」
デミウルゴスは酷く驚いた様子で答える。
「そうだ…。お前はたっちみーとウルベルトが本気で仲が悪いと思ってるだろ?…まあ、仲が悪いのはそうなんだが、本質はそこじゃない。たっちみーの掲げる正義と、ウルベルトが掲げる悪…それは実は非常に近いものがある」
「ウルベルト様の悪と…たっちみーさまの正義が…近い…ですか…」
「そうだ…。想像もしてなかっただろ?」
「はい…。まさに寝耳に水…。と言った感じでございます」
デミウルゴスは酷く困惑した様子で眼鏡をクイッと上げる。
「それじゃあ、何時まで経ってもウルベルトの考えを知るなんて無理だな…ヒントを与えてよかったぜ」
「このような非才の身に…大変なご配慮、感謝いたします…」
デミウルゴスは、まるで謝罪するかのようにして頭を下げ、ウルに敬意を表して見せた。