【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

16 / 37
拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第15話 vsシャルティア

王国の宮殿前広場。

 

そこには、八本指の拠点7カ所…一ヵ所追加され、8カ所へと奇襲を仕掛けるために集まった、兵士や冒険者などで溢れかえっていた。

 

ウルは城壁の兵士に案内される形で、その広場へと姿を現した。

 

「あ、あれが…」

 

「ああ、白銀のウルだ…」

 

「裏の娼館を潰したっていう…」

 

「噂にたがわぬ強さらしいぞ…」

 

ウルの姿を見た兵士たちが、騒めき始める。

 

そんなざわめきに目もくれず、ウルは先日ともに行動した2人組を見つけ、ゆっくりと歩み寄った。

 

「クライムさん、ブレインさん」

 

「ウル様…この間ぶりですね」

 

「ブレインさん、様はやめて頂きたい…ウルで構いませんよ」

 

「ですが、あなたのような強者を呼び捨てなど…ではウルさんでよろしいですか?」

 

ブレインは酷く困惑して見せたが、小さく笑うとその要望になるべく応える形で対応した。

 

「それであれば、問題はありません。クライムさんも、それでお願い致します」

 

「しかし…いえ、分かりました」

 

どこか不満げであったが、納得せざるをえないといった感じで口を開く。

 

そして、見たことのない強面の雰囲気を醸し出す男が口を開く。

 

「割って入るようですまない。ウル殿、私は王国戦士長のガゼフ・ストロノーフと申します…。お噂は兼ねがね…先日もこの2人がお世話になったとのことで…」

 

「おお、あなたがかの有名な…改めて、ローブル聖王国で冒険者をしております、ウルと申します。以後、お見知りおきを…」

 

ガゼフとウルが挨拶をしていると、続けて5人の女性が近寄ってくる。

 

「ウルさん!お待ちしておりました。ご協力、ありがとうございます」

 

「ラキュースさん、それに蒼の薔薇の皆さんも、本日はよろしくお願い致します」

 

「こちらこそ…」

 

「むしろお願いするのはこちら側…」

 

ティアとティナが短く言葉を投げる。

 

「ははっ!やっぱあんたはでっけーな!!」

 

「…それがお前の本来の装備か…」

 

ガガーランはウルの態度に心底感心していたが、イビルアイは装備に関心を寄せる。

 

「ええ。白銀というのもこの鎧が起源ですので…」

 

「……」

 

イビルアイは特に反応もなく、ウルを見つめている。

 

なにか考え込むような雰囲気であったが、それはラキュースの言葉によって意識が断たれる。

 

「それでは、これより八本指の拠点8カ所に襲撃を仕掛けます。詳しい説明を致しますので、皆さん聞こえる位置まで集まってください」

 

集められた兵士、冒険者、その他勢力が、ラキュースの声掛けで集まると、作戦の概要が示された。

 

 

ウルは、クライムとブレインと共に、一つの拠点へと踏み込むことになった。

 

娼館と同じく、ウルが正面から、クライムとブレインが裏口から攻め込む作戦であった。

 

ウルは正面を強引に突破すると、多くの八本指関係者と共に、筋骨隆々の全身刺青まみれの男を発見する。

 

「お前が…白銀のウルか…」

 

「んー、なるほど、確か、六腕のゼロ…だったかな?」

 

「その通りだ…。しかし、まさか聖王国の冒険者であるお前が、俺たちに喧嘩を売るとはな…なあ、一つ提案があるんだが?」

 

「提案?言ってみろ、内容によっては受け入れなくもない」

 

ウルは低く、抑揚のない言葉で答えて見せる。

 

「俺たちの仲間にならねえか?…お前の力は俺と同格と見た…俺たちが手を組めば…今まで以上の覇権を握れる!!」

 

ウルは思わずため息をついた。

 

ゼロの力は、精々30レベル程度…。刺青は恐らく呪印に似た力を高めるものだろうが、それをすべて解放したとしてもレベル40には届かないくらいが関の山…。

 

到底ウルと同格などではない。

 

「そうか…。そうだな…。なら、お前の最強の一撃を俺に浴びせてみろ…。俺はここから動かない…。お前の力が本当に俺と同格なら、俺の鎧を砕き、俺に致命傷を与えられるはずだ」

 

「…正気か?死ぬぞ?」

 

「案ずることはない…俺は信仰系魔法を扱えるんでな…。それとも、ビビッて手が出ねーのか?」

 

「ふふっ!!はははは!!!!おもしれー!!!余計に仲間にしたくなった!!!」

 

ゼロは心底楽しそうに大笑いして見せる。

 

「なら、俺の鎧を砕いたら、仲間になってやるよ…ただ、砕けなかった時は、お前を殺す。どうだ?」

 

「よし、乗った!!!俺の力を思い知らせてやる!!!」

 

ゼロは足を大きく開いて力む。

 

「パンサー!ファルコン!ライノセラス!!バッファロウ!!ライオーン!!!うおーっっ!!!!」

 

それぞれの刺青に似た呪印らしきものが光、ゼロの拳が七色に輝く。

 

そして、それをウルの胴体めがけ打ち込む。

 

バコーンっ!!という音と共に、ウルの鎧と衝撃をかました拳から白い蒸気が発生し、辺りに飛散する。

 

ゼロはこの上ない手ごたえを感じ、ニヤリと口角を上げる。

 

蒸気が晴れる。

 

驚愕する。

 

鎧は砕けておらず、加えてウルはその場から一ミリも動いていないからだ。

 

ウルは、目にも留まらぬ速さで剣を抜刀し、横に振りぬく。

 

ゼロの身体が、胴体からゆっくりと二つに分かれる。

 

「な…なんなんだ…おまえは…」

 

「約束通り、命はもらい受ける…」

 

ゼロの上半身がずるりと地面に落ち、残った下半身から血飛沫があがる。

 

「「「「「ひ、ひぃぃ…」」」」」

 

周りにいた部下らしき男たちが、呻き声のような悲鳴をあげ、尻もちをつく。

 

「安心しろ…お前たちは殺さない…別の勢力が…お前たちを素敵な場所へご招待してくれるはずだ…」

 

ウルは刀に突いた血を払い、ゆっくりと納刀した。

 

 

裏口から侵入したクライムとブレインは、千殺の異名を持つマルムヴィストという六腕の一人を打ち取った。

 

その後、八本指の雑魚どもを蹴散らし、控えていた衛兵に調査を託し、他の拠点へと向かっていた。

 

その最中に、異変は起きた。

 

王都の一部が、炎の壁で包まれたのだ。

 

「あ、あれは一体…」

 

「炎の壁…だと…」

 

クライムとブレインが驚愕の表情を浮かべる中、ウルは目を細め、じっと睨む。

 

「ゲヘナの炎…。災厄の大魔皇の配下、三魔皇の一人、ヤルダバオトの…力だ…」

 

クライムとブレインは、更に驚愕の表情を浮かべる。

 

「災厄の大魔皇…そんな…」

 

「王都を襲うつもりか…」

 

「…お二方とも、急ぎましょう…」

 

ウルの呼びかけに応じて、2人は後を付いていくように走り出した。

 

 

ウルは、クライムとブレインと一時離れ、人目を憚りながらゲヘナの炎の内側へと入っていった。

 

王都の倉庫区画に入り、屋根に飛び乗る。

 

すると、白いドレスに趣味の悪い、これまた白い仮面をつけた女性が目に入る。

 

「おまちしていました…。ウル様…」

 

「話は聞いてるか?」

 

「はい、しかと…」

 

「まさか、お前とやり合える日が来るとはな…」

 

ウルは少し嬉しそうに答えて見せると、シャルティアからも歓喜の雰囲気が漏れ出る。

 

「ウル様には到底かないませんが、ご満足いただけるように全力をつくします」

 

「おいおい、やりすぎるなよ?…冒険者や戦いに参加している者は、覚悟を持って戦場に来ているからまだいいとしても…。住民や罪なき者は巻き込むな?…」

 

「お任せくださいませ…。もう二度と、かような失敗はしませんので…」

 

シャルティアは少し落ち込んだ様子で口を開いた。

 

「はぁ、もうその話はなしだ…。それに、戦闘時であれば、演技も視界の広さも心配はない…そうだな?鮮血の戦乙女…シャルティア・ブラッドフォールン!」

 

「はっ!!」

 

ウルのドスの利いた声に、シャルティアは(ひざまず)いて答える。

 

「…血の狂乱だけは気をつけろよ?」

 

「あっ……。はいでありんす」

 

とても気合の入る雰囲気だったそれは、最後の一言で台無しになって終わる。

 

 

 

シャルティアとの簡単な打ち合わせを行った後、王城へ向かう途中で、カルカから伝言が飛んでくる。

 

「ウル様?今お時間少し大丈夫ですか?」

 

「カルカ様。はい、少しでしたら大丈夫ですよ。いかがされましたか?」

 

カルカは少し緊張している様子であった。

 

「あの、少しご相談したいことがありまして、できれば直接お話がしたいなーと。それで、いつ頃聖王国にお戻りになるのかをお聞きしたくて…」

 

「そうだったんですか…。それが、今王都が魔皇の1人と吸血鬼の1人に襲撃を受けていて、いつ聖王国に帰れるかわからない状況なんですよ」

 

伝言越しでもわかるほどに、カルカは驚きの声をあげる。

 

「なっ!王国の首都に、魔皇と吸血鬼が!!お待ちください!!まさか、戦うおつもりですか!?」

 

「はい、野放しにはできません。何より、放っておけば、多くの罪なき人々が被害を受けます…。奴らとやり合えるのは…私とモモンしかいない」

 

「で、ですが…いくら漆黒のモモンと一緒とは言え…。危険すぎます…。相手はウル様と同格なのでしょう…?」

 

「…はい。無傷…というわけにはいかないでしょう」

 

ウルの弱気な発言に、カルカは最後驚きを見せる。

 

一万を超える悪魔と亜人の軍勢に、傷一つ負わずに勝利を収めたウルが、負傷する可能性のあるほどに敵が敵が強大であると再認識したという点もある。

 

しかし、それよりも…。

 

「ウル様…。どうか、どうかご無理をなさらないでください…。絶対に…無事に聖王国にお戻りになると…お約束…ください…」

 

「…カルカ様…」

 

カルカが涙を滲ませながら声を絞り出す。

 

それを察したウルは、思わず言葉を詰まらせる。

 

そして、小さく笑いを浮かべた。

 

「承知いたしました。魔皇も吸血鬼も打ち倒し、必ず聖王国に戻ると、お約束します」

 

些少の安堵を口にしたカルカの声を聴いた後、ウルは静かに伝言を切った。

 

 

 

「冒険者の皆さん、今回の非常事態に集まっていただき、ありがとうございます」

 

王城の一室で、ラナーが集まった冒険者たちに言葉を投げかける。

 

長いテーブルの周りには王国の名だたる冒険者が集まりを見せている。

 

そこには、漆黒のモモンとナーベの姿もあった。

 

聖王国の冒険者であるウルは、この場では異質の存在であるが、それを誰も変には思わない。

 

ウルは、冒険者の中にとある男装をしている様相を見せる女性をじっと見つめる。

 

その女性も、ウルをじっと見つめ、話しかけたそうにうずうずとしているが、それどころではない雰囲気のため踏み出せない。

 

「本日未明、王都の一部、このあたりに、炎の障壁が張られました。この炎は幻に似たところがあり、接触しても何ら害がないようです。実際に、蒼の薔薇のリーダーであるラキュースが確認済みです」

 

ラナーはラキュースに目配りをする。

 

「実際に私が触れてみた。熱も一切感じず、侵入を阻害されることもなく中に入れた壁の向こうには低位の悪魔たちがいることも確認している」

 

「この事件を起こした首魁は2人…皆さんもお耳にしているとは思いますが、災厄の大魔皇の配下、三魔皇の一人、魔皇ヤルダバオト、そして、二大吸血鬼の一人、シャルティア・ブラッドフォールンです。非常に強大且つ凶悪な悪魔と吸血鬼です」

 

「どのくらい強いんだ?」

 

1人の冒険者が質問を投げかける。

 

「私の仲間の2人、戦士ガガーランと盗賊ティアが殺されたわ」

 

「それもたったの一撃でだ」

 

ラキュースとイビルアイがそれぞれ答える形で口を開く。

 

「なっ…一撃…!!」

 

冒険者たちの間で、騒めきが起こる。

 

「慌てるな!確かにヤルダバオトは強い…それは奴と対峙し、為す術なく敗北した私が保証する…。シャルティアという吸血鬼は一目見ただけだが…やつも同格の強さだという…」

 

イビルアイは一度含んだ物言いをすると、バッと後ろを振り向く。

 

「しかし、私たちにはこの人達がいる!!漆黒の英雄モモン殿と白銀の聖騎士ウル殿だ!!」

 

冒険者たちから歓声に似た声が上がる。

 

「…今回の作戦の要は四つ。1つ目は、低位の悪魔たちを、モモン様とウル様以外の冒険者の皆さまで討伐していただく事。2つ目は悪魔を冒険者が惹きつけている間に、魔皇ヤルダバオトをモモン様が討ち取る…」

 

ラナーは一度呼吸を置いて、続けて口を開く。

 

「3つ目は、少数の別動隊が囚われた住民を救出すること…。4つ目は、倉庫区画をうろついている吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールンを、ウル様が討ち取る…。この4つになります」

 

作戦の大まかな概要を聞き、皆の顔に真剣さが増す。

 

「今回の戦い、決して勝てない戦ではありません。皆さんで力を合わせ、必ず勝ちましょう」

 

冒険者たちが顔を見合わせるようにして、頷いて見せる。

 

「では、私はここで、皆さんが誰一人欠けることなく戻ってくることを神にお祈りしております…。ご武運を!!!」

 

「「「「「おおおーーーーーー!!!!!」」」」」

 

冒険者の怒号が室内に響き渡った。

 

…この時は、ここにいる殆どの者は知りえなかった…。

 

この戦いが後に、伝説と言われるほどの苛烈さと衝撃、そして感動を与える戦いになることを…。

 

 

 

ウルは、クライム、ブレイン、そしてレエブン侯のお抱えである元オリハルコン級冒険者のロックマイアーを中心に構成された住民救出別動隊と共に行動していた。

 

共に、囚われた住民を救出するのもそうであったが、ウルは他のメンバーとは違う役目を抱いてる。

 

その役目が、ブレインの心を大きく揺さぶっていた。

 

「ウルさん…ウルさんなら、あのシャルティアを倒せるのですか?」

 

「そうですね…。倒すことに関しては間違いなく可能でしょう…。ただ…」

 

ウルの含みある言葉に、3人は怪訝な様子を見せる。

 

「…多くの巻き添えと被害を考量しなければ…ですが…」

 

怪訝は驚愕に変わる。

 

「…それはつまり…王都が崩壊する程の戦いになると…?」

 

この中で、最も王都と関り深いのはクライムである。

 

王都内で戦いが起これば、被害が出るのは百も承知である。

 

しかし、許容できる限度というモノがある。

 

何もかもが崩壊した王都では、たとえ魔皇と吸血鬼を倒せたとしても、手離しで喜ぶことはできない。

 

「この機会に奴を倒したいところですが…最優先は王都の民の命…私と対峙することで、退散してくれるとありがたいのですが…」

 

その言葉を聞き、クライムは大きく目を見開く。

 

この人こそ、本物の英雄であると…。

 

自身の目的である敵を倒したい。

 

それは当たり前の感情であろう。

 

しかし、目の前の男…英雄は、何よりも弱き民を守るために行動しようとしている。

 

それが酷く、自身の心に興奮と尊敬の念を抱かせるのだ。

 

ブレインとロックマイアーも感激を受けたような表情を見せていたが、ウルが突然立ち止まり、ある一点に視線を固定したことで、一気に緊張が高まる。

 

そして、ウルが立ち止まって少しして、ブレインが顔を強張らせる。

 

「…シャルティア…ブラッドフォールンだ…」

 

「…倉庫区画はこの先…。私がシャルティアを押さえます…その隙に、住民の皆さんを助け出してください!」

 

ウルは言い残すようにして声を張り上げ、屋根の上に飛び乗った。

 

 

屋根に飛び乗ったウルは、前方の人物に目を向ける。

 

全身を深紅の鎧に身を包み、手には強大なランスを有している。

 

「あら、随分と早いお付きでありんすね…」

 

シャルティアは、渾身の演技で目の前のウルを挑発するような口調で言葉を発する。

 

ウルはそれに答えることなく、二本の刀剣を抜刀し、構える。

 

…刹那、ウルの姿が掻き消え、シャルティアへと肉薄する。

 

ガキンッという音と共に、ウルとシャルティアの武器が激突する。

 

「楽しくなりそうでありんす…!」

 

「それは何よりだ…!」

 

互いの武器が離れるや否や、再度衝撃し、それを繰り返す。

 

次第に屋根は崩壊し、辺りの住居を吹き飛ばすほどであった。

 

 

ウルが飛び乗った屋根が吹き飛び、両者の衝撃で辺りの住居が崩壊し始めた頃。

 

近くにいたロックマイアー、クライム、ブレインは驚愕の表情を浮かべる。

 

「おいおい、冗談だろ…」

 

「ここまで…とは…」

 

「あの化け物と…本当に…渡り合っている…」

 

剣戟の衝撃と閃光が上空で何度も交差する。

 

そしてその衝撃波が3人の元に降り注ぐ。

 

「ぐっ…この波動は…!!」

 

「なんて力だ…」

 

「…ッ!俺たちは俺たちのやるべきことを…急ぐぞ!!」

 

圧倒的な力と衝撃波に圧倒されていた3人であったが、些少の冷静さを取り戻し、目的の倉庫区画へと進んでいった。

 

 

低位の悪魔たちを相手取っているラキュースを含めた冒険者たちは、一瞬劣勢に立たされたが、国王であるランポッサ3世に加え、それを守護する戦士長のガゼフの加勢により、危機を脱する。

 

まだ低位の悪魔たちは残ってはいるものの、戦況は優勢に傾き始めた。

 

「このまま押し込みます!!」

 

「陛下に悪魔を一匹たりとも近づけるな!!」

 

ラキュースとガゼフの掛け声のもと、兵の士気も高まりを見せている。

 

…そんな最中であった。

 

真横から、ラキュースを巻き込むようにして、圧倒的な速度で何かが衝突、通過する。

 

そして、それは建物へと達し、激突。そこで止まる。

 

「ラキュース殿!!」

 

突然吹き飛ばされたラキュースに向かって叫ぶが、返事はない。

 

ガゼフの視界に映ったのは、真っ赤な鎧を身に着けた女…吸血鬼であった。

 

その一瞬で、この吸血鬼がブレインやラナーが言っていたシャルティアであること理解する。

 

国王の前方に立ち、守りを固めつつ、ラキュースの身を案じるようにして目を凝らす。

 

視界に捉える。動きはある。命は無事なようだ。

 

ラキュースは、衝撃の痛みと建物の一部が崩れたことによりできた砂ぼこりが晴れ始めた段階で、目を開く。

 

そして一瞬で大きく見開く。

 

目の前に、圧倒的な存在感で佇む、真っ赤な鎧を着た吸血鬼シャルティアが自身を視界に捉えていた。

 

「ッ!!」

 

「邪魔ッ!!!!!!」

 

シャルティアもラキュースに気付き、目障りだとばかりに強大なランスを振りかぶる。

 

ラキュースは目も閉じることができずに、自身に迫るランスを見つめていた。

 

死とはこんなにも唐突なのか…。

 

走馬灯のように蒼の薔薇のメンバーやラナーなど、親しいものの顔が浮かぶ。

 

…だが、目の前に迫っていたランスは、一瞬で白銀のマントに入れ替わったように切りかわる。

 

ランスが、あと数ミリと言ったところでラキュースの左頬を掠める。

 

ウルがラキュースへと迫るランスをすんでのところで押しはじいたのだ。

 

「ちっ!」

 

攻撃を防がれたシャルティアは、背中に生えた翼を大きくはためかせ、後方上空へと距離を取る。

 

「ウ…ウル…さん…」

 

「…お怪我は?」

 

ウルは少しだけ首を回し、ラキュースの身を案じる。

 

ラキュースは、自身の胸が少し高鳴るのを感じる。

 

自身を助けた目の前の白銀の鎧が、幼き頃に憧れた英雄そのものであったから…。

 

「だ、大丈夫…です…。あ、ありがとう…ございます」

 

ラキュースは更に高鳴る胸を鎮めるようにして、ゆっくりと立ち上がる。

 

そして先ほど自身に死を齎さんとしていたシャルティアに目を向ける。

 

「よくもまあ、そんなゴミを守ったでありんすねー?その人間を犠牲にすれば…私に傷を負わすこともできたでしょうに…」

 

「…お前の隙を窺う程、俺は弱くねーよ…シャルティア」

 

「ははっ!!そうでありんしたねー…。でも、ここにいるゴミ共を守りながらでも、同じことを言えるでありんすか?」

 

シャルティアは左手を天に向けると、そこに赤い巨大な魔方陣が形成される。

 

「第7位階魔法…『煉獄火炎(インフェルノフレイム』」

 

シャルティアが発動した魔法は、火属性広範囲魔法であった。

 

掌がウル達に向けられると、火炎放射器のように炎が吐き出される。

 

第7位階…神の領域ともいわれる魔法に、ラキュースやガゼフたちは身動き一つとれずにそれを見上げる。

 

…あれを喰らったら、一瞬で灰になる。

 

しかしなれど、あれを防ぐ術も、回避する力もない。

 

故に動けずにいた。

 

しかし、その炎は、光球にも似た光の壁と押し合うこととなる。

 

「『聖なる球壁(ホーリー・フォース)!!』」

 

ウルが放った魔法は、上空で半球を形成し、火炎放射を左右へと反らす。

 

暫く押し合うようにして両者の魔法がせめぎ合っていたが、シャルティアの魔法が効力をなくしたことで、このせめぎあいは終わりを迎える。

 

「はははっ!!信仰系第6位階の聖なる球壁でありんすね!!あたしの第7位階魔法を反らしきるとは!!さすがでありんすねー!!」

 

シャルティアは、どこか嬉しそうに声を張り上げる。

 

「…なんだ…この戦いは…」

 

「高位階魔法…じ、次元が…ちがう…」

 

「こ、これが…白銀のウルと、吸血鬼シャルティア…」

 

「神話レベルの…戦いだぞ…」

 

冒険者たちが、足を震わせながら、半歩身を引く。

 

「こんなの…すごすぎる…」

 

「これが…白銀の聖騎士…ウル殿の力…」

 

冒険者や兵士たちの言葉を聞き、ラキュースとガゼフも同じような感想を口にする。

 

「ふふっ!では、直接攻撃とまいりんしょうかえ?」

 

シャルティアが音速にも迫る勢いで地面へと接近する。

 

それを食い止めるようにして、ウルが地面を割りけって空中に跳ぶ。

 

衝撃音。そして衝撃波。

 

その衝撃音と衝撃波に驚きを抱いたのも束の間。

 

空中で幾たびも両者がぶつかり合う。

 

それは、まるですぐ上空で何度も爆発が起こる様な様相であった。

 

 

戦場を、ラキュース達のいる地上から空中へと変えたウルとシャルティアは、単純な武器同士のぶつかり合いで戦闘を継続していた。

 

そもそもが本気の殺し合いではないため、ウルもシャルティアも比較的手を抜きながら、戦うふりをしていたが、現地民からしたらとんでもない戦闘であった。

 

幾度となく空中で繰り広げられるぶつかり合い。

 

目で追うことができないの速度で、互いに移動し攻撃しあう。

 

どちらが優勢なのか、ダメージの有無は、全てが把握できない状況であったが、その戦闘行為から目を離すことなどできなかった。

 

「これが…戦いなのか…?」

 

誰かが呟いた言葉であったが、皆が抱いている感情は同じであった。

 

自分たちが今迄してきた戦いなど、まるで子どものごっこ遊びであるかの如く、上空で行われている戦闘は苛烈であった。

 

そんな上空で行われている戦闘とは別に、遠く離れた時計台広場の辺りで轟音と建物の崩壊音が聞こえる。

 

これだけ離れているのに、その衝撃音は言葉で表すのも難しいほどであった。

 

「あっちも…モモン殿の方も…同じような戦闘が行われているのか…」

 

「一体…王都に…いえ、世界に何が起こっているというの…?」

 

ガゼフとラキュースが絶望に似た声を上げる中、上空の剣戟が一度止む。

 

その瞬間、ラキュース達のいる近くに、何かが落下してくる。

 

しかしそれは縦に一回転して見せると、片手を付いて体勢を整え、綺麗に着地して見せる。

 

速度を殺しきれていなかったのか、地面を滑るようにして後退する。

 

白銀の全身鎧を身に纏い、両手に刀剣を握る、ウルであった。

 

「ウルさん…っ!!」

 

ラキュースは思わず名を呼んだが、それは苦悶の表情へと変わる。

 

素晴らしく精巧で、強大な力を秘めているであろうその鎧は、左手上肢部分と脇腹部分が破損していた。

 

左手は焼けたように爛れ、脇腹からはドポッと出血していた。

 

他の者もそれに気づいたのか、開いた口が塞がらないといった様子であった。

 

そんなウルに駆け寄ろうと、一歩踏み出した瞬間、上空から聞きたくない声が発せられる。

 

「痛むでありんすかえ?しかし、私の方がダメージはうけているでありんすねー。さすがは白銀のウル…。人間でここまで私を追い詰めたのはあなたがはじめてかもしれんせん…」

 

シャルティアの真っ赤な鎧も大きく破損している。

 

破損度合いで言えば、ウルよりもひどい。

 

実力ではウルの方が少し上回るのであろうか?

 

ラキュースはそんな風にして考えていたが、シャルティアの左手に、光の槍のようなものが形成されるのを見て、またも驚愕の表情を浮かべる。

 

先ほど放って見せた第七位階の魔法よりも、強大な力を感じ取ったからである。

 

「これは、清浄投擲槍というでありんす。今のおんしを殺すには、十分すぎる力でありんすえ」

 

「その言葉…自分に返ってこないといいな…シャルティア!」

 

ウルは右手の刀剣を後ろに振りかぶる。

 

刀に膨大な力が蓄積し始める。

 

「あはっ!素晴らしいでありんすねー…。どっちの必殺が強いのか…力比べということでありんすね!!」

 

シャルティアが清浄投擲槍を放つ。

 

その速度たるや、一瞬でウルに迫らんとする速度であった。

 

放たれた瞬間、ウルの刀も振り抜く。

 

「『次元断切(ワールドブレイク)!!』」

 

両者の技が、上空の一点で合いまみえる。

 

刹那、強大な力の波動が王都を駆け巡る。

 

バチバチッと耳を劈く様な音が、十秒程度続く。

 

体感的にはもっと長かったように思える。

 

閃光が、火花が、暗い王都の空を眩く照らす。

 

…シャルティアの清浄投擲槍が僅かに後退する。

 

「…ッ!そ、そんな!!私の攻撃が…押されている!?」

 

「…あきらめろ、シャルティア…お前では俺には…勝てん」

 

ウルが言い切ると同時に、ゆっくりと清浄投擲槍が二つに割れていく。

 

「嘘だっ!!人間如きに…私の攻撃が!!!」

 

「次元断切…お前を殺すのには、十分すぎる力だ…」

 

先ほどシャルティアが放った言葉を、皮肉っぽく口にする。

 

「く、くそがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

清浄投擲槍が二つに分断され、離散していく。

 

ウルの放った次元断切がシャルティアの右肩から左足に向けて、スパッと切れた瞬間、大爆発を起こし、暴風を齎す。

 

その爆風を正面から受けながら、ウルは素早く刀を振り下ろし、ゆっくりと鞘に納めた。

 

 

私は、今日この時まで、自身は強者の部類に立っていたと思っていた。

 

アダマンタイト級冒険者として活動し、他の冒険者から一目置かれる立場にもなった。

 

幼き頃夢見た英雄にも、大分近づいていると感じていた。

 

…しかし、それは大きな間違いであった。

 

ウルさんとシャルティアの最後の攻撃、その威力と衝撃…。

 

私は開いた口が塞がらず、目も釘付けになってしまっていた。

 

加えて、あの膨大な力を秘めた清浄投擲槍を超える技を、ウルさんは放って見せた。

 

はっきり言って、かっこよすぎた。

 

自身の中にいるもう一人の自分も、歓喜しているのが分かる。

 

次元断切…次元を断ち切る…。

 

なんてかっこいい技なのだろうか…。

 

かっこいいだけではない…。それに見合った、いや、それ以上の威力を誇った技であった。

 

シャルティアの断末魔と爆発共に、静寂が訪れる。

 

暫しの沈黙の後、誰かが悲鳴のような叫び声をあげる。

 

それは連鎖する。

 

大歓声のような音量であった。

 

ウルに目を向ける。

 

見開く。

 

血を払うかのように瞬時に刀を振り払ったかと思うと、今度はゆっくりと鞘に納めていた。

 

その一つ一つの動作が、様相が、ラキュースの心を酷くくすぐる。

 

「ウル…さん…」

 

私は思わず駆け寄る。

 

まるで親を見つけた子どものように駆け寄る。

 

生まれて初めて、心の底から尊敬できる男性を見つけた。

 

この心のむずむずとドキドキが何を意味しているのか…。

 

理解し始めていた。

 

私はウルさんのことが…。

 

と考えながら駆け寄っていたその時、絶望が再度生まれる。

 

「くそっ…。ウル!!今のは…効いたでありんすよー!!!」

 

シャルティアが、あの化け物が、まだ生きていたのだ。

 

「…さすがだな…。だが、もう時間切れだ…」

 

「なにを言って…っ!?…撤退?…くっ、わかったでありんす…」

 

何かを感じ取り、まるで誰かと喋っているような様子を見せる。

 

「魔皇ヤルダバオトに合わせ、私も撤退するでありんす…追ってきたければ追ってくるといいでありんすね…」

 

「……その代わり、王都を囲むようにして配置している悪魔を攻め込ませるけど…だろ?」

 

「さすが、きづいていたでありんすかえ?」

 

ウルの発言に、ガゼフやラキュースだけでなく、その場にいる全員が目を見開く。

 

「王都を…人質に…」

 

「くっ!卑怯者!!」

 

「なんとでもいうでありんす…。さすがに、ウルとモモン、2人が居たんでは無理でありんしたね…。でも、安心しなんし…」

 

シャルティアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「私とヤルダバオトは撤退するでありんすが…。最後のお楽しみがまっているでありんすから…」

 

そう言い残し、シャルティアは掻き消える。

 

転移の魔法であろうか?

 

そんな風に考えていたラキュースであったが、それは先ほどよりも強大な歓声によって遮られる。

 

「うおーーっ!!!!白銀のウル万歳!!!」

 

「噂以上の力じゃねーか!!!!」

 

「俺、あんたに惚れちまったよ!!!!」

 

命の危機から脱した分、皆の喜びようは尋常ではない。

 

ラキュースは、シャルティアが言い残した言葉に些少の不安を抱きながらも、安堵で笑みを零す。

 

そして、ウルを視界に捉える。

 

ウルは特に興奮した様子も、勝鬨を上げる様子もない。

 

その冷静な立ち姿が、更にラキュースの心を虜にしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。