【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第16話 共闘

シャルティアが撤退したのを見た兵士や冒険者たちは、口々にウルを称賛していた。

 

「俺はあんたみたいな聖騎士、見たことないぜ!」

 

「あんたが世界一強いって言っても、俺は信じるぜ!」

 

「とんでもない。私より強い存在なんて沢山いますよ」

 

ウルは悪魔でも力を誇示せず、丁重な姿勢を崩さない。

 

それが更にウルの評価を高めていく。

 

「ウルさん、その手とお腹の傷、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。それに自分で治せますしね」

 

ウルはラキュースの言葉で、気付いたように治癒魔法を発動する。

 

「…なぜ戦いの最中に治さなかったのですか?」

 

「1対1ですと、隙を作る行為になりますからね。特にシャルティアのような敵には、タイミングを計る必要がありました。まあ、そもそも空飛ぶのは魔法なので、上空にいる間は他の魔法が使えなかっただけなんですけどね」

 

ラキュースの質問に、ウルは苦笑いしながら答えて見せる。

 

そんな風にして会話をしていると、ウルと同じく全身鎧を着たガゼフが声を掛けてきた。

 

「ウル殿。とても素晴らしい戦いであった。正直、度肝を抜かれました」

 

「ガゼフさん、ご無事で何よりです」

 

「ウル殿のおかげですよ。…して、ウル殿。国王陛下がお話をしたいとのことで、よろしいですかな?」

 

「国王陛下が、ですか?私如きにお話とは、恐れ多いことでありますが、ご拝謁賜れるとあれば、よろこんでお受けいたします」

 

ウルの敬意ある返答に、ガゼフは思わず笑みを零す。

 

歳の頃は60歳程度、白髪と白ひげが目立つが、頭の冠と煌びやかな服装が、この男を王であると物語っている。

 

ウルは、馬に乗ってゆっくりと近づいてくる国王を見て、ゆっくりと片膝をつく。

 

「馬から降りる、手を貸せ…」

 

「陛下!まだ悪魔がいるかもしれませぬ。どうか…」

 

「愚か者が…この国をお救いくださった方に、馬上からお礼を言うなど失礼に当たるであろう!」

 

国王の檄に、兵士は渋々と言った様子で、国王が馬から降りるのを手伝う。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまった…。余は、リ・エスティーゼ王国国王、ランポッサ3世と申す。ローブル聖王国アダマンタイト級冒険者、白銀のウル殿であるな」

 

「はっ!お初にお目にかかります。ランポッサ3世国王陛下!ローブル聖王国、アダマンタイト級冒険者のウルにございます」

 

「どうか、楽にしてくれ。救国の英雄に片膝を突かせるなど、王としての品格を疑われてしまう…」

 

ランポッサは、ガゼフに目配りをする。

 

「ウル殿。陛下より許可が下りた。頭を上げられよ」

 

ガゼフの言葉に、ウルはゆっくりと頭を上げた。

 

「改めて、此度の戦い、見事であった。こんな間近でかような戦闘を見れようとは…。この国と王都を救って頂き、感謝する」

 

「もったいないお言葉にございます。しかし、私の力不足により、吸血鬼を討てず、言い訳のしようもございません」

 

「何を申すか。貴殿が奴を打ち取れなかったのは、王都が人質になっていたからこそ…貴殿の責任ではない…」

 

「ご高配、感謝いたします」

 

ウルの丁重な受け答えに、ランポッサは些少の違和感を覚える。

 

ただの冒険者にしては、所作ができすぎている。

 

もしやとも思ったが、それは聞くべきではないと、別の話題を持ち出す。

 

「余は貴殿の働きと強さに強く惹かれた…。どうだ?王国に来ないか?…貴族位含め、様々な待遇をもってお迎えする準備がある」

 

「もったいないほどのご提案でございます。しかし、私は聖王国で活動している身。加えて、聖王女カルカ様より様々なご高配を賜っております故、私の一存では決めかねます。ここは、大変申し訳ありませんが、お断りさせて頂きたく思います」

 

「はっはっは!!冒険者とは思えぬほどに、律儀な男であるな、貴殿は」

 

「とんでもございません。人としての礼儀と考えております」

 

そんな風に会話に花を咲かせていたが、それを遮る異変が起こる。

 

王城のすぐそばに、巨大な魔方陣が形成されたのだ。

 

「あれはなんだ?」

 

「王城の真横だぞ!どうなっている!!」

 

「まさか…あれがシャルティアの言っていた…」

 

ランポッサ、ガゼフ、ラキュースが驚きの声を上げる。

 

その後すぐに、魔方陣から黒く巨大な何かが出てくる。

 

15mは優に超えるものであった。

 

「で、デカいぞ!!」

 

「あれは…ゴーレムか!」

 

兵士や冒険者たちが慌てふためく。

 

「いや…あれは…悪魔だ…」

 

「ウル殿!あれを知っているのか!」

 

ウルの低く唸るような声に、ガゼフが檄を飛ばすように質問を投げる。

 

「皆さん…できるだけここから離れてください…あれは、巨腕の悪魔…推定難度200の強大な悪魔です!!」

 

ウルの言葉に、皆に驚愕の表情が浮かぶ。

 

シャルティアとヤルダバオトが撤退し、歓喜の声を上げていたからこそ、そこからの落差もあって、その表情に浮かぶ絶望感は凄まじかった。

 

それを察したウルは、皆を安心させようと声を張り上げた。

 

「確かにあの悪魔は強い!!だが、シャルティアやヤルダバオトよりは弱い!!私とモモンがいます!!ご安心を!」

 

皆に希望の表情が浮かぶ。

 

「そ、そうだ!俺たちにはウルさんがいる!!」

 

「モモンさんだっているぞ!あんなデカいだけの奴!目じゃねえ!!」

 

兵士や冒険者たちが、鼓舞するように声を張り上げる。

 

「では、私は巨腕の悪魔を討伐に向かいますので、皆さんは…」

 

ウルが皆に離れるよう再度指示を出そうとした瞬間、巨人の悪魔が城の一角に拳を叩き込み、攻撃する。

 

城の城壁の一部が崩壊し、地面へとドカドカと落ちていく。

 

「そんな…嘘…あ、あそこは…」

 

ラキュースの目から光が消えていく。

 

巨人の悪魔が腕をゆっくりと引き抜く。

 

「キャーーーーッッ!!!!」」

 

甲高い、恐怖の滲む声が王都に響き渡る。

 

長い金髪に可愛らしいティアラをつけ、淡い水色のドレスを身に着けた、可憐な女性が巨人の悪魔の腕に収まっていた。

 

「「「「「ラナー(王女)!!!!」」」」」

 

ラキュースとランポッサ3世、ガゼフに留まらず、多くの者が悲痛にも似た叫び声をあげた。

 

 

クライム達は、ウルがシャルティアを抑え込んでいるうちに、倉庫区画に囚われている住民を誘導し、ゲヘナの炎の外に逃がすことに成功する。

 

いくつもの倉庫に、家族をバラバラにされて囚われていたが、殺されたり、行方の分からない住民はほぼ皆無であった。

 

それとは裏腹に、兵舎地下に囚われていた囚人や犯罪者、八本指の構成員たち1000人以上が忽然と姿を消したという報告を受けていた。

 

原因は不明で、脱走等の恐れもあるため、調査の必要性もあるが状況を鑑みて後回しになる。

 

助け出した住民たちを一般兵たちに託し、クライム達はウルの元へと向かっていた。

 

「ウルさんはご無事でしょうか…」

 

「…あの人なら、きっと大丈夫だ」

 

「…しかし、あの剣戟と言い、先ほどの強大な炎といい、一体どうなっちまってんだ…」

 

クライム、ブレイン、ロックマイアーは酷く真剣な口調で会話をしながら小走りで戦場へと向かう。

 

先ほどから、身体にヒシヒシと伝わってくるものがある。

 

これだけ離れているにもかかわらず、2カ所から凄まじい戦闘音が響く。

 

そのどちらも、誰と誰が発生させているのかは明白であった。

 

しかし、暫くして両者とも向かっている途中に戦闘音がピタッとやむ。

 

「こりゃ…終わったのか?」

 

「決着がついたのか…」

 

「っ!急ぎましょう!」

 

ロックマイアー、ブレイン、クライムはひたすらに大通りを目指して駆ける。

 

低位の悪魔たちも見かけない。

 

ラキュース達冒険者によって、あらかたの悪魔は倒されているようであった。

 

暫く駆け、大通りに差し掛かろうとしたその瞬間…。

 

『キャァァァァッッッ!!!!!!!!!』

 

遠くから、女性の大きな悲鳴が聞こえる。

 

これに一番早く反応を見せたのは、クライムであった。

 

「い、いまのは…、ら、ラナー様の…声…ッ!!」

 

クライムの低く震えるような声に、ブレインとロックマイアーも目を見開いて驚く。

 

大通りにでる。と、同時に、悲痛の声が響き渡る。

 

「「「「「ラナー(王女)!!!!!」」」」」

 

クライム達の発した声ではなかった。

 

大通りには、多くの冒険者や兵士、加えて国王の姿もあった。

 

皆一様に遠くの景色を絶望した様子で眺めていた。

 

クライムもその方向へと目を向ける。

 

絶句する。

 

王城の一角が崩れている。

 

「そんな…あ、あそこは…」

 

クライムはふと横に目を向ける。

 

15mはあるであろうか…。巨大な黒い人型の悪魔がいる。

 

驚いたのはそこではない。

 

その手の中に、ラナーがすっぽりと収まり、胸から上を出している姿があった。

 

クライムの中に、焦りと怒りが生まれる。

 

「ラナー様!!!」

 

クライムは我を忘れたように駆け出す。

 

「ッ!クライム!!」

 

それに気づいたラキュースが駆け寄ろうとするが、間に合わない。

 

…そんなクライムを止めたのは、白銀の鎧をまとった聖騎士であった。

 

「待つんだ、クライムさん…」

 

「ウルさん!しかし!!」

 

焦るクライムに制止の言葉を掛けるが、クライムの焦りが収まることはなかった。

 

どう声をかけるべきか…。ウルがそんな風にして迷っていると、件の悪魔が王都全域に聞こえるような大声で叫んだ。

 

「我が名は巨腕の悪魔!!見ての通り、ラナー王女は頂いた!!…案ずるな、殺しはしない…。ヤルダバオト様のところへご招待差し上げる…感謝せよ…」

 

「ふざけるな!!今すぐラナー様を…ッ!!」

 

クライムが代表するかのように巨腕の悪魔に抗議するが、それは途中で遮られることになる。

 

…巨腕の悪魔が、大きく口を開けだしたのだ…。

 

「う、嘘…でしょ…」

 

「よ、よせ…」

 

ラキュースとランポッサはいち早く、悪魔の行動を理解し、絶望に似た声を絞り出す。

 

悪魔の口が開ききると、ラナーと掴んでいた手がそこへ向かう。

 

「い、いやーッッ!!!お、お父様!!!クライムーー!!!!!」

 

「ラナー様!!やめろーーーー!!!!」

 

ラナーの悲鳴と、クライムの叫びはむなしく響くだけで、悪魔の動きを止めるには至らなかった…。

 

…ラナーが悪魔の口に収まってしまった。

 

一瞬で静まり返る。

 

皆が口をあんぐりと開け、視点が定まらない。

 

クライムやラキュース、ランポッサも、同じように呻きに似た声を出すだけで、そこに生気はない。

 

そんな静寂が暫く続くが、それを破ったのはウルであった。

 

「…食べられてはいない…。奴はヤルダバオトの元に連れて行くといっていた…恐らく、口の中にふくんでいるだけだ!!」

 

ウルの言葉をゆっくりと理解し始めた皆は、些少の希望を取り戻す。

 

それと同時に、大通りの奥から、漆黒の鎧をまとった戦士と、女性2人が駆け寄ってくる。

 

モモンにナーベ、イビルアイであった。

 

皆負傷の跡が見え、あちらの戦闘も苛烈であったことを物語っている。

 

「ウル!!どうやら姫様が!!」

 

「ああ、攫われた…」

 

2人の英雄が会話を始めたことで、皆は再度静まりを見せる。

 

今ラナーを救い出せるのは、この2人しかいないことを、皆分かっているのだ。

 

巨腕の悪魔が、ドシンっと大きな足を持ち上げて歩き出す。

 

次第に加速し、小走りのような様相を見せる。

 

身体が大きいため、馬よりも速い速度で駆けていた。

 

それを見たウルは、決心したようにモモンに向かって口を開いた。

 

「…俺が王女を救い出す…!モモンは奴の注意を引きつつ、俺が王女を助け出したら止めを刺せ!!」

 

「了解だ!ウル!!」

 

モモンは巨大な2本のグレートソードを手に通りを、ウルは2本の刀剣を手に取り、空中へと身を乗り出した。

 

 

 

王都では、ラナーを口に含んで連れ去ろうとする、巨腕の悪魔の大きな足音が響き渡っていた。

 

そんな悪魔の前方左側にある建物の屋根の上を、漆黒のモモンが飛び渡るようにして疾駆している。

 

さらに後方には、白銀のウルが、巨腕の悪魔の動きに集中しながら、一定の感覚を開けながら、速飛行を用いて追尾する。

 

悪魔の大きさもあり、その姿は比較的遠方からでも確認できた。

 

暫くそんな風にしていた3者であったが、しびれを切らしたように、巨腕の悪魔が一瞬にして振り向き、ウルに向かって右腕でストレートパンチを決め込む。

 

それに合わせ、ウルは身体を捻らせて悪魔の腕の上をすべるようにして、回転しながら腕を切り刻んでいく。

 

腕を足場にし、悪魔の両目へと剣を突き刺し、引き抜く。

 

後方上空に少し引き、再度悪魔へと接近。

 

肩から足元にかけて一気に滑り込みながら、悪魔の身体を切り刻む。

 

悪魔は動く左手でウルを振り払おうとするが、視界を奪われ、且つ圧倒的なスピードで飛翔しているウルを捉えることはできなかった。

 

「さすが、ウルさ…ウルだな…」

 

悪魔の前方で様子を窺っているモモンは、思わず素で感心する。

 

悪魔が守りに入り、その場で立ち止まる。

 

両腕をぶんぶんと振り回すが、やはりウルを捉えることはできない。

 

その間にも、ウルは目にも留まらぬ速さで悪魔の周りを飛び続け、悪魔の身体を、四肢を削っていく。

 

次第に立つ力と筋肉を失い、地面に座り込むようにして制止する。

 

それを確認したウルは、即座に反転。

 

悪魔の口元めがけて加速する。

 

悪魔の両の頬に刃を滑らせ、切断する。

 

支えを失った顎が、ゆっくりと脱落し、悪魔の意思とは関係なく大きく口が開かれる。

 

中には、長い金髪を有した女性、ラナーが見て取れた。

 

意識はなさそうであったが、外傷は見られない。

 

ウルは即座に右手の刀剣をしまい、悪魔の口の中に滑り込む。

 

片手でラナーを抱え、速飛行を再度発動して悪魔の口から脱出する。

 

その後すぐにモモンを視界に捉える。

 

「モモン!!いまだ!!!」

 

「ああッ!!」

 

ウルの掛け声と同時に、モモンは巨大なグレートソード2本をふりかぶり、悪魔へと攻撃する。

 

悪魔は縦3枚おろしになったかと思うと、ぐおおッ!!と雄たけびを上げながら消滅した。

 

「ふぅ…さすがはパーフェクトウォリアーだな…」

 

ウルはモモンの動きを見ながら呟きつつ、ラキュース達のいる大通りへと飛翔していく。

 

涙混じりの歓声が、あちこちから聞こえてくる。

 

ウルは思わず笑みを零すが、その笑みは、兜に隠れていて誰にも見えなかった。

 

 

 

「おい、ラキュース…なんなんだ…あの男は…」

 

イビルアイは、少し離れたところで巨腕の悪魔を斬り刻んでいるウルを見て、途絶え途絶えと言った様子で口を開いた。

 

先ほどまでヤルダバオトと戦っていたモモンと同格…もしかしらたらそれ以上の力で戦闘をしているウルを見ての反応であった。

 

「本当に…モモン様と…同格…だったのか…」

 

「…ウル様こそ…本物の英雄よ…」

 

イビルアイは思わずぎょっとする。

 

ラキュースが、惚けた様子で頬を赤らめている。

 

まるで、モモン様の戦闘を見ていた自分と同じように…。

 

「おい、ラキュース、お前まさか…」

 

イビルアイは自身と同じ感情を、しかし別の人物に向けていると気づき、思わず問いただすが、それはある冒険者の怒号によってかき消される。

 

「おい!!ラナー王女様が助け出されたぞ!!」

 

その声に、皆が驚いたのも束の間、巨大な津波のように歓声が響き渡る。

 

そしてその後すぐ、巨腕の悪魔は3つに切り分けられ、消滅していく。

 

この斬撃を、イビルアイは知っていた。

 

故に、ラキュースと同じような様相で反応してしまう。

 

「モ、モモン様ー!!!」

 

悪魔が消滅したことで、更なる歓声が巻き起こる。

 

もはや爆発と言ってもいいほどであった。

 

三魔皇の一角であるヤルダバオトと、それと同格の吸血鬼シャルティアの撃退、それに加え、巨腕の悪魔の討伐と王女ラナーの救出…。

 

英雄が如き所業を、繰り返し見せられたのだ。

 

歓喜が生まれないわけはない。

 

そんな歓喜をものともせず、ウルはラナーを抱えてこちらへ向かってくる。

 

少し遅れて、後ろからモモンも近づいてくる。

 

もう、この王都にいるもので、この2人に熱狂を送らないものはいない。

 

夜が明け、煌々とした日の光が顔を出す。

 

日の出と共に更に興奮が高まり、怒号にも似た歓声と勝鬨を上げるのであった。

 

 

災厄の大魔王の配下、三魔皇の一人ヤルダバオトと、吸血鬼シャルティア、更には巨腕の悪魔の襲撃を受けた王都。

 

悪魔との戦闘に加え、ウルやモモンが繰り広げた戦闘によって、王都の一部では多大な被害を生んでいたが、死者はさほど発生していなかった。

 

戦闘がゲヘナの炎の内側のみであったことに加え、そこの住民が倉庫区画に隔離されていたことが大きい。

 

強大すぎる敵の侵攻にしては、微々たる損壊であった。

 

加えて、あの場で戦闘を目撃した兵士や冒険者、住民、加えて王族たちは、ウルとモモンの英雄に勝る強さと戦いに興奮冷めやらぬ、といった感じで街は活気に満ち溢れていた。

 

さて、そんな興奮が収まらない王都であったが、戦いの後は祝賀をあげると相場が決まっている。

 

ランポッサ3世とザナック第二皇子、ラナー王女の計らいで、王都の最高級宿屋の酒場で宴会が設けられた。

 

当初は王城で行う案も出たが、第一皇子のバルブロと貴族派閥の反発や介入を考慮し、この形に落ち着いた。

 

もちろん、今回の戦いの一番の功績である白銀と漆黒を労うものであったが、漆黒は早々にエ・ランテルに帰還したため、白銀のみがこの場にいる状況であった。

 

白銀の席の周りには、青の薔薇のメンバーと、ブレインが見て取れた。

 

「やはり貴様も強かったのだな…」

 

「ちょっと、イビルアイ?その言い方はよくないわよ。申し訳ありません…ウル様」

 

イビルアイの言葉に、ラキュースは些少の怒りを滲ませながらウルに頭を下げる。

 

「いいんですよ。それにラキュースさん。私は様を付けていただく様な者ではありませんよ」

 

「そ、そんなことはありません!ウル様はとてもお強くて素敵で…///」

 

ラキュースはもじもじしながら口を開く。

 

その様相に気が付いたガガーランが面白いものを見つけたように大笑いする。

 

「なんだよ、ラキュース!お前、ウルに惚れたのか?」

 

「なっ!ちょ、ちょっと、ガガーラン!!何言ってるのよ!!わ、わたしは別に…///」

 

「これはガチ惚れ…」

 

「完堕ち待ったなし…」

 

ティアとティナもガガーランの悪乗りに答えるようにして言葉を続ける。

 

「まあ、俺も女だったら、惚れてた可能性大、だな…」

 

「皆さん、その辺で…ラキュースさんが困っていますよ」

 

ウルが牽制したことで、ラキュースは更に顔を真っ赤にして俯く。

 

笑いが絶えない雰囲気であったが、ここでウルが一つの爆弾を投下する。

 

ウルがイビルアイをじっと見つめているのだ。

 

ラキュースからしてみれば、溜まったものではない。

 

しかし、イビルアイもまた、別の意味で恐怖を感じていた。

 

イビルアイは吸血鬼…。ウルはそれを警戒しているのかもと感じたからである。

 

しかし、その緊張と恐怖はさ一気に消失する。

 

「…イビルアイさんにお渡ししたいものがあるのですが…」

 

ウルは用意していたそれを探すように、ごそごそと小さなポーチを漁る。

 

そして出てきたものが指輪であったため、一同は、特にラキュースは目が飛び出るほどの衝撃を受けた。

 

「ウ、ウル様!!そ、その指輪は…!?…えっ!ウルさんはイビルアイのような女性が好みなのですか!?」

 

「違うだろ!!…というより、何だこの指輪は…?」

 

イビルアイの質問に、ウルは少し辺りを気にするような素振りを見せた後、小さな声を発する。

 

「これは、人化の指輪というものです。…これをつけている間は、種族が人間になります」

 

乱雑にポンッと出すような指輪ではないことに、またも皆が驚愕の表情を浮かべた。

 

一番驚いているのはイビルアイであった。

 

「な、なんだと…。そ、そんなものが…。待てよ…これがあれば…モモン様と、その…」

 

「ええ。可能ですよ…。まあ、この先はイビルアイさんの努力次第…ですが」

 

「ほ、本当に貰っていいんだな!?あとで返せと言っても返さないからな!!」

 

イビルアイは、ガバッと立ち上がってウルに詰め寄る。

 

「もちろんですよ。そんな真似はしません。さあ…」

 

イビルアイは、恐る恐るウルの手のひらの上にある指輪をつまみとる。

 

「ウルさん…あんたやっぱりただものじゃねえな…。そんな珍しいもの、どこで手に入れたんですか?」

 

「すごい指輪…」

 

「豪邸が建つ…」

 

ブレインの質問に、ティアとティナも驚いた様子で口を開く。

 

「南方の洞くつで見つけたものですよ…。自分は人間なので使い道がなくて宝の持ち腐れでしたけど…」

 

「ウル様!!私も指輪がほしいです!!」

 

「…ラキュースさんは人間じゃないですか…」

 

ウルのもっともな意見に、しかしそうじゃない的外れな回答に、またも席にドッと笑いが起こる。

 

ラキュースは不貞腐れたように頬を膨らませる。

 

そこで、ガガーランはあることにきづいた。

 

「…そういえばさ、イビルアイは転移できるんだろ?モモンについてって、エ・ランテルに転移先を作ってくれば、自由に行き来できたんじゃねーの?」

 

「…あっ…」

 

イビルアイは、気付いた様子で小さく呻き声を漏らす。

 

「気が付いてなかったのかよ!」

 

ガガーランは心底信じられないといった様子であった。

 

「あああああああああああっっ!!!!」

 

イビルアイは、頭を抱えて絶叫する。

 

「…それは確かにそうですね…」

 

「呆れた…」

 

「恋は盲目とはよく言ったもの…」

 

「…それはちょっと意味が違うんじゃないか?」

 

ウル、ティア、ティナ、ブレインがイビルアイの情けない姿を見ながら口々に言葉をもらす。

 

転移の話が出たところで、ラキュースはずっとモヤモヤしていたものを吐き出す。

 

「…そういえば、ウル様は明日には聖王国に戻られるのですか?」

 

「あー、そうですね…。さすがに戻らないと、聖王女様に怒られてしまいますから…」

 

「なるほど、確かにそれはまずいですね…。聖王女様はウルさんにぞっこんだとか…」

 

ラキュースの質問にウルが答え、それを掘り返すようにブレインが口を開く。

 

「ぞっこんって…、ただ仲が良いだけですよ」

 

「そうとは限らない…」

 

「鬼ボスピンチ…」

 

「なっ!そ、そういう意味じゃないわよ!もう!!」

 

他愛も会話をしていたウルとブレイン、青の薔薇のメンバーであったが、酒場に現れた人物によって、それは終わりを告げる。

 

王女のラナーが、クライムや他の護衛を連れてやってきたのだ。

 

皆が一様に席から立ち、平伏して見せようとするが、ラナー自身がそれを制する。

 

ラナーは静まり返った酒場をきょろきょろと眺めると、目的の人物を見つけた様子で、急に駆け出す。

 

そんなラナーの行動に、クライム達は驚き、後を追う。

 

ラナーは目的の人物まで駆け寄ると…思いっきり抱きついた。

 

…酒場は更に静まり返る。

 

一体何が起こっているのか理解できていなかったからである。

 

「ようやくお会い出来ました…ウル様!」

 

「ラ、ラナー王女!?い、一体何を…」

 

本人であるウルだけが、何事かと何とか口を開くが、周りの青の薔薇のメンバーやブレイン、他の冒険者たちは一様に口をあんぐりと開けている様子であった。

 

「ウル様にどうしてもお伝えしたいことがあって、来ちゃいました!!」

 

ラナーは可愛らしく、おちゃめな様子で言って見せる。

 

「来ちゃいましたって…。とりあえず離れていただけますか?…話はお聞きしますから…」

 

「それはお断りいたします。絶対に離れません!」

 

「えぇ…」

 

ウルは一刻も早くラナーから離れたかった。

 

なぜならば、デミウルゴスから非常に頭の回る女性であると聞いていたからである。

 

この一件の概要も知られている可能性がある。

 

故に、あまり一緒に居たくなかったのである。

 

…少しでもボロが出れば、一発で牢屋行きである。

 

「ウル様!!」

 

「は、はい?」

 

ラナーのどこか決意に満ちた目を見る。

 

何やら奥で蠢いているものがあるように見えたが、気のせいだと決めつける。

 

「私と、結婚いたしましょう!!」

 

「…は?」

 

ラナーの言葉に、ウルは誰にも聞こえないような声を発する。

 

ウル含め、周りの皆もまだ何一つ理解できていない様子であった。

 

「ですから、結婚です!!!ウル様のことが大好きです!!!!私をお嫁さんにしてください!!」

 

酒場は、静まり返っているせいで、ラナーの細く可憐な声がよく通る。

 

数秒して、皆がようやく言葉の意味を理解する。

 

そして…。

 

「「「「「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

酒場を震源とした巨大地震が起こる。

 

冒険者達は、「マジかよ!?」、「黄金と白銀の組み合わせだ!!」、「金と銀とか相性良すぎるだろ!、「大ニュースだ!!」などと騒ぎ始める。

 

そんな喧騒の中でも、ラナーはウルに微笑と眩い視線を送り続けた。

 

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