【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第4章 バハルス帝国
第17話 恋仲


ラナーの抱き着き事件から一夜明け、ウルは王都から聖王国へ向けて帰路に就いていた。

 

王国が手配した馬車にのり、ゆっくりと街道を進む。

 

馬車という性質上、少なく見積もっても5日はかかるであろう。

 

ウルとしては、どこか人目のないところで、カリンシャの屋敷に転移する予定であったが、国王と第二皇子、ラナー連名の措置ということで、無下にはできず、渋々と言った様子で乗り込んだ。

 

「はぁ…」

 

馬車に乗り込む前に、国王に謁見をした際の出来事が、ウルの悩みの種であった。

 

ラナーの結婚しよう発言は、ラナーが一人で勝手に突っ走ったわけではなく、なんと国王の許可を取り次いでいたのだ。

 

それを知ったウルが、心底驚愕したのは言うまでもないが、話はそこで終わらなかった。

 

ウルが聖王国では、英雄と呼ばれてはいるものの、爵位も貴族位も持たない、言葉を悪く言えばただの冒険者であることを知っていた国王は、貴族位の贈呈と、王国直轄領の下賜、加えてラナーを嫁に差し出しという条件の下、王国への鞍替えを要求してきたのだ。

 

本来であれば、たとえ同盟国同士であろうと、これは許されることではなかった。

 

しかし、今回は状況が違った。

 

国の中心である王都での犯罪組織の壊滅、襲撃事件の功績、加えて攫われかけた王女の救出。

 

これだけの功績を残したものに、国として褒美を与えることにはなんの抗議も起こりようはずもない。

 

そして、その褒美を十分に与えるために、爵位を与えようという流れなのだ。

 

ウルは些少の裏があるとわかってはいたものの、表面的には好意による提案であるため、頭ごなしに拒否はできなかった。

 

その上で、『わが身は、すでにローブル聖王国王女カルカ・ベサーレス様の預かるところ。私一人での判断は致しかねます』として断りを入れた。

 

…これが良くなかった。

 

王国からすれば、これほどの素晴らしい人材に、大した役職も就けず、国として庇護下にいれていない聖王国に不満を抱くことになった。

 

そして、それは抗議文として聖王国に伝わることになる。

 

もちろん、今回のウルの功績と、王国としてのウルの受け入れる準備があることなども含めてである。

 

「俺は別にえらくなりたいわけじゃないんだけどなー…」

 

ウルは馬車から見える澄み渡った空に向かって、ため息をはいた。

 

「しかも、まさかラナー王女がデミウルゴスとすでに繋がっていたとは…。無下にはできないよなー。マッチポンプだし…」

 

ウルは再度ため息をついて見せた。

 

 

 

先の抗議文は、王国からの早馬で届けられたため、たったの2日で聖王国の首都ホバンスに届けられた。

 

それを最初に受け取ったのは外務大臣であり、内容を読むと顔を真っ青にしてカルカの元へと届けられた。

 

真っ青な顔で書状を送ってきた外務大臣に、些少の不安を抱きながらそれを呼んだカルカは、一瞬気を失いかけたが、何とか持ちこたえ、レメディオスとケラルトを呼びつけて身内で内容を共有するに至った。

 

「王国めっ!ウルを引き抜こうという魂胆か!!」

 

レメディオスは、カルカから齎された情報を聞き、酷く憤慨していた。

 

「このままだと、まずいことになりますよ…カルカ様」

 

「わかっています…」

 

ケラルトは動揺しきった様子でカルカに声を掛ける。

 

「何がまずいんだ!こんなもの、ふざけるなと送り返してやればいいのだ!!」

 

「それがそうもいかないのよ…姉さま…」

 

レメディオスはまるで子どもの喧嘩の如くイラつきを見せていたが、ケラルトは大きくため息をついて牽制する。

 

「王国の言うことはごもっともですね…ウル様のような方を、聖王国がないがしろにしていると言われても、仕方がないですわ…」

 

「ええ…正直、痛いところを突かれたといった感じです…」

 

痛いところ、それはウルに対して聖王国が爵位等の国として正当な立場を与えていないところにある。

 

もちろん、別に与えたくなくて与えていないわけではない。

 

理由は、南部聖王国との関係悪化を危ぶんでのことである。

 

しかし、それは王国からすれば格好の攻撃材料となる。

 

「そ、それに…なんですか、これは…。ラナー王女と結婚?こ、こんなのずるいですわ!!私の方が最初に関係を築いていたのに!!!!」

 

カルカは顔を真っ赤にして目を細める。

 

カルカとラナーは面識がある。

 

カルカがローブルの至宝と言われているのと同じように、ラナイーは黄金の姫と言われている。

 

両者とも同じように、この世の最上級の美しさを持っているということである。

 

しかし、カルカにはどうしてもラナーに勝てない部分があった。

 

頭脳ではない…。もちろん頭脳は完敗ではあるのだが、それはカルカからすればさして問題ではなかった。

 

…年齢である。カルカは23歳、ラナーは…16歳なのだ。

 

どちらが婚姻に有利かと言えば、それはまさしくラナーである。

 

故に、カルカは只ならぬ動揺と焦りを感じているのだ。

 

「しかし、それも致し方ないかと…。悪魔の口に放り込まれ、誘拐されるところを、ウル殿が華麗に助けたとなれば…その、好意を抱くのは当然のように思います…」

 

「うぅ…まあ、もちろん、気持ちはわかりますが…」

 

「…?助けられたら結婚するものなのか?」

 

「…ちょっと姉さんは黙っててもらってもいいですか?」

 

ケラルトとカルカは神妙な面持ちだが、レメディオスはハテナマークを沢山生成している表情を見せる。

 

そして、レメディオスは妙案を思いつく。

 

「カルカ様もウルが好きなら、この前言ってたみたいに、結婚してしまえばいいのではないですか?相手がウルであるならば、このレメディオスも文句はありません!!」

 

…いつもなら黙っててがハーモニーを生みだすところであったが、2人は珍しくレメディオスの言葉を噛みしめるようにして考え込む。

 

「カルカ様…今我々がしなければならないことは、ウル様の待遇をより強固にすることです」

 

「ええ、貴族位に加え、領地を与えることも考えなくてはなりません…。ですが…」

 

カルカは押し黙って俯く。

 

「…貴族位に関しては、間違いなく…。ですが領地を与えるとなれば、話は変わってきます。カルカ様とのご成婚は少し難しくなります…。ですが、だからと言って貴族位を与え、すぐにカルカ様とご成婚…というのもまた難しいところ…」

 

「それに…その…。ウル様がそうお考えになっているのかも…不明というのが…。もし王国に行くと言われてしまっては、我々は表立ってそれを拒否することができません…」

 

「なっ!!ウルがこの聖王国を離れると!?そんなことは断固として拒否すべきです!!!」

 

ケラルトとカルカの発言に、レメディオスは反論する。

 

「レメディオス、ウル様は冒険者なのです。冒険者は国境に縛られない…それは知っているでしょう?」

 

「うっ…。それはそうですが…。し、しかし!!」

 

「姉さま、姉さまの気持ちもよくわかります、私たちは全員、同じ気持ちなのですから…」

 

カルカ達は、意図せず合わせて大きなため息をつく。

 

そして、カルカは少し涙目になりながら口を開いた。

 

「そ、それに…もしウル様に婚約をお断りされてしまったら…私はもう、立ち直れないかもしれません…」

 

カルカの悲痛の叫びに似た言葉は、ケラルトとレメディオスを黙らせるのに十分であった。

 

暫くの静寂が訪れる。

 

「…と、とにかく、ウルさんの王国に対する反論文と、貴族位の付与について、早急に大臣等を集めて協議する必要があります…。加えて、今回ウルさんが撃退した吸血鬼と、漆黒のモモンが撃退したヤルダバオトについても…」

 

「そうね…。これで、災厄の大魔皇の話は、確実に事実であるということが証明されたのですから…」

 

未だ考えのまとまらないカルカ達であったが、この事態を重く受け止め、緊急宮廷会議を開く準備を進めることとなった。

 

 

『いやー、お疲れさまでした、ウルさん』

 

『こちらこそ、お疲れ様です、アインズさん』

 

ウルは馬車の中で、盗聴対策を施し、アインズと伝言でやり取りをする。

 

今回の戦い、マッチポンプの労いから始まり、戦闘の感想やこれからのナザリックの動き、加えて両者の状況を確認しあってた。

 

その中でも突出すべきは、ラナー王女であった。

 

ウルに告白してきたこともさることながら、ラナーがすでにデミウルゴスと手を組んでいたこと。

 

さらに、ラナーがデミウルゴスやアルベドと同等の頭脳を持ち合わせていることであった。

 

『そのラナーという王女は危険ですねー』

 

『ええ、我々の秘密を知っていますからね…。ですが、ラナー王女に裏で王国を牛耳ってもらうのも悪くありません』

 

『というと?』

 

ウルは、アインズの反応を見て、デミウルゴスが大した説明をしていないことを知り、今後しっかりと教育をしてやらないといけないことを心に抱きながらアインズに説明して見せる。

 

『なるほど…確かにナザリック、アインズ・ウール・ゴウンに有利になる様な国を作ってもらうってのはいいですね…』

 

『まあ、今回の戦いの半分はその下地作りが理由だったしね…』

 

『え、そうなんですか?…いやー、もうデミウルゴス達が何を考えているのか全く分からなくて…』

 

『それは俺も同じようなもんですよ…ただ、私の方からデミウルゴスにはきちんと伝えておきます。どんなに細かいことでもアインズさんの耳に入れろと…そして説明も報告も1から10までしっかりしろとね』

 

『あっ!!それめっちゃ助かります!!!…あ、そうだ。ウルさんが助けたツアレっていう女性のことなんですけど、その妹にお姉さんはウルさんが助け出してかくまってくれているって伝えたので、妹が所属しているチームメンバーも一緒にそっちへ行くと思います』

 

『あー、会議の時に俺のことを凝視してた子か…。状況が状況なだけに話せなくてな…おっけ、分かった。こっちまで来たら対応はするよ』

 

『助かります。あ、そういえば、一つやりたいことがありまして…。相談に乗ってくれますか?』

 

アインズは、嬉々として声で、ウルに一つの提案をすることになった。

 

 

 

ウルが乗る馬車。

 

あまりにも長い時間座っていたため、腰を痛めてしまった。

 

本来であれば、城砦を抜け、カリンシャまで送ってもらう予定であったが、『城砦に用がある』と嘘をついて、馬車の一行と別れた。

 

特に用もなかったが、パベルとオルランドを訪ねる。

 

簡単な雑談のつもりが、パベルの娘の話になり、3時間も話し込むことになる。

 

原因は、ウルが根掘り葉掘り聞いたことにある。人づきあいが得意な方であったことが災いし、パベルの娘大好き属性に火をつけてしまったのだ。

 

いつの間にかオルランドの姿は見えなくなっていた。

 

きっと砂になってしまったのだろう。

 

「すばらしい娘さんのようですね」

 

「そうなんですよ!いやー、やはりウル殿ならわかっていただけるか!!」

 

「ええ、お父さんにここまで愛されていて、ネイア嬢は幸せですね」

 

「そ、そうですかね?そうですよね!!…いや、実のところ、最近娘が冷たいもので…」

 

…どうやら、まだまだ話は続くようであった。

 

 

パベルとの会話を終えたウルは、屋敷前に転移で移動する。

 

屋敷の扉を開けると、そこにはルカがまるで待ち構えるようにして待っていた。

 

「おかえりなさい…ウル。怪我は?」

 

「あー、けがは大丈夫だ…腰が少し痛いけどな」

 

「そう…もうすぐ夕飯だけど食べる?」

 

「お、貰おうかなー…ッ!」

 

ウルはルカと軽い感じで会話をしていたが、ひょこッと現れた人物に驚きを向ける。

 

メイド服を着た、ツアレであった。

 

ツアレもウルに気付き、少し気恥ずかしそうに、しかし目に些少の涙を浮かべてこちらを見ていた。

 

「ツアレ!?起きて大丈夫なのか?っていうか、その服、まさか働いてるのか!?」

 

「ウル様…。体調は…少し良くなりました…。少しでも役に立ちたくて…」

 

体調がよくなっているというのは嘘ではないようだ。

 

以前よりも言葉のつまりがない。

 

少しずつではあるが、精神的にも落ち着いている様子であった。

 

「しかし、あれだけのことがあったんだ…。もっと休んだ方が…。いや、ツアレが働きたいというなら、別にかまわないけど…」

 

「はい…。ありがとう…ございます。ウル様…」

 

ツアレはゆっくりと頭を下げる。

 

先ほどよりも、少し顔が赤い。

 

ウルはそれを見逃さなかった。

 

「ツアレ…。顔が赤いぞ…。っ!ね、熱があるんじゃないのか?大丈夫か?」

 

「こ、これは…。その、熱はないです…。大丈夫…です…///」

 

ツアレは再度俯いて見せる。

 

ウルが近づこうとするが、後ろからルカにどつかれて足を止める。

 

「ツアレを困らせないの…。本当にあんたは女心が分からないわね…」

 

「はぁ?何言ってんだよ…俺はツアレが心配で…ッ!あ、そうだ!!」

 

ルカの言葉に反論していたウルであったが、思い出したようにツアレに近づき肩に優しく触れる。

 

急に近づいてきて、あまつさえ肩に触れられたことで、ツアレは更に顔を赤くする。

 

「王国で、ツアレの妹さんを見つけたんだ。今こっちに向かってるって…会う気はあるかい?」

 

ウルの言葉を聞いて、ツアレは大きく目を見開く。

 

「ほんとう…ですか…?」

 

「ああ、本当だ。ツアレをずっと探していて、冒険者として活動していたらしい…。見つけられてよかったよ…」

 

まあ、見つけたのは俺じゃないんだけど…と思いながらウルは目を逸らす。

 

ツアレの鼻をすする音が聞こえる。

 

その目には涙がたくさんたまっていた。

 

「ウル様…ありがとう…ございます…本当に…」

 

ツアレは、ゆっくりとウルを抱きしめる。

 

「ツアレ…」

 

そんなツアレを見て、ウルも優しくツアレを抱きしめた。

 

その後は、ツアレやクレマンティーヌ、娼館から助け出した他のメンバーと共に、初めて食卓を囲んだ。

 

その際、皆が口々にウルに再度お礼を述べたのは、言うまでもない。

 

 

 

自身の屋敷で一夜を過ごしたウルは、次の日の朝一番に首都ホバンスへと向かう。

 

昨日の夕飯後、カルカから伝言があり、なにやら只ならぬ雰囲気であったため、すぐに向かったのだ。

 

…まあ、恐らくは王国での引き抜きの件であろう。

 

速飛行を用いて、様々言い訳を考えながら向かった。

 

ホバンスの城壁前で一度、地面に降りると、城門前で待っていた使者と共に、宮殿へと向かった。

 

通された先は、玉座の間…ではなく、カルカの執務室であった。

 

一室に入ると、カルカ聖王女に加え、レメディオス聖騎士団長、ケラルト神官団長、そして外務大臣の姿があった。

 

ウルはいつものように平伏して見せようとするが、それをカルカに止められる。

 

カルカの座る椅子、机を挟んだ対面の椅子に座るよう促され、二つ返事で座ってみせる。

 

…皆の表情と雰囲気は、ただらなぬものであった。

 

「…ウル様、まず初めに、無事に聖王国へお戻りになられ、安心いたしました」

 

「カルカ様を始め、皆さまにご心配をおかけしました」

 

「とんでもございません。王国からの書状で、ウル様のご活躍は把握しております。吸血鬼シャルティアの撃退、お見事です」

 

「ありがとう、ございます」

 

やはりか…。と言った感じで、ウルの額に汗がにじむ。

 

王国からの書状ということは、それ以外にも色々と書かれているはずだ。

 

それを思い、思わずげんなりとする。

 

「それで、ウル様に色々とお聞きしたこととご相談があります」

 

「…承知いたしました」

 

いつもの朗らかで明るい表情のカルカはそこにはいなかった。

 

真剣で、それでいてどこか緊張しながらも、覚悟を持った目をしていた。

 

それにつられるようにして、ウルも真剣な表情になる。

 

「まず…ウル様は…聖王国を離れる意思はございますか?」

 

ウルは身構えていた割に、質問が右斜めであったことに思わず呆けてしまう。

 

「えっと…それはどのような意味でしょうか?」

 

「王国から、貴族位と領地の下賜を提示されませんでしたか?…それと、その…」

 

カルカは、苦悶の表情を浮かなせながら口を紡ぐ。

 

そこには、すでに覚悟が崩れ始めている様相が見られた。

 

「…ラナー王女が、ウル殿に婚約を願ってきましたよね?」

 

そんなカルカを見て、ケラルトが続きを補填して見せる。

 

ケラルトの言葉を聞いて、カルカはビクッと身体を震わせた。

 

「…確かに、そのようなご提案を受けました。ですが、お断りをさせて頂きました」

 

「おお!さすがウルだ!!やはり断っていたか!!」

 

ウルの言葉に、レメディオスが嬉々として高らかに口を開く。

 

「はい。私の身は、すでに聖王女カルカ様にお預けしている身であるとお伝えしました…。私はカルカ様の言に従おうと思っております」

 

「わ、私に…私に従うと…。そ、それは、その…」

 

カルカは顔を真っ赤にして目を見開いたまま、じっとウルを見つめる。

 

「…カルカ様が聖王国に残れと仰るのなら残りましょう…。王国に行けと仰るのであれば向かいましょう…」

 

「い、いてください!!聖王国には、私にはウル様が必要なのです!!…あ、いえ、私というのは…その、すみません…///」

 

カルカは思わず椅子から立ち上がって声を張り上げたが、自身が発した言葉に恥ずかしさを覚え、ゆっくりと座りなおす。

 

「ウル殿…。先ほどあなたはカルカ様の言葉に従うと仰いましたね?」

 

「はい、お伝えしました」

 

「では、では仮に、カルカ様が…ウル殿がほしいと…御傍に置きたいと…お伝えしたら、ウル殿はどのようにお返事されますか?」

 

「…え?」

 

ケラルトの言葉に、ウルは思わず表情が固まる。

 

カルカの方へ視線を移すと、ほぼ真下を向くようにして俯いている。

 

恐らく、顔は茹でダコを通り越して、炎のように真っ赤になっていることであろう。

 

言葉の意味を理解し、咀嚼し終えたころ、外務大臣が意を決したように口を開く。

 

「カルカ様は、ウル殿をお慕いしております。それにお答えいただくことは…可能ですか?」

 

「…それはつまり、カルカ様と婚約…ということですか?」

 

「…左様にございます」

 

ウルは、呆気にとられた様子を見せる。

 

「ウル殿…お気持ちに整理がつかないのは理解しております。その上で…」「いいですよ」「…え?」

 

ケラルトが説得開始の臨戦態勢を整えたのも束の間、ウルから思わぬ返答が返ってくる。

 

ウルの言葉は短いものであったが、それはカルカの顔を上げさせるには十分であった。

 

「私でよろしいのであれば、よろこんで婚約いたしましょう」

 

「え…え…えぇ???」

 

ウルは、真剣にカルカに返答するが、カルカは状況を掴めずにひたすらに視線が泳いでいる。

 

ケラルト達もビックリと言った様子であったが、珍しく、というよりも、このような場面であるからこそ冷静であるレメディオスが口を開く。

 

「おお!!!やはりウルもカルカ様のことが好きだったのか!!」

 

「ええ、お恥ずかしながら…。一目惚れでしたよ?」

 

「一目…?目が好きなのか?」

 

「…レメディオスさん…私が言うのもなんですが、少しは語学に勤しんだ方がよろしいかと…」

 

ウルがレメディオスにツッコミを入れたことで、ケラルトが我に返る。

 

「えーと、ウル様もカルカ様を好き…ということですか?」

 

「はい」

 

「そ、そうですか…えっと、あの、すみません。なんか思っていた流れと違っていて…動揺しております」

 

「あー、まあ、悟られないようにしてましたからね…隠すの上手でしたか?」

 

ウルはケラルトに向かって微笑をもらす。

 

ケラルトはそんなウルに思わずドキッとし、顔を赤らめてしまう。

 

そんな下心を振りほどこうとした矢先、カルカがようやく我を取り戻し、口を開いた。

 

「ウ…ウル様も…私のことが…好き?え、本当に?」

 

「ええ。まあ、私としてはカルカ様が私を好きだったのが驚きですが…。とはいえ、結婚の前にお付き合いという形が最適かもしれませんが…」

 

カルカは今だ思考が安定していない様子で、視点が定まっていない。

 

すると、外務大臣が安心しきった様子で大きく鼻息を漏らす。

 

「結婚を前提のお付き合い…ですな…。どうやら…杞憂ということですか…。つまるところ、両想いだったというわけですな」

 

「そ、そのようですね…」

 

外務大臣とケラルトがははっと小さく笑いを漏らす。

 

「なっ!私の言う通り、うまくいっただろ??」

 

「…今回ばかりは、姉さまが正しかったですね…。さあ、カルカ様!いつまで惚けているのですか!!どうぞ、ウル様へお返事をなさってください」

 

ケラルトの呼びかけに、カルカはプルプルと身体を震えたまま、ウルに視線を送る。

 

「よ、よよよ…よろしく…お願い…します…///」

 

カルカのか細い言葉を聞き、ウルは微笑を浮かべて立ち上がる。

 

そして、ゆっくりとカルカの座る椅子の横に移動して見せたかと思うと、片膝を付き、カルカの左手を掬うようにして持ち上げる。

 

「ひゃ…///ウ…ウル様…///」

 

「こちらこそ、よろしくお願い致します。カルカ様」

 

ウルは、カルカの左手を抱き寄せるようにして自身の口元へと運び…。

 

手の甲にキスをして見せた。

 

 

「そ、それでは…吸血鬼シャルティアについて、詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

 

カルカは今だ興奮冷めやらぬといった様子で顔を赤らめていた。

 

手の甲にキスされた時は、それはもう呻き声のような喘ぎ声のような声を上げて失神したのだ。

 

それでウル達が大騒ぎしたのは言うまでもない。

 

カルカは、幸いすぐに目を覚まして事なきを得たが、ウルの前で失神してしまったことに、酷い恥ずかしさと情けなさを感じている。

 

「承知いたしました。その前に一つだけ…」

 

「…な、なんでしょうか?」

 

カルカの質問に対し、ウルが低く唸るようにして口を開いたことで、カルカは少しだけ取り繕った表情が再度崩れる。

 

レメディオスやケラルト、外務大臣も、何事かと唾を飲む。

 

「…ここにいる皆さまを、信頼してお話をさせて頂きます。過度な情報の漏洩は控えて頂ければと…」

 

「…承知いたしました。聖王国聖王女の名にかけてお約束いたします…。ウル様の許嫁としても…お約束します///」

 

カルカは、レメディオス達にも目くばせをし、同意を強要して見せる。

 

「それでは…吸血鬼シャルティアですが、1対1であれば、まず負けることはありません。今回は奴も様子見の戦闘でしたが、本気を出されたとしても、勝利は確実でしょう」

 

ウルの発言に、皆が目を見開いて驚く。

 

感嘆に似た表情を浮かべ、カルカは思わず少しだけ笑みがこぼれる。

 

「さすがはウル様…。それで、王国からの書状にはシャルティアは第7位階の魔法を使用し、ウル様はそれを第6位階の魔法で防がれたと書かれていますが、これはどちらも事実ですか?」

 

「はい。シャルティアの使った魔法は第7位階の煉獄火炎という広範囲火属性魔法…私が使った魔法は第6位階の聖なる球壁で、広範囲防壁魔法です」

 

カルカは、思わず息を止めて固まる。

 

目の前のウルがとんでもない強者であることは知っている。

 

その上で、なんと人類の最高位ともいえる第6位階を扱えるというのだ。

 

つまりは、信仰系魔法一つとってもカルカとケラルトを遥かに凌ぐということに他ならない。

 

…しかし、この考えは次の言葉で、掻き消えることになる。

 

「…ここからが、先の信頼しているから話す…という内容になりますが…。シャルティアは恐らく、第10位階の魔法まで扱うことができます…」

 

カルカ達は、驚きの表情を浮かべた後、口をあんぐりと開けて見せる。

 

「だ、第十位階魔法だと!?そんな神話のような魔法を…」

 

「ありえない…そんなもの…」

 

レメディオスとケラルトが、話に割って入る。

 

本来であれば、不敬な態度であるが、それを考えている暇もないほどの衝撃であったのだ。

 

「…一つよろしいですか?そんな第十位階魔法を扱うシャルティアに勝てるというウル殿は…一体どこまでの魔法を扱えるのですかな?」

 

外務大臣が、恐る恐ると言った様子で口を開く。

 

カルカ達もその点に気付き、はっとした表情を見せる。

 

「…私の本職は聖騎士です。故に基本的に戦闘は武器を用いた接近戦がメインではありますが…。正直に申し上げます。…信仰系魔法であれば…第9位階まで使用可能です」

 

…先の過度な情報漏洩を危惧していたウルの心情をここで理解することになる。

 

「そ、それは…ウル様お一人で…ということですか?…アイテムを使うことなく…」

 

「…はい。代表的なものであれば、第五位階の死者蘇生…それの最高位である、第九位階の真なる蘇生が使用可能です…。死者蘇生と比べ、復活に必要な金貨も少なく、激しく損壊した肉体であっても発動できます。身体能力の低下も殆どありません。それ故に、一般市民に対して使用しても身体が砂にならずに復活が可能です…。この意味が…お分かりになりますか?」

 

カルカ達は、言葉にならない衝撃を受けていた。

 

ウルの言う、この意味…。理解できる。

 

それはつまり、ウルを巡って国家間で戦争が起こってもおかしくない、ということである。

 

死者蘇生を扱えるだけでも、その命と身柄を狙われるくらいなのである。

 

現に、ケラルトは第5位階の信仰系魔法が扱えるため、それを隠して生活している。

 

その事実を知るものは、宮殿内でも限られている。

 

故に、ウルがなぜ、情報の漏洩を危険視しているのか、手に取るようにわかったのだ。

 

そして、ケラルトと外務大臣は思う。

 

この男を、ウル殿を絶対に手放してはならないと…。

 

もしカルカとの婚姻がうまくいかなかったとしても、ケラルトは自分が代わりに、外務大臣は国中からウルの好みの女性を引っ張ってきてくっつける…などと計算高い思考を張り巡らせていた。

 

そして、このウルの第九位階魔法使用可能な件と真なる蘇生に関しては特に、この場にいるもののみで話を留めるということになった。

 

バカで口の軽いレメディオスには、カルカとケラルトが本気で泣かせるくらい厳命したことは言うまでもない。

 

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