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ウルとカルカが、結婚を前提にしたお付き合いを始めたことは、各大臣を始め、宮殿内で盛り上がりを見せていた。
しかし、南部貴族への牽制を含め、公式での発表は控えることとなり、各関係者のみが知るところとなる。
そんな衝撃的な大ニュースに、宮殿内は半ばパニックであったが、それはウルとカルカの吉報によるものだけではない。
カルカより知らしめられた、リ・エスティーゼ王国の王都で起こった事件によるものであった。
先の災厄の大魔皇が事実であることが証明されただけでなく、漆黒と白銀によって、三魔皇と二大吸血鬼の一角が撃退されたということである。
これにより、カルカとの婚約とは別に、聖王国としてウルを囲い込む作戦と準備が始まったのだ。
まずは、王国への牽制も込めた貴族位の付与である。
聖王国において、平民を貴族に位上げした実績は少なく、些少の手間があったが、着実に進められていった。
カルカの話では、『ウル様は地位は望んでいない』との話であったが、そんなものは王族や大臣などの宮殿関係者からすれば知ったことではなかった。
ウルを聖王国に縛るためであれば、なんだってするという意気込みなのだ。
加えて、カルカとウルの関係性において、貴族位を与えることで選択肢が一つ増えることにもなるのだ。
それは、カルカが嫁に行くのか、ウルが婿に行くのか、である。
現状では、聖王女であるカルカの元に、ウルが婿に行くという選択肢しかない。
しかし、カルカの心情では『ウル様の元に嫁に行きたい』というものであった。
もちろん、それを叶えたいがためにウルに貴族位を与えるわけではないが、ついでに選択肢が増えるというのは良いことである。
今回は男爵位ということで、貴族位としては一番下であるが、順序だてて高い位を与えることで、カルカが嫁に行くという未来も可能になってくる。
その際には、カスポンドに聖王となってもらう必要があるが、カルカと違い、裏工作ができる彼であれば、さして大きな問題にはならないだろう。
加えて、カルカが聖王女から退位すれば、南部貴族との軋轢も少しは和らぐ。
…もちろん、これは大臣たちが決めることではなく、あくまでウルとカルカの意思…というよりも、ウルの意思によって決めてもらおうという話に落ち着いたのだ。
当人の一人であるカルカも、その準備のために忙しなく執務に当たっている。
左手の薬指には、いつの間にか小指にあった指輪が嵌めかえられている。
その表情は、彼女を知っている者であれば、人が変わったかのように表情が明るい。
ただでさえローブルの至宝と言われ、美しい聖王として確立しているにも関わらず、今のカルカは、それこそウルと同等にまで美しい顔立ちと表情をしていると言えた。
さて、ウルからしてみれば、貴族位は断ったし、これからも自由気ままにー…聖王女とお付き合いをし始めたから昔よりは制限あるか…などと考えながら帰路に就いていた。
帰路に就くと言っても、カリンシャの屋敷に到着したら、すぐに準備を整えて出発する予定ではあるのだが…。
カルカにそれを伝えると、とても嫌な顔をされた。
『最近は聖王国をお離れになってばかり…』
と半ば泣き出しそうになったカルカを見て焦ったウルは、対策として、首都ホバンスに転移拠点を置くことにした。
魔法の詳細を知ったカルカは、すぐに重役になんとなく説明をし、宮殿の一室を、ウル専用の転移用の部屋として準備した。
なにもそこまで…と思ったウルであったが、
『これが最大の譲歩です。もし受け入れて頂けないのであれば、ここで大泣きします。…あっ!命令!命令です!!聖王女の命令ですから!従ってくださいね!!』
…などと言われてしまい、それ以上は何も言うことはできなかった。
まあ、カルカからすれば、そもそも聖王国から離れて欲しくないのであるが、ホバンスに一瞬で転移できることに加え、伝言もある。
その気になれば、すぐに会えるという事実に、ウルの遠出を許したのであった。
そんなこんなで、一悶着も二悶着もあったわけだが、ウルは速飛行をもってして、王都の東に位置する国、バハルス帝国に足を踏み入れていた。
理由は特にはなかったが、王国の次に行きやすい国ということで帝国を選択した。
評議国は亜人の国、竜王国は情報が少なく、法国はきな臭い…そうすると、選択肢は絞られていた。
帝国の帝都であるアーウィンタールに足を踏み入れたウルは、ここでも自身の名声が轟いていることを知る。
まあ、白銀の鎧も身に着けていない為、酷いものである。
もう何度目になるわからないが、『キャラ普通にしとけばよかった』と思いながら街を歩く。
「あッ…」
そして、驚愕する。
なんとばったりとモモンとナーベに出くわしたのだ。
両者とも奇遇だな…と思っていたが、まさかこれもデミウルゴスの策か!?と思いながら少しだけ身震いしていた。
「ナーベも、久しぶりだな…」
「はっ!ウル様…お久しぶりでございます」
ナーベはナザリックでの所作と同じように平伏する。
帝都の住民や兵士からしてみれば、クールで毒舌と聞いていたナーベがモモン以外に頭を下げていることに驚きの声を上げていた。
それを見たウルが、焦ったようにナーベに声を掛ける。
「ナーベ!今の俺は冒険者のウルだ!!ウルさんって呼べ…それと、敬語もなしだ」
「し、至高の御方々のご友人であるウル様にそのような…」
「ナーベ、私からも頼む…。いや、命令だ!!ただ、敬語は直さなくていい…」
「しょ、承知いたしました。で、では…ウルさーーーーん」
ウルは、『あ、これなんかデジャブだわ…』と感想を漏らしながらどこぞのサイコパスを思い出していた。
そして、先のモモンの発言に、ナーベに聞こえないように小声で抗議を申し立てる。
「敬語は直さなくていいって…違うチームなのにおかしくないですか?」
「それはそうなんですけど…ナーベには無理なんですよ…ポンコツなので…」
「あー…なるほど…」
この一言に、モモンが今迄どれほどの苦労をしてきたのかを察してします。
どうやら、聞いていた愚痴以上にモモンの頭を悩ませているようであった。
ふとナーベを見る。
涙目でプルプルと俯いていた。
おっとまずい。どうやら聞こえていたようだ。
「うぅ…申し訳ありません…モモンさまーーん、ウルさまーーーん」
「さまーーんってもはや別人だよ…それ…」
「気にすることはない…お前が頑張っているのはよくわかっている…」
ナーベにナイスフォローを入れるモモン。
ナーベはモモンに頭を撫でられ、顔を赤らめながら目を見開く。
ウルも遊び半分でナーベの頭に手をのせ、撫でる。
茹でダコになる。そして暫くして失神した。
モモンとウルが、非常に驚き、あたふたしたのは言うまでもない。
モモンとナーベと別れた後、ウルは魔術書が売っている店へと赴いた。
なんでも、生活魔法というユグドラシルにはない、所謂第0位階なるスクロールがあるのだという。
屋敷いる者たちの生活水準をあげるのに役に立つかもということで、行き当たりばったりではあるが、そのスクロールをいくつか購入しておこうと考えたのだ。
もちろん、カリンシャでも売っており、ルカが時々仕入れている様子であったが、帝国は聖王国や王国に比べ、魔法の研究が盛んらしい。
それに伴って、値段も他国に比べると少し安く、種類も豊富らしい。
店主に色々と聞きながら、ウルはいくつかのスクロールを買い付け、無限の背負い袋の中へと放り込む。
あらかた物色し終え、店を後にしようとしたとき、一人の女性が店に入ってくる。
店主が特に驚きもしないので、常連なのであろう。
女性は茶色の全身鎧に身を包み、長い金髪を有していた。
顔立ちは非常に美しいものであったが、異様に伸びた前髪が、顔の右半分を覆いつくしている。
ただの美しい女性だな…と思っていたが、ウルは一瞬で顔をこわばらせ、何かに気付く。
その感覚は、呪いを受けている者から発せられるものであった。
女性は店主の前まで移動し、会話をしているようであった。
ウルはタイミングを見計らって、声を掛けた。
女性は、休日の日課として魔導書が売られている店舗へと足を運ぶ。
理由は、自身の顔にかけられた呪いであった。
魔導書店には、基本的には生活魔法のスクロールや低位魔法のスクロールしか打っていない。
しかし、ごく稀に希少なスクロールが置かれていることもある。
一抹の希望を持ち、女性は足繁く通っているのだ。
店に入ると、一人だけ客がいた。
男性のようであったが、女性の視界には映らない。
街ゆく人々やすれ違う人々など、女性にとってはどうでもよいことだからである。
この呪いを解くためだけに、何年も生きてきたのだ。
再び自身の顔を取り戻し、人生を取り戻すために。
店主に話を聞くが、めぼしいスクロールは見当たらない。
分かっていたことであるが、あからさまにため息をつく。
店主が申し訳なさそうにしているが、女性は特に責めることはしなかった。
そのまま店を後にしようと思った時、先ほどの客に声を掛けられた。
「すみません…。もしかして、呪いを解くスクロールを探していたりしますか?」
「は…?」
女性は見ず知らずの男に話しかけられた嫌悪感と、なぜ呪いのことを知っているのかという不信感で男を睨む。
だが、その睨みは一瞬で驚きに変わる。
胸元に光るアダマンタイト級冒険者のプレート。
非常に整った顔立ち。
そして、この大陸では珍しい黒髪と黒目…。
その出で立ちでアダマンタイト級を有している冒険者など、たった一人しかいなかった。
「あなたはもしや…聖王国のアダマンタイト級冒険者、白銀のウル殿では?」
「はい、急なお声がけ申し訳ありません」
「いや、気にしないでください。…私はバハルス帝国、帝国四騎士が一人、レイナースといいます」
「レイナースさん…ですね…。よろしくお願い致します」
随分と物腰の柔らかい、それでいて所作の美しい男性であるというのがレイナースの最初の印象であった。
と同時に、レイナースの中で蠢くようにして闇が生じる。
その美しい顔立ちに、嫉妬に似た感情を覚えたのだ。
その感情を抱きながら、レイナースは先の質問に質問で返す。
「…それで、なぜ私が呪いを解除するスクロールを探していると思ったのですか?」
「それなんですが…どうでしょう?いったん場所を移しませんか?」
レイナースはウルの言葉に些少の不信感を抱いたが、帝都のど真ん中で変なこともしないだろうと考え、その提案に乗った。
ウルはレイナースを、人目のつかない路地に、しかしすぐに大通りに出られる位置へ誘導した。
警戒されているのを悟ったウルは、少しでもレイナースが安心できる場所を選んだのだ。
とはいえ、もしかするとあまり人目がある場所ではできないこと(決してやましいことではありません)をしようとしていたため、このような路地へと入った。
「それで…さっきの話ですが…」
「はい。私は聖騎士でして、呪いには敏感に反応するんです…。まあ、職業病ってやつですかね?それで、大変失礼なのですが、レイナースさんのお顔から呪いの感覚を感じたので、もしかしたらと思ったのです」
なるほど、筋は通っている。
聖騎士は悪や呪いに対して、敵対するものだというのを聞いたことがあった。
それに、聖王国の冒険者である彼が、先の話以外で自身の呪いの情報を得ることは難しいということもあり、それを信じることにした。
「なるほど。その話、信じましょう。この通り、この呪いを解くため、解呪するスクロールを探していました」
レイナースは、長い前髪で隠れた顔をウルに晒す。
拭ったハンカチが、真っ黄色に変色する程の濃い悪臭の膿を、常に分泌し続ける醜いモノが、レイナースの顔にはあった。
しかし、ウルはそれを見ても、何の驚きも嫌悪感も見せなかった。
見慣れているのであろうか?
そう思った矢先、ウルが口を開いた。
「そうですか…。それはスクロールで解呪しないとダメなモノですか?」
「…え?いや、別にそういうわけではないのですが…」
レイナースは、ウルが何を言っているのかよく理解できず、疑問を頭に浮かべながら答える。
「あ、そもそもなんですが、今すぐにでも解呪したい…ということでよろしいんですよね?」
「それは、もちろんです。ずっと解呪する方法を探していますので…」
そんな当たり前のことを、なぜ聞くのか…。
レイナースは更に疑念を抱く。
「もしよろしければ、私の方で解呪いたしましょうか?…信仰系魔法には自信がありますので…」
「…え?」
レイナースは、またもウルの言葉の意味を理解できずに聞き返す。
しかし、先ほどとは違い、その表情は驚きに満ちたものであった。
ウルは聞こえなかったのかと思い、もう一度説明する。
「えっと、解呪がお望みであれば私が…」「できるのですか!?」「え…えぇ…」
レイナースはようやく意味を理解し、ウルの言葉を遮って大声を出す。
レイナースは興奮したように息を荒くしていたが、少し落ち着きを見せる。
「申し訳ありません。お見苦しいところを…。もし解呪して頂けるなら、私はあなたに全てを捧げます…」
「いや、大袈裟ですよ…。別にお礼などいりません」
「そういうわけには…、それで、いつ頃であれば解呪して頂けるのですか?」
「え?いや、今ここでやってしまってもよろしいですか?」
ウルのあっけらかんとした発言に、レイナースは一瞬気を取られるが、それは同じく一瞬で驚きに変わる。
「『真なる解呪(トゥルー・アンチ・カース)』」
ウルが魔法を唱えると、まばゆい光がレイナースの身体を包み込む。
そして、ゆっくりと光が収まると同時に、レイナースの顔に変化が訪れる。
それを一番感じたのはレイナースであり、ずっと顔の右半分に抱いていた不快感と異物感が消失していた。
レイナースは、自身の顔をそっと触ってみる。
驚く。
ベタベタ感もネチョネチョ感もない…、手を通して、本来の皮膚の感覚を得る。
「う…うそ…」
レイナースは、自身の手だけでは信じられず、バッと大通りに出ると、近くの店に会ったガラス窓に顔を近づけ、髪を掻き上げる。
…美しい顔立ちであった。
とある日、とあるモンスターと戦う前の…自身の顔であった。
先ほどまでの呪いが、膿が、嘘のように消えている。
そうしてまた顔を触り、窓に映った顔を眺める。
何度も繰り返す。次第に涙が零れる。
「ほ、ほんとうに…治って…る…」
レイナースの目から、更に大粒の涙が零れる。
涙は、これまでの苦悩と悲しみ、絶望が含まれているような感覚があった。
それがドパッと流れるような、そんな感覚である。
先ほどレイナースが飛び出した路地から、ウルが出てくる。
「よかった、無事に成功しましたね…」
ウルはそう言いながら、レイナースにハンカチを渡した。
「よろしければ、これで涙をお拭きください」
レイナースは、涙をボロボロと流しながら、震える手でそのハンカチを受け取った。
「…それでは、私はこれで…」
そのまま立ち去ろうとするウルに、レイナースは目を大きく開けて呼び止める。
「お待ちください!!ウルど…ウル様!!」
「…はい、何でしょうか?」
レイナースは、意を決してウルに向かって叫ぶ。
「このご恩は一生忘れません!!生涯をかけて、お返しさせてい頂きます!!!…私は、レイナース・ロックブルズは、ウル様に忠誠を誓います!!」
レイナースはバッと片膝を突き、ウルに平伏して見せる。
余りにも早い平伏であったため、溜まっていた涙が、一気に地面へと流れ落ちた。
ウルは、レイナースに腕を引かれながら、帝都を歩いていた。
レイナースが何でもするといったものの、ウルは本気で何もしてもらうつもりがないことを伝えると、少し不機嫌になったのだ。
そして、少し考え込んだのち、『皇帝を紹介する』と言われたのだ。
帝国の皇帝に会っておくのも悪くないなと思ったウルは、その提案に乗り、善は急げという感じで、レイナースがウルを半ば引きずりながら帝城へと向かっていた。
帝城の門の前では、当たり前のように衛兵が立っていたが、レイナースの顔を見るなり、すんなりと通された。
その後は、とある一室に放り出されるようにして放置されていたウルであったが、暫くするとレイナースが部屋に飛び込んでくる。
「お待たせいたしました。ウル様…。皇帝にお話をしたら、今すぐにでも会いたいとのことです。来ていただけますか?」
「は、はぁ…」
随分と融通の利く皇帝である。
アダマンタイト級冒険者と言えど、まさかアポなしで会えるとは思っていなかったウルは、少し驚きながらもレイナースの後を追うようにして歩く。
帝城の中でも、最も豪華な扉の前に着くと、レイナースが扉を叩く。
「レイナースです。陛下、ウル殿をお連れしました」
「はいれ」
レイナースはゆっくりと巨大な扉を開く。
扉と同様に、中も随分と煌びやかであった。
金と赤を基調とした装飾は、随分とお金をかけているのが分かる作りであった。
ウルの姿を見ると、ひとりの男が立ち上がる。
金髪であるその男は、金と黒を基調とした服装をしていた。
服装も装飾品も、彼が皇帝であることをこれでもかと示していた。
「会いたかったぞ…。白銀のウル…」
「お初にお目にかかります。ジルクニフ皇帝陛下」
ウルは即座に膝を折るが、ジルクニフは小さく笑いかけ、それを制する。
「よい、楽にしてくれ。貴殿のことはそこのレイナースから聞いている。是非とも話を聞かせてくれ」
ジルクニフはウルの元まで寄ると、ソファに腰かけるよう誘導した。
「『真なる解呪』か…効いたことのない魔法だ…」
「まあ、そうですね…。信仰系魔法の中でも珍しい魔法です」
ジルクニフは顎に手を当てながら考え込む。
「時に、その魔法は第何位階なのだ?」
「そうですね…。高位階魔法とだけお伝えしておきましょう」
ウルの微妙な回答に、ジルクニフは思わず破顔する。
「なるほどなるほど、これは答えづらいことを聞いたな…許してほしい」
「いえ、こちらの事情を酌み取っていただき、感謝します」
「ウルよ、時に提案なのだが…」
「…何でしょうか?」
ジルクニフが何を言おうとしているのか、ウルは察していた。
「帝国に来ないか?」
「…お断りさせて頂きます」
「ほお?…理由を聞いても?」
「…ここだけの話ですが…聖王女と恋人関係でして…裏切れません」
ジルクニフは雷に打たれた様に大きく目を見開く。
「そうか…どうやら聖王女殿下は良き男を見つけたようだな…」
「…とんでもございません」
「しかし、我が帝国は貴殿をいつでも迎える準備があるということだけは知って欲しい」
「ありがたきお言葉でございます」
ウルは小さく頭を下げて見せる。
「一つ、相談があるのだが、いいかね?」
「相談ですか?」
「ああ、私は皇帝として優秀な人材を求めていてな…。そこのレイナースもその一環で私の傍にいるのだが…。その時の条件が『顔の呪いが解けるまで』だったのだ」
「なるほど…」
ウルはそれを聞き、随分と頭の回る皇帝であると感じた。
ラナーやデミウルゴス、アルベドには遠く及ばないであろうが、自身より明晰な頭脳を持ち合わせているのは確実であった。
「それで、晴れて呪いが消えたわけだが…レイナースよ」
「はっ!」
「お前はどうしたい?」
「ウル様と共にご一緒したいと考えています」
それを聞き、ウルは少しため息を漏らした。
「…レイナースが貴殿の近くにいるのは不満か?」
ジルクニフの言葉に、レイナースはビクッと震える。
「そんなことはありませんよ…。ただ、ジルクニフ様のご迷惑になるかと思いましてね」
「迷惑?何を言うか、元々そういう約束で傍に置いていたのだ。私は約束はたがえない質でね…」
「なるほど…。不敬を承知で申し上げますが、どうやらあなたはとても好感が持てるお方のようだ…」
「ふふっ!そう言って頂けるとありがたいよ…で、どうだね?レイナースを連れていくかね?」
ウルは少し考える素振りを見せると、レイナースへと向いて見せる。
「レイナースさんさえよければ…。しかし、私と共に行動はお控え頂きたい…。悪く思わないでほしいのですが…あなたでは実力不足です」
ウルの言葉に、ジルクニフもレイナースも驚いて見せる。
大変に失礼な言い方であるが、なぜか2人は嫌悪感を抱かなかった。
「はっはっは!!帝国最強の四騎士を前に、そのようなことを言うとはな!…まあ、あのガゼフ・ストロノーフですら太刀打ちできなかった吸血鬼を撃退したのだ…。それも当然と言えば当然だな…」
「失礼いたしました。…レイナースさん」
「はいっ!」
「私についてくるというのであれば、あなたに与える仕事は、私の住んでいる屋敷の警護が中心となるでしょう。住んでいるメイドたちを守っていただくことになる…。あなたにとっては酷く退屈になると思いますが、それでもよろしいですか?」
「ウル様から命じられることであれば、いかようにでも…」
レイナースは一瞬の迷いなく答えて見せる。
「決まりだな…。だが、今すぐというわけにはいかない…。彼女の後釜含め、引き継ぎ等してもらわないとだからな…。して、レイナースが向かうのは聖王国のカリンシャでいいのかな?」
「その通りでございます。カリンシャの街の者には話を通しておきましょう」
「助かるよ…。して、貴殿は先ほど私の迷惑になるかもと言っていたな?」
「はい、申しました」
ウルの返答を聞き、ジルクニフはニヤリと笑って見せる。
「であれば、帝国の窮地には駆けつけて頂ければありがたい…。災厄の大魔皇が、帝国に来ないとも限らないのであろう?」
「なるほど…。承知いたしました。そのお申し出、お受けいたしましょう。では、転移先の設置…ということでよろしいでしょうか?」
ウルの発言に、ジルクニフは驚愕の表情を浮かべる。
「貴殿は転移の魔法を使えるのか?…しかし、聖王国から帝国までは距離がある…転移では移動できないのでは?」
「…それ以上の転移の魔法を有しておりますので、問題はございません」
ジルクニフとレイナースは、またも驚愕の表情を浮かべる。
「ははッ…となると、爺…フールーダ・パラダイン以上か…。全く、より貴殿が欲しくなったぞ」
「お戯れを…」
その後、ジルクニフは災厄の大魔皇や漆黒のモモンの話をウルに訪ねるなど、長い時間交流を深めていった。