感想、評価、是非お待ちしております!
第1話 城塞都市カリンシャ
ローブル聖王国。
信仰系魔法を行使する聖王を頂点とし、神殿勢力との融和によって統治されている宗教色の濃い国である。
そういった特色を持つローブル聖王国の国土には、大きく二つの特色がある。
1つは海によって国土が南北に分けられていることだ。無論、国土が完全に分けられているというわけではなく、巨大な湾になっている。イメージとしては、横に傾けたUの字型の国土となっている。
これのせいで、北部聖王国と、南部聖王国などと呼ぶものもいるくらいだ。
そしてもう一つが、半島の入り口、北から南まで全長100kmを超える城壁を作っていることだ。
これは聖王国の東側、スレイン法国との間に存在する丘陵地帯…名を「アベリオン丘陵」というが、ここに住む亜人部族の侵攻を防ぐためのものである。
ちなみに、ウルが最初に転移してきたのも、城壁にほど近い、ここアベリオン丘陵であった。
その城壁から少し…距離にして30㎞程度進んだところに、カリンシャという城塞都市がある。
城壁が破られた場合、一番最初に侵攻されるのが、ここカリンシャである。
北部聖王国最大の城塞都市であり、首都と比べても遜色のないほど、活気に満ちた街である。
ウルが最初に訪れた都市であり、活動拠点とした場所でもある。
さて、聖王国において、冒険者ギルドの力は強くはない。理由は3つある。
1つは、聖騎士団や神殿勢力また、兵団が強大で、且つ賃金や待遇もよいということだ。冒険者でも最高位のアダマンタイトや一つ下のオリハルコンともなれば、生活に困るどころか、上流貴族並みの生活を送ることも夢ではない。だが、大抵の冒険者はカッパーかアイアン止まりであり、それであれば、兵団に所属した方が安定した収入を得られる。
2つめは、強力な冒険者がいないことにある。オリハルコンという、上から数えて2番目のランクにある冒険者チームが南部に一組いるが、その下はランクで3つ下のゴールドのチームが10組である。ゴールドの一個下、シルバーの冒険者も20程度で数えるほどしかいない。冒険者と呼ばれる9割以上が最下層のカッパーと一個上のアイアンである。聖王国全体でこれである。他国に比べれば、ランクも人数も鼻くそみたいなものであった。
3つめは、聖王国への徴兵命令があることである。本来、冒険者は戦争には不参加という姿勢であるが、聖王国に関しては聖王の名の下、強制的に出撃を命じられる。これには、ギルド長も頭を抱えている。
…と、他の国の冒険者ギルドに比べ、活気も自由度もないために、冒険者を志望してくるものも少ないのである。
カリンシャの冒険者ギルドで受付嬢をしているセリンは、昨日の夕方に冒険者登録をした男のことを考えていた。
…見たこともない立派な白銀の全身鎧を身に着け、刀という珍しい剣を2本腰に差した男である。
とある王国の戦士長を思わせるようなガタイの良さも相まって、思わず見惚れてしまう程であった。
しかし、見た目だけの話をすれば、吟遊詩人の歌う聖騎士がそっくりそのまま出てきたようなものであった。
当時、セリンは挨拶することも忘れるほど驚いたものである。
だが、セリンの予想とは違い、とても優しい口調で語り掛けてきたのだ。見た目とは裏腹に、とても常識のある誠実な男性であることが窺えた。
加えて、立派な装備を身に着けているにも拘らず、「冒険者登録をしたい」というのだからこれまた驚いたものである。
本来ならば、冒険者登録は大手を振って迎えるところではあるが、「聖騎士団に入りたいとかではないですよね?」と念を押してしまう程であった。
だが、そんな少々失礼な発言にも、男性は気にする様子はなく、こちらの説明を真剣に聞いている様子であった。
そしてそのまま冒険者の登録を終え、その日はギルドを後にしたのだ。
セリンは一つずつ思い出しながら、どこの国の人?とか顔を見てみたいな…とか色々な思いが頭を巡る。
そんな風にしていると、ギルドの扉がギィと開く。
ギルドのロビーには、他の冒険者は2組6名しかいなかった。
…まあ、いつも通りの閑散具合である。
冒険者たちも、扉の音に反応する。銀色の立派な全身鎧を着ていることに目を見開き、ヒソヒソと会話を始めた。
…よい内容ではないことだけはわかった。
「おはようございます。ウルさん!」
「おはようございます。セリンさん」
ウルは軽く頭を下げると、クエストボードへと向かった。文字が読めないのは昨日の時点で分かっていたので、アイテムを使って読んでいる。
文字を読めないのはまずいかも?…と思い、ユグドラシルのアイテムを使ったのだ。片メガネのようなアイテムで、様々な文字を解読して読むことができるというレアアイテムである。
「(…宝物の間から色々と持ち出しておいてよかったぜ…まさか役に立つとは…)」
そんな風に考えながら、ウルは一つの依頼書を剥がしとり、セリンの前のカウンターに優しく置く。
「とりあえず、初めてなのでお試しにこれをお願いできますか?」
「えっと…薬草の採取ですね。場所などはわかりますか?」
セリンは確認を取りながら、依頼請負の処理を進める。
「ええ、問題ないです」
一通り依頼の処理が終わると、依頼書をファイルのようなものにしまう。
「ノルマはありませんが、5個は取ってきて頂けるとありがたいです」
「承知しました。今日中には戻ってきますね」
「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」
ウルはそう言い残し、颯爽とギルドを出ていった。
ウルがギルドから退出したのを見て、冒険者たちが声量を戻して話し始めた。
「すんげー鎧だったな」
「武器もなかなかだったぜ…どこの貴族の息子だ?」
「けっ…金持ちの道楽かよ…くだらねー」
「まあ、ただものではなさそうね…」
それぞれの思いをぶちまけながら言いたい放題である。
それを眺めていたセリンは、はぁ…とため息をついて冒険者たちに声を掛ける。
「お願いですから、変な絡み方しないでくださいね?トラブルはごめんですよ」
「わーってるよ、セリンちゃん」
本当にわかっているのであろうか?
冒険者はそういってエールを煽った。
ウルが転移して早くも1週間が経とうとしていた。
薬草採取や警護などの簡単な依頼を中心にこなすことで、実績を重ねていった。
身に着けている鎧や、体格からカリンシャの住民や依頼者から怖がられることもあったが、持ち前の明るさと丁寧な言葉遣いや優しさも相まって、徐々に話題となっていった。
転移6日目は依頼を受けず、情報収集をすることにした。
まずは近場からということで、この世界の常識やカリンシャのこと。加えて聖王国のあれこれについて聞いたり調べたりしたのだ。
新たに知ることばかりであったが、一番の驚きは魔法の価値観について、この世界の人々との格差が大きいことが分かった。
ウルはワールドチャンピオンかつ聖騎士であり、基本的にはパワーで戦うスタイルである。職業スキルもステータスもガチガチの前衛ビルドであるためだ。
しかし、聖騎士のスキルに加えて、クレリックのスキルも有しており、回復魔法(8位階の完全治癒)や蘇生魔法(9位階の真なる蘇生)、防御魔法(第9位階の断空絶壁)も扱える。しかし、魔法は魔法力と魔力量に依存するため、特に回復魔法においては純粋な神官等の後衛職に比べると効力は薄い。
そんな、魔法に精通していないウルですら、10位階を除く9位階までを扱うことができる。
しかし、この世界では、第3位階が常人の限界とされ、どれほど努力を重ねようとも、人間のみでは6位階が限界だという。
これを聞いたウルは、魔法を使用する機会がなくてよかったと感じた。と同時に、最低でも原則は第6位階までの使用に留める必要があると感じた。
そしてもう一つが戦闘力である。
この世界には『難度』というものが存在し、いまだ明確な数値はわからないが、『難度3=レベル1』という式が成り立つと仮定した。
そんな中で、難度90のモンスターを狩ることができれば、アダマンタイト級、英雄の領域にあるとされていることだ。
レベルに換算すれば30レベルである。
ウルはもちろん、多くのプレイヤーが100レベルであったユグドラシル時代と比べると、酷く低く感じた。
極少数ではあるが、レベルが80~100に近い強者と予想される存在もいるような情報もあったが、信ぴょう性はわからない。
…つまるところ、レベル100であり、しかもワールドチャンピオンであったウルが全力を出せば、一気に魔王ルートである。
弟であれば、嬉々として喜んだかもしれないが…。といっても、弟の悪とは蹂躙を意味するところではないので、少しずれがあるが。
さて、そんな中でウルが最も危惧しているのは、大きなブランクであった。
いくらユグドラシルで2番目に強かったとはいえ、相手がワールドエネミーであれば勝つのは難しい。それこそ、装備、アイテム、下準備…あらゆる対策を施してようやく勝利が見える…という相手だ。まあ、そもそも一人で戦うようなものではないが…。
しかし、ブランクがあれば、同格、同格以下の相手に負ける危険性があった。
ユグドラシルが衰退していくのと同時に、戦闘行為に身を置くこともしなくなっていた。
加えて、レベル30程度で英雄であるならば、強敵との戦いに身を置く機会は少ないだろう。…そんな中で自身と同格の相手と戦闘になれば…敗北の確率は上がってしまう。
これは早急に解決しなければならない課題であった…。
まあ、ウルが戦闘狂…という面も否定はできないのであるが…。
転移7日目に、昨日出た課題を解決することにした。
今ウルがいるのは、カリンシャから10㎞程の場所にある忘れ去られたであろう墓所であった。
いくつもの墓石は倒れて苔むし、長期間にわたって放置されている様子が見て取れた。
もちろん、周りには、少なくとも半径5㎞圏内には誰もいないことは確認済みで、盗み見対策もばっちりであった。
なぜそこまでするのか…。
それは、ウルが考えた簡単ですぐに実行できる解決方法が、『自身でその敵を召喚すること』であった。
もしもそんな場面を見られてしまったら、カリンシャでは、いやこの国では生きていけないことははっきりとしている。確実に牢屋行きである。
思いっきりマッチポンプとなるため、あまり気乗りはしなかったが、この世界ではフレンドリーファイア解禁…というかそれが当たり前であることを知ったので、この手が使えると考えたのだ。これも、ゲームではないことを裏付ける決定的な証拠でもあった。
ここで、サーバーダウン前に宝物の間から持ち込んだアイテムが活躍することになる。
その中にはもちろん、スクロールを含めた魔法発動のアイテムもあった。
ウルは特に品定めせずに選んだつもりであったが、自身の使えない魔法や効果のあるものをより多くインフィニティ・ハヴァサックに詰め込んでいたのだ。
その一つが、第十位階魔法『最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)』である。
これに関しては、何十回という回数を発動できるのである。
これには深い意味があるのだが…一言で言ってしまえば、『弟が沢山作っていた』のである。
趣味の悪い、悪魔像がその効力を宿しているのだが、ここで一つ疑念が生まれた。
「あれ?宝玉が3つしかないやつも持ってきていたはずなんだが…」
この悪魔像、完成品は6この宝玉を有したものである(弟曰く)。宝玉の数によって、最終戦争・悪の発動回数が決まる。
その完成品を作るまでに、何度も失敗をして、ようやく完成したものであった。
その話を聞いた時のことを思い出しながら、アイテムボックスを確認するが、やはりなかった。
「んー…持ってくるの忘れたのか?…まあ、完成品ではないからまあいいか…」
宝玉が2個と5個のものは複数ある。1-6までの像を綺麗にアイテム欄に並んでいないことに些少のむず痒さを感じながらも、宝玉が一つのみの悪魔像を取り出す。
「最終戦争・悪」
ウルの呟きと共に、目の前に多くの悪魔たちが出現する。
この魔法は、レベル10~70台の悪魔を召喚できるものであった。それに加えて…
「レベル60、70の悪魔、キャンセル」
60、70台の悪魔の召喚をキャンセルすることで、レベル10~30の悪魔を倍召喚できるのだ。
まずは戦闘時の動きの確認をするためにとこの魔法を利用することにしたのだ。
この魔法を選択した理由は3つある。
・大量に召喚できる代わりに、さほど強くないこと。
・勝手に暴れて操作を受け付けない。
・召喚された悪魔たちは召喚者、つまりはウルを攻撃できない。
というモノであった。
そのため、試し切りや動きの確認をするにはもってこいなのだ。
「よし…」
200体を超える悪魔たちが召喚されきったのを見て、ウルは小さく気合を入れながら、腰に差した2本の得物を両手にそれぞれ握り、抜刀する。
と同時に、些少の違和感を感じる。悪魔たちが微動だにしないのだ。
そして、一瞬のうちにその違和感は驚愕へと変わった。
「お呼びでしょうか…。我らが主様…」
「…ぇ…?」
発した自分が聞き取れないほどの小さな声を漏らす。
ウルは一体何が起こっているのか理解できなかった。
呼び出した悪魔200体が、それぞれ形は違えど、自身に対して平伏しているのが分かったのだ。
多くは言葉を発することのできない悪魔であったが、身振りだけで分かってしまう程の平伏っぷりであった。
「…主様…どうぞ我らに…ご命令を…」
様々な疑問が生まれては頭を埋め尽くしていく。
…そして、ウルがとった行動はというと…
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!!」
ただ大声でビックリすることだけであった。
「い、いかがなされましたか…⁉主様!」
最も後ろで控えている戦車の悪魔(ウォー・デビル)は、ひどく困惑していた。
目の前にいるお方は、神…そう、神なのだ。
私に命を与え、意志を与え、そして恐れ多いことに肉体を与えてくださった。
この矮小な身体と心で、一体どれほどのことができるのかは不明だが、それでも私を必要とし、召喚して頂けた。
であれば、私はその願いと命令の赴くままに力をふるうのみ…。
ああ、これほどの幸福があるだろうか…。
だが…。
目の前にいる主様は、どこかご不満なご様子…。驚愕の色も窺える。
そうして考えを巡らせていた戦車の悪魔であったが、一つの可能性に気付く。と、同時に、同じ雰囲気を隣に並ぶ同胞からも感じる。
自身と同じく、戦車の悪魔として呼び出されたものである。
その結論とは、『想像と違う』というものであった。
それが核心に変わった時、私は地面を割る勢いで頭を垂れ、這いつくばった。
「大変申し訳ございません!!御身の求める強大な悪魔へとなりえなかった私共の矮小な存在を、どうかお許しください!!!」
ウルは酷く困惑していた。
最終戦争・悪によって呼び出される悪魔たちには、本来意思がないからである。加えて、召喚者の指示に従うこともないからである。
「…いや、少し驚いただけだ…。すまないな」
「しゃ、謝罪など…。主様のお考えを読み違えた私共の失態でございます!」
「ああ、えっと…。確認なんだけどさ…」
「はっ!!何なりと仰ってくださいませ!」
戦車の悪魔は、更に頭を垂れて平伏する。
「改めて聞くのもおかしな話なんだけど、会話ができているということは、意志はあるんだよね?」
「はい。主様が与えてくださいました」
「そっか…。じゃあもう一つ…、敵への攻撃や撤退など、私の指示に従うかい?それに、仮に私を攻撃しろと言ったらできる?」
「主様のご命令とあらば、どのようなでもいたします」
今、考えられる可能性は1つ…。異世界に転移したことで、召喚魔法の特性が変わった…。ということである。もしかしたら他の魔法も変質しているかもしれないため、確認の必要が出てきた。
「それじゃあ最後に……」
ウルは大きく息を呑んで、そしてはいた。この発言の結果次第では、いきなり戦闘になることも考慮してだ。
「…死ねといったら、死ねるかい?」
「仰せのままに…。我らの命は、主様のモノ…。主様から死ねとご命令を頂けたのであれば、これほどの名誉な死はございません…」
…賭けに、勝った。ウルはそう思っていた。
内心はヒヤヒヤものであったが、実際は望んでいた回答と結果であった。
『一生ついていきます!!』などと言われたらたまったものではなかったからだ。
「質問ばかりで悪いんだけど、君たちは時間経過で消滅するかい?」
「その通りでございます」
「…大体わかったよ。ありがとう」
「…⁉お礼など!…我らは主様のためにのみ存在しております。どうか、いかようにでもお使いください」
あれだ…。ここまでくると、なんか逆に怖くなってきてしまう。
これだけの忠誠心に、答えられるものがないからである。
適当に持ってきたマジックアイテムの…それも弟の失敗作である。
それを消費しただけで『主様!神様!』となるのだから、たまったものではない。
そこまで考え、ウルは本題に入ることにした。
「大分話がそれたね。君たちを呼んだのは…私が君たちを殺すためだ…。目的は力試しだ」
常識的に考えれば、この発言を聞いたものは、サイコキラーか狂人のものであると判断するだろう。
『君を産み出したのは、君を殺すためだ』などと言われ喜ぶものは、少なくともウルの知り合いにはいなかった。
だが、今この場だけは違う…。悪魔たちの間では、『おおぉ…』とか『主様自ら…』などと感嘆に至っているのである。
…あんまり考えると、精神衛生上碌なことにならないと判断したウルは、地面に向けて下げていた刀を持ち直す。
「それじゃあ、早速始めようと思うんだけど…、いいかな?」
「主様。発言のご許可を頂いてもよろしいですか?」
声を掛けてきたのは、嘆願の悪魔であった。レベルは40台の悪魔で、長い髪と青白い肌をもつ女性の姿をしている。両手に目、鼻に加え、口も糸で縫われるようにして塞がれている。何で喋れるのか不思議だったが、その疑問は聞かないことにした。
「ん?どうした??」
「一つ、ご提案がございます…」
「提案??」
思わず感心してしまった。召喚した悪魔が、意思があるだけでなく、思考も出来たからである。これは非常に興味をそそられることであった。
ウルがそんな風に考えていると、嘆きの悪魔はゆっくりと口を開いた。
「主様の腕試しを近くの人間の街で行い、主様の名声を高めるのはいかがでしょうか?」
城塞都市カリンシャ…の最も高台にある城の一室。
「そうですか…南部の貴族たちにも困ったものですね…」
本来は首都に当たるホバンスの王城にいることが多いが、時折この聖王国でもっとも強固な城塞都市で執務を行うことがある。
口を開いたのは、聖王女カルカ・ベサーレス。
王位継承順位は低かった。聖王国はいままで男子継承だったため、本来であれば聖王の地位にはつけないはずだった。だがその不可能は、二つの資質により冠を載くことになった。
1つは外見の美しさだ。ローブルの至宝と称賛されるほどの顔は、愛らしさと凛々しさを兼ね備え、金糸のような長い髪は艶めいて鮮やかな光沢を湛えている。まるで、天使の輪のように見えるものだから、柔らかに微笑む姿を見て聖女と表現する者も少なくない。
そしてもう一つが、信仰系魔法詠唱者としての高い素質だ。15歳にして第四位階魔法を行使する天才ぶりを発揮し、先代聖王と神殿からの後押しを受けて王位についたのだ。
それから約8年…。優しすぎるという不満こそあるものの、今のところ失策らしい失策をせずに国を統治していた。
「…カルカ様、やはり粛清も視野に入れた方が良いのではないですか?」
諭すように声を発したのは茶髪の女性だった。
彼女の名前はレメディオス・カストディオ。
カルカの親しい友人であり、歴代最強と言われる聖騎士団団長として彼女の権力の武力的背景を支えてくれている。九色と言われる、聖王国の優れたものに下賜される称号を有している。
「そうね…。現状では歩み寄ることも難しいですし」
ふふっと不敵な笑みを浮かべたのもまた女性だった。
彼女はレメディオスの2つ下の妹、ケラルト・カストディオ。
神殿で最高司祭であり、神官団団長という地位に就く。
使える魔法は、信仰系第四位階である。…ということになっている。
実際には第五位階まで扱えるが、嘘の情報を流しているのだ。
この2人こそが、カストディオの天才姉妹と呼ばれるものたちであり、聖王女の両翼。
女性であるカルカが聖王に選ばれたのはこの姉妹が裏で手を回していたからだ…。と多くの貴族が疑っているため、悪評を流される時は3人そろってということが多い。
いくつもの悪評を払拭してきたが、どうしてもこのうちの一つ…。
三人は皆、未婚、どころか、男と付き合ったことすらないため、ただならぬ関係ではという噂だけがどれだけ否定してもなくならないのがカルカの悩みの一つであった。
もちろん、好きなのは男性である。
今年でもう23歳になる。結婚相手をいい加減捕まえたいという気持ちが強く、内心ではかなり焦り始めている。
聖王国や隣国のリ・エスティーゼ王国では、女性の結婚は18歳前後が基本である。王族ともなれば、14前後には結婚相手が決まり、16には結婚。18になる頃には子をもうけているの普通であった。
そのため、カルカの焦りは尋常ではなかった。
自分で美容系の魔法を編み出し、肌年齢を若々しく保っている。
そして、男性に対する高すぎる条件はない。わがままは言っていないのだ。
それはもちろん、かっこよくて強くて…と理想はあるが、唯一ある条件と言えば、
『糸の一切ついてない、私という人間を愛してくれるお婿さん』
ただそれだけなのであるが、これがなかなかに難しい。
カルカは思わずため息をつく。
…すると、息と同時に、カルカ達のいる玉座の間の大扉がガンッと開かれる。
非常に無礼である。順序だてた礼儀を一切行わない行動に、不信感を覚える。
しかし、そのような無礼を働くものは、この城にはいない。
一瞬で不信感は、緊張に変わる。それほどの事態なのかと。
「カルカ王女様!!!大変でございます!!!!」
衛兵の一人が、大声をあげながら、ひざまずく。
「一体何事ですか!?」
カルカは座っていた玉座から勢いよく立ち上がる。
衛兵は、一呼吸おいてから先ほどよりも大きな声を発した。
「このカリンシャに!…強大な悪魔の群れが出現いたしました!」