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ウルは、ジルクニフとの会話を終えると、すでに夕日が差している帝都をぶらぶらと歩いていた。
商店や雑貨屋などは閉まり、逆に多くの酒場と思しき店が開店し始めている。
ウルは一杯飲んでいくのもありかな、と考えながら歩いていると、とある3人組に声を掛けられる。
…といっても、声を掛けられたは女性一人にだけであったが。
「おーい!!あなた!!白銀のウルじゃない??こっち来て一緒に呑まない?」
「ちょっと、イミーナ!失礼ですよっ!」
「だーっ!いつの間にこんなに飲んだんだ!」
イミーナという女性に声を掛けられ、ウルは足を止める。
他に男性が2人いるようであった。
どうやら冒険者のような成りをしていたので、帝国で名前を売っておくのも悪くないと思い、誘いに乗ることにした。
「よく私が白銀のウルだとわかりましたね」
「そりゃ一目見ればわかるわよ…ね、ヘッケラン!」
「あなたのようなイケメンは、そうそういるものではないですよ」
ヘッケランという男性が、イミーナの言葉を肯定する。
「とんでもございません…。それでは、お言葉に甘えてご一緒しても?」
「え…ええ!!もちろんですとも!!ま、まさかかの有名な白銀のウル殿と飲めるとは…」
「へー、ロバーデイクが狼狽えるなんて珍しい」
イミーナがケラケラと笑いながら酒を呷る。
「それで、皆さんも冒険者なのですか?」
「いや、俺たちはワーカーだ」
「ワーカー…確か、冒険者ギルドに属さない方たちですよね?」
「ええ、その通りです」
ウルはフォーサイトと名乗るワーカーたちと、共に酒を飲み始める。
ウルの功績や活躍を聞かれれば答え、逆にウルが今迄の冒険や活動を聞けば答える…などと会話をしていた。
気が付けば1時間程経っていて、皆酔いが回って気分が高揚している様子であった。
イミーナに至っては、酔いつぶれて爆睡をこいていた。
「なるほど、もう一人のチームメイトが抜けてしまうかも…という話だったんですね…」
「ええ、彼女がいなくなると、チームとして活動するのは難しくて…」
ウルの言葉に、ヘッケランが落ち込んだ様子で答える。
「ちなみに、何か理由があるんですか?」
「…それが…ですな…」
ロバーデイクは言葉を詰まらせてみせる。
「申し訳ない…どうやら聞かない方がよかったですか?」
「いえ、そんなことは…、彼女は…アルシェというのですが、元貴族の令嬢で、両親の借金を返すためにワーカーをしていたのです」
「それはまた…何とも言いがたいお話ですね…」
「ええ…しかもその両親が、貴族時代の生活から抜け出せなくて、浪費ばかりしているんですよ…」
「かー、とんでもない話じゃないですか!」
「わかっていただけますか?…それで、アルシェももう我慢の限界でして、今回の依頼を受け終わったら、妹2人とともに縁を切る決断をしたのです…」
ロバーデイクの話を聞き、ウルは酷く納得した様子で俯く。
「なるほど…親と早々に縁を切ってしまえと思いましたが、妹さんがいるのですね…だからアルシェさんは必死に…」
「そうなんですよー!もう、怒りしかこみ上げないでしょ?」
ヘッケランはウルの言葉を借りるようにして酒を呷って見せる。
「妹さんを養うとなると…確かにワーカーのチームは考えてしまうかもしれませんね…」
「ええ、危険な仕事は受けられませんから…」
「でも、なんで今回の依頼は受けるのです?今すぐにでも妹さん2人と家出しちゃえばいいのに…。優秀な魔法詠唱者なのでしょう?」
「それが…今回の報酬はすごくいいのよ…」
依頼の話になり、今までテーブルに伏していたイミーナが、ガバッと顔を上げる。
「ほう?報酬がいい、ですか?ちなみにどのようなご依頼で?」
「なんでも、未発見の墳墓の探索依頼なんですよ」
ウルは一瞬固まって見せた。
「未発見の…墳墓?」
「いやー、驚くよねー!まさかまだそんなものがあるなんてさー!!」
イミーナはウルの気持ちを先読みしてようにしていうが、ウルは違う感情を抱いていた。
「その墳墓…ちなみにどのあたりなのですか?」
「あれ?ウルさんも興味あったりしますか?なんでも、トブの大森林の近くで発見された墳墓らしいのですよ」
「……」
確定である。
まず間違いなく、彼らが向かうのは、ナザリック地下大墳墓だ。
向かえばまず命はない。
いくらアインズでも、侵入者に容赦することはないだろう。
彼らのレベルは高く見積もって20台半ば…。
どうしたものかと頭を捻る。
ウルからしてみれば、会ったばかりの人たちである。
しかし、一緒に酒を酌み交わした仲だ…。
死ぬとわかっている場所に、向かわせるのは心が痛む。
だが、同時に彼らが行くのを辞めさせるのも難しいだろう。
そう思いながらも、ウルはゆっくりと口を開いた。
「…その依頼を受けないという選択肢はありますか?」
「…ないですね…。これほどの当たりともいえる依頼は早々ありません」
やはりだめか…。作戦変更である。
「で、あれば、これを…」
ウルはアイテムボックスから一つの魔水晶を取りだした。
「く、空間に穴が…。それにこれは一体…」
ロバーデイクが心底驚いた様子で口を開いた。
「これは、『召集の魔水晶』と言います。この水晶に向かって、私のことを思い浮かべながら名前を呼べば、どのような障害もすり抜けて、私を強制的にあなた方の場所へと転移させることが出来ます」
魔水晶のあまりの効果に、3人とも唖然とする。
「未発見の墳墓となれば、危険なこともあるやもしれません。もしもの時に、お使いください。私が駆けつけられますので」
「い、一体こんなものをどこで…?」
「こ、こんな高価なモノは頂けませんよ!!」
「わ、私たちあったばかりなのよ?」
ロバーデイク、ヘッケラン、イミーナは、大きく目を見開きながら答える。
「なに、一緒に呑んだ仲ではありませんか…。それに、もし使わなかったのなら、これは売ってしまえばいい…。先の話に出たアルシェさんの新たな門出の足しにでもしてください」
「…本当にもらってよろしいんですか?」
ヘッケランは少し驚きを沈めた様子で口を開いた。
「ええ、男に二言はありません…。では、私はこの辺で…。どうぞ、お気をつけていってきてください…。もしもの時は、気にせず使ってくださいね…」
ウルはそう言い残し、その場を離れる。
背中に3人のお礼の言葉を受けながら、ウルは帝国を後にした。
…アインズさんに伝言を飛ばしながら…。
「なるほど、ナザリックの防衛システムの確認のためか…」
「ええ、本当はナザリックに侵入者を迎え入れるような真似はしたくなかったんですが…代案を出せずで…」
どおりでデミウルゴスから報告が上がってこないわけだ。
さすがにナザリックの防衛に関することまではウルには来ないのだ。
『確か、男女2人ずつの、4人のワーカーチーム…ですよね?…紫色の髪をした女性のいる』
『そそ、そいつらに『召集の魔水晶』を渡したから、恐らく俺がナザリックに召喚されると思う』
『しかし、ナザリックに攻めさせるワーカーに、まさかウルさんの知り合いがいるなんて…世界は狭いですね…』
『まあ、知り合いって言ってもついさっき帝都で酒飲んだだけなんですけどね…』
ウルは少し気恥ずかしそうにしてアインズに伝える。
その後は、アインズが知っている範囲で流れを教えてもらった。
…デミウルゴスのことなので、必ず裏に真の狙いの1つや2つはありそうであるが…。
ちなみに、少し前にアインズがウルに提案したことをやろうと伝えたが、『第六階層がボロボロになるぞ?』というウルの進言に断念することになった。
アインズとの伝言を終えたウルは、カリンシャの屋敷の自室へと転移で戻る。
そのまま自室を出て、廊下に出ると、クレマンティーヌと鉢合わせる。
「あれ、戻ってたんだ。おかえり」
「今さっきな…。というか、メイドはやめたのか?」
ウルはクレマンティーヌの服装が、出会った当初の装備に近いものになっていることに気付く。
近い装備というのは、クレマンティーヌが狩ってきた冒険者のプレート敷き詰めていた物ではない、という意味である。
趣味が悪いから捨てろ、というウルの言葉に、その日のうちに処分したのだ。
代わりに、似たような装備を用意したようだ。
「ルカさんに修行、つけてもらってたんだよ…。いやーあの人強いね…」
「まあ、この世界基準だと逸脱者…ってことになるのかな?知らんけど」
ウルは特に精査せずにクレマンティーヌに軽口で伝える。
「そういえば、口調軽くなったな。クレマンも」
「敬語の方がいい?…ってなにそのあだ名…」
「いんや、そのままでいいや…。クレマンティーヌって長いやん」
「りょうかーい。そおかな?気にしたことないや」
ウルとクレマンティーヌはクソどうでもいい会話を繰り広げながら、一階の大広間へと続く階段を降りていく。
降りきったところで、正面の玄関扉がゆっくりと開く。
ルカであった。しかし、後ろに4人組の冒険者らしき人達がいる。
「ルカ、お客さんか?」
「ええ、ウルを訪ねてきたみたい。ツアレの妹だそうよ」
ルカの発言を聞いて、ウルは大きく目を見開く。
「…クレ、ツアレを呼んできてくれ…」
「はいよー…ってさっきより短くなってるし!」
クレマンティーヌは些少の抗議を口にしたが、素直にツアレを呼びに再度階段を上がっていった。
ウルは、少し緊張した雰囲気の4人組に近づき、声を掛けた。
「王城で少し顔を合わせましたね。改めて、ウルと申します」
「はじめまして…でいいのでしょうか?冒険者チーム『黒の剣』リーダーのぺテルと申します。本日は突然のお尋ね、申し訳ありません」
「同じく、ルクルットと申します」
「ダインと申します」
「ニニャ…いえ、セリーシアと申します…。あの…」
順に自己紹介をして見せると、ウルはニニャ改めセリーシアの言葉を先どるようにして口を開く。
「モモンから話は聞いています。…ツアレさんの件ですよね?どうぞ、こちらに…ご案内いたします」
ウルは、4人を連れ、客間へと案内した。
客間へと案内した後、事の経緯を話した。
あの日のことを、実際にきちんと人に話すのは初めてであった。
内容が内容だけに、おいそれと話すことはできない。
ツアレの状態、扱われ方、状況…一つひとつ話していくが、目の前の4人が怒りにも似た表情を浮かべたのは言うまでもない。
「なんで…なんでそんなひどいことができるんだっ!!」
セリーシアは涙を浮かべながら、唇を噛みしめる。
他の3人も、セリーシアの怒りを体現するかの如き雰囲気を醸し出している。
そして、ウルは話を続ける。
ツアレを助け出したこと。身体に関しては完璧に治したこと。精神は少しずつ落ち着きを取り戻していること。しかし、まだ外出するには至っていないこと…。
それを伝えると、セリーシアは深々と頭を下げた。
「ウルさん…、姉を見つけくれて、助け出してくれて…ありがとうございます!!!」
「私からもお礼を言わせてください!!ありがとうございます!!」
セリーシアのお礼に続き、ぺテルも深々と頭を下げる。
ルクルットとダインも、言葉は発しないが、頭を下げていた。
「おやめください…。私は私のできることをしたまで…どうやらきたようですね」
ノック音の後、クレマンティーヌの後ろから、恐る恐ると言った様子でツアレが入ってきた。
セリーシアがガタッとイスから立ち上がる。
ツアレの姿を見て、次第に涙をためていく。
「ねえ…さん…」
「セリ…」
ツアレもセリーシアの姿を捉え、同じく涙を浮かべる。
両者とも駆け出す。そして抱擁する。
「やっと…やっと会えた…」
「うん…うん…」
ツアレとセリーシアは、人目も気にせず、ワンワンと泣き喚いた。
しかし、この場にその2人を笑うものなど、誰もいなかった。
感動の再会から少し経った頃…。
感情が落ち着きを取り戻したツアレとセリーシアは、黒の剣のメンバーと共に、ウルと会議に似た話し合いをしていた。
「それで、ツアレさん。私はあなたが望むのであれば、妹さんと2人で過ごせるように手配いたしますが…いかがいたしますか?」
ツアレは、その言葉に一瞬妹の方を見たが、すぐにウルへと向き直って口を開いた。
「妹と暮らしたい…というのはあります…。ですが、まだ怖いのです…外が…。ご迷惑なのはわかっていますが…。できれば、この屋敷でずっと暮らしたいです…。ウルさんと、一緒に居たいです…」
「そうですか…。では黒の剣の皆さんにご提案です」
いきなり名指しされた黒の剣の4人は思わず身構えた。
「…この屋敷を拠点に致しませんか?」
「こ、ここを…ですか?」
「はい、冒険者を続ける前提にはなりますが、正確には聖王国…カリンシャの街を拠点に、という意味になります…。衣食住の保証は致しましょう…。もちろん、お金も取りません」
「そ、そこまでしていただくわけには…」
リーダーであるぺテルは、ウルの好意に思わず身を引いてしまう。
「…私は、ツアレさんの希望を第一に考えたいと思っております…。ツアレさんを助け出した際、私は彼女に安全を約束しました。それをないがしろにしたくない…。ツアレさんがここに居たいのであれば、それを尊重したいのです。しかし、ようやく会えた姉妹が、また離れ離れというのは心苦しい…。ここにはツアレさんと同じような境遇の方々がメイドとして働いています…。お金は取らない、といいましたが、代わりに彼女たちを守っては頂けませんか?この屋敷で…」
「俺は、乗ってもいいと思うぜ、ぺテル」
「私も同じくです…」
ルクルットとダインが同意の意を示す。
「…ニニャ…セリーシアはどうしたい?」
ぺテルはセリーシアへと視線を向ける。
「私は…私も、できれば姉さんと一緒に…いたいです。皆には悪いけど…ここにいたい…」
セリーシアの言葉を聞き、ルクルットがニヤッと笑って見せる。
「じゃあ決まりだな!!黒の剣の拠点は、今日から聖王国だ!」
「そうであるな…まずは街を回って色々と覚えなくてはならないのである!」
「ふっ!まさか、こんな屋敷に住める時が来るとはねー…」
ルクルット、ダイン、ぺテルが口々に笑顔で言葉を漏らす。
「み、皆…」
セシーリアは、またも涙をため始める。
「セリーシアさん…」
「…はい…」
「とてもよい仲間に巡り合えましたね…!」
「ッ!はいっ!!!」
ウルの言葉に、セリーシアはダムが決壊したようにして再び大きく泣き始めた。
カリンシャの屋敷に、黒の剣の4人を新たに迎えたウルは、アインズからの伝言を待ちつつ、そのまま数日ダラダラと過ごすことになる。
カルカと伝言で他愛もない話や、夜にお忍びでデミウルゴスに会ったりなどもしていたが、基本的には屋敷の中で過ごしていた。
激動の日々であったため、ようやくツアレや他の助け出したメイドたちと、ゆったりと過ごすことができた。
数週間か経って大分心も安らいでいる様子であった。
そんなまったりとした時を過ごしていたウルは、ふと窓の外から見える屋敷前方にある庭に目をやる。
創造したNPCであるクルミが、肩まで伸ばした綺麗な金髪を揺らしながら、何やら小さな畑のような場所でせっせと土を掘っているのが見えた。
気になったウルは、自室を出て外へと向かう。
途中でツアレを見つけ、屋敷の庭に一緒に出ようと提案すると、二つ返事で了承してくれた。
どうやら、屋敷の敷地内であれば、出られるようになったようだ。
ウルは少しずつ精神的に安らいでいるツアレを見て、思わず笑顔を見せると、ツアレもまた、顔を赤らめて笑顔になる。
大きな玄関の扉を開けると、自室から眺めていた時と同じように、クルミが土を掘っていた。
「何やってんだ?クルミ」
「あ、ウルさん。ツアレちゃんも一緒なの?」
「はい…。ウル様とご一緒させて頂いております…」
ツアレの言葉を聞いて、クルミはキランっと目を輝かせる。
「なになに、ウルさんも隅に置けないねー…あいたっ!」
クルミの挑発じみた言葉にウルは軽くクルミの頭をこづいて見せた。
「なにやってんのか聞いてんのに、なんでそうなるんだ」
「いったいなー、もう!…何って、野菜育ててるのよ…ほら!」
クルミは今掘っている場所とは違う畑を指さす。
そこには、沢山の小さなトマトがなっているのが目に見える。
「なるほど…しっかり有効活用しているってことか…」
「そゆこと!…実際、この屋敷の維持、ウルさんが冒険者として稼いでくるお金だけじゃん?ウルさんの持っていた金貨も含め、余裕はあるけど、節約できるとこはしていかないとねー」
「おまえ、基本バカなのにそうゆうところは頭まわるのな…」
「バカじゃないもん!!失礼だなー、ウルは!!」
そんな風にして会話をしていたが、ウルはあることに気付く。
「お金と言えば…そういえば皆に給料渡すの忘れてたわ…」
「うっわ…。そういえばそうじゃん…。ブラック企業ウルの爆誕だね…」
「な、なんということだ…。まさか俺がブラック企業を生成してしまうとは…」
ウルは酷く落ち込んだ様子で地面に膝を突いて見せたが、ツアレがフォローを入れてくれる。
「あの…実は先日、ルカさんがそのようなお話をされていました…。賃金を用意するって…」
その言葉に、ウルはガバッと立ち上がって見せた。
「さすがはルカだ!その辺のこともしっかりしてくれているな!うん、うん!!」
「…ウルさんにはプライドってものがないの?…この屋敷の主人としての…」
クルミの言葉、ウルは右手で親指を立て、「ないっ!!」と高らかに宣言する。
その姿にクルミは大きくため息をついて見せるが、それに異議を唱える時間はなかった。
「賃金なんですけど、他の皆とも話し合って、受け取れないって話になったんです…」
「なん…だと…、何ゆえに…」
ツアレの言葉に、ウルはこれ以上にない衝撃を受けた。
まさか、社畜奴隷が身についてしまったのかと心配したが、ツアレや他のメイドたちの想いは全く違うモノであった。
「ウル様には…みんな命も心を救って頂きました…。その上、このような素敵な場所に住まわせてもらって、まともな仕事も出来て、お腹いっぱい食べられて、清潔なところで寝れて…。その上でお金をもらうなんてできないってなったんです…」
「…?それとこれとは話が違くないか?…働いた分だけ対価を貰う…。それは当然の摂理さ…百歩譲って住み込み分の諸費用を抜いたとしても、0って訳にはいかないだろ…。服とか小物とか、買いたいものもあるだろうし…」
ツアレの言葉が理解不能と言ったウルであったが、ツアレからしてみれば、ウルの言葉が理解できなかった。
ツアレは驚きを通り越して、目をウルウルとさせている。
「どうして…」
「え?」
ツアレが言葉を詰まらせていることに、ウルは思わず聞き返す。
「どうして、ウル様はそんなにお優しいんですか?私たち…たいしたお返しが…できないのに…」
ツアレはメイド服をぎゅっと握りしめ、小さく呟いた。
そんなツアレを見て、ウルとクルミが思わず顔を見合わせる。
「ツアレちゃんは深く考えすぎだよ…。それに、ツアレちゃんの料理はうまいし、ルカもあたしも色々と助かってるよ?」
「その通りだよ、ツアレ…。それに、もう十分ツアレには返してもらってるさ…」
「え?…私が、ウル様に…?」
ツアレはきょとんとした様子でウルを見つめる。
そして、ウルの手がツアレの頭に乗った瞬間、ツアレは石のように固まって見せた。
「君が笑顔で過ごしている…。それだけで十分だよ…」
ウルの言葉を聞き、と手の感触を味わい、ツアレはプルプルと震えだす。
そして…我慢ならないと言った様子でウルに抱き着いた。
「ツ、ツアレ??」
「暫く…暫くこのままで…いさせてください…///」
ツアレは涙を隠すようにしてウルを抱きしめる。
そんなツアレに驚きつつも、ウルはツアレが満足するまで身を預けた。
…ちなみに、クルミがしゃがんだままそんな2人を見てニヤニヤしていたのは言うまでもない。
さて、カルカが知ったら、とても不機嫌な様相になること間違いなしの抱擁をしていたウルとツアレであったが、クルミが作業を終えたのに合わせて、屋敷内に戻る。
ツアレともいったん別れ、ウルは自室へと戻った。
なんとなく、アインズから連絡が来るような気がしたのだ。
ワーカーたちをナザリックに侵入させるのは、今日の朝の予定であったため、昼に差し掛かる前には伝言が来てもおかしくはない。
一応、装備やアイテムの確認はするものの、アインズとの打ち合わせでは自身が相手にするモンスターは大したものではないので、さして緊張も不安もなかった。
しかし、油断は禁物といった様子でいそいそと準備を進めていく。
もう少しで終わり…と言ったところで、アインズから伝言が飛んできた。
『アインズさん、待ってましたよ』
『ウルさん、うまく例の4人組を第六階層の闘技場に誘導しました…予定通りに動きますので、あちらの判断にもよりますが、30分以内にはこちらに飛ばされると思います』
『おっけー、もう準備も終わるからこっちも大丈夫だ…』
『了解しました…、で改めて確認なんですが、この4人はナザリックの存在を知ってしまっているので、暫くは…ナザリックが表に出るまではウルさんの元で監視兼保護…ということでお間違いないですか?』
『ええ、それが条件でしたしね…。私の屋敷で匿いますから安心してください』
『わかりました…。ではまた後程…守護者たちも楽しみにしていますよ』
『了解です、それはそれで気が重いですね…。では…』
伝言が切れる。
ウルは、「よっしゃ!」と気合を入れると、自然な演技をするためとばかりに、ゆっくりと身体を伸ばして見せた。