【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第21話 白銀

アルシェの妹であるクーデリカとウレイリカを連れ出した日から、3か月ほどの時間が経過した。

 

ウルの知らないところで、なぜか貴族位を与えられてしまい、このカリンシャに滞在する者に於いて、都市長と同等の位の高い人物になってしまった。

 

それこそ、実質的なカリンシャの代表である。

 

ちなみに、これに一番びっくりしているのはウルであったが、『将来的な聖王女との結婚のため』という理由であることを知り、納得して見せた。

 

…実際には、ウルを聖王国に縛る、という目的があったのだが、この程度でウルを縛ることができなかった、というのを聖王国のお偉いさんが知ることになるのだが…。

 

また、ウルが地位や領地を欲していないのは、宮廷にいる者たちも承知していたところもあり、特に貴族らしいしきたりや役目を与えられなかったのは不幸中の幸いである。

 

さて、聖王女カルカから下賜されたこの屋敷は、当初ウル一人であったが、従者の宝珠によって製作されたNPCであるルカとクルミを始め、クレマンティーヌ、ツアレと同じ娼館に囚われていた男女11人、黒の剣の4人、帝国四騎士の一人であったレイナース、フォーサイトの4人とアルシェの妹2人を加え、計27人もの人間種が暮らしている。

 

 

ルカが初めて感情を抱いた時、その心にあったのは、ウルへの敬愛と信頼、そして友情であった。

 

自身を生みだしたウルに対する絶対的な忠誠を抱きながらも、そこには明確な主従関係以上の、圧倒的な友情が芽生えていた。

 

加えて、驚異的な頭脳と十分な戦闘力を与えられたルカは、屋敷を留守にすることの多いウルの代わり、屋敷全体の防衛と管理を統括する立場にあった。

 

一般的な家事全般や来客対応を業務とするツアレや娼館に囚われていた11人、合わせて12人のメイドのシフトや業務調整から、カリンシャの街へ冒険者としての拠点を轡替えした黒の剣やフォーサイトの管理も行っている。

 

そんな中でも、最も重要かつ唯一無二の役目が、ウルの管理と行動の把握である。

 

もちろん、ウル本人からどこに行くだとか、何をするだとか聞くことはあるが、全てを伝えられるわけではない。

 

…というより、伝えられないことも多い。

 

そんな中でもウルの状況をなんとなく把握できているのは、その類まれなる頭脳によるものであった。

 

他で比較するのであれば、デミウルゴスやアルベド、ラナーにすら匹敵するであろう。

 

基本的にどこかへフラフラしているウルに頭を悩ませながらも、親身になって支えているのだ。

 

ウルもそれを分かっているのか、ルカに対しては圧倒的な信頼を置いている。

 

ルカは、決して表情には出さないが、それがたまらなく嬉しく、また彼女の最も重要な行動原理になっている。

 

 

 

ルカと同様に、ウルによって生み出されたNPCであるクルミは、ウルに対する忠義はルカと同程度に持ち合わせているものの、友情というよりは悪友のような感情を持ち合わせている。

 

そしてルカと明確に違うのは、頭脳と性格である。

 

頭脳に関してはウルを下回るアホさ加減で、ウル曰く、どこかの聖騎士団団長並みと評されている。

 

しかし、後述する魔法詠唱者としての実力は十分に持ち合わせており、戦闘においては揺るぎないセンスを発揮する。

 

ルカが冷静でクールな性格をしている反面、クルミは明るく朗らかな性格をしており、どちらかというとウルの性格に近い。

 

しかし、明るさという面ではクルミの方が上をいくものがあり、この屋敷のムードメーカー的な存在を担う。

 

また、実力としてはルカには及ばないものの、第6位階の魔法を扱える、魔力系魔法詠唱者である。

 

その力を生かし、ルカや黒の剣、フォーサイト、そしてレイナースと共に屋敷の警護に当たることが多い。

 

しかし、それは業務としてはおまけ程度の者であり、彼女が力を入れているのは別にある。

 

それは作物を育てることであり、観賞用の花から始まり、野菜や果物に至るまでの栽培が主である。

 

別に誰に命じられたわけでもないが、ツアレ達メイドが来てからというもの、家事全般を担う必要性がなくなったため、この位置に落ち着いているのだ。

 

本人としては、業務が減ったことを心の底から喜んでおり、ツアレ達に日々感謝している。

 

 

この屋敷で初めての現地人であるクレマンティーヌは、ここにいる者たちの中でも異例の入居者である。

 

何せ、唯一ウルに心も体も精神も全てを屈服させられたのが始まりだからである。

 

当初は、ウルが祖国が降臨を待ち続けた神、プレイヤーであったこともあり、圧倒的なまでの恐怖心をその身に抱いていたが、次第にその感情は薄まり、今では尊敬はあれど、恐怖心はない。

 

それは、従属神であるルカやクルミの存在がとても大きいが、ウルも比較的フレンドリーに関わってくれるため、巨大な恐怖心を解かされたのである。

 

また、ルカに対しては並々ならぬ感情を抱いており、『この世で唯一ウルを制御できる人』として、信仰にも似た雰囲気を漂わせている。

 

そんなクレマンティーヌは、今は何とカリンシャの教会で聖女として働いている。

 

ビックリである。

 

本人としては、今まで殺してきた冒険者やその他人々に対する罪滅ぼしの意味も込めての選択であった。

 

祖国であるスレイン法国での、人権無視にも近い苛烈な扱いを受けていたため、彼女は自らの精神を守るために、サイコパスを演じていた部分があった。

 

しかし、この屋敷に来てからはそのようなストレスが一切なく、それが次第に過去の自分の過ちへと向き直る時間を与えた。

 

もちろん、許されるべきことではないと本人も自覚しているが、ルカからの勧めもあり、今後は迷える人々の役に立ちたいということで活動に勤しんでいる。

 

 

ツアレは、ウルに特別な感情を抱いている。

 

それは恋であり、ツアレが初めて好きになった男性である。

 

ウルは屋敷を開けていることが多いため、会える機会は少ないが、ツアレにとってはそれが大きな枷になることはない。

 

それは、この屋敷での生活が物語っている。

 

自身と同じ境遇を持つ仲間や、ルカやクルミといった信頼できる上司的存在。

 

そして、長い間会うことのできなかった妹、セリーシアとの生活である。

 

家畜以下の扱いを受けてきたツアレにとって、屋敷での生活はまるで天国であった。

 

まともな仕事に、美味しい食事、十分な睡眠と休息が与えられ、これ以上にない幸せを噛みしめている。

 

最近では、妹や屋敷の住民と一緒であればカリンシャの街を歩くこともでき、『白銀の館の人』ということで街の人からも一目置かれていることが、ツアレの心の闇を薄める結果となっている。

 

しかし…。

 

もしわがままが通るのであれば…。

 

ウルと結婚…とまでは言わない…。

 

妾でも何でもいいから、自分の全てを救ってくれた、ウルとずっと一緒に暮らして、子どもが欲しい…、と思っていたりする。

 

 

ツアレと同じ娼館から助け出された11人の男女は、屋敷で専属のメイドとして生活している。

 

彼ら彼女らの仕事は、屋敷内の一般的な家事全般である。

 

掃除、洗濯、調理から始まり、物品や消耗品の管理など多岐に亘る。

 

屋敷の統括であるルカの下、日々勤しんでいる。

 

とはいっても、一日の労働や休憩、休日に至るまで、良い意味で徹底されているため、むしろ楽しさすら見出している。

 

ツアレと同様に、地獄のような日々を送っていたこともあり、何の不満もなく生活している。

 

月に1度の給料日は、最初は受け取るのに後ろめたさもあったが、屋敷での生活費は適切に徴収する…というルカの言葉もあり、今では嬉々としてそれを受け取っている。

 

外出して食事や遊びに使う者もいれば、アクセサリーなどの物品を購入するもの、せっせと貯金する者など多岐にわたるが、それぞれが好きなように使っている。

 

また、それぞれが抱く恋愛感情も様々で、異性メイド同士で付き合っている者もいれば、フォーサイトや黒の剣のメンバーと恋仲寸前の関係を築いている者もいる。

 

加えて、数人は、ツアレと同じようにウルの寵愛を受けたいと考えているものもいるのだとか…。

 

ちなみに、ウルはこのことに全くと言っていいほど気が付いていない…。

 

そのことを、作者は酷く憤慨しているのだとか…。

 

 

黒の剣の四人、ぺテル、ダイン、ルクルット、セリーシアは、紆余曲折ありながらも、今はカリンシャでゴールド級冒険者として活動している。

 

月の半分は屋敷の警護に、もう半分は周辺のモンスター退治や採取や警護の依頼に勤しんでいる。

 

また時折セリーシア抜きで依頼を受けることもあり、その際にはモンスター退治は請け負わないものの、3人パーティでの立ち回りにも慣れてきた。

 

セリーシアが時々一緒でないのは、もちろんツアレとの時間を大切にしているからである。

 

漆黒のモモンからの情報で、ツアレが無事に救出されたことを知った日、セリーシアは自身が女性であることをメンバーに告げた。

 

しかし、メンバーはそんなことは知っていたとばかりに笑っていたため、セリーシアは酷く驚いたものである。

 

そんなセリーシアであるが、もはや自分を男性と偽る必要もなくなったため、女性的な服装や装備をすることも増え、単発だった髪の毛も、ショートボブの似合う可愛らしい女性へと変貌していた。

 

髪が伸び始めると、ツアレとのそっくり具合は増し、髪の色が茶色でなければ、中々に見分けるのが難しいといわしめる程であった。

 

さて、黒の剣でもう一人突出してあげるとすれば、ルクルットである。

 

女性に見栄えなくアタックする軟派な男であったが、屋敷にいる女性、特にメイドたちの悲惨な過去を聞き、彼は誰よりも彼女らの心のケアに当たった。

 

下心などまるでない、黒の剣のメンバーも驚きを隠せないほどの献身的な支えであったのだが、それが功を喫して、今は1人の女性メイドと恋仲の関係になっている。

 

ルクルットの驚くべきところのもう一つは、『恋人ができると一気に一途になる』という点で、黒の剣のメンバーを驚かせたのも無理はない。

 

恐らく、結婚に至るのも時間の問題であろう。

 

 

帝国四騎士の一人であったレイナースは、自らの全てをウルにささげるためにやってきた。

 

命以外であれば、なんでも捧げるつもりであった。

 

それこそ、身体で奉仕することも厭わない、という思いであったが、ウルにそんなつもりがないことを知ると、意外にもあっさりと手を引いて見せた。

 

もちろん、ウルがレイナースを求めれば、レイナースは単純に好意でそれに応じるくらいにはウルに愛を抱いている。

 

自身の人生を台無しにした呪い、それを一回の魔法で全てを解決して見せた男である。

 

レイナースが只ならぬ想いを寄せるのも無理はない。

 

しかし、レイナースは割り切った。

 

彼の傍で共に生活できるのであれが、別に何でもいいか、と。

 

そして、そんなレイナースが屋敷で担う仕事は、屋敷の警備に加えて、クーデリカとウレイリカという幼い女の子の教育兼保護である。

 

特にアルシェが外で冒険者として活動している際に彼女の存在は必要不可欠で、クーデリカとヨーデリカの心の拠り所となっている。

 

さしずめ、もう一人のお姉さんである。

 

 

フォーサイトのメンバーが、冒険者としての活動を再開したのは、つい最近のことである。

 

ウルが、アインズさんから『もうナザリックが表に出始めるので、あの4人をある程度自由にさせてかまいません』という報告を受けたからである。

 

フォーサイトには『もうええやろ』と適当な感じで告げたのだが、何かを察した4人は、ウルに感謝しつつ、メンバー同士で相談し合った。

 

正直、生活に関して困ることは何もない。

 

ずっと屋敷でダラダラしていても、衣食住は確保され、加えて安全まで確保されている。

 

しかし、この屋敷で何もしていない者がいないのもまた事実。

 

4人は食っちゃ寝の生活、というのを早々に放棄した。

 

その上で、冒険者として活動するのには一抹の不安もあった。

 

アルシェである。

 

妹との時間も大切にしつつ、少しでもウルや屋敷のために貢献したいという気持ちを抱いていた。

 

そんな風にして悩んでいた際、ルカから齎された提案が、もう一つの冒険者チーム、黒の剣と交代交代で依頼を受けてくるというモノであった。

 

確かにそれならば、月の半分は屋敷に滞在でき、ルカの話では警備や雑務の人でも欲しいから助かる、というモノであった。

 

4人はその提案を受け入れ、ワークライフバランスが整った環境で生活し始めた。

 

冒険者登録に関しては、ウルの推薦を含めてもシルバーからの再スタートであったが、彼らならば即座にミスリルに返り咲き、もしかしたらオリハルコンに至るのも夢ではないだろう。

 

クーデリカとウレイリカは、充実した毎日を送っていた。

 

以前よりも姉であるアルシェと過ごす機会が増えただけでもうれしいのに、この屋敷には色々な人がいる。

 

加えて、自分たちをこれでもかとかまってくれるのだ。

 

両親がいた屋敷にいたころは、軟禁状態にも似た環境であったため、2人はまるで遊園地に来ているかのような幸福感を味わっていた。

 

ウルは、両親と引き裂いた後ろめたさから、2人のことを非常によく気にかけていたが、特に不安な様子を見せなかったので安心している。

 

ルカを筆頭に皆がよく関わっていたことが幸いしたのだろう。

 

毎日のように笑顔にあふれ、屋敷の中を探検したり、庭を走り回ったりして遊びまわっている。

 

 

白銀の館、と言われる屋敷は、ウルを筆頭にカリンシャの街に十分に受け入れられ、今ではカリンシャの街に来たらここは絶対に見に行くべきところ、とまで言われるようになった。

 

加えて、兵士団長や冒険者受付嬢のセリン、その他ウルやルカなどと面識のある者が訪れることも多く、他の街からの来訪者も多い。

 

…ちなみにここだけの話、聖王女一行が一度訪れた際には、圧倒的な女性の多さに驚いただけではなく、ルカとクルミの類まれなる美貌とウルとの関係性(同郷)を知り、カルカが非常に、そう非常に焦りと不安を抱いたのは言うまでもない…。

 

そして、そんなカルカの焦りと不安を取り除くのに、ウルはこれ以上にないフォローと時間を割くことになった。

 

しかし、屋敷の住民一人一人の出会いと屋敷に住むことになった経緯を知ったカルカが、より一層ウルに心酔していくことになったことを、ウルは気付くことができなかった。

 

 

ウルがカルカと恋仲になった日から、3か月以上にわたって、毎晩のように伝言でやり取りをしていた。

 

話の内容は、他愛もないものばかりであったが、時折聖王女としての愚痴や、災厄の大魔皇の話に加え、最近王国と帝国で話題に上がっているアインズという魔法詠唱者の話をすることもあった。

 

加えて、王国と帝国の通年の戦争の話にもなったりすることもあり、互いが互いに相談し合ったりすることも多かった。

 

また、とある日にカルカが一行としてウルのカリンシャの屋敷を訪れてからというモノ、伝言の頻度は毎晩1回から一日3回にまで増え、5回以上伝言のやりとりをすることもあった。

 

…なぜそのようなことになったのかは、察していただきたい。

 

 

そんなカルカは、時折ウルに宮殿へ転移するようにお願いすることがある。

 

基本的には夜間の、執務が終わり、夕食を取った後に会うことが多かったが、今日は朝からウルに来てもらっていた。

 

休みを取って、一日中ウルと2人きり…というわけではなく、同じく休みを合わせたケラルトとレメディオスも一緒であった。

 

そんなウルは、現在宮殿前広場でレメディオスと模擬戦…というよりもレメディオスの修行に付き合っていた。

 

他にも観戦している聖騎士団のメンバーが多いが、皆は一様にざわつきを見せている。

 

それもそのはず。

 

聖騎士団団長として聖王国最強と謳われていたあのレメディオスが、ウルにまるで子どものように扱われているからである。

 

「だー!くそ!!何で当たらないんだ!!!」

 

レメディオスの動きに問題はない。

 

それどころか、以前よりもより洗練されたものがある。

 

勿論それは時折行っていたウルとの修行の成果であるのだが、それでもウルには一向に攻撃が当たらない。

 

それどころか、ウルの持っている木剣は、何度もレメディオスの鎧や頭、足に手と言った場所に『コツンッ!』といった具合で当たっている。

 

実戦であれば、もう何度死んでいるのだろうか?

 

ウルの力の一端が垣間見える。

 

「動き自体は悪くないですが…正面的過ぎますね…」

 

「はぁ…はぁ…正面突破こそ、せ、聖騎士の矜持だろ!!!」

 

ウルの言葉に、レメディオスは息を切らしながら反論して見せる。

 

「確かにその考えは嫌いじゃないですよ…。基本的に私もそうですからね」

 

「そ…そうか…。うん、そうだよな!!」

 

レメディオスはどこか嬉しそうに口を開く。

 

「でも、時と場合ってものがありますからね…」

 

「…?どういうことだ??」

 

レメディオスは何一つ理解していなさそうであった。

 

「正面突破で難しそうなら…時には後ろから刺すことも必要だってことですよ…」

 

「う、うーむ…。私には難しいな…」

 

「それは鍛錬次第ですよ…。身に着けたければ、お付き合いしますよ…」

 

ウルの姿が掻き消える。

 

レメディオスは一瞬目を見開くが、視界に入ったのはウルの姿ではなく自身の首の後ろから伸びる木剣であった。

 

「…こんな風にね…」

 

レメディオスは視線だけを動かし、ゆっくりと後ろを向く。

 

一体いつの間に後ろに移動したのか…瞬間移動といっても差し支えない速度であった。

 

「ま、参った…」

 

レメディオスは持っていた木剣をゆっくりと手放し、地面へと落ちる。

 

カランッという音と同時に、聖騎士団の面々が拍手と歓声を上げた。

 

 

レメディオスを子ども扱いする程の剣技をもつウルであるが、それはケラルトも同じで、信仰系魔法において大きく上回る実力を有する。

 

ケラルトは、若くして神官団団長を務めているが、それは第5位階の信仰系魔法を扱えるからに他ならない。

 

また、ローブル三姉妹の一人に数えられ、政策面では優しすぎるカルカを支え、大きく貢献している。

 

そんなケラルトは、最近まで自身の気持ちを必死に押し殺してきた。

 

それは、ウルへの好意である。

 

行ってしまえば、カルカと同様に一目惚れであった。

 

生まれて初めての感情であった。

 

それこそ、その感情の赴くままにウルにアタックしたかったのだが、一つ問題があった。

 

それは、敬愛するカルカもまた、ウルに一目惚れをしてしまったことである。

 

しかも、自身よりも深く、まるで狂信ともとれる感情を抱いていた。

 

ケラルトは、ローブル三姉妹の中では一番頭が回る。

 

故に、理知的な考えに至るのも容易である。

 

一目ぼれなど、時間が経てば和らぐ。

 

恋愛経験は皆無であったが、その程度の知識は持ち合わせていた。

 

だが、和らぐことはなかった。

 

そもそも一目ぼれがそんな簡単に感情として失われるものでもないのだが、よくないのはウルの性格と行動である。

 

圧倒的な実力を有し、類まれなる功績をあげながらも、それを一切盾にしない。

 

市民に対し差別も軽蔑もしないどころか、まるで対等、時には上に見ることすらあった。

 

それどころか、名誉も地位も欲しない。

 

ただ純粋に平和を望み、そのために戦う。

 

その力は弱きもののために振るう。

 

そんなウルに、ケラルトは次第に恋心を大きくしてしまったのだ。

 

…しかし、最近ではその感情も徐々に表に出し始めていた。

 

カルカに相談したからである。

 

ウルへの好意は、以前からカルカの知るところであったが、きちんと相談したのは初めてである。

 

その上で、カルカから側室や妾を提案された。

 

カルカとしては、正妻の座(すでに嫁入りが確定しているかのよう)を譲るわけにはいかなかったが、あれだけの力を持つウルを自分一人でどうにかできるとは考えていなかったのだ(もちろん自分だけ愛してくれるのであればそれにこしたことはないと思っているのだが)。

 

ケラルトは、カルカに再三確認をした上で、そのような関係になれるようにウルに猛アタックをしていくことになる…。

 

だからこそ…。数日後に発覚するウルの決意を、許すことなどできなかった。

 

 

さて、ウルが自身の屋敷に帰る少し前…。

 

カルカの自室のバルコニーにて、ウルとカルカはワインを嗜んでいた。

 

第三者視点からすれば、両者とも整った顔立ちのものが並んで夜空を眺めながらワインを傾けるさまは、非常に美しいものに映っているだろう。

 

カルカは、ワインを少し呷った後、酔いが回ってきていることを確認しながら、ウルの横顔を覗く…。

 

美しすぎる…。

 

最初に抱いた感情はそれだった。

 

月光と夜空の光が反射するようにして、さらにウルの顔を照らす。

 

…もしこの男性が神である、と言われれば、自分は信じ込んでしまうほどに、その美貌と力に酔いしれていた。

 

もう抗うことなど、できない程に…。

 

大分酔いが回ってきている。

 

しかし、心地の良い酔いであった。

 

一瞬足元がふらつく。

 

自身の足で支えようと力を入れるが、その必要はなかった。

 

ウルが、カルカの手に腰を回して支えてくれたのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

艶かしい声であった。

 

腰にウルの手の感触を感じる。顔が熱くなっているのを感じる。

 

カルカは、そんなことも気にせず、ウルの顔を上目遣いで覗き込む。

 

そして…唇を重ねてしまった。

 

自分の意思であったが、反面身体が勝手に動いてしまった。

 

無意識に目を閉じ、つま先立ちで必死にウルの唇を捉える。

 

ウルが支えてくれているため、ふらつくことはない。

 

…暫く唇を重ね、ゆっくりと離す。

 

瞼を開く。

 

目の前には美しい顔立ちのウルが、それでいて顔を赤く染めたウルが視界に映る。

 

ゾクッと下腹部がうずくのを感じる。

 

キスをしてしまったという感情もあるが、なにより、ウルの顔を真っ赤にできた高揚感から来るものであった。

 

カルカはそんな気持ちを噛みしめながら、小さく笑いかけて口を開く。

 

「もう…お付き合いしていますので…よろしいですわよね…?」

 

「カルカ様…」

 

…今度はウルに唇を奪われた。

 

思わず大きく目を見開いてしまった。

 

「んっ…///」と、吐息とも喘ぎともとれるような音が口から漏れる。

 

先ほどよりも長く、唇が重ねられる。

 

ゆっくりと剥がされた唇は、ひどく熱を持っていた。

 

「ええ。かまいませんとも…」

 

「ウル様…」

 

カルカはゆっくりと、それでいてしっかりとウルの背中に手を回して抱きしめる。

 

ウルも支えていたカルカの腰を、抱き寄せるようにして力を籠める。

 

極上の幸せを、カルカは感じていた。

 

…故に、思いもしなかった。

 

数日後…ウルから手紙で…別れを告げられてしまうなどということは…。

 

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