【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第22話 苦渋の決断

ナザリック地下大墳墓、スイートルームの一室。

 

「…詳しく説明していただけますか?」

 

ウルは少し、いや大分怒気のこもった声を、目の前の2人に向けて発する。

 

「…やはり、賛成しかねますか?」

 

その片割れ、アインズが低く唸るようにして口を開いた。

 

「いや、大方の流れはいいと思う…。同盟国として戦争に参加するのも、ナザリックが建国するなら必要だろう…。戦場であるカッツェ平野も、俺とアインズさん戦うならもってこいの場所だ…しかし…」

 

「…虐殺には賛成しかねる…と?」

 

ウルの言葉を補うようにして、アインズが続けた。

 

「恐れながらウル様…。今回は罪なき民を殺すのではありません。戦場に来ている兵士を殺すのです。戦場に来るということは、死を覚悟しているということ。戦場で命を落とすのは、当たり前のことかと…」

 

デミウルゴスがウルを説得するようにして口を開く。

 

…そんなことはわかっている。

 

デミウルゴスの言うことは正しい。

 

戦場にいる以上、死はとなり合わせだ。

 

戦いとはそういうものである。

 

しかし…。

 

「王国は…徴兵制だ…。普段は民として生きている者達が、半ば強制的に戦場に引っ張られてくる…。いわば一般人…。それを『覚悟を以て戦場に来ている』とするのは、少々広義的すぎる解釈じゃないのか?」

 

「確かに…それはそうですが…」

 

「我々は、王国に書状を送りました。エ・ランテル近郊の土地は、元来ナザリックが有する者であると。もちろん、それは真っ赤な嘘ではありますが、国を建国するにあたって領地は欠かせません。…エ・ランテル近郊を割譲するのであれば、戦争には参加しない…。それを伝えたうえで、王国は断ったのです。それに我らが参戦しなくとも、この戦争は毎年起こっているもの…。戦死者など、勝手に発生いたします」

 

アインズが言葉に詰まったのを見て、デミウルゴスが代わりに口を開く。

 

なるほど、理にはかなっている。

 

とんでもない当てつけではあるが、端から戦争ではなく、交渉を持ち掛けた。

 

そして断られた。

 

だから武力行使…。

 

なるべく平和的に、という思いをデミウルゴスも酌んでくれている。

 

というより、デミウルゴスのカルマ値を考えれば、平和的過ぎる措置である。

 

「…加えて、やはりアインズ様のお力を周辺国家に知らしめるには、戦争という場がもっとも効果的…。これだけは、揺るぎません」

 

「そのために、超位魔法を用いて何十万という兵を殺す…か」

 

「デミウルゴスよ、ウルさんと私の戦闘だけでは不足か?」

 

アインズが、デミウルゴスに問いかけるようにして言葉を発した。

 

「恐れながら、不足と存じます。ウル様のように実力あるモノであれば、それだけでアインズ様のお力を理解することも出来ましょう。ですが、相手は力のない雑魚ばかり…その者達の基準に立って強さを示すとなれば、やはり必要なことかと…。そして、そんな驚異的な力を持つアインズ様を、御止めになるウル様…。ここまでの構図で、アインズ様、ウル様の御力は確実に周辺国家が理解できるのです」

 

デミウルゴスの完璧な解説に、アインズもウルもぐうの音も出ないと言った様子であった。

 

アインズがウルに持ち掛けた『PVPしたいですね!』が発端とはいえ、デミウルゴスの進めるナザリックを国家として成り立たせる案と同時にとなると、これほど自然な形はないだろう。

 

しかも、これはアインズが一方的に仕掛けるものではない。

 

あくまで、王国と帝国の戦いなのだ。

 

その上で、帝国側の同盟国としてアインズが赴くのだ。

 

それも帝国の皇帝、ジルクニフの提案であった。

 

『もっとも強力な魔法で戦端をきる』

 

つまるところ、たとえ酷い損害を王国側に与えたとしても、国家としての非難は帝国に向けられる。

 

しかしなれど、それを齎したのはアインズであるため、ナザリックの力の誇示になる。

 

そして、抗えないほどの圧倒的なアインズというアンデットに対し、たった一人で互角に渡り合える唯一の存在…ウル。

 

ここまでが、デミウルゴスの考えている構図である。

 

ウルとの友好を取ることを大事にしているアインズが、今回全面的にウル側に着かないのは、これがナザリックの利益に大きく貢献するからである。

 

故に、ウルとの交渉の際に、中止ではなく、ウルとの戦闘のみで片を付けようとした。

 

しかし、アインズという力を正しく理解されなければ、この作戦も水の泡である。

 

そんな風に頭を捻らせていたアインズであったが、ウルが重い口を開く。

 

「わかった…。どうやらこれ以上の策はないってことだな…俺も思いつかない」

 

「恐れ入ります…」

 

デミウルゴスが深々と頭を下げる。

 

「ただ、『黒き豊穣への貢』…これを力なき兵に放ち、仮にエ・ランテル近郊まで攻め入ったとしたら、…戦死者は50万を超えるだろ…それはやりすぎだ…。そこで一つ提案なんだが…」

 

ウルは一つ大きく息を吸って、再度口を開く。

 

「…発動時の戦死者は致し方ないとしよう…。その罪は俺も負う…。だが、それによって生み出される黒い子山羊たちの攻撃、追撃は許可できない…というより、俺が倒して、そのままアインズさんと戦闘…というのはどうだ?…戦死者は5万程度に収まるはずだ」

 

「なるほど…王国軍のピンチに颯爽と現れる正義の味方…素晴らしい提案だな…」

 

「なんと…そのような考えには至らず…申し訳ありません。それに、そのようになされれば、周辺国家に対し、よりアインズ様とウル様が敵対していると誤認させることができます!」

 

デミウルゴスは感嘆にも似た感情を表す。

 

「…んで、そこまで敵対していたのに、今度は手を組む…。そうすれば、最初からグルだったとは誰も思わない…てことか?」

 

「流石はウル様…その通りでございます」

 

ウルは思わず苦笑いを浮かべる。

 

「だが、俺はこのまま聖王国に居るわけにはいかないだろ?」

 

「はい…。ウル様には聖王国で培ったものを全て捨てていただきます。ですが形だけです。聖王国のウル様に対する想いが本物であるならば、きっと元の鞘にお戻りになることができるでしょう…。実際に、作戦としてはアインズ様は全てを捨てて自分に立ち向かってきたウル様を思い、聖王国に矛を向けない…。という書状を出していただく予定です…。しかし、もし仮に、ウル様にあれだけのご慈悲を受けながら、その上でウル様を突き放すようなことがあれば…その際はこのデミウルゴス、相応の対応をご提案したいと考えております!」

 

そこまでしなくても…とウルは思いながらも、心がズキリと痛むのを感じる。

 

理由は明白だ…。

 

だが、これを頭ごなしに辞めさせるのは難しい。

 

ナザリックとの関係性の悪化にも繋がりかねない。

 

そうすれば、そちらの方がまずいことになる。

 

その感情を隠すかのようにして、ウルは再度アインズとデミウルゴスと話を煮詰めることになった。

 

 

 

 

毎年、作物の収穫時期になると行われる、王国と帝国の戦争。

 

その戦争にアインズ達ナザリック勢が参戦したきっかけは、墳墓にワーカーが侵入したことから始まった…ということになっている。

 

実際には、ナザリック勢のマッチポンプであり、先日モモンとナーベが帝都にいたのはその作戦の一端である。

 

ワーカーの侵入に際し、ナザリックは帝国側に謝罪を求め、それを受け、皇帝ジルクニフが直々にナザリックに赴いた。

 

その際にジルクニフがアインズに対して感じたものは、『魔王』と『魔王の城』であった。

 

故に、思考のミスリードが始まる。

 

これが、最近話題になっている『災厄の大魔皇』ではないのかと。

 

ジルクニフは決断した。

 

帝国、王国、法国、聖王国、評議国、竜王国等からなる大連合を以て、この魔王を倒さなければならないと。

 

もちろんそこに、漆黒のモモンと白銀のウルは欠かせない…。

 

しかし、各国が危機感を持たなければ始まらない。

 

災厄の大魔皇(実際には違う)に対する認識は、国によって大きな差がある。

 

聖王国は、ウルが滞在していることに加え、カルカとの繋がりも深かったことから、当初から警戒を高めていた。

 

王国は、最初こそ眉唾物だとあまり警戒していなかったが、先の王都襲撃によって、国家として対策を講じ始めた。

 

帝国は、先述した通り、ワーカーのナザリックへの侵入を機に、ケツを叩かれた様に対応を進めることとなった。

 

問題なのは、法国と評議国、竜王国であった。

 

何せ情報がない。

 

法国が『破滅の竜王と捉えている』と報告を受けているくらいである。

 

竜王国は自国の防衛のことで手いっぱいで考える暇はなく、評議国はそもそも人間種が少ないことに加え、殆どの実体がつかめていない。

 

…だからこそ、ジルクニフは決断した。

 

毎年行われる王国と帝国の戦争に、アインズを引っ張り出し、彼の持つ最高火力の魔法を王国兵に向けて放ってもらうことを。

 

さすれば、アインズの力を確認することも、各国が危機感をもって連合への発起、加入を打診してくれるはずであると。

 

…ジルクニフの決断は、全くもって正しいモノであろう。

 

そう、前提条件が正しければ…の話であるが。

 

後に、本物の災厄の大魔皇が出現し、それによる戦いが勃発した際には、このジルクニフの判断は、『白銀のウル』と『魔導王陛下』の両者を失っていたかもしれない、大失策と批判されることとなるのだが…それはまだ先の話…である。

 

 

ウルは、ナザリックから屋敷へ帰還すると、今までにないほど頭を悩ませていた。

 

自室の椅子に座り、机や虚空に向かって何度も視線を動かし、ため息をつき、考える。

 

事の発端を辿れば、いつぞやかアインズから提案された、『PVPしませんか?』であった。

 

アインズの気持ちとしては、仲間内で楽しむPVPという感覚であり、ウルも嬉々としてそれに乗った。

 

ただ、問題点が一つあった。

 

それは、『ここがゲームの世界ではない』ことと、『両者の力はこの世界では神にも魔王にも等しいものである』ことであった。

 

何の前触れもなく、適当なところでアインズとウルが戦えば、たとえ両者とも本気ではなく、じゃれ合いのような戦闘であったとしても、現地民からすれば魔王同士の戦いに映るだろう。

 

そうなれば、平和的な世界を作るどころか、全世界を敵に回すことにもなりかねない。

 

挙句に、世界滅亡にまで発展する可能性もあるであろう。

 

だからと言って、ナザリック地下大墳墓で行えば、大なり小なり被害は出る。

 

それをアインズは良しとしなかった。

 

…その上でアインズはデミウルゴスに相談したのだ。

 

『ウルさんと模擬戦がしたい…。その最適な場を作れ』…と。

 

その結果がこれである。

 

上記内容だけ見れば、デミウルゴスの拵えた舞台はこの上ない最高のものであった。

 

ウルとアインズが戦うことができるだけでなく、それを足場に周辺国家への牽制、国家の樹立、果てはウルとアインズの力の証明…。

 

文句のつけようがない…。

 

唯一、ウルとアインズが苦言を呈したのが、『戦死者』であるが、これも実のところ予想される結果だけ見れば普段と変わらないものになった。

 

王国と帝国が毎年戦争を起こして出している戦死者は、両軍合わせて1‐5万人…。

 

それ以下の小競り合いで終わることもあれば、些少の泥沼化で戦死者が増えることもある。

 

当初、デミウルゴスが提案していた策でいけば、何十万人もの死者を齎すものであったが、ウルの提案でそれをかなり減少させる方向に持って行けた。

 

いうなれば、『アインズが介入しなくても、その程度の戦死者はでる』というモノであった。

 

「…所詮は偽善…ってことか…」

 

全てを丸く収めることなどできはしない。

 

強大な力を持っていたとしても、所詮ウルはただの元一会社員なのだ。

 

自分がデミウルゴス並みに頭が回るのであれば、きっと誰も死なずに平和を実現し、且つ自身もナザリックもこの世界に受け入れてもらうような作戦を立案できたかもしれない。

 

だが、ウルにそのような頭脳はない。

 

そもそもの始まりは、ウルが『災厄の大魔皇』などというホラを吹いたことだ。

 

つまりは、元をただせばウルが元凶ともいえる。

 

「もしこれが物語やゲームなら…裏ボスは俺だな…」

 

思いっきり皮肉を口にしながら、ウルは大きな決断を下す。

 

そして、その決断を…、2通の手紙にしたためた。

 

嘘と真実が混じった、そんな手紙を…。

 

 

王国と帝国の戦争当日…。

 

ウルはアインズから開戦日を告げられ、ナザリックへと転移した。

 

ウルはナザリックの地表で胡坐をかいて待機する。

 

そろそろ手紙が両者に届いている頃であろうか…。

 

ウルはふと胸元を確認するように俯く。

 

そこに、アダマンタイト級のプレートはない。

 

次に後ろ腰を確認する。

 

そこに、カルカからもらった短剣はない。

 

…1通の手紙と共に、宮殿宛に送り付けたからである。

 

全てはこの戦争に参加し虐殺を止めるため、且つ聖王国を巻き込まないため。

 

表面的には本当に英雄的行動である。

 

自身が築き上げた全てを、かなぐり捨ててでも虐殺を、強大な力を止めようというのだから。

 

だが実際には違う。

 

全てはひどすぎるほどのマッチポンプ。

 

それが酷くウルの心を締め上げる。

 

いくら正義の味方ムーブが好きでも、いくら悲劇のヒーローに憧れていようとも、実際にそれを感情のある人間に向けて行うともなれば、心情は変わってくる。

 

「絶対、ルカもカルカ様も怒るだろーなー…。最低だ、俺って…」

 

遥か昔のアニメで発せられた、名言とも迷言ともとれる言葉を呟く。

 

そして、伝言が飛んでくる。

 

『超位魔法の発動に入ります…』

 

その伝言に、短く返答を返して、即切する。

 

ゆっくりと立ち上がり、一気に上空へと飛躍し、アインズの元へと飛んでいった。

 

 

 

帝国との国境に接する王国領の東端、カッチェ平野。

 

帝国軍勢から登場したアインズ・ウール・ゴウンと多数のデス・ナイトに、王国側は動揺を見せる。

 

「レエブン侯!見ましたか!!そして感じましたか!!!」

 

王国の元オリハルコン冒険者チームのリーダー、ボリス・アクセルソンは、馬上から訴えかける。

 

レエブン侯の隣には、ガゼフ・ストロノーフもいた。

 

2人は先の言葉を聞き、再びアインズ・ウール・ゴウンへと視線を戻す。

 

と同時に、アインズ・ウール・ゴウンを中心に、巨大な、見たこともない魔法陣が形成される。

 

その魔法陣は、後方に展開する王国軍主力からでも容易に捉えることができる程であった。

 

レエブン侯は、驚愕の表情を浮かべる。

 

「あ、あれは!?…我々は一体、何を相手にしているのですか!?」

 

レエブン侯は少しの間を空け、ガゼフへと視線を向ける。

 

「私は自軍に戻ります…!!ガゼフ殿は、陛下の守りに…そして、すぐに撤退を!!」

 

「ああ、それも轡を並べての撤退ではなく…」

 

「勿論です…、跋扈の如き撤退…いえ、敗走すべきです!!」

 

レエブン侯はそう言い残し、ボリスの乗る馬へと同乗する。

 

「ではレエブン侯…。無事を祈る!」

 

「あなたこそ…、ガゼフ殿!!」

 

レエブン侯とガゼフは、ここでいったん別れることとなった。

 

 

アインズは、超位魔法陣の中で、静かに佇んでいた。

 

「(…これから沢山の人間が死ぬというのに、何のためらいもない…)」

 

アインズは心の中で、自身の感情をなぞりながら、心の中で呟く。

 

「(もし…もしウルさんが一緒でなかったら…私はどれほどの人間を虐殺することになっていたのだろうか…)」

 

人間としての感情の欠如、そしてナザリックへの利益…。

 

どう考えても、先のウルの提案を出していたとは考えにくい。

 

手に握る課金アイテム…砂時計のような形をしたそれは、超位魔法を発動する時間を短縮する者であった。

 

「(…ウルさん、どうか許してください…!)」

 

課金アイテムを砕く。

 

瞬間、巨大な魔法陣が大きく広がる様な素振りを見せる。

 

アインズは手を大きく広げ、そして叫んだ。

 

「『黒き豊穣への貢』…イア・シュブニグラス!!」

 

発動と同時に、黒い靄のようなものが戦場を駆け巡る。

 

帝国軍へと突進していた王国軍に襲い掛かる。

 

刹那、王国軍が、操っていた糸が切れたように倒れこむ。

 

1人や2人ではない…一個大隊全員である。

 

…死体の山が形成される。

 

それを見た帝国側は、酷く困惑し、恐怖を滲ませている。

 

今回の戦争における、アインズの案内役である四騎士が一人、ニンブルも、酷く恐怖を表している。

 

「どうした…ニンブル殿…」

 

「ひっ…。い、いえ…。素晴らしい魔法でした…。まさか…まさか、7万人を…一瞬で…」

 

ニンブルは一度持ち直した平常心を、再度恐怖へと変えていく。

 

「ふっ…はっはっはっ!!!」

 

「な、何かご無礼を!?」

 

アインズが不敵な笑い声をあげたことで、ニンブルは酷く困惑する。

 

「いやいや、違う違う…。素晴らしい魔法でした…そういったな…」

 

「は、はい…」

 

「そんなに警戒しないでくれ…。ただ、私の魔法はまだ終わっていないぞ…」

 

「…えっ…」

 

ニンブルは、アインズの言葉の意味を理解できず、疑問を投げかける。

 

「これからが本番なんだ…黒き豊穣への母神への贈り物は…仔供達という返礼を持って還る…可愛らしい仔供達をもってな…」

 

ニンブルは、何一つ返答できず、表情を震わせる。

 

そして、理解する。

 

先のアインズの言葉の意味を…。

 

先ほど死した軍勢の上空に、黒い球のようなものが形成される。

 

それは徐々に大きくなり、弾けて見せる。

 

死体を包み隠すようにして地面を覆うと、それはおぞましき化け物を生み出す。

 

巨大な漆黒の身体を持ち、いくつもの巨大な歯を覗かせる口と、多数の触手を携えている。

 

レベル90を超える、黒い仔山羊であった。

 

それが、5体である。

 

そのモンスターの強大さに、ニンブルは足の力を失いかける。

 

他の帝国騎士たちも、カチャカチャと鎧を擦らせ震えている。

 

そして、アインズの指示のもと、黒い仔山羊たちが王国軍へと迫る。

 

…もはや戦争ではない…、大虐殺の始まりであった。

 

 

カリンシャ、ウルの屋敷…。

 

その大広間で、ルカは先ほど届いた手紙を開き、立ち尽くしていた。

 

内容を読み上げて、絶句する。

 

確かに予兆はあった。

 

数日前、何かに悩み、落ち込んでいるような雰囲気をウルが見せていたからだ。

 

気になって聞いてみたが、特に答えてはくれなかった。

 

色々と予測し、考えてはみたものの、原因はわからなかった。

 

なぜ、自身に伝えなかったのか…。

 

その理由が書かれているわけではなかったが、ルカは理解してしまった。

 

「あの…バカ…ッ!」

 

そんなルカの元に、クレマンティーヌが近づく。

 

「ルカさん…どうしたの?」

 

ルカの表情が尋常ではないほどに歪んでいる。

 

見たことがなかった。

 

いつも冷静で、頭の良いルカが見せない表情であった。

 

故に、クレマンティーヌは声を掛けた。

 

「…クレマンティーヌ…。至急みんなを集めて…」

 

「え…。うん…でも、なんで…?」

 

ルカは、小さく息を吐くと、苦悶の表情を向ける。

 

「ウルが…ウルがもう…戻ってこないかも…しれない…」

 

 

カリンシャ、城塞内執務室。

 

カルカは、外務大臣が血相を変えて持ってきた小包と手紙を見て、何度もウルに伝言を飛ばす。

 

しかし、プーッという音が鳴り響くだけで、一向に繋がらない。

 

それが更にカルカを苛立たせる。

 

「どうしてッ!!どうして繋がらないの!!!」

 

「カルカ様…どうか落ち着いてください…」

 

「ッ!!これが落ち着いていられますかっ!!!」

 

カルカは、生まれて初めてともいえる怒号を飛ばす。

 

外務大臣も思わず後ずさるほどの覇気であった。

 

執務室の扉が、乱雑に開かれる。

 

入ってきたのはレメディオスとケラルトであった。

 

先のカルカの怒号が聞こえたのだろう。

 

酷く困惑した様子であった。

 

「カルカ様…一体何が…ッ!」

 

「どうしましたか!!カルカ様!!…ッ!そ、それは、ウルの…」

 

ケラルトとレメディオスは、小包から出された物品を見て、驚愕の表情を露にする。

 

「…ウルさんの、冒険者プレートと、短剣…です」

 

カルカは小さく呟くようにして、ケラルトに手を震わしながら手紙を渡す。

 

ケラルトは、無礼を承知でそれを奪い去るようにして取り、黙読する。

 

レメディオスも横目から盗み見るようにして覗き込む。

 

2人の表情が次第に苦悶のものへと変わっていく。

 

「アインズ・ウール・ゴウン…最近話題の…」

 

「ウルと同格だと…!?」

 

「…そのアインズなるものが、帝国側につき王国に対し攻撃を仕掛けるそうです…。ウル様は、それを止めたいと…」

 

カルカは、再度小さく呟いて見せた。

 

「…プレートも短剣も…そして九色の返還も…そのため…」

 

「…聖王国を巻き込むことを恐れて…」

 

ケラルトとレメディオスは、手紙に書かれた内容をかみ砕くようにして口を開く。

 

「…聖王国とは、もはや無関係とすることで…ウル様の単独での行動という意味を込めているのでしょう…。わ、私は…一体どうしたら…」

 

カルカはポロポロと涙を零す。

 

それを見て、ケラルトは目を細めながら、手紙をクシャッと握り潰してしまう。

 

カルカが涙を流す理由は2つだ。

 

1つは、アインズなる魔法詠唱者は、ウルと同格であり、本気で戦えば、相打ちになる可能性が高いこと。

 

そしてもう1つは…、カルカとの婚約を、恋人関係を解消されてしまったことである。

 

「くそっ!!カルカ様!!我々もカッツェ平野に向かいましょう!!!ウルを連れ帰るんです!!!」

 

「無駄です…開戦日は今日…もう、間に合いません…」

 

「ッ!!行ってみなければわからないだろ!!!!」

 

外務大臣の発言に、レメディオスはまるで襲い掛かるがごとく大声を上げる。

 

「…カルカ様…、一先ず、ウル殿の屋敷に参りましょう…。あそこには、ウル様と同郷のルカさんとクルミさんがいます…。きっと彼女たちにも、何か知らされているかもしれません…」

 

 

 

国王軍後方、国王の天幕。

 

アインズが発動した黒き豊穣への貢によって生み出された、黒き仔山羊たちの圧倒的な力を前に、王国軍は撤退を余儀なくされていた。

 

「我々は陽動として、馬に乗って反対方向に逃げるつもりです」

 

兵士でもリーダー格の男が、国王に向かって口を開く。

 

「私も陽動に行きます!あの化け物が目を持っているのかはわかりませんが…この鎧は、良い的となるでしょう」

 

「はぁ…なら、俺もついてってやるよ…」

 

クライムの自殺ともとれる言葉に、ブレインがため息をつきながら呟く。

 

「…お前達…。無事に、エ・ランテルへ戻れ…。お前達が望む、褒美を与えよう…」

 

「それは楽しみですね」

 

国王の言葉に、兵士たちの士気が上がる。

 

「陛下…私はラナー様に助けられた身…褒美を欲するなど…」

 

「…俺の望みとしては、お気に入りの小僧に、この国で最も美人なお姫様を嫁にやってやることですね…」

 

「えっ!」

 

ブレインの望みが、自身に向けられていることを理解したクライムは、大きく目を見開いて驚く。

 

「はっはっは…!かなりの褒美であるな…。その小僧に…貴族位を与えるところから始めなくてはならないな…努力はしよう…」

 

「…これで絶対に生きて帰らないといけなくなったな…クライム君…」

 

国王とブレインの言葉に、クライムは頬を赤く染める。

 

「では陛下…エ・ランテルでお会いしましょう!」

 

「…うむ」

 

ブレインとクライムも、天幕から出て行動を開始する。

 

…その時であった。

 

上空に流れ星のようなものが飛翔する。

 

名をつけるとすれば、白銀の流星であろうか…。

 

それも、黒い仔山羊へと向かって…。

 

「ブ、ブレインさん…あれは…」

 

「ま、まさか…」

 

ブレインとクライムが一つの可能性に気付いたころ、一体の黒い仔山羊が一刀両断され、姿が掻き消える。

 

それを見て、多くの撤退する兵士達も目を見開く。

 

流星は止まることなく、二体目の黒い仔山羊を断ち切る。

 

消滅する。

 

「…ウル殿か…!?」

 

天幕の隙間から覗き込むようにして見ていた国王は、思わず椅子から立ち上がる。

 

兵士たちの間にも、ざわめきが起こる。

 

しかし、それは混乱のざわめきではない。

 

英雄の登場に対する驚きと、歓喜のざわめきであった。

 

 

 

「やはりきたか…白銀のウルよ…」

 

アインズは黒い仔山羊たちが倒されるのを見て、ゆっくりと上空へ飛翔する。

 

そんなアインズを、ダークエルフの従者…といっても帝国の帝城前広場を壊滅させたものであるが、それが困惑した様子で口を開く。

 

「ア、アインズ様…白銀のウルはアインズ様と同格の力を持ちます…。お一人で行くのは危険です…」

 

ダークエルフの言葉に、ニンブル含めた帝国騎士たちは唖然とする。

 

この化け物魔法詠唱者…それと白銀のウルは渡り合えるというのだ…。

 

その啞然は、次第に些少の希望へと変わる。

 

「そうだな…。確かにそうだ…。しかし、向こうが一人で来たのだ…であれば、こちらもまずは1人で対峙するというのが礼儀ではないか?」

 

「さ、さすがはアインズ様です!」

 

アインズの言葉に、ダークエルフは歓喜に似た声を上げる。

 

「だが、そうだな…。デス・ナイト含め、戦闘に介入できるよう準備だけはしておけ…」

 

「は、はい!」

 

アインズはそう言い残し、未だ流星の如く飛翔するウルの元へと飛んでいった。

 

…ニンブルは迷う。

 

恐らく他の騎士たちもその迷いは同様であった。

 

これを機に、このダークエルフを抑え込むべきではないかと…。

 

力で抑え込めば、何とかなるのではないかと…。

 

しかし身体は動かない。

 

帝城の広場を壊滅させたこのダークエルフも、また同じく化け物なのだ。

 

…とりあえずは、様子を見るしかない。

 

あの白銀のウルに…人類の未来を賭けるしかなかった。

 

 

カリンシャ、ウルの屋敷。

 

クーデリカ、ウレイリカを除く、全ての屋敷の住人が集められ、ウルからの手紙の内容を告げる。

 

その内容を聞き、この場にいる全員が絶句する。

 

特に絶望が大きかったのは、フォーサイトの面々であった。

 

それを察したルカは、フォーサイトを問いただす。

 

「あなた達…知っているのね…アインズ・ウール・ゴウンを…」

 

ルカの言葉に、アルシェはゆっくりと口を開いた。

 

「私たちは…そのアインズという化け物から…助けてもらった…」

 

「そう…それで…ウルはそのアインズに勝てる?」

 

ルカの言葉に、ヘッケランが言いづらそうに口を開いた。

 

「…ウルさんとアインズが本気でやり合えば…両者とも死ぬ…と、言っていた…」

 

ヘッケランの口から齎されたそれは、この場にいるものを更にどん底へと落とす。

 

…一人のメイドがスッと椅子から立ち上がる。

 

そして、ゆっくりと扉に向かって歩き出す。

 

「ツアレ…どこに行くの?」

 

「…ウルさんのところです」

 

ツアレは、ルカの問いに、今にも途切れそうな細い声で呟く。

 

「…戻りなさい…」

 

「…いやです…」

 

ツアレが始めて見せた、ルカに対する反抗であった。

 

その後暫し二人は押し黙るが、ツアレの足を止めるようにして、クルミが肩に手を置く。

 

「ツアレちゃん…わかってるでしょ…。あなたが行っても…何もできない…」

 

クルミの言葉に、ツアレはグッと握り拳を作ると、俯いて見せる。

 

そして、声を押し殺すようにして、過呼吸にも似た様相で口を開く。

 

「わ、私は…まだ…ウル様に、何も…返せていないのに…ッ!」

 

「…ツアレちゃん…」

 

クルミは、ゆっくりとツアレを抱きしめる。

 

身体は酷く震えているのが伝わってくる。

 

その震えを感じ、クルミは苦悶の表情を抱く。

 

ルカは暫く押し黙っていたが、何かを決心した様子でクルミに伝える。

 

「クルミ…暫くこの屋敷をあなたに任せる…」

 

「えっ…?」

 

ルカはゆっくりと立ち上がり、全員に向けるようにして言葉を発する。

 

「ウルは…私が連れ戻す…。それまであなたが管理しなさい…」

 

「ッ!なら、あたしも行くよ!ルカさん!!」

 

クレマンティーヌがバタンッと椅子を蹴る勢いで立ち上がる。

 

それを機に、フォーサイト、黒の剣、レイナースなどなど、些少力に自信のある者が続々と同じように述べる。

 

「…ダメよ…。あなた達では足手まといになる。…と言っても、ウルとアインズの前では、私も同じだけど、ウルを抱えて逃げることはできる…」

 

「ルカ…」

 

クルミは、酷く迷っている素振りを見せるが、ルカの目を見て、納得して見せる。

 

「…わかった…。絶対に連れ帰ってきて…。みんなで待ってるから…」

 

「任せなさい…。連れ帰ったら、皆で目一杯、怒ってやりましょう…。ツアレも、それでいいわね?」

 

「ルカさん…。よろしく…お願いします…」

 

ツアレは、ルカへと向き直ると、深々と頭を下げて見せた。

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