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ラナーは、一人王城の自室にて思考に耽っている。
もうここ何日かは、同じようにその頭脳をフル回転させることが多い。
バルブロが戦死したことで、王位継承権はザナックへと移った。
これはラナーが、想定していた策の流れと寸分たがわぬ結果であり、デミウルゴスや魔導国の力を借りての成果であった。
今後は、魔導国が八本指を裏から操作し、王国の裏側を牛耳るとともに、表ではザナック、レエブン侯、そしてラナーを以てして王国を再建する。
それがラナーの目指す王国の未来の姿であった。
もちろん、その先には王国の再建のみならず、ラナー本人の個人的な野望が隠されている。
クライムとどこか辺境の地で死ぬまで一緒にいることである。
事実上の結婚はクライムとは難しいかもしれない。
目指すつもりでいる。
というのも先の戦争において、些少の戦力として、深い思い入れもなく傍においていたブレインという男が、とんでもなく有益な約束を父である国王に褒美として願ったからである。
これはラナーの及ばないところでの好機であり、可能性が0に近かったものが、10%ほど上昇を見せたのだ。
だが、それで元の計画をとん挫する程、ラナーは甘くはない。
可能性があるとはいえ、まだ確実性という話になると、ほど遠い。
なにせ、ラナーの計画では、近いうちに父には王の座を降りていただくからだ。
それまでに、先の願い、クライムに貴族位が与えられ、自身と婚約…という流れまで事を進めるのは難しいであろう。
故に、ザナックとレエブン侯、そして魔導国の後ろ盾を以てしてクライムと辺境の地で死ぬまで一緒にいるという願い、野望を叶えるのだ。
しかし、それには些少の憂いがあった。
『今後魔導国に見限られる可能性がある』ということである。
もしそうなれば、クライムとの甘い生活も、一瞬で終わりを告げることになるだろう。
…故に、ラナーは考えた。
そしてたどり着いた答えが、『ウルの子を孕む』ことであった。
一番良いのは、ウルと結婚してしまうことであったが、それはやはり難しいことが先日明らかになった。
予想はしていたが、正直予想以上の溺愛ぶりであった。
八方美人で有名な彼女が、それこそ喧嘩腰で来るくらいには溺愛していた。
加えて、ウルも恋仲になるという、些少の乗っかりを見せている。
現状で2人の仲を割くことはできないだろう。
ウルの怒りを買う危険性もある。
しかし、自身にもウルに恋心を抱いてもおかしくない理由はある。
命を救われた姫が、救ってくれたその殿方をお慕いするというのは、基本中の基本である。
しかもそれを王都中の様々な人間が目撃しているのである。
たとえ嘘であったとしても、ラナーのその気持ちに疑いを持つ者はいないであろう。
故に、結婚が叶わないと知ったその姫が、せめてウルの子どもが欲しい、と願っても、何ら違和感はないのである。
こちらの計画も、差し支えなく進む予定であった。
…しかし、留意すべき点ができてしまった。
ウルと同郷だというルカという女の存在である。
ウルを連れて聖王国に戻ろうとしていたあの時…。
耳元で呟いたのである。
『随分と頭の回るお姫様ですね…あのお方にもよろしくお伝えください』
正直、心臓が止まりかけた。
まず間違いなく、あの女は危険だ。
デミウルゴスや私と頭脳は同等と考えていいだろう。
そして、デミウルゴスには及ばないが、力もある。
更に気を抜けない状況になってしまった。
「…どうしてこのタイミングで、私と同格ともいえる知恵者がこうもでてきたのか…」
ラナーは、小さくため息をついて見せると、再び思考を開始し、今後の流れを多方面から隈なく確認し始めた。
エ・ランテルを接収し、アインズ・ウール・ゴウン魔導国として建国を果たしたアインズは、守護者やウルとの報告会を終え、現状を整理していた。
「(まずい…さすがに頭がパンクしそうだ…)」
まず、エ・ランテルの接収に伴い、冒険者モモンとナーベを魔導国に与させることに成功した。
…といっても、モモンとナーベの正体はアインズとナーベラルであるため、与するどころか元々一員なのであるが、この流れで生まれた利益は大きい。
それは、エ・ランテルの住人が、想像以上に魔導国の統治を受け入れてくれているということだ。
もちろん、奴隷的な制度や虐待的なことをしていないというのも大きいが、一番は漆黒のモモンとナーベが大きな心の支えとなっている。
『魔導国に与する代わりに、エ・ランテルの住民を無暗に傷つけない』
…とまあ、簡単に言えばこんな感じで、魔導国への牽制となってくれているのだ。
モモンとナーベのおかげも会って、エ・ランテルの住民も大きな不安も持ちながらも、些少の安心感を抱いて生活してくれている。
もう一つは、ウルとのPVPである。
PVPそのものは大成功であり、互いに互いの状況を把握しながら、ジャストタイムと言った感じでHPの管理もできていた。
まず間違いなく、拮抗した戦いを演じることができた。
さらに、これはデミウルゴスの案なのだが、自分を死の神、ウルさんを聖なる神として認知させることもできた。
これによって、周辺国家は情報収集から接触まで、動かざるを得ない状況になるのだという。
敵対心を以て近づいてくるものをあぶり出すこともできる。
シャルティアを洗脳したやつもわかるかもしれない。
そしてさらに、ウルさんとの明らかな敵対も演出することができた。
人間国家で、人間として生きているウルさんからすると、この世界でアインズ達と端から仲間であったと疑いをかけられると、色々と面倒なことになる。
故に、一度敵対している様子を見せ、その上である切っ掛けを以て手を組み、次第に親睦を深めていく…という『後から仲良くなったよね作戦』なのである。
この作戦が成功した暁には、魔導国は一切の疑惑と対立なく、ウルひいては聖王国と友好的な関係を築くことができる。
さすがはデミウルゴスである。
抜け目ない。
そして、今はそのうちの、『あるきっかけを以て手を組み…』の段階の作戦を練っているところなのである。
大枠は決まっているようで、すでにウルとデミウルゴスの擦り合わせも終わっている様子であった。
しかもこれを利用して存在しない三魔皇を一掃できるというのだから驚きである。
アインズ自身、詳細はまだ聞かされていないが、あの2人のことだから心配はいらないであろう。
なんなら後でウルさんに聞けばいいのだから。
そんな風にして、気楽に考えていたアインズであったため、その次なる一手に思いっきり…というか立役者の1人として参加することなど夢にも思っていなかった。
ネイアとの出会いから1か月が経った頃…。
王国からウル宛に莫大な褒美が与えられたことで、以前のように無理に冒険者として活動して資金を得る必要もなくなり、屋敷でゆったりと過ごすことが増えるようになった。
そんなとある日のこと、久しぶりにデミウルゴスから面会の申し出があり、ウルはナザリック地下大墳墓に訪れていた。
「ご足労頂き、感謝もうしあげます、ウル様」
「気にするな。それに今回呼び出したのは、三魔皇についての策が固まったからだろう?」
「はい、その通りでございます」
デミウルゴスから齎された、三魔皇(空想)との決着は、いくつもの策が講じられた、素晴らしいものであった。
「なるほど…聖王国へ仇為す亜人を一掃するのに加えて、俺とアインズさんとの関係の修復を図るってことか…」
「はい…。今はウル様の御力の威光が亜人たちにも轟いておりますが、それは恐怖心によるもの…。故にこの私がヤルダバオトとして亜人に協力するようなそぶりを見せれば、聖王国やウル様に刃を向けるものを一掃する良い機会となりましょう…」
「そのうえで、このシナリオに沿って行動すれば、俺とアインズさん、延いては聖王国と魔導国の友好的な関係を構築する基礎となりうるわけか…。すごいな、俺の考えていた策よりもひとつ上を行く素晴らしさだ…」
「おお、なんというもったいなきお言葉…。このデミウルゴス、初めてウル様と知恵比べで勝てた気が致します!!」
デミウルゴスは、感嘆の声を上げながら頭を下げた。
「いや、お前はいつでも俺の頭脳を上回っているよ」
「…もったいなきお言葉でございます…。その上で、この部分なのですが、ウル様には多大なご負担が生じることとなるのですが…問題はございませんか?」
「あー、別にいいぞ?これは俺個人なんだろ?聖王国に多大な被害が出なければ別にいい」
「ありがとうございます…。聖王国への被害は…そうですね。物資や武器の消耗くらいでしょうか?自然な流れをもってして、戦死者は皆無とする策でありますので、問題はないかと…。ただ、それを実行するのにウル様とアインズ様のお手を煩わせる策しか提案できない、矮小な身をどうかお許しください」
「この前も行ったが、俺とアインズさんの目的のためであれば、いくらでも俺たちを使ってくれてかまわない。もちろん、アインズさんもそのことは承知の上だ…」
デミウルゴスは、「もったいなきお言葉にございます」といった言葉を漏らしながら、詳細を事細かに説明して見せた。
デミウルゴスとの会談を終えたウルは、一般メイドたちが利用する食堂を訪れていた。
一般メイドと軽い会話をしながら飯を喰らい、ある人物を待っていた。
「お呼びでしょうか、ウル様」
「んお…まっふぇふぁぼ…」
「はい?」
ウルは口に含んだまま喋っていたため、よく聞き取れなかったらしく、その人物は聞き返して見せた。
「…待ってたぞ、ソリュシャン」
「お待たせして申し訳ございません、ウル様」
「いや、呼びつけたのは俺だしな…」
「それで、一体どのようなご用件でしょうか?」
ソリュシャンはじっとウルを見つめて口を開いた。
ウルに呼びつけられた際、ソリュシャンの中に湧いた感情は喜びでった。
自身の創造主たる、ヘロヘロ様と共に、お仕事をされていた方に呼びつけられることは、この上なく光栄なことであった。
しかし、同時になぜ呼びつけられたのかという不安もあった。
何か失敗でもしたのだろうか?
ゲヘナ作戦時のシャルティア様の失態が、ソリュシャンの頭に鮮明に思い出される。
あの時のウル様の怒りと、それによる波動…。
直接自分に向いていないにもかかわらず、ソリュシャンは足の力を失い、床に座り込んでしまったのだ。
直接命を握られているような感覚であった。
あれほどの恐怖を抱き、冷や汗を流したことはなかった。
故に気を引き締める。
ウル様の逆鱗に触れるは、至高の41の御方々の逆鱗に触れるも同じなのだ。
…しかし、そんなソリュシャンの心配は、杞憂に終わる。
「いやさ、無限の背負い袋の中整理してたら見つけたのよ…。ほれ…。俺が持っているよりも全然いいと思ってな」
「これは…本…ですか?」
ウルから渡されたそれは、黒い本のようなものであった。
「本というか、ブロマイド?って言った方がいいのかな?」
「ブロマイド…ですか?」
「そうそう、写真…ってわからんか…えっと、実物をそのまま投影した絵…って言えばいいのかな…。まあ、絵とかを挟んでおくものだと思ってくれればいいや」
「は、はぁ…」
ソリュシャンは、ウルの説明がよくわからずに、首を傾げて見せた。
「まあ、難し事はどうでもいい、開いてみろよ」
「開く…こう、でございますか?…ッ!!ウ、ウル様…こ、これは…ッ!!」
ソリュシャンは、自身の腰砕けになりかけるのを感じた。
「へへ、うまく映ってるだろ?ヘロヘロさんと、ソリュシャンのツーショットだ!」
「「「「「ッ!!!」」」」」
周りにいた数人の一般メイドも、ソリュシャンの様子と、ウルの言葉に大きく目を見開き、ソリュシャンが手にもつブロマイドを覗き込もうとする。
本来のソリュシャンであれば、一般メイドを跳ね除けたであろうが、今はそんな余裕はない。
ブロマイドに映ったヘロヘロと自身に釘付けになっているからである。
写真をよく見ると、ヘロヘロは右側で手…というか触手を上げて映っており、ソリュシャンは左側で、両手を前で重ねて待機している。
恐らくは、特にソリュシャンにポーズの指示をせずに撮ったものであろう。
余りにも衝撃的な、それでいて悦ばしいものを手にしたソリュシャンであったが、ようやく理性を取り戻し、ウルに声を掛けた。
「こ、このような…このような貴重なものを…私などが頂いても…よろしいのですか!?」
「もちろん!…ていうか、ヘロヘロさんとソリュシャンのツーショットなんだ…。ソリュシャンが持っておくべきだと思うぜ。その方が、ヘロヘロさんも喜ぶ」
「はぁ…うぐぅ…。何という、何ということでありましょうか…。ウル様、このソリュシャン、更なる忠誠と忠義を尽くすことをここに誓います!!」
「あー、うん。いや、別にそんなにかしこまらなくてもいいんだけどなー…」
ウルはソリュシャンがまるで機械のように平伏している姿を見て、思わず引いてしまう。
しかし、床にポロポロと落ちる涙を見て、ふっと笑いを浮かべる。
そんな時である…。
ある一人の一般メイドのキラキラとした目に気付く。
「ウル様!!私は!私とヘロヘロ様のはないのでしょうか!?」
「ちょ、ちょっと、シクスス!!」
ウルはあーっと間延びした声を上げる。
「すまんな…一般メイドの君たちとヘロヘロさんのツーショットはないんだよ…」
「うっ…そ、そうですか…」
シクススと呼ばれた一般メイドは、これでもかと肩を竦めて残念がっている。
「も、申し訳ありません、ウル様!私達一般メイド如きが出過ぎた真似を!!」
「いや、別にいいって、それに…」
ウルは口を開きながら、アイテムボックスに手を入れる。
「ツーショットはなかったんだが、集合してるのは見つけてな…よっと…」
ウルが取り出したのは、1mはあるであろう丸まった紙であった。
「これは…ソリュシャン様にお与えになったものと同じですか?」
「大きいですね…」
一般メイドたちが、まるでスクロールのように丸まっている大きな紙を見て、興味を示す。
ウルが、『開くぞ』と言ってテーブルに大きく広げて見せる。
大きさは、B0規格のポスターのものと同程度のものであった。
それを見た一般メイドたちは、顎が外れたような表情を見せた後、ワナワナと震えだす。
中には、少し涙を浮かべている者もいる。
「いやー、すごいだろ!ヘロヘロさんとホワイトブリムさん、ク・ドゥ・グラースさんに加えて、一般メイド41人全員の集合写真だ!ちなみにこれを撮ったのは俺ね!いやー、中々いい写真だと…」
ウルはそう言いかけたところで、異様な雰囲気に気が付く。
ほぼすべての一般メイドが、一目見ただけでその場で泣き崩れ、ワンワンと泣き出したのだ。
「こ、こんな貴重なものを…」
「お見せいただけるなんて…」
「あ、ありがたき幸せに…ございます!」
「(え、えぇー…)」
ウルはソリュシャンの時とは比べものにならないほどの衝撃を受けながらも、一般メイドたちをあやすことになった。
…後日、この写真、もといポスターは、アインズさんの許可を得て、ここの食堂にそれはもう素晴らしい額縁を以て飾られることとなった。
それを受けて、一般メイドはもとより、数多くの階層守護者やNPC、僕たちがこぞって見学に訪れ、見とれたというのは言うまでもない。
…ちなみに、後日ソリュシャンと同じブロマイド…弐式炎雷とナーベラルのツーショットの写真が入ったものをナーベラルに渡した際にも、ソリュシャンと全く同じような反応を見せたのであった。
ナザリックで一種の騒動を引き起こした後、ウルはその日の夜にカリンシャの屋敷に帰ることにした。
屋敷に帰ると、まず目にしたのはルカであった。
「おかえりなさい…。今日は屋敷前に転移してきたのね…」
「ああ、自室に転移すると、皆いつの間に!?って驚くからな…。緊急時以外は屋敷前にすることにしたんだ」
ウルはもはや慣れた手つきで荷物をルカに預けると、広間にあるソファにドカッと座り込む。
「はぁ~…」
「随分疲れているのね…。もしかして、魔導王陛下のところに行ってたの?」
「そうそう、いやー、気を遣うってのもあるけど、逆に気を使われすぎて…」
ウルは、言葉の途中である違和感に気付く。
「…あれ?…俺お前に魔導王ってかアインズさんのこと話したっけ?」
「いえ…ただ、あなたの行動を見ていてなんとなくね…。仲直りは済んだんでしょ?」
全てを綺麗に理解している様子ではなかったが、それでも中々の精度で関係性をぶち当てていることに、ウルは驚きを隠せなかった。
「…心配しないで、クルミにすら話してないから…」
「お、おう…。それは…助かる…」
「…また何か企んでるみたいだけど、あまり無茶はしないように」
「は、はい。心得ております…」
まるで全てを見透かされているかのような目と口調に、ウルは思わずへりくだる。
『よろしい』と言わんばかりの微笑を見せた後、ルカはその場からゆっくりと立ち去っていく。
ウルは暫くそんなルカの背中を眺めながら、少ししてため息をつく。
「(一瞬忘れてた…あいつもデミウルゴス並みに頭いい設定にしてたんだった…。ひえーオソロシイ…)」
ウルは一瞬ブルッと身を震わせたが、突然肩と足に衝撃を受け、そちらに意識を向ける。
「ウルさん、帰ってきたー!」
「ウルさん、おかえりー!」
クーデリカとウレイリカであった。
2人は、ウルの肩と腰にそれぞれ抱き着いてみせる。
「おー、2人共、もうご飯は食べたのか?」
「うん、今日も美味しいごはんだった!」
「美味しいごはんだった!!」
「おー、そうかそうか、それはよかった!」
ウルは2人の頭を撫でる。
クーデリカとウレイリカはとても嬉しそうな表情を見せて、それを受け入れる。
すると、小走りでウルの元に姉であるアルシェが現れる。
「ごめんなさい、ウルさん。妹たちが…」
「んー、気にすることはない。それに、こうやって来てくれるのは嬉しいものだ」
ウルはアルシェに言葉を返しながら、クーデリカとウレイリカを抱き上げる。
「ウルさんすごーい!」
「ウルさん力持ちー!」
「そうだろう、そうだろう?そーれ、飛行機ごっこだー!!」
ウルはそう言ってソファから立ち上がり、両脇に2人を抱えて大広間を小走りで駆ける。
「飛行機?なにそれ?でも楽しー!!」
「飛行機分からないけどたのしー!!」
2人の言葉を聞いて、『あ、そっか』とやっちまった感を表情に浮かべたウルであったが、気にせず楽しんでいるみたいなので、とくに説明もせずにそのままかけて見せる。
そんな風にして遊んでいるウルとクーデリカ、ウレイリカを見て、アルシェは思わず笑みを零す。
通りかかりのメイドや他の者もクスクスと笑いながらそれを眺めていた。
…そのうちの一人が、駆けまわるのを終えた後に、緊張した面持ちで声を掛けてきた。
「あ、あの…ウル様…」
「ツアレ?どうした?」
「えっと、その、おかえりなさい…」
「…?おう、ただいま?」
なぜかよくわからないタイミングで挨拶をされ、ウルは思わず疑問形で返してします。
そして暫く黙り込んでいたツアレであったが、頬を赤く染めながら、何かを決心したように口を開いた。
「あ、あの…お話があるんです…大事なお話が…」
「話…?…なら、俺の部屋でもいいか?」
「は、はい…。その、いつ頃お伺いしたら…」
「今からでも大丈夫か?」
「い、今から…ですか…」
ツアレは、もじもじとして見せると、恥ずかしそうに俯いて見せる。
「あー、難しそうなら別に後でもいいけど…」
「えっと…いえ、大丈夫です…。今からでも…」
「そう?んじゃ行こうか…」
「は、はい…」
ウルは抱えているクーデリカとウレイリカをゆっくりと地面におろす。
まだ満足していないのか、クーデリカとウレイリカが『もっと遊ぼう!』と駄々をこねるが、それをいなしてツアレと共に自室に向かう。
「(セリーシアと2人で住みたいとかかな?)」
等と考え、少し寂しくなるなーと思いながら階段を上がるウル。
しかし、それが全くの頓珍漢な考えであったことにすぐ気づくことになる。
自室に入り、自身の執務台の前に一つ椅子を置き、ツアレに着席を促す。
ツアレが座ろうとしている中、ウルも対面の自身の椅子に腰かける。
「で、なんだい?話ってのは?」
「はい…あの…ですね…」
ツアレは再度もじもじとして見せ、中々言い出せなさそうにしている。
ウルは屋敷を出ていきたいと勘違いしているため、ツアレを安心させるように口を開く。
「ツアレ、そんなに緊張しなくてもいい。俺はツアレを拒否したり、ましてや怒ったりなんてしない。何でも言ってくれてかまわないんだ…。ほら、言ってごらん?」
「…本当ですか?…嫌いになったりしませんか?」
ツアレは少し涙を浮かべてウルを見つめる。
「嫌いになったりしないって!…俺にできることなら、何でもするよ…」
「じゃ、じゃあ…えっと、ですね…その…」
ツアレはまたも言葉が詰まるが、先のウルの発言もあり、意を決して口を開く。
「ウ、ウル様の!…ウル様の子どもが…ほしいです…!」
「……え?」
「わかっています!ウル様には聖王女様がいることも…私など、眼中にないことも…ですが…。私は、ウル様のことが…だ、大好きなのです…。本当は…け、結婚したいと思っているのですが…。そんなわがままは言いません…。で、でも…でも…どうしてもウル様との繋がりが…欲しいのです…」
「え、えーっと……」
ウルはツアレの発言を一つずつかみ砕くようにして理解しようとする。
「そ、それは…つまり…その…。俺と…寝たいってこと…か…?」
「……はい…」
…顎が外れるような衝撃を受ける。
空いた口が塞がらないとはこのことである。
「いやいや、ちょっとまってくれ…。ツアレは俺のことが好きっていうのはわかった。純粋に嬉しよ、あ、ありがとう」
「…はい…」
「…え、俺でいいのか?」
「ッ!ウル様が…いいのです!!」
ツアレはガバッと椅子から立ち上がる。そして更に顔を赤らめて座る。
「す、すみません…」
「いや、別に…。でも、そのなんというか…。地獄のような日々だったから、心が麻痺してるってことはないのか?…その、俺が好きだという気持ちも、助けてもらったからという感情からきているもので…」
そう言いかけたところで、ウルは言葉を発するのを辞める。
ツアレが大粒の涙を零して見せたからだ。
「そんな…そんなことはないですッ!私は、私は本気で…ウル様をお慕い申し上げております…。それとも…やはり汚れた私では、抱いてはいただけないのでしょうか?」
ツアレの表情が大きく崩れる。
それを見たウルは、一瞬表情を強張らせたが、すぐに立ち上がり、ツアレの元に行ってぎゅっと抱きしめて見せる。
「あっ…///。ウル…様…///」
ツアレは、ウルの体温を感じ、喘ぎ声に似た声を上げる。
「すまない…。君の想いを無下に扱った俺を許してほしい…。君は、ツアレは汚れてなどいない…。純粋で美しい女性だ!俺が保証する!!」
「ウル…様…。ありが、とう…ございます…」
ツアレは、ゆっくりとウルの腰に手を回す。
下腹部が熱を持つのを感じる。
その熱は即座に身体全体に生き渡り、興奮を覚える。
「…君の気持ちは分かった…。俺もその気持ちに答えたいと思う…。だが、少しだけ、待っていてはくれないか…。全てが終わった後で、それでもまだ君が俺のことを好きだと言ってくれるなら、そしたらその時に答えたい…君の気持ちに…」
「…はい…。いつまでも、いつまでもお待ちしております…。ですが、一つお約束してください…」
ツアレはウルの肩に顎を預けながら、ゆっくりと口を開いた。
「必ず…必ずお答えいただけると、お約束してください…」
ツアレはそう言って、ウルを抱きしめる腕の力を強めた。