【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第27話 大侵攻

聖王国では、ウルの扱いに非常に困っていた。

 

貴族位は与えたものの、そこから進展させることができないのである。

 

それは、2方面、どちらも進展を見せていないという意味である。

 

1つは、ウルに対する待遇である。

 

貴族位を与えたものの、領地を与えていないこともあり、ウルの立ち位置はとても曖昧なものになっている。

 

候補としては、王侯直轄領であり、ウルが今拠点にしているカリンシャの街と小都市ロイツ、その周辺を、そのまま下賜与えるというものであった。

 

カリンシャは、亜人の襲来の際に、砦が破壊されると真っ先に狙われる都市である。

 

 

そこにウルを縛ることで、聖王国の安全は更に確固たるものになるのは間違いない。

 

しかし、その分制約も生まれる。

 

最も危惧しているのは、ウルに対する制約である。

 

ウルは領地を求めていないというのは、カルカ達も周知の事実であり、そんなウルが領地の管理や運営を快く受けてくれるはずはない。

 

ウルの機嫌を大きく損ねれば、聖王国を去ることにもつながりかねない。

 

だからといって、一貴族、一冒険者のままにしておくと、他国が、それも王国がネチネチとつついてくる。

 

しかも最近ではウルの力を目にした帝国と法国からの抗議も増えてきている。

 

この二律背反の状況に、聖王国は追い込まれつつあった。

 

そしてもう一つ、実際にはこれをクリアしてしまえば先の問題も一気に解決するのだが、いかんせんこちらもウルの機嫌というか気持ちを損ねるわけにはいかなかった。

 

というより、むしろこっちの方がより慎重に扱わなければならない事案であった。

 

それは、ウルとカルカの婚姻である。

 

今はまだ、恋仲関係ということで留まっているが、カルカの心情はそうではない。

 

もう今すぐにでも婚姻をしたいと躍起になっている。

 

それは言わずもがな、ラナー王女の存在である。

 

直接対決すらした身であるため、カルカはもう焦りに焦りまくっているのだ。

 

美貌は互角、しかし年齢はラナーの方が有利。

 

そんな状況が、カルカの焦りをさらに加速させている。

 

加えて、聖なる神といわれるウル、その力を間近で見たカルカは、すでに狂信的なまでにウルを好いているのだ。

 

元々大好きだった感情を2乗にも3乗にもされたものである。

 

気持ちが急るのも無理はない。

 

だが、同時にこの関係を壊したくないという気持ちもある。

 

カルカが一人突っ走って、ウルに拒否される…なんてことは避けたいのだ。

 

それが、カルカの中で蠢き、ぶつかり合い、中々言い出せない状況であるのだ。

 

これについては、自分の気持ちを伝えるのがへたっぴなウルにも責任はある。

 

だが、ウルにとってしてみれば、『2、3年付き合ってから位だよなー、結婚とかそういうのは…』的なリアルの基準を持ち合わせているので、これがカルカとのすれ違いを生んでいる。

 

カルカからしてみれば、ウルはそこまで自分に心酔していないと思っているのだ。

 

実際には、カルカが告白をしてしまえばウルは嬉々としてそれを受け入れるつもりなのである。

 

そう、嫁入りか婿入りかを考えることもせずに、である。

 

そんなこんなで2方面からドン詰まりを見せており、進展がない…。

 

しかし、この詰まりは、誰もが予想もしていなかった形で、それも本当に驚きの形で、それもすんなりと、カルカの力をもってして解決するのだが、今はまだ、それを知りえるものはいないのであった…。

 

 

 

カリンシャの英雄と呼ばれていたウルは、デボネ領主の奮闘もあり、すでに南部貴族からも受け入れられはじめ、今では『聖王国の英雄』とまで言われるようになった。

 

特に大きかったのが、死の神と謳われるアインズ・ウール・ゴウン魔導王との一騎打ちが関係している。

 

一発の魔法で7万人もの人間を殺して見せた魔導王と、互角の戦いを繰り広げたウルの名を知らぬものなど、もはや探す方が難しいほどである。

 

聖王国全土に英雄として浸透し始めたウルであるため、カリンシャの住民からすれば、それはもうお祭り騒ぎどころではなかった。

 

活気に満ちていない日などないほどに、カリンシャは明るい街となり、加えて景気も良くなっているのだ。

 

死の神すらも退ける、聖なる神たるウルが守る街ということもあり、聖王国内での移住者も増え、しまいには王国からの移住も増えているのだ。

 

人口の増加はまだ微々たるものであるが、数年もすればバカにできないほどになるであろう。

 

そんなカリンシャの街の人たちとウル、ひいてはウルの屋敷の住民との関りは深く、老若男女問わず親密な関係性を持っていた。

 

その中でも突出すべきは、冒険者ギルド長と受付嬢のセリンである。

 

この2人が親子関係ということもあり、ギルド長は何とかしてセリンをウルと近づけたいと思っており、実のところセリンもやぶさかではない印象を持っていた。

 

やはり、カリンシャで起こった悪魔騒動の件が大きい。

 

…まあ、あれがウルが最初に手掛けたマッチポンプであるのだが、そんなことはセリンどころか誰一人知らないことである。

 

知られでもしたら、それはもうウルは破滅である。

 

…まあ、知っていたところで、それを信じるものなどいないほどに、ウルは信頼されているのだが…。

 

端から見たらとんでもない詐欺師である。

 

さて、そんなウルであるが、冒険者ギルドに張り出されている依頼を見て、今日も唸って見せる。

 

何分、聖王国における冒険者の位は、他国に比べると非常に低い。

 

それは国家の特色というか特徴でもあるのだが、ウルを除けば、そう有名な冒険者は特に北部に狭めればなおいない。

 

その上、冒険者に依頼をしなけらばならないことも、そう多くはない。

 

その上で、アダマンタイト級や英雄級の冒険者が受ける依頼など皆無なのであった。

 

「すみません…依頼内容、ここ数日変わっていないのですよ…」

 

セリンは、依頼ボードの前で悩みぬいているウルに向かって申し訳なさそうにして口を開く。

 

「いえ、セリンさんが謝ることはないですよ…。それに、依頼が少ないってことは、平和な証拠ですからね…。私が出張らなきゃいけない依頼など、ないに越したことはないですから」

 

「それは…そうなんですけど…」

 

セリンはそれでも、足繁く通ってくれているウルに、申し訳なさそうにして見せる。

 

彼が毎日と言っていいほどにこうして訪れるのは、先の発言の通り、『自分しかできないであろう依頼探し』である。

 

セリンが以前、ウルに尋ねたことがあった。

 

『ウルさんはそんなに依頼を受けなくても大丈夫なのではないですか?』と。

 

これは、聖王国や王国から莫大な報酬と褒美をもらっているため、別に仕事しなくても生きていけるでしょ?という意味のものであった。

 

しかし、ウルは全く別の理由でここに訪れていたのだ。

 

『自分の力が役に立つ、そんな依頼があれば受けなければならないなと…。それが力を持つものの使命ですからねー』と。

 

ウルからしてみれば、別に特段大きな意味のない言葉であったが、セリンや他の者からしたら驚きの一言であった。

 

つまりは、お金や名誉ではなく、人助けのために来ている、ということだからである。

 

これを機に、セリンも押し殺していた気持ちが弾け、ウルへ好意を表現するようになったのである。

 

「んー、まあ、とりあえず大丈夫そうなので、帰りますね」

 

ウルはそう言い残し、冒険者ギルドを後にする。

 

「あ、お待ちください!」

 

そんなウルをセリンが呼び止める。

 

「はい?なんでしょうか?」

 

「あっ…///」

 

セリンは、ウルの顔を見て思わず赤面する。

 

だが、すぐに気持ちを落ち着けて、口を開く。

 

「お聞きしたいことがございます!」

 

「…なんでしょうか?」

 

「…ウルさんの好みの女性は…どのような女性ですか?」

 

セリンの発言に、近くに座っていた冒険者たちが酒を吹き出す。

 

「好きな女性…ですか…?」

 

「は、はい!」

 

セリンは唇をぎゅっと噛みしめながら答えを待つ。

 

「んー、そうですね…。髪が綺麗で長い女性…ですかね?」

 

「髪が…長い女性、ですね…。あ、ありがとうございます…」

 

「いえいえ、それでは…」

 

ウルはそう言い残し、冒険者ギルドを去っていった。

 

…その後、カリンシャの街の女性たちが、こぞって髪を長く伸ばし始めたという…。

 

そして数年後には、聖王国では長い髪を有することが女性の基本、というトレンド的なものを生み出したとか、生み出さなかったとか…。

 

 

 

アベリオン丘陵。その奥地。

 

「それでは、準備はよろしいですか?」

 

黒い、まるで喪服のようなスーツを身に纏った男が、大勢の亜人に囲まれながら口を開く。

 

しかし、その男の臀部上方には巨大な鋼鉄を思わせる尻尾が生えており、彼が人間でないことをしめしていた。

 

…デミウルゴスであった。

 

亜人たちは特に反抗する意思もなく、デミウルゴスに付き従っている様子であった。

 

「では、改めて作戦を言い渡します。まず、あなた方亜人連合がローブル聖王国の砦に、総攻撃を仕掛けて頂きます。その後、恐らく数時間で白銀のウルが到着するでしょう。その際には、私がお相手をさせて頂き、白銀を討ちます…。ああ、ご安心ください。一対一で叩くつもりはございません。私の同胞と共に、ウルを仕留めますので…。ウルと私が戦闘を行っているうちに、あなた方には砦を越え、聖王国内に侵入し、蹂躙の限りを尽くして頂きます…。ここまででご質問は?」

 

亜人たちは、頷くようにして同意の意を示す。

 

「よろしい…では、参りましょうか?」

 

 

 

ローブル聖王国、長城砦、中央砦門。

 

「そこで止まれ!ここより先は、聖王国の領土である!貴様ら亜人どもが来て良い場所ではない!早急に立ち去れ!!」

 

遠くまで響くように大声を発したのは、中央砦の最高責任者、聖王国に5人しかいない将軍位につく男であった。

 

男は、大声を上げたのち、苦悶の表情を浮かべながら、発した男に向かって視線を移す。

 

一見人間のように見えるその男は、強大な尻尾を有しており、顔には奇妙な仮面を身に着けていた。

 

…とある人物、情報に似通ったその姿に、最悪の事態を想定する。

 

そして、視界を男の後方へと向ける。

 

アベリオン丘陵、亜人侵攻対策として施した平野工事、その奥に並ぶ木々の前に、数えきれないほどの亜人の姿が見えた。

 

5万、いや10万はいるかもしれない。

 

…大侵攻だ。

 

既に聖王国の英雄と、聖王女様一行には早馬を出している。

 

聖王国の英雄、白銀のウルは、ここからほど近いカリンシャにいる。

 

そして自身が受けている報告では、聖王女様一行も今はカリンシャに滞在している。

 

数時間だ…。数時間持ちこたえられれば…希望はある。

 

そのため、1分、いや1秒でも時間を稼がなければならない。

 

「それは当然、存じ上げておりますよ…。さて、あなたは一体どちら様でしょうか?」

 

「私は、この城壁を守る将である!お前こそ何者だ!」

 

「私は、ヤルダバオトと申します」

 

「…やはりか…。貴様が王国の王都で暴れまわったという三魔皇の一人か!!」

 

城壁の将が、予想通りと言った様子で大声を発する。

 

「おお、私をご存じの方がいるとは光栄ですね!」

 

「貴様…。王国に引き続き、聖王国でも狼藉を働くつもりか!!」

 

「狼藉とは傷つきますねー…。私は宴を催したいだけです。あなた方人間の呪詛が、悲鳴が!!…延々とこだまするような、そんな催しをね…」

 

「ふざけるなッ!そんなことを、我らが許すと思っているのか!?」

 

城壁の将は、激怒した様子で大声を張り上げる。

 

それに倣い、兵士たちも士気を高めるように声を上げる。

 

「お許しを頂く必要はございません…。我々は目的のためにただ前進するのみ、ぜひ我々に踏みつぶされながら、哀れに鳴いていただければ結構でございます」

 

「目的だと!目的とはなんだ!!」

 

「そうですね…。教えて差し上げてもよろしいでしょう…。目的は2つ。1つは白銀のウルの命を頂戴すること…。そしてもう一つは、聖王国の滅亡です」

 

「ッ!!そのようなことをここにいる我らが許すと思っているのか!聞け!愚かなるヤルダバオトよ!!ここは聖王国の最初の守り、そして最後の守り!ここより後ろにあるは聖王国の安寧!!お前たちに踏みにじらせたりはせぬ!!!」

 

「拝聴しました…。ではそろそろ始めるとしましょうか?」

 

ヤルダバオトに退く気はないようであった。

 

ヤルダバオトが片手を天に掲げる。

 

そしてそれをビシッと訓練された将兵のように振りかざす。

 

それを以てして、後方に控えていた亜人たちが一気に攻め込んできた。

 

 

 

アベリオン丘陵からの10万の亜人の侵攻と、魔皇ヤルダバオトの襲来は、侵攻から1時間足らずでカリンシャに報告があがる。

 

と同時に、カリンシャの街には緊急事態宣言が発令され、一般住民は一時高台にある城へと避難を開始する。

 

兵士や冒険者、徴兵経験のある者は、街の東側を固めるようにして戦線を広げる。

 

万が一砦が破壊され、亜人たちが侵攻してきたことを踏まえた、マニュアル通りの動きであった。

 

ウルとカルカ達は、カリンシャの屋敷とカリンシャの城、それぞれ別のところにいたものの、情報があがってきたタイミングは殆ど一緒であった。

 

しかし、行動の速さは同じではなかった。

 

片や一人で向かい、片や小隊規模で向かうのだ。

 

準備にかかる時間は大幅に違う。

 

加えて、ウルはその気になれば一瞬で転移できる。

 

今回は速飛行を用いての移動であるが、それでも聖王女一行よりははるかに速い。

 

…故に、先に砦につき、参戦が早い方は、火を見るより明らかであった。

 

 

 

ヤルダバオトは、自身の奴隷となった亜人たちの侵攻を後方から眺めていた。

 

「基礎的な戦闘力は亜人共の方が上ですが、やはり砦がある分こちらが劣勢ですね…」

 

侵攻からすでに1時間以上が経過している。

 

未だ砦にはたどり着けてはいないが、じりじりと距離を詰め、後30m地点にまでは押し迫っている。

 

「ですが、このまま押し込めば、2時間くらいで砦は落ちるでしょう…。こちらの被害も相当なものですが…。それはどうでもよいこと…」

 

ヤルダバオトは、仮面の位置を直すような素振りを見せると、翼を生やし、砦に向かって飛び立つ。

 

最前線の上空まで来たところで、何人かの人間が気付き、矢や魔法を放ってくる。

 

しかし、矮小すぎるその攻撃は、ヤルダバオトには届かず離散する。

 

ヤルダバオトは少し、息を吸いこみ、亜人たちに指示を送る。

 

「『侵攻をやめ、後方に展開しなさい!』」

 

対して大きくもない声であったが、亜人たちは一匹残らず攻撃をやめ、即座に後方に撤退を始める。

 

兵士たちは、何事かと様子を窺っていたが、ヤルダバオトと言葉に意識を奪われる。

 

それは兵士団長であり、九色の黒を冠するパベル兵士長も例外ではなかった。

 

「中々の防衛力ですね…。このままでは埒があきませんので、この辺りで戦況を変えさせて頂きます」

 

ヤルダバオトは、開戦時と同じように、片手を天へと向ける。

 

もう一度亜人共を侵攻させるのか?能がないな…。などと思っていたパベルであったが、それは大きな誤りであると気づく。

 

感じたことのない魔力をヤルダバオトから感じ取る。

 

「第十位階魔法!『隕石落下(メテオ・フォール』!!」

 

わざわざ位階を発したのは、兵士たちに絶望を与えるためである。

 

パベルは、砦の頭上から、不可避な速度で接近するものを感じる。

 

見上げればそこにあるのは光の塊。そして炎の塊。

 

熱せられた巨大な岩。それがパべルの視界に覆いかぶさる。

 

…気付いた時には、絶望が皆を支配していた。

 

奴にとって、先ほどまでの攻撃は、遊びだったのだ。

 

その気になれば、いつでも我らを蹂躙できたのだ。

 

必死になって戦っていた分、その絶望は大きい。

 

…そんな時であった。

 

隕石を包み込むようにして、砦後方から光の光線が発せられる。

 

隕石は大きく砕かれ、その勢いを押し殺し、挙句押し返し、後方に展開する亜人たちへと降りそそぐ。

 

亜人たちが慌てふためいているのが分かる。

 

ふと後方へと視線を送ろうとする。

 

この膨大な光線を放った対象をその目に写そうとした。

 

予想はしている。

 

誰が放ったのかを…。

 

しかし、振り向く必要などなかった。

 

パベルが振り向こうとするよりも早く、その対象は、白銀のマントをたなびかせながら、パベルの目の前に、降り立ったからである。

 

 

 

「…おいおい、俺が間に合わなかったら大惨事まったなしじゃねーか…」

 

ウルは砦まであとすこしと言ったところで、上空を飛翔しながら些少の冷や汗を流す。

 

前方には、隕石落下によって齎された隕石が、砦に差し迫らんとしていた。

 

「ま、タイミングも全て計算づくか?…恐ろしいことだ…」

 

ウルはそう独り言をはきながら、片手を隕石に向ける。

 

「『魔法最強化・聖なる暴風(ホーリーストーム)』」

 

まるでゴジラの熱線を思わせるような、それでいて神々しい光の荒れ狂う光線に似た暴風を打ち放つ。

 

信仰系第9位階魔法、それを最強化して放つ。

 

威力を最大化していない第十位階魔法と同等か、それを少し上回る。

 

故に、砦に襲い掛からんとする隕石は粉々に砕け、押し返す。

 

隕石が沈黙したのを見て、砦の上部へと着地する。

 

前方を見据える。

 

目の前には真っ黒な衣装を身に纏ったデミ…ヤルダバオトと、その後方に亜人の集団が見て取れた。

 

報告に聞いていた10万よりも少し少なく感じたが、砦目の前に戦闘痕があるのを見て、一戦交わったことを認識する。

 

ゆっくりと体勢を整え、再びヤルダバオトに視線を向けたその時、後方から声が届いた。

 

「ウ、ウル殿!来てくれたのですか!!」

 

「…パベルさん、遅くなってしまい、申し訳ありません…」

 

「とんでもない…。本当に助かりました…」

 

「いえ…では、もう少し下がって頂けますか?…あの魔皇を…斬り伏せますので…」

 

パベルは目を見開いた。

 

洗練されたような所作で、ウルが刀剣を二本抜いて見せる。

 

自身が、いや、この砦にいるもの全員でかかっても倒せないであろうヤルダバオトを倒すというのだ。

 

…決してはったりではない。

 

その言葉の重みと、目の前の強大な聖騎士の力に魅了されてしまう。

 

それはどうやら、パベルだけではなかった…。

 

「は、白銀のウルだ!!」

 

「助かった!!!」

 

「これでヤルダバオトを倒せるぞっ!!」

 

砦の兵士たちも、ウルの姿を見て、希望に満ちた声を上げる。

 

加えて、ヤルダバオトも、非常に警戒した様相を見せる。

 

「これはこれは…随分とお早いおつきですね…。白銀のウル…」

 

「…隕石、悪いことしたな…」

 

「いえいえ、そんなことはありませんとも…。しかし、やはりあなたはお強い…私の最強ともいえる魔法をこうもあっさりと…」

 

「よく言うぜ…大して力も出してないくせに…」

 

パベルは大きく目を見開く。

 

全力ではない?…冗談じゃない…。先の魔法は、先の隕石は、国1つを容易く滅ぼすことのできる魔法であった。

 

それを以てして全力ではない…。

 

パベルは、自身の身体が酷く震えるのを感じた。

 

「私はウサギを狩るのに全力をだしたりしませんので…。ですが…あなたは違う…」

 

ヤルダバオトは、黒い翼を大きく広げ、意識を集中するようにウルを見つめる。

 

「あなたには全力を出す必要がありそうだ…」

 

「なるほど、相手の力量を見極める目はあるようだな…、いや、ないともいえるか?」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

ヤルダバオトは怪訝な視線を向ける。

 

「お前では、全力を出したとて、俺には勝てんよ」

 

「ほほう…いいますね…人間の分際でッ!!!」

 

ヤルダバオトの姿が掻き消える。

 

瞬間、ウルの姿も掻き消える。

 

砦前上空で、信じられないような衝撃音を発生させる。

 

パベルがそれに気づいたのは、すでに両者が二撃目を互いに打ち合っている最中であった。

 

「ば、バカな…ッ!なんだ、あの力とスピードは…ッ!!」

 

パベルは驚愕の表情を浮かべて口を開く。

 

「す、すげえ…」

 

「あの魔皇と…渡り合ってる…ッ!!」

 

「勝てる…本当に勝てるぞっ!!」

 

兵士たちも声援を送るようにして興奮を表す。

 

3撃目、4撃目、5撃目で互いに鍔迫り合いのようにして動きを止める。

 

「…ふふ、面白くなってきましたね…」

 

「…その言葉、いつまで持つか、楽しみだな…」

 

両者が弾け飛んだようにして距離を取る。

 

「…来い、ヤルダバオト!!…力の差を教えてやる…」

 

「人間風情が…ほざきますね!!」

 

またも両者の姿が掻き消え、上空で火花を散らして衝撃した。

 

 

 

カルカ、レメディオス、ケラルト、そして聖騎士団と神官団が砦に到着した際に感じたものは、絶望に似た感情であった。

 

砦の向こう側、アベリオン丘陵方面から、恐怖を抱く様な戦闘音と衝撃音、そして衝撃波を感じ取ったからだ。

 

「カルカ聖王女様!!お待ちしておりました!!」

 

「状況を説明しろ!!」

 

砦前で控えていた兵士の一人がカルカに声を掛けると、レメディオスが怒号を飛ばすようにして叫んだ。

 

「そ、それが、白銀のウル殿が魔皇ヤルダバオトとの戦闘を繰り広げていて、その最中に…」

 

兵士は、言葉を詰まらせる。

 

「なんだ!!はっきり答えろ!!!!」

 

レメディオスの心情は計り知れない。

 

ウルと同格と言われる三魔皇の一人、ヤルダバオトの襲撃に加えて、亜人10万の侵攻。

 

そしてこの信じられない戦闘音。

 

恐らくは、いや確実にこの戦闘音を生みだしているのはウルとヤルダバオトである。

 

故に、レメディオスは、一刻も早く状況を把握したかった。

 

自身にできることは、ウルがヤルダバオトを抑えている間に侵攻してくる亜人共を討ち滅ぼすこと。

 

そしてその間にウルがヤルダバオトを討つ。

 

これが、カルカとケラルト判断した勝利条件であった。

 

だからこそ、急がなくてはならない。

 

例えウルであろうとも、自身と同格の存在を相手取りながら、10万もの亜人を倒すのは無理であると考えていた。

 

…しかし、状況はより切迫していた。

 

「もう一人の、もう一体の三魔皇を名乗る者が現れ…ウル殿が2体と戦闘中…!!ッ…劣勢な状況にあります!!!」

 

カルカの表情から、明るさが消える。

 

ケラルトは、苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 

「なんだとッ!!三魔皇が2体もいるのかッ!!!」

 

レメディオスは、歯を食いしばり、馬から飛び降りる。

 

そして、一人で砦内へと走っていった。

 

「姉さん!!…ッ!カルカ様!!!!」

 

「ケラルト!!私達もすぐに砦上部へ向かいましょう!!」

 

ケラルトとカルカも馬から降り、砦内部へと駆けて行った。

 

 

 

ウルとヤルダバオトの戦闘は、ウルが優勢であり、ヤルダバオトが追い込まれている状況であった。

 

「マジかよ…これが、これが白銀のウル!!!」

 

「噂以上の強さ…英雄じゃねーか!!!」

 

兵士たちの士気も高い。

 

それほどまでに、素人目で見てもウルの優勢が分かるほどであった。

 

ウルも多少の傷を負ってはいるが、ヤルダバオト程ではない。

 

そして、ヤルダバオトが後方に展開している亜人を巻き込みながら、アベリオン丘陵の奥地へと吹き飛んでいく。

 

それを見て、砦全体が爆発したような声援を送る。

 

「ウル殿、万歳!!!聖王国の英雄!!!」

 

「あんたが居れば、聖王国は安泰だ!!!」

 

各所からウルを湛える声援が送られる。

 

ウルは、それを背中に受けながら、砦上部へと着地する。

 

「ウル殿!!お怪我は!!」

 

着地したウルの元に、パベルが駆け寄ってくる。

 

「…この程度は問題にはなりません…。それよりも…ここからですよ…」

 

「…え?」

 

パベルが疑問を投げかけた瞬間、アベリオン丘陵の奥地から、爆発に似た衝撃が発生する。

 

それはまるで火山口の爆発のように、溶岩に似た炎を伴って発生する。

 

ゆっくりと、そこから巨大な黒い影が生まれる。

 

「…あれが、奴の本来の姿か…」

 

ウルの言葉を聞き、パベルは大きく目を見開く。

 

10m近くはあるだろうか…。

 

全身を黒にに包み、その上には炎の鎧のようなものを纏っている。

 

憤怒の魔将と呼ばれる、イビルロード・ラースであった。

 

「あ、あれが…ヤルダバオトの…真の姿…」

 

ふざけるな…。冗談じゃない…。

 

それが、パベルの抱いた最初の感情であった。

 

これならば、先の人間じみた姿の方がまだ可愛げがあった。

 

それほどに、絶望的な姿、そして力であった。

 

そんな絶望が、瞬時に転移したように目の前に現れる。

 

パベルは息をするのも忘れ、ゆっくりと半歩下がる。

 

「強い…やはりお前は強いな…ウルよ…!!」

 

「…だから言ったろ…。お前じゃ俺には勝てないと…」

 

ウルはカチャッと剣を握りなおす。

 

ああ、なんて心強いのか…。

 

こんな絶望的なまでの力が目の前にいても、彼は全く動じていない。

 

パベルは心酔しきった目でウルを見つめる。

 

「ああ、だから、我らで倒すこととしよう…」

 

「…?どういう…ッ!?」

 

ウルが疑問を投げかけようとした瞬間、ヤルダバオトの隣に、もう一体の悪魔が現れる。

 

「…お初にお目にかかる、白銀のウルよ…。我が名はグリード…。災厄の大魔皇様の麾下が一人、三魔皇のグリードと申す」

 

「…なるほど…。端から一騎打ちのつもりはなかったってことか…」

 

ウルは苦笑いを浮かべながら口を開く。

 

「ッ!ふ、ふざけるなッ!!なんと卑怯な!!!」

 

パベルは、思わず三魔皇の二体に大声を張り上げる。

 

他の兵士たちも気持ちは同じ様子で、酷く憤慨している様子が見て取れた。

 

「ふふっ!!卑怯?…愚かな…これは戦争…。勝つためであれば手段は厭わない…。それが当たり前であろう?」

 

「くっ!!」

 

パベルが何も言い返せず、押し黙る。

 

その様子を見たヤルダバオトは、ふっと鼻息を漏らしてウルに向き直る。

 

「さて、どうする?白銀のウルよ…?」

 

「我ら二人を相手取り、勝機はあるかな?」

 

二体の悪魔は、挑発するようにウルへと口を開く。

 

「勝機か…そんなもの、考えたこともないな…」

 

「…なんだと?」

 

ウルは魔力と力を解放しながら、ゆっくりと刀剣を握りなおして2体の悪魔へとそれを向ける。

 

「…勝たなきゃいけねーから、覚悟を持って戦う…。ただ、それだけだ!!」

 

「なるほど…」

 

「いいだろう、ならば見せてみろ…。その覚悟とやらを!!」

 

ウルとヤルダバオト、そしてグリードが衝突する。

 

それが生み出す衝撃波だけで、砦の石壁は、ボロボロと崩れて見せた。

 

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