【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第28話 劣勢

イビルロード・グリードがヤルダバオトの援護に入る形で参戦したタイミングで、後方に展開していた亜人たちも再度一斉に攻撃を仕掛ける。

 

地上では亜人と砦の兵士たちが、上空ではウルとヤルダバオト&グリードが戦闘を繰り広げている。

 

地上の亜人と兵士の戦いは、砦という大きなアドバンテージを持っているのに加え、ウルが砦へ登ろうとする亜人へ流れ弾(に見せかけて)を当てていることもあり、優勢な状況が続いていた。

 

一方、上空では、ヤルダバオトに加えてグリードとの戦いを強いられていることもあり、ウルは劣勢な状況に立たされている(風を醸し出している)。

 

…本来であれば、ヤルダバオト(ラース)とグリード二体が相手であろうと、余裕で勝利を収めることができる。

 

しかし、ウルが2体を相手に本気を出せない理由が3つある。

 

1つ目は、ラースやグリード、そしてもう一体を含めた三魔皇とウルは、同格に近い力を有しているという設定であるためである。

 

一対一であれば、確実に勝てるという設定であるため、2体同時に相手取って余裕で勝利を収めると、それが崩れてしまう。

 

2つ目は、この2体がデミウルゴスの直属の部下であるということである。

 

つまるところ、ナザリックのNPCなのだ。アインズさんの大切なそれを殺すわけにはいかない。

 

3つ目は、ウルとアインズの、延いては聖王国と魔導国の関係を修復、形成するためである。

 

簡単に行ってしまえば、『アインズさんに助けに来てもらう』という構図を作るためである。

 

上記理由から、ウルは全力を出して戦ってはいないのである。

 

…といっても、この世界に来てから全力なんて出したことないのだが…。

 

しかしそれ故に、慣れてしまっている。

 

手を抜くことが、ではない。

 

『本気を出して戦っている感』を醸し出すのを、だ。

 

本物詐欺師、ここにあらわる、である。

 

さて、そんな風に戦闘を行っているウルであるため、少しずつ、本当に少しずつダメージを負いながら劣勢に立たされていく。

 

…とある力を解放し、その上でぶちのめされるために。

 

 

 

カルカ達が砦上部に到着した時には、完全に戦闘状態といった雰囲気であった。

 

しかし、状況は悪くない。

 

砦上部の混乱も少なく、被害も非常に軽微である。

 

これは、未だ亜人が砦に到達していないことが大きい。

 

亜人は砦を突破するために躍起になって突撃するが、それは非常に悪手であった。

 

砦上部の弓兵や魔法詠唱者の格好の的になるからである。

 

しかし、それは地上のみに限る。

 

上空へと目を移す。

 

下にいた兵士の言う通りであった。

 

「くっ!本当に2体も…」

 

「なんて卑怯なッ!!」

 

「やはり三魔皇と言われるだけはありますね…。ここからでもその圧倒的な力を感じます…」

 

カルカ、レメディオス、ケラルトが、上空で閃光のような戦いを繰り広げているウル達を見て、苦悶に似た表情を見せる。

 

「しかし、劣勢とはいえ、あの三魔皇の2体を相手取って戦えているとは…」

 

「ウル様…なんてお強い方なのでしょうか…」

 

ケラルトの言葉に、カルカが恍惚とした表情を見せて胸の前で手を重ねる。

 

「いや…これは…。まずいかもしれない…」

 

しかし、レメディオスだけは目を尖らせる。

 

その言葉に、カルカは疑惑の念を抱く。

 

「それは…どういう意味?」

 

「ウルに余裕があるようには見えない…。そう、持たない…」

 

「そんな…ッ!!」

 

カルカの疑問に、レメディオスが答えたことで、会話は途切れる。

 

カルカ達の立つ左側5m程の位置に、ものすごい衝撃をもって墜落する。

 

「ぐっ…くそ…ッ!」

 

ウルであった。

 

「ウル様ッ!!」「ウルさん!」「ウルッ!」

 

カルカ達はそれぞれが名を叫び、ウルに駆け寄る。

 

「ケラルト!」

 

「はいッ!…『重傷治癒』」

 

名を呼ばれただけであったが、カルカに何を求められているのかを理解したケラルトは、ウルに向けて治癒魔法を展開する。

 

些少の傷が回復を見せる。

 

「…魔力を温存したかったので助かります…」

 

「いえ、私にはこのくらいしか…」

 

「ほほう…これはこれは、聖王女様ではありませんか?」

 

カルカは一瞬、驚いて前方を見据える。

 

ウルとカルカ達の会話に、乱入者が現れる。

 

ヤルダバオトであった。

 

「ッ!!お下がりください!!カルカ様!!」

 

レメディオスがウル達の前に立ちふさがるようにして剣を振りぬく。

 

「いえ、レメディオスさんも下がってください…」

 

「ウル!!…しかし…ッ!!」

 

「…カルカ様は、あなたに任せます…。その代わりに、奴らは私に任せてください…」

 

「…勝てるのか?」

 

「…勝つしか道はないでしょう…?」

 

レメディオスとウルが小声で話し終えると、それを待っていたかのようにしてヤルダバオトが口を開く。

 

「なるほど…。これだけ追い込まれてなお、我々と戦いますか?…いや、というよりも、あなたの隣で肩を並べて戦えるものがいないというだけでしたね。失礼いたしました」

 

ヤルダバオトの挑発的な言葉に、カルカ達は一気に視線を鋭いものにする。

 

それが酷く的を得ていたために、抱く怒りとやるせなさは計り知れない。

 

「しかし、あなたも大変ですな。白銀のウル…このような雑魚共のために命を張らなくてはならないとは…お悔み申し上げます」

 

「…力のみで判断するとは愚かな悪魔だ…。強さが全てではない…。例え強くなくとも、一緒に居たい仲間が、友がいる…。そのために俺は…命を張ってんだ!!」

 

ウルの身体から、膨大な力があふれ出す。

 

カルカ達は目を大きく見開く。

 

それは砦の兵士だけに留まらず、亜人たちですら動きを止める程のものであった。

 

カルカ達は知っている…。この力の奔流を…。

 

「ほう…。天解…ですか?…それなら我らを相手取って勝てるとお思いですか?」

 

「…貴殿のその力は知っている…。確かに強力だが、我ら二人を相手取れるほどのものじゃない…」

 

カルカは思わず眉間に皺を寄せる。

 

それが酷く理にかなった言葉であったからだ。

 

目の前にいる三魔皇という悪魔どもは強い。

 

ウルよりも少し下回るが、それでも2体ともなれば話は別だ。

 

以前のウルの話ではこうであった。

 

三魔皇帝と二大吸血鬼…。

 

一体であればまず間違いなく勝てる。

 

二体であれば劣勢、しかし立ち回り次第で退かせることができるかもしれない。

 

三体であれば、まず勝てない…、と…。

 

故にカルカは、ウルの背中を視界に捉えながら、祈るようにして見守る。

 

…しかし、ウルの言葉はそれを否定するような言葉であった。

 

「この力を知っている、か…。笑わせてくれる…」

 

「なんだと…?」

 

「俺はお前らに一度も…それこそ、魔導王と戦った時でさえ、全力を出した覚えはねえぞ…?」

 

「「ッ!?」」

 

ヤルダバオトとグリードが驚愕ににた表情を浮かべる。

 

「…構えろ。お前ら二人掛かりでも…俺を倒すのは容易じゃないぞ?」

 

ウルは一つ、呼吸を置いて見せ、上空に飛んでみせると、その最高たる力を解放した。

 

「天解ーーーッ!!!!!」

 

 

 

パベルはウルが砦上部に吹き飛ばされたのを見て駆け寄る素振りを見せたが、カルカ達の姿を捉えたことで、一先ずは再度亜人たちへと警戒を向ける。

 

「旦那…。ウルの奴も相当追い込まれてますぜ…」

 

「そんなことはわかっている…。あの三魔皇を一人で2体を相手取っているのだ…。追い込まれない方がおかしい…。というよりも、追い込まれていても戦えているのが信じられないくらいだ…」

 

「そうですね…。ありゃ、まさしく英雄だ…。そして、ウルが負ければ…聖王国はお終いだ…」

 

オルランドの言葉に、パベルは返答をしない。

 

いや、沈黙で返した、ともいえる。

 

目の前に迫らんとする亜人の集団を見つめる。

 

砦の全戦力を投入しても、この数の亜人をさばききるのは不可能に近い。

 

カルカ聖王女一行が来たことで、その可能性は少し上がったが、それでも厳しいことに変わりはない。

 

それこそ、ウルが亜人の集団を相手取ることができれば一気に形成は逆転するであろうが、それは難しい。

 

ウル以外では相手取れない、少なくとも聖王国に居るものでは手も足も出ない化け物を2体相手取っているのだ…。

 

「…そうだな…。ウル殿1人に背負わせてしまう己の未熟さが腹立たしいが…。聖王国の命運は、まさにウル殿にかかっている…ッ!」

 

「ッ!な、なんだ!これはッ!!」

 

カルカ聖王女がいる真上の上空で、膨大な力が吹き荒れる。

 

その力は、一頻り暴発に似た様相を見せた後、一気に拡散して暴風を巻き散らす。

 

その風を受け、一瞬怯むが、次は身体が固まって見せる。

 

ウルの姿を捉えたからである。

 

それは天使…いや、もはや神に近いものであった。

 

「あれが…あれがウル…なのか?」

 

オルランドは、元々大きい目を更に広げ、口もパクパクと動かして見せる。

 

「聖なる…神…」

 

誰かが呟いた。

 

その呟きは、酷くパベルの胸にストンと落ちるような印象を与える。

 

一対の巨大な天使の翼に、頭上に輝く天使の輪…。極めつけはより一層輝く白銀の全身鎧…。

 

「ウル…殿…。あなたは一体…ッ」

 

パベルは目を大きく見開いたまま、ウルが三魔皇の2体に突撃していくのをただ見ることしかできなかった。

 

 

 

天解・熾天使の聖騎士の力を解放したウルは、再度ヤルダバオトとグリードとの戦いに身を投じる。

 

先ほどまでは劣勢を喫していたウルであったが、天解したことでそれを覆す…ことはできなかったが、先ほどよりも劣勢ではなかった。

 

「す、すごい…。あの三魔皇を2体同時に相手取って…互角…?」

 

「いや、劣勢だ…。だが、さっきよりは格段に戦えている…。ように見える…」

 

ケラルトの言葉に、レメディオスが自信なさげに答えたのは、実際のところ判断しかねるからであった。

 

目の前で起こっているのは、自身が知っている戦闘ではなかった。

 

まるで、そう…。神々の戦いそのものに感じられたからであった。

 

それでも先ほどよりも戦局が良いという思いを抱いたのは、ウルの動きが、尋常ではないからだ。

 

スピードも、力も、確かに三魔皇を上回っている。

 

一対一であれば、勝負がつくのは時間の問題であった。

 

しかし、それが2体…。

 

ウルは数的有利を取られ、余裕が見られない。

 

しかし、三魔皇はちがう。

 

片方が攻撃を仕掛けている間に、ウルの動きを観察することも、後ろから攻撃を仕掛けることもできる。

 

それがこの戦闘の拮抗に似た様相を生んでいるのだ。

 

「ッ!私たちに…できることは…ッ!!」

 

カルカは、両の手で服をクシャッと掴んで見せる。

 

ケラルトは、そんなカルカを見て思わず目を細める。

 

「できることは…ありません…」

 

「カルカ様、お気持ちはわかりますが、あれは…あの戦いは我々が踏み込める領域を遥かに超えています…」

 

レメディオスも、酷く悔しそうに口を開く。

 

「…見守ることしか、できないのですか?」

 

「そうです…」

 

「…私は、なんて…なんて役立たずなのでしょう…」

 

「…カルカ様…」

 

いつもであれば、カルカ様こそ至高!とばかりに声を上げるレメディオスであっても、この場ではそれを発することはなかった。

 

カルカだけではない。ケラルトも、レメディオスも、それこそこの場にいるもの、いや聖王国の全てが、ウルに対して何もできないのだ。

 

そうして苦悶の表情を浮かべていたカルカ達であったが、それが驚きに変わる。

 

ウルが2体の悪魔と距離を取ったからだ。

 

そして、目を奪われる…。

 

ウルが両手に持つ刀剣、それぞれが大きく光り輝く。

 

「もう…終わらせてもらうぞ…」

 

「笑わせるなッ!終わりにできるとでも…ッ!」

 

「まずい!!ヤルダバオト!!いったん距離を取れ!!」

 

ウルの両の刀剣から発せられる圧倒的な聖なる力を感じ取ったグリードが、大声で叫ぶ。

 

「神聖・次元断切ッ!!………弐閃ッ…!!」

 

世界を断絶するような斬撃が2つ…。地面をぱっかりと斬り割りながら2体の悪魔たちへと突進していく。

 

その速度は尋常ではなく、後退し始めたにも拘らず、一瞬にしてヤルダバオトとグリードへと肉薄する。

 

ヤルダバオトは強大に腕をクロスして、グリードは巨大な鎌で防ごうとする。

 

しかし、一瞬で切り落とされる。腕も、鎌も…。

 

「「ぐっ!!がああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

ヤルダバオトとグリードの悲鳴と叫びがこだまする中、その斬撃は続けて大爆発を起こし、辺り一帯に衝撃波を生み出す。

 

それは多くの亜人たちを巻き込みながら、砦にも到達する。

 

「キャッ!!」

 

「うわッ!!」

 

「くっ!!!!」

 

カルカ達は、その衝撃波に抗おうと、両の手を顔の前に展開させる。

 

暫くして衝撃波は収まる。

 

目を凝らす。

 

ウルの後姿が映る。しかし、悪魔たちの姿は見当たらない。

 

「か、勝った…のか?」

 

「す、すげー、なんだよ、今のは…」

 

「勝ったんだ!!勝ったんだ!!!」

 

兵士たちがぽつぽつと喜びの声を上げる。

 

生き残っている亜人たちも、あまりの攻撃と衝撃波に戦意を失いかけていた。

 

武器を投げ出して、丘陵の方へ駆けだして逃げるものまでいた。

 

それほどまで凄まじい斬撃と爆発であった。

 

神の斬撃…そう名付けても遜色がないほどであった。

 

ウルは、ゆっくりとカルカ達へと身体を向ける。

 

そんなウルの姿を見て、カルカは少し頬を赤らめ、涙を浮かべる。

 

自身が慕い、愛する男が戦いに勝ったのだ。

 

それも、圧倒的な不利な状況下で…。

 

嬉しさを通り越し、狂気まで感じていた。

 

この喜びと興奮を、ウルを抱きしめることによって表現した…。

 

そう思ったときであった。

 

…。

 

……。

 

………。

 

ウルの後ろに、新たな絶望が現れた。

 

「油断とは…よろしくありませんね…。白銀のウル…」

 

ウルは一瞬で振り向き、剣を構えて振りぬく。

 

しかし、その声の主に、剣を持つ腕を掴まれる。

 

腕を掴まれたまま、凄まじい腕力と力で胸の脇を垂直に殴打される。

 

「ガッ…!!!!」

 

ミシッ…ブチッ…と嫌な音が、ウルの耳に届く。

 

瞬間、左腕が肩の関節から捥げ、衝撃で右側へと吹き飛んでいく。

 

…。

 

カルカはそれを、一瞬も目を離さずに捉えていた。

 

…故に衝撃も大きかった。

 

「やはり所詮は人間…身体はもろいものですね…」

 

顔が鳥の嘴のような、それでいて身体は妖艶な女体を持った悪魔が、手に持った何かを投げ捨てながら口を開く。

 

ウルが吹き飛ばされたのを見て、思わず声を上げようとするが、自身の前にボトッと落ちてきたそれを見て、声にならない『ひゅっ』というような悲鳴をあげる。

 

もがれた腕であった。

 

身体から離れたそれは、力なく床に横たわっている。

 

切断面、というより、捥がれた部分からは血が噴き出し、血の池を生成していた。

 

ケラルトもレメディオスも、声にならない驚きを宿している。

 

ようやく理解する。

 

目の前で何が起こり、何が落ちてきたのか。

 

脳では理解している。しかし、心がそれを理解するのが遅れたのだ。

 

と同時に、目の前に白銀のマントが翻る。

 

「ぐっ…あっ…」

 

一瞬で移動してきたウルであったが、何かに悶えるようにして片膝を付く。

 

カルカは、ゆっくりとウルの左腕に目を移す。

 

なかったのだ…。

 

ウルの左腕が…。

 

確信する。

 

目の前にあるものが、一体なんであるのか…。

 

「ウル様ッッッ!!!!!!!」

 

目から涙が零れるのに、そう時間はかからなかった。

 

ウルの傍に行き、ウルを支えるようにして触れる。

 

そして、絶望がさらに増すことになる。

 

「遅いぞ…エンヴィ…」

 

「だが、良い仕事をしたな…」

 

「遅れたのは謝るわ…けど、2人がかりでそのやられようはないんじゃない?」

 

ヤルダバオトとグリードが、傷ついた身体を引きずるようにしてウルとカルカの目の前に現れる。

 

ウルは、痛みに耐えながら、小さく笑って見せた。

 

「なるほど…。俺を殺すために…三魔皇全員が雁首揃えてお出ましとは…正直、驚いたぜ…」

 

ウルの発言で、カルカ達は大きく目を見開いて絶句する。

 

それはつまり、目の前の女体の悪魔が、残る三魔皇の一人であることを示唆していたからだ。

 

「…大治療」

 

ウルの捥がれた腕が、まるで嘘のように、生えるようにして生み出される。

 

それを見て、カルカが驚いたのはもちろんのこと、エンヴィも思わず目を見開く。

 

「ちっ…信仰系魔法が使えるのは厄介ね…」

 

「ふっ…それが、このウルが最強の人間と言われる所以でもあるからな…」

 

「しかし、我ら3人で叩けば…治癒もくそもない…」

 

三魔皇は、不敵な笑みを浮かべながらウルを見つめる。

 

カルカは、目の前に鎮座する三魔皇の姿に、思わず身を震わせ固まる。

 

そんなカルカの肩に、ウルの手が優しく乗る。

 

それによって、固まったからだが柔らかさを取り戻す。

 

「カルカ様…お下がりください…。いえ、撤退してください…」

 

「ウル様…ッ!」

 

ウルはカルカを突き飛ばすようにして後ろに投げる。

 

カルカはバランスを崩して後ろに転げるが、背中に衝撃を受け何とか姿勢を取り戻す。

 

カルカがぶつかった、いや、支えているのはレメディオスであった。

 

レメディオスは、カルカを支えながら、ウルに問いかける。

 

「…もう一度、聞くぞ…勝てるのか?」

 

「………『魔法最強化・聖なる球壁』」

 

ウルはレメディオスの言葉に返答せず、魔法を発動する。

 

レメディオスはその魔法を知っていた。

 

そして、この魔法が何を意味するのかも理解した。

 

ウルは何も言わずに、球壁の外側、三魔皇の元へと飛んでいく。

 

「ウルッ…!」

 

レメディオスは、ウルの元へと駆けようとするカルカの腕を握って制止しながら、その背中を見つめて小さく呟いた。

 

 

 

竜巻が、炎が、雷が、人智を超越した強大な力の放出がアベリオン丘陵で荒れ狂う。

 

この中の一つだけでも、幾千、幾万もの命を容易く奪うであろう力の奔流…。

 

その証拠に、それに巻き込まれている亜人たちは完全に統率をなくし、敗残兵のように散り散りに逃げ惑い、倒れていく。

 

もし、ウルの発動した聖なる球壁がなければ、砦上部にいるものも同じようになっていただろう。

 

「ウル様…ッ!」

 

カルカは、胸の前で両手の指を絡め、その戦いを見守る。

 

…カルカは、どこかでウルの勝利を信じていた。

 

聖なる神と謳われる強大な力をもち、何より美しい本物の天使のような姿を思わせるウルを、狂信的なまでに慕っている。

 

その美貌と性格もさることながら、カルカの心の中にあるものは、無償の愛…。

 

例えウルに嫌われようとも、もはやこの気持ちが変わらないぐらいには心底惚れこんでいる。

 

故に、その凄まじいほどの愛と狂気が、目の前にある絶望的な状況下でも精神を保つことができていた。

 

そう、ウルがいるから…。

 

三魔皇を一人で相手取って勝つ確率は低い。

 

それはウル自身が、自分で言っていたことだ。

 

あれほどの力をもつウルが、自ら三人で来られたらまず勝てないというのであるから、それは間違いないだろう。

 

しかしカルカは信じられなかった。

 

信じたくなかった。

 

あのお方が、ウルが、負けるところなど…。

 

その愛と狂信的な感情が、正常な判断を鈍らせる。

 

本来であれば、三魔皇を唯一相手取れるウルを逃がすことこそが最善。

 

たとえ砦が壊されようとも、兵士の多くが死するとも、ウルが生きていればどうとでもなるのだ。

 

聖王国内だけで見ても、カリンシャの街にいればルカとクルミがいる。

 

ウルには届かずとも、少なくともレメディオスよりは圧倒的に強い。

 

それはつまり、聖王国においてウルに次ぐ強さを有しているということである。

 

さらに言えば、王国…今は魔導国に与しているが、漆黒のモモンへの個人的な救援要請を行い、それが実現するまで耐え凌ぐという手段もある。

 

ウルとは旧友の中だ。

 

モモンが自ら魔導王にお願いしてきてくれる可能性が高い。

 

最悪は、友好関係の構築に踏み出した魔導国、魔導王への助力を願うという手段もある。

 

しかし、カルカの優しさが、甘さがそれを選択させない。

 

ウルさえ勝ってくれれば、ウルがここで三魔皇を倒してくれれば、兵士や街、民達に被害はでない。

 

その一抹の希望に、なんの根拠も確証もない可能性に賭けることを選んでしまった。

 

…アベリオン丘陵の平地に隕石が落下し、大爆発を起こす。

 

爆発の衝撃と、土埃、割れた大地の破片が四方八方へと飛び散り、その一部が城壁に激しく衝突する。

 

まるで地震が起こったかのような衝撃が城壁を襲い、その上にいるカルカ達もその衝撃と揺れにバランスを崩しかける。

 

続けて、ドォォォォォン、という一際大きな爆発音が響いた。

 

それはカルカ達がいる中央砦門から大分離れた城壁で起こったものであり、城壁の一部が跡形もなく崩れ去る。

 

その崩れ去った建物の近くに、白い翼を広げ、瞬時に移動する者の姿が、一瞬目に映る。

 

その直後、そこへ太い雷の柱が天から落ちてきた。

 

無事に回避できたであろうか…。

 

また暫く、様々な魔法や斬撃、衝撃がアベリオン丘陵の地形を変えていく。

 

カルカは、次第に自身の身体が震え始めるのを感じた。

 

それに気づくと同時に、周りへと視線を送る。

 

ケラルトは大きく肩で息をしながら、手を強く握りこんで戦いの行方を見据えている。

 

レメディオスは、一切の動作なく、ただただ目を細めて空を見上げている。

 

パベルやオルランド、他の兵士たちも様相は様々であったが、皆一様に祈る様な視線を向けているのが見て取れた。

 

「ウル様…。どうか…どうか…ッ!!」

 

カルカは震える身体を鎮めるようにして、ウルに祈りを捧げる。

 

その祈りは勝利を願う祈りであり、無事を願う祈り。

 

…そんなカルカの願いを聞き届けたかのように、4つの何かが空へ上がっていった。

 

紅蓮の球や光の球、黒い斬撃に白い斬撃が空で生まれ、衝突し、四散する。

 

それが何度も繰り返される。

 

…どれだけの時間、そうして流れたのかはわからない。

 

そして、各所でどよめきが起こる。

 

皆の視線の先、一つの光が、城塞砦の北部へと落下していく。

 

それとは対照的に、空には3つの黒い存在が滞空している。

 

カルカは思わず、胸の前で組んでいる両の手を口元へと運んだ…。

 

と同時に、カルカ達を包み守る球壁が静かに掻き消える。

 

次第に白煙と黒煙が混ざったような靄が晴れ、3つの絶望が姿を現す。

 

それは、この戦いの勝者の姿である。

 

…しかし、勝者というにはあまりにも悲惨な姿であった。

 

3体ともが、頭の一部や体の一部、四肢が欠損している様子が見て取れた。

 

しかしなれど、死してはいない。

 

苦しそうにしてはいるが、生きている。

 

「ぅ…うそ…ぉ……」

 

カルカの喉から、かすれ声が漏れる。

 

ケラルトが、膝から崩れ落ちる。

 

レメディオスの目が、ゆっくりと見開かれる。

 

カルカのかすれ声をかき消すようにして、3つの絶望が口を開く。

 

「化け物だ……まさか、3人がかりでこの様とは…」

 

「2人では…勝てたかどうか怪しいな…」

 

「だが……私たちの…勝利だ…」

 

信じたくはない…。

 

しかし、目の前にいる3体の魔皇と、砦北部に落下していったウルらしき光が、それを悉く肯定する。

 

「あ…あぁ…」

 

カルカの足から、力が抜け落ちる。

 

…いつもであれば、レメディオスが過保護なまでに支えるところであるが、一切動かない。

 

「感謝するぞ…人間共…。お前たちが足かせとなっていなければ…、3対1でも危なかったかもしれん…。お前たちのおかげで、ウルを始末できた…」

 

ヤルダバオトが、低く、ゆっくりと口にした言葉は、更にカルカ達に絶望を与えた。

 

「…あぅ…あ…」

 

声にならない絶望が、カルカの口から漏れ出る。

 

ケラルトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、床に俯く。

 

ようやくレメディオスが手を動かし、剣を握った。

 

「ひ、卑劣な悪魔どもめがッ!!!次は私が相手をしてやるッ!!!!!」

 

狂ったような雄たけびを上げながら、抜刀して見せる。

 

その顔には怒り以外の感情はなく、まるで猛獣のような視線を放っていた。

 

「…このまま…聖王国へ攻め込むつもりだったが、こちらも大きなダメージを負っている…撤退させてもらおう…」

 

「逃げる気かッ!!!!くそ野郎どもがッ!!!!!」

 

レメディオスが駆け出そうとした瞬間、魔法の矢のような何十本もの七色の矢が魔皇たちに襲い掛かる。

 

それをみたレメディオスが、一旦足を止める。

 

矢を放ったのはパベルであった。

 

矢は魔皇に、ズガガガガッッ!と襲い掛かる。

 

が、全ての矢が命中する前に折れ伏し、地面へと落下していく。

 

「ふっ…瀕死の我らであれば…倒せると思ったか?…哀れなことよの…貴様らの攻撃など、微風も同然…我らには1㎜のダメージも与えられんよ…」

 

エンヴィが、くすっと笑うようにして口を開く。

 

「ッ!!くそッ!!クソッッ!!」

 

パベルは再度弓を射る。

 

しかし結果は変わらなかった。全ての矢が悉く折れて落下する。

 

そんなパベルの渾身の攻撃を見向きもせず、ヤルダバオトは口を開いた。

 

「一か月だ…一か月後…我らは傷を癒してもう一度ここへ攻め込む…。その時まで精々、残された時間を謳歌することだ…」

 

ヤルダバオトはそう言い残すと、グリードとエンヴィと共に、後ろに展開された黒い渦に呑まれるようにして、姿を消した。

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