【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第2話 聖王女

カリンシャは、普段のほのぼのとした雰囲気とは違い、混乱した様相を見せていた。

 

突如として、大量の悪魔が街の中に襲来したのだ。

 

それも、衛兵が隊列を組めば倒せるような低位の悪魔だけでなく、対峙することすら躊躇う強大な悪魔もいた。

 

しかもそれは、1体だけではない。

 

聖王国聖騎士団最強と謳われるレメディオスでも、一騎討ちで何とか倒せるであろうと思われる悪魔が、少なくとも10体はいる。

 

さらに最悪なのが、そんな悪魔をも超える…全身鎧を身に纏い、炎を纏う大剣を持った凶悪な悪魔がいた…。

 

そんなものだから、カリンシャの街は悲鳴と混乱でごった返しているのだ。

 

「逃げろ!!街の東部にはまだ悪魔たちはいない!!!」

 

カリンシャの街で兵士団団長を務めている男、ユーゴは逃げ惑う老若男女に怒号を浴びせる。

 

悪魔たちが一体どこから来たのか。なぜこんなにも強大で多数の悪魔が出現したのか。

 

分からないことだらけであったが、自身がやらなければならないことはよくわかっていた。

 

前方で戦う兵士が強大な悪魔に次々と倒されていく。

 

倒されている兵士を視界に入れると、呻いたり身体を少し動かす動作が見られる。

 

死んではいない…。それがユーゴに少しばかりの安心を齎す。

 

自身の前方に展開した兵士の集団は、今や無残にもちりぢりになり、隊列を組んでいたとは思えないほどの惨劇であった。

 

隊列が崩れたことで、悪魔の様相がより明確に見て取れる。

 

兵士を蹂躙した悪魔…。知識としては知っている。

 

「戦車の…悪魔か」

 

推定難度100を超える、強大な悪魔である。1体で国1つを滅ぼしかねないほどの凶悪な悪魔だ。

 

加えて、戦車の悪魔には劣るものの、嘆願の悪魔や腐敗の悪魔など、聖騎士団団長でも苦戦するような悪魔が数多くいるとの報告を受けている。

 

…勝てるはずもない。

 

ユーゴの足が震える。

 

今すぐにでも逃げ出したい…。

 

だが、それは許されない。

 

自身の後ろにいる兵士たちは、自分などよりもさらに震え、恐怖しているのがわかる。

 

…ここで、カリンシャで兵士団の頭を張っている私が逃げ出せば、一瞬にして戦線が崩壊し、カリンシャが悪魔の手に落ちることは明白であった。

 

だからこそ、逃げ出したい恐怖とは裏腹に、兵士たちに激を飛ばす。

 

「聖王女様一行が到着されるまで!!何としても持ちこたえるのだ!!!このカリンシャの街を!!!悪魔どもに渡すな!!!!!!」

 

ユーゴがそう叫ぶと、後ろに控える兵士達から『うおーーー!!!!』と耳を塞ぎたくなるような怒号が鳴り響く。

 

その声に、ユーゴも心を決める。きっと生きては帰れないだろう。

 

愛する妻と娘の顔が浮かぶ…。はは…っと笑いを漏らす。

 

決断する…。前方の絶望に突撃しようと…。

 

心を決め、一歩踏み出したところで、左後ろにあった建物が吹き飛び、崩壊する。

 

「ぐっ…」

 

それによって生じた砂ぼこりや瓦礫で視界が悪くなる。

 

「キャー!!!」

 

と同時に、女性の悲鳴が聞こえる。

 

吹き飛んだ建物には見覚えがあった。

 

そう、冒険者ギルドである。

 

…このギルドに、足を運ぶ女性はそう多くはない。

 

もしかしたら…とユーゴの心がわずかに揺れる。

 

地面を転げまわる女性を見て、それは確信に変わる。

 

「セ、セリン!!!」

 

「う、うぅ…」

 

砂ぼこりが晴れ、セリンの姿を捉える。右足からおびただしいほどの血を流し、地面に伏している。

 

それを確認し、すぐさま駆け寄ろうとしたが、思わず足が止まる。

 

そう…。

 

先ほどまで対峙していた悪魔と同じ…戦車の悪魔が崩れた冒険者ギルドから出てきたのだ。

 

「バ…バカな…もう1体…だと…?」

 

持っている剣がカチャカチャと震える。自身の身体の震えが剣にまで伝導していた。

 

あり得ることではなかった。難度100を超える悪魔が、前方と後方に2体…。

 

…徐に先ほどまで見ていた方向…前方を見据える。

 

…目に光を失った。

 

さらに戦車の悪魔が2体…ゆっくりと近づいているのが見えたからだ。

 

ユーゴは、腕の力を抜き、持っていた剣を地面に落とす。

 

…終わりだと…。絶望が心を支配する。

 

…無理だ…。一体であれば、聖王女様一行が到着されてから総力をもっての討伐も叶ったであろう。

 

だが…4体…。聖王国の総力をもってしても…勝てる見込みがない…。

 

それは、30年という長い期間、聖王国に仕えているユーゴであったからこそ、容易に理解できた。

 

聖王国は終わりだと…。

 

為す術はなしと…。

 

そのまま絶望し、命を諦めたその時…。

 

「い、いやー!!やめて!!!来ないで!!!!!」

 

セリンの声を耳に入る。

 

それを聞いて、ユーゴは些少の勇気を取り戻す。

 

「セリン!!!!」

 

彼女はかつて、自身が冒険者をしていた際…そのギルドの長をしていた友人の娘なのだ。

 

赤ん坊の頃から知っている…。助けなければ…。

 

その気持ちだけで、絶望から全てを諦めかけていた心が動く。

 

だが、間に合わない…。

 

戦車の悪魔の…凶悪な炎を纏う大剣がセリンに襲い掛かろうとしている。

 

「やめろーーーーー!!!!!!!」

 

また一歩、ユーゴは踏み込む。

 

やめてくれ!どうか、どうかその剣を私に向けてくれ!!

 

だが、無慈悲にも、その剣はセリンを捉えようと、刻一刻と迫っている。

 

セリンはギュッと目を瞑っているのが分かる…。

 

しかし、それとは逆に、ユーゴは思わず、目を見開いた。…それはガキンッ!という金属がぶつかり合う音が耳に入ったのと同時だった。

 

一呼吸置く…。

 

そして、もう一度目を凝らし、そして見開く。

 

セリンを襲うはずだった炎の大剣は…銀色の鎧をまとう騎士の剣によって防がれていた。

 

 

「よし…」

 

ウルは、安宿のベッドから立ち上がると、小さく気合を入れた。

 

昨日召喚した悪魔の提案で、このカリンシャの城壁のすぐそばで戦うことになったのだ。

 

正直に言えば、あまり気乗りはしなかった。

 

理由は簡単で、がっつりマッチポンプであるからだ。加えて、ケガをする人が出たり、城壁などの物的な被害が出ることは明白であった。

 

…だが、『ありといえばあり』という思いもあった。

 

1つは、悪魔の提案の通り、名声を高めることができるからだ。

 

この一週間、冒険者として活動してきたが、いかんせんランクというのは中々上がるものではない。

 

勿論、千里の道も一歩からという言葉があるように、直向きにコツコツと努力を重ねることが大切であることは、重々承知しているところである。

 

実際、リアルではそうして毎日を過ごし、あのクソみたいな世界で『平凡以上』の暮らしを得ることができていた。

 

…だがしかし、それは『実力に見合った研鑽』であって、今のウルからしてみれば『極限まで過小評価されている状態』なのである。

 

どんなに努力のできる人間であっても、自身の能力を遥かに…地の底の更に地の底ともいえる程に下回るような評価のなかでは、難しいであろう。

 

ウルも、この一週間でそれを味わい、理解したのだ。

 

2つ目は、自身の趣味でもある『正義のロールプレイ』ができるからである。

 

…そう、ウルはそこそこの中二病なのである。弟とはまた違った、というか真逆の正義の中二病とでもいうべきだろうか。

 

もちろん、ユグドラシル時代でもそれを実行してきたのだ。そう、彼がワールドチャンピオンの序列2位にまで上り詰めることができたのも、これによるものが大きい。

 

故に、メリットとデメリットを考慮し、悪魔の提案に乗ることにしたのだ。

 

しかし、この提案に乗るうえで、悪魔たちに指示したことが2つある。

 

1つは、市民や兵士に死者を出さないこと。怪我に関しては多少は仕方がないが、やりすぎないこと。

 

もう1つは、ウルの存在を知っているような態度を示すこと。まるで因縁の相手のように振舞うことである。

 

これにより、最小の被害で、大きな評価を上げることができると考えたのだ。…自分で考えを反復していて、とても恥ずかしくなるくらいのマッチポンプである。

 

恥ずかしさを拭うようにして肩を回す。と同時に、街が騒がしくなっているのが分かった。

 

時間だ。

 

あまり時間をかけず、しかし急ぎすぎずに準備を始める。正味2分といったとこであった。

 

準備ができたところで、窓の外を見る。今の状況を把握して、タイミングよく登場してやろうと思ったのだ。

 

…しかし、ここで不測の事態が起きる。

 

どかんっ!!という音と共に、窓から見える冒険者ギルドの建物が崩壊したのだ。

 

「え…?」

 

何が起きたのか、すぐに理解した。自分の召喚した悪魔が、冒険者ギルドを木っ端みじんに吹き飛ばしたのだ。

 

「……」

 

一瞬思考が停止する。

 

そして…。

 

「や、やりすぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」

 

狭くてぼろい安宿の一室に、ウルの驚愕の声が響き渡った。

 

 

セリンは、自身の死を悟っていた。

 

冒険者ギルドの扉を雑に明け、怒号をあげながら入ってきた兵士が、『悪魔が街に攻めてきた』という話を聞き、半分パニックになりながら、必要最低限の持ち物を準備した。

 

すぐに準備を終え、街の東側に避難しようとした瞬間、身体が吹き飛ぶほどの衝撃を受け、自身の身体が宙を舞うのが分かった。

 

そして、あまりの衝撃に冒険者ギルドが隣接する大通りに投げ出された。

 

幸い、崩れた建物の下敷きにならなかったが、大きな木の板が、右足の太ももに刺さってしまった。

 

余りの痛さに、歯を食いしばって何とか身体を起こす。

 

…と同時に、目の前に入ってきた光景に目を見開いた。

 

点在するようにして多くの兵士が地面に倒れていた。

 

しかも、その原因を作ったと思われる強大な悪魔もいた。

 

(あれは、いったいなに…)

 

力を推し量ることもできないほどの悪魔であった。

 

足の痛みを忘れてしまうくらいの恐怖が襲った。

 

…だが、更なる絶望がセリンの前に訪れた。

 

なんと、それと同じ悪魔が、冒険者ギルドが崩れたことによりできた瓦礫の山を掻き分けるようにして出てきたのだ。

 

しかも、セリンを視界に捉え、ゆっくりと迫っていた。

 

「い、いやー!!やめて!!!来ないで!!!!!」

 

全身鎧に身を包んだ悪魔が、手に持った燃え盛る大剣を振り上げる。

 

(もうだめだ…)

 

恐怖と、これから来るであろう痛みに耐えるようにして、ギュッと目を瞑る。

 

…しかし、聞こえたのは痛みでも、衝撃でもなかった。

 

ガキンッ!と金属同士がぶつかり合うような音であった。

 

その音を聞き、バッと目を開く。目の前の光景を見て、更に目を見開く。

 

…なぜならそこには、白銀の全身鎧を身に纏った、聖騎士の後ろ姿があったからだ。

 

「よかった…。なんとか間に合いました…」

 

セリンは知っている。この白銀の鎧をまとう人物を。

 

目尻が熱くなり、涙が溜まっていくのが分かった。

 

「ウ、ウルさん…!」

 

「遅くなって申し訳ありません…。でも、もう大丈夫ですよ…」

 

優しく、そしてとても落ち着いた声であった。表情は兜で見えないが、きっと微笑んでいると想像できるものだった。

 

「き、貴様は…!!」

 

悪魔が驚いた声を上げる。

 

「随分と…好き勝手暴れまわってるみたいだな…悪魔ども…」

 

先ほど、自分に向けた声とは明らかに違う、低く、うねる様な声に、セリンは一瞬ビクッと身体を震わせた。

 

「まさか…、我を追ってきたのか…ウル!!」

 

悪魔の声は、非常に大きいものだった。

 

故に、その言葉を聞いて驚いたのはセリンだけではなかった。

 

その場にいた兵士や民も同じことを思っていたに違いない。…互いに知っているのかと。

 

そんな雰囲気を感じ取ったウルは、ニヤリと口角を上げた。

 

「(よしよし、とりあえず伏線ははれたな…)」

 

と思いながら、今度は口を開いてみせる。

 

「私を追ってきた…か…。笑わせるな…」

 

「なに…ぐっ…がっ!!!」

 

ウルの剣が、悪魔の大剣を跳ね返し、右肩から左足付け根まで、鎧ごと斬る。

 

「俺が追ってるのは…お前らみたいな雑魚じゃない…」

 

悪魔がまるで噴水のように鮮血を上げて倒れこむ。

 

その様子を見て、悪魔を含め、多くのモノが驚愕する。

 

一刀両断…。一撃で切り伏せて見せた。

 

斬られた悪魔は、すでに絶命した様子で、ピクリとも動かない。

 

…ここで、兵士団長と睨むようにして立っていた同じ種類の悪魔が、大きく口を開いた。

 

「全軍、あの聖騎士を…ウルを殺せーーーーー!!!!!」

 

民を追っていた悪魔も、建物を壊していた悪魔も、兵士と戦っていた悪魔も、その全てがウルの元に向かっていた。

 

それを見たウルは、セリンから離れるようにして大通りの中ほどまで移動し、刀を構えなおした。

 

 

 

ウルは、悪魔の血が付いた刀を振り下ろす。

 

ビシャッ!という音と共に、刀についた血が地面に零れる。

 

そして、ゆっくりと腰に差さっている鞘に納める。

 

時間にして、およそ5分…。

 

その短い時間で200体近い悪魔を斬り伏せた。

 

ウルはゆっくりとあたりを見回す。

 

セリンもユーゴも、兵士も市民もみな、ウルを驚いた様子で見ている。

 

「(…さすがにやりすぎたかな?)」

 

敵のレベルをもっと調整すべきだったな…などと考えながら、ゆっくりとセリンのもとに歩み寄る。膝を曲げ、目線を下げる。

 

「セリンさん、大丈夫ですか?」

 

「え…。あ、はい…。なんとか…」

 

…大丈夫なわけがない。木の板を二つに割り、割れた側が右足の太ももに刺さっている。

 

ギリギリ骨には到達していないように見えるが、激痛であることに変わりはないだろう。

 

「…じっとしていてください」

 

「え…それはどういう…」

 

「『麻酔(アネステェージア)』」

 

セリンが疑問を投げかけてきたが、それを待たずに魔法を放つ。

 

「い、痛みが消えて…」

 

そのまま木の板を引き抜く。どぷっと鮮血が飛び出すが、続けて魔法を発動する。

 

「『中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)』」

 

セリンの右足にできた刺し傷が、再生するようにして回復する。

 

「ち、治癒魔法…。ほ、本当に聖騎士…なのですね…」

 

「あー…そういえばお伝えしていませんでしたね。…まあ、何より無事でよかったですよ」

 

ガチャガチャと鎧がこすれる音が聞こえる。

 

ウルの鎧の音ではなかった。

 

「お初にお目にかかります。私はカリンシャ城塞都市にて兵士団団長を務めております、ユーゴと申します…」

 

「これはご丁寧にどうも…冒険者のウルと申します。以後、お見知りおきを…」

 

ウルは足を揃え、綺麗な会釈をして見せる。

 

その姿に一瞬目を見開いたユーゴであったが、すぐに表情を戻す。

 

「この度は、このカリンシャの街をお救い下さり、ありがとうございます。あなた様がいなければ、どれほどの被害が出ていたか…。それに、その素晴らしいお力…。一体あなたは何者ですかな…?」

 

ウルの心がチクリと痛む。

 

すまん…。俺がいなければ被害どころか悪魔は出現してません…。

 

「とんでもございません。私は、私のできることをしたまでです。それに…私はただの…流浪の冒険者ですよ…」

 

頑張って言い訳を考えながら、答える。

 

「そ、そうなのですか…」

 

ユーゴはどこか納得していなさそうであった。

 

なんとか話題を変えようと、ユーゴを観察する。

 

「ん…その怪我は…大丈夫ですか?…それに怪我をされている方が多いようですね…。」

 

辺りを見回しながら口を開いた。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

ユーゴはウルからの質問に、自身の傷を確認しながら答える。

 

「なに、擦り傷程度ですよ…。心配はいりませ…え…」

 

ユーゴは発した言葉を最後まで言い切ることなく、疑問の声を上げた。

 

「『広域中傷治癒(マスミドルキュアウーンズ)』

 

その魔法は、ウルを中心に魔方陣が展開されると同時に、負傷している者たちの足元にも展開される。

 

「き、傷が…」

 

「痛くねえ!!」

 

「治ったぞ!!」

 

各所から驚愕と嬉々の声が聞こえる。

 

「なっ!今のは第五位階の…ッ!!」

 

ユーゴは思わず声を張り上げてしまった。

 

「ええ、さすがにカリンシャの街全域は無理ですが…大分回復させることができたみたいですね…。私がもっと早く助太刀できていれば…苦しむ人も少なかったのに…。申し訳ありません」

 

一切疲労を見せない様子で答えている。加えて、自身が来るのが遅かったと謝罪までしている。

 

それがさらにユーゴを驚かせてしまう。

 

「…お、驚きました…。数多の強大な悪魔たちを撃退するだけでなく…第五位階の信仰系魔法まで行使なされるとは…。それに、あなたが謝ることなど一切ありませんぞ…。我々が対処できなかっただけのこと…」

 

ユーゴは開いた口が塞がらなかった。

 

それも当然である。

 

難度100を超えるあの戦車の悪魔を4体も同時に相手取り…加えてそれに劣るとはいえ自身では一騎打ちですら打ち取れないような悪魔がゴロゴロいるなかで、彼はたった一人でそれを殲滅したのだ。…それも傷一つ負うことなく。

 

…加えて、第五位階の信仰系魔法の行使…。剣の腕といい…、魔法の腕といい…、天才とうたわれている聖王女様やそれに使える姉妹を優に超えている。

 

そしてこの物腰の柔らかさと、謙虚さ…。

 

ユーゴはふと彼の首元にかかる冒険者のプレートを見る。

 

銅級である…。登録したばかりなのか…。

 

酷く実力と乖離しているように思えた。いや、確信であった。

 

この目の前の御仁は、間違いなくアダマンタイト級に匹敵する力を持っている。…いや、もはやアダマンタイト級すら優に超えるのではないかという思いさえ芽生えている。

 

「そういって頂けるとありがたいです」

 

「滅相もない…。それにしても、あなたはこの悪魔たちを知っているような口ぶりでしたな…。一体奴らがなぜ現れたか、ご存じですか?」

 

ウルは思わずひゅっと声を出しそうになる。

 

それを何とかこらえ、知らないふりをして見せる。

 

「どこから…それは私にも…」

 

わからない…そう言おうとした。

 

実際には召喚したのは自分なのだが、そんなことは言えないからである。

 

だが、ふっと忘れていた記憶が思い浮かぶ。今の今まで思い浮かばなかった記憶だ。

 

何をもってしてあの悪魔を召喚したのか…。

 

そのアイテムの形、名前、保有していた数、思っていた数とは違うアイテムボックスの表示……。

 

そして、気付く。

 

とんでもないことを忘れていたことに…。いや、その可能性に…。

 

「しぃ…」

 

「え…」

 

ユーゴは、ウルがゆっくりと口を閉ざし、見る見るうちに顔が青ざめているのを見て、酷く困惑した。

 

もしかしたら、何か重大なダメージを負っているのかもしれない…。

 

一番最小に浮かんだのはそれであった。

 

「ウ、ウル殿…だ、だいじょ…」

 

「しまっっったああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ユーゴは今までの人生で、最も強大な声をその耳に迎えることとなった。

 

思わず、ビクッと身体を震わせ、目を瞑ってしまう。だが、一瞬で開いて見せる。

 

目を瞑ったのは一瞬であった。

 

だが、その一瞬で先ほどまでいたウルが、遠くに背中を向けて走り去っていくのが見えた。

 

「ウ…ウル殿!!…い、一体何が…」

 

暫く呆気に取られていたユーゴであったが、少しずつ正常な思考を取り戻していく。

 

いや、まさか…しかしあり得る。

 

悪魔はまだ殲滅しきれていないのかもしれない…。

 

その可能性に気付き、即座に行動に移そうとする。

 

身体を、回復して傷も塞がった自身の部下たちに告げようと後ろを振り向く。

 

だが、その言葉は発することを許されなかった。

 

「こ、これは一体…。侵入した悪魔たちは討伐されたのですか!?」

 

聖王女であられるカルカ様と、その側近であるカストディオ姉妹、そして聖騎士団と神官団が姿をお見せになったからである。

 

 

 

聖王国の女王であるカルカは、自身が滞在していたカリンシャの城下町に悪魔が襲来したとの報告を受け、すぐさま部隊を編制し、出撃した。

 

なぜ悪魔がカリンシャの街の、しかも城壁の内側に出現したのかはわからなかったが、タイミングは悪くなかった。

 

なぜなら、聖王国の最高戦力がカリンシャに滞在しているときに出現したからである。

 

自身もそうだが、最も近い側近の姉妹がいることがとても心強い。

 

首都ホバンスでこの知らせを受けていたら、カリンシャ到着までにはどんなに急いでも2日はかかる。加えて、敵の足止めなどがなくても、部隊進行ともなれば、3日は見なければならない。

 

悪魔の強さや数によっては、その3日でカリンシャが落ちる可能性もあったからだ。

 

不幸中の幸いとは、まさにこのことであると、噛みしめながら馬を走らせる。

 

城下町に降りたところで、街の被害状況が目に入る。

 

そこでカルカは違和感を覚えた。

 

衛兵の話では、立ち向かうほど恐ろしいような悪魔が多数出現していたとのことであった。

 

カリンシャの兵士団長であるユーゴを通して伝えられた伝令だったため、そこに嘘はないだろう。

 

そうすると、少なくとも難度60以上の悪魔が出現していることになる。

 

となると、やはり私とカストディオ姉妹が前線に立つ必要があった。

 

それがこの国の、聖王国の最高戦力であるからだ。

 

…だが、目の前に広がる街並みは、所々破壊された建物が見られるものの、倒壊にまで至っているものは少ない。

 

また、見た限りではあるが、死傷者に関しても非常に少なく感じられた。

 

これに関しては、兵士たちが戦うことを恐れて逃げたとも捉えられるが、それでも少ないことに変わりはない。

 

死傷者が少ないことは幸いなことだが、懸念が残るものであった。

 

その懸念は、側近であるケラルトも感じている様子であった。

 

「カルカ様!!これは一体何が起こっているのでしょう!!!」

 

馬を駆けながらの会話であるため、ケラルトは声を張り上げる。

 

どうやらケラルトも、この異変に気付いている様子であった。

 

「どうしたケラルト!何かあったのか!!」

 

その姉であるレメディオスは、何も気が付いていないらしい。

 

「わかりません!!…とにかく急いで…ッ!!」、『しm…あああああぁぁぁぁぁ…!』

 

「「「……ッ」」」

 

カルカ達は、思わず口を閉ざし、目を見開く。

 

進行方向前方…。恐らくはこの先の十字路を左折した先から叫び声が聞こえてきた。

 

「戦闘準備!!!!」

 

その声を聴き、レメディオスは部隊に向けて声を張り上げる。

 

悪魔との戦闘に身構え、件の十字路を左折する。

 

…しかしそこには、この場にいる誰もが想像もしていない状況が広がっていた。

 

 

「カリンシャ兵士団団長ユーゴ・アルテン…その報告に、嘘偽りはございませんか?」

 

「はい。大いなる四大神の名にかけて、嘘偽りはございません」

 

聖女王カルカは威厳ある言葉で、ユーゴに尋ねる。

 

ユーゴから齎された報告は、にわかには信じがたいものであった。

 

いわく…

 

・悪魔を倒したのは、聖騎士のような白銀の全身鎧を身に着け、珍しい刀と呼ばれる剣を、2本腰に差した男性である。

 

・難度100を超えるような悪魔含む、200体近い悪魔を単騎で、それも一瞬にしてうち倒した。

 

・ユーゴが見た限りでは、一度も攻撃を喰らうことなく倒した。

 

・負傷した兵士や市民に対し、中傷治癒、広域中傷治癒魔法を施した。

 

・横暴な態度はなく、誠実で優しく、謙虚な男であった。

 

・上記偉業を成し遂げたのは、冒険者登録をしたばかりの銅級の冒険者だった。

 

というモノであった。

 

信じられないのも無理はない。

 

もしこれが本当であるとしたら、英雄と言われる存在、いやそれを超える存在であるからだ。

 

冒険者で言えば、最高位のアダマンタイト級冒険者を優に超えるものである。

 

…しかし、カルカもレメディオス姉妹も、ユーゴが嘘をつくとは思えなかった。

 

彼は30年以上聖王国に仕えてきた、いわば古参の忠誠心厚い兵士であった。

 

聖王国の名誉でもある『九色』に名を連ねる程ではないが、その実力と誠実さ、そして真面目さから、ここ北部聖王国の最重要防衛拠点であるカリンシャの防衛を一任されている。

 

カルカは、少し目を尖らせると、隣にいるケラルトに声を掛ける。

 

「どう思いますか…。ケラルト」

 

「わかりませんが…状況だけを見るに真実でしょう…。ユーゴ兵士団長だけでなく、居合わせた兵や民も同じように申しておりますし…」

 

カルカは、ケラルトの言葉に耳を傾けながら、もう一人に声を掛ける。

 

「レメディオス!…どうですか?」

 

レメディオスは、まるで山のように積み上げられている悪魔の死体を見て、真剣な面持ちで答える。

 

「…間違いない。難度100を超える悪魔…。戦車の悪魔だ…。わからない悪魔も多いが…強大な悪魔であることは間違いない…」

 

レメディオスは、剣と戦闘以外はまるでダメな聖騎士である。

 

所作も言葉遣いもその他諸々、聖王女の傍に仕えるには足りていないところが多い。

 

レメディオス自身もそれは自覚しているところである。故に、いつもであれば、適切でない言葉を用いたとしても、なんとなく修正をしようとする。

 

だが、今はその素振りすらない…。少し遠目で分かりにくいが、冷や汗をかいているようにも見える。

 

「…では、その戦車の悪魔…一対一であれば、あなたは勝てますか?」

 

「無理だ」

 

迷いないその言葉に、カルカだけでなく、ケラルトやその後ろで待機する聖騎士団と神官団も驚きを隠せない。

 

聖王国の聖騎士団団長…つまりは聖王国最強のレメディオスをもってしても勝てないのであれば、単騎で倒せるものなどこの国にはいないからである。

 

「しかも…見える範囲ではあるが、全てただの一太刀で仕留められている…。もちろん、戦車の悪魔もだ…それも4体全て…。おい!一体何者なんだ、そいつは!」

 

レメディオスは、鋭い眼光と大声をユーゴにぶつける。

 

「…冒険者の、ウルと名乗っていました。それ以外はなにも…」

 

「ウル…」

 

質問をしたのはレメディオスであったが、何かを考え込むようにして小さく口を開いたのはケラルトであった。

 

「…少なくとも、一度そいつに会う必要があるな…いや、ありますね」

 

レメディオスのいつもの悪い癖が戻った。どうやら少し余裕ができた様子だ。

 

「そうですね…それで、そのお方はどちらに?」

 

カルカは、首を回し探すようなそぶりを見せる。

 

「それが…聖王女様一行と入れ替わる形で、この場を離れまして…何やら青ざめた様子で大声を出しながら、カリンシャの東門の方向へ駆けていきました」

 

ここで、直前に聞いた大声の正体が、ウルであったことカルカ達は知ることになった。

 

「あの大声は、そいつの仕業だったのか…」

 

「ちょっと待ってください…なぜ彼は大声を発して走り去っていったのでしょう…」

 

レメディオスが怪訝な様子を見せるが、カルカはそんなレメディオスを気にも留めずにユーゴに疑問をぶつける。

 

「わかりません。わたしが気付いた時には、もう引き留められないほどに離れていましたから」

 

その言葉を聞き、カルカは小さくため息をつく。

 

悪魔が討伐されたことは喜ばしいことである。

 

死傷者も、侵攻してきた悪魔の力と数を考えるとありえないほどに少ない。

 

加えて、レメディオスを超える力を持つ聖騎士…さらには自身やケラルトを超えるような信仰系魔法詠唱者である可能性もある。

 

もし本当にそうであれば、聖王国にとって、特に北部聖王国にとっては非常に大きな戦力となる。

 

だが、それを確かめるにも少し時間がかかりそうだ。

 

なにせ、その本人がここにいないのだから。

 

「…何かに気付いた…?しかし、悪魔はすでに…。だが、そうでなければなぜ…」

 

隣にいるケラルトが、何やら小難しいそうな顔でブツブツと呟いている。

 

回る頭がないレメディオスとは違い、ケラルトは非常によく頭が回る。…周りの人間から腹黒女と呼ばれるほどに…。

 

カルカはそんなケラルトを観察するようにして暫し眺めいると、ケラルトの目が少し見開かれたのに気付いた。

 

「ケラルト…どうしましたか?」

 

「姉さま…悪い予感がします…。姉さんや私を超えるかもしれないウルという冒険者…。その彼が、発狂して、青ざめてまで駆けていった…。それも、カリンシャの東門方向…」

 

ケラルトのゆっくりと、自身が推察した考えを述べる。

 

「ん…?何が悪いんだ??」

 

…どうやらレメディオスは何一つ気が付いていない様子である。

 

カルカは目を見開くと、少し怯えの見える視線をケラルトに送る。

 

「ま、まさか…アベリオン丘陵から、亜人が…もしかしたら悪魔も一緒に攻めてきたと?」

 

ケラルトはゆっくりと、そして少し震えた様子で口を開いた。

 

「…それに気づき、急いで向かった…とは考えられませんか?…兵士団長達の話では、誠実で優しく、謙虚な人柄だったとのこと…。可能性としては考えられます」

 

 

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