【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第29話 救援要請

三魔皇が撤退を見せたアベリオン丘陵、中央砦門前は異様な静けさを生みだしていた。

 

この静けさは、先の戦いによって生み出されていた圧倒的な戦闘が止んだことが大きいが、それ以上の感情がその場にいる人々の心に宿っているからである。

 

…ウルの敗北である。

 

ポツリポツリと、涙のように雨粒が天から滴り落ちる。

 

次第にそれは強くなり、ゲリラ豪雨にも似た大雨へと変わる。

 

自身の身体が濡れ、髪の毛がその水分を吸いきれなくなってもまだ、カルカはその場から身動きひとつ取ることはできなかった。

 

それどころか、言葉一つも、視線すらも動かない。

 

目の奥には、光さえ失いかけている。

 

そんなカルカの様相に最初に気が付いたのは、レメディオスであった。

 

レメディオス自身の心中も、穏やかではない。

 

怒りと憎しみの感情に支配されそうな心をなんとか持ち直し、カルカの肩を両手で抱き、声を掛ける。

 

「カルカ様ッ!!カルカ様ッ!!!」

 

しかし返事はない。視線すら交差しない。

 

レメディオスは、涙だか雨だかが染み込むのを、瞼をギュッと閉じて阻止し、もう一度カルカに向かって声を張り上げる。

 

「ッ!カルカ様!!!ウルを、ウルを助けに行きましょう!!」

 

カルカの視線が、ようやく少し動きを見せる。

 

「たす…ける…?」

 

レメディオスは、ここぞとばかりに畳みかける。

 

「そうですッ!ウルは死んでない!!きっと…きっと生きています!!虫の息で…苦しみながら、我々の助けを待っています!!だから…ッ!!」

 

レメディオスの声が少しずつ涙ぐんだものになる。

 

その言葉と様相に最初に気付き、口を開いたものがいた。

 

「…そうよ、死んでない…。助けに行かないと…ッ!」

 

先ほどまで四つん這いになってピクリとも動かなかったケラルトが、ゆっくりと立ち上がる。

 

真っ赤に晴れ上がった瞼を持ち上げ、レメディオスと同じようにカルカの傍へと移動する。

 

「カルカ様…北へ…ウルさんが落ちた場所へ行きましょう…。助けに、行きましょうッ!!」

 

「助ける…ウル様を…ッ…ッ!」

 

カルカの目に光が宿る。と同時に、だらしくなく下がっていた両腕に力が入る。

 

「レメディオス…ケラルト…急ぎましょう…ッ!」

 

カルカの目に、生気が戻る。言葉にも力強さを感じる。

 

それは、いつものカルカ、聖王女としてのカルカの力強さであった。

 

それを見たレメディオスとケラルトは顔を見合わせ、聖騎士団と神官団に準備を急がせた。

 

 

ウルが敗北を喫してから一夜が明けた明朝、カリンシャは絶望に包まれていた。

 

それは避難生活に疲れたわけでも、アベリオン丘陵から亜人たちが襲来したからでもない。

 

ウルが敗北し、あまつさえ未だにウルが行方不明であったからだ。

 

しかも、安否すらも不明な状態で、である。

 

ウルによって活気が齎された街であるがゆえに、それは酷く人々の心情に現れていた。

 

ある者は失意のままに家に閉じこもり、ある者は絶望のままに泣き叫び、ある者は焦りのままにカリンシャを飛び出してウルの捜索に向かったり…様々であったが、そこに笑顔も明るさもなかった。

 

…それは、ウルの屋敷でも同様であった。

 

ケラルトから詳細を聞かされた際には、皆が仕事の手を止め、絶望の表情を顔に滲ませていた。

 

こいつは一体何を言っているんだ…と…。

 

しかしなれど、それはケラルトが持ってきたとあるモノによって現実に引き戻される。

 

ウルの白銀の鎧、いや、鎧だったもの、と表現した方が適切であろうか?

 

白銀の輝きは失われていた。

 

焼けこげたような跡に、融解したような変形、欠損というにはあまりにもひどい大きな穴や欠け…そんな状態であった。

 

…しかし、皆は瞬時に理解してしまう。

 

誰よりも長く、ウルのそれを見てきたからこそ、それがウルの鎧であると理解してしまう。

 

膝から崩れ落ちるもの、その場で固まって動かないもの、様々であったが、皆一様に絶望を滲みだしている。

 

…そんな中で、一番最初に冷静さを取り戻したのは、ルカであった。

 

ルカはケラルトから再度詳細を聞き出しつつ、ウルの鎧を受け取る。

 

そして考える…。最善の策を…行動を…。

 

…それは、ウルが生きていることに全ての望みをかけたものであった。

 

ルカからすれば、ウルが死んだかもしれない、などという感情は持ち合わせていなかった。

 

もちろん、目の前にいるケラルトも、恐らくカリンシャの城で失意のままに項垂れているであろうカルカも、レメディオスや他のあらゆる人々も、ウルが生きていることを信じているだろう。

 

しかし、そこにはもしかしたら…。という感情が隠れている。

 

だがルカは違う。

 

生きていると信じて疑わない。

 

故に、行動も早かった。

 

ルカがとった最善の行動はいたってシンプル。

 

ウルが見つかるまで探すことであった。

 

しかし、感情に流されて全てを捨てる程、ルカはバカではなかった。

 

屋敷の管理についても抜け目なく考える。

 

ウルを探しだす者として、自身をリーダーとし、クルミとフォーサイトの4人が選出された。

 

もちろん、戦力を考えての選出であった。

 

今回は異例中の異例として、自身とクルミ、両方が屋敷から離れる決断をした。

 

屋敷の戦力はクレマンティーヌとレイナース、そして黒の剣という、ルカからすれば必要最低限を少し下回るもの…。

 

ルカの本気度が窺えるものであった。

 

……。

 

さて、屋敷の面々がウルの捜索を決定した頃、ケラルトもカリンシャの城に戻って次なる対策を講じる。

 

ケラルト達に、聖王国が為さねばならないことは2つ。

 

1つはウルの捜索である。

 

これは、戦いが終わった直後から実行しており、カリンシャ及びここからほど近い小都市ロイツから動員できるだけの兵や人員を割いて事に当たっている。

 

今より行動を起こさなければならないことがもう1つ…。

 

それは、救援要請である。

 

先の捜索が明るい結果を生みだしたとて、全てが丸く収まるわけではない。

 

1か月後にはまた、三魔皇が雁首揃えて聖王国に攻め込んでくるのだ。

 

しかも今度は、吸血鬼シャルティアを引き連れてくる可能性もある。

 

そこの関係性についてはよくわからないが、王都襲撃の際に協力関係に近いものがあった以上、攻めてこないとも限らない。

 

それはつまり、たとえウルを発見し、全快に近い状態まで回復したと仮定しても、また同じように敗北し、今度こそ死んでしまう可能性が高かったからだ。

 

故に、ウルと同等の力を持つものに協力を仰がなくてはならない。

 

筆頭は漆黒のモモンである。

 

王国からの報告によれば、モモンはヤルダバオトに優勢に立ち回り、撃退したという実績がある。

 

加えて、ウルと旧友の中で、その実力はウルと同格とされている。

 

救援要請に応じてくれる可能性は高い。

 

ひとつ大きな不安要素はあるものの、しかしそれは次の人物への協力申請と被るところでもある。

 

次点で、アインズ・ウール・ゴウン魔導国である。

 

その王である魔導王は、ウルと一騎打ちをし、互いに死にかけたという因縁はあるものの、公式の見解上では和解という形で、互いに報復等は行っていない。

 

聖王国として、さらにケラルト自身、個人的に思うところはあれど、背に腹は代えられない。

 

魔導王の元には、力を持った強者が数多くいる。

 

その中の誰か一人でもよい。

 

モモンと、魔導国の強者…そして生きているはずのウル。

 

この3者をもってして、三魔皇、最悪はプラスシャルティアに対抗する。

 

これしか、もうこれしか、聖王国に残された道はなかった。

 

……。

 

ケラルトは、カルカの私室に入る。

 

カルカが私室の椅子にまるで座ったまま死んだように、失意に支配されるようにして肩をすぼめて座っている。

 

ふとベッドに目をやる。

 

枕元は遠目でもわかるくらいに色が変わっている。

 

ケラルトは、締め付けらる胸の痛みを感じながら、ゆっくりと息を吐く。

 

無理もない。

 

ウルは生きている。

 

それはカルカも信じていることであろう。

 

しかし、その一打目は打ち砕かれたのだ。

 

ウルが墜落したと思われる場所は把握している。

 

まるで隕石が落下したような現場…。

 

脱落した白銀の鎧…。

 

そこに散らばるようにして地面を染める赤黒い血…。

 

だがしかし、そこにウルの姿はなかった。

 

その時のカルカの表情や様相など、思い出したくもない。

 

それほどまでに、カルカの絶望は大きかったのだ。

 

…しかし、そんなカルカを労われるような状況に、今はない。

 

ケラルトは、心を鬼にして、失意に沈むカルカの肩を抱き、ゆっくりと口を開いた。

 

 

ウルの敗北と支援要請は、同時に各国へ早馬による書状をもってして伝わった。

 

その書状によって、突出して反応を見せたのは、帝国であった。

 

バハルス帝国は、王国を挟んでの地理上の問題から、明確な支援を行うのが困難ではあったが、同盟関係を結ぶ魔導国、及び隣国である王国との確固たる連携をもってして、聖王国からの要求を可能な限り、多少の無理をもってしても応えるという返答を行った。

 

加えて、支援とは異なるが、ジルクニフの心情としては、計り知れない焦りと嘆きがあった。

 

個人的には、ウルのことを友人として捉えていたからだ。

 

そして、人間で唯一、魔導王という化け物に対抗できる人物であることが大きい。

 

人類国家が生き延びるうえで、ウルという存在はもはや聖王国だけに留まるレベルではなかったのだ。

 

それが、ここに来ての安否行方不明である。

 

それも、三魔皇全員を相手取り、敗北を喫したうえでの…。

 

「ッ!なぜわが国にはウルに匹敵する英雄がいないッ!!」

 

ジルクニフは、頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべる。

 

魔導国に与したとはいえ、王国にはモモンが。

 

魔導国には魔導王を除いてもウルと同格と思われる強者が数名…。

 

法国と評議国にもウルに近しい力を持つものの存在を匂わせるものがある…。

 

だが帝国にはそれに近しいものなど皆無であった。

 

ジルクニフがそんな風にして悩んで見せていると、後ろに控えるように立っている老人がゆっくりと口を開く。

 

「陛下…老骨ではありまするが、このフールーダ、聖王国に助太刀をするご許可を頂きたく…」

 

「…爺…」

 

それはジルクニフも一瞬思考を巡らせていたことだ。

 

この戦いにおいて、聖王国が真っ先に戦力的支援を要請するのは王国と魔導国であろう。

 

王国は蒼の薔薇あたりに、魔導国にはモモンを要請すると考えていた。

 

…もはやこの時点で帝国の立場は危うい。

 

加えて先のカッチェ平野での大戦…。

 

魔導王の虐殺ともとれる魔法の使用を要請したのは、何を隠そう帝国なのである。

 

意図はあれど、各国からすれば、王国はもとより、聖王国もいい思いは抱いていないであろう。

 

…ウルを死の淵に追いやってしまったのだから。

 

その上で、今回の聖王国三魔皇侵攻へのまともな支援を行わなければ、さらに溝は深まる。

 

それどころか、魔導国、聖王国、王国の確固たる絆と友好的な国交の樹立、同盟国としての繋がりもありうる。

 

帝国が魔導国に見放されてしまうというのも否定はできない。

 

ジルクニフは、脳みそを絞るようにしてフールーダに視線を送る。

 

「頼めるか…フールーダ…。帝国の名を背負い、ウルを、聖王国を救って…いや、恩を売ってきてほしい…。帝国に敵意はないと、味方であるという意思を示してほしい…」

 

「おまかせくだされ…。人類にとっても魔法の深淵を探求する者としても、ウル殿を失うわけにはいきますまい…」

 

フールーダは準備を進める。

 

高弟たちを引き連れ、聖王国への長い道のりに足を踏み出す。

 

自身が慕う、師の片割れを救いに…。

 

 

カルカは、神官団団長であるケラルトと、聖騎士団副団長の片割れであるグスターボ、それから聖騎士団と神官団の一団を率いて、王国の首都へと向かっていた。

 

それ以外にも、聖騎士団等を援助するための従者も多数連れており、その中にはパベルの娘であり、聖騎士見習いのネイアの姿もあった。

 

ちなみに、レメディオスは、お留守番をくらっている。

 

というより、彼女には使節団としての交渉よりも、その強靭な肉体と身体を使ってのウル捜索の方が適していると判断され、聖王国主導の捜索隊のリーダーを任せていた。

 

副リーダーとした聖騎士団副団長のイサンドロの胃が心配ではあるが、今はそんなことを言っている場合でもない。

 

馬車を率いての王国来訪であったため、カリンシャから5日はかかるであろう道のりであった。

 

しかし、切迫した状況であることを加味し、スケジュールを無理のない範囲で過密に設定し、王国首都へは4日で向かう手筈となった。

 

馬車の中で、カルカはウルに伝言を飛ばす。

 

もう何度目かわからないそれは、やはりプーッという音を鳴らすだけで、最愛の男の声を聴くには至らない。

 

手を膝に落とし、伝言の指輪の宝石部分を優しく撫でる。

 

「…ウル様…ッ…」

 

自然と涙が零れる。

 

「カルカ様…」

 

それを見たケラルトが、目を細める。

 

「生きています…。必ず姉さまが…ルカさん達が見つけてくれます…」

 

「ケラルト…そうよね…。きっと大丈夫…きっと…ッ」

 

しかし、その言葉に覇気はなかった。

 

それが、ケラルトを更に苦しめる。

 

「カルカ様…、どうか先方の方々に会う際には、その時だけでも、気を強く持っていただければと…」

 

「ええ、わかっているわ…。聖王女としての責務は必ず果たして見せます…。私も、いつまでもくよくよしているわけにはいきませんもの…」

 

カルカは、右手で指輪のついた左手を包むようにして手を重ねた。

 

 

 

先の戦いの報が入るのと同時に、聖王国の使節団、及びカルカ聖王女殿下が来訪すると聞き、王国は大慌てで準備を進めていた。

 

王国にとっても救世主である白銀の聖騎士、ウルの敗北と安否及び行方不明を受け、ランポッサ3世は国を挙げての救援を決定した。

 

しかしなれど、敵が敵なだけに、無暗に兵を送ることはかえって愚策であることは承知しており、聖王国から要請のあった内容に沿って準備を進めていた。

 

それはアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇への救援要請であった。

 

すぐさま王命と称して、蒼の薔薇を宮殿に招集し、先の報告をそのまま伝える。

 

本来であれば、冒険者である彼女らに、国として他国の支援を要求するのはお門違いであるが、今回は訳が違う。

 

相手が三魔皇である以上、狙いは聖王国だけではない。

 

現に数か月前は、まさにここが襲撃に会ったのだ。

 

その際に手を貸してくれたのが、聖王国のウルであった。

 

もちろん、聖王国が国として派遣したわけではない。

 

ウルが個人的に王国を訪れ、タイミングよく襲撃があった。

 

ただそれだけである。

 

しかしなれど、それで済ませられるほど、受けた恩義は小さくなかった。

 

それは国王だけでなく、蒼の薔薇も感じているところがあり、異例ではあるが、聖王国の使節団、そしてカルカ聖王女との面会を受けるに至ったのだ。

 

数日後…。

 

王都に、あまり見慣れない国の旗本を掲げた一団が現れる。

 

ローブル聖王国の旗本であった。

 

王都全体が、それを真摯に迎え入れ、王城へと促す。

 

聖王国と王国の王族が直接面と向かって会うのは、8年ぶりのことであった…。

 

 

 

ランポッサとの謁見と面会はその日のうちに行われ、要求もすんなりと通った。

 

その見返りではないが、聖王国側は、三魔皇の詳細な情報を伝える。

 

姿、形、強さ…あの場で確認できた情報を事細かく言葉にした。

 

しかし、国王や傍に控えるガゼフの見解との相違があった。

 

それはヤルダバオトの見た目と特徴であり、王都では聖王国でみせた真の姿を確認していないということであった。

 

それは王国に攻め入った理由と聖王国に攻め込んできた理由の違いもあるとして話を終えた。

 

さて、本題はここからである。蒼の薔薇の面々との面会である。

 

今回のカルカ達の達成すべき条件は2つ。

 

1つは、蒼の薔薇に対して派遣要請を出すこと。

 

国王からも許可を取り、かつ王命で指示も出すとのことだったので、こちらはスムーズに進むであろう。

 

もう一つ、こちらが重要であった。

 

それは漆黒のモモンの情報と、彼が滞在するエ・ランテルの状況。そして魔導国との関係であった。

 

「なるほど…。つまり、モモン殿がエ・ランテルと魔導国との緩衝材の役割をしていると?」

 

「はい、エ・ランテルの住民からはそう聞いています」

 

ケラルトの出した答えに、リーダーのラキュースが丁寧に答える。

 

「ではやはり、漆黒のモモンへの要請は、魔導王への要請になる…ということでしょうか?」

 

「…そういうことになるな…」

 

カルカの疑問には、イビルアイが低く唸るようにして答える。

 

何かが気に障ったのだろうか?少し不機嫌な様子であった。

 

「…私たちが行ったところで、まともに戦えるのかは疑問…」

 

「ウルを見つけ出さないと、話しにならない…」

 

ティアとティナがカルカに応答を求めるようにして口を開く。

 

「王女様よ…。実際のところはどうなんだ?…三魔皇全員を相手取って、ウルの奴が無事とは思えないんだが…」

 

ガガーランの言葉に、カルカは表情を歪める。

 

「…ウル様が落下、いたと思われる場所は見つけましたが、ウル様の発見には至っておりません…。もちろん、捜索は続けております…」

 

暫しの沈黙が流れる。

 

そして、それを破るようにしてイビルアイが口を開く。

 

「…奴なら無事だろう」

 

「…何でそう思うんだ?」

 

ガガーランは不思議そうに口を開いた。

 

「奴は強い上に頭がいい…。自分の力量も把握できている。三魔皇全員を相手取った時点で、負けはわかっていたはず…。それでも戦いを挑んだのは、奴らを倒す為ではなく、撤退に追い込みたかったのではないか…?」

 

「どういうこと?」

 

ラキュースも疑念を持って口を開く。

 

「…負けるのはわかってはいたが…退()けなかった…。違うか?」

 

「…その通りです。私達を巻き込まないために、守るために、ウル様は戦っておられました」

 

カルカは、ヤルダバオトが去り際に残した言葉を思い返しながら、両手をギュッと握りしめる。

 

「…それが一体、ウルが無事であることと何が関係あるの?」

 

「…奴なら、ギリギリまで粘って三魔皇の体力を削った上で、転移の魔法で逃げることもできる…。遺体が見つかっていないのも、転移で逃げた可能性が高い、とは思えないか?…鎧だけ残っていたのは、鎧を囮に使ったのかもしれん…」

 

皆の顔に、驚きの表情が浮かぶ。

 

それと同時に、希望に似た光が目に宿る。

 

と同時に、扉がノックされる。

 

「…来たわね…入っていいわよ…」

 

ラキュースがノックに返事を返すと、一人の少女と青年が入ってくる。

 

「遅くなりました…」

 

「ラ、ラナー王女様…」

 

カルカ達一行が、瞬時に椅子から立ち上がる。

 

「そのままで結構ですよ…カルカ聖王女陛下」

 

「……はい」

 

ラナーは、スタスタと蒼の薔薇の隣の椅子へと足を運ぶ。

 

そして、一呼吸置いた上で、カルカに視線を合わせる。

 

「さて、カルカ様…。個人的には言いたいことは山ほどございますが…。まず初めに…」

 

ラナーの言葉に、些少の怒りが滲んでいるのが分かった。

 

酷く珍しいことであるのか、傍に仕える青年も、蒼の薔薇のメンバーも驚きを見せていた。

 

「…なぜ、なぜウル様を退かせなかったのですか?」

 

ラナーの言葉に、カルカの心臓がキュッと締め付けられる。

 

「三魔皇全員が相手となれば、ウル様でも勝てない可能性があった…。いえ、高かった…。それなのになぜ、そのまま戦わせたのでしょうか?」

 

「そ、それは…ッ!」

 

ラナーの言葉に言い返せず、カルカは押し黙るようにして視線を落とす。

 

「わかりますよ。信じたかった…。ウル様の勝利を、愛するお方の強さを…。ですがそれは感情論…。

 

感情とは、明確な理論の上にあってこそ、初めて成り立つもの…。違いますか?」

 

「…その通りです」

 

「三魔皇が2体までであれば、ウル様お一人でも対処できたのではないですか?…しかし3体ともなれば別…。あなたは聖王女として、その時点でウル様を退かせるべきだった…。そうすれば、少なくともウル様が行方知らずということは避けられた…」

 

「………ッ!」

 

カルカは何も言い返せず、黙りこくる。

 

少しの沈黙のあと、ラキュースが助け舟を出す。

 

「ラナー…もうその辺で…それはカルカ様も痛いほどお分かりになっていることよ…」

 

「ラキュース…そうね…。カルカ様、失礼な発言をお許しください…」

 

「…いえ、全くその通りです…。何の根拠もなく、何の確証もなく、ただただウル様の強さと優しさに縋ってしまった。…私のミスです…」

 

カルカは、何とかこらえていた涙を、しかし一つポロッと落とす。

 

それを見て、ラナーは微笑をもらす。

 

「きつい言い方をしてしまいましたが…それはウル様を想ってのこと…。それに、私もあなたと同じ立場であったなら、そう考え、実行していたかもしれません…」

 

「…ラナー王女…ッ」

 

ラナーはカルカの横へと歩み寄り、その手をきゅっと握りしめる。

 

「…カルカ様、ウル様であれば大丈夫です…きっと、いえ必ず無事です…」

 

「ッ!はい…!」

 

ローブルの至宝と、黄金の姫が涙を浮かべながら手を取りあう…。

 

輝く2人の宝石が、ある一人の男を想い寄り添う姿は、まるで黄金郷のような雰囲気を醸し出していた。

 

…片方の精神が正常であれば、その輝きはより増していたであろうが、それを認知する者は、この場には居合わせていなかった。

 

 

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