【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第31話 戦争準備

ウルがナザリックに滞在してから、15日が経過していた。

 

アインズとナザリックが転移してきてから、ちょくちょくナザリックに足を踏み入れることは多かったが、2週間以上滞在するのは初めてのことであった。

 

というよりも、今までは長くても2日程度であったため、今まで見えなかったナザリックの裏側や動きを観察することができた。

 

まず、ここはブラック企業である。

 

リアルの日本すら赤子に思えるほどのブラックぶりである。

 

まず、殆どの僕が、休みというモノを取らない。

 

というよりも、休憩どころか睡眠も殆ど取らない様子であった。

 

アインズからの指示で休暇という制度が導入されたらしいのだが、それが浸透しているとは思えないほどの働きぶりであった。

 

そしてもう一つが、命令に近い要求をしないと、ウル自身に1秒たりとも自由がないということであった。

 

どこに行こうが、何をしていようが、誰かしらが傍に控えているのだ。

 

一般メイドしかり、プレアデスしかり、時には階層守護者のときもある。

 

ウルですらこれなのだ。

 

恐らくアインズはもっと自由のない生活を送っているのだろう。

 

ウルは心の中で、アインズに敬意を表した。

 

そして、自身の聖王国での生活に大いなる感謝を示して見せる。

 

さて、そんなウルであったが、今は実に強大な、それもこの世界に来てから一番の疑惑と恐怖を抱いていた。

 

それは、とあるNPCの行動であった。

 

最初に小さな疑問を抱いたのは、一般メイドが食事をするために設けられた食堂であった。

 

この食堂には、通常であれば一般メイドとプレアデス、他少数のNPCや僕しか足を運ばない。

 

食事を必要とするNPCが少ないからである。

 

しかし、ある時期を境に多くの者がこの場を訪れるようになった。

 

それは、ウルがヘロヘロ、ホワイトブリム、ク・ドゥ・クラースと一般メイドの集合写真を貼り出してからだ。

 

一般メイドはもちろん、ソリュシャン、その他多くのNPCが、至高の41人のうちの3人が映っている写真を拝みに来ているのだ。

 

それも、毎日である。

 

故に、些少の疑問を持つことができた。

 

ウルが知りえるNPCの中で、ただの一度もこの場に現れなかったものがいるからだ。

 

…アルベドである。

 

創造主ではないから…、と言ってしまえばそれまでなのだが、しかし疑問に思った。

 

他のNPCがそれほどまでに足を運んでいる中、アルベドは興味すらないと言った印象であった。

 

その些少の疑問は、いつしかアインズさんの過去の行動に到達する。

 

アルベドの設定を書き換えたことだ。

 

『ちなみにビッチである』を、『モモンガを愛している』に書き換えたというモノである。

 

それを聞いた時は、盛大に笑い転げたものであるが、今のウルにその感情はない。

 

些少の疑問は、一つの疑惑へと発展する。

 

その上でアルベドの言動をよく観察してみる。

 

…しかし、さすがはデミウルゴスと同等の知恵者である。

 

おかしなところや疑問に思う点は一切見当たらなかった。

 

ウルは考える。何か突破口がないかを…。

 

そしてたどり着く。

 

もしかしたら、アルベドの私室、スイートルームの一室に何か手掛かりがあるかもしれないと。

 

不可視化はもちろん、探知阻害、認知阻害など、できうる限りの対策を講じる。

 

そして、アルベドの部屋の前へと移動する。

 

一瞬でも自身が居なくなったという事実を作り出さないため、傍控えの一般メイドには、感知できない程精巧に作り上げた幻影を見せている。

 

女性の部屋に勝手に入るという、変態的行為に一瞬身を固めるが、意を決して部屋に入る。

 

中には誰もいない…。

 

当たり前である。

 

アルベドはいま、執務室にいるのだから。

 

この時間は、決して自室には来ないということをウルはここ2週間で把握済みであった。

 

しかし、そう長くはいられない。

 

安全を考慮すれば、精々10分程度であろう。

 

一歩踏み出す…。

 

一瞬で見つけてしまう。

 

疑念を、疑惑を、悉く肯定するあるものを…。

 

「最悪だ…。やっぱりそうだったか…」

 

ウルは些少の震えをもって、それを声に乗せる。

 

部屋の隅の床に、アインズ・ウール・ゴウンの旗が乱雑に置かれている。

 

それも、何度も踏みつぶした跡も見られる。

 

視界を上へと向ける。

 

壁には、モモンガさんのマークの入った旗が一切の皺なく飾られている。

 

「…アインズ、いやモモンガさんのことは愛している…。だが、アインズ・ウール・ゴウンは…至高の41人はそうじゃない…」

 

一呼吸おいて、再度口を開く。

 

「それどころか、恨んでいる…。理由はなんだ…?」

 

ふとユグドラシル時代のことを思い出す。

 

そして、合点がいく。

 

「モモンガさんを…悲しませたから…。ナザリックを去ったからか…。俺に忠誠に近いものを見せているのも…全て辻褄があう…」

 

ウルはそこまで思考を張り巡らせたところで、ゆっくりとアルベドの私室を後にする。

 

そして、一般メイドに怪しまれないよう、幻影を解除しながら入れ替わるようにしてもとに戻る。

 

…一切怪しまれていないようであった。

 

ウルはベッドにバフンッと飛び込む。

 

それを見た一般メイドが少し驚いて見せる。

 

「大丈夫ですか?ウル様…」

 

「ああ、大丈夫だ。リュミエール…」

 

ウルはうつ伏せから仰向けに切り替え、再び思考を再開する。

 

「(アインズさんに伝えるか?…いや、それでどうなる?…知ったところで、あの人がアルベドを始末できるとは思えない…。デミウルゴス…は論外だな…。あいつが知ったら、とんでもないことになりそうだ…。いや、些少の疑問はすでに抱いているかもしれない…。だが悪手だな…。ならパンドラズ・アクターか?…いや、俺自身が関りが少ない…。奴がどう思っているかは不明だ…)」

 

そこまで考え、思考の方向性を変える。

 

「(だが、別にアルベドが悪いわけじゃない…。その感情は理にかなったものだ…。実際、弐式もヘロヘロも、ウルベルトも…他の奴らもみんな、ナザリックを捨てたも同然だからな…。そもそも、誰も悪くなんてないんだよな…)」

 

ウルは右側に身体を傾けて大きくため息をつく。

 

「(アルベドの考えを改めさせる…。それしかないか…。アルベドにリアルの知識はない…。リアルを優先した…くらいにしか思ってないはずだ…。あのタコ…タブラさんが何か吹き込んだ可能性はあるが…。それでも俺とアインズさんが口裏を合わせればどうとでもなる…。だが、今の状況なら別にこのままでもさして問題じゃない…。行動に移すとすれば…)」

 

「誰かがこっちに来た時…だな…」

 

ウルはリュミエールにも聞こえないような小さな声で、呟いて見せ、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

魔導王の協力をこぎつけたカルカ達一行は、一夜を明かした後、数日前に通った街道を再び進み、聖王国へと向かっていた。

 

魔導王は、魔導国自前の馬車で移動するとのことだったので、従者のネイアとグスターボを傍仕え兼護衛としてつかせた。

 

カルカとケラルトの二名は、もちろん聖王国から連れている別の馬車に乗っている。

 

「はぁ……」

 

カルカの大きなため息が馬車内に響く。

 

しかし、そのため息は決して失意によって齎されたものではなかった。

 

「…カルカ様、顔が真っ赤ですよ」

 

「えっ!…そ、そうかしら…」

 

カルカはケラルトの指摘を受け、思わず顔を隠すようにあたふたとして見せる。

 

そんなカルカを見て、ケラルトは微笑をもらす。

 

「まあ、気持ちは、わかりますけどね…。ウルさんのことをお考えだったのでは?」

 

「うっ…。そ、そうよ…。でも、まさか偽名だったとは思いませんでした…」

 

「…まあ、訳アリの冒険者とは言っていましたから…。本名というわけにはいかなかったのでしょう…。元とは言え、地位が地位ですし…」

 

ケラルトは、馬車の外に流れる景色をぼやッと眺めながら口を開いた。

 

…恐らく、生きてきた中で1,2を争う程の衝撃であった。

 

ウルの出身国名や名前に関しては、まあ驚きはしたが、それだけである。

 

しかし、もう一つ、残りの一つは心臓が止まりかけたほどの衝撃だったことを思い出す。

 

なんなら、今でも驚きで心臓が強く打ち付けているのが分かるほどであった。

 

「まさか…王族であらせられたなんて…。それも、第一王子…」

 

「ええ、まあ、所作や言葉遣いから貴族かもとは思っていましたが、まさかその上をいくとは…」

 

カルカとケラルトは、トロンとした目で虚空を見つめる。

 

そして、何かを決したようにケラルトが凛々しい顔つきで口を開く。

 

「カルカ様、この戦いに無事に勝利をおさめたら…正式に婚姻の申し込みをされてはいかがでしょう?」

 

「ふぇっ!!…そ、それは…その…。告白を…ということですか…?」

 

カルカは、顔の色をゆでだこに変えて狼狽えて見せる。

 

「…カルカ様が本気で婚姻を申し込めば…魔導国への誘致の牽制になるかもしれません…。魔導国が何をもってウル殿と交渉を進めるのかはわかりませんが…」

 

先ほどまでの惚気を、カルカは一瞬にして吹き飛ばす。

 

「…そうですね…。ですが、領地や爵位であるならば、聖王国にも対抗手段はあります…。なにより、ウル様はそれらをあまり求めていません…」

 

「ええ、カルカ様の身一つで、ウル殿を引き留めれ置けるやもしれません…。まあ、まずはウル殿が生きていると願うばかりではありますが…」

 

「生きています」

 

ケラルトの言葉に、カルカは想像以上の怒気を孕んだ声を発する。

 

「…失言でした」

 

ケラルトは、瞼を閉じ、軽く頭を下げる。

 

「…いえ、ごめんなさい…。実のところ、私もそう自分に言い聞かせている部分があります…」

 

「カルカ様が謝られることではありません…。すべては私や姉さまの力不足によるもの…」

 

「…それは、私も同じです」

 

ケラルトとカルカは、再び失意の沼にはまって見せる。

 

こんなことではだめだと、ケラルトはすぐにその思いを断ち切る。

 

「カルカ様…」

 

「なに?ケラルト…」

 

「…この戦いが終わったら、ウルさんとゆっくり過ごしたいものですね…」

 

カルカは思わず目を見開いた。

 

そして、顔を少し赤らめ、小さく笑いかける。

 

「そうですね…。平和な聖王国で…一緒に…」

 

カルカは少し俯いて見せ、大きな笑みを浮かべた。

 

 

 

「で、では、あの一騎打ちは互いに全力ではなかったと…?」

 

グスターボは、目の前にいる魔導王との会話に驚きを隠せなかった。

 

「その通りだ、グスターボ殿…。少なくとも、本気だったのは最後の一撃くらいなものだ…」

 

「…絶大な一撃であったと、お聞きしております…」

 

ネイアが質問するかのようにして口を開いた。

 

「そうだな…。あれは…あの力は私を上回るものがあったな…」

 

「そ、それはつまり、魔導王陛下よりウル殿の方がお強いと…」

 

グスターボは些少の冷や汗を流しながら口を開く。

 

「ふむ…そうだな…。もし互いに、本当の意味で全力であるのならば…ほんの少しだけウル殿の方が上回るだろう…」

 

グスターボとネイアは、魔導王の発言に返すうまい言葉を見つけることができなかった。

 

暫くの沈黙をもってして、魔導王が再度口を開く。

 

「…だからこそ、私は信じているのだよ…」

 

「なにを…でしょうか?」

 

ネイアがゆっくりと口を開いた。

 

「…ウル殿の生還を、だ。いくら三魔皇全員を相手取ったとはいえ、彼がそう易々と死ぬとは、どうしても思えない…」

 

「…私も、いえ、私達もそう信じております」

 

魔導王の言葉に、グスターボがようやく小さく笑みを零す。

 

「…もし魔導国に招待が叶わなかったとしても…ウル殿とは友好的な関係を構築したいものだ…」

 

グスターボとネイアは、思わず顔を見合わせる。

 

魔導王のそれは、アンデットの王としてではなく、とても人間味のある、一人の男としての発言に聞こえたからだ。

 

 

 

さて、幾ばくかの日数を経て、一行は王都を抜け、聖王国まであと少しと言った場所にまで移動をしてきた。

 

聖王国と王国の国境付近、アベリオン丘陵に差し掛かろうと言ったところで、襲撃に遭う。

 

亜人たちであった。

 

恐らくは、先の戦いの生き残り、逃げ出した者達であろう。

 

100はくだらない数の亜人たちに、カルカ達は思わず後ずさりする。

 

使節団の総数は20人程度であり、とてもその5倍の数を有する亜人たちを相手取ることはできなかった。

 

しかし、結果としては数名のけが人を出すだけに留まり、勝利を収める。

 

…理由は簡単で、魔導王が援護…というか、一人で殲滅したからである。

 

…それも、たった一発の魔法で…。

 

その魔法が生み出した焼け野原、もといクレーターに似た戦闘痕を見て、カルカとケラルトは酷く怯えた様子を見せる。

 

「ケラルト…。私達は、とんでもないお方を聖王国にお迎えしてしまうのね…」

 

「…死の神…と言われておりますから…。ですが、三魔皇が相手である以上、この力は非常にありがたいことではあります…。ただ…」

 

ケラルトの詰まった言葉を、カルカは予測し、ゆっくりと口を開く。

 

「これが聖王国に向かないとも限りません…。現状、唯一牽制できるであろうウル様がいない以上、魔導王の機嫌を損ねないよう最大限の努力をしなくては…なりませんね…」

 

カルカは自身の声が震えているのを理解はしながらも、毅然とした態度で戦闘を終えて馬車に戻ろうとする魔導王の元へと歩み寄り、礼と労いの声を掛けた。

 

 

亜人の残党による襲撃を受けたカルカ達一行であったが、無事に聖王国内に入り、5日後には首都ホバンスに到着を果たす。

 

この時点で、先の襲撃からおよそ25日が経過していた。

 

宮殿にいる重役や兄であるカスポンドに、魔導王含めことの経緯を話し、今はレメディオス達捜索隊の到着を待っている状況であった。

 

魔導王に対しては、宮殿内でも賛否両論といった感じではあったが、カルカとケラルトから聞いた経緯と聖王国の窮地という状況においては、同意せざる終えなかった。

 

そして、カルカ達一行が首都ホバンスに到着を果たした日の夜、レメディオスが帰還し、カルカとケラルトを問い詰めるように言葉を荒げる。

 

「カルカ様ッ!一体何をお考えなのですか!!魔導王などというアンデッドを聖王国内に迎え入れるなど!!」

 

「…声が大きいです、姉さま」

 

レメディオスの激高する姿に、ケラルトが低く宥めるようにして声を発する。

 

「レメディオス、イサンドロから全て聞いているでしょ?…これしか方法がなかったのです」

 

「し、しかし!奴はアンデッドなのですよッ!!」

 

レメディオスは、カルカとケラルトがなぜ魔導王を受け入れているのか、全く理解できなかった。

 

「ならば聞きますが、ウル様がいないこの状況下で、誰が三魔皇を討つというのですか?」

 

「…そ、それは…」

 

会話からもわかるが、レメディオス達捜索隊はウルを発見するに至っていなかった。

 

これはルカ達捜索隊も同様であり、あの鎧が見つかった地点を中心に範囲を広げて捜索したが、痕跡の一つも見つけられなかったのである。

 

…まあ、ナザリックにいるのだから、当たり前なのである。

 

「…わかるでしょう?もう私たちに、選り好みしている余裕などないのです」

 

「…承知、致しました…。ですが、カルカ様は…よろしいのですか?…魔導王の要求、あれは到底受け入れられるものではない!」

 

レメディオスの言葉に、カルカは思わず目線を下に下げる。

 

「ウルを…魔導国に引き渡すなど…ッ!!」

 

「…そうと決まったわけではないです。あくまで交渉、ウルさんがお決めになることです」

 

レメディオスの発言に、ケラルトは毅然とした態度で答える。

 

それがさらにレメディオスの心に怒りを生む。

 

「ッ!!それでウルが魔導国に行くと言ったらどうするんだッ!」

 

レメディオスの言葉は、カルカとケラルトを押し黙らせるには十分なものであった。

 

その可能性は0ではない。

 

…いや、むしろあの魔導王が自信をもって提案すると言っているのだ…。

 

不安は大きかった。

 

「…その時は、その時です…。受け入れるしか、ありません」

 

「ッ!カルカ様はそれでよいのですか!!」

 

「…ッ!!良いわけがないでしょうッ!!!」

 

今迄聞いたことのないようなカルカの怒号に、レメディオスだけでなく、ケラルトも大きく目を見開く。

 

「…ウル様を失いたくない…。けど、私には力がない…。だから…なにも、できないのです…」

 

今度は打って変わって細々とした声へと変化を遂げる。

 

涙混じりのその声に、レメディオスは自責の念に囚われる。

 

「大変失礼な発言を致しました…。申し訳ございません…」

 

…カルカは、レメディオスの謝罪に特に反応を見せず、ただただ目から涙を溢れさせた。

 

 

 

翌日、王都で救援要請を依頼した青の薔薇のメンバーが首都ホバンスに到着する。

 

青の薔薇のメンバーは一通りの挨拶などを済ませ、そのまま宮殿に滞在することになった。

 

青の薔薇との簡単な面談を終えた後、予想もしていなかった珍客が宮殿を訪れる。

 

バハルス帝国の主席宮廷魔術師である、『フールーダ・パラダイン』であった。

 

思いがけない来訪に、カルカは思わず冷や汗をかいたが、このタイミングで遠方である帝国から来たということは、考えられる理由は一つであった。

 

「カルカ聖王女殿下…。我らバハルス帝国は、このフールーダ・パラダインとその高弟をもってして、聖王国の戦いに協力をさせて頂きたく、馳せ参じました」

 

「フールーダ殿。それはとてもありがたいことであります。しかし、なぜ主席宮廷魔術師であるあなた自ら、お越し頂けたのでしょうか?」

 

カルカは、目の前の老人に些少の不安を持ち合わせながら、威厳ある声で言葉を発する。

 

「彼の御仁、ウル様は、我が師の一人であります…、ご許可は頂けておりませんが…。その師であるウル様が行方知らずと聞き、参じた次第にございます…」

 

「きょ、許可を頂けていないのであれば…ウル様はあなたの師匠ではないのではないですか…?」

 

カルカは、些少の不安を確信の不安に変え、思わず言葉を詰まらせながらフールーダを見つめた。

 

その目は、少し奇異なものを含んでいた。

 

「いえいえ、いつかはご許可頂けると確信しております…。このフールーダ、ウル様のためであれば、この身の全てを捧げる覚悟にございます…」

 

「ウ、ウル様は…フールーダ殿を求めているとは思えないのですが…」

 

カルカは、もはやその嫌悪感を隠すこともなく、低く蔑んだような声を上げる。

 

「ええ、そうかもしれませぬ。しかし、我々が聖王国へ来たのは、皇帝陛下のご意向でもあります」

 

「…ジルクニフ皇帝陛下ですか?」

 

カルカは、ジルクニフに対してあまり良い感情を抱いていない。

 

それは、彼の政策面でも、彼が自信に抱いている感情によるものである。

 

彼は鮮血帝と呼ばれ、人情を無視した政策を実行している。

 

たとえ結果を齎していようとも、一定数の民をないがしろにした政策を評価する気にはなれなかった。

 

だがしかし、それが最善であるということも理解はしていた。

 

何せ、自身よりもジルクニフの方が王としての素質があるというのはわかりきっているからである。

 

民を想いすぎで、思い切った政策が打てない自分と、一定数の犠牲は承知で革新的な政策を打ち出すジルクニフ…。

 

第三者から見て優秀なのはどちらかと言えば、それはもちろん後者であった。

 

加えて、ジルクニフは、カルカのことを『八方美人』という呼称で呼んでいるのだとか。

 

真実であるかどうかは不明であるが、そのような噂が流れている。

 

実際に彼であればいいそうなところが、これまたミソなのである。

 

故に、彼がなぜ帝国の最高戦力ともいえるフールーダを国元から離してまで送ってきたのか、理解に苦しむのだ。

 

しかし、その答えは至極単純であった。

 

「皇帝陛下は、ウル殿と交友関係にあります…。一人の友人として、これを静観することはできないのです」

 

カルカは思う。

 

半分嘘であると。

 

ウルと友人関係、というのは、ウルの性格…というより、強さに惹かれて近づいたと予測ができる。

 

そして、あのウルである。

 

きっと、ジルクニフがあからさまに変なことをしない限りは、友好的に関わろうとするであろう。

 

…カルカの中に一瞬だけ、黒い何かが生まれるが、すぐにそれを収める。

 

そして、友人関係だから、それのみでフールーダを寄こすことはしないはず…。

 

目的としては、ウルとの更なる友好的な関係と、聖王国との関係強化であろう。

 

カルカは一瞬、『やだな…』とも思ったが、すぐに聖王女としての決断をするに至る。

 

彼が、フールーダとその高弟たちであれば、メイド悪魔1体は確実に狩れる実力を持っているだろう。

 

今の聖王国にとってはありがたい…。

 

目の前のフールーダのウルに対する不穏な感情も、ジルクニフという生理的に受け付けない皇帝も、どちらも本心では関わりたくはなかったが、カルカは聖母のような様相を取り戻して、フールーダに再度口を開き、話を進めることにした。

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