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2回目となる三魔皇の襲来に備え、各国からの救援が首都ホバンスに集まりを見せる頃、レメディオスとは別行動でウルの捜索に出ていたルカ達は、一度カリンシャの街に戻っていた。
…そのタイミングで、カリンシャの街がとある悪魔に襲われる。
竜の悪魔(イビル・ドラゴン)がカリンシャの上空に現れたのである。
竜の悪魔は、レベル78と、通常の三魔皇にも迫る強さを見せる、20mはある悪魔である。
竜の悪魔が出現したことで、カリンシャの住民は空を見上げて絶句する。
それは今しがたカリンシャに帰還したルカやクルミ、フォーサイトのメンバー、そして屋敷に滞在している面々も同じであった。
カリンシャの街の住民から、悲鳴に似た声があがる。
「あぁ…なんてことだ…」
「おしまいだ…もう、おしまいだ…」
「ウル様はいないのかッ!!」
「まだ見つかってないんだよ!…どうするんだよ!!」
ああも上空に構えられたのでは、そもそも手の出しようがない…。
それどころか、住民に周知している避難行動も意味をなさない。
兵士長であるユーゴは、それを誰よりも分かっているため、苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
「くっ…住民を城に避難させたところで、そこを狙われれば終わりだ…ッ!!」
街の外から、陸続きで攻め入ってくるのであれば、この城塞都市は強固な守りをもってして戦闘を行える。
しかし、今悪魔のような竜がいるのは、カリンシャの上空である。
すでにカリンシャに侵入されたと言っても過言ではなかった。
「ッ!この城ではだめだ!散り散りでもいい!城門へ避難誘導させろッ!!」
自身が指揮する兵士たちに、激を飛ばすようにして指示を飛ばす。
『グオオオオオオオオオオッッ!!!!!!』
竜の悪魔が、滞空したままおびただしい咆哮を上げる。
ユーゴは思わず耳を両手で塞いで見せる。
かなり上空に滞空しているにも関わらず、その咆哮はまるで衝撃波のようにユーゴの身体に振動を生む。
「(くそっ!このままではカリンシャが…)」
ユーゴの心は、絶望に染められつつある心に、とある人物の顔を灯す。
その人物はユーゴにとって、カリンシャにとって、いや…聖王国にとっての希望であった。
しかし、今はその人物の力は望めない…。
それでも唱えてしまう…。
助けてほしいと…。その願いを乗せながら…。
「ッ…ウル殿ッ…!」
瞬間、カリンシャの東側の城門あたりに、ピカッと強烈な白い光が現れる。
ユーゴはその光の出どころを探ろうと、前に4歩ほど進み、見上げる。
そして驚く…、ユーゴの願いは、届いたのだ。
ルカは竜の悪魔を視界に捉えると、目を細め、小さく口を開く。
「まずいわね…あれは、私とクルミでも倒せない…」
ルカの発言に、フォーサイトのメンバーは驚愕の表情を浮かべる。
「それはつまり、俺たちが居ても変わらないってことですかね?」
「…でも戦うしかない…」
「とはいっても、あんな上空に居たんじゃね…」
「…手の出しようがありませんね…」
ヘッケラン、アルシェ、イミーナ、ロバーデイクが口々に不満を漏らすようにして言葉をはいた。
竜の悪魔が大きく息を吸ったのを見て、ルカとクルミが身構える。
瞬間、身が固まるほどの咆哮がカリンシャの街全体に響き渡る。
フォーサイトや近くにいた住民たちが、両手で耳を覆って驚く。
各所で悲鳴が、絶望が巻き上がる。
…そこで、ルカは覚悟を決める。
「…クルミ、やるわよ…」
「ッ!ルカ⁉…本気なの?」
クルミは、珍しく無謀なことをしようとしているルカに驚きを見せる。
「やるしかないでしょ…。今このカリンシャの街で…私たち以上に強い人は…」「…いる…」
ルカの言葉を遮る声が、後方から聞こえる。
それを聞き、男性の声であった。
しかしながら、ヘッケランでもロバーデイクでもない。
聞きなれた声だった。いや、というよりもその短い言葉ですら誰であるかを判断するのには十分であった。
ルカは今までにないほど目を大きく見開き、後ろを振り返る。
目に捉えた人物の姿に、視界が少し潤むのを感じる。
その人物は、凄まじい跳躍を見せたかと思うと、上空に躍り出た。
「俺だっーーーー!!!!!」
…ウルであった。
…生きたいた…。でも一体どこにいたのか…。
一瞬思考を張り巡らせたルカであったが、もはやそんなことはどうでもよかった。
無事だったのだ。これ以上に臨むものは何もない。
ルカは小さく、いや、大きく微笑んで見せた。
と同時に、またも後ろから声が響く。
「「「ウルさんッッ!!!!」」」
「無事だったッ!」
「よかったーー!!」
クルミ、イミーナ、ロバーデイクが名を呼称する。
ほぼ同時に、アルシェとヘッケランも叫ぶ。
喜びも束の間、ウルが掲げた右腕の先に、とてつもない光と力が集約されていく。
それは一つの大きな球となり、続いて高速回転をしているのか『ギューーンッ!』という聞きなれない音を奏でる。
それを見て、ルカが思わず口を開いて驚く。
「ッ!あれは…信仰系第十位階魔法ッ!?…ウルは第九位階までしか使えないはず…一体なぜッ…」
ルカの言葉に、ヘッケラン達は大きく驚いて見せ、皆の視線がアルシェへと向けられる。
「…間違いないッ!第十位階魔法だッ!!…ッすごい!!」
「しかも神聖属性ッ!!あの魔法なら…当たれば倒せるッ!!」
クルミも魔王詠唱者としてその魔法を認識し、希望を口にする。
光の球は、直径で3mほどであろうか?
しかしその大きさには似つかないほどの光量と力が秘められている。
ウルの手から放たれた魔法は、まるで巨大な弾丸のようにして前方の竜の悪魔がいる場所めがけて飛んでいく。
誰もがよしっと思った。
しかし、そんな攻撃に、竜の悪魔が気付かないはずはない。
翼を一気にしまい込み、そのまますごい速さで滑空する。
その速度は絶大で、カリンシャの上空10mまで一気に降り立ってきた。
その風圧で、近くの建物のガラスが次々に割れていく。
ウルの魔法は虚空を割いて外れる。
「ああッ!!当たらないッ!!」
「…いや、違う」
クルミの苦悶の言葉を、ルカが否定する。
ウルの放った魔法は、くるっと進行方向を変え、滑空する竜の悪魔へと再度迫る。
「ッ!追尾してるッ!!」
「いける、いけるぞッ!」
アルシェ、ヘッケランが握りこぶしを作り、声を荒げる。
竜の悪魔へと当たろうという瞬間、その巨体では考えられないような俊敏な動きで回転し、回避する。
「そんな…ッ!当たれば行けるのにッ!!」
「やはり、陽動がないと当たらないのかもしれません…」
イミーナとロバーデイクが絶望しながらも、その希望は消えない。
…このままもう一度追尾して…、などとルカが思った矢先、真上にいるウルの表情が少し変化したことに気付く。
「(…笑った…?)」
ルカはその変化を疑問に思いながら、ウルの魔法と竜の悪魔を交互に見る。
竜の悪魔はすでに空中回転から態勢を整え始めている。
ウルの放った魔法はというと、逆にウルのところへと向かっていた。
…そこで気付く。まさか…と。
そしてその予想は当たる。
一瞬でウルの姿が掻き消える。
捉えたときには、自身が先ほど放った魔法をもう一度その右手に捉え、竜の悪魔に迫らんとしている。
「ッ!!まさか…最初からそのつもりで…ッ!」
竜の悪魔と後数メートルと言ったところで、ウルは再度右手を振りかぶって魔法を前方に放つ。
今度は一瞬で竜の悪魔に衝突し、竜の悪魔を後方に吹き飛ばすような勢いで押し込む。
まだ魔法は消えていない。
後方から上空へと進行方向を変える。
時間にして2秒くらいであろうか。
その後、ウルの魔法が、一気に拡散する。
カリンシャの上空を覆いつくすほどの光球が、生み出される。
そしてすぐに、爆発音に似た音と、凄まじい衝撃波ともいえる暴風が生み出される。
竜の悪魔の姿が見えなくなるほどの光に、ルカは反射的に目を閉じるが、不思議とまぶしさはなかった。
光の球は、どうやら中で高速回転を生みだしているらしく、切り刻むような擦り刻むような音が響く。
そして、次第にその音もやみ、光も弱まっていく。
視界が開けたその上空には、ウルの後姿と、細切れになった竜の悪魔の死体の一部が揺蕩っていた。
一瞬、カリンシャの街が静止する。
数秒であった。しかし、何時間にも感じられた。
そして、誰かが涙混じりに叫び出す。伝染する。
カリンシャの街に、怒号にも似た強大な声が響き渡る。
ウルはその盛大な歓声をその身に受けながら、ルカ達がいる場所へと、ゆっくりと降り立った。
ウルは、信仰系第十位階魔法『螺旋聖光弾(スパイラル・ホーリー・バレット)』を放ち、竜の悪魔を一撃で打ち滅ぼした。
その後、カリンシャに割れんばかりの、怒号似た声援があがるのを尻目に、ルカ達のいる場所へゆっくりと降りる。
「わりぃ、心配かけたな」
ウルの言葉に、ルカは困ったように笑みを浮かべる。
「ほんとよ…まあ、死んでいないのはわかってたけど…」
「とかいって…さっき少し泣いて…あいたッ!!」
クルミがくすくすと笑いながらルカに詰め寄るが、ルカの正拳を頭にくらい、地面に沈み込む。
「無事でよかったですよ」
「…心配した…」
「2週間以上探し回ったんだからねー」
「傷も癒えているみたいですね」
ヘッケラン、アルシェ、イミーナ、ロバーデイクが口々に言葉を発する。
「すまねえな…大分手間取っちまってよ…。それよりルカ、疲れてるとは思うが、一緒に来てくれるか?」
「首都ホバンスね?」
ルカは、ウルに素朴な疑問をぶつける。
「ああ…三魔皇を討つ」
ウルの言葉に、ルカは大きく目を見開いた。
「…勝てるの?」
「ああ、助っ人が来てくれた…」
「モモン?…いや、魔導王かしら?」
ルカの言葉に、フォーサイトは大きく身震いをして見せた。
「ちょっと、ウルさん、大丈夫なんですか?」
「…魔導王もグルかもしれない…」
ヘッケランとアルシェが酷い冷や汗を流しながら狼狽える。
「大丈夫ですよ…。それに、三魔皇関しては、魔導王も邪魔なはずですから…」
「…信じてよろしいですか?」
ロバーデイクが小さくウルに語り掛ける。
「ええ。もう先のような失態は犯しません」
「…ッ!ちゃんと帰ってきなさいよ!」
「お約束します」
イミーナは少し不満そうであったが、ウルを止められないと考え、軽く突き放すようにして口を開いた。
「…ルカ、飛ぶぞ…」
「わかったわ…」
ルカがウルの肩に軽く触れる。
「クルミ、フォーサイトの皆さん。カリンシャを頼む」
「まっかせといてッ!!」
クルミが大きく親指を立てて口角を上げる。
フォーサイトの面々も、力強く頷いて見せる。
それを見たウルは微笑をもらし、ルカと共に一瞬で姿をかき消した。
「さて…我ら三魔皇の相手は、魔導王お一人ですかな?」
「そう見えるか?」
首都ホバンスは、今までにない、阿鼻叫喚と言った状況であった。
カリンシャが竜の悪魔に襲われているのとほぼ同時刻。
首都ホバンスに、三魔皇とメイド悪魔5体が現れた。
それも、首都の中心部に…。
そのまま街を攻撃するかと思われたが、変な律儀さを持っているらしく、ゆっくりと宮殿に近づき、玉座の間の壁を破壊したかと思うと、魔導王と対面し、会話をしていた。
ぽっかりと穴が開き、風通しの良くなった玉座の間で、レメディオスは、カルカとケラルトの盾となるように立ちふさがる。
「くそっ…ルカはまだか…」
その言葉には、メイド悪魔に対抗できるルカ自身が到着していないという意味も含まれていたが、ウルを見つけて連れてくるという意味合いも込められていた。
レメディオスが首都ホバンスに帰投する際、ルカとある約束をしたのだ。
『ウルは必ず見つけ出して、ホバンスに連れていく』…と。
ヤルダバオトが、先の魔導王の発言に、くくっと気色の悪い笑みを零す。
その笑みだけで、蒼の薔薇もフールーダも、思わず後ずさりしてしまうほどには気味が悪かった。
「魔導王一人に見えるがね…我らの見間違いかな?」
「一人で我ら3人に勝てると思っているのかね?」
「まあ、いいんじゃない?魔導王であれば、十分楽しめそうだし…」
ヤルダバオト、グリード、エンヴィが、嘲笑するように口を開く。
だが、魔導王はそれに全く動じていなかった。
それどころか、対抗するようにして小さく笑う。
「そうか…。お前達にはわからんか…」
「…どういう意味だ…」
ヤルダバオトが、不穏な空気を醸し出す。
「お前たちが戦うべき相手は、私ではない…」
「なに…ッ!?」
魔導王に疑念を投げかけようとした瞬間、魔導王の横に一瞬で2人の人間が現れた。
1人は女性で、一人は男性。
女性は男性の肩に手をのせ、こちらを睨んでいる。
肩に手を置かれている男性も、兜越しにこちらを見ているのがわかった。
…間違いない、奴だと…。
「俺たちで、倒すんだ」
「貴様ら、三魔皇をな…」
ウルと魔導王が一列に並んで見せた。
…カルカの瞳孔が、大きく広がりを見せる。
生きていた…。やはり、生きていた…。
その思いはカルカだけでなく、ケラルトなど他の者の中にも生まれる。
レメディオスが、ふっと笑いを漏らす。
「ルカッ!見つけて来てくれたか!!」
「…約束したでしょ…」
ルカの、当たり前だろ、みたいな発言に、レメディオスは些少の涙を浮かべながら歯を見せて笑った。
「ウル…様…ッ!」
カルカは、ようやくと言った様子で口を開いた。
ウルは、少しだけ後ろを向き、カルカを視界に納める。
…随分と心配と心労をかけてしまった。
もう、これ以上は…彼女を苦しませることはやめよう…。
ウルはそう、心に決めて口を開く。
「ご心配をおかけしました…。カルカ様…」
「心配…しました…。でも、生きてて、よかった…」
「こいつら倒して、終わらせましょう…。この戦いを…」
ウルの言葉に、カルカは、ギュッと瞼を閉じる。
そして開かれた目には、大いなる決意と覚悟を秘めた、聖王女としての眼光を宿していた。
「はいッ!!」
カルカのその言葉と表情、姿勢に、レメディオスとケラルトの表情も引き締まる。
蒼の薔薇の面々とフールーダ、その高弟達も、再度臨戦態勢を整える。
その様子を最後まで眺めていたヤルダバオト達は、ゆっくりと口を開く。
「では…始めるとしよう…聖王国の歴史…その終わりの始まりをッ!!」
ヤルダバオトの宣戦布告と同時に、各所で戦いが始まった。
ルカ、イビルアイ、フールーダと高弟達、イビルアイを除く蒼の薔薇、そしてカルカとカストディオ姉妹の5チームは、メイド悪魔をそれぞれに相手取る。
そして、ウルとアインズが、三魔皇3人と戦いを繰り広げる。
三魔皇は、やはりというべきか、作戦通り、邪・三魔皇となっており、レベルが跳ね上がり90前半の強さを見せていた。
ウルもアインズも、集中して戦えばまず負けることはないが、油断すれば大ダメージを被る相手であった。
…そして言わずもがな、これもマッチポンプであった。
この三魔皇は、ウルがデミウルゴスに与えたアイテムによって召喚されたものである。
今回のマッチポンプの内容は、『ウルとアインズが数的不利であることを理由に、一度追い込まれるが、ウルとアインズが力を合わせたらすごい力と連携を発揮してたおせたぜっ!』…というものである。
これには明確な目的があるのだが、簡単に行ってしまえばウルとアインズの関係の修復(したと思わせる)と、聖王国の上層部や民に対する魔導国の不信感の緩和である。
聖王国が魔導国に対して不信感を抱いているのは、そもそもアンデッドが支配する国であるという嫌悪感が基礎にはある。
だが、最も大きいのは国が英雄としているウルが殺されかけたからである。
亜人やアンデッドに対して、他よりも差別的な考えがないカルカであっても、今現在は相当な嫌悪感を抱いている。
理由は、先に書いたとおりであるのだが、それは裏を返せば、ウルとアインズが仲良くなったということにしてしまえば、全て丸く収まる…らしい。
ウルからしてみれば、そんなうまくいくか?
とも思っていたが、5年も経てば国としての関りという点では問題ないところまで持って行けるらしい。
さすデミである。
さて、マッチポンプの話をしたが、何も三魔皇だけに限った話ではない。
メイド悪魔、つまるところ、ナーベラルを除いた5人のプレアデス達も、これまた本物ではなかった。
上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)という異形種でである。
レベル60以上且つ、能力の9割以上を模倣できるため、影武者にはもってこいの異形種を、今回のメイド悪魔には使用している。
これならば、死んでも何の問題もない…わけではないが、プレアデスを殺すよりは何億倍もマシであった。
まとめると、とんでもないどころか全てがマッチポンプなのである。
ウルもアインズも死ぬ確率は0であるし、上位二重の影にも相手を殺すことは許可していないため、自爆しない限りは死ぬ確率は限りなく0に近い。
安全性という点では素晴らしいものであるが、如何せんウルとアインズ以外の味方陣営は覚悟を持って戦っている分、ウルの心は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
先のカルカの様子を見ても思っていたのだが、ウルは『これが最後…』と本気で思っていたりする。
…とまあ、このようにして考え事をしながら戦うぐらいには余裕があるのだ。
しかし、さすがは90レベル以上にまで強化された邪・三魔皇である。
アインズはおろか、ウルですら比較的集中して戦わなければ、いつクリティカルヒットを喰らうかわかったものではない。
しかしなれど、レベルも戦闘経験も知識も、三魔皇などおそるるに足らない程のものを有しているウルとアインズにとっては、2対3でもうまく立ち回ることができる。
…というよりも、逆に勢い余って追い込みをかけてしまうかもしれない程度には優勢である。
ふっと宮殿下の広場で一定の間隔をもってして戦闘を行っているメイド悪魔と味方が目に入る。
偽ユリvsフールーダ、高弟達
偽エントマvsイビルアイ
偽ソリュシャンvsイビルアイを除く蒼の薔薇
偽シズvsカルカ、ケラルト、レメディオス
偽ルプスレギナvsルカ
と言った感じのチーム分けで戦闘を行っていた。
そして、あることに気付く。
「(そういえば、カルカ様達が戦っているのを見るのは初めてだな…)」
それはそうである。
カルカ達が戦うであろう、戦う可能性のあった敵は、ウルが全て打ち倒してしまっているのだから…。
そんなものは見る機会などなくて当然である。
「(まあ、今回も見る機会はほぼない…か)」
ウルはヤルダバオトの放った隕石落下を軽々と斬って見せなが考えていた。
ウルが斬ったことで真っ二つになった隕石を、アインズの魔法が悉く塵にする。
それを見たウルは、さっとアインズの元へと並ぶ。
「さすがアインズさんだ…精度が違うな…」
「…それ、隕石を綺麗に真っ二つにしたあなたが言いますか?」
2人は思わずケラっと笑って見せる。
「…でも、ぼちぼちやられているふりしないとですね…」
「そうですね…。聖王女や他の皆がメイド悪魔を倒してこっちに意識が向くころには追い込まれてないといけないですからね…」
アインズは、目の前で攻撃の機会を窺っている三魔皇から目を離さずに口を開く。
「まあ、あの一騎打ちの時みたいな名演技、期待してますよッ!」
「…その言葉、そのままお返しします!」
ウルは三魔将と距離を詰める。
アインズは三魔将と距離を取る。
「天解ッ!熾天使の聖騎士ッ!!」
「広域上位全能力強化(マス・グレーター・フルポテンシャル)」
全力の一端を解放し、三魔将との戦いを再開した。
イビルアイは、ゼータと名乗るメイド悪魔の一人と対峙していた。
戦闘を行うのはこれで2回目であったが、名を聞いたのは初めてであった。
イビルアイはゼータに対して相性がいい。
イビルアイが自己開発した殺虫魔法『蟲殺し(ヴァーミンベイン)』が弱点となるからだ。
ゼータとの距離を取り、何度も殺虫魔法を浴びせる。
しかし、ゼータも黙ってやられるわけではなかった。
符術師のクラスによる攻撃を中心に、イビルアイを責め立てる
「衝風符ッ!」
ゼータの発した魔法は、暴風を齎してイビルアイの殺虫魔法を吹き飛ばす。
「ッ!なるほど…対策もしてきている、というわけか…」
殺虫魔法は性質上、他の魔法による物理的干渉に弱い。
霧のような魔法であるため、今のように風で命中精度は大幅に下がる。
もちろん、火炎や水などその他の攻撃にも押し負けてしまう。
「水晶騎士槍(クリスタル・ランス)ッ!」
牽制で放った水晶の槍は、ゼータの虫のような手に防がれる。
しかし、完全には防ぎきれなかったのか、少し後退しながらようやくはじき返す。
その隙を狙い、一気に左側から距離を詰める。
「蟲殺し!!!」
「グッ…」
先の攻撃で気を取られていたゼータは、蟲殺しを完全に避けきれず、ダメージを受ける。
「ふっ…相性が良くて助かった…このまま押し込む!」
イビルアイは、再度蟲殺しを発動させ、ゼータとの距離を詰めた。
「くそっ!こいつ、スライムなのかッ!通りで攻撃に手ごたえがねえわけだ…」
ガガーランは、自身が持つハンマーを握りしめて表情を硬くする。
「どちらかと言えば、魔法が有効的ね…。でも、物理攻撃が効かないわけでもないみたい」
ラキュースは、自身の攻撃をよけたり、剰えダメージを受けているような素振りを見せる、イプシロンと名乗るメイド悪魔を視界に捉えながら口を開く。
「魔法中心で行く…」
「物理はガガーランで十分…」
ティアとティナは、爆風や火炎を生みだせる忍術魔法を中心に責め立てる。
…正直、誰もがイプシロンに対して有効打を与えらえているとは思えなかった。
ダメージはあるだろう。しかし、自身が相手から受けるダメージと比較すると、非常に心許ないものであった。
「…どうする、鬼ボス…このままじゃ押し負ける…」
ティアの言葉を受け、ラキュースは少し離れたところで戦闘を行っているイビルアイへと視線を向ける。
良く見えないが、イビルアイが優勢であることは見て取れる。
「…イビルアイが援護に来れるまで、持ちこたえましょう…」
「…それがいい、私達だけじゃ厳しい」
ラキュースの提案に、ティナが賛同する。
「んじゃ、削れるとこまでは削るとしますかねッ!」
威勢の良いガガーランの言葉を皮切りに、ラキュース達は再度フォーメーションを組み、戦いを再開した。
フールーダとその高弟達が対峙しているのは、メイド悪魔アルファであった。
「距離を取れ、無理をする必要はない…」
フールーダは高弟たちに指示を飛ばしながら魔法を発動する。
こちらもイビルアイと同じく、相性が良かった。
アルファは所謂モンクで、近接系の悪魔であった。
魔法詠唱者集団であるフールーダにとっては、距離さえ確保できればそこまで怖い相手ではない。
しかし、それはアルファの攻撃や動きを何とか見切れるフールーダだけであり、高弟達は違う。
アルファの動きを読めず、気付いたら間近にまで接近、なんてもともあった。
それによって、すでに3人の高弟たちが地面に伏していた。
しかし、死んではいない。息はあるようであった。
フールーダがアルファを前線で押さえつつ、高弟たちが後ろから魔法を放って戦闘を繰り広げる。
…こちらは非常に優勢で、勝負がつくのは時間の問題であろう。
カルカとレメディオス、ケラルトが相対するは、デルタと名乗るメイド悪魔であった。
その容姿は10代前半に見え、非常に幼く見えた。
しかし、戦闘が始まると、その印象もガラッと変わる。
見たことのない魔法の杖のような武器で、目にも留まらぬ速さの攻撃を仕掛けてくる。
遠距離タイプであった。
この中で唯一、デルタの放つ魔法の弾丸に反応できるレメディオスが、剣をもってギリギリではじき返しながらデルタに斬撃を浴びせる。
攻撃は通っているようだ。
「『聖なる光線(ホーリー・レイ)』
レメディオスとの戦いで隙が見えたデルタに、カルカが神聖属性の魔法を放つ。
直撃して見せるが、特にデルタの動きに変化はない。
「ッ!魔法二重化・聖なる光線ッ!」
それを見て、魔法を二重化してデルタに向けて放つ。
それと交差するようにして、デルタから弾丸が放たれる。
「ッ!」
「あぁッ!!」
デルタは腹部に、カルカは左足にそれぞれ攻撃を喰らう。
「貴様ぁぁぁッ!!」
カルカが傷ついたのを見たレメディオスが、ものすごい勢いでデルタに襲い掛かる。
デルタは魔法の杖でレメディオスの斬撃を防ごうとするが、力負けし、吹き飛んでいく。
しかし、空中で体勢を整えて、建物の屋根の上に綺麗に着地する。
「カルカ様ッ!中傷治癒!!」
「ッ!…助かったわ、ケラルト…」
カルカの傷に向け、ケラルトが治癒魔法を展開したことで、カルカはゆっくりと立ち上がる。
その2人の元に、レメディオスが地面を滑るようにして駆け寄る。
「カルカ様ッ!お怪我はッ!!」
「大丈夫よ、レメディオス…」
「姉さま、距離を取られた…近づけますか?」
前方およそ30m先、そこに先ほどまで戦っていたデルタの姿を捉える。
「2人共、天使を召喚してくれ!!標的を増やしたい!」
レメディオスの提案に、カルカとケラルトは同意を見せ、魔法を発動する。
「「第四位階天使召喚(サモン・エンジェル4th)!・安寧の権天使(プリンシパリティ・ピース)!!」」
二体の天使を召喚し、レメディオスの動きに合わせてデルタへと突撃させた。
「強いわね…」
一本の日本刀という、ウルの持つ武器と同じ形状をした武器を構えながら、ルカは目の前の赤髪のメイド悪魔、ベータを見据える。
顔は趣味の悪い仮面に覆われて見えないが、その体躯と肉付きから、成人女性であることが窺える。
…見た目は、の話であるが…。
「そういうあなたも十分お強いっs…ですわよ」
ゼータは、一瞬言葉を詰まらせ、言い換えるようにして口を開いた。
「(これが、ウル様のNPC…ルカ。確かに、プレアデスと同等の強さを持ってるっす…)」
上位二重の影は、模倣している人物の記憶や性格だけでなく、周囲からの見方や評価などと言った第三者目線を考慮した行動をとることができる。
所謂、本物がとる言動と差異がないように振舞えるのだ。
故に、ゼータ含めたメイド悪魔を、本物のプレアデスと見分けるのは非常に難しい…。
それこそ、デミウルゴス並みの頭脳を有しているルカであっても、プレアデスの情報や魔導国の情報が不足しているというのが大きいが、目の前のゼータがどのような経緯でここにいるのかを認知することができない程である。
「(ウル様の情報では、デミウルゴス様やアルベド様と同格の頭脳を持つとのこと…。ウル様がまだお話しになられていない以上、ここで変な疑惑を持たれないように気を付けなければ…)」
模倣しているゼータの思考ではなく、上位二重の影として思考を張り巡らせる。
そんな風にしていると、ルカが再度攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃に、ゼータは思わず目を見開く。
「飛翔斬…」
「(ッ!ウル様と同じ斬撃ッ!)」
三日月形の斬撃が、刀から離れ、飛翔する。
ゼータは直撃は免れたものの、髪の毛の一部を刈り取られる。
「(これは…もしかしたら全力を出しても倒せるかわからないっすね…)」
メイド悪魔の一人、ゼータとして、再び刀を構えるルカに向かって、大剣のような大杖を振りかざした。