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カルカを抱えたまま、ウルはゆっくりとレメディオス達のいる場所へと降り立つ。
地面に足をつけるのと同時に、天解を解除し、大きく息を吐く。
「「カルカ様ッ!!」」
レメディオスとケラルトがウルとカルカの元へと走り寄ると、カルカの顔を覗き込む。
「ウルさんッ!カルカ様はッ…!」
「大丈夫です、眠っているだけですよ…」
「そ、そうか…よかった…」
ケラルトの質問に答えたウルの言葉に、レメディオスは大きく胸を撫でおろす。
少しして、アインズもゆっくりと降り立つ。
その手には、一本の刀を有していた。
「ウル殿…これを…」
それは、カルカに強大な力を与えた至高天刀であった。
「すまない、アインズ殿…。いや、魔導王陛下と御呼びした方がいいのかな?」
アインズから差し出された刀を受け取りながら、ウルは皮肉を込めた言い方をする。
「何を言う…。互いに命のやり取りをし、肩を並べて戦った仲ではないか…アインズでかまわんよ」
魔導王の前半の言葉に、レメディオスとケラルトは些少の不快感を覚えたが、それを面に出すことはしなかった。
「…まずは、カルカ様を安全なところに…」
「ああ、そうだな…。ウル、そして魔導王…陛下。戦いは、終わったんだな?」
レメディオスは一瞬言葉を詰まらせたが、聖王国を救った勇者の一人に、何とか敬称をつけるに至る。
「ああ、終わった…」
「我々の、勝利だ!!」
アインズの張り上げた声を皮切りに、近くにいた青の薔薇やフールーダ達、そして首都ホバンスにいるもの全員が喝采を上げるに至った。
その喝采は止むことを知らず、首都ホバンスはまるで何かにとりつかれた様にして嬉々とした怒号に包まれることとなった。
聖王国で発生した、ヤルダバオトと亜人連合軍の大侵攻、それに続く三魔皇の襲来は、聖王国、王国、帝国、そして魔導国の協力をもってして、聖王国側の大勝利で幕を閉じた。
この戦いで、改めて白銀のウルと、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の圧倒的強さが証明された。
しかし、それ以上に大きな話題、伝説となったものがある。
それが、聖王女カルカ・ベサーレスの覚醒である。
その姿とオーラは、白銀のウルをも凌ぐものを有し、かつウルや魔導王とも同格の力を発揮したことで、各国の驚きは尋常ではなかった。
人間国家において聖王国は、ウルの存在をもってして法国と肩を並べる程度の力と評されていたが、カルカの覚醒によって、人間国家最強と謳われるようになる。
今回の戦いに参加した王国や帝国、そして魔導国はもちろんのこと、先の法国、そして竜王国に評議国と、周辺国が本格的に無視できない程の力を持ったことで、聖王国は各国と大なり小なり関りを持つこととなる。
その代表的な催しが近いうちに開催され、周辺国家が集結を果たすことになる。
終戦の事後処理もまともに始まらないまま、首都ホバンス、そして宮殿では盛大な祝宴が齎されていた。
今回の大侵攻において最も突出すべき点は、圧倒的な人的被害の少なさである。
戦闘行為によって生じた物的損害は多少見られたが、戦闘の規模を考えると、奇跡ともとれる被害の少なさであった。
各々が酒やら食事やらをかっくらい、盛大な祝宴が催されている中、宮殿のバルコニーでは1人の男と、1人の異形が肩を並べていた。
バルコニーと宮殿を繋ぐ扉から、そして眼下に広がるホバンスの喧騒が心地よいBGMのように鳴り響いている。
「これで、とりあえずは終わりましたね…ウルさん」
「そうだな…アインズさん…」
ウルは赤紫色を有した飲み物が入ったグラスを、ゆっくりと傾けて一口流し込む。
今後のウルとアインズの行動を確認し合った後、ウルは思い出したかのように小さく呟いた。
「なあ、アインズさん…。俺、もうこれを最後にしようと思ってるんだ…」
「…最後?一体何をですか?」
「…カルカ様を、悲しませるのを…さ」
アインズはウルの言葉を聞き、全てを察することになる。
「そうですか…。では、災厄の大魔皇は一生その姿を現さない…ということですかね?」
「そういうことになるかな…。いや、あのデミウルゴスなら、何とかうまいこと片を付けそうな気もしますけど…」
「確かに…そんな気がしてきました…」
アインズは些少の苦笑いをもってして、遠い空を眺めるようにして口を開く。
「私達…誇れますかね…かつての仲間たちに…」
「…どうかな、やってきたことを嘘偽りなく話したら、失望されそうな気はするな…」
「…ああ、確かに、そうですねー…」
アインズは見上げていた視線を下へと移す。
奇妙な踊りを踊っている聖王国民が目に入り、思わず鼻を鳴らす。
「…でも、結果だけ見れば、称賛してくれそうな気もします…」
「…というと?」
「魔導国の策略で、帝国は同盟国に、王国も時間の問題でしょう…。そして今回の戦いで聖王国と魔導国の関係も基盤ができた。少なくない犠牲がありましたが…着実に平和な、安寧の世が築き上げられつつあるんですから」
「そうですね…。魔導国、聖王国、王国、帝国の4か国の友好的関係の構築は、半分は成功したと言えるのかもしれませんね…」
ウルはアインズの言葉を聞きながら、更にワインを一口含む。
「ウルさん…。ウルさんは、聖王女とくっつくおつもりですか…?」
「…そうですね…。正直、迷ってます…。この世界で幸せになってもいいんじゃないか…。そんな風に考えてしまっています…。でも…」
ウルは、酷く悩んだ様子で口を閉ざす。
「…ウルベルトさんですか?」
そんなウルの表情から推察したように、アインズが重く口を開いた。
「ええ…。弟に会いたいという気持ちはあります…。リアルに帰れる手段を探したりもしましたが…。きっとそんなものはないのでしょうね…」
「…六大神しかり、八欲王しかり…皆この世界で死んでいますからね…」
2人の間に、静寂が生まれる。
どのくらいの静寂であっただろうか…。
しかし、その静寂は3人の来訪者によって破られる。
カルカとカストディオ姉妹であった。
「ウル様…。魔導王陛下…」
「カルカ様…。お目ざめになったのですね…」
「…息災かね?」
アインズが一瞬のうちに魔導王ロールへと口調を変える。
「はい。少し疲れてしまったみたいですが、もう大丈夫です」
「そうですか…」
ウルは、安心しきったように声を漏らす。
「魔導王陛下、暫し、ウルさーまをお借りしてもよろしいですかな?」
「もちろんだとも、ケラルト殿」
ケラルトは、なぜか敬称が間延びする。
魔導王の許可を得たことで、レメディオスがウルの傍へと歩み寄る。
「ウル、カルカ様からお話しがある。こっちへ来てくれ…ますか?」
レメディオスも、なぜか慣れぬ様子で敬称をつける。
「ええ、分かりました。ではアインズ殿、また後程…」
些少の疑問を持ったが、アインズに一礼し、その場を去る。
…去り行くウルとカルカ達に、アインズはここぞとばかりに爆弾を投じることにした
「ウル殿…例の件、よく考えて頂けると幸いだ…」
アインズの言葉に、大きく身を震わせたのはカルカ達であった。
それが何を意味しているのかを、瞬時に理解してしまう。
カルカ達の視線が、ウルへと固定される。
…ウルは小さく呟き、微笑を浮かべて見せる。
「…検討は、させて頂きます…」
「……必ずや貴殿の願いを叶えられると約束しよう」
ウルはアインズの言葉を聞き、小さく鼻息を漏らすと、再び前を向いて見せる。
…そこには、複雑な、そして不安そうな表情を浮かべたカルカ達が見て取れた。
ウルがカルカ達に連れられた場所は、カルカの私室であった。
カルカの私室は、甘い女性特有の香りを有していた。
一瞬、ウルは些少の劣情を抱くが、それと同時に、カルカへと口を開く。
「お話の前に、カルカ様にこれを…」
「これは…ッ!」
ウルがカルカに渡したのは、一本の刀剣、至高天刀であった。
カルカは、差し出された刀剣を受け取らず、ウルに些少の申し訳なさを見せる。
「これは…この刀はウル様が大事になさっていた物ではないのですか?」
「ええ、その通りです…。ですが、これはカルカ様が持つべきだと考えました…。真の力を解放できる、カルカ様が…」
カルカの言葉に、ウルは一瞬ためらいを見せたが、再度カルカへとそれを差し出す。
「…受け取って、よろしいのですね?」
「はい…是非…」
ウルの言葉を受け、カルカはゆっくりとその刀を受け取る。
瞬間、至高天刀は瞬時に掻き消え、2mはあろう長い黒髪と天使の様相を見せる美女へと姿を変える。
「ようやくカルカの元へと渡ったかえ?やはり制限なく顕在できるのはよいものじゃの~」
「し、至高天の熾天使様ッ!!」
その姿を捉え、声を聴き、カルカやレメディオス、ケラルトに留まらず、ウルまでもが大きく目を見開く。
「なるほど…カルカ様が持てば、一切の制限なく顕在できるってわけか…」
「そうゆうことじゃ、ウルよ…いや、元主人よ…」
ウルは光の速さにも似た主従関係の解消に、思わず苦笑いを浮かべる。
「まさか、そんな簡単に捨てられるとは思ってなかったぜ…」
「奇異なことを…先に手放してカルカに譲ったのはお主であろう?」
至高天は、ウルをあざ笑うかのような声でくすっと艶めかしい表情を浮かべる。
そして、少しずつ表情が真剣なものへと変わっていく。
「…わらわをカルカに授けて…魔導王の元へ行くつもりかえ?」
至高天の言葉に、ウルはわずかに表情を微笑へと変える。
それを見たカルカ達は悲痛にも似た叫びをあげる。
「ウル様ッ!何を、何を条件に出されたのですか?」
「聖王国で為せるものは…いえ、為せずとも、必ずウル様が所望するものはご用意いたします!!」
「だから頼む!このまま聖王国にいてくれ!!ウル!!!」
カルカ、ケラルト、レメディオスは、目に涙を浮かべながら抗議して見せる。
しかし、ウルはそれにすぐには答えない…。
暫くして口を開こうとした際、至高天に先を越される。
「…ギルd、いや国家の再建を約束されたと見える…」
至高天の言葉に、驚きを見せたカルカ達であったが、ケラルトが些少の希望を見出した様子で口を開く。
「ッ!でしたら、聖王国でも可能と思われます!聖王国の一部をウル様に割譲し、ウル様の国を、ヒャッカリョウラン聖教国を再建いたしましょう!」
「ウル様…いえ、ウルベノム様が望むのであれば、聖王女としてここにお約束いたしますッ!それこそ、カリンシャ一帯を割譲することも…ッ!!」
カルカが追撃とばかりに言葉を放って見せるが、ウルが口を挟んだことで、それは紡ぎを迎えることはなかった。
「国家の再建…それは、本当の私の望みではありませんよ」
「…では、一体何を…まさか、本当に聖王国ではどうにもならないことなのか…?」
レメディオスは、ウルの発言に戸惑いながらも、ゆっくりと口を開く。
「いえ…むしろその逆です…。ケラルトさん…」
「は、はい…」
ウルの発言に些少の疑問を抱いたケラルトであったが、名を呼ばれ、詰まりながらも返事を返す。
「魔導王陛下を呼んできていただけますか?…話は、一度で済ませたい…」
「ッ!!わかり…ました…」
どこか納得のいっていないケラルトであったが、断る理由もなく、魔導王の元へと向かうためカルカの私室を後にする。
…沈黙が流れる。
カルカがゆっくりと口を開く。
「ウル…様…」
その声は、非常に小さなものであった。
悲しみであったのか、悔しさであったのか、はたまた緊張によるものであったのか、自身でもわからない。
しかし、そんな殺伐にも似た雰囲気は、ウルの言葉によって一応の掻き消えを齎す。
「カルカ様…ただ待つのもなんですから…。その至高天刀の真の力、その解放条件をお聞かせ願えますか?…私が長年知りえなかった…その力を…」
「やはり知りたいのかえ?…まあ、わらわから教えてやってもいいんじゃが…カルカよ、伝えてやったらどうじゃ?」
「…は、はい…。では、僭越ながら…。この至高天刀…その解放条件は……」
カルカはゆっくりと、それでいてはっきりと一つひとつウルへとそれを告げる。
それを聞いたウルは、次第に大きく目を見開き、最後には狂ったように笑い声をあげることになった。
…そして抱いた感情はただ一つ…。
『このクソ運営』…と…。
魔導王を連れたケラルトは、私室から執務室へと場所を移したカルカ、レメディオス、ウルの元へと姿を見せる。
「さて、この場に…この面々の中に呼ばれたということは、先の回答を聞かせて頂けると思っていいのかな?ウル殿…いや、ウルベノム王子殿…」
ケラルトに連れられた魔導王は、丁寧に、しかし仰々しくウルに対して言葉を放つ。
「そうですね…。というよりも、正直に申し上げますとあまり迷いはありません」
ウルの発言に、カルカは目線を鋭くして魔導王に口を開いた。
「魔導王陛下…失礼を承知の上でお伺いいたします…。ウル様に一体何をご提示差し上げたのか、お聞かせいただけますか?」
その言葉に、魔導王は些少の沈黙を有したあと、両手を広げ、高らかに声を張り上げる。
「全てだ…。ウル殿の望むもの…その全てを用意しよう…」
「す、全てだとッ…?」
魔導王の自信満々と言った様子に、レメディオスは思わず怪訝な様相を浮かべる。
「そうだ、レメディオス殿…。魔導国で与えられるもの全てだ…。ウル殿の国を再度興すことも、何不自由ない暮らしも、地位も名誉も…この上ない待遇で迎えようではないか…それに…」
魔導王は些少の沈黙を持ち、今度は静かに呟くようにして口を開く。
「…死に別れた貴殿の弟君と、許嫁であった女性を蘇らせることもできる…」
「…………ッ」
ウルの表情が僅かに歪んで見せる…。
もちろん、魔導王のアドリブである…。
弟は転移直前時点では死んでいないし、許嫁であった女性はそもそもいない…。
この揺さぶりが示すものはただ一つ。
魔導王は、本心からウルを欲しているのだ。
それは強さではなく、ユグドラシル時代からの友情がそうさせている。
ウルもそれはわかっている。
ナザリックにいて欲しいことを、そしてできれば、ギルド・アインズ・ウール・ゴウンへ加入してほしいということを…。
だが、カルカ達からしてみればどうだろうか。
ウルとアインズの関係は、あくまで協力関係。
それどころか、ほんの数か月前は殺し合っていた仲である。
先の発言が、友情からくる提案、そして揺さぶりであることなどわかるはずもない…。
真実であると、考えてしまう。
「ウ、ウル様の弟…それにかつての許嫁…」
「その蘇生を引き合いに出すなど…ッ!」
カルカとレメディオスは、怪訝な様相を一切隠そうとしない…。
もはや隠せるほどの余裕などなかった。
それは、聖王国が逆立ちしても用意ができない…ものであったから…。
しかし、そんな中でもケラルトが一つの疑問も持つ。
「…ひとつ、よろしいですか?」
「何かな、ケラルト殿…」
「ウルさんは、信仰系魔法詠唱者でもあられます…。その中で、蘇生魔法の最高位である真なる蘇生を扱えるものとお聞きしております…。それを条件に出すということは、その魔法をもってしても、ウルさんは弟君もかつての許嫁の方も、蘇生できなかったと見えます。であるにも関わらず、魔導王陛下、魔導国であればそれが可能である、ということでしょうか?」
ケラルトの的を得た質問に、カルカとレメディオスは思わず目を見開く。
もしかしたら…。と、ウルの気持ちを踏みにじってしまう感情が生まれる。
しかし、それは悉く否定される。
「それ以上の魔法、アイテムがあるということだけは伝えておこう…」
「ッ!!…そうですか…お聞かせいただき…ありがとうございます」
ケラルトは、苦虫を噛み潰したような表情を見せるが、即座に顔を伏せ礼を述べた。
「さて、ウル殿…。貴殿の答えを聞こうか…」
ウルはゆっくりと瞼を閉じて見せる。
…もはや、カルカ達に打てる手はなかった。
地位も名誉も、財産も、それこそ聖王の座を明け渡してでもウルを引き留めようと考えていた。
魔導国が提示できて、聖王国に提示できないものは確かにあるかもしれない。
しかし、何か代替を立てるなりして…などと考えていた。
そんなものは通用しなかった。
魔導王が提示した条件は、ウルにとってかけがえのない『命』であった。
先の『国の再建ではない』というウルの言葉が、更に深々とカルカの心には刺さる…。
国ではなかった…。大切な、愛していた弟と許嫁の女性の命だったのだ。
カルカは、思わずドレスに似た正装をギュッと掴む。
『ダメだ…』と…。
ウルが断る理由がないのだ…。
そして、それを覆せるものを、カルカは提示できない…。
その悔しさと虚しさが表情に現れる。
視界が歪むが、何とかこらえる。
ウルの返答を待つ…。
…。
……。
………。
…………。
……………。
「…お断りいたします」
…その回答は、執務室全体の時を止めるに至るものであった。