【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第3話 亜人悪魔連合

アベリオン丘陵とローブル聖王国を分断するように建てられた要塞戦には、三つの大きな砦が存在する。

 

それは100㎞にわたる長大な壁に3つしかない門を守るための防衛施設であり、周囲の小砦への援軍を待機させる駐屯基地でもある。

 

万が一、亜人たちの侵入を許して国家総動員令が発動した場合は、糾合した大兵団と挟撃して戦うための拠点ともなる。

 

その一つが、中央部拠点。

 

日が傾き、夕日が徐々に大地を赤に染めていく。

 

鋸壁に足を掛け、赤く染まった大地…東の丘陵地帯を睨んでいた男が、足を下した。

 

筋肉隆々とした男だった。

 

ごつい身体にいかつい風貌が調和している。

 

名をオルランド・カンパーノ。

 

強さだけで誉れ高き聖王国九色の一色を先代聖王から与えられたという実績を持つ男だ。

 

だが、素行や性格に難があり、兵士団班長という低い地位に留まっている。

 

そんなオルランドは、何かに気付いたように視線を動かし、こちらに向かってくる男を認識する。

 

その男は細かった。しかし、木の枝とは違う、鋼の細さであった。

 

さらに、細い目は今にも襲い掛かってきそうなほど鋭い。

 

黒目が小さいということも相まって、まっとうな職に就くものには見えない。

 

「おっと、今日は随分とお早い登場ですな、旦那…。まだ夜番の時間には早いでっせ」

 

「オルランド…。お前から聞きたいことがあってな…、例の白い騎士の話だ」

 

この男は、パベル・バラハ…。二つ名は夜の番人。

 

オルランドと同じ、九色の一色を戴く男だ。

 

彼は弓兵で、しかも百発百中と言われる超名手だ。

 

「あー、なんか南方からの旅人とか言ってましたが…ありゃただものじゃないな…」

 

「…どういうことだ?」

 

オルランドは、ニッと口角を上げる。

 

「まずは装備だな…白く輝く全身鎧…。そして腰に差した2本の珍しい剣…。そして何よりも体捌きだな…」

 

「手合わせしたのか?」

 

パベルの目がいつもよりも鋭くなる。

 

「いんや…勘ですがね…。あれは強い」

 

「勘か…。しかし、お前が言うのであればあながち的外れではあるまい」

 

「がははっ!そんなこと言うのは、旦那とうちの班員だけだぜ!」

 

オルランドは、まるで悪役のような笑い声をあげる。

 

…そのタイミングで鐘がなった。

 

夜番との交代時間か?…それにしては少し早い気もしたが、オルランドの思いはいつまでも打ち鳴らされている鐘の音によって雲散する。

 

オルランドはパベルに続き、はじかれた様に丘陵地帯へと振り向く。

 

この鐘の意味するところは、「亜人の影あり」だ。

 

400m以上にわたって視線を遮るもののない、その奥地に黒い影のようなものがあった。

 

「旦那…」

 

これだけの遠い場所にいる亜人の正体を掴むことができるのは、パベルにしかできない。

 

「亜人…じゃない…」

 

パベルの言葉に、オルランドは目を見開いた。

 

すぐさま質問をしようと口を開くが、パベルの方が早かった。

 

「あれは…悪魔だ…」

 

「悪魔!?…どのくらいいるんだ?」

 

悪魔ともなれば、種類によっては亜人よりも厄介な存在である。

 

亜人ですら人間よりも身体能力が高いが、悪魔はさらにその上をいくものが多い。

 

「…旦那?」

 

返事がないことに戸惑う。

 

普段は無表情のその顔に困惑の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「…数が…多い…。1000に近い…」

 

「なんだって!?」

 

丘陵地帯に悪魔が生息しているなどという話は聞いたことがない。

 

1,2体であれば、自然発生か誰かが召喚したとしても納得がいく。

 

だが、1000体ともなれば、それはもはや悪魔の根城を意味していた。

 

「…!?ば、バカな!!…悪魔の後ろに亜人の姿も見える!!」

 

「なっ!やつら、手を組んだってのか!!」

 

ありえないことではあったが、それは断言できることではなかった。

 

亜人種であれば多岐に亘る情報を有している聖王国であったが、悪魔に関しては文献で知りえたものが多い。…いや、それがほぼ全てであった。

 

「大侵攻…?」

 

誰かの声。本人としては独り言だったのかもしれないが、それは以上に大きく聞こえた。

 

「…これは、国家総動員令が発動されるかもしれない…」

 

「はは!聖王国の歴史上、一度しか起きたことのない大戦争を俺らの時代でもう一度、とは何とも言えないね!」

 

「俺は上に伝えてくる…お前も付き合え!」

 

「了解だ、旦那!!お前ら!!!これから楽しいパーティの始まりだ!予備武器をかっぱらってこい!!」

 

オルランドはパベルの後を追って走り出した。

 

 

カリンシャからアベリオン丘陵の間…。

 

その街道の上空には、音速にも似た速度で飛翔している物体があった。

 

多少なりともそれを目にした聖王国の住人はいたが、それがまさか人であるとは誰も思わなかった。

 

ウルである。

 

カリンシャで悪魔を倒した後、何やら大声を上げて走り去っていったウルだが、今は聖王国東端…アベリオン丘陵に向けて『速飛行』の魔法を極限までの速度をもってして飛行していた。

 

「どうして気付かなかった…」

 

ウルは、まるで新幹線を思わせる速度で飛行しながら、小さく呟く。

 

カリンシャの町はずれで、悪魔を召喚した際に気付くべきだった。

 

なぜアイテムボックスに入れておいたはずのものが、入っていなかったのか。

 

なぜ、ギルド拠点に置き忘れてきたと勘違いしたのか…。

 

そして…。先ほど思い出したのだ。

 

アベリオン丘陵で亜人を倒した後、そこでアイテムの確認と整理をしたことに。

 

その際に、取り出したアイテムを一度地面に置いたことに…。

 

そしてあろうことか、そのアイテムをしまった記憶がないことに…。

 

それを、今の今まで忘れていたのだ。

 

そう…。

 

ウルが置き忘れた可能性が高いアイテム…。

 

それは、最終戦争・悪が『3重』で封じ込められている、弟が作った悪魔像であった。

 

 

 

上司への報告を終えたパベルとオルランドは、カリンシャの街に滞在されているカルカ聖王女への早馬を見送った後、大砦門上へと戻る。

 

「奴さんの動きはどうだ?」

 

「はっ!じりじりと前進はしております。しかし、未だ弓も魔法を届かぬ距離で陣形を取っており、手出しできない状態です」

 

オルランドの言葉に、一人の兵士がはきはきと答える。

 

その2人の会話を聞きながら、パベルは鋭い視線をさらに鋭くさせ、アベリオン丘陵を視界に納める。

 

「距離にして300m…なるほど確かに届かんな…届いたとしても、有効打にはならん」

 

「…ならばどうする…。このまま様子を見るか?」

 

パベルの言葉に、オルランドが静かに口を開く。

 

「ああ…時間を稼げるならこっちとしてもありがたい…聖王女様一行が…」「よっと…」

 

「「ッ!!」」

 

パベルが考え込むようにして発言していたそれは、どこからともなく現れた存在に遮られる。

 

「な、何者だ!お前は!!どこから来た!!」

 

パベルは思わず弓矢に手を回す。

 

「うっお!こっわ!!」

 

突如現れた人物は、パベルと視線が合うとビクッとしたような様相を見せる。

 

それと同時に、パベルはその人物を観察する。

 

白…というよりは白銀に近い全身鎧を身に纏っていたのだ。思わず目を見開く。

 

オルランドも気付いたのか、言葉を漏らす。

 

「お、お前さんはあの時の!?」

 

「え?あ、確かオルランドさん…ですよね?その節は、どうもお世話になりました」

 

オルランドの声に、全身鎧の男はペコリと頭を下げる。

 

…どうやら、大分礼儀正しい男らしい。というよりも、これが恐らくオルランドが言っていた男であろうと、パベルは確信した。

 

「お、おう…。で、お前さん…えっと、ウルだっけか?一体ここまで何しに来たんだ?」

 

「あー…そりゃ、悪魔退治ですよ」

 

ウルの言葉に、オルランドやパベルだけでなく、その場にいた兵士たちも目を見開いた。

 

「…共に戦ってくれるのか?」

 

「ええ、もちろんです。…っと、失礼ですがあなたは?わたしは冒険者のウルと申します。まだまだ駆け出しの銅級ですが…」

 

パベルの鋭い視線に慣れたのか、ウルは物おじせずに口を開く。

 

「…すまない、私はパベル・バラハといいます」

 

「あっ!もしや九色のお一人では…?確か弓の天才だとか…」

 

ウルは目を見開らく。

 

「ええ、お恥ずかしながら…。あなたは…」

 

パベルが続けて口を開こうとしたが、ウルに遮られる。

 

「でしたら、援護をお願いできますか?…斬り漏らすかもしれないので…」

 

そう言いながら、砦の柵にひょいッと登るウルを見て、パベルとオルランドは驚いて見せる。

 

「な、何を言って…何してる!」

 

「お、おいウル!!お前さん一体…」

 

ウルは二人が何を慌てているのかわからずに首を傾げたが、言葉が足りなかったと反省し、丁寧に告げた。

 

「私が降りて、悪魔どもを斬りますので、斬り漏らしてしまったのがいたら、弓矢でも魔法でもいいですので、打ち抜いていただきたく…。あ、降りるのは私一人で大丈夫ですから。じゃあ、よろしくお願いしますね」

 

ウルはそう言い、2本の刀を抜くと、何の迷いもなく砦の柵から滑り落ちるようにして落下していった。

 

「っちょ!!何やってんだ!!!」

 

「おいおい!!正気か!」

 

2人の悲痛な引き留めの言葉もむなしく、ウルは地面にドンッときれいに着地して見せると、悪魔と亜人の元へと駆けて行った。

 

 

アベリオン丘陵、中央砦門前に10000体以上の悪魔と亜人が出現したとの報が、カリンシャの街、並びにカルカ聖王女一行に伝わったのは、カリンシャの街が些少の落ち着きを取り戻してすぐのことだった。

 

カリンシャの街で起こった悪魔の襲来、それによる被害の把握と状況確認が終わらぬまま、カルカ聖王女一行は、聖騎士団並びに神官団を多数引き連れてアベリオン丘陵へと馬を走らせた。

 

聖騎士団団長のレメディオスは、馬上で苦悶の表情を見せる。

 

「くそっ!まさかケラルトの言ったとおりだったとは!!」

 

「1万もの悪魔と亜人…。カルカ様…状況によっては、国家総動員令も視野に入れねばなりませんね…」

 

レメディオスの言葉を補うようにして、ケラルトが眉間に皺を寄せる。

 

「近年、亜人同士の派閥争いが活発化しているから侵攻はないと思っていたけど…まさか悪魔と手を組むなんて…」

 

「…なんとか、私たちの到着まで砦がもてばいいが…」

 

カルカの憂いに、レメディオスが願うように口を開く。

 

「ウルという聖騎士が、本当にこのことを予見していたのであれば、戦闘に参加している可能性は高い…希望はあります!」

 

ケラルトも一抹の希望を胸に抱く中、中央砦内側の城壁が近づいてきた。

 

と同時に、なにやらうごめく様な戦いの音が耳に入る。

 

それを聞いたカルカ聖王女一行の表情に緊張が走る。

 

「ッ!急ぎましょう!!…弱き民に幸せを、誰も泣かない国を!!!」

 

カルカは一行全体に聞こえるように、可憐で愛らしくも威厳のある声を発した。

 

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

カルカの国是を心に抱き、一行は大きく返答を返した。

 

 

カルカ一行が、砦前に到着したのは、カリンシャでの悪魔騒動があってから約6時間後の15時過ぎであった。

 

砦前で待機している兵団に馬を預け、急いで砦上部へと向かった。

 

砦内はあたふたとした様子をみせ、戦闘の準備を進めているのが見て取れる。

 

だが、そんな中でも、聖王女一行に頭を下げ、到着を喜んでいるように見えた。

 

「カルカ様!レメディオス様!ケラルト様!」

 

位の高そうな兵士が、聖王女一行に声を掛ける。

 

「隊長のサイゴラか!!状況はどうなってる!!!」

 

レメディオスは、切迫した様子で兵士に詰め寄る。

 

「そ、それが…聖王女様達に、早急にお尋ねしたいことが…」

 

「聞きたいこと?なんですか、それは?」

 

サイゴラの言葉に反応したのは、ケラルトであった。

 

「見知らぬ聖騎士風の男が、万を超える悪魔と亜人に、一人で突っ込んでいったのです…。御三方であれば、何かご存じではないかと…」

 

カルカ達は、大きく目を見開いく。

 

「一人でだとっ!何を考えているんだ!!あいつは!!!」

 

「ただのバカ…?いや、それとも…勝算があって…?」

 

驚き方は姉妹で全く別のモノであった。

 

「な、何かあの聖騎士にお心当たりが??」

 

「…6時間ほど前、カリンシャの街が悪魔に襲われたのです」

 

カルカがその質問に答えると、今度はサイゴラが大きく目を見開く。

 

「そ、そんな馬鹿な!!ここも含め、まだ砦は突破されていませんぞ!!」

 

周りに控える砦の兵士たちも、『カリンシャが…』と言った様子で戸惑いを見せる。

 

「原因はまだ不明です…ですが、そのカリンシャに現れた悪魔を、その聖騎士の御仁が倒したのです…そのおかげでカリンシャの被害は殆どありません…」

 

「しかもたった一人で、200体近い悪魔を倒したのだ…それも凶悪な悪魔のおまけつきだったというのに、だ…」

 

カルカとレメディオスの言葉に、サイゴラは信じられないといった様子であった。

 

「とにかく、砦上部に案内してもらえますか?状況を確認したいので…」

 

「も、もちろんです!…さあ、こちらに…!!」

 

サイゴラを先頭に、カルカ達は砦上部へと続く階段を駆け上がる。

 

ケラルトは、険しい顔つきですぐ後ろを走るカルカに声を掛ける。

 

「やはり、彼はこの状況を予見していたのでしょうか?」

 

「…行動をみるに、そうとしか考えられませんね…」

 

2人の会話に割るようにして、レメディオスが口を開く。

 

「しかし、たった一人で突っ込むとはッ!いくら私でもそんなことしないぞ!!」

 

「「(うーん、しそうだなー…))」

 

カルカとケラルトは、レメディオスの言葉に目を細め、冷ややかな視線を送る。

 

だが残念なことに、レメディオスはそれに気づかなかった。

 

「…しかし、しかしだ!あれほどの悪魔を倒せる男だ!!聖王国の戦力になることは間違いない!!!」

 

レメディオスの言葉に、カルカとケラルトは真剣な面持ちになる。

 

「ええ。それは間違いないと思います…」

 

「…今ここで、あのお方を失うのは惜しい…。戦力という意味でも、この悪魔騒動の件を解決するという意味でも…」

 

そこまで会話をしたところで、視界が明るくなってくる。

 

階段が終わりをつげ、砦門上へと足を踏み入れる。

 

砦門上では、兵士たちがこぞってアベリオン丘陵の方を眺めている様子であった。

 

そんな兵士の中で、見知った顔を見つけたレメディオスは弾丸のように駆け寄る。

 

「パベル兵士長!状況は!!」

 

声を掛けられたパベルは、ばっとレメディオスの方へ振り向く。

 

「レ、レメディオス団長!!…ッ!それに、カルカ聖王女様!!」

 

パベルの言葉に、周りの兵士たちも振り向き、すぐさま片膝を突いて平伏する。

 

「楽にしてください。今はそんな状況ではないでしょう…」

 

「楽にしなさい!」

 

カルカの声掛けに続き、ケラルトが復唱する。

 

すると、皆おずおずと言った様子で立ち上がる。

 

「…カルカ様、お話はお聞きですか?あの聖騎士のこと…」

 

「…ええ、一人で悪魔と亜人に立ち向かわれたと…そのお方はご無事なのですか??」

 

カルカの言葉に、パベルはゆっくりとアベリオン丘陵の方に視線を移す。

 

聖王女の質問に返答を返さないパベルに些少の憤りを感じたケラルトであったが、その憤りは一瞬で消えることになる。

 

「なあ、聖王女様方よ…。あんた…あの聖騎士を知ってんのか?」

 

パベルの横にいた大柄の男、オルランドは敬意も減ったくれもない言葉遣いで、だが少し震えた様子で口を開いた。

 

「…どういう意味だ…」

 

レメディオスが短く反応すると、オルランドはゆっくりとアベリオン丘陵に向けて指をさす。

 

「あの聖騎士殿…もう…半分の5000近く倒しちまってるぜ…」

 

オルランドの言葉に、カルカ達は目玉が飛び出るのではないかという勢いで目を見開くと、砦の柵に身を乗り出して丘陵を見つめる。

 

…距離にして300mほど先…。

 

だが、それだけ離れていてもわかるぐらいに、所狭しといった様子で、悪魔や亜人達の死体で丘陵は埋め尽くされている。

 

そして、その奥では今もなお、戦いが続いているようであった。

 

昼下がりの陽光を跳ね返し、まるで鏡のような輝きを放ちながら、白銀の鎧が剣を振るっている。

 

白銀の鎧が右往左往するたびに、悪魔や亜人が次々と倒れていく。

 

まるで、悪魔と亜人の間をすり抜け、ダンスを踊っているかの如く、戦いを繰り広げている。

 

「こ…これは…っ!」

 

「な、なんという…」

 

ケラルトとレメディオスは、我を忘れたように、口をパクパクとさせながら声を絞り出す。

 

「カルカ様…。あの男は一体…聖王国の秘密兵器か何かですか?」

 

「なあ、何者なんです?…あんなに強い聖騎士…というか人間…俺は見たことないですぜ…かの王国戦士長ガゼフ以上だ…」

 

パベルとオルランドは、目を見開いて丘陵を見つめるカルカに言葉を掛けるが、答えは返ってこない。

 

「カ、カルカ様…?」

 

そんな様子を見て、パベルは再び声を掛けるが、カルカから返ってきた言葉は、先の質問に対する答えではなかった。

 

「…美しい…、なんて美しいの…」

 

「せ、聖王女様…?」

 

何かに見惚れるような表情と言葉に、オルランドも困惑を隠せない。

 

そんなカルカの様子に、ケラルトとレメディオスも些少の冷静さを取り戻す。

 

…だが、その取り戻した冷静さは、即座に驚愕のモノへと変わる。

 

「…レメディオス…、ケラルト…。」

 

「「…カルカ様?」」

 

未だ視線を固定し、微動だにしないカルカ。

 

「見つけたかもしれません…。わたくしの…お婿さんを……」

 

カルカは胸の前で両手を絡め始めた。

 

「「「「…ぇ…」」」」

 

レメディオスたち4人は、虫のような声を出した後、顔を見合わせ、ゆっくりと息を吸いこんだ。

 

「「「「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

ウルは、砦を飛び越え、アベリオン丘陵へと降り立つと、前方に蠢く壁のようにして立ちふさがる悪魔を斬り伏せていく。

 

レベル20にも満たない悪魔たちに、ウルが苦戦するはずもなく、一度剣を振るうだけでバタバタと倒れていく。

 

「な、なんなんだ…この人間はっ!!ガッ!」

 

「ツ、ツヨイ…!!グッ!」

 

亜人と悪魔達は、恐怖の色を顔に滲ませる。

 

「だ、だがたった一人だ!!」

 

「カズデオシコメ!」

 

まるで狂ったように、ウルへと攻撃を仕掛ける。

 

…それとは対照的に、ウルは一つの疑念を胸に抱きながら剣を振るう。

 

「(おかしい…なぜこんな低位の悪魔しかいないんだ…)」

 

悪魔の出現、それはウルの責任であった。

 

もっと早く気が付いていれば、どこかの亜人が最終戦争・悪を発動することはなかったであろう。

 

だが、最終戦争・悪は、レベル10~70の悪魔を、一定数召喚する魔法。

 

ウルがやって見せたように、キャンセルをしない限り、最大で70レベルの悪魔が出現するはずであった。

 

だが、一番高くてもレベル30程度の悪魔が数えるほどいるだけで、他は最低レベルの悪魔のみであった。

 

「(後方に控えている?…それとも…)」

 

前方にカッと赤い光が見える。

 

ファイアーボールが発動したと感じ取り、左に握った刀で弾く。

 

弾いた先にいた亜人に着弾し、爆発する。

 

右に刀を握ったまま、お返しとばかりに魔法を放つ。

 

「『善なる槍(ホーリー・ランス)』」

 

信仰系第5位階魔法である。

 

槍の形をした、神々しい光が前方に向かって放たれ、着弾と同時に光の衝撃が駆け抜ける。

 

片足で地面を蹴り飛ばし、やや後方へ退避する。

 

右手の刀をより握りこみ、大軍に向けて、水平に振り下ろす。

 

「『飛翔斬』」

 

三日月形をした斬撃が、刀を離れ、形を保ったまま前進する。

 

10体ほどの亜人を真っ二つに斬り、地面へと衝突する。

 

斬術、魔法、スキルといろいろと試しながら、戦闘を続けるのであった。

 

 

カルカ達が砦上門に到着してから、2時間が経過した。

 

見える範囲では、亜人と悪魔はほぼ壊滅している様子であった。

 

「カルカ様!!今すぐに進軍するべきです!!」

 

レメディオスがそう進言すると、ケラルトも続けて口を開く。

 

「彼が森の奥に入って、暫くたちます…。もしかしたら、親玉がいるかもしれません。叩くなら今かと!」

 

「レメディオス…ケラルト…」

 

カルカは、暫し悩んだ後、カッと目を見開いて決断する。

 

「砦の防衛に必要な最低数の兵を残し、アベリオン丘陵に向けて、偵察及び戦闘に向かいます。深追いはせず、ウルさんを発見次第保護!!そのまま撤退します!!」

 

「「「「おおーーーっっ!!!」」」」

 

兵士たちの士気は非常に高い状態であった。

 

当たり前である。

 

たった一人で、万を超える亜人と悪魔を一切ものともせずに戦うウルの姿を見て、士気が下がるはずもなかった。

 

「よしっ!!馬だ!!馬を動かせ!!!」

 

「「「はっ!」」」

 

レメディオスの指示に、聖騎士団員は短い返事で答える。

 

「神官団も向かいます!」

 

「はいっ!!」

 

ケラルトも同様に指示を飛ばす。

 

いそいそと準備を進める2人を横目に、カルカはパベルに声を掛ける。

 

「あなたはこのままここで待機し、必要に応じて対応をお願いいたします」

 

「承知いたしました!カルカ様、どうかご武運を!!」

 

パベルの言葉に、カルカは小さく笑みを浮かべて答えると、カストディオ姉妹を追うようにして砦を降りて言った。

 

その後、パベルの指示のもと、砦防衛兵とカルカ一行と向かう突撃隊(突撃すべき相手はいないが…)に分かれてそれぞれが動き始めた。

 

 

ほぼ全ての悪魔と亜人を倒した後、ウルはゆっくりと森の奥へと進んでいった。

 

特に土地勘があったわけではないが、自身がこの世界に初めて降り立った場所を目指していた。

 

なんとなく、ただの勘であったが、そこに自身が置き忘れた悪魔像を使用したものがいる気がしたのだ。

 

…そして、それは見事的中した。

 

大分大柄な体つきをした亜人種であった。

 

…山羊人であることが分かるほどに近づくと、向こうも気付いた様子で、武器を構える。

 

「て、てめーか!!俺の召喚した悪魔と仲間を殺しやがったやつは!!」

 

体毛は銀色で、通常の山羊人より一回り大きい立派な角を有していた。

 

バザーは怯えた様子で、ウルに向かって武器『砂の射手』を向ける。

 

「…あんたには悪いと思ってるよ…」

 

「ああっ?」

 

ウルは少し低めに言葉を投げた。

 

「俺が悪魔像を置き忘れなければ…あんたはここで俺に殺されずに済んだ…すまねえな」

 

「な、何言ってやがる…あれが、てめーのだと!?」

 

一歩一歩近づいていくウルに反して、バザーは後退していく。

 

「でも…発動させたのはあんただ…その責任は、取ってもらうぜ…」

 

ウルから、爆発的な魔力が、聖なる力が噴き出す。

 

味わったことのない魔力であった。思わず腰が抜け、尻もちをついてしまう。

 

「ひ、ひぇ…ま、待ってくれ!!わ、悪かった!!!俺にできることなら何でもする!!!だから…い、命だ…っっ!!」

 

怯え切ったバザーの命乞いは、紡がれることはなかった。

 

目の前にいるウルが、一瞬にして消えたかと思うと、直後に視界が反転する。

 

そして、バザーが首を斬られたことに気付くころには、すでに意識は朦朧とし、次第に視界は暗闇に鎖された。

 

 

ウルは、本心から申し訳ないと思っていた。

 

全ては自分の責任である。

 

故に、その怒りをバザーに向けるのはわがままなものであった。

 

しかし、それでも許すことはできなかった。

 

弟が必死に、だが楽しそうに作っていたそれを、勝手に使われた怒りが芽生えていたからだ。

 

と同時に、なぜ強大な悪魔を召喚出来なかったのかの仮説も立てる。

 

ユグドラシル時代にはなかった作用である。

 

恐らくは、使用者のレベルに合わせて召喚できる悪魔が変化するのだろう。

 

レベルが低くても、召喚者や魔法詠唱者であれば、多少マシな使い方もできたかもしれないが、適性が全くなかったと推察した。

 

「はぁ…」

 

新たな発見ができた喜びもあったが、同時に貴重なアイテムの無駄遣いであったことが、その喜びをプラマイゼロにする。

 

「まあ、悪いのは俺だな…うん」

 

そういいながら、地面に落ちた山羊人の首を持ち上げる。

 

角があって持ちやすい…と少しサイコパスなことを考えながら、来た道を引き返す。

 

「…まあ、あれだ。今回の悪魔事件をすべてこいつに擦り付けられると考えれば…悪くないか…。いや、ほんとにすまんな…」

 

モノ言わぬ亡骸に謝罪しながら、ウルはゆっくりと歩み始めた。

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