【完結】カルカとモモンガに救済を!   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第4話 聖王女

カルカ達一行がアベリオン丘陵へと馬を走らせる。

 

丘陵全体に、血生臭さが蔓延しており、カルカは思わず眉をひそめた。

 

見渡す限りの死体と、真っ赤に染上げられた地面に、他の者も表情が引きつっている。

 

「これを…たった一人で…」

 

「ああ…難度50‐60の悪魔がわんさかいるぞ…とんでもない奴だ…」

 

ケラルトが絞り出したような声を上げると、それにレメディオスが答える。

 

「これだけの死体…大がかりな浄化が必要となるでしょう…」

 

「ええ、早速始めますか?」

 

カルカの懸念はもっともで、万を超えるような死体は、同じく万を超えるアンデットを産み出しかねない。

 

同じくそれをよく理解しているケラルトは、神官たちに指示を出し、魔法による浄化を行っている。

 

そんな風にしていると、森の奥からがさっと物音がする。

 

一番最初に反応を見せたのはレメディオスであった。

 

「ッ!警戒しろ!!誰かいるぞっ!!」

 

レメディオスが剣を握るのと同時に、他の聖騎士たちも森へと意識を向ける。

 

『生き残りか?』と警戒を強めていたが、その警戒はすぐに解かれることになった。

 

「ふぅ…」

 

出てきた人物は、白銀の全身鎧を身に纏った聖騎士風の男であった。

 

「なっ!ウ、ウルなのか!!」

 

レメディオスは剣の柄から手を離すと、ウルへと駆け寄る。

 

他の聖騎士たちも、その様子を見たことで、肩の力を緩めた。

 

「え?あ、はい…。ウルは私ですが…、あなたは??」

 

ここで、レメディオスは初対面であったことを思い出す。

 

「ああ、すまない。私はローブル聖王国で聖騎士団の団長をしているレメディオス・カストディオというものだ」

 

名乗ると、ウルは少し驚いた様子で口を開いた。

 

「おー、あなたがかの有名な聖騎士団団長の…、これは大変失礼いたしました。私はウルと申します。今はカリンシャの街で冒険者をしております」

 

「お、おう…。よろしくな…」

 

まるで貴族王族であるかのような丁寧な身振りに、レメディオスは思わず動揺する。

 

「それで、聖騎士団団長様がなぜこのような場所に??」

 

「は、はぁ??なぜってお前…。亜人と悪魔の大軍が押し寄せてきたというから…」

 

レメディオスは、ウルのどこか抜けたような声と態度に、呆気にとられる。

 

「ああ、なるほど…。それは大変なご足労を…ですが、それでしたらもう心配はないかと…。この騒動の元凶も見つけましたし…」

 

ええ、そうです。見つけました。私が原因なんですけどね…。

 

などとウルは心の中で自虐して見せながら、手に持つ山羊人の首を持ち上げてレメディオスに見せる。

 

「なっ!!」

 

レメディオスは思わず口を開けて固まる。

 

後ろに控える多くの聖騎士や神官、兵士たちも同様に固まって見せた。

 

その姿に、ウルは些少の疑問を持った。

 

最初に冷静さを取り戻したのは、オルランドであった。

 

「お、おい!ウル!!そりゃあ、豪王バザーじゃねえかっ!!!討ち取ったのか!!!!!」

 

「え?豪王…バザー…??そんな名前だったのか…」

 

「し、知らなかったのかよ!!やっぱりただもんじゃねーな…。幾たびの戦士を屠ってきた、恐ろしく強くて有名な山羊の亜人だよ!!!」

 

オルランドの言葉に、今度はウルが驚く。

 

「(え…そんなに有名だったの?…レベル40もなかったのに…)」

 

ウルはここで、改めてこの世界との戦力の認識に対する差異を強めた。

 

「あー、そうだったんですね…。ま、まあでも、これで戦士たちが襲われることもないですし…。一石二鳥ってことで…」

 

ウルはどこか引きつったような笑みを浮かべている。

 

そんな姿に、オルランドは一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべて、ウルの肩を抱き寄せて手を回す。

 

「がっはっはっは!!なんて男だ、お前さんは!!」

 

「ちょ、いきなりなんですか……。ははっ」

 

オルランドの行動にびっくりしたウルであったが、あまりにも豪快に笑っているのを見て、思わず笑ってしまった。

 

そんな風に暫くして笑っていると、一人の美しい金髪をした女性が声を掛けてきた。

 

「ウルさん…」

 

たった一言、決して大きくない声であったが、オルランド含めその場にいるもの全員がピタッと口を閉ざして背筋を伸ばす。

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

一体何事かといった様子で、ウルはゆっくりと丁寧に言葉を発した。

 

「私は、このローブル聖王国の聖王女カルカ・ベサーレスと申します。この度の働き、国を挙げて深く感謝申し上げます」

 

一瞬、思考が固まったウルであったが、即座に片膝をつき頭を垂れる。

 

「せ、聖王女様であられましたか!とんだご無礼を…。私は、カリンシャで冒険者を営んでおります、ウルと申します。この度は多大なるご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます!」

 

ウルの過大ともいえる平伏に、カルカは大きく目を見開いて驚く。

 

加えて、洗礼されきったその所作に、周りも目を奪われてしまう。

 

美しい聖王女の前に、白銀に輝く聖騎士が膝を突いて頭を垂れる…。

 

まるで、吟遊詩人が歌う、英雄の物語の一幕のようなシーンに皆心を奪われてしまったのだ。

 

「な、なぜ謝罪を…あ、あなた様はカリンシャの街を救うだけでなく、亜人と悪魔の連合を打ち滅ぼしたのです。感謝はされど、謝罪することは何もないではありませんか」

 

カルカは酷く困惑していた。

 

私は今、何か失礼なことをしてしまったのだろうか?

 

あれほどの強さと、美しい戦闘を見せる聖騎士が、まるで自分のことを主人かの如く、平伏して見せている。

 

それが酷く現実離れしていて、驚きを隠せなかったのだ。

 

だが、不思議と不快感はなかった。

 

それどころか、胸がドクンと跳ね上がるのを感じた。

 

ウルはそんなカルカの心情など知る由もなく、鎧の下で冷や汗をかいていた。

 

「(俺が原因なんですよっ!!本当にすみません!!!俺がいなければカリンシャは被害を受けなかったし、亜人と悪魔が攻めてくることもなかったんですっ!!!)」

 

そんな風にして、色々と言い訳や謝罪を考える。

 

「…私がもっと早くにカリンシャに出現した悪魔たちに気付いていれば、街の被害も、ケガをする方も少なかったでしょう…。痛恨の極みです」

 

ウルの、はきはきとした言葉に、聖騎士や神官たちは、『おぉ…』と感銘を受けたように息を漏らす。

 

「そうだとしても、ウルさんが謝罪することではありません。もしあなたがいなければ、カリンシャの街は壊滅し、この砦も破壊されていたかもしれません…」

 

カルカの言葉に、ウルはゆっくりと顔を上げてその姿を視界に捉える

 

やはり美しい女性であった。まるで女神のような輝きに見惚れていたが、その幸福な時間はそう長くは続かなかった。

 

「そうだぞ!ウル、お前がいなければ、被害はもっと大きいものになっていた!」

 

レメディオスは、ウルと同じように片膝をつき、視線を合わせて声を掛ける。

 

「そういって頂けると、ありがたいです…」

 

「姉さまのいう通り、あなたの働きは、高く評価されるべきものです」

 

そんなレメディオスの後ろからゆっくりと近づいてくる女性がいた。

 

長い髪を一つにまとめ、ポニーテイルのような髪型を有するその女性は、レメディオスによくにた顔立ちをしていた。

 

「ありがとうございます…。えっと、あなたは?」

 

「あ、申し遅れました。私は神官団団長のケラルト・カストディオ…この、レメディオス・カストディオの妹です」

 

「おお、これはどうも、ご丁寧に…」

 

ウルは、視界が一瞬ぼやけるような感覚を覚える。

 

「それで、ウルさんに色々とお聞きしたいことがあるのですが…この…魔………どこ…………。」

 

ウルの視界が少しずつ反転する。同時に眠気も襲ってきた。

 

「(ああ、そういえば朝から驚きと戦闘の連続で眠気が…。これ、ちょっとやばいかも…)」

 

「…?ウルさん??」

 

ケラルトは、自身の質問に反応のないウルを覗き込むようにして見つめる。

 

その疑念はケラルトだけでなく、隣にいるレメディオスや、前方にいるカルカ達も抱き始める。

 

そして、倒れこむようにしてウルが地面に伏す。

 

「…!?ウルさん!!??」、「ウル!!どうした!!」

 

ケラルトが、倒れこんだウルに駆け寄る。

 

レメディオスもウルの鎧に触れ、安否を確かめる。

 

「おい!ケラルト!!治癒魔法を!!」

 

「わかっています!!」

 

突然倒れこんだウルに、皆騒然とする。

 

そこで、カルカは自身の行動が適切でなかったことに気付き、後悔する。

 

カリンシャの街で凶悪な悪魔の群れを撃退し、続けて万を超える亜人と悪魔を斬り伏せたのだ。

 

その疲労と苦労は計り知れないほどであった。

 

「(あれだけの亜人や悪魔との戦いを繰り広げたお方に…こんな些細な配慮もできないなんて…)」

 

カルカはぐっと唇を噛みしめ、その場にいる全員に声を掛ける。

 

「今すぐにウルさんを砦城内へ運びなさい!決して死なせてはなりません!!この白銀の聖騎士様を…聖王国の名にかけて、何としてもお救いするのです!!!」

 

カルカの言葉に、その場にいたものは背中を蹴られた様に行動を開始し、自らの責務を果たすために奔走し始めた。

 

 

突然倒れこんだウルを、砦城内まで運び込んだカルカ一行であったが、当の本人は小一時間で目を覚ましてみせた。

 

原因が負傷ではなく、過労であったことを知り、とりあえずは皆が安堵の表情を見せる。

 

「いやー、申し訳ありません…。ここまで運んでもらってしまって…」

 

ウルは、中央砦城内の兵舎の一室にあるベッドの上で、上体を起こしながら、少し恥ずかしそうに答える。

 

「なに、礼には及ばねーよ!それに、英雄様を背負ったなんて、名誉なことだしな!!自慢できるぜ!!!」

 

オルランドは、がははっと大口を開けて笑いながら答える。

 

「オルランド!口に気をつけろ!!この方はもはや救国の英雄…。大概にしろよ」

 

パベルがただでさえ怖い目つきを、更にキッと細める。

 

「いえいえ、お気になされずに。…ちょっと疲労が溜まっていたみたいで…ご心配をおかけしました」

 

「むぅ…あれだけの戦いに身を投じながら、疲労で済ますとは…何たるお人か…」

 

「いえ…私にはもう…戦いしか誇るものがないものですから…」

 

ウルは、ははっと笑いながらも、寂しそうな、虚空を見つめるような表情をみせる。

 

…パベルは、その表情に些少の身に覚えを感じた。

 

「いや!!もっと誇っていいんだぜ!!今やこの砦にいる連中の間じゃ、あんたの話題で持ちきりさっ!!白銀の聖騎士、白銀の英雄!!白銀のウルに聖銀のウル!!!いろんな二つ名が生まれてるぜ!!」

 

オルランドは気付いていない様子で、またも不敬な言葉遣いを繰り返す。

 

それがパベルをさらにイラつかせたが、はぁと諦めたようにため息を漏らす。

 

そして、思い出したかのように口を開いた。

 

「しかし、ベッドに寝かせた後、兜を取ろうとして、急に起き上がった時は驚きましたよ…」

 

「あー、本当に申し訳ない…。あまり素顔を見られたくない、というのがありまして…」

 

「むっ…。それは…大変に失礼なことを聞いてしまった…。申し訳ない…」

 

恐らくは、言えぬ傷…戦傷のようなものを負っているのだろう…。

 

若しくは自分のようにコンプレックスを抱えている可能性もある、とパベルは察した。

 

…あれだけの力をもつものである。強敵との戦いにも身を投じていたはず…。配慮が足りなかったことに、素直に頭を下げた。

 

「いえいえ、気にしないでください。私を心配してのことなのですから…」

 

「そういって頂けるとありがたい…」

 

ウルとパベルの会話が弾みを帯びてきたところで、介入者が現れた。

 

コンコンという音に反応し、パベルが入室を促す。

 

カルカ聖王女とカストディを姉妹であった。

 

その姿を見て、パベルとオルランドは即座に膝を着いて平伏する。

 

ウルもベッドから降り、平伏しようとして見せるが、制止される。

 

「ウルさんは動かないでください。少しでも安静にしなくては…」

 

「申し訳ない…。では、お言葉に甘えて…」

 

ケラルトの言葉に、ウルはベッドの柵に腰を預けなおす。

 

「どうだ?調子は??」

 

レメディオスが神妙な面持ちで声を掛ける。

 

「ご心配をおかけしたみたいで、申し訳ありません」

 

「まったくだ…。急に倒れおって…どれだけ心配…」

 

「姉さま!!!」「むぅ…すまん」

 

ウルの言葉に、畳みかけるようにしてレメディオスが口を開くが、ケラルトにあっさりと制止される。

 

「パベル兵士長、オルランド班長…。楽にしなさい」

 

カルカの後に次ぎ、ケラルトが許可を出すと、ゆっくりと先の2人が頭を上げ、立ち上がる。

 

と同時に、ゆっくりとカルカがウルの元へと歩み寄る。

 

「ウルさん、改めて今回の一件、心より感謝申し上げます」

 

「とんでもないことでございます。私は私のできることをしたまでです」

 

少し頬を赤らめるカルカに、些少の疑問を持ったウルであったが、それを考える時間は与えられなかった。

 

「お疲れのところ申し訳ないが…。ウル殿にいくつかお聞きしたいことがございまして…」

 

「聞きたいこと…、ですか?私で答えられることであれば、お答えいたしましょう」

 

 

まるで事情聴取のようなそれは、ウルの生まれ持った頭の回転力の高さに助けられる形で、サクサクと進んでいった。

 

質問と、それに対してのほぼ嘘の回答はこうであった。

 

・カリンシャの街に現れた悪魔と面識があったのはなぜか?

 

 →自身と因縁がある大魔王と言われる悪魔の配下であったため。

 

・その大魔王との因縁とは?

 

 →南方にある自分の国を滅ぼした大悪魔であるため。

 

・なぜあなたは聖王国に来たのか。

 

 →その大魔王が北に移動をしたとの情報を得たため。

 

・大魔王の居場所はわかるのか?

 

 →わからない。逆に教えてほしいくらい(存在しないのだから)。

 

・なぜカリンシャの街にいながら、今回の侵攻に気付いたのか?

 

 →自身のタレントで認識できた。詳しい能力は控えたい。

 

・これからどうするつもりか?

 

 →暫くはカリンシャの街を拠点に行動していく(これは本当)。

 

ウルの回答は、どれも(意外にも)的を得ていて、皆特に疑うようなそぶりを見せなかった。

 

それどころか、皆で顔を合わせながら、どこか考え込むような表情を見せていた。

 

「(よしよし、とりあえずは何とかごまかせたな…)」

 

ウルはしてやったり!といった様子で笑みを浮かべた。

 

「それでは、最後の質問…。というよりも、お願いになるのですが…」

 

カルカは、少しもじもじとした様子で口を開いた。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

カルカは少し頬を赤らめ、俯く。

 

ケラルトとレメディオスは、「えっ」と言った様子で驚く。

 

「えっと…その…。御顔の方をお見せいただければと…」

 

カルカの言葉に、ウルは思わず黙りこくってしまった。

 

先ほどと同じような話題が出てしまったことにパベルは、少し動揺したような様子を見せる。

 

オルランドもここまでの話を聞き、ようやく察した様子を見せる。

 

「…カルカ様のお目汚しになります」

 

「か、かまいません!…どうか、お見せいただけませんか??」

 

カルカは、真剣な眼差しで、それでいてどこか恥ずかしそうしている。

 

「(あー、まあ、そりゃ得体のしれないやつの顔を拝んでおきたいってのは、王女様としては当たり前だよなー…)」

 

ウルは心の中で納得して見せると、意を決して兜に手をかける。

 

…そうしてあらわれた素顔をみたカルカ達5人は、今までにない衝撃に、ピタッとした様子で暫く硬直してしまった。

 

 

 

ウルは、質問攻めにあい、素顔を晒した後、足早に砦を去り、カリンシャへと向かったのだった。

 

疲労も大分回復してきたのと、その場しのぎでついた嘘が早々にバレることを恐れてのことだった。

 

一安心しているウルであったが、それとは逆にウルが立ち去った兵舎の中は、重苦しい雰囲気を醸し出していた。

 

「…どうやら、私が思っていた以上に…禍根のある内容でしたわ…」

 

ケラルトは、重い雰囲気のまま、口を開く。

 

「そうですね…。国を滅ぼされ、全てを失った…ってところですね」

 

オルランドも珍しく小さく、丁寧に言葉を漏らす。

 

「…俺には戦うことしかできない…。先ほど漏らした言葉の意味も、重みを感じますね」

 

パベルは、オルランドと3人で会話をしていた時のことを思い出す。

 

ケラルトは、彼はそんなことを言っていたのか…と更に落ち込んだ様子で答える。

 

「あたしは大魔皇ってのが気になるな…この聖王国にもその手は伸びているのか…」

 

レメディオスが神妙な趣で考え込む。珍しいこともあるものである。

 

「そうですね…。先の悪魔の出現は、強大なアイテムの影響である可能性が高いとの話でしたが…。そのアイテムを、大魔皇が故意に放置した…とも考えられるわ」

 

まったくもってその通り!大魔皇ウルの誕生である。…故意ではないが…。

 

「とすると、狙いはこのローブル聖王国だけではない可能性もありますね」

 

ケラルトの推察に、パベルが付け加えるようにして答える。

 

「ん?…どういうことだ??」

 

「もし大魔皇さんがローブル聖王国を狙いで襲うつもりなら、はなっから軍勢率いて襲ってくればいいって話じゃねーですかね?事実、カリンシャに侵入されてんですから」

 

レメディオスの疑問に、オルランドが静かに答える。

 

「…大魔皇が姿を現すのを躊躇っている可能性もあるけど、カリンシャの事件が同じようにアイテムによるものだとしても、誰がそれをもってきていたのか…よね」

 

「人間に化ける悪魔もいると聞きますからね…。より注意深く警戒する必要がありますね…」

 

ケラルトの疑問には、パベルが口を開いて応答する。

 

…と、ここである違和感を覚える。

 

この場にいて、一切言葉を発していない者がいたからだ。

 

それに気づいたケラルトは、横目にその人物を移す。

 

その人物は長い金髪に美しい顔立ちを持ち、今は両手を胸の前に絡めて固まっている。

 

…というより、ウルがこの部屋から退出してからずっとこの様子なのである。

 

いや、正確に言えば、ウルが素顔を見せてから…が正しい表現かもしれない。

 

すでにケラルトは先の女性、カルカ聖王女が、いかようにしてこのような姿になっているのかを理解している。

 

というよりも、正確に理解できていないのは姉であるレメディオスくらいなものであろう。

 

さすがに固まって暫くたつため、ケラルトはカルカにゆっくりと声を掛ける。

 

「カ、カルカ様?…その、大丈夫ですか??」

 

ケラルトの懸念に気付いたパベルとオルランドも、緊張した面持ちで視線を移す。

 

…パベルの視線が幾ばくか優しいものになっているように感じた。

 

「あー…えっと、カルカ様?」

 

全く反応のないカルカに、オルランドが耐えきれないといった様子で、ケラルトと同様に声を掛ける。

 

「カルカ様?…って一体どうされてしまったのだ…?」

 

レメディオスはいい加減、人間的な思考回路を身に着けてほしいものである。

 

ケラルトがそう思った矢先、カルカが小さく口を開いた。

 

「皆さん…。見ましたか…。ウルさん…いえ、ウル様のお顔を…」

 

あ、うん。やっぱり…といった様子で、レメディオスを除いた3人があんぐりと口を開く。

 

「え?ウルの顔ですか?あー、ものすごい美形のイケメンでしたな!!あたしが今まで見た中で一番のイケメンだな、ウルは!!」

 

レメディオスは、バカゆえに本質をついてしまう。

 

「そう!!あの引き込まれるような黒い髪!黒い瞳!!そしてあの美しい顔立ち!!それでいて圧倒的な強さを誇る聖騎士ですって!?…はぁ…。なんて素晴らしくお美しい方なのでしょう…」

 

カルカは自分で言っていて恥ずかしくなったのか、顔をぼっと赤らめる。

 

と思ったら、今度は両手を頬に当て、身体をくねくねし始める。

 

どう見ても、20台半ばに差し掛かろうとしている女性の身振りではなかった。

 

さながら、恋する14歳の乙女のような素振りを見せる。

 

この様子だと、カルカの頭の中にはもう先の事件のことも、大魔皇の話も耳には入っていないだろう。

 

不意に、「南方のどこの国の方なのでしょう…」、「許嫁はいらっしゃるのでしょうか…」、「身分の違いはどうしましょう…」…と、中々不審なことを言い始めている。

 

「あ、あの…カルカ様?…あまりがっつきすぎるのもよくないことかと…」

 

ケラルトがまるで息絶え絶えと言った様子で口にしたそれであったが、それは酷くカルカの中で反復されていく。

 

「そ、そうよね…。嫌われたり失望されてはいけないわ…」

 

カルカはぶつぶつと呟いてみせる。

 

そして暫くそうしていると、何か思いついたように些少の冷静さを取り戻す。

 

「…そういえば、ウル様は冒険者だとか…しかし、銅級というのはいささか不相応に思います…」

 

「それに関しちゃ、全くその通りですな!ウルにはアダマンタイトがお似合いだと思いますぜっ!」

 

「むぅ…アダマンタイトなどで収まる器ではないと私は思うが…しかしどっちにしても、このまま銅級にしておくという選択肢はないように思います」

 

カルカの疑念に、オルランドとパベルがそれぞれ同意を示す。

 

「となると、聖王国初のアダマンタイト級冒険者の誕生か!!」

 

レメディオスは、まるで子どものように目をキラキラとさせている。

 

「…冒険者としての地位を確立して頂くのは、良い策かもしれません。暫くはカリンシャ…聖王国に滞在するとは言っておりましたが、追っている大魔皇の動き次第では、この聖王国を離れる可能性は高いですから…」

 

「そ、そんなの!いけません!!許可できませんわ!!!」

 

ケラルトの言葉に、カルカは酷く動揺して見せる。

 

目をウルウルとさせている。

 

「カルカ様…。御気持ちはわかりますが…聖王女としての矜持をお忘れなきよう…」

 

「わ、わかっているわ…。ええ…」

 

ケラルトは心を鬼にしてカルカに釘を刺す。

 

カルカは一つ深呼吸をすると、凛々しい目つきで表情を改める。

 

どうやら、少しは冷静さを取り戻した様子であった。

 

「では、我々も準備を整え、急ぎカリンシャに戻りましょう。まずはウル様の冒険者ランクの件を、冒険者組合の役員と話し合う必要もあります」

 

「そうですね。その後は式典の準備ですね…。今回の件、大々的に祝す必要があるかと。国民の士気にも関わって参ります」

 

カルカとケラルトは、聖王国の未来を見据え、動き始める。

 

「こりゃ!退屈しなくて済みそうだな!!なあ、旦那!」

 

「ふっ…そうだな…」

 

オルランドとパベルは、自身の舞い上がる心を抑えながら、聖王女一行を見送った。

 

 

ウルがカリンシャの街に着いた頃には、すでに辺りは22時を少しまわっていた。

 

馬車による帰還だったため、6時間程かかったが、戦闘での疲労が蓄積していたウルにとっては、簡単な仮眠も兼ねた、格好の休憩時間であった。

 

カリンシャの都市は、所々に街灯のような明かりが灯るマジックアイテムのおかげで、街の大通りのみは頼りない明るさを見せている。

 

しかし、今日に限っては普段とは違い、多くの酒場や店が時間にしては賑わいを見せていた。

 

そのおかげで、店の明かりでいつもより大通りが照らされている。

 

賑わいを見せているのは当たり前で、街が滅びかねない悪魔が出現したにもかかわらず、死者は1人も出ていないからである。

 

些少の負傷者や家屋等の建物が被害を受けたが、微々たるものであった。

 

加えて、先ほどの早馬によりもたらされた、1万を超える亜人と悪魔の軍勢を、同じくその白銀の聖騎士が打ち倒したとの報を受けたことで、もはやお祭り騒ぎであった。

 

戦勝と英雄の誕生を祝しての宴であった。

 

人口20万人を誇る都市だけあり、その賑わいようは言うまでもない。

 

さて、そんなカリンシャの街で話題になっているのは、もちろんウルである。

 

白銀の全身鎧をまとった、聖騎士風の冒険者。

 

その男が、カリンシャを襲った凶悪な悪魔を1人で打ち倒したとなれば、さらに話題で持ちきりになるのは当然のことであった。

 

特に、それを直接見て触れ回っているのが、カリンシャの兵士団長と冒険者ギルドの看板娘であるため、誰もがその話を疑わなかった。

 

そんな風にして盛り上がりを見せている夜のカリンシャの街であったが、更なる盛り上がりを見せることになる。

 

…その噂の騎士が、カリンシャの街に帰ってきたのである。

 

噂通りの美しい白銀の全身鎧に、珍しい剣を2本腰に差した聖騎士の登場に、酒場や街道沿いでだべっていた市民は歓声を上げる。

 

「キャー!!ウル様!!」

 

「白銀の聖騎士さまー!!」

 

「あれが白銀のウル…!!」

 

「カリンシャの英雄!万歳!!」

 

「顔を見せてくれー!!」

 

あちらこちらから聞こえる歓声に、ウルは片手を軽く上げて答える。

 

「(自分で招いたこととはいえ…こっぱずかしいな…)」

 

リアルでは、一般人だったウルにとって、これほどの歓声を受けるのは初めての経験であったため、無理もない。

 

だが、その恥ずかしさによって齎された所作は、市民たちからすると、驕りのない高貴な佇まいに感じられた。

 

「ありゃ…どっかの貴族様か?」

 

「いや…まさか王族!?」

 

「王族で聖騎士!?…たまんねえなおい!!」

 

「ばっきゃろー!!不敬にもほどがあるぞ!!」

 

「しかしあの雰囲気…だだの冒険者じゃないことだけは確かだ!!」

 

勘違いが勘違いを生むとはまさにこのことであった。

 

しかし、ウル本人もとくに嫌がって否定することをしなかったため、その噂が広まるのにそう時間はかからなかった。

 

「(くぅー!夢にまで見た正義の味方的扱い!!いいじゃんか!!)」

 

中二病を患っていたことが幸いし、次第に恥ずかしさもなくなり、市民の想像に答える形で雰囲気を作り始める。

 

すると、ウルの前に数名の子どもがひょこっと現れる。

 

「「「ウル様!!」」」

 

それに気づいたウルは、あろうことか瞬時に膝を折り、子どもと目線の高さを合わせた。

 

ウルにとっては、ひどく当たり前の行動であったが、この異世界において、その優しさある行動は当たり前ではなかった。

 

それを見ていた周りの市民は、感銘を受けたようにうねり声のようなものをもらしながら経緯を見守る。

 

「どうしたんだい??」

 

「ウル様は街を救ってくれたんでしょ??」

 

「皆が言ってたよ!!」

 

「ありがとう!!」

 

子どもたちは目をキラキラさせながらウルに話しかける。

 

「ふふっ!そうだね…それが私の役目だからね」

 

ウルは1人の女の子の頭を撫でる。

 

撫でられた女の子は、目を瞑りながらそれを堪能していた。

 

「やくめ??」

 

「それってなーに??」

 

子どもがウルの言葉を理解できず、質問を投げかける。

 

「お仕事って意味だよ。私のお仕事は、皆を守るというお仕事なんだ。みんなを守るために、悪い奴をやっつける。それが私の仕事なんだ」

 

「かっこいいー!!」

 

「英雄だ!!」

 

ウルと子どもの会話であったが、傍らで聞いていた大人たちは、感動したように表情を固める。

 

この聖王国、引いてはカリンシャでの暮らしは、決して楽なものではない。

 

むしろ辛いものであった。

 

聖王女カルカの施策により、以前よりは暮らしやすくはなっているものの、それでも不安の種は多い。

 

アベリオン丘陵からたびたび侵攻してくる亜人たち。

 

南部の貴族派閥と北部の聖王女派閥の軋轢。

 

他国との交流の少なさ。それにともなう食糧や物資の不足。

 

そして極めつけは、娯楽の少なさ…。

 

あげればきりがないが、そんな不安の中で生活を営んできた市民にとって、このカリンシャの街での英雄の誕生は、今までにない一大イベントでもあり、娯楽でもあった。

 

加えて、先の噂や目の前で起こっている英雄の素晴らしき人格のあらわれ。

 

そこに感動や感銘を覚えない者はおらず、皆一様に身を震わせていた。

 

「かっこいいか…。とってもうれしいよ、ありがとう」

 

ウルがそう返事を返すのと同時に、それぞれの子どもたちの母親とみられる女性が近寄ってくる。

 

「騎士様、うちの子がご迷惑を…申し訳ありません」

 

そのうちの一人が、子どもを引きはがすようにして声を掛ける。

 

「とんでもない…。とても可愛らしいお子さんですね」

 

「いえ、滅相もございません…」

 

ウルは声を掛けてきた母親たちを見つめる。

 

年の頃は20代後半から30歳。とても若い母親たちであった。

 

と同時に、この世界での結婚年齢の平均が18歳あたりだということを思い出し、現実世界との乖離を感じた。

 

母親はどうやら緊張している様子であった。

 

母親たちの心の中には、自分の子どもが何か失礼なことをするのではないか、と不安があったからである。

 

それを察したウルは、気持ちを汲み取って、その場を離れられるように子どもに声を掛けた。

 

「さっ、もう夜も遅い。よいこはお家に帰って寝る時間だよ」

 

「えー!もっとおしゃべりしたい!!」

 

「こら!本当にすみません…」

 

別の子どもの母親が、困惑しながら子どもを叱る。

 

「ふふっ!私は嬉しいけれど、お母さんを困らせてはいけないよ。また今度ね」

 

「うー…。じゃあさ!!一つだけお願い、聞いて!!」

 

子どもは引き下がれない様子で声を掛ける。

 

「お願い?なんだい??」

 

「お顔!ウル様のお顔が見たい!!」

 

ウルは、一瞬固まって見せる。

 

その様子に気付いた母親たちは、血の気が引いた様子であった。

 

「も、申し訳ありません!!」

 

「大変なご無礼を…」

 

母親たちは必死に謝罪している様子である。

 

「いえいえ、お気になさらず。そうだね…お兄さんのお顔を見たら、ちゃんと帰るんだよ?約束できるかい??」

 

ウルの発言に、母親たちでなく、周りの大人たちも目を見開く。

 

これは願ってもないことだと、母親を含め、大人たちは心の中で「よくやった、子どもたちよ!!」と思っていた。

 

「うん!!」

 

「ちゃんと帰るよ!!」

 

「だから見せて!!」

 

子どもたちの返答を聞いたウルは、ゆっくりと兜を脱いで見せる。

 

兜を脱いで出てきた素顔に、母親と周りの大人たちはまるで石になったように目と口をあんぐりと開けて固まった。

 

年の頃は、ちょうど母親たちと同じくらいの20代後半。

 

この地域では珍しい黒髪に黒い瞳。

 

そして何よりも驚いたのは、その美しさである。

 

中性的な顔立ちの中に、凛々しさが滲み出るような顔であった。

 

…一言でいえば、超絶美形のイケメンなのであった。

 

それもそのはずで、ウルの顔は、ユグドラシル時代に作成したキャラそのものであるからだ。

 

キャラ作成で不細工といば、狙って作らねば中々生まれるものではない。

 

それこそ、キャラ作成を面倒に思うプレイヤーのために用意されたテンプレのようなキャラでも、現実ではイケメンや美女と言われる顔立ちをしているのだ。

 

そんな中で、ウルは極限にまで煮詰めて美形のイケメンキャラを作成したのだ。

 

故にその顔が、周囲を驚かせるほどのイケメンであることは、当たり前のことであった。

 

大人たち同様、子どもたちも固まっていたが、純粋故にその時間は短かった。

 

「かっこいいお顔!!」

 

「綺麗なお顔だ!!」

 

子どもたちの声に、ウルはふっと微笑を浮かべる。

 

その微笑が、また大人たちを惹きつけ、石になる時間を延長させる。

 

母親たちから吐息が漏れる。

 

だが、そのことにウルは気付かない。

 

「さ、私のお顔も見れたから、ちゃんと帰って寝るんだよ」

 

「うん!またね、ウル様!!」

 

子どもとお別れの挨拶をして、ウルがゆっくりとその場を立ち去る。

 

と同時に、まるでどでかい爆弾が爆発したかのような歓声が巻き起こったが、これが何を意味するのかを、ウルが知るのはもう少し先の話であった。

 

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