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ウルがこの異世界に転移してきてから3週間が経った今日。
首都ホバンスの宮殿。その中にある聖王女の自室。
カルカは、鏡の前に立ち、何度も髪型や服装、顔におかしな点がないか何度も確認していた。
数人の侍女によって身だしなみを整えられたため、おかしな点はないのであるが、自身でも確認をしないと安心感を得られなかったためである。
今日は、首都ホバンスにおいて、祝典が執り行われる予定なのである。
もちろん、その主役はカルカが只ならぬ恋心を抱いている相手、ウルであった。
10日ほど前に、オリハルコン級冒険者となったばかりのウルであったが、なんと今回はアダマンタイト級冒険者の称号を付与する祝典なのである。
これはカルカやケラルトが画策したものではなく、カリンシャの冒険者ギルド長と、とある街の大貴族からの推薦で実現したことであった。
もちろん、推薦だけでなれる程、アダマンタイト級冒険者は甘くないのは周知の事実である。
事実、ウルは前回の悪魔騒動において、実績だけで見ればアダマンタイト級に匹敵する武功を挙げていた。
しかし、それでもいきなりアダマンタイト級の称号を付与できなかったのは、それだけアダマンタイト級冒険者が慎重に選ばれているからに他ならない。
また、聖王国では、建国から200年の歴史の中で、未だかつて一度もアダマンタイト級冒険者が生まれた実績がない。
これに関しては、徴兵制や国家総動員令制度、聖堂勢力に聖騎士団や神官団の力が大きいことで、冒険者ギルドの力がさほど強くないことが大きく起因しているのだが、今回の件はそれを跳ね除けるだけの強さを持った人物であることが大きい。
聖王国の英雄、白銀の聖騎士ウル。
彼は、オリハルコン級冒険者となったその日から、たったの1週間の間に、ギガントバジリスクとリトルファイヤードラゴンを討伐したのだ。
どちらも強大なモンスターである。
アダマンタイト級冒険者チームでも、気の抜けない、苦戦を強いられる相手である。
それを、ウルはたった一人で、しかも驚くべき速さで討伐し、達成して見せた。
この報告を受けたとき、カルカはまるで御伽話を聞いている幼女のような目の輝きではしゃいでいたのは言うまでもない。
加えて、バカのレメディオスと、腹黒のケラルトですら、敬愛の意を示していたくらいである。
さて、そんな訳で、今回は先の働きに対する感謝と、ウルにアダマンタイト級冒険者の称号に加え、活動拠点であるカリンシャの街に大きな屋敷を下賜することとなった。
カリンシャにある、聖王国が保有する屋敷、且つ今は使用されていないという、まるで狙ったような適切なモノがあったことで、宮廷では即座にこれを褒美として用いることにした。
当初、ホバンスへにて住居の下賜を提案したカルカであったが、やはり南部貴族派閥との関係悪化を重く見た大臣たちがこぞって反対したことで、実現しなかった。
少し、いや大分落ち込んでいたカルカであったが、その救済なのか、ケラルトがとあることを手回ししてくれていた。
祝典の後、宮殿の一室で、ウルと二人きりで話をする時間を設けてくれたのだ。
いや、正確には護衛役としてケラルトとレメディオスがいるのだが、あの2人であれば融通もきく。
ケラルトはその辺りも考え、そのような機会を設けてくれたのであろう。
やはり、持つべきものは友である。
緊張をほぐすようにして、一つため息をつく。
すると、扉をノックする音が聞こえる。
時間である。
カルカは鏡の前で一度満面の笑みを浮かべると、勢いよく立ち上がった。
「ふぅ…」
ウルは、肩の力を抜くようにして、椅子の背もたれに身を預ける。
そして、首にぶら下げている冒険者プレートを眺める。
そこには、先ほどカルカ聖王女陛下より頂いた新しいプレートが光り輝いていた。
アダマンタイト級冒険者のプレートであった。
ウルからすれば、まだまだオリハルコン級として活動していく算段であったが、まるで仕組まれた様に強大なモンスター(現地基準)が続けて現れ、それを討伐したことで、異例も異例の大出世を為してしまった。
特に後悔をしているわけではないが、聖王国で初めてのアダマンタイト級冒険者の誕生ということで、幾ばくかの重荷を感じている。
いくら正義のロールプレイが大好きな中二病と言えど、限度というモノがある。
加えて、カリンシャに立派な屋敷も貰ってしまった。
1人身なのに一体どうしろと?という感じであったが、式典の最中に断ることもできず、ありがたく頂戴した。
至れり尽くせりであった。
「はぁ~…」
思わずため息が漏れる。そして、そのため息は、遮るものがないので、綺麗に空中へと飛散していく。
式典の出席に伴い、宮廷まで案内をしてくれたのはカストディオ姉妹であった。
その際、レメディオスから『兜は最初から外してしまえ』という提案を受け、少し渋ったが、ケラルトから『どうせ外して見せてと言われますわ』という発言により、一々言われるのも面倒だし、且つもう何度か様々な人の前で外していたため、その提案に乗ることにした。
なんでも、自身の顔は、とても美形でイケメンらしい。
ウルがそれに気づいた時は、大分驚いたものであったが、よく考えれば自分がユグドラシル時代に作った顔である。
これをそのままリアルに持って行っても、確かにイケメンだわ…という解釈になり、酷く納得することとなった。
さて、祝典を終えたにも拘らず、ウルが未だに宮廷の一室に残っているのには理由があった。
なんでも、『カルカ様が2人で話がしたいと仰っている』というモノであった。
これを話してくれたケラルトに、『聖王女様と2人きりというのは色々とまずいのでは?』と質問したところ、『あたしと姉さまもいるから大丈夫です』とのことであった。
よくよく考えれば、自身の精神衛生上あまりよくはないのだが、なんだがこの世界に転生してからというもの、このような場面に少しずつ緊張しなくなっていった。
圧倒的な強さを持っているというのも自信につながっているのだが、慣れというのは恐ろしいものである。
そんな風に思考を巡らせていると、ノック音と共に、部屋に三人の女性が入室してくる。
ウルは、ノックが聞こえたと同時に立ち上がり、扉へと身体を向ける。
レメディオスとケラルトが先に入室してくるのが見える。
部屋に入ると、2人が左右に道を開けるように移動すると、扉の奥から可憐な女性が入ってきた。
…カルカ聖王女陛下であった。
なにやらいつもよりも、美しい顔立ちをしていた。
気のせいかもしれないが、微笑も以前よりも深く、頬の赤さも以前より強い印象を受けた。
カルカの姿を見て、ウルは静かに、ゆっくりと、膝を折り、頭を垂れた。
カルカは、ウルに対しての2回目となる祝典を終えると、レメディオスとケラルトと共に、ウルの待つ一室へと向かっていた。
ウルが玉座の間に姿を現した瞬間には、思わず息をするのを忘れてしまった。
入室からすでに美しい素顔を晒していたからである。
ウルの素顔と白銀の様相、そしてその堂々たる姿に、参列していた宮廷内の関係者や、兄であるカスポンドですら呆気に取られていたのは言うまでもない。
既に3度目であった自分ですら、まだまだ慣れないのである。
前を歩くレメディオスとケラルトが足を止めたことで、ウルの待つ一室に到着したことが分かった。
ノックと共に入室し、ウルの姿をその目に捉える。
祝典の時と同様、兜は被っておらず、美しい顔が見て取れた。
しかし、すぐに膝をついて自身に平伏したため、黒い瞳と美しい顔立ちは見えなくなってしまった。
心の中に、歯がゆさが生まれる。
どうして私に平伏するのか…、なぜお顔を見せてくれないのか…。
だが、それは当然のことであり、それを理解できぬほどカルカはバカではなかった。
「ウル様…。ここは公式の場ではありません…。どうか、楽にしていただけますでしょうか?」
しかし、ウルは未だ平伏したままであった。恐らくは、レメディオスかケラルトの言葉を待っているのだ。
「ウル殿、楽にしてください」
ケラルトが、優しく声をかける。いつもよりも、幾ばくかやわらかい口調に感じた。
その言葉で、ようやく顔を上げ、カルカは再びウルの顔を見ることができた。
カルカは自身の心臓が、ドクンッと跳ね上がるのを感じる。
ひとつ吐息を漏らしたあと、意を決して口を開く。
「ど、どうぞ…おかけになってください…///」
顔を真っ赤に染め上げ、耐えられないといった様子で俯く。
ケラルトは『大丈夫かしら?』と言った様子で、横目でカルカを見つめている。
レメディオスもカルカの気持ちを理解し始めている。
…まあ、ケラルトに散々丁寧に説明されて、ようやく理解したのだが…。
それでも、『カルカ様はウルのことが好き!』程度にしか理解しておらず、真意を理解しているのかは怪しさが残る。
「それでは、失礼いたします」
カルカの言動に些少の違和感を覚えながらも、ウルはゆっくりと椅子に腰かける。
カルカもゆっくりと対面の椅子に足を運び、座って見せる。
………。
沈黙が流れる。
カルカは膝に置いた自分の両手を見ながらソワソワとしているだけで、一向に口を開くどころかウルの顔すら見ていない。
扉の前で、2人の姿を捉えながら待機しているケラルトとレメディオスも、そわそわとし始める。
ウルからしてみれば、なぜカルカがこのような話の場を設けたのか、その理由すら知らないのだから、その不安は計り知れない。
「(え…なにこのなぞの時間…)」
ウルは悪魔騒動の件の犯人だとバレたか?などと自分のやらかしが原因か…と考えていた。
………。
やはり沈黙。
カルカは変わらずもじもじしているだけである。
この状況に一番びっくりしているのは、実はカルカ自身であった。
コミュニケーションに関しては、自信のある方であった。
聖王女として、様々な執務や面会、民との交流もこなしてきた。
唯一、裏工作などの根回しだけは苦手であったが、人よりも会話には自信があった。
しかし、ただのカルカとして話をしようとすると、想い人を前にしてしまうと、会話どころかまともに口すら利けなくなってしまうのだ。
新発見である。
しかし、嬉しくはない。なぜなら、この微妙な空気感は、きっとウルも感じているはずだからである。
少し泣きそうになる。
だが、そこに大きな助け舟が出される。
「あの…カルカ様?大丈夫ですか??」
「…は、はい。す、すみません。だ、大丈夫です…///」
ウルがこの静寂を破ったのだ。あと2秒ウルが口を開くのが遅ければ、ケラルトが割って入ろうとしていたが、杞憂に終わった。
「そ、そうですか…。えっと、今日は何やらお話があると伺ったのですが…どのようなご用件でしょうか?」
「あ…えっと、ウル様にお聞きしたいことがございまして…」
「はい…何でしょうか?」
「え、えっとですね……。い…い…いい許嫁のような方は…いらっしゃいますか??」
「「「え?」」」
カルカは、何度もドン詰まりながらようやく質問することに成功する。
だが、ウル達は思わず疑問を投げかけてしまう。だが、それぞれに違う印象をもった疑問であった。
ウル「(許嫁?なんで??…あ、屋敷をあげたけど、住む人いますか的な??…心配されているのか…。それはそれで情けないな…。まあ、一人ですけどね!!!!)」
ケラルト「(さ、最初の質問がそれ!?あー、もう!!もっとこう、好きな食べ物は何ですか?とか色々あるじゃない!!あー…。まさかカルカ様がここまで恋愛下手だったとは…)」
レメディオス「(許嫁…確か結婚を前提に付き合っている人…って意味だよな?…仲良くなりたいのになぜそんなことを聞くんだ?)」
(作者)すみません、理解していなかったようです。
「え、えっと…もしいらっしゃるなら…その、ご紹介いただけたらなぁー…なんて…思いまして……その………」
カルカは、何とか恥ずかしさをごまかそうと口を開いたが、次第に自分が言っている言葉に、自分で苦しくなり言葉が詰まってしまう。
「許嫁…ですか…。今はいませんよ」
「ほ、本当ですか!!??」
カルカの表情がパーッと明るくなる。可愛らしく、可憐な笑顔がウルに向けられる。
「はい…」
「…やった…(ボソッ)///」
「えっ…?」
「な、なんでもありません…」
なにやらカルカがボソッ呟いたように聞こえたが、ウルには聞き取れなかった。
「しかし、なぜそのようなことを??」
特に気にせず、ウルは単純な疑問をぶつけてみる。
「えっ…そ、それは…///」
カルカはまたもじもじとしはじめた。
ウルは何か只ならぬ理由があるのではないかと感じた。
だが、それは大きな誤解であることに気付く。
「あのですね…その…」
カルカは一呼吸おいて、今言える最大限の理由を述べた。
「お、お近づきに…というか、仲良く出来たらなー…と思いまして…その…///」
ここで、ウルはようやく腑に落ちたような感覚を覚える。
そう、カルカは聖王女である。
聖王国で最も地位が高い。それゆえに多忙な毎日を過ごしているに違いない。
自分よりも若いにも拘らず、人の上に立ち、国を導いているのだ…。であれば、心労もたまるであろう。心を許し気兼ねなく話せる友人が欲しいと思ってもおかしくはない。
作者(違います)
今のいままで、そんな簡単なことに気付けなかったことを、申し訳なく感じる。
作者(だから違います)
ウルは小さく笑って見せたかと思うと、「ふふっ!」と息を漏らしながら笑った。
「ど、どうして笑うんですか!?わ、わたし、すっごく真剣に…頑張ってお伝えしたのに……うぅ…」
カルカは顔を真っ赤に染上げ、キッと目を細める。
次第にその目には涙が溜まっていく。
いくら英雄とはいえ、敬愛するカルカに涙を浮かばせたことに、レメディオスとケラルトも不快感を覚える。
レメディオスとケラルトが同時に異議を唱えようと一歩踏み出し、口を開こうとしたが、ウルが弁明する方が早かった。
「いえ、誤解ですよ。申し訳ありません。カルカ様のお気持ちに今のいままで気付けなかった、自身の愚かさに笑ってしまったのですよ」
作者(だからちげーって言ってんだろ、いい加減にしろ)。
「えっ…ほ、本当ですか??私の想いを…その…」
「はい…」
カルカは、更に顔を真っ赤に染上げる。心臓が今迄にない速さで打ち付けているのが分かる。
ウルは短く返した後、すくっと立ち上がる。
そんなウルの行動を目で追っていたカルカであったが、ウルが右手を差し出してきたことに、些少の疑問を浮かべる。
「えっと…これは…」
恐らくは握手を求めているということは理解できたが、なぜこの場面で?と思ってしまった。
「まずは…お友達から、ということでいかかでしょうか?カルカ様」
ウルは微笑をもらしながらカルカを見つめる。
カルカは大きく目を見開く。顔が綻ぶ。
そうだ。
こういうことは順序が大事なのである。
お母様もそのようなことを言っていたわ…、などと思いだし、更に顔が綻ぶ。
「はいっ!よ、よろしくお願いいたします、ウル様///」
まるでうまくいったかのように思われるこの会話は、想像以上の誤解と勘違いを生んでいた。
しかし、これを勘違いであると認識できるものは、ここには存在しなかった。
首都ホバンスにて行われた祝典と、カルカ王女との面会が終わった後、晩餐会に参加し、そのまま宮殿で一夜を明かした。
カルカ王女の兄であるカスポンドや、大貴族の方々、大臣等との挨拶も兼ねた晩餐会は盛り上がりを見せた。
そんな中、晩餐会でもカルカと会話をする機会があった。
面会時の酷い緊張は見られず、比較的普通に会話できるようになってた。
その折、ウルはとあるマジックアイテムをカルカに渡すに至る。
「『伝言の指輪…』ですか?」
カルカは、ウルから渡された指輪を掌で受け取ると、もう一方の手でつまみ上げてそれを見つめる。
「ええ。伝言は不明瞭なことが多く、あまり使用されていないと聞きました。この指輪は、その不明瞭さがなくなり、より遠く離れていても通話ができるというマジックアイテムになります」
「そ、そんなマジックアイテムが…」
ウルの説明を聞き、カルカの隣にいるケラルトが驚いた様子で呟く。
「こ、このような貴重なものを…頂いてしまってよろしいのですか?」
カルカは非常に困惑した様子であった。
「ええ、もちろんですよ。いくら友達になったとはいえ、会う機会もそう多くはないと思いますし…(んー、ユグドラシルだとゴミアイテムなんだけどな…)」
「確かに、毎日会えるわけではありませんものね…」
カルカの言葉に、ウルは思わず『え、毎日会うつもりだったの?』と少し顔が引きつる。
「ほう…なあ、ウル、それあたしにもくれよ」
「ちょっと、姉さん!」
貴重なマジックアイテムを見て興味を示したのか、レメディオスがズカズカと不躾なことを口走る。それをケラルトが止める。
「あー、申し訳ありません。レメディオスさん…。これ、一つしかないんですよ」
「むぅ…であれば仕方がないか…」
「姉さんは遠慮ってものがないんですか…」
ケラルトははぁと大きくため息をつく。
ウルは思わず、『妹なのに大変だなー』などと心で呟く。
「あの、ウル様、これは一体どのように使うのですか?」
「あ、すみません。説明していませんでしたね。まずは、どこの指でもいいので、嵌めて頂けますか?」
「指…どこでも…ですか…」
ウルの言葉に、カルカは顔を赤らめて少し考えた後、左手の薬指に嵌めようとする。
ケラルトはぎょっとした表情を見せたかと思うと、バシッとカルカの腕を掴み、ウルに気付かれないようにして背中を向ける。
「ちょっと…いきなり何するのよ、ケラルト…!(ボソッ)」
「カルカ様…!バカなんですか…!そんなところに嵌めたりなんかしたら、周りからいらぬ誤解を生みます…!(ボソッ)」
「ご、誤解も何も…恋人としての前段階でお友達になったのです…!いいじゃありませんか…!(ボソッ)」
「よくないです…!周りにそのような男性ができたと公言しているようなものです…!今はまだ時期尚早です…!いいからそこ以外の指にしなさい…!(ボソッ)」
「あの、大丈夫ですか…?」
「「は、はい!問題ありません!!」」
ウルの心配そうな声に、2人はビクッとしながら答える。
そんなに迷うことだろうか…?
「カルカ様、左手の小指にしましょう…!(ボソッ)」
「小指…?どうして…?(ボソッ)」
「左手の小指に着ける指輪には、『恋を成熟させる』という意味があります…(ボソッ)」
「!?、それだわ…!ケラルト…!(ボソッ)」
カルカは左手の小指に伝言の指輪をはめる。すると、カルカの指の大きさに合わせ、指輪がジャストフィットする形で大きさを変える。
「お、おまたせしました…///」
カルカはどこか気恥ずかしそうにウルに向き直る。
「いえいえ。…とてもお似合いですよ、カルカ様」
「あ、ありがとう…ございます…」
カルカは思わず指輪をしている左手を隠すようにして、右手を被せる。
「それでは、ご説明してもよろしいですか?」
「は、はいお願いします!」
カルカはピシッと背筋を伸ばして真剣な表情になる。
離れていてもウルと会話ができるアイテムの使い方である。
真剣になるのも当然であった。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫です…とても簡単ですから。まず指輪をはめた方の手を、このように耳を覆うようにしてください」
「は、はい…。こう、ですか?」
「その通りです…。そしてそのまま、私の名前と顔を思い浮かべて頂けますか?」
「えっと、はい…。うぅ…///。できました」
ウルの顔を思い浮かべろと言われ、少し照れてしまう。
「その状態で『伝言(メッセージ)』と呟いてください」
「メッセージ…。(ピピッ)…」
『聞こえますか?カルカ様』
「あ、聞こえました!頭の中に直接響いています…。しかも鮮明に…///」
「どうやらうまくいきましたね。明確にどのくらい離れていても大丈夫かはわかりませんが、恐らく聖王国内くらいの距離でしたら、今の鮮明さでお話ができますよ」
ウルの説明に、またもケラルトが驚きの表情を浮かべる。
「なっ!そんなに離れていても大丈夫なのか…!?」
「ええ、大丈夫だと思われます(ユグドラシルの世界一つの大きさが、大体聖王国の大きさくらいだったし…知らんけど)」
ケラルトは、何かを考え込むようにしてぶつぶつと呟き始める。
何やら、不穏なことを考えている様子であった。
「あ、ありがとうございます…ウルさん。その、練習もかねて、明日以降…沢山メッセージしても大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ…。いつでもお待ちしております」
ウルは小さく笑って見せる。
そのお返しとばかりに、カルカから満面の笑みが返ってきた。
首都ホバンスにて朝を迎えたウルは、途中、ホバンスとカリンシャの間にあるプラートで一夜を明かした後、カリンシャへ帰還した。
屋敷が下賜された話は、兵士団団長のユーゴや高級宿屋の主人にも伝わっており、少ない荷物をまとめ、その屋敷へと向かった。
城の従者に屋敷の前まで案内された後、ウルは暫く立ち尽くした。
広大な庭に、まるでヨーロッパの豪邸を思わせるその屋敷に目を奪われたのだ。
暫くして冷静さを取り戻し、屋敷内へ入る。
煌びやかな屋敷内は、清掃が行き届いているだけでなく、家具や生活用品が一通り揃っていた。
下賜するにあたり、必要以上の準備がされていたらしい。
屋敷の正面に入ってすぐにある、一階の大広間。
端のソファに身を預け、大きくため息をつく。
自身が動きを止めたことで、屋敷内はひどく静寂に包まれる。
ウル以外、誰一人としていないからである。
「こんのバカでっかい屋敷に俺一人か…まずは、メイドさんを雇うところからか…」
1人暮らしをしていた際の、1Kの小さな部屋でさえ、掃除、洗濯、洗い物など、家事全般面倒くさくて大変だったのだ。
こんな全部で30部屋以上もある屋敷では、それはそれは大変なものになることは想像に難くなかった。
「雇うにしたってなー…。一体どこでどうやって…」
そんな風にして考えていると、あるアイテムについて思いだすに至った。
「…あれ、使ってみるか?…もうこの機会を逃したら、使う場面なんてないしな…」
ウルは無限の背負い袋の中から、とあるアイテムを取り出す。
ワールドアイテムの、『従者の宝珠』であった。
効果はいたってシンプル。レベル値100を上限に、自作NPCを作れるというモノであった。
シンプルである分、強力なアイテムであった。
ワールドアイテムであるため、強力なのは言うまでもないが、これはギルド拠点なしに且つNPC製作ポイントを消費せずに作れるのだ。
分かりやすく言えば、NPC製作レベルポイントを+100できるアイテムである。
光り輝く丸い宝珠を、小さな女性の人形が抱えている、そんな形をしたワールドアイテム。
…些少の迷いが出る。
これは、かつての仲間たちと苦楽を共にする中で手にいれたワールドアイテムである。
本来なら、一個人の意思で使用してよいものではない。
…だが同時にその思考を中断させるに至る。
「まあ、もはや…だな。残ったのは俺だけ…使うか決められるのも俺だけ…か…」
ウルは、過去の煌びやかな思い出にゆっくりと蓋をしながら、ワールドアイテムである『従者の宝珠』を発動させた。
結論から言ってしまえば、2体の…合わせてレベル100となるNPCを作成した。
レベルを全振りで、一人だけ作るという手段もあったが、悩んだ挙句に先の選択を採用した。
1人目のNPCの名は『ルカ』。種族は人間。
髪は黒髪で、腰まで流している。
カルカに似た顔立ちだが、より美人(絶世の美女)。
性別は女。年齢は19歳。身長170㎝、体重50㎏。
カルマ値は150。冷静でクール。この世で最上位に位置するほど(デミウルゴス並み)の頭の良さ。
レベルは58で戦士職。短剣と弓矢を主な武器としている。
ウルに対して敬称をつけることなく、対等以上に振舞う。ウルを牽制したり、怒ったりすることをしばしば。
メイドとしては他に追従を許さないほどの優秀っぷりであり、他にも農作業や花の手入れなど、貴族が好むような嗜みも心得ている。
かつて、とある事件によって死に際をさ迷っていたところ、ウルによって助けられ、仕えるようになる。
2人目のNPCの名は『クルミ』。種族は半森妖精。
髪は金髪で、肩まで流している。
ルカ程ではないが、美少女。
性別は女。見た目の年齢は17歳(実際は100を超える)。
身長150㎝、体重39㎏。
カルマ値は50。明るい性格。ちょっとアホの子。
レベルは42で魔力系魔法職。第六位階までの魔法を扱う。
ウルに対して『さん』と敬称をつけるが、対等に振舞う。
メイドとしてはルカには及ばないが、優秀。
かつて、奴隷となりそうなところをウルによって助けられ、仕えるようになる。
と、色々と設定はしたものの、本質は上記の内容で作成した。
ウルは、心のどこかで対等に話ができるものを求めていたこともあり、それを設定として盛り込む。
これには大きな理由があり、異世界に転移したことで、NPCの行動にも自由度が増し、意思すら持つのではないかという懸念による対策であった。
ウル様ウル様と付きまとわれてしまっては、たまったものではない。
衣装に関しては、仕事で付き合いのあったヘロヘロが、ナザリックの一般メイドなるNPCを作った際に考案したメイド服があったため、それを急ごしらえで充てる。
正味6時間くらいはかかったであろうか。
何度か設定し直し、作り直し、書き直しては、現状での自身の理想となるメイドを作り上げていった。
そうして製作し終えると、まばゆい光と共に、先ほどまで頭を悩ませながら作り上げた2人が姿を現す。
こうして目の前に現れた2人は、長い間、ウルの心の拠り所となり、支えていくことになる。