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第7話 モモンガ
ウルの転移からおよそ一か月。
ローブル聖王国において発生した悪魔の襲来と亜人悪魔連合による侵攻。
それをたった一人の冒険者が仕留たという話は、隣国であるリ・エスティーゼ王国を始め、アベリオン丘陵を挟んで接するスレイン法国やアークランド評議国、竜王国などにすでに届いていた。
加えて、その後ギガントバジリスクとリトルファイヤードラゴンを、これまた単騎で討伐し、アダマンタイト級冒険者になった報も巡る。
聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者誕生に加え、登録からたったの一か月でアダマンタイトまで上り詰めるという、偉業は、各国の要人にただならぬ衝撃を齎した。
リ・エスティーゼ王国、王城の一室。
ローブルの至宝と肩を並べる美しさに加え、民を思う慈しみに溢れる黄金の姫と謳われている王国の第三王女、ラナー。
彼女は側近のまだ少年の域を出ない男性に、美しい微笑を向けながら口を開く。
「クライムっ!聖王国でアダマンタイト級冒険者様が誕生したらしいわっ!」
「はい、ラナー様。なんでも、強大な悪魔をたった一人で打ち倒したとか…!」
「クライムの大好きな英雄さんですねっ!」
バハルス帝国、帝都アーウィンタール。その帝城の一室。
そこでは現皇帝であるジルクニフと主席宮廷魔術師であるフールーダが一枚の報告書を持ちながら話をしていた。
「じい、この報告、どう思う?」
「そうですな、情報の出どころは信用できるものかと」
「ふむ…。して、この広域中傷治癒魔法というのは…?」
「それは第二位階の中傷治癒魔法を、一定の範囲内に複数のモノに適応させる、いわば範囲治癒魔法ですな!第五位階の魔法となります!!」
フールーダは、酷く興奮した様子で、ジルクニフとの会話を続けていた。
アークランド評議国、その一室に、伏せるようにして眠る大きな竜がいた。
「白銀の聖騎士、ウルか…。ぷれいやーの可能性は高い…」
少し頭を上げ、ゆっくりと目を開く。
「今のところは、この世界の利になる存在のようだね…」
だが、すぐに頭を下げ、また目を瞑る。
「でも、まだ暫くは様子を見る必要がありそうだね…」
スレイン法国。6人の神官長といわれる存在が、テーブルを囲んで会議を執り行う。
「…例えば、この報告書にある偉業を、たった一人で漆黒聖典は成し遂げられるかね?」
「ふむ…これが本当だとするのであれば、番外席次の絶死絶命か第一席次の隊長なら可能だろう」
「殲滅戦だけ見れば、第五席次の一人師団でも為せるか…」
「どちらにしても、人類の守り手たる力を持つことに変わりはないな…」
「報告書の信ぴょう性は高いが、一度隠密隊を向かわせ調査する必要もあるな」
「だが、ここは慎重に動くべきだと思うぞ」
6人の神官長たちは、一つひとつ今後の方針を決定していくことになる。
竜王国。
そこにいるのは、自身の姿形を変えることのできる女王がいる。
その女王は、宰相の男性に向け、大声で文句を垂れる。
「なぜじゃ!なぜ我が竜王国にこのウルは来なかったのじゃ!!」
「なぜと申されましても…」
「我が国にこそ必要であろう、かような力を持つものは!!」
「…聖王国にも必要ですよ」
宰相の男は、幼女の姿で酒をかっくらう女王を見て、大きくため息をついた。
カリンシャの街。その中に建っているとある屋敷…。
「ウル、出掛けるの?」
腰まで伸ばした黒い髪に、メイド服を身に纏った非常に美しい女性が、抑揚なく口を開く。
「ルカか、ちょっと街を色々見て回ってくる」
「そう…」
ルカは、特に気にした様子もなく外出の準備をするウルを見守る。
「あ、まってウルさん」
すると、大広間の奥からもう一人の女性が現れる。
髪の色は金髪。肩まで伸ばしていることが伺えるが、その髪の毛から特徴的なとがった耳が見て取れる。
「ん?どうした?クルミ」
「ちょっと買ってきてほしいものがあるの」
ルカとは違い、意気揚々とした口調でしゃべって見せる。
クルミもルカと同様にメイド服に身を包んでいる。
「んー、おっけー。わかった」
「ありがとう、ウルさん!」
カラっと笑って見せる。
「じゃあ、留守番頼むわ」
「気をつけてねー」
「いってらっしゃい…」
ウルは2人の言葉を背中に受け、街に繰り出していった。
さて、ウルの評判はもはやカリンシャの街において話題にならない日はないほどであった。
カリンシャを救った英雄としてはもちろん、先日のアダマンタイト級冒険者の昇格とのお触れもあり、話題は尽きることはない。
加えて、強大な力を持つものとは思えぬ、慈しみを持った人望と優しさと誠実さ。
子どもと遊ぶ姿や、老婆の荷物を運ぶ姿、転倒した妊婦への配慮と手助け、その他の住民や冒険者たちとの関り。
悪い噂など、一切流れてこないのである。
そして何よりも、その美しい顔立ち…。
老若男女とわず、ウルの魅力に魅了されているのだ。
加えて、最近見かけるようになった、ウルの屋敷にいるメイド2人。
やはり類は友を呼ぶとはよく言ったものだと言わんばかりの美女であったのだ。
これが街にいる男たちに刺さらないわけはなく、ルカ派とクルミ派の二つの派閥に分かれて、日々論争が起こっているほどであった。
クルミから頼まれた買い物も済ませ、屋敷に戻ったウルは、屋敷の中で一番大きな部屋に入る。
ウルはここを執務室(本を読んだりするだけで特に仕事をするわけではない)としていた。
街の本屋で買い漁った本を、無限の背負い袋からだし、見るからに高そうな執務台へ並べていく。
勿論文字はこの異世界特有のモノであり、ウルは片メガネのような形をしたメガネがなければ読むことはできない。
しかし、それを酷く煩わしく思ったウルは、『星に願いを』が込められた指輪を用いて、『あらゆる言語を理解できるように!』とお願いを口にしたのだ。
最初からこうすればよかったのだが、それは今更の話である。
さて、ウルがこの世界に来てから最も驚いた…というより冷静さを失ったのは、弟が作った悪魔像をアベリオン丘陵に置き忘れたことに気付いた時である。
そして、今日は、その最も驚いたことを更新する日となる。
それは、パラパラと本を流し読みしている際に起こった。
一瞬、伝言を受け取る音が脳内に流れ、『カルカ様かな?』と思ったのも束の間…。
脳が伝言の送り主を自動的に認識すると、持っていた本を投げ捨て、すぐさま右手を耳元に当てる。
…ここまでの時間、およそ1秒。
そして、伝言を許可する。酷く狼狽した様子で、通話を開始する。
「モ、モモンガさんなのか!!!!!?????」
『ウルさん!!!いや!!!!そんなまさか!!??』
声だけで、相手方も酷く驚いた様子で、困惑しているのが分かった。
この日…夕方から日没に至るまで間、聖王国とリ・エスティーゼ王国では、ものすごいスピードで飛翔する、銀光にも思える流れ星のようなものが観測された。
だが、流れ星にしてはあまりにも地表から近く、流れ星にしてはあまりにも煌びやかな光をしていた。
この光は、特にリ・エスティーゼ王国各地で観測され、これを調べる貴族や冒険者がいたが、それが何であったかを知ることはできなかったという。
ナザリック地下大墳墓。
ユグドラシルにおいて、アインズ・ウール・ゴウンというギルドが拠点としている、地下10階層にも及ぶ巨大な墳墓である。
さて、そんなナザリック地下大墳墓であるが、現在原因不明の事態に陥っていた。
それに唯一気が付いたのは、アインズ・ウール・ゴウンでただ一人、サーバーダウン予定時刻までログインをしていたモモンガであった。
サーバーダウン時間になってもログアウトせず、ゲームでは感じるはずのない感覚、そして、NPCたちの自我を持った行動。
そして先ほどとあるNPCから齎された、ナザリックの周りの地形…。
モモンガが出した答えが、ナザリックごと異世界に転移したというモノであった。
だが、それ以上の驚きがモモンガを襲うことになったのだ。
階層守護者というNPCの忠誠心を確認するため、第六階層にある闘技場にいたときにそれは起こった。
GMコールを始め、ギルドメンバーへ伝言を送るものの、繋がらない。
異世界へ転移してきたプレイヤーは自分だけなのかもしれないと考えたそのときであった。
最後の確認としてフレンドにたいして伝言を行った際、一人だけ、それもギルド外のプレイヤーで一番アインズ・ウール・ゴウンと関りの深かった人物と繋がったのである。
伝言が繋がり、会話ができた際には酷く困惑したものである。
つい2時間前くらいにチャットのやり取りをしていたにも拘らずだ。
すぐさま簡単な現状の確認と、合流の約束をこぎつける。
位置情報の共有システムが生きていたため、モモンガは自身の位置をウルに共有する。
ウルの話だと、4,5時間程度で到着するとのことであった。
それを聞いたモモンガは、とりあえずは闘技場に集めた階層守護者と顔を合わせた後、守護者統括であるアルベドに指示を出す。
ナザリックの可能な限りのNPCの全てを玉座の間に集めよというモノであった。
モモンガは、まだウル…いや、ウルベノムがこの異世界にいることを誰にも伝えてはいない。
伝言が繋がった時に近くにいたアウラとマーレというNPCは、自身が召喚した精霊との模擬戦闘中で聞こえていなかった。
故に、アルベド含め、他の階層守護者からすれば、ナザリックのほぼすべてのNPCを集めなければならない事態が起こっていると判断せざるをえなかった。
しかし、これはモモンガにしてみれば好都合であった。
なぜなら、ナザリックのNPCたちがウルベノムさんに対して好意的であるかが不明であったからだ。
自身やほかのギルドメンバーであれば、すでに心配する必要性は薄いことが分かったが、いくらアインズ・ウール・ゴウンと最も交流のあった人物とは言え、安心することはできない。
…先の階層守護者との会話で、『人間について』質問したところ、それはもうゴミだのカスだの、価値がないだのとものすごい言われようだったのだ。
そう…。ウルベノムさんは人間種なのである。
ユグドラシルの種族のままモモンガはこの異世界に転移してきた。
とするあらば、ウルベノムさんも同じように人間種のまま転移している可能性が高い。
もし、人間種であるウルベノムさんがナザリックに入り、守護者たちが攻撃を仕掛け、ウルベノムさんを怒らせてしまったら…と思うと、モモンガはアンデットであるはずなのに、身体が震えるような感覚を思い起こさせる。
彼を敵に回せば、ナザリックに未来はない。
いや、勝敗だけで言えば、ナザリック勢とモモンガの勝利で終わるだろう。
しかし、それは勝てるだけであり、ウルベノムさんが本気でナザリックに攻めてきた場合、おそらくギリギリ第8階層に到達されるかされないかで侵攻は止まるであろう。
ちなみに、たった一人で、である。
そうなれば、例え勝利したとしても、ナザリックを立て直すのには膨大な時間がかかる。
それどころか、ナザリックが崩壊する可能性の方が高いからだ。
故に、モモンガは決断する。
階層守護者はじめ、NPCがウルベノムさんをどう思っているのかを、そして、ウルベノムさんのことをどこまで知っているのかを…。
ウルベノムさんがナザリックに到着するまで、時間的余裕はあまりない。
嬉しさのあまり、すぐに会うことを決めたのは早計だったと反省する。
しかし、ウルベノムさんはモモンガにとって、憧れの存在であり、加えて最後までユグドラシルを見届けた、唯一の友なのだ。
モモンガが家族のように思っているギルドメンバーとも繋がりが深い。
中には、自身と比較にならない程、親密なメンバーもいる。それこそ、公私共にリアルで定期的に会っているくらいである。
…恐らく、階層守護者のあの忠誠心を見るに、伝える内容によっては、嬉々として喜ぶNPCもいるだろう…。
モモンガは、NPC達に伝えなければならないことを、一つひとつ丁寧に確認しながら、玉座の間への向かうのだった。
ナザリック地下大墳墓。第十階層。玉座の間。
今ここには、玉座の間を埋め尽くすほどの異形の者たちがひしめき合っている。
守護者統括のアルベドは、最大限の集まりを見せる異形の集団を見て、モモンガにゆっくりと呟く。
「モモンガ様…。現在ナザリックにおけるほぼ全ての者たちが集まりました」
「うむ…アルベドよ、ご苦労」
「もったいないお言葉…では皆、モモンガ様に忠誠の儀…」
「よい、今はその時間すらもったいない」
モモンガはもはや恒例となっている忠誠の儀を省略するよう求める。
「も、申し訳ございません。モモンガ様」
「よい、お前の全てを許そう、アルベド」
「はっ!」
アルベドの謝罪を、モモンガは支配者たる様相で受け入れる。
「モモンガ様…。発言のご許可を頂きたく存じます」
「うむ…デミウルゴスよ、申して見よ」
「忠誠の儀を行われない程に時間の余裕がないと仰られましたが、このナザリックが転移したこととは別に、何か問題が発生したということでしょうか?」
デミウルゴスは、真剣な眼差しをモモンガに向ける。
「それは…少し違うな…。というよりも、むしろ喜ばしいことなのだ」
「そ、それはいったいどのような…」
「うむ…結論から言おう…」
モモンガは一呼吸置くと、意を決したように口を開いた。
「我が友…いや、至高の41人の友である、ウルベノムさんが我らと同じくこの異世界に転移し、このナザリックへ訪れることになった!」
モモンガの言葉に、アルベドやデミウルゴスを始め、多くのものが感嘆に似た声と表情を見せる。
どうやら、ウルベノムさんを知ってはいる様子であった。
だが、一人だけ、他の守護者やNPCたちとは比較にならない程の動揺を見せている者がいた。
「ウ、ウルベノム様とは…もしやウルベノム・アレイン・オードル様のことでございますか!?」
ウルベノムさんの正式名称を、デミウルゴスは大声で呼称する。
その本名を聞き、多くのものが何かに気付いたように大きく目を見開く。
「その通りだ、デミウルゴスよ。ウルベノム・アレイン・オードルさんだ。お前を創造したウルベルト・アレイン・オードルさんの実の兄だ」
「おお、なんという…」
デミウルゴスは、身を震わせながら、小さく口を開く。
他の守護者たちも、驚きと感動に身を震わせている。
ウルベノムとウルベルトが実の兄弟だと知らなかったものは驚きを、知っていたものは感動を心に宿している。
「そこでだ…お前たちに聞きたいことがある」
「聞きたいこととは、いったい何でしょうか?」
モモンガの言葉に、アルベドが静かに口を開く。
「…お前たちは、ウルベノムさんのことをどこまで知っている?」
「そ、それは一体どういった意味でしょうか?」
アルベドはモモンガの質問の意図が分からず、聞き返して見せた。
「そのままの意味だ…。お前たちが知っているウルベノムさんの情報を、私に話して見せろ。場合によっては、伝えなくてはならないことがある…。そうだな…。まずはアルベドとデミウルゴスから聞こうか」
「承知いたしました。…では僭越ながら私から…」
モモンガの要求に、守護者統括としてアルベドが率先してそれに答える。
「…ウルベノム・アレイン・オードル様。至高の41人のお一人であられる、ウルベルト・アレイン・オードル様の実のお兄様であられます。ギルド百花繚乱の副ギルド長をおつとめになられております。また、所属されていたギルドは違えど、多くのアインズ・ウール・ゴウン至高の41人の御方々と友好的な関係を築いているお方であらせられます」
「…うむ。その通りだ…アルベドよ」
モモンガの肯定が入ったところで、玉座の間がまたも感嘆の声と雰囲気に包まれる。
「さて、次はデミウルゴスだ。ああ、アルベドが言ったことに関しては、わざわざもう一度言う必要はないぞ」
モモンガは何度も同じことを聞くのは時間の無駄だとばかりに牽制する。
「承知いたしました。アルベドの発した言葉以外で、ということですと、ウルベノム・アレイン・オードル様の種族は人間でございます。しかし、人間とは思えないほどの驚異的な実力を持ち、ワールドチャンピオンのクラスを取得されております。さらに、至高の41人の御方々の中で最強の力をお持ちのたっち・みー様を以てしても勝てないと言わしめる御方でございます。」
「その通りだ、デミウルゴス」
またも玉座の間に驚きの雰囲気が醸し出される。
「そうだな…ほかに何か知っている者はいるか?」
モモンガが問いかけると、セバスがそれに答える。
「モモンガ様」
「セバスか、申して見よ」
「はい。ウルベノム・アレイン・オードル様は、私の創造主であるたっち・みー様と同じく、聖騎士としてご活躍されていただけでなく、正義を重んじられている方であります。また、モモンガ様を始め、多くの至高の41人の御方々から、アインズ・ウール・ゴウンへの加入を勧められていたお方でございます」
「うむ、全くその通りだ。私個人としては、今でもウルベノムさんには我らがアインズ・ウール・ゴウンに移籍してもらいたいと思っているくらいだ」
もう何度目かわからないほどに、驚きが玉座の間を包み込む。
「さて、他に知っている者は?」
玉座の間に静寂が流れる。
どうやらこれ以上の情報を持つNPCはいないようであった。
「そうか…なるほど、よくわかった」
モモンガはそう呟くと、ゆっくりと立ち上がり、再度口を開く。
「今の情報では…ウルベノムさんを語るには非常に不十分である」
モモンガは不服と言った様子で、守護者たちを見つめる。
その雰囲気にいち早く気づいたアルベドは、直ちに膝を突き、頭を垂れた。
「御身のご期待に応えることができず、大変申し訳ございません!必要とあらば、私以下、全てのものに罰を!!」
「よい…お前たちが知らぬのも無理はない…謝罪は不要だ」
「…寛大なお心、感謝申し上げます」
モモンガは、アルベドを見つめた後、ゆっくりと視線を前に移す。
多くの守護者やNPCが頭を垂れて平伏している。
「よかろう。では知るがいい!至高の41人の友である、ウルベノムさんの…その全てを!!!」
アルベドは、モモンガを除く至高の41人に対し、深い憎悪を抱いている。
このナザリック地下大墳墓を捨て、我々を捨てた。
そしてなにより自身が敬愛するモモンガ様を悲しませた元凶である。
モモンガ様が一人、玉座に座り、悲しみに打ちひしがれている姿を何度も見てきた。
しかし、そんなモモンガ様が唯一、楽しそうに、嬉しそうにしている時間があった。
そう、ウルベノム・アレイン・オードル様と一緒にいらっしゃるときである。
人間種でありながら、モモンガ様がお心をお許しになられたお方。
心を許すだけでなく、そこには尊敬の眼差しと感情まで感じられたのだ。
このお方だけは、モモンガ様を見捨ててはいない。
そう思っていた。
そして、やはりそれは間違っていなかったのだ。
ナザリック地下大墳墓が異世界に転移したと知ったあの時…。
ウルベノム様もこの異世界に転移していた。
そして、このナザリックに向かっているというのだ。
モモンガ様を最後まで見捨てずにいてくれたお方。
しかし、先のモモンガ様のお話を聞いて、ウルベノム様に対する思いはさらに大きいものへと変わった。
それは、他の守護者やNPCも同じであると確信している。
今この玉座の間には、各階層守護者とセバス、そしてプレアデスのみがいる状態である。
他のものは皆、ウルベノム様をお迎えするための準備に取り掛かっている。
もちろん、ここに私たちもそれを為さねばならないが、先のモモンガ様のお話が、あまりにも衝撃的過ぎて、こうして互いに確認しあわなければ落ち着かないほどに高揚しているのである。
しかし、恐らくではあるが、その高揚感を最も感じているのは私ではない。
そうして思考を張り巡らせていると、このナザリックのおいて最も感動と感嘆に打ちひしがれているであろう人物が口を開いた。
「まさか…まさかウルベノム様が…あの1500人の大侵攻に立ち向かわれていたとは…。私はそんなことも知らずに…」
デミウルゴスは、メガネの奥で宝石の瞳をギラギラとさせている。
今にも泣きだしそうな雰囲気であった。
「私、恐れ多くもとても感動したでありんす…。至高の41人であらせられる御方々のために、たった一人で…それも我々守護者よりも先にあの大侵攻に立ち向かわれていたなんて…」
「うぅ…ぼ、僕もシャルティアと同じ気持ちです…」
シャルティアの言葉に、同意を見せるマーレは、すでに泣いていた。
「モモンガ様の話では…ウルベノム様がナザリックの地表部で戦われていなかったら、アインズ・ウール・ゴウンは敗北していた可能性があるっていってたよね…」
「ええ、132人ものプレイヤーやそのNPCを倒した…。それはつまり、ナザリックに侵入するはずだった愚か者が、本来ならあと132人もいたということね」
「感謝ナドトイウ言葉デハ、到底事足リナイ…」
アウラとアルベドの言葉に、コキュートスが小さく呟く。
暫し沈黙が続く。
「私としては、御方々がおられるリアルで、弐式炎雷様と幼き頃から共に育ってきたことと、へロへロ様と共にお仕事をされていたということにも驚きました」
「そうだね。モモンガ様や他の至高の御方々以上に深いかかわりがあったというのだから…私も本当に驚いたよ」
「…大変不敬かもしれませんが、私、お許しが出るのであれば、是非ともお話をお聞きしたいと思っております…」
「私も…ナーベラルに同じでございますわ」
セバスとデミウルゴスの会話に、耐えきらないといった様子で、プレアデスのナーベラルとソリュシャンが会話に加わる。
「…ウルベノム様は、至高の41人の御方々と名を連ねているわけではないけれど、私としては、同じように忠義を尽くすべきだと思うのだけれど…デミウルゴス、あなたはどう考えているのかしら?」
「もちろん、そのようにすべきだと思うね。これは私をお作りになられたウルベルト様の兄君という点を除いたとしても、ナザリックにおいてウルベノム様は、恐れ多くも我々が忠義を尽くすに値すると思っているよ…。それに、モモンガ様は我々にそれを気付かせるために、このお話をされたと、私は考えている」
アルベドの言葉を肯定しながらも、デミウルゴスは他の守護者たちに投げかけるように言葉を紡いだ。
「ソレハドウイウコトダ…デミウルゴス…」
コキュートスは、デミウルゴスに疑問を投げかける。
「ふむ…。ウルベノム・アレイン・オードル様は人間だ…。そこに、全ての答えはあると考えている」
「そ、それはどういう意味でありんすか?」
シャルティアが理解不能と言った様子で疑問を投げかける。
「シャルティア、もし君がモモンガ様から齎されたお話を聞いていないと仮定してほしい。その状態でウルベノム様が、ナザリックに足を運んでくださっていたら、どう対処するかね?」
「…大変恐れ多くも、侵入者として攻撃していた…でありんすね…」
シャルティアは、デミウルゴスの質問に、嘘偽りなく答えた。
「そうだね。シャルティアだけではない。ここにいる多くが、ウルベノム・アレイン・オードル様を敵とみなしていただろう。敵とみなさずに攻撃を仕掛けないのは…そうだね、アルベドと私、セバスくらいなものだろうね…」
デミウルゴスは、メガネをくいっと上げて言葉を続ける。
「そうなれば…ウルベノム・アレイン・オードル様がお怒りになるのは火を見るより明らかだ…。それを防ぐために我々にお話をされたのだと思うよ…それに…」
「…まだ何かあるというのですか?」
セバスが含みあるデミウルゴスの言葉に、違和感を覚える。
「我々を試していたのだよ…モモンガ様は…」
「た、試すって何をさ…」
アウラが酷く困惑した様子で口を開く。
「ウルベノム様にあれだけの恩義を賜ったにも拘らず、人間種というだけで我々が嫌悪感を抱くのかどうかを…もし我々の中に、ウルベノム様を不快だと感じるものがいれば…」
デミウルゴスは一呼吸おいて、低く唸るような声を出した。
「モモンガ様は我々に失望し、このナザリックを去る決断を為されるおつもりだった…」
デミウルゴスの言葉に、アルベド以外のその場にいるもの全員の顔が青ざめる。
「ま、まさかそんな…」
「で、では…私達は…」
マーレとセバスは酷く困惑した様子で何とか口を開く。
「デミウルゴスのいう通りだわ。モモンガ様は試されたのよ。このアインズ・ウール・ゴウン、ひいては至高の41人であられる御方々への忠誠心を…」
「御方々が友と呼ぶお方…それはつまり、御方々にとってかけがえのない存在であらせられる。そんなお方を、種族のみで判断し無下にする…そのような愚か者がいないかをお確かめになられたのだよ」
デミウルゴスは、確信をもって、この場にいるものに宣言するようにして言葉を発したのであった。