(うーむ、それにしても、難民の亜人か……)
廊下を歩きながら、高橋先生は思考する。
(この国にいると忘れそうになるが、世界はまだまだ不安定だ。こういうことがあるのは当たり前か)
ふう、とため息をついて、彼はあたりを見回した。
時間はもう午後四時ほど。授業は終わり、部活が始まる時間帯だ。
生徒の数はまばらで、ほとんど教室の中には誰もいない。
(しかし、それにしても海外からの
ふーむ、と高橋先生は顎の下に指を当てた。
(八千草先生は聞いたことのない亜人とか言っていたし、教頭先生も何の亜人かは言ってくれなかったな。相当珍しい亜人なのだろうか。それとも、何か暗い背景のある…………)
ふるふる、と高橋先生は首を横に左右する。
(いや、勝手にあれこれ考えるのはよしたほうがいいな。まずは会ってから。とりあえず準備室で午後への準備を……)
そうして、がらっ、と準備室の扉を開ける高橋先生。
「あ、せんせー」
「おお、来てたのか」
理科準備室のソファには、一人の女の子が待っていた。
金髪の頭にぱっちりと開いた大きな目、そしてにぱっと笑う口元からは、きらりと伸びる八重歯がのぞいていた。
ひかり――バンパイアの
「今日は来ないのかと思ってたぞ。町さんたちと一緒に遊びに行くんじゃなかったのか?」
そう言って、高橋先生はソファを通り過ぎ、奥の方にある自分のデスクの椅子を引く。
高橋先生の姿を目で追うように、ひかりはぐでーっとソファの背もたれにもたれかかった。
「んー、ちょっと気になることがあってさ」
そう言って笑うひかりの口元からは、少しいやらしいものが見て取れた。
「なんだ? それ――――」
椅子に腰掛け、それから振り返る高橋先生。
そんな彼の顔が、ひかりの顔を見て硬直する。
ちょうどその頭はソファの肘掛けに預けられ、顔は上下反対になっていた。
「…………何か怪しいことでも思いついたような顔だが」
「ふっふっふっ……」
「……盗み聞きした?」
「よく分かったね! 大正解っ!」
ぴょんっ、とひかりがソファの上に跳ね上がった。
「おい、あんまりはしゃぐなよ、ケガとかしたら危ないぞ」
「まあまあ! それで、どんな転校生が来るの?」
「いや、俺も知らない。これから来るらしい」
「じゃあ私も会っていい!?」
「ん……」
ふむ、と高橋先生は顎を撫でた。
「そうだな……」
(新しい転校生に顔見知りができることは悪くない……それに、別け隔てがなくグイグイいくタイプのひかりなら、いい友達になるかも……。同じデミとして、親近感も湧くかもしれない)
そうして、高橋先生はうなずく。
「そうだな、いいかも知れん」
「やったぁっ!」
ぴょんっ、と再び跳ねるひかり。
「でもまずは本人の意思を確認してからだ。それでいいか?」
「もちろん! じゃあ、私ここで待ってるから!」
「町さんたちと遊ぶって約束はいいのか?」
「予定変更!」
そう言って、ぽちぽちとひかりはスマホを取り出しいじり始めた。
「ねえマッチー!? 新しい転校生が来るって!! 一緒に会おーよ! そうそうユッキーも呼んでさ、あカオルンはもう帰っちゃったかなー? それでさ――――」
ふっ、と高橋先生は微笑んだ。
(こんないい子たち相手なら、難民でも亜人でも、関係ないか)
そう言って、彼は自分の荷物の整理を始めた。