「来客用の待合室……ここか」
堅い面持ちで、高橋先生はその前に立っていた。
すう、と胸を大きく膨らませて、はあ、とゆっくり吐く。
(海外からの亜人……。どういう子にしても、気を引き締めていかなければ)
最後にまた、ふう、と息をついてから、高橋先生は扉に手をかけた。
そして、ガラリと開く。
部屋の中心にある来客用の椅子に、その子は座っていた。
「……!」
一瞬、彼は言葉を失う。
目の覚めるような黝の髪が、彼の瞳に映った。
まるで大海と夜空を混ぜ合わせたかのような神秘的な色。
高橋哲夫は目を奪われた。
今にも暮れようとしている夕日の中で、より一層光る闇夜のように。
その持ち主は音に気が付き、高橋先生の方へと目を向けた。
「や、やあ」
すぐさま笑顔を作り、片手を挙げる高橋先生。
その様子を、黝の美少女は無表情のままに見上げた。
端正な顔つき、青みがかった不思議な髪と反して目は黒檀のような漆黒。
そしてその中で唯一の鮮やかな色、彼女のぷっくりと桃色がかった唇。
さらに、目の覚めるような小麦色の健康的な艶肌。
高橋先生はそれらを目にして、抱く感想は一つだった。
(とてもきれいな子だ……)
思っていたほどの外国人顔ではなかった。
どちらかと言えば、日本系の美人のような。
しかし日本人かと言われると、そうでもない。
その容姿や各部分それぞれの作りは、別世界のものであるかのような違和感がある。
(はっ、しまった。見とれてしまっている場合じゃない)
自らを律し、高橋先生は彼女の対面の椅子に腰を掛ける。
そして準備したメモ用紙やボールペンを用意して、改めて対面の少女に顔を向けた。
じっ、と彼を見つめるような視線。
漆黒の目は、何も逸らすことなく、まっすぐ彼へと向けられていた。
(女子高生らしくない……大人でもこんなまっすぐな目は見たことがない)
かすかに、彼は自らの頬に汗がにじむのを感じた。
(さっきから何もしゃべらないな……)
それどころか、表情筋一つ動かしていない。
高橋鉄男は思考して、なんとか答えを探し出す。
(このままじゃだめだ……緊張しているのかもしれないし、何か言葉をかけてやらないと)
そう思って、高橋先生は口を開く。
「は、はじめまして。生物担当の高橋鉄男です」
すると、ぴくりと少女は反応を示した。
「よかったら、名前を教えてほしいんだけど」
(…………)
……流れる沈黙……。
(……どうしよう、何にも喋らないんだが、この子。大丈夫か……?)
高橋鉄男は細い目をして、心の中で天を仰いだ。
(そういう性質の
「えーと、あの……?」
するとその瞬間、少女は口を開いた。
「グルセ、ファ ファスラド ダゥ」
「……は?」
高橋先生は目を見開いた。
(え? なんだ、今の――――)
「え、えっと?」
「ファ ファスラド ダゥ、グルセ」
「え、え……?」
すると、少女は困ったように眉根を寄せ、高橋先生を見る。
向けられた当の高橋先生の頬には、大粒の汗が、一滴にじんでいた。
「言葉、わかんない……?」
「……?」
首をかしげる亜人の少女。
「マジか……」
高橋鉄男は、顔を覆った。