ラフィールちゃんは語りたい!   作:ケンタ〜

4 / 5
伝わらなくても語りたいっ!

(『まずは話して見てから』って、それすら叶わないとは思わなかった……)

 

 天を仰ぐような気持で、高橋先生は顔を覆っていた。

 

(教頭先生が言ってた、扱いが難しいってそう言うことか……)

 

 顔を上げて女の子の方を見、高橋先生はじっと、彼女を観察した。

 

(何の亜人……とか、聞くレベルですらない。まず、名前をわかるようにしないと)

 

 そう思って、高橋先生はメモ用紙を取り出して、ペンを走らせた。

 それから、自分の指を自らに指してみせる。

 

「あー……高橋。高橋です」

「……タカハシ?」

「そう。高橋」

 

 それから、少女に向かっても指を指す。

 

「君は?」

「ファ?」

「……うん。たぶんそう」

「ファ、ラフィール」

「ラフィール?」

 

 こくりと少女はうなずいた。

 

「えーとじゃあ、ラフィール、さん」

 

(…………次はなにをはなすべきか)

 

 うーむ、と高橋先生は唸る。

 

 唯一、目の前の少女――ラフィールが動じないことで、焦らずに思考することができた。

 

「あの、お茶でも飲みますか……?」

「……? マスカ……?」

「あー……」

 

 高橋先生は机の端にあった、『ほ〜んお茶』の緑のボトルを手に取り、ラフィールの前に差し出す。

 

「お茶……」

「お……オシア……?」

「お茶、です」

「おし……おしゃ……。…………?」

 

(ちゃ、が発音できないのか?)

 

 とりあえず、パキパキとペットボトルの蓋を開けた。

 

「よかったらどうぞ」

 

 すると、目の前に差し出されたお茶のボトルをラフィールはじっと見つめる。

 

「ファ エニ ドブ ソゥ?」

「……うん。多分そう」

 

 そのボトルを手に取ったかと思うと、恐る恐るその中を覗き込み始めた。

 

「ソア ソイ?」

「? なんだ?」

「ソイ?」

 

(ああ、お茶のことをソイと言うのか……)

 

「そうだ。ソイ」

「…………」

 

 ラフィール手にとって、再びそれをのぞき込んだ。

 

 そうして、ゆっくりとそれを口に近づけていく。

 その間、空いた方の手はボトルの底にあてられていた。

 

(随分と上品な飲み方だ)

 

 ゆっくりと近づけた飲み口がようやくピンクの唇に達すると、細い首の喉がこくりと動く。

 

「…………」

「おいしいか?」

 

 口を離してから、ラフィールは再びボトルをじっと見つめた。

 それから高橋先生の方へ顔を向けて、口を開く。

 

「ネグロ、タカハシ」

「ネグロ?」

「ネグロ」

 

 こくりとラフィールは頷く。

 

「ソル ソイア エティ ウエサ」

 

(なんかよくわからんがお気に召したらしい)

 

 そう思って、高橋先生はポケットの中からいくつかのお菓子を取り出して机に置いた。

 

「これもよかったら」

「……ソア……」

「お菓子。お菓子だ」

「オカシ……」

 

 その袋を、ラフィールは手にとる。

 そして、包装のプラスチックを興味深げにくるくると回した。

 

「……開け方分かんない?」

「ソア ゲーニュ……? ゾクサル……」

「こうやるんだ」

 

 別のお菓子を手に取り、空けてみせる。

 

 少し驚くように目を開くするラフィール。

 

「ロサ……」

 

 そう言って、自らもパリッと包装を開けた。

 そして中に入っていたのはチョコレート。

 

「スルエヴ……ラザスィボース」

 

 一瞬それを注視してから、さくっ、とラフィールは口に含んだ。

 

 そのままサクサクと噛んで、ゴクリと飲み込む。

 

「…………ウエサ」

 

 少し口角を上げて、ラフィールはそう言った。

 

「ネグロ、タカハシ」

 

 ようやく動いた彼女の表情。

 微笑む彼女の顔に、高橋先生は数瞬見とれていた。

 

「ああ……よかった」

 

(ネグロは、感謝の言葉か。不思議なものだ。分からなくても、好意は不思議と伝わる)

 

 そう思って、高橋先生は席を立った。

 

「ラフィール、会わせたい人たちがいるんだ」

「……?」

「ああ、とりあえずついてきてくれ」

「ファ イス サテ ダル?」

 

 こてんと首をかしげるラフィール。

 

「ああ。来てくれ」

 

 すると、ラフィールも立ち上がる。

 

 それを見て、高橋先生は扉へと向かい、それをガラリと開けた。

 

 どさどさっ

 

 何か重いものが折り重なるような音。

 

「えっ?」

 

 驚きの目で、高橋先生は廊下を見る

 そこには、折り重なる三つの体があった。

 

「お、重いッ……!」

 

 と言うのは褐色肌にサングラスをつけた少女。

 

「ご、ごめんなさい薫さん……!」

 

 と言うのは、青い髪をした細身の女の子。

 

「やばっ、バレた!」

 

 最後にそういうのは、一番上に折り重なる、金髪八重歯の女の子。

 

「ひかり、またのぞき見を…………」

 

 そして、高橋先生の低い声。

 

「あっ……やば」

 

 小鳥遊ひかりは、全力で愛想笑いをした。

 

「せんせーごめんっ!」

「……はあ」

 

 と、ため息をつく。

 

「普通にしてれば入れさせてやるのに」

「あーっ! 後ろのかわいい子! その子転校生!?」

「聞けよ」

 

 咎める高橋をそっちのけに、ひかりはラフィールの方へと駆け寄っていった。

 

 そして、ラフィールの手をぎゅっとにぎって、ぶんぶんと振る。

 

「デニュっ」

 

 びくっと跳ねるラフィール。

 しかしそんなものはそっちのけ。

 目をキラキラさせて、ひかりは矢継ぎ早に話し始めた。

 

「はじめまして私小鳥遊ひかり! あなたは名前なんて言うの!? あっなんかチョコレートのにおいするなさっき食べたの!? この学校たくさん亜人っていうかデミちゃんいるからね、大丈夫だよ高橋先生優しいしみんなやさしいから一緒にこれから――――」

「おいっ」

 

 ごちんっ、と。

 先生のボードがひかりの後頭部に炸裂した。

 

「いてっ! ちょっと何するの!?」

「不安がってるだろ、その子が」

 

 と、ラフィールは戸惑いの表情で口を開いた。

 

「ダ アネ サ……」

「…………? えっ」

 

 ぴくっ、とひかりの顔が反応する。

 

「この子っ、がっ、外国人っ……!?」

「えっ、そうなの!?」

 

 真っ先に反応したのは、雪――青い髪で細身の、雪女のデミだった。

 

「ほんとだ、見たことない髪の毛の色……」

「いやそれはユッキーもじゃない?」

 

 そう言ってひかりは細い目で雪を見る。

 

「そ、それだったらひかりちゃんも金髪じゃん」

「いや、金髪は別に普通にいるじゃん!」

「確かに、見たことない色だな」

 

 そう言うのは、褐色肌にサングラスをおでこにかけたデミ(亜人)。薫だった。

 その目は、ラフィールの方をじっと見つめていた。

 

「なんだ、どんな色が見えるんだ?」

 

 と高橋先生が嬉しそうに聞く。

 

「…………墨みたいな黒、さらさらしててすっと立ち上っていくような……そんなオーラだな」

「感情は読めるか?」

 

 すると、キッと薫は先生を睨みつけた。

 

「うわっ何」

「よくも女子高校生のプライベートゾーンにずかずか踏み込めるな先生」

 

 むーっと唇と尖らせる。

 先生は慌てて手を振った。

 

「あ、いやそういうんじゃないんだ。見てのとおり、言葉が伝わんなくってな。少しでも感情を読むことで、意思疎通の助けになれば良いと……」

「ふーん、ま、いいか。このコ名前はなんていうんだ?」

「ラフィール、っていうらしい」

 

 ラフィールはぴくりと反応する。

 それに対して、薫は顔を向けて言った。

 

「よしラフィール、こっち見てくれ」

「…………?」

 

 漆黒の瞳が、薫へと向けられる。

 その顔に戸惑いなどはあまりなく、先ほどと同じように、真っ直ぐ対象を見る目。

 

 またそれを、薫はじっと見つめた。

 そして、思考する。

 

(…………溶かした墨のような気持ちのいい黒。少しの揺らぎ……緊張。私への興味と観察…………)

 

「うーん……少しだけ緊張してて、私に興味を持ってる。いや……私じゃないな。これか」

 

 と、薫は自分の頭の上のサングラスを外して、ラフィールに向けて見せた。

 

 ラフィールの目の色が、再び薫の目の中で変化する。

 

(驚きと興味……ビンゴか)

 

「いいよ、これやるから」

 

 言うと、また何かを口にするラフィール。

 

「ファ エニ ボト ソゥ?」

「ホントに話せないんだな」

「……?」

 

 ラフィールがかしげると、また薫は目を注視した。

 

(疑問と要求……)

 

「いいよ。ほら」

 

 そして、そのサングラスを恐る恐るラフィールは手にした。

 

「……ネグロ」

 

(感謝……ネグロはありがとうか)

 

「おお……すごいな薫」

 

 高橋先生が、すぐそばから感嘆する。

 

「すっごいカオルン! 言葉わかんないのに分かっちゃうんだ!」

 

 と、飛び跳ねるのはひかり。

 

「薫さんすごい……!」

 

 という感じで静かに称賛する雪。

 

「いや、そんなに褒めてもなんもでないぞ」

 

 そして、ニヤけながらそっぽを向く薫。

 

 それに、高橋先生は微笑んだ。

 

「やっぱりみんなに会わせて良かったな。そういえば町は?」

「んー、マッチーは覗き見大作戦あぶないから準備室で待ってるよ。体だけ連れてきてもよかったんだけど……新入生ビビっちゃいそうだったし」

「おお……ひかりもそういう配慮ができるようになったのか。すごいな」

「……舐められてない? 私」

「それはそうと、この子はなんの亜人なんだよ?」

 

 と、その横から話しかけるのは薫だった。

 んー、と先生は唸る。

 

「いや、分かんないんだ」

「分かんない? どういうことだよ」

「本人に聞くこともできないし、他の情報もなくてな……」

「じゃあなんで亜人(デミ)って分かんだ?」

「俺もわからんが……とりあえずまあ……髪色だな」

「髪色? それだけで亜人ってのはちょっと暴論じゃねぇか?」

「いや、それが地毛なら説明できる。まあ、とりあえず準備室に行こうか。そこでいろいろ説明したい」

 

 すると、ぴょーんとひかりが飛び上がった。

 

「おーっ、じゃあ行こうかラフィールちゃん!」

「……? …………?」

 

 相変わらず手を上下させられてるラフィールは、何も分からずひかりをみるしか無かった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。