俺ァ爆豪のかっちゃん(大嘘)だ! 作:ヒムロレムス
楽しんでいただけると嬉しいです。
「⋯⋯何処だ、ここ?」
朝、いつものように目覚めた俺の視界に飛び込んできたのは、薄暗く荒れ果てた室内だった。
確かに一人暮らしの社畜である俺の部屋は掃除もあまりできていないが、天井がひび割れて壁の一部が崩れ落ちている程荒れているわけではない。
明らかな異常事態。状況を把握しようと部屋を見渡した時、ガラスの破片に映った自分の姿は、普段の慣れ親しんだ自分の姿と大きくかけ離れていた。
「誰、お前⋯⋯」
薄い金髪、赤く輝く瞳。鍛え上げられた肉体に、荒々しさと鋭さを感じさせる声。
俺は、全くの別人になっていた。
「というか、この姿⋯⋯」
全くの別人の姿でありながら、俺はこの姿に見覚えがあった。
薄い金髪、赤く輝く瞳。鍛え上げられた肉体に、荒々しさと鋭さを感じさせる声⋯⋯こんな特徴を持ったキャラクターを俺は知っている。
「爆豪、勝己⋯⋯」
僕のヒーローアカデミアという漫画の登場人物で、勝利の権化。掌の汗腺からニトロのような汗を出し、それを爆破させる個性を持つヒーロー。
爆豪勝己が、俺の姿として鏡に映っていた。
「いや、えぇ、はぁ⋯⋯?」
訳が分からない。いわゆる憑依って奴だろうか?
というか何故、こんな廃墟のような場所で眠っていたのだろう。爆破しても問題なさそうな場所だし、トレーニングでもしていたのだろうか?
「⋯⋯って、んなことどうでもいいわ」
爆豪勝己になってしまった。正直俺のようなひ弱が爆豪勝己など解釈違いにも程があるが、なってしまった以上はいずれ戻ってくるであろう爆豪勝己の精神のため、使命を全うしなければ。
そのために必要な情報を求めて持ち物を漁るが、何も持っていない。
「せめてスマホぐらい持っとけや⋯⋯」
爆豪勝己への不満が口から溢れるが、言っても何も変わらないと思考を切り替える。
スマホはなく、現在地も不明。分かっているのは自身の名前だけ。
となれば、目指す場所は一つ⋯⋯!
「⋯⋯交番」
この年齢で迷子というのは何とも恥ずかしいし、爆豪勝己の体に迷子の称号を与えてしまうのは口惜しいが、背に腹は代えられない。
これからの方針と目的地を明確にした俺は、廃墟の扉を押し開けて外の世界に飛び出した。
◇
「⋯⋯は?」
外の世界を見て、思わずそんな声が漏れた。
外の世界に出て真っ先に飛び込んできたのは無機質なコンクリートジャングルと、そんな街中で当たり前のように行われている銃撃戦だった。
確かにヒロアカの世界は個性を利用した犯罪があるし、銃撃戦が行われる事だって稀にだがあるだろうし、驚きこそしたものの変な声が漏れる程ではない。
問題はそこじゃない。
その銃撃戦を行っているのが、爆豪勝己と年齢があまり変わらないであろう少女たちであることと⋯⋯銃弾を受けた少女たちの体から、一切の血が流れていないことだ。
不自然だ。いくらヒロアカの世界でも、こんなに頑丈な人が多いわけじゃない。銃弾を受ければ、個性によっては普通に死ぬ。
なら、何故彼女たちは死なない?全員が全員、肉体を頑丈にする個性持ちという可能性は低い。
それに、他にも不自然な点がいくつかある。
何故、銃撃戦の鎮圧に当たっているのがヒーローではなく普通の女子高生なのか。何故、全員が全員当たり前のように銃を携帯しているのか。
何故、そんな異常な光景を見ても誰一人として驚く様子がないのか。
まるで、それが当たり前のような⋯⋯。
「もしかして、ここ⋯⋯」
ふと、嫌な予想が頭をよぎった。
ここは、ヒロアカの世界ではないんじゃないか、と。
あり得るはずがない。だって、俺は爆豪勝己になってしまっているんだから。
しかし、ヒロアカの世界の常識と目の前の光景があまりにかけ離れているのも確かだ。
「とにかく、巻き込まれないように一旦廃墟の中に⋯⋯」
そう考えて廃墟の扉を押した、その時。
「先生ッ!」
一人の少女の悲痛な叫び声が聞こえた。
思わず視線を向けると、スーツ姿の女性が、今まさに瓦礫の下敷きにならんとしているところだった。
下敷きになればまず、無事では済まない。良くて大怪我、悪ければ⋯⋯死ぬ。
「⋯⋯でも、俺には⋯⋯」
助けたいと思った。でも、無理だ。
爆破の使い方が分からない。そもそもここがヒロアカの世界じゃないのなら、個性だって使えない可能性がある。
俺はそんな事を考えて自分を正当化し、女性の潰される悲惨な未来から目を背けて廃墟に入ろうとした。
その時、俺は見た。
これから起きる悲惨な未来を想像してか、震える女性の姿を。
周りの人間の、叫ぶ姿を。
女性の目から流れる、一筋の涙を。
瞬間、俺の体は考えるより先に動いていた。
◇
「先生ッ!」
戦闘の指揮をしていた連邦捜査部シャーレの先生は、叫ぶユウカの声に視線を上に向けた。
そんな先生の視界に、激しい戦闘の影響でビルの一部が爆破したことにより発生した瓦礫が、彼女の身に降り注ごうとしている光景が映る。
(⋯⋯あぁ、無理かな、これは)
先生は、死を察した。
先生自身では回避は不可能だし、周りに自分を助けられる人がいないからだ。
迫る死に、体が震える。
恐怖で、涙が零れそうになる。
先生はそれらを生徒に心配させないという強い意志で押し潰し⋯⋯それでもほんの少しだけ、抑えきれずに溢れた一筋の涙。
それに呼応するかのように⋯⋯。
「死ねえ!!」
迫る
それを成したのは、掌から爆破を起こしている一人の少年だった。
「疾っ、すぎて止まん、ねえッ!」
少年は爆破で加速した勢いのまま、止まれずにビルに激突した。
だが、すぐさま飛び出てくる。
「ンだよ、使えんじゃねーか⋯⋯!」
その顔には、喜びが溢れていた。
激突で傷だらけになりながらも、それを気にする素振りすら見せない程に。
「⋯⋯君、大丈夫!?」
何が起こったか分からずに止まっていた先生は我に返り、少年に傷の具合を尋ねた。
「この程度の傷、痛くも痒くもねェわ!」
「それなら良かったよ!」
返ってきた答えは、何とも頼もしいもの。
安堵した先生は、続けて問いかける。
「君の名前を教えてもらってもいいかな?」
テンションが上がり、いわゆる『ハイ』になっているらしい少年は声高らかに叫んだ。
「俺ァ爆豪のかっちゃんだ!」
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