俺ァ爆豪のかっちゃん(大嘘)だ!   作:ヒムロレムス

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スタートライン、爆豪(偽)の

 ビルに激突したせいで全身に痛みを感じる。だが、女性を助ける事ができたという事実を前にすると、そんなものは些細なことに思えた。

 本当に助けられて良かった。俺が間に合わずに女性が瓦礫の下敷きになってしまっていたら⋯⋯俺は自分を一生許せなかっただろう。

 

 そして地面に降り立った俺は冷静さを取り戻していき⋯⋯自分の口から漏れ出た台詞を後悔していた。

 名前を聞かれてあだ名で答えるのはおかしいだろう、と。

 

 あぁ、俺を見てくる女性の視線が痛い。

 

「えっと、かっちゃん⋯⋯?」

「かっちゃんじゃねェ!爆豪勝己だ!」

 

 理不尽なのは分かっているが、強めに否定させて欲しい。

 

「爆豪カツキ⋯⋯だから『かっちゃん』なんだね。うん、かわいい感じでいいと思う」

「冷静に分析してんじゃねェ⋯⋯!」

 

 まさかの追い打ちである。

 辞めて欲しい。ビルに激突した以上にダメージ感じるから。

 

 女性は俺の態度で色々と察してくれたのか、俺の「爆豪のかっちゃん」宣言から話題を変えてくれた。

 

「じゃあ⋯⋯カツキって呼ばせてもらうね」

「⋯⋯好きにしろや」

「ありがとう。私のことは先生って呼んでくれればいいから」

 

 女性――先生は続ける。

 

「カツキ、さっきは助けてくれてありがとう。でも、ここは危険な場所だからすぐに離れた方がいいよ。カツキは大丈夫だって言ってたけど、怪我だってしてるんだしね」

 

 優しい人だ。俺の身を案じてくれている。

 そんな彼女に感謝の言葉と、その提案を受けるわけにはいかない理由を伝えようと口を開き。

 

「こんな傷どうってことねェわ!こんな状況放置して下がれるわけねーだろ。戦わせろや」

(心配してくれてありがとうございます。でも、この状況を放置したままじゃ危ないですし、鎮圧に協力させてください)

 

 結果、全く違う言葉で発せられた。

 ⋯⋯いや、えぇ?

 

「先生、ご無事ですか!?」

「お怪我はありませんか?」

 

 そんな状況に困惑していると、白いジャケットを羽織った少女とメガネをかけた少女が先生に駆け寄ってきた。

 

「私は平気だよ、ユウカ、チナツ。カツキが守ってくれたから。それより、戦況は大丈夫?」

「はい、今はハスミ副委員長とスズミさんが不良生徒を抑えています。私たちは先生の安否の確認に」

 

 二人の会話で、のんびり会話をしている場合ではないと思い出す。

 口調について考えるのは、銃撃戦を鎮圧してからだ。

 

「おい、白ジャケット、赤メガネ」

「白ジャケットって⋯⋯私?」

「赤メガネは⋯⋯私ですかね」

「敵はあのヘルメットのやつらか?」

 

 俺の態度に不満げな様子の少女たちだが、俺の問いには答えてくれた。

 

「えぇ、そうよ。残りは⋯⋯確か八人ほど」

「わーった。白ジャケット、赤メガネ!セン公守ってろ!」

 

 ユウカさんに伝えるや否や、俺は両手から爆破を出して飛び出した。

 正直、まだまだ個性は使いこなせる気がしないし、銃撃戦に割って入るのも怖い。それでも、俺は戦うことを選ぶ。

 

 さっきのような言い訳の不快感を、二度と味わう事がないように。

 爆豪勝己に、顔向けできるように。

 

 

 

 

 

 

 先生たちがいた場所から少し前。

 不良生徒たちと銃撃戦を繰り広げつつ、瓦礫に隠れながらスズミは冷静に戦況を分析していた。

 

(⋯⋯少し、押されていますね)

 

 理由は明白。先生の指揮が失われたことだ。

 不良生徒たちも押していることを理解しているらしく、先ほどより苛烈な攻撃になっている。

 

(先生の安否が確認できるまで、私とハスミさんでどうにか⋯⋯)

 

 そんな覚悟を決めた、その時。

 

「死ねえ!」

 

 物騒な叫び声と共に勝己が飛んできた。

 勢いそのままで一番前にいた不良生徒に近づき、そのまま爆破しようと⋯⋯。

 

「疾っ、すぎたクソがああッ!」

 

 したが加速しすぎた結果、爆破できずに不良生徒と激突。結果的に不良生徒を一人気絶させることに成功した。

 それでも勢いは止まらず、勝己は近くのガードレールに激突してようやく止まる。

 

「な、なんだよアイツ」

 

 そんな一人の不良生徒の呟きは、勝己が再び飛び上がろうと起こした爆破にかき消された。

 飛び上がった勝己は爆破威力の調整や空中制動の姿勢に悪戦苦闘しつつ、どうにか空中に留まる事に成功する。

 

(クソ痛え!調整ミスった!今度はもっと威力落とせ!)

 

 今度は爆破の威力を抑え、その代わりに爆破を何度も出す事で空中を駆けながら不良生徒たちに再接近を試みる。

 

「撃てぇ!」

「クソが!」

 

 一人の不良生徒の指示を受けて、銃弾の雨が勝己に浴びせられる。

 前後、上下左右を爆破で移動し銃弾の雨を回避するが、避けきれず何発も体を掠る。

 

 傷が増えていく中、それでも勝己は笑う。

 

(動き回るせいで目ェ回る!でも分かってきた!爆発力の微調整、タイミング、空中での姿勢!この戦いで掴め、この個性を使い方を!)

 

 爆破を使う度に少しずつだが爆破の使い方が分かっていく。 それが今、とても楽しいのだと。

 

 銃弾の雨の掻い潜りながら、少しずつ不良生徒たちとの距離を詰め。

 

「バカスカ撃ちやがって⋯⋯!覚悟しろや、クソ敵共が!」

 

 左手から放たれるゼロ距離爆破が一番近くにいた不良生徒に当たる。

 ふっ飛ぶ不良生徒。それを流し目で確認しつつ更に右手から爆破を起こし、勢いそのままに不良生徒を蹴り上げた。

 なんとかそれをライフルで受け止めた不良生徒だったが。

 

「防いだかよ!ンで、次も防げんのかァ!?」

 

 その左腕を掴むと爆風の勢いをつけて投げ飛ばし、一撃でダウン。

 勝己は地面に着地、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ひっ⋯⋯!」

「なんだよコイツ⋯⋯!」

 

 さながら悪役が如き笑みの勝己と、それに怯んで後ずさる不良生徒たち。

 

「閃光弾、投擲!目を!」

 

 そんな膠着状態に投じられたのは、一つの閃光弾。

 勝己は反射的に爆破で後ろに飛び、目を瞑った。

 

 その後、強い光が発生し、不良生徒たちの視界を奪う。

 動けなくなった不良生徒たちに銃弾が放たれ、気絶させていく。

 

「前衛、ありがとうございます。ここからは私たちも援護します」

「あなたは先程と同じように飛び回って隙を作ってください。私が撃ち抜きます」

 

 着地した勝己に話しかけてきたのは、閃光弾を投擲したスズミと銃弾を放ったハスミだった。

 ありがたい援軍に、勝己は感謝⋯⋯。

 

「足引っ張ったらコロス」

「なっ⋯⋯そのような言い方は失礼では!?」

「私もそう思いますが⋯⋯今は落ち着きましょう。まだ敵は残っています」

 

 できるわけもなく、ハスミを不機嫌にさせてしまう。

 あわや言い争いになるかと思われたが、不良生徒がまだ残っているとスズミが伝えたおかげで、そうはならなかった。

 勝己は心の中で安堵し、再び飛び上がる。

 

 それから不良生徒たちが完全に鎮圧されるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 不良生徒たちの鎮圧が終わってから、数分後。

 色んなものに激突し、銃弾の雨が掠りまくったせいで全身傷だらけの俺は眼鏡をかけた少女に簡単な応急処置を施してもらっていた。

 

「⋯⋯はい、これで終了です」

「⋯⋯ああ」

 

 素早く正確な応急処置に感謝の一つでも言いたいところなのだが⋯⋯悲しいことに、どうやらこの体のせいで口調までもが爆豪勝己になってしまうらしい。

 

 身体能力や個性、反応速度が備わっているのは嬉しかったけど、ここまで再現する必要ないと思う。そのせいで黒い羽根の女性と喧嘩になりかけたわけだし。

 

「チナツ、お疲れ様。カツキの手当してくれてありがとうね」

 

 処置を終えたタイミングで近づいてきたのは、先ほどの三人を引き連れた先生だった。

 三人とも俺を警戒しているし、できれば敵意がないことを伝えたいが⋯⋯今は状況の把握が最優先だ。

 

「セン公、聞きてェ事がある」

「私に答えられる事なら何でも聞いて⋯⋯と言っても、私もキヴォトスに来たばかりだから答えられる事は少ないと思うけど」

「キヴォトス⋯⋯ここの地名か」

 

 聞き覚えのない単語について尋ねる。

 

「そう、学園都市キヴォトス。数千の学園が集まってできた巨大な学園都市なんだって」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 まず、確定した。ここはヒロアカ世界ではない。

 ヒロアカの世界はあくまで『個性』の発現によって発展した超人社会。基礎⋯⋯つまりは地球の地理等は俺たちの世界と何ら変わりないのだ。

 

 学園都市キヴォトスなんて場所も当然なく⋯⋯となると、完全な別世界だと考えていいだろう。

 それなら銃が当たり前のように使えることや体がやけに頑丈な事にも納得がいく。

 

 続けて質問をぶつけようとしたその時、黒い翼の女性がそれを遮った。

 そして先生を少し離れた場所に連れて行くと、何やら小声で話し始める。

 

「先生、今はシャーレに急ぎましょう」

「でも、一緒に戦ってくれたカツキに事情を一切説明しないっていうのは⋯⋯」

「彼への説明は後からでもできます。治療の名目で待機しておいてもらえば、彼が何処かに行く心配もありません。それに、彼は部外者です。巻き込むわけにはいきません」

「⋯⋯そうだね。ハスミの言う通り」

 

 どんな会話をしているのか分からないが、大方部外者に情報を漏らさないようにして欲しいみたいな話だろう。

 

 それから数分後。会話を終えたらしく、黒い翼の女性と先生が戻ってくる。

 そして、先生は俺に言った。

 

「カツキ、質問に答えるのは後でもいい?実は急いで行かないといけない場所があるんだ」

 

 どうやら、事態は一刻を争うらしい。

 俺に説明している時間がない程だとは。

 

「カツキは怪我してるし、治療を受けながら待っておいて。連邦生徒会の子には連絡しておいたから⋯⋯」

「ああ?勝手に話進めんなや」

 

 俺は先生の説明を遮り、告げた。

 

「俺も行く。人数いた方がいいだろ」

「待ってください。協力を申し出てくれるのはありがたいですが、人数は足りて⋯⋯」

「足りてねーからセン公が怪我しかけたんだろーが。俺がいりゃあ、護衛付ける余裕ぐらいはできんだろ」

 

 後は、行く当ても身分もないので先生にどうにかして欲しいという理由もあったりする。

 

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯ンだよ、なんか言えや」

 

 警戒されているようだし反対されると思っていたのだが、意外なことにそれはなかった。

 代わりと言ってはなんだが、めちゃくちゃ変な目で見られているが。

 

「⋯⋯いえ、そんな冷静な判断もできるのだな、と⋯⋯」

「俺はいつでも冷静だカラス女!」

「カラス女!?私には羽川ハスミという名前が⋯⋯!」

「知るかンなモン!」

 

 黒い翼の女性――羽川さんの言葉に、食ってかかる俺。

 ⋯⋯まぁ、正直めっちゃ分かる。作中でも言われてた事だし。

 

「で、どうすンだセン公!」

「⋯⋯なら、お願いしてもいいかな?」

「ケッ⋯⋯はよそう言えや」

 

 こうして俺は、先生についていく事になった。

 この出来事が終わるまでに、彼女たちの警戒を解いていきたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「カツキ、簡単にでいいから自己紹介しておこうか」

「自己紹介だぁ?」

 

 簡単な打ち合わせを終えて出発しようとしたところで、先生が俺に言った。

 確かに今のところ分かっているのが羽川さんだけだし、知っていないと何かと不便だ。

 

 俺たちは少し時間を使い、簡単な自己紹介をする事にした。

 

「⋯⋯爆豪勝己」

 

 初めは俺からという事だったのだが、口から出てきたのは名前だけである。

 もっとこう、言う事あるじゃん⋯⋯。

 

「⋯⋯その、カツキ?もっと何か、せめて一言ぐらい⋯⋯」

「ああ?時間もねェってんのに悠長に話してる時間ねェだろうが」

 

 先生の意見も聞き入れてくれない。

 結局、俺の自己紹介は名前を言うだけで終わってしまった。

 

「次は私たちですね。ミレニアムサイエンススクール、早瀬ユウカです」

「トリニティ総合学園、正義実現委員会の羽川ハスミです」

「同じくトリニティ総合学園、トリニティ自警団の守月スズミです」

「ゲヘナ学園、風紀委員会の火宮チナツです」

 

 なるほど⋯⋯整理しておこう。

 白いジャケットに黒いブレザーを着て、髪をツーサイドアップにしているのが⋯⋯。

 

「白ジャケット」

「なっ⋯⋯私今、自己紹介しましたよね!?」

 

 黒い翼に黒いセーラー服の人が⋯⋯。

 

「カラス女」

「またっ、また言いましたね!?普通に名前も呼べないのですか!?」

 

 頭から白い翼のようなものが生えている、白髪の人が⋯⋯。

 

「閃光女」

「⋯⋯私、そんなに閃光弾のイメージが強いんですか?」

 

 メガネをかけて、赤いタイツを履いているのが⋯⋯。

 

「赤メガネ」

「何故、誰一人として名前で呼ばないんですか⋯⋯?」

 

 ⋯⋯おかしいな、名前を呼んだハズなんだが。

 何故かイマイチネーミングセンスのあだ名になってしまう。

 

 ふと、今の自分を客観的に見てみた。

 口調は粗暴で他者を呼ぶ時なイマイチなあだ名で呼び、名前で呼ぶことは決してない。敬語も使わない。

 

 ⋯⋯俺は、円滑なコミュニケーションを諦める事にした。

 普通に名前も呼べないのかよ、この体⋯⋯。




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