弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第10話 家とメイドとサイコパス

カリンシャで家屋の販売と貸し出しを行っている男は、思わぬ来客に度肝を抜かれた。

 

しかし、その客が申し出た内容に、更に驚きを齎した。

 

『少し大きめの家が欲しい。金はいくらでも出すから、すぐに使えるようにしてほしい』

 

商売をする男にとって、このような『余裕のない客』は非常にありがたい話であった。

 

なにせ、急いでいる客に対しては、その対応をする代わりに足元を見て相場の何倍もの金額をせびることができるからだ。

 

しかし、ことこの客に対しては、そのようなことはできなかった。

 

なぜならその客は、カリンシャ…いや、聖王国の英雄で

 

ある、アダマンタイト級冒険者『黒金のニシキ』だったからだ。

 

男は、広間や客間、10を超える私室を有する家、という小さな屋敷にも匹敵する、二階建ての物件を提示した。

 

もちろん、金額を吊り上げたりなどはしない。

 

ニシキはその物件を一瞥した後、即決して見せた。

 

しかも、目の前に値段の3倍の白金貨を出して、である。

 

「釣りはいらない…。代わりに、すぐに使えるように手配してくれ」

 

その白金貨の量を見た男の行動は早かった。

 

仕事仲間や関係各所に即座に連絡し、それを実行せしめんと行動した。

 

「明日には住めるようにして見せる」

 

契約書とその他書類を受け取り、男から放たれた言葉は、ニシキの期待を大きく上回るものであった。

 

「感謝する」

 

ニシキは短く答えて男に頭を下げると、そそくさと退店していった。

 

というよりは、魔法で転移したようにして姿が掻き消えた。

 

それに酷く驚いた男であったが、すぐに冷静さを取り戻し、ニシキからもらった白金貨に見合う仕事をしようと、行動を再開した。

 

 

ニシキがツアレを助け出した次の日の正午…。

 

リ・エスティーゼ王国のある建物の周りでは、混乱にも似た騒々しさがあった。

 

「一体、何があったというの…」

 

その建物の中にいた、長い金髪ロールの髪形を有した女性が狼狽したように呟く。

 

建物の中は地獄絵図という言葉がお似合いの惨劇になっていた。

 

そこらかしこに広がっている真っ赤な血と臓物。

 

加えて人間の身体の一部とみられる肉の破片。

 

この建物にいたと思われるある組織の人間と、そこを利用していた客のものであろう。

 

そう推察できたのは、この建物がなんであるかをよく理解しているからである。

 

「鬼ボス…生き残りは誰もいない」

 

「娼婦は連れ出されてる」

 

赤と青で違いはあるものの、その身なりを忍者装束で包んだ女性が金髪ロールの女性に声を掛ける。

 

その額には、些少の汗がにじんでおり、この惨劇を齎したものへの恐怖心が見え隠れしていた。

 

「組織内でのゴタゴタ…ってわけじゃなさそうだな」

 

先ほどとは違う、まるでゴリラをそのまま人間にしたような、赤い鎧をまとった女性が呟く。

 

「一体だれがこんなことを…」

 

身長は、明らかに先の4人よりも小さい。

 

しかし、それでいてどこか年長者を思わせるような雰囲気を纏った、白い仮面の少女が肉塊と化した太った男性を見下ろしながら口を開いた。

 

「ここが『八本指』の奴隷娼館だとしって襲撃したのかしら…」

 

「そうだろうな…でなければ、こんなことにはならんだろう」

 

金髪ロールの女性と、仮面の少女が言葉を交わす。

 

「俺たち以外にも、八本指を潰そうって輩がいるってことか?」

 

「それはいい」

 

「大助かり」

 

ゴリラのような女性と、忍者の風貌をした2人組も会話に参戦する。

 

しかし、その味方となるであろうこの惨劇を生みだした人物は、すでにここにはおらず、それを探る手立ても今はなかった。

 

「一先ずは、王国の兵に引き継ぎましょう。私は、何か八本指の証拠になる様なものを探すわ」

 

「わたしってなんだよ。私達、だろ?」

 

金髪の女性の言葉に、ゴリラのような女は異議ありと言った様子で声を低くする。

 

「…そうね、私達で探しましょう」

 

 

 

リ・エスティーゼ王国で起こった、違法娼館襲撃事件は、一週間以上調査されたが、結局のところ、犯人不明で処理されることとなった。

 

証拠となる様なものは一切見つからず、加えて働かされていたであろう女性も、一人もみつからなかったからだ。

 

さて、話は変わるが、カリンシャで小さな屋敷を有したニシキは、これからの生活に些少の不安を有していた。

 

それは自身が招いた結果ではあったが、未だに受け入れることができないでいたからだ。

 

「…まさか女性と一つ屋根の下で暮らすことになろうとは…こんなの誰も予想できないだろ…」

 

とある娼館を襲撃し、従業員と客を皆殺しにした後、助け出した女性は25人。

 

女性たちには、治癒のポーションと、身なりを整える服などを買い与えた後、向こう1年の生活に困らないだけの金貨を渡した。

 

最初は戸惑いこそ見せたが、皆ニシキに泣きながら感謝を述べ、すぐさま王都を脱出していった。

 

『最後まで責任を持てないのなら、無暗に手を差し伸べるな』

 

これは、今は亡き厳格な父から譲り受けた言葉である。

 

ニシキはそれを思いだし、彼女たちをにできる限りの支援を行ったのだ。

 

両手に持ちきれないほどの荷物を何とか抱えながら、ニシキは買ったばかりの屋敷の前に立つ。

 

一つ大きなため息をついて、

 

「まあ、なるようになるか…」

 

そう呟いて、屋敷の中へと入っていった。

 

 

「おか…りなさ……、ニシ……ま」

 

ニシキが屋敷の扉を開けると、ぼそぼそと喋る長いスカートのメイド服を着た少女が立っていた。

 

ツアレを拾った翌日、相談した結果、ツアレをニシキが引き取ることになった。

 

そして、1週間が過ぎたころには、ツアレは屋敷でメイドをしていた。

 

ツアレが着用しているメイド服は、ニシキがナーベラルに着せていた一般給仕用のメイド服と同じもので、ナザリックにおいては一般メイドのそれと変わりない。

 

かつて、メイドこそ至高といっていたギルドメンバーが作った衣装であった。

 

ナーベラルの衣装の設定に協力してもらった際に、この一般メイドの服を1着もらい受けていた。

 

当初ニシキは、ツアレを客として向かい入れたが、それをツアレが拒否した。

 

助けてもらい、それでなおかつ客として扱われるのは遠慮したいとのことであった。

 

ニシキからすれば、あれだけのことがあったのだから…とも思ったが、彼女の意思は固かった。

 

その考えの裏にあるのは、不安だろうとニシキは考えている。

 

つまりは自分の不安定な立場を理解しているからこそ、役に立つことで捨てられないようにしようというのだ。

 

勿論、ニシキは捨てたりはしないとツアレに言っている。

 

「ただいま、ツアレ。仕事の方は問題ないか?」

 

こくりとツアレの頭が縦に動く。

 

長い金髪は綺麗に切り揃っており、その上にちょこんと乗った白のホワイトブリムも揺れた。

 

「もんだいはな……ったです」

 

「そうか。それは良かった」

 

雰囲気は思いっきり暗いものだし、表情も滅多なことでは笑わないが、人間としての生活を続けることで少しはその身を苛むものが薄れたのか、声も大きくなってきたようだった。

 

ニシキが歩き出すと、その横をツアレも歩き出す。

 

「今日の夜ご飯は?」

 

「はい。じゃがいも……つかっ……シチューです」

 

「そうか。それは楽しみだ。ツアレの料理は美味しいからな」

 

ニシキの微笑と一緒に告げた言葉を受け、ツアレは顔を真っ赤にすると下を向く。

 

メイド服のエプロンの部分を恥ずかしそうに両手で掴みながら。

 

「そ、そんな……と、な……です」

 

「本当だ。俺は料理があまり出来ないからな」

 

「そんなこ……」

 

テレながらぶつぶつと言葉をこぼすツアレ。

 

「そんなことはある、本当だ」

 

ニシキの言葉に、ツアレは更に顔を真っ赤にする。

 

「あり……う、ござい、ます」

 

もはやゆでだこのようになったツアレを、可愛らしいなと思いながらも、ある疑問をぶつける。

 

「そういえば、ハンゾウとフウマにはもう慣れたか?」

 

「は、い。とても…よくしても……ます」

 

「ならよかった…。あの2人は、俺が召か…いや、俺の忠実な従者だから、安心しろ」

 

ニシキはカラッとした表情を浮かべ、ツアレに向ける。

 

それを見たツアレは大きく目を見開き、甘美に満ちたような吐息を漏らす。

 

「じゃ、俺は自室に戻る。ツアレは下がっていいぞ」

 

「あ、あの…な、何…か…お、おの…ものは…」

 

ツアレは、ニシキと離れるのが嫌だと言わんばかりに、悲痛な表情を浮かべる。

 

それを察したニシキは、その提案に乗っかりを見せる。

 

「そうだな…。では、紅茶を頂いても?」

 

「は…い。もち…んで…すッ」

 

ツアレはぎこちない一礼をニシキに示すと、さささっと厨房へと向かっていった。

 

そんなツアレの後ろ姿を見ながら、ニシキは後頭部を掻く。

 

「完全に勘違いさせてるなー、これ…」

 

 

 

ニシキはツアレと共に生活(正確には潜んでいるハンゾウとフウマもいる)することに慣れ始めたころ…。

 

そもそも、リ・エスティーゼ王国の王都に向かっていた際の主なる目的を忘れかけていた。

 

それをはっとして思いだしたのは、ツアレと出会って1か月が経った頃であった。

 

ツアレは、まだまだ心の傷が完全に癒えた様子ではないが、ぼそぼそと詰まりを見せていた言葉は、聞き取りにくさは残るものの、きちんとつながった言葉として発せられるようにまで回復していた。

 

そんなツアレに、ニシキがあることを伝えると、ツアレはこの世の終わりのような表情を見せた。

 

「行かないで…ください…」

 

ツアレはニシキの腕のすそを掴み、ギュッと握りしめる。

 

「大丈夫だ、ツアレ。夜までに戻るから」

 

「でも、ここからエ・ランテルまで、遠いですよ…。夜に戻るなんて…無理…です」

 

ツアレの発言は最もであろう。

 

聖王国のカリンシャから王国の端である、しかも帝国側の端であるエ・ランテルまでは、早くても2週間はかかる。

 

それを往復ともなれば、最低1か月である。

 

それを今のツアレが、ニシキに只ならぬ想いを抱いているツアレが、容認できようはずもなかった。

 

「それならば心配ない。時空間忍術があるからな」

 

「ジクウカン…ニンジュツ?」

 

ツアレは頭に沢山のハテナを作り、首を傾げる。

 

忍術なるものは知っている。

 

というよりも、ニシキ様について、ハンゾウさんに質問した際に教えてくれた。

 

ニシキ様は忍者という職業で、その中でも隠密と攻撃に特化しているらしい。

 

忍術とは、その忍者が扱う、魔法に似た力らしい。

 

私を救ってくれた時も、きっとその忍術を使ってくれたのだろう。

 

「あー、ツアレは転移の魔法は知ってるか?」

 

「はい…一瞬で移動できる魔法ですよね?」

 

「時空間忍術ってのは、その転移の魔法みたいなものだ」

 

「だから、夜には帰ってこられる…」

 

ツアレは話が飲み込めた様子で、些少の安心が表情に浮かぶ。

 

「そういうこと。まあ、一度その場所に行かないと、時空間忍術は使えないんだがな…。だから、今日はリ・エスティーゼの王都まで飛んで、そこから歩いてエ・ランテルに、到着したら時空間忍術でここに戻ってくるんだ。どうだ?少しは信用できるか?」

 

「とても、便利ですね…。無理だなんて言って、申し訳ありません」

 

ツアレは、ペコリと頭を下げる。

 

それは洗礼されたものではなかったが、どこか儚さを覚えるような動作であった。

 

「いや、俺もあんまり自分のことを話してなかったからな…。ツアレが不安になるのも仕方がない…」

 

「いえ…そんなことは…」

 

ツアレは否定して見せるが、その顔にはやはり不安が見え隠れしている。

 

ニシキはそんなツアレの顔を見て、そっと頭に手を置いた。

 

ニシキの手の温もりを感じたツアレは、ビクッと身体を震わせた後、上目遣いのその目線をニシキに向ける。

 

「心配するな。ちゃんと帰ってくる。約束だ」

 

ニカッとした屈託のない笑顔をツアレに向ける。

 

ツアレはもう何度目かわからない顔の赤みを感じ、自然と上がってしまう口角を抑えることもなく口を開く。

 

「はい、約束です。いってらっしゃいませ…」

 

「ああ、いってくる」

 

そう言い残し、ニシキは一気に掻き消える。

 

これが時空間忍術なのだろう。

 

本当に消えてしまったかのような様相であった。

 

頭からニシキの手の温もりが消えたことで、一瞬不安がツアレの心を支配する。

 

それを察してか、控えていたハンゾウが失礼とばかりに口を開く。

 

「ツアレさん、我が主が戻るとお約束をしてくださったのです。戻らないなどということは、絶対にございません」

 

「ハンゾウさん…。そう、ですね」

 

ツアレは自分に言い聞かせるようにして、何度か頷いて見せると、メイドとしての仕事に取り掛かった。

 

そんなツアレの様子を見て、ハンゾウは安堵したように先ほどと同じように身を隠し、ツアレの警護にあたった。

 

 

 

ニシキはツアレに説明した通り、リ・エスティーゼ王国の王都近くに時空間忍術『飛雷神の術』をもってして移動する。

 

そしてそのまま、エ・ランテルへ向けて歩を進めた。

 

転移直後の失敗から、ニシキは方角と行く先をよく確認しながら向かう。

 

そうしてエ・ランテルに向かっていたニシキであったが、いつぞやかに感じた違和感と同じものを感じたのは、日が落ちてすぐのことであった。

 

暫くは同じくエ・ランテルに向かっているのかとも思ったが、こちらの歩調に合わせ、一定の距離を保っているのを感知し、それが何であるかを確信する。

 

「はぁ…。さすがにケラルトさんの手の者ではなさそうだな…」

 

カリンシャから王都まで飛雷神の術で移動したことを考えると、その線はゼロだ。

 

となると、新手かはたまた盗賊か…。

 

そんな風に確信付け、歩みを止める。

 

「…隠れていないで出てきたらどうだ?」

 

感情のこもっていない声であったが、静寂に包まれたここでは酷く鮮明に響いている。

 

「あっちゃー、みつかっちゃったかー」

 

物陰から、金髪に濃い紫色のローブを纏った女が出てくる。

 

歳の頃は20代前半であろうか。

 

見るからに怪しそうな女は、ニタニタとした表情を浮かべ、ニシキを見つめている。

 

「何か用か?」

 

「用ってほどでもないんだけどさーあー…その防具、たっかそうだねぇー…」

 

ニシキは一つため息をついて見せる。

 

「なるほど、夜盗か…」

 

「ん~、まあ、似たようなものかな~」

 

「そうか…。なら、大人しく捕まる気はあるか?」

 

「はぁ?てめぇ…舐めてんのか?誰に向かって口きいてんだ??くそ野郎が…っ!!」

 

「…なるほど、サイコパスってやつか…。まあ、その胸当てのプレートを見れば一目瞭然か…」

 

ニシキの言葉に、女の顔に皺が寄るのが見える。相当お怒りのご様子であった。

 

「……はなっから殺すつもりだったけどよ~…。散々痛めつけてから殺すにけってーいっ!!」

 

「はぁ…まあ、こういうバカには実力で潰すに限るか…それに俺のことを知らないみたいだしな…」

 

「ああ?ばっかだなー!『黒金のニシキ』だろ?」

 

「へえ、知ってて喧嘩吹っかけてきたのか…?」

 

「あったりまえじゃーん。あたしにかかればぁ~、アダマンタイト級冒険者だって、敵じゃねーっつーのッ!」

 

女はそう笑いながらも、ニシキの動きをしっかりと捉えていた。

 

「(あの防具を破壊するのは難しい…でも、目元にスッといってドスッだ…それで終わり…)」

 

ニシキは一呼吸おいてから、再度女へと目線を向ける。

 

女はそれと同時に、辺りの空気が重くなるような印象を受けた。

 

ニシキの目元を見る。

 

自身の身体を貫く様な視線であった…。

 

何かが漏れ出しているような、その眼光…。

 

危険だ…。

 

この目の前の男は、自身が考えているよりも危険だ…。

 

そう感じて、身体を動かそうとした瞬間…。

 

圧倒的なまでの力が、ニシキから爆発したかのように溢れ出る。

 

「ひっ…あっ…あああ…」

 

女は、自身の口から出た呻き声が、何を意味しているのかを認知してしまう。

 

「どうした?構えを崩していいのか?」

 

溢れ出ている力が収まることはない。

 

黒い力とでもいおうか…。その力をまともに喰らえば、死ぬどころか身体ごと砂のように消滅しかねない。

 

ニシキは、一歩、女へと歩みを進める。

 

「ひっ…ひっ…く、くるな……。な、なんなんだ…お、まえは…!」

 

女は尻もちをついて震えだす。身体が言うことを聞かない。

 

「(ありえない、ありえない…こんな力…あっていいわけがない…)」

 

また一歩、ニシキが近づく。

 

「なるほど、座って仕掛ける攻撃か?…ほら、どうした?見せてみろ…」

 

ニシキは更に力を解放する。…先ほどの力は全力ではなかったのだ。

 

「ぁ…あぅ…や、めて…やめてください…お、おねが…、しましゅ…」

 

女は自身の股に嫌な温かみを感じとる。

 

恐怖と絶望のあまり、失禁してしまったようだ。

 

だが、女にそれを恥ずかしく思う余裕はなかった。

 

「その言葉、お前の胸当てにある冒険者プレートの数だけ…お前が聞いてきたんじゃないのか?」

 

ニシキは女の胸当てを見る。

 

豊満な胸を覆うようにしてできた、ビキニアーマーを思わせるその胸当てには、無数の冒険者プレートが見て取れた。

 

おそらくは、初心者狩りともいえる冒険者狩りでもしていたのだろう。

 

「ご、ごめんなしゃい…ご、ごめん…な…さい…」

 

「謝る相手は…俺じゃないだろ?…そいつらに、直接謝らないとなぁ??」

 

一歩一歩近づいていたニシキであったが、次第に距離は近づき、遂には後1mにまで迫っていた。

 

「確かに雑魚狩りをするプレイヤーってのはいたが…お前ほど悪趣味な奴はいなかったよ…」

 

…一瞬、女が小さく目を見開いて見せた。

 

ニシキはそこで動きを止め、女をよく観察する。

 

涙をボロボロと流し、恐怖も相まって顔はぐちゃぐちゃになっていた。

 

つんっとした刺激臭に近い臭いも立ち込めている。

 

小さくため息を漏らす。

 

と同時に、ふっと解放していた力も抑え込む。

 

「まだ、やるか?」

 

「か、神様!!プレイヤー様!!申し訳ございませんでした!!」

 

女は土下座をして叫び散らす。

 

ニシキは女に皮肉をぶつけようとしたが、思わぬ発言に目を見開く。

 

「はぁ?神様?プレイヤー様?何言ってんだ、お前は…」

 

「プ、プレイヤー様ですよね?あ、あたし知ってます、プレイヤーのこと!!だ、だから…」

 

ニシキはここで初めて事の重要性に気付く。

 

『プレイヤー』という言葉は、ユグドラシルを知るモノか、リアルにいる人間しか知らないはずだ。

 

神様というのはよくわからないが、次第に目の前の女に興味を抱く。

 

「なんだと…?お前…名前は…?」

 

「ク、クレマンティーヌと申します!!スレイン法国で、漆黒聖典という部隊にいました!!な、何でも話します!だ、だから…殺さないで…ください…っ!!」

 

ニシキは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「わかった…お前の知っていること全部話せ…」

 

 

 

「なるほどな…。過去にもプレイヤーが存在していたのか…」

 

クレマンティーヌと名乗る相手から得られた情報は、とても有益な者であった。

 

ここから南下したところにある国、スレイン法国は、過去に『六大神』というプレイヤーが作り上げた国であった。色々あって、人間以外の異種族に対して差別的であるらしく、人間至上主義を掲げているらしい。

 

しかもこの世界には、六大神や自分のように、多少の時差はあれど、100年周期でプレイヤーが降臨するらしい

 

その例にもれず、500年前には『八欲王』と呼ばれるプレイヤーに六大神の一人、闇の神スルシャーナが滅ぼされた。

 

そして、200年前に魔神と化した六大神のNPC(従属神)を、十三英雄と呼ばれるものが倒したのだとか。

 

他にも細かい情報があったが、これらの情報は非常に有益なものであった。

 

「は、はい…。神さ…ニシキ様と同じように、過去にはおりました…」

 

クレマンティーヌは最初に比べれは怯えはなくなっていたが、まだニシキに対しての恐怖心が心を支配していた。

 

それも当然と言えば当然である。あれだけの力を目にしたのだ。

 

加えて、祖国が神と崇めているプレイヤーであったのだ。

 

神に対しての不敬、極刑に値する。

 

それを、一時的とは言え、許されているのだ。

 

恐怖が拭えるわけはない。

 

「そうか…。わかった…。ありがとうな、それじゃ」

 

ニシキはどっこらせっと腰を上げると、クレマンティーヌに背中から手を振って別れを済ませる。

 

「え…えぇ…」

 

ニシキの言葉に、クレマンティーヌは酷く困惑して見せる。

 

「…とても有益な情報だった。だから、見逃してやるよ…」

 

「ほ、ほんとうに…」

 

ニシキは兜を掻きむしりながら、面倒だと言わんばかりに口を開く。

 

「ああ…ただし、俺はいつでもお前を見張っている…」

 

はったりである。しかし、クレマンティーヌからはひぃ…という声が漏れる。

 

「冒険者狩りも、悪事もなしだ…。ズーラーノーンだっけか?それも脱退しろ…いいな?」

 

「は、はい!承知いたしました!」

 

ニシキは大きくため息をつくと、踵を返して歩み始めた。

 

土下座をしたままのクレマンティーヌであったが、ニシキの気配が消えたのを感じると、大きく安堵の息を漏らす。

 

「た、助かった…」

 

1時間前の自分を半殺しにしてやりたかった。

 

「あれが…プレイヤー、神様か…」

 

クレマンティーヌは、ニシキが向かったであろう方向を見ながら、ははっと乾いた笑いを発する。

 

「なーんか、もうどうでもよくなっちゃった…」

 

自分が国を捨てた理由も、これから行おうとしていたことも、全てがちっぽけに思えてしまった。

 

そうして、クレマンティーヌは夜の草原にバタンッと背中から倒れこんだ。

 

 

道中でサイコパスに遭遇するという、特殊イベントをこなしたニシキであったが、そのイベントクリアに伴う報酬は破格とも言えた。

 

なぜ自分がこの世界にいるのかの、一縷の原因をしることができたからだ。

 

しかし、些少の絶望はあった。

 

「100年周期か…となると、もう会えないのかもな…」

 

ハーフゴーレムならばいざ知らず、今やというか本来は人間であるのだが、ユグドラシル自体からすると、人間になってしまったニシキにとって、100年は長すぎた。

 

きっと、いや確実におっちんでいることだろう。

 

しかし、諦めきれないのもまた事実であった。

 

「まあ、100年単位で一斉に転移してくるって確証はないみたいだしな…可能性はまだある」

 

だが、先ほどエ・ランテルの冒険者ギルドを訪れた際には、とりあえず最初の出鼻はくじかれていた。

 

王都と同じように受付からのギルド長という流れで、仲間を探している旨を伝えたが、やはりそれらの名を知っている者はいなかった。

 

「はぁ…」

 

大きくため息をつく。

 

ちなみに、拠点移籍はしっかりと断った。

 

そもそも、ツアレを抱えている今は、以前のようにそう易々と居住を変えることはできなかった。

 

加えて、聖王国のアダマンタイト級冒険者である。

 

何処かに移動しようものなら、聖王女が、聖騎士団長が、神官団長が、兵士長が光の如く追いかけて連れ戻されるのがオチである。

 

まあ、実際にそうなったとしても、捕まる気はさらさらないが…。

 

エ・ランテル近郊に飛雷神のマーキングを済ませ、ニシキは大きく伸びをした後、ツアレとの約束を守るため、カリンシャの屋敷へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 




※現在の弐式炎雷のレベル

・Lv80

※新しく得た忍術

・写輪眼Lv1 ・形態忍術Lv1 ・時空間忍術Lv1 ・火遁忍術Lv2
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