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ヘロヘロが意識を取り戻した2日後…。
アインズとニシキが冒険者として活動していると知ったヘロヘロが、『自分もやりたい』と言い出す。
しかし、昏睡状態から目覚めたヘロヘロに、『いいですね』などとは言えなかったアインズとニシキは、これを全面的に拒否する。
加えて、守護者も総意で反対だったため、ヘロヘロはわかりやすいくらい落ち込んでしまった。
そんなヘロヘロを見たアインズは、『暫くの休養の後に許可』という妥協案を出し、実際に暫く昏睡状態だったヘロヘロも、自身の境遇を理解し、承諾したのだった。
さて、ヘロヘロに冒険者として活動することを拒絶したくせに、アインズは、モモンとしてルプーを伴って活動拠点であるエ・ランテルの街に繰り出していた。
既に漆黒の英雄、そして先のヤルダバオト騒動で双黒の大英雄の片割れという称賛を得ていたモモンが街を歩けば、エ・ランテルが色めきだつのは必須である。
ニシキが、『聖王国に黒金あり』と言われているのと同じように、モモンも、『王国に漆黒あり』と言われている。
そんな国を代表するかのような英雄のホームとなっているエ・ランテルでは、もはやモモンは街の代名詞となっていた。
そんなモモンの今日の予定は、実のところは特にない。
冒険者ギルドに顔を出し、冒険者たちと親睦を深めるか、くらいに思っていたのだ。
そんな風にして冒険者ギルドに顔を出すと、やはりモモンを見た冒険者や受付が騒めき始める。
掲示板でも覗くかな…と思っていたモモンは、ある顔なじみの冒険者チームを見つける。
「ニニャさん」
その言葉に、一人の可愛らしい顔をした男性が振り向く。
そして、一気に表情に花が咲く。
「モ、モモンさん!」
漆黒の剣…いや、黒の剣を名乗る金級冒険者チームの一人であった。
周りにいたチームメンバーも、その声でモモンに気付き、寄ってくる。
周りの冒険者から、非常に羨ましそうに見られているが、彼らとモモンがなぜ親しいのかを知っている者達は、良くも悪くも温かい目で見守っている。
「皆さんも、お久しぶりです。アンデッド騒動以来ですかね?」
「そうですね。本当にあの時はお世話になりました。モモンさんとルプーさんが居なければ、今頃エ・ランテルはアンデッドの街と化していたことでしょう」
黒の剣のリーダーであるぺテルは、些少の緊張した面持ちをもってして、しかしはきはきと答える。
「いえいえ、私が前線で戦えたのは、皆さんを含めた他の冒険者や兵士の方々が、住民を守ってくれたからこそですよ。遅くなりましたが、お礼を言わせてください。ありがとうございました」
モモンは深々と頭を下げる。
少し遅れて、ルプーも頭を下げる。
それを見た黒の剣のメンバーや、冒険者ギルドにいる人たちは、思わず目を見開いて、あんぐりを口を開く。
大英雄と称されるほどの実力を持った男が、自分たちなぞよりもはるかに下である冒険者に、お礼をいい、頭を下げるなど、ありえないことであった。
しかし、そのありえない行動が、感動と感銘を与える。
なんなら、目に涙を浮かべている人もいるくらいであった。
「や、やめてください、モモンさん!あなたが居なければ、エ・ランテルが甚大な被害を受けたのは事実なんですから」
「仮にそうだとしても、皆さんがいたからこそ、住民に一切の被害が出なかったのも事実ではありませんか?」
「そ、それは…」
モモンの言葉に、ニニャは思わず口を閉ざしてします。
「やはり、モモン殿は大きいのである」
「ああ、嫉妬しちまうくらいにな…」
ダインとぺテルは、感動に身体を震わせながら呟く。
「くぅ~!やっぱモモンさんはすげえや!あ、もちろん、ルプーちゃんもだよ~?それに、一層可愛くなったんじゃない?」
ルクルットもそこに乗っかりを見せるが、余計な一言が全てを台無しにする。
「ル、ルクルット様…そんな、は、恥ずかしいですわ…///」
しかし、ルプーはやはり名女優で、ルクルットのセクハラともとれる発言に、顔を赤らめて酷く劣情を誘う言い回しをして見せる。
それを見た黒の剣のメンバーは、思わず生唾を飲み込む。
黄金の姫と謳われる美貌を持つラナー王女に勝るとも劣らない美貌を持つルプーが、そんな風にして見せれば、それも仕方がないと言える。
「ルプーちゃん!!やっぱり、俺と結婚してくれ!!」
「うぅ…どうか、そのようにいじめないでくださいませ…」
ルクルットの渾身の告白に、ルプーは目をウルウルとさせて懇願する。
「あでっ!!」
そして、ルクルットの頭に特大の拳骨が振り下ろされる。
「いい加減にするのである。今やルプー殿は漆黒の英雄の片割れ。そのような下賎な行為は、身を滅ぼすのである」
「全くだ…あんまり酷いと、チームから外すからな」
「そ、そんな~!」
ダインとルクルットの怒りが籠った言葉に、ルクルットはガックシと言った様子で首を降ろす。
そんな様子を見て、ニニャははははっと苦笑いをするのであった。
「おはようございます、ヘロヘロ様」
「おはよう、ソリュシャン」
ソリュシャンがリアルに動いている。
ヘロヘロが、相当な時間を要して作ったこのNPCは、弐式炎雷がナーベラルを作った時と同様に、自身の好みである女性像を模したのだった。
何度見てもいいものだ。
それに加えて、一般メイドのシクススの姿もある。
眼福ここに極まれり、である。
さて、ヘロヘロがこのナザリックで過ごす上で、行うことは…特にない。
ナザリック地下大墳墓での生活。
それは、社畜として生き、狭い1Kのマンションの一室で一人寂しく暮らしていたヘロヘロにとって、ここは天国でもあると同時に、カルチャーショックにも似た衝撃を齎していた。
なにせ、椅子に座ろう(乗ろう)と自分で椅子を引いただけで、『御身に椅子を退かせてしまうなど、メイド失格!この失態を払拭できる機会を頂けるなら、これに勝る喜びはありません!』と言われる始末である。
食事も睡眠も、身支度も何もかもが、ヘロヘロがそれを準備する必要がないのだ。
「あの、ソリュシャン?」
「はいッ。ヘロヘロ様!」
ソリュシャンの期待に満ちた視線が、ヘロヘロに刺さる。
今迄の人生で、こんな美女にこれだけの眼差しを向けられたことがあっただろうか…。
金髪縦ロールの巨乳美女…。
ヘロヘロの癖がつまりに詰まった彼女が、酷く眩しく感じる。
「あの…あれからずっと私の傍にいるけれど…疲れてない?」
「疲れてなどおりませんわ!こうしてヘロヘロ様の傍におられるんですもの!むしろ至上の幸福を味わっております!」
少し離れた場所で、シクススがブンブンと顔を縦に振る。
「そ、そっか…。でも、辛くなったら言ってね。ずっと私のお世話をしなくても大丈夫だから…」
ヘロヘロの言葉に、ソリュシャンは酷く狼狽して見せた。
「そ、そんな⁉私が居ては、ヘロヘロ様にご迷惑でしょうか?」
「え⁉いやいや、そういうわけじゃないんだよ…。ただ、君のことが心配なだけだよ」
「ヘロヘロ様…。であればこそ、ご一緒させてくださいませ…。私も、一般メイドも、創造主であるヘロヘロ様に仕えることこそ、最大の喜びにございます」
「そ、そっか…とても嬉しいよ、ソリュシャン」
ソリュシャンとシクススは、満面の笑みを浮かべている。
しかし、ヘロヘロはというと、非常に困惑の感情を抱いていた。
「(モモン…いや、アインズさんも弐式さんも、NPCは創造主の性格や思考に似る傾向が見られるって言っていたけど…まさか俺の社畜魂が移ってしまっているのか…?)」
ヘロヘロは、とんでもない美貌を持つソリュシャンと、それには劣るが、美女と言って差し支えないシクススを見て、うーんと考え込む。
「…?どうかされましたか?ヘロヘロ様…」
「ん?ああ、いや…別に何でもないよ」
しかし、ソリュシャンはどこか不安そうであった。
…何かしたかな?と思ったヘロヘロであったが、その不安そうな顔が、昔実家で買っていた犬の表情に似ていることを思い出す。
無意識にそっと手(触手)を伸ばし、ソリュシャンの頭に乗せる。
「ッ!ヘ、へロへロ様ッ!」
頭に乗せた手を左右に揺らすと、金色の糸に似た、美しくも滑らかな髪の感触が伝わってくる。
ソリュシャンは、顔を真っ赤にし、目をウルウルとさせている。
見ているだけのシクススも、はわわっと言った様子で顔を赤らめていた。
そこで、ヘロヘロははっと我に返り、手をどける。
これではセクハラではないか…そう思ったのだ。
「ごめんね、つい…。嫌だったよね?」
「とんでもございません!むしろ、ご褒美です!」
しかし、ヘロヘロの心配は杞憂であったことが、一瞬で証明される。
「そ、そう?それならよかった…」
「はいっ!」
ソリュシャンを創造したとき、ヘロヘロは目に輝きのない、混濁した目を設定したと記憶している。
しかし、混濁した目はその陰すらもなく、まるで煌びやかなお嬢様の如く、瞳が輝いている。
それを少し不思議に思っていたが、先の社畜魂の片鱗を見せていたソリュシャンの発言を思い出す。
そして、何やら天啓のようなものがヘロヘロの頭の中に走る。
「(散々ブラックキギョウで社畜として苦しんできたこの俺が、ソリュシャンや一般メイドたちを社畜にするなんて、そんなこと許されないよな…)」
十分な睡眠時間も、食事の時間も、休みすらなかった地獄のような日々を思い出す。
「(よし!俺が彼女たちにホワイトな職場を提供しよう!きっと転移してきたのが、ホワイトブリムさんやク・ドゥ・グラースさんだったとしても、そうするはずだ!)」
ヘロヘロのこの決意は、そう遠くない未来に、一般メイドを中心に、誤解と阿鼻叫喚を生む結果となってしまうのであった。
エ・ランテルの冒険者ギルドで、久々にニニャたちと再会したモモンとルプー。
その後、ギルド長からの指名依頼を受けたが、それが怪我の治療だったこともあり、ルプーに任せることになった。
結果、手持無沙汰になったモモンは、ニニャたちを昼食に誘った。
「そういえば、モモンさんが食事をしているのを見るの、意外に初めてですね」
「あー、確かにそうだな…」
ぺテルとルクルットが、気付いたように口を開く。
「今日は殺生をしていないということですか?」
「あー、それは…ですね…」
ニニャの発言に、モモンは当時苦し紛れについた『命を奪った日は、一人で食事をとる』という謎の宗教の教えがあると嘘をついたのを思い出す。
当時はまだ、弐式とも再会を果たしておらず、故に人化の指輪も貰っていなかったため、飲食ができなかったのである。
「実はあの教えは、再会した仲間に諭されて、改めることにしたんですよ」
ニニャはそれを聞くと、「そうなんですね」と、まるで疑っている様子なく頷く。
モモンは、幼気な少年を騙しているようで、些少心に痛みを伴った。
「も、もしかして、そのお仲間というのは、聖王国のアダマンタイト級冒険者である黒金のニシキさん⁉」
しかし、その痛みを味わう暇もなく、珍しくルクルットが動揺したように口を開いた。
「ええ、彼と再会できたのは幸運でした」
「お仲間との再会、心から祝福するのである」
モモンの嬉しそうな口調に、ダインは仏のような声色で答える。
「このエ・ランテルの地でも、彼を知らぬものはいないでしょう…。モモンさんと並んで、黒金の英雄と称されているのですから」
「それに、先の王都での一件で、モモンさんと共に双黒の大英雄っていわれるもんなー。憧れるぜー!」
ぺテルとルクルットが、興奮した様子を見せる。
「モモンさん、ニシキさんはどんな方なんですか?」
「そうですね…。彼は、弱き者のために戦うような優しい人ですよ…。半年以上前の話ですが、彼は王国で奴隷として違法娼館で働かされていた女性を助けたそうです」
「ほほう…それはとても素晴らしいお話なのである」
モモンは、ニシキの性格と彼から聞いたこの世界での行動を思い起こす。
「相当な苦労をされた女性だったらしいのですが、今は彼の下でメイドとして幸せに暮らしていました。…名前は確か…ツアレ…だったかな…?」
モモンの発言で、場が一気に凍り付く。
え?と言った感情を抱いたモモンは、自分の発言が何か不快にさせる部分があったかもしれないと、即座に頭をフル回転させて思いだしていたが、ニニャの震えるような声に、それを止める。
「い、今…ツアレって…ツアレって言いましたか⁉も、もしかして、金髪で、青い瞳の女性ではなかったですか⁉」
「ええ。確かに…青い目に金髪…でしたね…。何かお心当たりが?」
モモンは、じっとニニャの顔を眺める。
そして、些少の気づきを得る。
『似ているな…あの女性に…』と。
そして、それはものの見事に的中する。
「あ、姉です!ツアレは、探していた私の姉です!!」
「え、ええ⁉ツアレさんが、ニニャさんのお姉さん⁉」
モモンは、人化の指輪をしていても消えない精神の抑制、それがしっかりと発動しているのにも拘らず、酷く驚いた声を上げた。
「ま、マジかよ⁉こんなことってあるのか⁉」
「これって…運命ってやつなのか⁉」
「ぐ、偶然とは思えないのである…」
ぺテル、ルクルット、ダインは、ニニャがなぜ冒険者として活動しているのかを知っていたため、こちらもこちらで非常に驚いた様相であった。
モモンは、ようやく精神抑制が自身の感情の起伏を勝り、冷静さを取り戻していたが、「まさか…そんなことが…」とブツブツと呟く。
そんな様相のモモンに、ニニャは意を決して口を開いた。
「モモンさん!私、どんなことでもします!ですから、私にニシキさんを紹介していただけないでしょうか⁉私は、攫われた姉を救うために、冒険者になったのです!」
ニニャの瞳には、非常に真剣な、それでいて燃えるような執念の炎が見えた気がした。
モモンは、そのニニャの視線に応える形で、詳しく話を聞き、ニシキを紹介する約束をした。
ローブル聖王国、首都ホバンスの宮殿。
カルカは、ケラルト、レメディオス、そして分身ニシキと共に、執務室にて、とある4通の手紙に目を通し、考え込むようにして会話していた。
「王国からは感謝状と手紙、法国と竜王国からは親書が、帝国からは親書と贈り物が、ニシキ様宛に届いております…」
「え、えぇ…」
カルカが神妙な面持ちで口にしたそれは、ニシキを困惑させるには十分なものであった。
以前より、他国の貴族や南部聖王国の貴族宛の手紙などは、ケラルトの元へ渡ると、大体が暖炉の燃料として使われていた。
しかし、ことこのタイミングで複数の他国から届いたそれは、送り主が国単位であったり、内容が精査の必要なものばかりであったため、前述のような対応が取れず、カルカの元へと渡り、ニシキの耳に入る結果となった。
「王国の感謝状については、特に問題はありませんわ。ヤルダバオト撃退に伴った、国王直々のただの感謝状です。しかしこの手紙、ラナー王女からの手紙というのが良くないですね…」
「恋文……」
ケラルトの説明により、カルカは怪訝な表情を隠すこともなく、じとっとした目を浮かべる。
「ラナー王女めッ!ニシキ殿を奪うつもりかっ!ニシキ殿はカルカ様のものだろう!!」
「ちょ、ちょっと…レメディオス…///」
レメディオスの激高に、カルカは真っ赤に顔を染め上げる。
しかし同時に、不安も残る。
カルカがローブルの至宝と言われているのと同じように、ラナーは黄金の姫と言われている。
両者とも同じように、この世の最上級の美しさを持っているということである。
しかし、カルカにはどうしてもラナーに勝てない部分があった。
頭脳ではない…。もちろん頭脳は完敗ではあるのだが、それはカルカからすればさして問題ではないし、何よりもカルカはそのことを知らない。
…それは年齢である。カルカは23歳、ラナーは…16歳なのだ。
どちらが女性として優位かと言えば、それはまさしくラナーである。
故に、カルカは只ならぬ動揺と焦りを感じているのだ。
「ま、まあ、私がカルカ様のものかどうかは置いておいても、ラナー王女と恋仲になろうとは思いませんね…」
だが、カルカの動揺と焦りは、些少の落ち着きを見せる。
「それは…信じてもよろしいのでしょうか?」
ラナーは黄金の姫と呼ばれる所以は、その美しさだけではない。
民を慈しみ、大事にしているという点も含まれる。
それはカルカも同じであるが、それ故に不安なのだ。
カルカが抱くニシキの人柄を考えると、タイプの女性なのではないかという不安が…。
「まあ、美しい人だとは思いますが、何か内にドス黒いものを秘めてそうで、できるならあまり関わりたくないですねー」
半分本当で、半分嘘である。
本当の部分は、関わりたくないという点である。
彼女は、デミウルゴスをもってして、『自身と同等の頭脳を有する』と言わしめているのだ。
そんな人物と関りが深くなれば、何をされるか分かったものではない。
嘘の部分は、ドス黒いものを秘めているという部分である。
実際、それは正解なのであるが、ニシキはそれには気付いていない。
「そ、そうなのですか?んー、あまりそのような印象はありませんが…」
「いや!ニシキ殿が言うのであれば、そうなのだろう。ラナー王女は危険だ!」
カルカは、一度だけラナーと会ったことがある。
まさしく噂通りの美しく、清廉な王女であった。
腹のうちに何かどす黒いものを秘めているような様子はなく、故にニシキの抱いた印象に疑問を抱く。
しかし、ニシキを奪われてしまうかもしれないという不安が、レメディオスの発言を真っ向から否定しないという結果を生む。
「話を戻しましょう。法国の『ニシキ殿にお目通り願いたい』という親書と、竜王国の『ビーストマン討伐の協力願い』は、宮廷会議で議論を要する必要はありますが、特に問題はないと思われます。まあ、ニシキ殿の意思にもよりますが…」
ケラルトは、些少の不安を抱きつつ、ニシキに視線を向ける。
出来ることなら、ニシキを聖王国から、それこそ北部聖王国から、もっと言えば、首都ホバンスで、さらに言えば宮殿にて常に一緒に行動を共にしたいとまで考えている。
法国のお目通りは、ここで行うように交渉を運べば済む話である。
しかし、竜王国の件に関しては、そうもいかない。
竜王国は、聖王国に似た境遇を抱く国である。
ビーストマンの侵攻に、日々悩まされているというのは、有名な話だ。
仮にこの依頼、嘆願にも似たものを引き受けたとすれば、少なくとも本体であるニシキは、暫く聖王国を離れることになる。
それこそ、『数が多くてちょっと苦戦してるので、影分身解除しますね』とも言われかねない。
さらに言うならば、竜王国の元首は女王…。つまるところ、女性なのである。
カルカやケラルトが、ニシキに抱くものと同じ感情を持ってもおかしくはない。
それをもってして、ニシキが竜王国に轡替え…という可能性もゼロではないのだ。
「私としては、必要とされているのであれば、馳せ参じる思いですが…、まあ、その辺はカルカ様にお任せします」
「わ、私に、ですか?」
カルカは、自分に選択権が回ってくるとは思っておらず、思わず狼狽する。
「はい、今の私は、聖王国のニシキなので。カルカ様の言に従う所存です」
「そ、それは非常にありがたいお言葉ではございますが…」
「別に、他国支援という形でニシキが行くのであれば、問題はないのではないか?」
頭の回らないレメディオスは、その裏にある危険性を何一つ理解していない様子であった。
「…どちらにしても、ここで結論を出すことはできません…。その2か国について議論するよりも、問題は帝国からの親書です。…贈り物と一緒に送ってくるあたり…やはりあの鮮血帝は頭が回りますね…」
「そうね…。贈り物は、我々がその親書をニシキ様の目に入る前に排する…という手段を完全に封じ込めるための策でしょう。それも有用なマジックアイテムともなれば、それは確実でしょうね」
「ん…?どういうことだ?」
ケラルトとカルカの怪訝な表情に、一切意味の分からないレメディオスが口を挟む。
「例えば、私がどこかでその鮮血帝とやらに会った時、『送ったアイテムは役に立っているか?』と尋ねられて、『何のことでしょう』となると、聖王国側でもみ消したことがわかってしまう…。それを私が知れば、聖王国に不信感を抱く…ということだと思いますよ」
「な、なんだそれは⁉鮮血帝め!なんと姑息な…」
ニシキの説明に、レメディオスはまたも憤慨して見せる。
「…ニシキ様はやはり頭が回りますね…」
「それ、国を裏から支えているあなたに言われても、皮肉にしか聞こえませんよ」
「あら、何のことでしょう?」
ニシキの呆れ顔に、ケラルトはうっふっふと不敵な笑みを浮かべる。
「しかし、その危険性に気付き、こうして我々がニシキ様に隠さずお渡しをしても、『皇帝は有用なアイテムを贈ってくれるほどに認めてくれている』という印象を与えることができます…。」
「その通りです。どっちに転んでも、帝国には利益しかないということ…ちっ!」
カルカが補足とばかりに言ったセリフは、ケラルト再度苛立ちを抱かせる。
「帝国の皇帝か…用心しておいて損はなさそうですね…」
「そうだな!ニシキ殿!!しっかりと用心してくれ!!」
レメディオスは、ニシキの発言に激しく同意しながら、肩をバンバンと叩く。
しかし、カルカとケラルトは、ニシキに対して一抹の不安を覚えていた。
「ニシキ様…ご確認なのですが、聖王国を離れる意思はないと考えていいのですよね?」
「…?どういうことでしょうか?」
ニシキは話が見えず、本心からの疑問を投げかける。
「帝国は、聖王国と比べれば、大国です。私があなたの立場であれば、帝国に行くことも考えるでしょう…。だから、とても、不安なのです…」
聖王国が帝国に勝るものは、殆ど、いや皆無というべきレベルでなかった。
帝国は聖王国よりも広い領土を持ち、人口は2倍を超え、昨今では皇帝の改革でさらに住みやすい国となっている。
そして、その優しさが仇となり、強い政策がとれないカルカと比べると、皇帝は真逆と言えるだろう。
結果だけを見れば、国家を導く指導者としては、皇帝の方が上だと言わざるを得ない。
それが、カルカとケラルトを不安にする要素の一つであった。
さらに言えば、漆黒のモモンや王国で噂になっているアインズという魔法詠唱者の存在も大きい。
2人は、ニシキにとって、旧友の仲なのである。
「その、お仲間と一緒に居たいという気持ちはないのですか?…少なくとも、帝国にいれば、モモンさんがいるエ・ランテルまでは、聖王国に比べ、近いですよね?」
「んー、その気持ちがないと言えば嘘になりますが…」
「むっ!ならば、モモンにも、聖王国に来てもらうのはどうだ?」
レメディオスの発言には、一理ある。
しかし、それは非常に難しいことであると理解できぬほど、カルカとケラルトはバカではない。
逆に言えば、聖王国が王国にニシキを渡せるのか?という意味合いにもなる。
答えはもちろん、NOである。
国としての風習や柵は違えど、もしそうなる傾向があれば、国家を上げて阻止するであろう。
少なくとも、聖王国はそう行動する。
なんなら、今まさにしている最中なのだ。
「私には、飛雷神の術がありますから…。それに、仲間と言えど、常に一緒に居たいという感情は湧きません。皆さんも、家族や仲間だからと言って、24時間毎日一緒に行動を共にしたいと思わないでしょう?」
「そ、それはそうですが…」
ニシキの発言は、尤もであった。
カルカも、兄であるカスポンドや、親友とも言えるレメディオス、ケラルトと常に一緒に居たいという思いはない。
会える時に会える…それくらいの距離感が丁度良いのだ。
そしてそれは、『距離』という壁があると難しさを生むのだが、ことニシキに関してはそれすら壁にならない。
故に、聖王国から離れる必要性を感じていないと思っているのだろう。
そう、カルカとケラルトは判断した。
しかし、そこには些少の齟齬があったことを知る。
ニシキが、恥ずかしさもへったくれもなく、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「それに、私は聖王国やカルカ様達が好きですからね…。少なくとも、自分の意思でこの国を離れることはありませんよ」
ニシキの発言に、レメディオスが目を輝かせ、カルカとケラルトが顔を赤らめ、俯いてしまったというのは、言うまでもないだろう。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97
※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1