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城塞都市カリンシャ、黒金の屋敷…。
ツアレは、ニシキに特別な感情を抱いている。
それは恋であり、ツアレが初めて好きになった男性である。
昼間は屋敷を空けていることが多いニシキであったが、夕方から朝に関しては、一週間のうちの半分は一緒にいることが多い。
少し前までは、影分身という忍術で、分身のニシキが常に屋敷にいる状況であったが、聖王女の護衛を任されてからは、分身体をそちらに回しているため、最近はいない。
分身体とは言え、ニシキと一緒に居られない時間があるのは残念に他ならない。
しかも、ニシキが仲間との再会を果たしてからは、ほぼずっとナーベラルという美しい女性が従者…いや、冒険者仲間としてついている。
しかしながら、その辺りは割り切って生活している。
というよりも、割り切って生活をできる程の余裕があった。
それは、この屋敷での生活が物語っている。
ニシキの忠実な僕であるハンゾウとフウマが、常に屋敷と自身を守ってくれているという安心感。
まともな仕事に、美味しい食事、十分な睡眠と休息が与えられ、これ以上にない幸せを噛みしめている。
家畜以下の扱いを受けてきたツアレにとって、屋敷での生活はまるで天国であった。
そんなツアレであるが、今日は特に機嫌がよかった。
今日は珍しく、ニシキが昼間に屋敷に滞在しているのだ。
一日中、一緒に居られることによる幸福感が、ツアレの機嫌を最高潮に押し上げていた。
しかも、いつも一緒のナーベラルが、今は1人で依頼を受けているため、屋敷にはいなかった。
失礼かもしれないが、それもツアレの機嫌が高ぶっている要因でもあった。
時刻は12時を少し回った頃である。
いつもよりも丹精込めて作った昼食が、もう少しで完成するといったところで、異変は起きた。
屋敷の二階から、ガゴンッという、何かが床に思いっきりぶつかったような音がしたのだ。
屋敷を警備しているハンゾウとフウマが、今までにそんな音を立てたことがなかったことから、それがニシキによって生み出されたものだと、ツアレは予想する。
そして、それは当たっていた様子で、ドドドドッという激しく階段を駆け下りる音が届く。
何かあったのだろうか?
ツアレは、些少の不安を抱く。
ニシキが慌てふためくときというのは、大体が戦いに赴くときである。
それも、やはり大抵がニシキが相手にしなければならないほどの、強大な敵との戦いである。
本当にあともう少しで昼食が完成するのであるが、ニシキのバタバタに、ツアレは気持ちを抑えきれず、その手を止めて厨房から出ようとする。
しかし、ツアレが出るよりも先に、ニシキが厨房に入ってきた。
「ニ、ニシキ様?」
ニシキの顔には、驚愕と焦りが見て取れた。
呼吸を荒げ、肩で呼吸をしている。
そして、ツアレの呼びかけに答えることなく、ズンズンと近づいてくる。
伸ばせば手が届く距離にまで互いが近づくと、ニシキは両の手で、バッとツアレの肩を掴んだ。
「あ、あの…ニシキ様…///」
急に近づいてきて、あまつさえ力強く肩に触れられたことで、ツアレは更に顔を赤くする。
ツアレは思った。
邪な、しかし嫌な感情を抱かない気持ちが芽生えていた。
もしかして…と…。
そう思った矢先…。
「ツアレ…。ツアレニーニャ・ベイロン…」
「…ぇ?」
ツアレの思考が、停止する。
それは、決してニシキの口から出るはずのない名前であったからだ。
「正直に答えてほしい…これが君の本名か?」
「は…い。でも、どうして…ニシキ様にはまだ…お伝えしていなかったと思うのですが…?」
ツアレは、ようやく思考を取り戻し、言葉を震わせながら答える。
「君には、生き別れた妹がいるかい?」
「…ッ!!」
これもやはり、ニシキには伝えていないことであった。
一瞬、妹の話が出たことで、昔の地獄のような記憶が蘇り、身体が震える。
しかし、敬愛するニシキからの質問とあらば、答えなければならない。
「…はいッ…います」
「ッ!な、名前はッ!!」
ニシキは、酷く狼狽している。
更に顔を近づけたニシキに、ツアレは己が心臓が鼓動を強めているのが理解できた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「セリーシア…セリーシア・ベイロンです」
「ッ!!…ま、マジかよ…」
ニシキは、たどたどしく後退して見せる。
次第に肩に乗っていた手もするりと剥がれ、その温もりが消える。
残念…とも思ったが、すぐに疑問を投げかけた。
「あの…どうして私の本名を?それに、妹のことも…」
ツアレは非常に不安であった。
なぜツアレが自分の本名も、妹のことも言わなかったのかと言えば、言えばそれを要因として、ニシキから離れなくてはならなくなるかもしれないと思ったからだ。
本名で、この人の妹を探しています。とニシキが叫べば、もしかしたら見つかるのではないかと…。
ちなみに、妹に会いたくないわけではない。
むしろ会いたい。
だが、ニシキと離れなくてならないという選択をしてまで、過去の記憶を掘り起こしてまで、会いたいという気持ちを抱くほどに、心は回復していないのである。
「実は、ツアレもあったことのあるモモンという俺の仲間が、ツアレの妹さんと知り合いだったらしい…。妹さんが探している姉がツアレだと知って、今連絡をしてきたんだ…」
「え…え…?…ほ、本当ですか?」
ニシキの言葉を聞いて、ツアレは大きく目を見開く。
「ああ、本当だ。ツアレをずっと探していて、冒険者として活動していたらしいんだ…どうだ、会いに行くかい?」
ツアレの鼻をすする音が聞こえる。
その目には涙がたくさんたまっていた。
「ニシキ様…ありがとう…ございます…本当に…」
ツアレは、ゆっくりとニシキを抱きしめる。
「ツアレ…」
そんなツアレを見て、ニシキも優しくツアレを抱きしめた。
暫くそんな風にしていたが、ツアレはゆっくりと身を離してニシキを見上げる。
「ニシキ様…妹に会いに行きたいです…」
「ああ、行こう…今すぐにでも…」「ただ…」
ニシキは、食い気味で言葉を遮られ、一瞬固まって見せる。
「ニシキ様とは離れたくありません…妹と会った後でも、私はニシキ様と一緒がいいです…」
ツアレの言葉に、ニシキは大きく目を見開いた。
そして、ふっと小さく笑う。
「ツアレが俺と一緒がいいというのなら、それで構わないよ…」
「ニ、ニシキ様ッ…!」
ニシキの優しく全てを受け入れてくれる言葉を受け、ツアレは再びニシキに身を預けた。
時は少し進み、1週間後…。
場所はバハルス帝国、帝都、アーウィンタール。
およそ10日に及ぶ、ナザリック内でのヒキニートを終えたヘロヘロは、その間体調が悪化する事態は起こらず、アインズとニシキの認可が下りたことで、ここ帝都で冒険者登録を済ませた。
もちろん、アインズやニシキと同じ、至高の41人のヘロヘロが、たった一人で冒険者として活動することはありえない。
言わずもがな、ヘロヘロの相棒は、戦闘メイドのソリュシャンである。
その名を『ソーイ』に変え、身なりも一見盗賊に見える服装だが、豊かに実った乳房の谷間と、腹部が大きく見えるその服装は、男だけでなく、女でも目を奪われるほどに艶めかしい。
加えて、容姿が絶世の美女なのだから、もはや反則である。
さて、上記のように、スライム種であるソリュシャンであるが、一見スライムには見えない。
それは人に擬態しているからであるが、ヘロヘロも同じように擬態している。
その容姿は、ソリュシャンがそのまま男に性転換したような容姿をしている。
年の頃は20台後半。金髪のツーブロックに、180cmを超える身長。加えて、セバスのような筋骨隆々としたその姿は、先の容姿と合わさり、やはりソリュシャンと同じように老若男女問わず、目を奪われる美しさであった。
身なりは、ヘロヘロにあうモンクや武闘家というよりも、どこか暴走族を思わせるような服装で、下は真っ黒な柔道着、上は真っ白のタンクトップ。その上に真っ黒な特攻服を着ている。
特攻服の背中には、周りが金色で縁取られた『黒い龍』が描かれている。
現代人が見たら、『うわー』と思うような服装であるが、ことこの世界の住人から見ると、『なんてかっこいい服装なんだ』という印象を与えていた。
つまりは、非常に珍しく素晴らしい服装である、ということである。
さて、そんな2人は、掲示板から適当なカッパーの仕事の依頼書を破りとる。
内容は、帝都から南西約20㎞ほどにある森林で、薬草を採取してくるという、まあゲームでもよくありがちな初期クエストである。
少し距離はあるが、その森林近くには『テルユ』という小さな村があり、10数名ではあるが、帝都の兵士も常駐している。
これが、カッパー級が請け負える理由にもなっている。
「私達には似合わない仕事ね…」
悪態を付く、この世のものとは思えない美女の言葉に、思わず受付の女性は目を見開く。
それは決して苛立ちによるものなどではなく、ただソーイの美貌に見惚れたことによるものであった。
「まあそういうなソーイ、俺たちはこの地では新人なのだから」
ヘロヘロが、やれやれと言った様子で口を開くと、受付の目が、うっとりとしたハートを形成する。
ヘロヘロとソーイの美しさは同じくらいのものであったが、男女の違いがある。
受付の女性の反応は当たり前で、ヘロヘロに対しては、ソーイに対して抱いた『見惚れ』に加えて、『一目惚れ』してしまったのである。
まあ、この容姿で惚れるなという方が無理があるだろう。
「しかし、お兄様。私達がこんな依頼を受けるなんて…」
「千里の道も、一歩からだ!モタモタしてないでいくぞっ!」
「あ、待ってください、お兄様ー」
ソーイはヘロヘロを兄と呼んで見せた。
これは、冒険者として活動する際に、ソリュシャンと一緒に考えた結果である。
最初は、『貴方…///』という案を提案してきたソリュシャンであったが、夫婦で冒険者はおかしくないか?というヘロヘロの反論に、些少の不安を
アインズ・ウール・ゴウンにて、各国に輩出?している冒険者チームはこれで3組目となるが、
・ニシキとナーベラルが、主人と従者
・モモンとルプーが仲間同士
・ヘロヘロとソーイが兄と妹
という構図が出来上がっていた。
さらに言えば容姿は、
モモン(中の下)<ニシキ(上の下)<ヘロヘロ(上の上)
という構図になる。
ちなみに、ナーベラル、ルプー、ソーイの容姿は、総じて上の上であることは言うまでもない。
王国と帝国に挟まれたカッチェ平野。
ここは薄霧が立ち込める、不毛の地、そして、アンデッド多発地帯である。
「まあ、こんなところか?」
「結構倒したわねー」
「100は超えてる…」
「少しは脅威が去りましたかね?」
冒険者とは違った、しかしチームを組んでいると思われる4人組の男女が疲れを見せながら会話をしていた。
「アンデッド多発地帯なだけあって、やっぱりすごい数だったわね…。アルシェは魔力はまだ大丈夫?無理はしないでね」
「あまり余裕はない…、けど、帰るだけなら問題ない」
「イミーナの言う通りだぜ?なあ、ロバー?」
「そうですね。用心に越したことはありません」
4人は、冒険者とは違う、ワーカーとしてチームを組んでいる。
名を、フォーサイトというが、冒険者チームで言えばミスリル級の実力を誇る。
他の3人は20歳前半の見た目であるが、アルシェという女性は、幼さが残る15歳の少女であった。
イミーナがアルシェを心配していたのも、そこに尽きる。
しかし、15歳という若さにして、第三位階魔法を操る天才である。
「今日中にでも帰りたいところだが、日の位置を見るとどこかで野営だな、こりゃ」
「それなら、テルユ村で一泊するか、その近くで野営してから帝都に戻りましょう」
ヘッケランの言葉に、ロバーが提案をする。
「賛成…さすがに朝まで歩く気力はない」
「そうねー。アンデッドが多すぎて、想像以上に疲れたしー」
ロバーの提案に、アルシェとイミーナも同意を示す。
「んじゃ、戻るとしますか…。少なくとも、日が落ちる前にはカッチェ平野から離れないとな…」
ヘッケランの言葉に、皆同意なのか、少し急ぎ足でこの場を去っていった
「…全部が同じ草に見える…」
森林に到着したヘロヘロは、依頼書に描かれていた絵を頼りに、薬草を探し回っているのだが、どれもただの草に見えて、一向に集まらない。
そもそも、自然というモノがなかったリアルに生きてきたヘロヘロにとっては、花ですらどれがどれだかわからないのだ。
そんな風にしてうーんと草を見回しながら頭を悩ませていると、相棒であるソーイが両手いっぱいに草をもって現れた。
「ヘロヘロ様、こちらに沢山生えていましたよ」
豊かな乳房を隠しきるほどの草、薬草を抱え、ソリュシャンが笑顔でこちらに語り掛けてくる。
冒険者として兄妹を演じているのは、あくまで演じているだけであり、人目のない場所では、ヘロヘロとソリュシャンの口調に戻るのである。
「た、助かったよソリュシャンッ!俺、どれがどれだか全く分からなくてさ~」
「お褒めに与り、光栄ですわ!」
ソリュシャンは、輝かしいまでの笑顔を見せる。
「でも、依頼だと10個程度って書いてあったけど…それって何個あるの?」
「そうですね…100を超えてからは数えていませんわ」
ヘロヘロはあんぐりと口を開けて驚く。
人化している分、表情の変化がわかりやすい。
ソリュシャンは、そんなヘロヘロを見て、更に笑顔を見せる。
「ですが、多い分には問題はないかと思います」
「確かに、それはそうだね…!それじゃあ、もう帰ろうか」
「はいっ!」
ソリュシャンは、比較的砕けた言い回しでヘロヘロと関わり合っている。
それは、ヘロヘロがソリュシャンにお願いしたことであり、結構納得させるのに時間がかかったが、『大好きなソリュシャンと壁がある様な関係は嫌だ』と言ったことが決め手となり、納得してくれたのだ。
…その代わり、再会した時よりも酷くくっついてくることが多くなったが…。
スライムになっているからか、人間の時ほど性欲が強いわけではないが、それでも精々半減した程度であるため、自分の好みを全て注ぎこんだソリュシャンにそう迫られると、こみ上げてくるものがあるのだ。
依頼も無事達成(ヘロヘロは草を眺めていただけ)し、2人は帰路に就く。
出発時は知らなかったのだが、帝都とこの森林を繋ぐ街道には、小さな村がある。
本当にこじんまりとした村ではあったが、自然と共に生きている彼らを見て、どこか新鮮な気分を抱いたヘロヘロは、一つ提案をしてみる。
「ソリュシャン、途中にあった小さい村で、一休みしようか?」
「…恐れながら、あのような村は御身が滞在するのは相応しくないと愚考致します」
いくら砕けた関係性と言っても、こうして僕としての意見をいう時には、しっかりとした口調になる。
ヘロヘロはその点は特に気にしておらず、何なら『できる女だなー』と思いながら口を開く。
「なんでも経験だよ、ソリュシャン」
「はっ!承知いたしました」
そうして歩いていると、目的地である小さな村が遠目で確認できる距離にまで迫る。
しかし、何やら様子が変であった。
アサシン系の職業スキルを多く習得しているソリュシャンもそれに気づいたのか、不穏な表情を浮かべる。
「何やら騒がしいですわね」
「そうだね…。お祭りかな?」
ヘロヘロは、少し目を凝らしながら早歩きになる。
「お祭りなら、是非とも参加したいねー」
「では、急ぎますか?」
ソリュシャンの言葉に、ヘロヘロは首を横に振る。
「いや、そこまでしなくてもいいよ」
しかし、その言葉は即座に変更することとなる。
なぜなら…。
祭りは祭りでも、デスナイト数体による祭りであったからだ…。
時は1週間程遡り…。
リ・エスティーゼ王国、城塞都市エ・ランテル。
その近郊に転移したニシキは、あらかじめマーキングしていた場所をモモンに伝えていたため、転移した瞬間に、目の前に目的の人物と思われる4人組を発見する。
突然目の前に現れたニシキに、その4人組は目を大きく見開いて驚いていたが、傍にいたモモンが、『彼がニシキですよ』と伝えたことで、さささっと近づいてきた。
ニシキは、近づいてきた、少し緊張した雰囲気の4人組に声を掛けた。
「はじめまして。聖王国で冒険者をしております。ニシキと申します」
「はじめまして…。冒険者チーム『黒の剣』リーダーのぺテルと申します」
「同じく、ルクルットと申します」
「ダインと申します」
「ニニャ…いえ、セリーシアと申します…。あの…」
順に自己紹介をして見せると、ニシキはニニャ改めセリーシアの言葉を先どるようにして口を開く。
「モモンから話は聞いています。…お姉様の件ですよね?…ご案内いたします。今から転移魔法に似た忍術で、聖王国のカリンシャに飛びます」
ニシキの言葉に、「えっ」と困惑した様子を見せたセシーリア達であったが、地面に何やら黒い術式のようなものが展開されたことで、それは驚きに変わる。
「転雷神の術という忍術です。ご安心ください。一瞬ですから」
ニシキがそう言い切るのと同時に、一瞬で景色が変わる。
心底驚いた様子を見せる黒の剣であったが、ニシキが案内する形でカリンシャの街へ歩みを始めたことで、せかせかと後を追うように歩き始めた。
ニシキが屋敷に到着すると、いつものようにツアレは出迎えるためにエントランスで頭を下げていた。
ニシキから今から戻るという連絡を受けていたナーベラルも、洗練されたメイドとしての所作の下、頭を垂れる。
がちゃっという音と共に開かれた扉の先にいたのは、ニシキだけではなかった。
以前にもこの屋敷に足を運んだことのあるモモンと、ルプー。
そして…セリーシア達の姿が会った。
ツアレがセリーシアをその目に映したとき、セリーシアもまた、ツアレの姿を捉える。
セリーシアが震える足で、ゆっくりと歩み寄る。
ツアレの姿を見て、次第に涙をためていく。
「ねえ…さん…」
「セリ…」
ツアレもセリーシアの姿を捉え、同じく涙を浮かべる。
両者とも駆け出す。そして抱擁する。
「やっと…やっと会えた…」
「うん…うん…」
ツアレとセリーシアは、人目も気にせず、ワンワンと泣き喚いた。
その場にいるものは皆、その感動的な再会を邪魔立てせぬよう、静かに佇み、見守っていた。
再び時は進み、ツアレとセシーリアが再会を果たした1週間後…。
帝都アーウィンタール近郊にある、テルユ村。
この村は、現在パニックに陥ってた。
「早くしろ!死にたいのか!」
「逃げろー!」
村人と思われる人々が、着の身着のままで村を駆け巡る。
村の入り口には、兵士や冒険者らしき人影が見られるが、対峙する悍ましい騎士に、しどろもどろと言った様子を見せる。
「な、何なんだ!こいつは!」
既に半数以上の班員を失った、テルユ村在中の兵士隊隊長は、強大な真っ黒な戦士を見て、酷く狼狽している。
「おいおい…こいつは、まずいんじゃないか?」
「…デスナイトッ!」
ヘッケランも兵士たちと同じように大量の冷や汗を流す。
アルシェの言葉を受け、更に身を強張らせる。
「デスナイトって、あの伝説級のアンデッドのことっ!?」
「なぜそんなものが…」
イミーナとロバーデイクがそう口にした瞬間、デスナイトは強大な咆哮を上げ、威嚇する。
恐怖を植え付けるような雄たけびに、ヘッケラン達は思わず一歩引き下がる。
しかし、反対に兵士の一人が、狂ったような雄たけびを上げ、デスナイトに果敢に飛び掛かる。
だが、それは無謀な行動であった。
「バカッ!よせっ!」
隊長の制止も空しく、兵士の攻撃は強大な盾に防がれ、真っ黒なサーベルで、その身を袈裟斬りにされてしまう。
「ぐはっ…」
その一撃で、兵士の意識は奪われ、すぐに命も奪われる。
デスナイトは邪魔だと言わんばかりに、その事切れた身体を蹴り飛ばす。
「アルシェ!」
「ッ!」
ロバーテイクは、いち早くその死体が吹き飛ぶ方向に気付き、声を張り上げる。
その声に従い、アルシェは何とか身体を動かし回避行動をとるも、迫る死体を避けることは叶わなかった。
「うッ!」
大の大人、それも鎧をまとった兵士の身体が衝突してきたことで、アルシェは呻き声をあげながら地面に転がる。
「アルシェッ!…ッ!」
「う、嘘だろ…おい…」
イミーナがアルシェの元へと駆けようとしたその時、更にもう1体のデスナイトがヘッケランの横から現れる。
隊長を吹き飛ばしたデスナイトと対峙していたヘッケラン達は、アルシェの近くに現れたそのもう一体のデスナイトを見て、絶望の表情を浮かべる。
「くっ!」
痛みに身を固めていたアルシェであったが、死体の重量が重く、中々抜け出せない。
手に持っていた杖も、先の衝撃でどこかに飛んで行ってしまったようだ。
暫く身を捩らせて脱出を試みていたが、それを無理だと判断し、『飛行』で死体を押しのけようとした。
が、直後に絶望に襲われる。
自身にこの死体を蹴りつけてきた騎士が、死の騎士が目の前に、その凶刃が届く距離に詰めていたのだ。
「…っ!ひ…」
アルシェは、喉の奥から呻きにも悲鳴にも似た、か細い声を上げる。
「アルシェーーーッ!!!」
先ほどまで対峙していたデスナイトを、イミーナとロバーデイクに任せ、ヘッケランが双剣を携え、叫びながら走る。
それを聞き、アルシェは冷静さを取り戻す。
「ッ!『火球』!」
アルシェの放った魔法は、デスナイトに当たって爆散する。
デスナイトとの距離が近かったこともあり、アルシェはその衝撃に目を閉じる。
そして、次第にその衝撃が収まりを見せたことで、ゆっくりと目を開ける。
驚愕する。
「う、うそ…」
まるで何事もなかったかように佇むデスナイトにアルシェは絶望に似た声を上げた。
デスナイトがサーベルを振り上げる。
ヘッケランがこちらに走ってきてくれているが、まだ距離がある。
もうだめだ…。
アルシェは、2人の幼い妹のことを想いながら、ギュッと目を閉じた。
しかし、ガギンッという、予想だにしなかった音が耳に入ってきたことで、バッと顔を上げる。
そして、目を見開く。
デスナイトからアルシェを守るようにして、黒い何かが佇んでいた。
次第にそれが人であると認識するのと同時に、威厳のある、しかし安心したような声が届く。
「ギリギリ間に合ったな…」
アルシェの瞳には、黒い龍が風にたなびく姿が映った。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97
※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1