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ローブル聖王国。
信仰系魔法を行使する聖王を頂点とし、神殿勢力との融和によって統治されている宗教色の濃い国である。
そういった特色を持つローブル聖王国の国土には、大きく二つの特色がある。
1つは海によって国土が南北に分けられていることだ。無論、国土が完全に分けられているというわけではなく、巨大な湾になっている。イメージとしては、横に傾けたUの字型の国土となっている。
これのせいで、北部聖王国と、南部聖王国などと呼ぶものもいるくらいだ。
そしてもう一つが、半島の入り口、北から南まで全長100kmを超える城壁を作っていることだ。
これは聖王国の東側、スレイン法国との間に存在する丘陵地帯…名を「アベリオン丘陵」というが、ここに住む亜人部族の侵攻を防ぐためのものである。
ちなみに、弐式炎雷が転生して目を覚ました場所も、城壁にほど近い、アベリオン丘陵であった。
その城壁から北東に伸びる街道…。
その街道を、リ・エスティーゼ王国に向かって10㎞程進んだ場所に、200を超える騎馬が物々しい雰囲気で駆けていた。
その騎馬集団の先頭、筋肉隆々とした男がいた。
ごつい身体にいかつい風貌が調和している。
名をオルランド・カンパーノ。
強さだけで誉れ高き聖王国九色の一色を先代聖王から与えられたという実績を持つ男だ。
だが、素行や性格に難があり、兵士団班長という低い地位に留まっている。
そんなオルランドは、横にいる男に視線を向ける。
その男は細かった。しかし、木の枝とは違う、鋼の細さであった。
さらに、細い目は今にも襲い掛かってきそうなほど鋭い。
瞳孔が小さいということも相まって、まっとうな職に就くものには見えない。
名をパベル・バラハ。騎馬の集団がここを駆けている要因といえる人物であった。
「…旦那、この辺りですかい?」
「ああ、あともう少しだ…」
オルランドは、パベルから聞いた情報を元に、目的地が近づいていることを察していた。
パベルから齎された情報はこうであった。
自分よりも遥かに強い、ニンジャであるニシキという御仁に山羊人から救われた。
その後、城壁を目指して帰還中に、豪王バザー率いる100体を超える山羊人に追撃を受けた。
ニシキはパベルを逃がすため、豪王バザーと山羊人と対峙している。
だから急ぎ援軍を送る、お前もついてこい。
…というモノであった。
オルランドからすれば、自分でも敵わなかったパベルの旦那をして、『俺より遥かに強いお方だ』と言われたことに驚きを隠せなかった。
一体どれほど強いのだろうか…。是非手合わせ願いたいものである。
しかしそれは、恐らく敵わないであろう。
「旦那…少なく見積もっても、襲撃から1時間はたってんでしょ…。ニシキ…でしたっけ…?正直、100を超える山羊人に加えて、豪王バザーもいるとなりゃ…無事とは思えないんですがね…」
オルランドは、申し訳なさそうに、だが、酷く的を得た発言をする。
同じく状況を説明された、後ろにいるオルランド直属の班員達も思いは同じであった。
「……」
オルランドの発言に、パベルは一切口を開かない。
その鋭く凶暴な目は、街道の先に固定され、微動だにしていない。
だが、その様相もすぐに瓦解することになる。
「…ッ!見えた!いるぞ…!」
「よっしゃー!おい、おめーら!!戦闘準備だ!ぬかるんじゃねーぞ!!」
パベルの言葉を耳にしたオルランドは、腹から声を張り上げて騎馬隊に指示を出した。
しかし、その戦闘準備は、意味のないものになる。
ニシキは、パベルを逃がし、豪王バザー率いる山羊人を蹴散らした後、街道をテクテクと歩いていた。
「想定よりはるかに弱かったなー」
あれだけ啖呵切って飛び掛かってきた割には、一撃で大ダメージを与えたのか、バザーはすぐさま降参したのだ。
あの時のみっともなさすぎる命乞いは、ニシキも引くレベルであった。
自分のことを食料としか考えていない連中にまで情けをかけられるほど、人間ができていなかったニシキは、その命乞いを無視し、しっかりと止めをさした。
しかし、理由はそれだけではなかった。
「この目…新しい職業スキルか?…レベルアップしたってことなのかな?」
山羊人を50体ほど倒した際、いきなり視界がクリアになったのだ。
これがゲームであるユグドラシルであれば、すぐにステータス欄を開いて確認していたところだが、今はその機能は失われている。
だが、どのような仕組みなのかわからないが、この目がどういったものなのか、頭の中に直接情報が流れ込んでくるような感覚を覚える。
「心を移す瞳…写輪眼か…」
頭の中に流れてきた情報を整理した後、街道脇にあった水たまりを見つける。
それを鏡代わりにのぞき込み、本当に『眼』そのものに変化が生じているか確認した。
既存のスキルと同様に『発動させる』という意思をもって目に力を入れると、黒目であった自身の両眼は、真っ赤な深紅の目へと変化を見せた。
そして、その深紅の目をよく観察すると、虹彩の丁度中間に黒い線が円を描いて走り、その線の上に一つの黒い勾玉のようなものが浮かんでいた。
「うおッ!本当に変わってるわ…。吸血鬼と間違える程に赤い目だな…」
暫く水たまりに映った自身の目を見つめた後、ふっと力を抜く。
すると、写輪眼が解除された様子で、元の黒い目に戻って見せた。
「解除したら戻るのはありがたいな…。吸血鬼狩りとかあるかもしれないし…」
パベルが亜人を『人類の敵』と言っていたところを見ると、その可能性は十分高いだろう。
この世界についてわからないことだらけの段階で、無駄な対立や争いは避けるに越したことはない。
加えて、今の自分はお世辞にも強いとは言えない。
この一連の中で分かったことは、確実に『種族レベル』が失われているという確信であった。
もし失われていなければ、レベル上限であった自分が、このように新たな力を得ることはありえない。
まあ、この世界が『ユグドラシルに準じたもの』と仮定すればの話であるが…。
「それにしても、視力と認識能力の向上に、動体視力の向上、幻術の発動までできるのか…ユグドラシル時代に欲しかったな、これ…」
なんだよこのチート能力…とも思ったが、よくよく考えればここは異世界なので、なぜ?と考えても仕方がないと判断した。
「レベルアップもさることながら、新しい力の練度のためにも修行が必要だな…」
恐らく、先の戦いでのレベルアップは1、よくて2である。
先の仮説が正しいと仮定すると、今のレベルは76か77…。
例えこの写輪眼があっても、100レベルのプレイヤーには手も足も出ないだろう。
「カンストプレイヤーと対峙するだけで、詰みだ…。それ以上に強い奴がいないとも限らないしな…。だが、悪いことばかりじゃない」
それは、先ほどパベルとの会話の中で見出した、一つの希望を表していた。
「もしかしたら…モモンガさんもこの世界に来ているかもしれない…。まあ、転移の条件が『死』であるのなら希望は薄いが…」
それが最も高いように感じていたニシキであったが、もう一つの可能性もあった。
それは、『ユグドラシルのサービス終了までログインしていたもの』という条件である。
「探す価値はあるな」
ニシキは、希望を抱いたような表情を浮かべたが、そういえば…と小さく呟いた。
「…パベルさん、聖王国の城壁まで10㎞くらいって言ってたよな…。結構歩いたんだが…」
うーん、少し悩んで見せたが、「まあ、いいか」考えを止める。
そして、暫くして歩くのが面倒くさくなり、疾風の如く駆けることにした。
その時、想像以上に速く駆けることができ、ニシキは自分の身体能力に驚いたとか…。
まさに忍者の名に相応しいことである。
「お、おい…旦那…。こりゃあ…現実か?」
オルランドは珍しく狼狽したようにして口を開いた。
目の前に広がるのは、血の海…。そして山羊人の死体で埋め尽くされた街道であった。
「まさか…全て…倒したというのか…!?」
パベルは、近くに転がっている山羊人の死体を、膝を折ってまじまじと確認する。
見事なまでに綺麗な死体であった。
山羊人自身の血液で汚れてはいるモノの、殆ど争った形跡はなく、首が狩られていた。
2体目、3体目と確認するが、全く同じように絶命しているのが見て取れる。
「旦那…こいつは…」
傍で見ていたオルランドも、そのことに気付いたのか、冷や汗を垂らしながらパベルへと視線を向ける。
「ああ…どいつもこいつも…たった一撃で屠られている…。ありえるのか…こんなことが…」
数体であれば、それも納得できよう。
しかし、立ち上がって辺りを見渡せば、致命傷の箇所は違えど、ほぼ全ての山羊人が、一撃で仕留められていることが伺える。
「ニシキの仕業なのか…しかしこれはあまりにも…」
オルランドが信じられないと言った様子で言葉を発していたが、それは1人の兵士によって遮られる。
「班長!兵士長!こちらへ来てください!!」
パベルとオルランドは、その言葉を聞き、兵士の元へと駆け寄る。
「「なっ!!」」
パベルとオルランドは、驚愕のあまり、大きく目を見開く。
「…ご、豪王バザーだと…思われます」
2人の視線の先には、むごい姿で地面に背中をつけているバザーの姿であった。
誰が見ても絶命していることが容易にわかるほどであった。
「オルランド…間違いないな…」
「…ええ、豪王バザーだ…ッ!」
パベルは、この場で唯一バザーと刃を交えたことのあるオルランドへと声を掛けると、期待通りの言葉が帰ってきた。
それは確信を更なる確信へと変えるための発言であったが、目の前にある信じられない光景を何とか自分に信じさせるための発言でもあった。
「兵士長!」
そこへ、周囲近辺を捜索していた小隊が戻ってきた。
「見つかったか?」
「申し訳ございません。手掛かりの一つもなく…」
「…そうか」
「…旦那、すれ違った可能性は?」
オルランドは、考え込むようにして目を細めたパベルに問うた。
「それはない…城壁からここまで、俺は常に警戒を怠らなかった…。聖王国方面へ向かう人影が居れば、絶対に気付いていたはずだ…」
「…となると、王国側へ向かったってことですかい?」
「その可能性が高いな…。ニシキ殿はこの辺の地理に疎かった…。道を間違えても無理はない…」
パベルは、自身の選択と決断がミスであったと悟った。
無理をしてでも、一緒に戦うべきだった。
いや、戦う必要などなかった。ただ、そこに居さえすれば、ニシキ殿が道を間違うことはなかっただろう。
しかし、それをすぐに自身の中で否定する。
ニシキ殿は好意で私を逃がしてくれたのだ。
それを無下にすることなど、できようはずもない。
「…追いますかい?行くとなれば、リ・ロベルになると思いますが…」
街道沿いに、王国側へ進むと突き当たる、最初の都市名であった。
「…いや、すでに王国領内に入っている可能性もある…他国兵士が断りもなくいくことはできない」
「確かに…この人数じゃ攻め込んできたと思われるかもしれないしな…。変装したうえで、少人数なら大丈夫かと思いますが、どうします?」
「…それもここでは判断できないだろう。それに今はバザーの遺体を回収し、聖王女様へ報告するのが先だ…。ニシキ殿への対応も含め、まずは指示を仰がなければ…」
「ですね…。城壁に戻り次第、早馬で報告しましょう」
オルランドは、班員達にバザーの遺体と、他の山羊人の装備の回収を命じた。
有用な装備品の流用という面もあるが、万が一自分たちがここを離れた後、別の山羊人や亜人が装備を回収することを防ぐためである。
「オルランド、暫く北側の城門守備はお前の班に任せてもいいか?」
「ええ、もちろんですよ、旦那。…ホバンスに行くんですかい?」
それは、聖王国の首都の名であった。
早馬での報告と同時に、バザーの遺体と共に、聖王女様へ報告に上がろうと考えているのだろう。
しかし、パベルからの返答はそれを否定する者であった。
「いや…カリンシャだ…。まだ居てくれていると助かるんだが…」
城壁から一番近い、城塞都市の名前であった。
亜人の襲撃の際、城壁が破られると一番初めに襲撃を受ける都市である。
そんな前線になぜ国のトップである聖王女が滞在しているのかと言えば、兵の士気向上に他ならない。
時折、聖王女はそうしてカリンシャに滞在することがあるのだ。
「なるほど…。タイミングがいいですね」
「ああ、だが、いつ首都にお帰りになられるかわからない…。急がねばな」
「部隊を半分にわけやしょう…。俺たちは遺体を焼いた後に戻ります」
「そうだな…よろしく頼む」
パベルは、部隊の半分を率いて、急ぎ城壁へと戻った。
※現時点での弐式炎雷さんのレベル
・Lv76
※新たに得た忍術
・写輪眼Lv1