弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第30話 闖入者

ローブル聖王国、城塞都市カリンシャ、黒金の屋敷。

 

この屋敷には、家主のニシキと、従者のナーベラル、そしてメイドのツアレに、ニシキの召喚した僕であるハンゾウとフウマが滞在している。

 

だが、最近はそれ以外に頻繁に来る人物が一人いた。

 

「こんにちは」

 

「おお、セリーシアか」

 

「お世話になってます。ニシキさん」

 

その人物は、ツアレの妹であるニニャ改め、セリーシアであった。

 

セリーシアは、ニシキが保護したツアレと会う際、黒の剣のチームメンバーと漆黒のモモンとルプーに、自身が性別を隠していたことを告白した。

 

しかしながら、その告白に驚いたのはモモンとセリーシアだけであった。

 

モモンはがっつり男だと思っていたので驚く。

 

これはわかる。

 

そして、黒の剣は、『知ってたさ、そんなこと』と微笑をもってセリーシアに応える。

 

それに対してセリーシアが驚く。

 

これも、まあわかる。

 

セリーシアがなぜ冒険者をしているのかを理解していた3人である。

 

加えて、長い間一緒に冒険者をしていれば、細かい動作や生活でそれをなんとなく察していたらしい。

 

問題は、ルプーことルプスレギナである。

 

基本は、アホの子であるルプスレギナであるが、演技力だけはぴか一であり、故にセリーシアの演技も見抜いていたのだろう。

 

なぜそれを教えてくれなかったのかと、モモンがルプーに詰め寄ったとか詰め寄らなかったとか…。

 

「セリッ!」

 

「姉さん、調子はどう?」

 

「ふふっ!いつも通り、元気よ」

 

少しして現れたツアレに、セリーシアは嬉しそうに声を掛け、ツアレもそれに答える。

 

さて、話を戻すと、セリーシアは1週間に2回程度、ツアレの元へ足を運んでいる。

 

それを可能としているのが、ニシキがセリーシアに与えた『転移の秘石』であった。

 

効果は、『決められた二点の転移を可能にする』というものである。

 

ユグドラシルにおいては、固定転移スポットや、自在に様々なところへ行くことのできる転移魔法などがあったため、ゴミアイテムと化していたものであるが、この世界では非常に有用なアイテムであった。

 

セリーシアは、黒の剣としての活動拠点であるエ・ランテルとツアレの住むカリンシャの2点を登録、結んで使用しているのである。

 

「そうだ。セリもお昼ご飯食べていく?よろしいですか、ニシキ様?」

 

「もちろん、好きにしてくれてかまわないよ」

 

「あ、ありがとうございます!じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

ニシキは、姉妹が楽しそうに、幸せそうに会話し、過ごしているのをほのぼのとした気持ちで見守る。

 

…最悪とも言える悲運に見舞われたツアレであったが、今はその面影は一切感じられなかった。

 

 

 

バハルス帝国、帝都アーウィンタール、闘技場。

 

今この場所は、近年稀にみる大歓声と興奮に包まれていた。

 

膨大な数の観客が座ることのできる観覧席には、殆ど空席が見られない。

 

さらに言うならば、観覧席よりも更に上にある特別席…VIP席とでもいうべき場所には、皇帝であるジルクニフとその側近の姿もあった。

 

それもそうだろう。

 

ここ1年以上、一切挑戦者のいなかった、八代目武王であるゴ・ギンへの挑戦者が現れ、その挑戦者が皇帝陛下が推薦するほどの男だというのだから、埋まらない方がおかしい。

 

そして、そんな男と武王の試合を見ようと、多少無理をしてでも入場料を捻出したものも少なくない。

 

しかしそれは、試合をみる前から、『無理をしてよかった』という感想を抱くことになる。

 

ゴ・ギンへの挑戦者、その男があまりにも美しくたくましい男であったからだ。

 

天上の美しさと称しても過分ではないその容姿に、遠目から見ても鍛え抜かれた肉体と、美しくもかっこいい服装。

 

観客席では、女性はもちろんのこと、男性すらも巨大な歓声と称賛をあげているのだ。

 

そんな歓声を背中に受けながら、ヘロヘロは些少の落胆を覚えていた。

 

それは、目の前の武王に対してである。

 

「(最強…最強の剣闘士がこれか…)」

 

ヘロヘロが落胆したのは、あまりにも弱いからである。

 

「(…多めに見積もっても、35レベル前後か…)」

 

アインズやニシキから、『この世界のレベルの低さ』というのは度々聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかったのか、大きくため息をつく。

 

そんなため息を、目の前のゴ・ギンも察していた。

 

しかし、怒りを抱いている様子はない。

 

「おまえ…一体何者なんだ…」

 

どうやら、気付いている様子であった。

 

ヘロヘロは、思わず目を見開いて感心する。

 

「なるほど…彼我の力量差を感じられるか…。少し見くびっていたよ」

 

「…だが、どれほど強いのか…それが分からない相手は初めてだ…」

 

ゴ・ギンは、その巨体に似合わないような動揺を見せていた。

 

「そうか…。だが俺の方が圧倒的に強いとわかったなら、降参してもらってもいいかな?申し訳ないけど、弱い者いじめは趣味じゃないんだ」

 

「…断る」

 

ゴ・ギンの思わぬ回答に、ヘロヘロは思わず目を見開く。

 

「へぇ…理由を聞いても?」

 

「俺はあんたを喰いたい」

 

「…は?」

 

ヘロヘロは思わぬ返答に、些少の驚きを見せる。

 

「俺は今まで殺して食うに値するものに会ったことはなかったが…あんたは違う…自分より強いあんたを喰えば…その力を取り込むことができる」

 

「なるほど…。確かにそれなら、お前にとっては戦うに値する価値があるってことか…」

 

「そういうことだ…」

 

「わかった。生殺与奪の権は勝者の手にあるしな…。その代わり、俺が勝ったら、お前の命は好きにさせてもらうぞ」

 

ヘロヘロは、そう言いながらゴ・ギンに手を差し出す。

 

それが何を意味するのかを理解したゴ・ギンは、同じく手を出し、握手を交わした。

 

満席に近い会場からは、大歓声が巻き起こった。

 

 

 

皇帝陛下の特別席には、皇帝の他に、主席宮廷魔術師のフールーダに加え、四騎士のバジウッドとニンブルの姿が見られた。

 

「この試合、お前たちはどう見る?」

 

ジルクニフの言葉に、バジウッドが些少の怪訝さをもって答える。

 

「普通に考えるなら、武王の圧勝でしょうが…」

 

「本当にあの男が、デスナイトを一撃で屠るほどの実力者なら、ヘロヘロという男にも勝機はあるかと思います」

 

バジウッドの言葉を補填する形で、ニンブルが口を開く。

 

「爺…実際に見てどう思う?」

 

「そうですな…。彼の御仁からは只ならぬ雰囲気が感じられますが…しかし魔力的な力はないようです…。

 

恐らくは、例の報告書通り、純粋なモンクなのでしょう」

 

フールーダは、意気消沈とした様子を隠すこともなく、項垂れる。

 

その姿を見て、ジルクニフはふっと笑いを漏らす。

 

「…爺にとっては強さよりも魔法か…」

 

「陛下…どうやら始まるみたいですよ」

 

バジウッドの言葉を聞き、会場へと目を向ける。

 

ゴングの鳴り響く音が轟くとともに、武王が全力でヘロヘロに飛び掛かり、巨大なメイスを振りかぶる。

 

…しかし、ヘロヘロはその場を一切動かない。

 

それを怪訝に思ったのは、ジルクニフは思わず目を見開く。

 

そして、ドガンッという衝撃と共に、辺りに砂ぼこりが舞う。

 

「反応できなかった…?」

 

「…過大評価だったのでしょうか?」

 

ジルクニフとニンブルが不満そうな声を上げる。

 

しかし、フールーダだけは反応が違った。

 

「違いますぞ…。完全に見据えて、捉えておった…」

 

「どういうことだっ…爺…」

 

(じき)にわかりましょう…」

 

爺の中途半端な回答に苛立ちを隠せないジルクニフであったが、砂ぼこりが晴れるのと同時に、驚愕する。

 

ヘロヘロが、武王の巨体から放たれる、巨大なメイスを片手で、軽々と受け止めていた。

 

「ば…バカな…」

 

「か、片手で…」

 

ジルクニフとバジウッドは、酷く狼狽し、言葉が出てこない。

 

それはニンブルも同じであったが、彼はまだ冷静だった。

 

ふっとヘロヘロの足元を見る。

 

そこには、ヘロヘロを中心に全方向に向かってひび割れが見られる。

 

試合開始前は、あそこにあんなものはなかった。

 

つまりそれが指し示すことは、ゴ・ギンは全力であり、その衝撃をヘロヘロが片手で受け止めたことによってできたものであるという証左であった。

 

「なんという…」

 

「これは…もしや…」

 

「…フールーダ様?…」

 

フールーダの呟きに、ようやく冷静さを取り戻したバジウッドが、小さく呟く。

 

「…陛下、あのヘロヘロという御仁…もしかすると、黒金や漆黒に匹敵する力を有している可能性があります」

 

「ッ!なんだと!…本当か!…」

 

「…デスナイトを単騎で屠ったと聞いた時から、既にあの御仁が私より上であるというのはわかっておりましたが…あれは…遥か高みにいる存在やもしれません…」

 

 

 

場所は同じく闘技場…。

 

しかし位置は一般の観客席の前側で観戦しているフォーサイトは、ジルクニフ達と同じように大きく目を見開いて驚いていた。

 

アルシェがヘロヘロと再会を果たした際、偶然にもこの一戦の詳細を耳にしたアルシェが他の仲間にも伝え、今に至る。

 

その驚きは、他の観客も同じで、すでにざわめきが会場を支配していた。

 

「す、すごい…」

 

「あれを片手で…」

 

アルシェとロバーデイクが身を乗り出す勢いで驚いている。

 

暫くヘロヘロと武王はそのままの姿勢を保っていたが、武王が瞬時に飛び退き、雄たけびを上げて何度もメイスをヘロヘロに振りかぶる。

 

対してヘロヘロは、その場を動くことなく、素手であしらって見せる。

 

観客の多くから見れば、武王の動きに問題はないし、ましてや力も申し分ない。

 

それは武器を振るう速度であったり、衝撃波であったりで理解できる。

 

故に、信じられなかったのだ。

 

その強大な力を持つ武王の攻撃を、いとも簡単に、余裕ありげで防ぎ、捌ききっているヘロヘロの姿が…。

 

「ありえねえ…」

 

「あいつ…本当に人間なの…?」

 

ヘッケランとイミーナは、過呼吸になりながらその様子を見ている。

 

そして、更に驚くべき様相を目にすることになるのだった。

 

 

全力で、それこそ武技を最大限に用いて、ラッシュ攻撃を仕掛ける武王であったが、その全てを素手で弾かれ続ける。

 

次第に体力を使い果たし、後退した後に肩で大きく息をして見せる。

 

「はあ…はあ…」

 

武王は、今までにない敗北感を味わっていた。

 

「なぜだ…なぜ平然と立っていられる…」

 

「そりゃあ、あんたの攻撃が俺を倒すに至らないからだよ」

 

ヘロヘロの余裕ある言葉に、武王は目を細める。

 

しかし、その心のうちに、悔しさや妬ましさは一切感じていなかった。

 

なぜだろうか…。自分自身でも不思議に思うくらいであった。

 

そして、一つの結論に至る。

 

「そうか…。あまりにも差があるがゆえに…悔しさもわかぬということか…」

 

「…その様子だと、満足したみたいだな」

 

ヘロヘロの言葉に、武王は兜を外し、ニッと笑みを浮かべた素顔を晒す。

 

「いや、まだだ…」

 

「諦めろ…お前の攻撃は、俺には届かないぞ」

 

「そんなことはわかっている…。だから1つ、頼みがある」

 

「ん?」

 

武王の突然の嘆願に、ヘロヘロは眉を吊り上げる。

 

武王は、一度大きく呼吸を吸い込み、メイスをヘロヘロに向けて大声で言い放った。

 

「ヘロヘロ殿!最後に見せていただきたい!本気の力の…その一部でもいい。頂きの高さを感じさせてほしい!!」

 

その声に、会場は更なるどよめきを抱く。

 

あの武王が、実質的な敗北を宣言している様を見て、驚きを隠せないのである。

 

その言葉を聞き、ヘロヘロは大きく目を見開き、武王を見据える。

 

「いいだろう…。お前のその勇姿に敬意を払い、俺の技を見せてやる…」

 

ヘロヘロの周りに漂う雰囲気が、一気に変化する。

 

それは力の波動であり、殺気であった。

 

武王はそれを感じ取り、両手でメイスを抱き、身構える。

 

ヘロヘロは右手に力を籠め、構える。

 

右手には、膨大なエネルギーが溜まっているのが見て取れた。

 

瞬間、一瞬にしてヘロヘロの姿は掻き消え、ヘロヘロがいた地面はめくり上がる。

 

武王はその様を目にしたのと同時に、目の前にヘロヘロが迫っていることに気付く。

 

「なっ!(速い!)」

 

しかし、反応する間もなく、武王の鎧に、ヘロヘロの拳が衝撃する。

 

「『龍拳』!」

 

バゴンッという圧倒的な音と共に、武王は光の如き速さで吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突する。

 

壁は崩れ、大きな砂ぼこりが巻き上がる。

 

真上にいた観客たちは、悲鳴に似た声を上げながら驚いている。

 

武王は崩れた壁の瓦礫にもたれ掛かるようにして、沈黙していた。

 

「加減はした…死んではいないはずだ…」

 

ヘロヘロはそう言いながら、構えを崩し、大きく息を吐いた。

 

その後、あまりの出来事に闘技場全体が沈黙していたが、痺れを切らしたようにして、大歓声が巻き起こる。

 

ヘロヘロはその歓声に特に応えるような素振りを見せず、出口へと歩を進める。

 

…一歩、踏み出した、その時であった。

 

何かに気付いたようにバッと後ろを振り向き、上空を警戒する。

 

そのヘロヘロの行動に気付いた幾人かの観客たちが、同じように上空を見据える。

 

…何かがいる…。

 

ヘロヘロも含め、幾人かの観客たちもそれを感じ取る。

 

そのときであった。

 

闘技場を中心に、帝都の一部を囲うようにして、炎の壁が生まれたのは…。

 

 

ローブル聖王国、城塞都市カリンシャ近郊。

 

人が寄らない、不毛の地で、ニシキは写輪眼を発動させて一人の少年を観察していた。

 

その少年はクライムであり、今はニシキがアイテムで召喚した、複数体のゴブリンと渡り合って戦闘をしている。

 

「大分うまく捌けるようになってきたな…」

 

クライムと出会った時の彼のレベルは、15。

 

そして、この修行に入る前は18であった。

 

しかし、今の彼を写輪眼で見通すと、そのレベルは20となっていた。

 

「やはり、レベリングには敵を倒すか、一定量の経験を得ることが必要ということだな…」

 

ニシキとクライムの大きな違いは、レベルキャップという上限があるかないかである。

 

1年半近くこの世界で暮らしてきたニシキが感じたものは、現地民とのレベルキャップ差である。

 

正直、現地民が鍛錬を積んだ時間と、ニシキがユグドラシルをプレイした時間を比較すると、圧倒的に現地民が鍛錬を積んだ時間の方が長い者が多い。

 

それでも、自分と現地民とがここまでの実力差がある要因は、レベル、つまりは成長値の最大値が低いところにあることが原因であると推察した。

 

そしてそれは、ものの見事に的中しており、努力ではどうにもならない圧倒的な壁として立ちはだかっていた。

 

転移民、ユグドラシルから来たニシキが、101レベルになれないように、彼らのそのキャップを取り外すことはできない。

 

しかし、クライムだけはその稀有なタレントで、その理から外れていた。

 

彼は、ニシキと出会った時点で、既にほぼ限界値に達していた。

 

だが、今のクライムのレベルは20。

 

その限界値を超えて成長することに成功していたのだ。

 

さて、クライムによる、実践的なレベリングを行うにあたって、ニシキは3段階のプログラムを組んでいた。

 

1段階目は、彼が元々習得していた職業クラス、『ファイター』と『ガーディアン』のレベルを底上げすること。

 

2段階目は、同じく彼が元々習得していた、しかし『プリンセスガーディアン』という稀有な職業レベルの向上を目指すこと。

 

3段階目は、ニシキが忍術を叩き込み、実用的なレベルでの忍者の職業レベルを習得すること。

 

この3段階である。

 

1段階目の『ファイター』に関しては、とにかく敵を倒しまくれば上昇することが確認できている。『ガーディアン』は、何かを守りながら戦う経験が必要であったため、一定の陣地を設け、それに侵入されないように戦うことで上昇を見せる。

 

問題は、2段階目の『プリンセスガーディアン』であった。

 

この世界において、職業レベルの習得に対しては、それに見合った経験と鍛錬が必要であり、つまるところ『プリンセスガーディアン』とは、『姫を守りながら戦う』必要があった。

 

このプリンセルガーディアンをクライムが習得したのは、幻術世界で何度も殺されたラナー王女を、それでもあきらめずに守り、救おうとした結果であることは間違いない。

 

故に、また同じような幻術世界に誘えば容易なことであったが、それはニシキの望むところではなかった。

 

あれはクライム自身の精神衛生上もよろしくなく、加えてその修行はもうしないと約束してしまった手前、実行するのは憚られる。

 

そこで考えたのが、ニシキの影分身体が、ラナー王女に変化し、それをクライムが守る。

 

というやり方であった。

 

これは後に功を喫し、『プリンセスガーディアン』のレベルの上昇につながった。

 

…彼が、ガゼフやブレインに並ぶ『英雄』の領域に足を踏み入れるのは、そう遠くない未来であろう。

 

 

バハルス帝国、首都アーウィンタール。

 

謎の炎の壁に囲まれた帝都の一部は、混乱の一途を辿っていた。

 

そして、こと闘技場においては、更なる混乱が生じていた。

 

「なるほど…帝国の威力偵察…その一環でこの地に来たのですが…。これは想像以上に面白いものを見つけました…」

 

その男は、全身を真っ黒なスーツに身を包み、しかし臀部からは長い竜のような尻尾を有していた。

 

身を乗り出して大きく目を見開いていたジルクニフは、その特徴とここを包む炎の壁をもって、その男の正体に気付く。

 

「ヤ、ヤルダバオトか…」

 

「私のことをご存じの方がいるとは、光栄ですね…あなたが、当代の皇帝ですか?」

 

ジルクニフは、額に嫌な汗が流れるのを感じる。

 

目の前にいるヤルダバオトは、王都の一部を一夜にして壊滅させた、大悪魔だ。

 

横にいる爺の集めた情報によると、難度200を優に超える化け物の中の化け物…。

 

聖王国で都市を壊滅させた地獄の帝王エスターク・イスナをも超えるという情報まである。

 

言葉一つ間違えれば、自分の身のみならず、帝都…いや、帝国が滅びる危険性がある。

 

いや、非常に高いと言えよう。

 

震える足を何とか鼓舞し、先のヤルダバオトの発言に返答する。

 

「そうだ…。私がバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである」

 

「これはご丁寧に…。ご存じかと思いますが、私は魔皇ヤルダバオトと申します」

 

「ま、魔皇だと…?」

 

ニンブルは引きつった表情を隠す余裕もなく、息を呑んだ。

 

そして、ヤルダバオトの声は闘技場全体に響き渡っていたがために、混乱がより大きなものへと移ろうとしていた。

 

それは次第に広がり始め、悲鳴に似た叫び声が闘技場を埋め尽くす。

 

「ふむ…。折角の闘技場ですから、見物客がいないというのはよろしくありませんね…『その場を動かず、口を開くな』!」

 

ヤルダバオトがそう言い放つと、ほぼ全ての観客が一斉に動きを止め、静寂が訪れる。

 

それは恐怖の静寂であり、有無も言わせぬ絶望の訪れであった。

 

「「「………ッ!」」」

 

皇帝の傍にいるバジウッド達もそれは同じようで、動けず、声も出せず、ただ目で皇帝に訴えかけていた。

 

「どうした!お前達!」

 

「私の力、『支配の呪言』ですよ。…弱者は私の前では身動きすらとれません。しかし、どうやらあなたは何かしらのマジックアイテムによって、私の呪言を逃れたようですね」

 

ジルクニフはその言葉を聞き、くっと表情を曇らせる。

 

ヤルダバオトの言う通り、逃れることができたのは、自身がに身に着けている精神防御のネックレスによるものだ。

 

「しかし、あなた方だけは違うようですね…」

 

ジルクニフは、会場へと目線を移すヤルダバオトを見て、同じように視線を変える。

 

そこには、先ほど圧倒的な一撃で武王を吹き飛ばしたヘロヘロと、会場に身を預け、へロへロの横に立つ、妹と思われるソーイの姿があった。

 

「私の支配の呪言が効かぬとは…やはり思った通りの強さをお持ちのようだ…」

 

「ヤルダバオト…。なるほど、お前がリ・エスティーゼ王国を襲った悪魔か…」

 

ヘロヘロの言葉を聞き、ヤルダバオトは仮面の下でニヤッと笑って見せる。

 

「いかにもッ!リ・エスティーゼ王国で拍手喝采の宴を催したのは私です…。おっと、失礼いたしました…。あなた方のお名前をお聞かせ願えますか?」

 

「ヘロヘロだ…」「ソーイよ」

 

「なるほどなるほど…。あなた方のお名前、覚えておくとしましょう」

 

「それで…お前は何をしにここに来たんだ?まさか、王都でやったことと同じことを、この帝都でやるつもりか?」

 

ヘロヘロの言葉に、ジルクニフ達は苦悶の表情を浮かべる。

 

王都襲撃の際に、ヤルダバオトが発したという炎の壁、所謂ゲヘナの炎。

 

これを展開しているということは、そういうことであることは、誰にでもわかることであった。

 

「いかにも!私はこの帝都を地獄に変えるためにやってきました。悲鳴が!、呪詛が!、絶叫が!、永遠と木霊するような!…そんな楽しい場所にしたいのです」

 

ふざけるな…。

 

誰もがそう思った。

 

そんなことを許せるはずはない。

 

しかしながら、前述のとおり、ほぼ全てのものが、ヤルダバオトの呪言によって動くことができない。

 

いくら自分たちが抗おうにも、今や自分たちは屠殺されるのを待つ家畜同然であった。

 

皇帝であるジルクニフも、何か手はないかと、模索する。

 

そしてその模索は届く。

 

自身を除き、この場で動ける2人の人物に…。

 

同時に、ヤルダバオトが再度口を開く。

 

「と、思っておりましたが…。予定を変更することにしました」

 

「どういうことだ?」

 

「あなた方は…。いや、どちらかと言えばヘロヘロさんですね…。あなたは危険だ…。あなたはお強い…。それこそ、黒金のニシキや漆黒のモモンと同じくらいには…。違いますか?」

 

声が出せない観客たちであったが、その言葉に衝撃を受けているのが手に取るようにわかる。

 

しかし、それがあながち間違いではないという感情を抱く。

 

目の前で、歴代最強の武王であるゴ・ギンを一撃で倒して見せたのだ。

 

些少の、いや大きな希望が垣間見える。

 

「なるほど…。どうやら悪魔だけに、人を見る目はあるようだ…」

 

「お褒めに与り、光栄ですね…」

 

ヘロヘロとヤルダバオトが、互いに睨み合う。

 

ジルクニフは、神にもすがる思いで両者を見据えていた。

 

まさか、こんな一瞬で帝国存亡の危機が訪れようとは、誰が思っただろう。

 

奴は言った…。

 

『弱者は私の前では身動きすらとれません』

 

ジルクニフは右後ろをゆっくりと見据える。

 

フールーダが、目を大きく見開きながらしかし身を固めている。

 

奴からすれば、主席宮廷魔術師であるフールーダすら弱者扱いなのだ。

 

それはつまり、この帝国にはいる者は、奴を討つどころか、戦いを挑むことすらできないということである。

 

…あの2人を除いては…。

 

「皇帝の王命…いや嘆願である!ヘロヘロ殿、ソーイ殿!どうかそのヤルダバオトを斃してほしい!!」

 

闘技場内に、ジルクニフの叫びが広がる。

 

「ほう?皇帝が自らの名で、しかも敵である私の前でそれを口にするとは…。その勇姿だけは称えて差し上げましょう…」

 

「…くっ!」

 

ジルクニフは、視線を向けてきたヤルダバオトに恐れおののき、思わず一歩後退する。

 

しかし、次いで届いた叫び声に、ジルクニフは身体の動きを止めることになる。

 

「承知した!ジルクニフ皇帝陛下!この私、ヘロヘロは、アインズ・ウール・ゴウンの名において、このヤルダバオトの討伐を約束する!!」

 

ジルクニフは、思わず顔を綻ばせた。

 

皇帝の嘆願とはいえ、あの強大な悪魔を相手に、そんな大口を叩けるそのクソ度胸に、心躍らせたのだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウン…。なるほど、あなたはどうやら、黒金と漆黒の同郷のようですね…」

 

「ああ…あの2人は…戦友、とでもいうべき存在だ…」

 

2人の会話で、ジルクニフは確信する。

 

この男なら、ヘロヘロならばきっとヤルダバオトを斃せると。

 

爺の見立ては間違っていなかった。

 

黒金と漆黒と同郷であれば、ヘロヘロもそれと同じくらいの強さを有しているに違いない。

 

いや、それはもはや、武王との一戦、ヤルダバオトの反応、そして先の勇言で証明されたようなものである。

 

「…ソーイ」

 

「はい」

 

「皇帝陛下をお守りしろ」

 

「…わかりました、お兄様」

 

ソーイはそう言い残し、圧倒的な跳躍力をもって皇帝の観覧席へと跳んで見せる。

 

「では、始めると致しましょう」

 

「かかってこい…ヤルダバオト!」

 

両者の姿が一瞬で掻き消える。

 

その姿を捉えることは叶わない。

 

両者の存在を再認識したのは、会場の中央で両者が拳をぶつけ合った後であった。

 

圧倒的なまでの力の奔流が、まるで爆発したかのように、闘技場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 




※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97

※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1
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