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王都の酒場で、ラキュースから逃げられるようにして別れたニシキは、翌日ラキュースと同じ蒼の薔薇のメンバーの2人に捕まっていた。
場所は、王都郊外の平野部。
『話がある』とだけ言われ、余り人が来ない場所へ連れられたニシキは、些少の警戒を抱きながらついていったが、それは杞憂であったと知る。
「ラキュースに修行をつけると聞いた…」
「私達にも付けてほしい…」
同じ顔で、同じ背格好で、しかしチャームポイントは赤と青という違いを持つ双子の少女の見た目をした忍者に、ニシキは迫られていた。
「えっと、それは別にいいですけど…。どっちがどっちでしたっけ?」
ニシキは全く区別のつかない双子に、申し訳なさそうに口を開いた。
「私がティア…青い方」
「私がティナ…赤い方」
色と名前を結び付け、ようやく区別のついたニシキは、それを脳に焼き付ける。
「それで、修行というのは私の忍術を覚えたいということでよろしいですか?」
「そう…教えてほしい」
青い方、ティアが特に抑揚もなく頷いて見せる。
「あなた方が覚えられるかどうかはわかりませんが、お付き合いしましょう」
「感謝する…対価はなにがいい?」
赤い方、ティナが軽く頭を下げた。
「そうですね…もしもの時に力になって頂ければ…」
「承知した…」
「…あなたほどの力を持つ人が、私たちの力を必要とする事態が起こるとは思えないけど…」
ティナ、ティアの順に呟くようにして口を開いた。
「いえ、人間一人にできることなど、たかが知れていますからね…。それで、どんな忍術を得たいのですか?」
ニシキの言葉に、2人は思わず目を見開く。
先に口を開いたのは、ティナであった。
「選べるの?」
「選べる…と言うと語弊がありますが…。とりあえずは系統を選んでいただかないと教えようがないって言うのはありますね」
「…そもそも、あなたの忍術をあまり知らない…私たちが見たのは、写輪眼と水の忍術だけ」
「…そういえばそうでしたね…。では簡単に説明します。まず、忍術を扱うには忍者のレべ…経験を積んでいなけらばなりません。ですが、あなた方は既に忍者としての基礎は習得しているので、そこは問題ないと思います」
ニシキの発言に、ティアとティナはコクコクと小さく頷く。
「その上で、あなた達の知る私の扱う忍術と、今お2人が扱える忍術は系統…というか、んー、何といえばいいのか、まあ、方向性が違うと思ってください。それで、私の扱う忍術は、多々ありますが、現状あなた方が習得可能な忍術は、形態、火、水、土、風、雷のいずれか一つだと思ってください」
「その中から選ぶ感じ…?…形態とは…?」
「…例えば、あなたの目、写輪眼を覚えることはできないの?」
ティアとティナは真剣そのものと言った様子であった。
「正式には、形態忍術と言いますが、素早く動いたり、分身を作ったりするものですね。…写輪眼は残念ながら難しい、というか無理ですね。これは特殊な忍術なので…」
「それは残念…赤はあたしのトレードマーク、ピッタリだと思ったのに…。それなら、私は火がいい…」
ティナがなぜ火を選んだのかは、言うまでもないだろう。
「それなら私は水…。ヤルダバオトの炎をかき消したあれがいい…」
ティアが水を選んだ理由も、きっとヤルダバオトの一戦で見たから、というだけではなさそうであった。
「わかりました。ですが、必ず習得できるという約束は出来かねます。火なら火遁、水なら水遁のクラスを習得できるかどうかにかかっていますから」
「わかっている…確か、れべるあっぷというものしなければならない…」
「れべるが上がらなければ習得できない…ならあげるだけ…」
ニシキは彼女たちの言葉を聞き、一瞬固まって見せる。
この世界の住人である彼女らが、なぜそれを知っているのか、という驚きによるものだった。
「レ、レブルアップの概念をご存じなんですか…?」
「うん…昔聞いた」
「イビルアイが言っていた…人によって上限はあるけど、れべるあっぷすることで強くもなるし、新しい技も習得できるって…」
ニシキの驚きに、2人は些少の戸惑いを見せていたが、特にそれを言葉に乗せることなく淡々と話す。
「そ、そうですか…。それなら話は早いですね…」
ニシキの中で、イビルアイという少女への興味がぐっと上昇する。
「(ユリの話だと、イビルアイさんは蒼の薔薇でも突出した強さだったって言ってたな…。)」
もしかしたら、どこかでプレイヤーやそれを知る者達と繋がっているかもしれない。
一度話を聞いてみる必要がありそうだな…、などと物耽っていると、ティアとティナが小さく首を傾げる。
「あ、すみません。ちょっと考え事をしてました…」
「イビルアイのことが気になる?」
「残念…彼女はモモンにゾッコン…。ラキュースにするべき…」
2人の言葉に、ニシキは多少焦りつつ、「違いますよ」と短く否定する。
…ラキュースの名前が出てきたことについては、一旦おくことにした。
「…そうですね…。では、とりあえず最初に、火と水の忍術を一度お見せしましょう」
ニシキは、2人から視線を外し、両手で印を結び、虚空に向かってそれぞれの忍術を放った。
火遁・炎弾と、水遁・水弾である。
どちらも、第3位階相当の魔法と同程度の威力を持つ忍術である。
もちろん、込める魔力量によって第2位階相当にも第4位階相当にもなるが、彼女たちが現状習得できるであろう最高火力の忍術であった。
どちらもその辺の相手になら、一撃で勝負を付けられる威力のある忍術だ。
それを見た2人は、ニシキが見てもわかるくらいには目を輝かせている。
「すごい…これを覚えられれば戦闘の幅が広がる」
「…きっとみんなの役に立てる」
ニシキは、実直に学び強くなろうとする2人の姿を見て、思わず小さく目を見開く。
「(感情が乏しい2人だと思っていたけど、意外に仲間想いなんだな…)」
ニシキはそんな風に思いながら、ティアとティナへ丁寧に術や修行の説明をして見せた。
ティアとティナの修行に付き合ってから、後日同じようにラキュースにも、簡単な修行の手ほどきを加えた。
ラキュースの魔剣に眠る邪悪なる力については、未だ謎のままであったが、彼女がどうしても詳しく説明してくれないので、一旦諦めることにした。
彼女の能力を確かめるためと称し、写輪眼でついでにその邪悪なる力の影響を調べたりもしたが、現状彼女の身体や精神に影響をきたしている様子はなかったから、という点も大きい。
もしかしたら、彼女の言う通り、本当に殆ど制御しきれているのかもしれない。
さて、そんなこんなでさらに数日が過ぎたころ…。
ニシキはアインズと共に、彼が懇意にしているというカルネ村を訪れていた。
村全体を木の柵…というかもはや壁と称しても遜色ないほどのものを有したそれは、これまでこの世界でニシキが見てきたどの村よりも強固なものであった。
アインズの姿を認知した村人たちは、一様に頭を下げ、声を掛けている。
ずいぶんと慕われているようであった。
自分であったら、こんな真っ黒なローブに、趣味の悪い仮面をつけた人物を慕うことはできないだろう。
だが、アインズがこの村に対して行ったことが、それを可能にしていた。
法国との会談時に、彼らに直接確認した通り、帝国兵に偽装した法国兵から、アインズが救ったのだ。
命を救われたとあれば、この嫉妬マ…趣味の悪い仮面をつけた人物を慕うというのも理解できる。
アインズは、村人たちにニシキのことを仲間として紹介する。
命の恩人であるアインズの仲間であると聞かされ、アインズに対して抱く尊敬と同じような視線を送られるニシキは、多少のこっぱずかしさを覚えながら、村を見て回る。
そんな中、アインズの口から何度か名前が出ていた人物2人と遭遇した。
「ゴウン様ッ!ようこそお越しくださいました!」
健康的な、ザ・村娘といった少女が声を掛けてきた。
「うむ…。息災かね、エンリ。そして、ンフィーレア」
「はい。村の復興も終わり、作物の実りも順調です」
「赤いポーション作成の研究も順調です」
「そうか、それは何よりだ。ところで、今日は私の友人を紹介しようと思ってな、ニシキさんだ」
アインズの紹介を受け、ニシキは軽く頭を下げて笑いかける。
「はじめまして、エンリさん、ンフィーレアさん。アインズの友である、ニシキと申します。以後、お見知りおきを」
「ニ、ニシキ様…って、もしかして、聖王国の英雄の…ッ!」
「すごい…あなたが黒金のニシキ様…ッ。しかも、アインズ様とご友人だったなんて…」
ンフィーレアとエンリが、口をあんぐりを開けながら驚く。
「ええ。友が救った村があると聞き、見に来た次第でございます」
「そうだったのですね。何もない村ですけど、ゆっくりしていってください!」
「ありがとうございます」
エンリは酷く緊張した面持ちでペコペコして見せる、ンフィーレアはニシキの顔を眺めながら何かを考えている様子であった。
「…ンフィーレアよ、なにか気になることがあるのか?」
「ゴウン様…。失礼ですが、ニシキ様は人間…ですか?」
「ん?…ああ、そうか。私がアンデットであるから、友が人間であることに驚いているのか…。その通り、ニシキは人間だ」
アインズの発言に、一番驚いていたのはエンリでもンフィーレアでもなかった。
「へえ…アインズの本当の姿を知っているのか…こりゃ驚いた」
「あっ…そういえばそこまでは伝えていませんでしたね…」
ニシキは、目をスッと細める。
「…散々人に報連相とか言っておいて、なんですかそれ…」
「す、すみません…」
「…ポンコツならぬ、ポン骨ってわけですね」
「ちょ、変なあだ名付けないでくださいよ!…それに、あなたにだけは言われたくありませんよッ!ニシキさん」
アインズとニシキが、ぎゃあぎゃあと軽い口論を繰り広げる。
エンリとンフィーレアはそれを見てポカーンと大口を開けている。
無理もないだろう、アインズという圧倒的な力を持つ存在が、数多の配下をもつ支配者たるアインズが、まるで自分たちと同じような口調で話しているのだから。
エンリは、思わずくすっと笑ってしまう。
「ん?エンリよ、何か面白いことでもあったか?」
「も、申し訳ありません。ただ…本当にゴウン様のご友人なのだなと思って…」
アインズは、その言葉を聞き思わず『あっ…』と自身の失態に気付く。
自分が救い、自分を慕う者が多い村で、その中でも最も信頼に足る2人の前であったため、些少の気のゆるみが出てしまったのだ。
「あまりの仲の良さに、ビックリしてしまいました」
ンフィーレアも、いいもの見た、と言った様子で笑みを浮かべていた。
やっべ…みたいな顔をしていたアインズであったが、次第に息を漏らす。
「ああ…その通りだ…。私にとっては、かけがえのない素晴らしい友人だよ…」
「あの…普通本人がいる前で言います?」
ニシキは心に非常なむず痒さを感じながら、抗議の声を上げる。
「…すみません、自分も今になって恥ずかしくなってきました」
「…ポン骨」
「何か言いました?」
「…豚骨」
「だれが豚ですか!」
再び始まった弄り合いに、今度は辛抱溜まらんと言った様子でエンリとンフィーレアは笑って見せたのだった。
エンリたちとの初対面は、想像以上の笑いを生みながらの、とても居心地の良いものであった。
さて、カルネ村はアインズ・ウール・ゴウンが支援している村であり、重要な拠点の一つでもある。
この村での最重要事項は、ユグドラシルさんポーションの作成である。
先ほどのンフィーレアという少年がその責任を担っているのだが、何と最近紫色のポーションの作成に成功したのだという。
この世界のポーションが青いことを考えると、作成にむけた研究が順調というのは間違えではないらしい。
そして、重要な拠点の一つである以上、外部からの様々な脅威に対処したり、村内でのもめ事などを監視、解決する者が必要になる。
戦闘メイドプレアデスの1人であり、長女でもあるユリ・アルファがこの村の監視と保護を行っている。
実は、ニシキがこの村に来たのも、彼女がここに滞在していたからに他ならない。
「弐式炎雷様。戦闘メイドプレアデス、ユリ・アルファ、御身の前に…」
「お、おう…」
ニシキは、一切の無駄のない洗礼されたユリの平伏に、思わず言葉を詰まらせる。
この世界に来て、ナザリックに帰還後は、多くの僕に何度もされたそれであったが、やはりそうそうなれるものではない。
しかも周りに人がいないとはいえ、村の中でそれをされるのだから、たまったものではない。
「ユリよ。ここはナザリックでも、ましてや正式の場でもない…楽にしてくれ」
「ニシキさんの言う通りだ、ユリ」
「はっ…承知いたしました」
ニシキとアインズの言葉を受け、ユリはすっと立ち上がって見せる。
「それでユリ、君に改めて聞きたいことがあるんだけど…」
「なんなりとお申し付けくださいませ」
「王都でのヤルダバオトとの一件で、ユリが戦った少女…と言っていいのかわからんが、覚えてるか?」
「もちろんでございます。アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇の一員であるイビルアイと名乗る人間でございますよね?」
ユリは、一切のよどみなく、すらすらと答える。
「何度も聞いて悪いんだが、直接戦ったお前から見て、イビルアイの強さはどうだった?」
「…レベルで言えば50以上、一対一での戦闘においては、プレアデスとも互角の戦いができるほどの力を有していました」
再度ユリから彼女の印象を聞いたニシキは、うーんと考え込む。
「ニシキさん、数か月前の報告会でもイビルアイのことについては議論になったと思うんですけど、彼女がどうかしたんですか?」
「いや、彼女は人間ではないって話をしたと思うんですけど、もしかしたら俺たちと同じで、ユグドラシルのプレイヤーかもしれないんですよ」
「え⁉、それ、どういうことですか⁉」
アインズは、あからさまに動揺して見せる。
彼女の前で英雄を演じ、剰え腕に抱えた少女が同じ世界から来たかもしれないと言われれば、それもそうなる。
「可能性の話ですよ?…実は、彼女が所属する蒼の薔薇のティアとティナという女性に修行を付けることになったんですが、その際に彼女たちがレベルアップの概念を知っていて、詳しく聞いたらイビルアイからその知識を得ていたとのことだったので、もしかしたらと思ったんですよ」
「…なるほど、確かに、この世界にレベルという概念がないのは調査済み…。まあ、代わりとなる難度という指標がありますが、確かにレベルアップという言葉と概念を知っているのならば、その可能性もありますね…」
「まあ、彼女自身がプレイヤーじゃなくても、俺たち以外のプレイヤーと繋がりがある、あった可能性もありますね…。そこで、アインズさん…いえ、正確にはモモンにお願いがあるんですよ」
アインズは、自身が英雄として演じているモモンの名が出たことで、一つの気づきを得る。
「なるほど…。モモンとしてなら、彼女との面識もあるし、関係性も悪くない…。彼女について、それとなく探るってことですね…」
「そういうことです…。ニシキ、モモン、ヘロヘロ、アインズの4者…正確には3者ですが、これらがプレイヤーであるという情報は既に法国には伝えていて、帝国にもヘロヘロさん経由でそれとなく伝わっています…。彼女がその情報を得る機会がないとも言えないですし、もし彼女がプレイヤーまたはそれに準ずるものであったとしたら、接触してくるのは目に見えています」
「なるほど…。向こうが勘付く前に、先手を打つということですね…」
「ええ、といっても、向こうももう気づいているかもしれませんが…。それでもモモンとしてなら相当楽に探れると思うんですよ」
アインズは、小さく首を傾げた。
「それはなぜそう思うんですか?面識があるという点では、ニシキさんも同じですよね?」
「え…?」
ニシキは、思わずずっこけそうになるが何とかその場に踏みとどまって見せる。
「まさか…気付いてない?」
「…はい?」
反応から見て、まず間違いなかった。
「えっと…イビルアイは、ほぼ確実にモモンに惚れていますよ?」
「は?」
アインズは言葉を意味を理解できず、呆けた様子を見せる。
「気付いてなかったのかよ…。マジでポン骨じゃねーか…」
ニシキは、隣にいる童て…アインズの様相に、大きくため息をついた。
1か月後…。
「なるほど…どうやら、私はあなたに対しての評価を多少なりとも改めなけらばならないようですね…。正直、ここまで迅速かつ確実に事を進められるとは思っていませんでしたよ」
「お褒めに与り、光栄でございます」
聖王国の南部に位置する、とある都市の城の一室で、真っ黒なスーツに身を包み、不気味な仮面を付けた悪魔が、目の前の男に関心を見せる。
「報告通りであれば、南部の保守派の8割を掌握したということになりますね…。既に準備は整っているのですか?」
「私の準備は、既に…。ですが各保守派の準備に関しては、今しばらくの時を頂ければと思います」
男は、その悪魔に深々と頭を下げる。
「理解しました。であれば、引き続き準備を進めていただければ結構です。それで、今後の流れですが、あなた自身の口から説明して頂けますか?齟齬があるといけませんので」
そうして男の説明を、黙して聞いていた悪魔は、大きく頷く。
「よく理解していますね。特に訂正すべき点はございません…」
「ありがたきお言葉でございます…しかし、不安が一つ…」
「なんでしょう?」
男が漏らした言葉に、悪魔は些少の怪訝を抱く。
「黒金は、影分身なる能力を有しております。本体に比べればその力は劣るという情報でございますが、聖王女の傍で護衛をしているとなると、いささか作戦に支障がでるのではないでしょうか?」
「それならば心配はいりません。いくら黒金といえども、ヤルダバオトと…この私と刃を交える可能性がある以上、影分身は解除するほかありません。宮廷会議が始まりを見せる頃には、聖王女の傍に黒金の姿はありませんよ」
男の言う不安に、悪魔は一度息を吐くようにして笑うと、即座にそれを払って見せた。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97
※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1
・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M
・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M
・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M
・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1