弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

35 / 38
拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第35話 宮廷会議

ローブル聖王国、首都ホバンスの宮殿、聖王女執務室。

 

現在、宮殿内は通常よりも身なりの良い人々が数多くいる。

 

近々、宮廷会議なるものが開催されるためだ。

 

そのため、聖王国全土の主要な王族、貴族が集まり始めているのだ…。

 

さて、いつの間にか弟子になっていたレメディオスとの日課である訓練を終え、カルカの元へと戻ったニシキは、執務室内の異様な空気を感じとる。

 

許可の上で入室すると、カルカとケラルトが有無も言わさずに声を掛けてくる。

 

「ニシキ様ッ!よいところに来てくださいました!」

 

「緊急事態です!」

 

2人の只ならぬ雰囲気に、ニシキは思わず身を固める。

 

「一体何があったのですか?」

 

「悪魔です!ヤルダバオトと思われる悪魔が南部の城塞都市、デボネ近郊の村々を襲ったそうなのです!」

 

ケラルトの叫びに、ニシキはギョッと目を見開く。

 

カルカとケラルトからすれば、自身と互角の大悪魔、魔皇ヤルダバオトが現れた可能性による驚きであろう。

 

しかし、ニシキの心情は違っていた。

 

まさかそんなはずは…と言った様子だ。

 

ヤルダバオトとは、デミウルゴスなのである。

 

つまりは、仲間である。

 

もちろん、王都襲撃や帝都襲撃などのさいに、アインズもニシキもヘロヘロも戦いを繰り広げたが、それは計画の上での戦闘行為であり、全員がそれを承知し、理解したうえでの行動であった。

 

しかし、ニシキはヤルダバオトが聖王国の南部に、それも村々を襲うなどという計画を知りえてはいなかった。

 

俺が話を聞いていなかったのか?…いや、そんな大事なことを聞き流すことなどありえない。

 

悪魔違い?可能性は低いが、裏切り?、反抗?…色々な感情がニシキの中で渦巻くが、今この場で考えるわけにはいかない。

 

目の前には、カルカとケラルトがいるのだから。

 

「一先ず、詳しく教えていただけますか?」

 

カルカ達は、真剣なニシキの様相を見て、この上ない頼もしさを抱く。

 

「つい今しがた、南部のデボネの兵団長から、早馬による伝令が届きました。内容は、先ほども申し上げた通り、デボネ近郊の村が悪魔の襲撃にあったというものです」

 

「…被害の方は?」

 

「早馬での伝令のため、被害の詳しい記載はないのでわかりかねますが、恐らく相当な被害かと思われます」

 

カルカの予想は正しいだろう。

 

ニシキも同じ意見であるが、もしその悪魔がヤルダバオトであり、村が襲われたとあれば、城塞都市ですら一夜にして…いや本気であったならば小1時間で灰燼に()す。

 

常駐の兵士すらまともにいない村落では、ヤルダバオトから逃げることすら難しいだろう。

 

思わず拳を握りしめる。

 

なにを考えているんだという気持ちが、沸々と込みあがってくる。

 

「…それで、その悪魔は今どこに?」

 

「それが、消息不明のようなのです」

 

「どうことですか?…すでに討伐されたというわけではないですよね?」

 

「わかりかねます…。ただ、もしかしたら、既にデボネが落ちている可能性も…」

 

ケラルトの懸念はもっともであろう。

 

彼女からすれば、悪魔が消息を絶ったというというよりは、悪魔の居場所を含め、状況を伝え来るものがいないという意味に捉えていた。

 

たまたま襲われた村の近くにいたデボネの兵が領主に伝え、領主が突貫工事で兵を編成。村へ出撃したというところまでが、伝令書に書かれていた内容であった。

 

第二報は未だ届いていない。

 

届く可能性はあるが、もし仮にヤルダバオトであるとするならば、恐らくいや確実にデボネから出撃した兵は全滅だ。

 

急いだほうがいい…。

 

少なくとも、ヤルダバオトとは関係のない悪魔の可能性も捨てきれないのだ。

 

そう思ったニシキは、南部で唯一飛雷神のマーキングをしている街であるデボネの近郊であったことを、不幸中の幸いだと思いながら、一つ頭に疑問が浮かぶ。

 

…なぜ、カルカは先ほど、『ヤルダバオトと思われる悪魔』と言ったのだろう?

 

嫌な予感が頭をよぎり、ニシキの背中にゾワッと嫌な寒気が走る。

 

「カルカ様…もしや、その伝令書に、悪魔の特徴が書かれていますか?」

 

「はい…。黒い異国風の服装を身に纏い、長い銀色の尻尾と巨大な黒い翼を有していたそうです。そして、顔には青を基調とした不気味な仮面を被っていたとのことです…」

 

「王都や帝都を襲撃したヤルダバオトの特徴そのものです。まず、ヤルダバオトと見て間違いないでしょう」

 

嫌な予感は的中する。

 

その特徴は、ニシキがモモンと共に王都で戦ったヤルダバオト、デミウルゴスの特徴と一致していた。

 

ここまでくれば、もう疑いようはないだろう。

 

「(嘘だろ…。裏切ったのか…。いや、でもそれならわざわざ南部を攻撃する意味が分からない…。何か意図があって…?…くそっ!凡人の俺じゃあ、あいつの考えが分からねえ…)」

 

ニシキは、苦悶の表情を浮かべながら視線を落とす。

 

それを見て、カルカとケラルトは迷うように口を閉ざす。

 

南部に現れた悪魔が、ヤルダバオトであることはほぼ確実だ。

 

このまま放置すれば、聖王国南部どころか北部すら被害を受けかねない。

 

というよりも、北部と南部を繋ぐ要所であるデボネが陥落している可能性が高い以上、既に分断に近い形になっている可能性は非常に高い。

 

そして、ヤルダバオトは強大だ。

 

目の前にいる、法国が神と認めるニシキの力なくして、聖王国が奴に対抗することは難しい。

 

だが、勝率は5割だ。

 

それは以前、王都で漆黒のモモンと共にヤルダバオトを撃退したという件で会話をした際に知りえていたことである。

 

つまり、ニシキですら勝てない可能性があるのだ。

 

しかし、そこは聖王女として、神官団長として彼に討伐を願わなければならないところだ。

 

だが、彼女たちの個人的な感情が、そこに些少の待ったをかける。

 

カルカとケラルトにとって、ニシキは特別な存在である。

 

初めての敬愛する男性であり、命の恩人である。

 

愛する人を死地に送るのか…?

 

2人は二律背反に苛まれ、その表情は更に暗さを増す。

 

だが、ニシキはそんな2人の感情に気付くこともなく、決意に満ちた目を向けていた。

 

その眼は、カルカとケラルトには覚悟を決めたものに見えた。

 

…実際には、『とにかく話を聞きに行かなければ!』という焦りによるものであるのだが…。

 

「カルカ様、ケラルトさん…。私は、本体へと情報を共有後、デボネに向かいます」

 

「ニシキ様…ッ!」

 

カルカは、椅子を押し倒す勢いで立ち上がる。

 

潤んだその瞳を見て、ニシキはようやく彼女たちとの感情の差異に気付く。

 

そして、自身との思考の違いを悟らせまいと、ふっと笑い、捨て台詞を吐くように口を開く。

 

「なに、心配には及びません」

 

「…奴と戦うと、そう仰りたいのですか…⁉」

 

その言葉に一番に反応したのは、ケラルトであった。

 

「…聖王国で奴に対抗できるのは私だけかと思います」

 

ケラルトが、うっと押し黙って見せる。

 

暫しの沈黙が生まれるが、ニシキの覚悟と決断を汲むようにして、カルカも己が覚悟を表す。

 

「そうですね…もとより、私達に選択の余地などなかったのです」

 

「カルカ様…」

 

ケラルトは、横目でカルカを見つめる。

 

カルカに、些少の足の震えが見て取れた。

 

それだけで、カルカがいかに己が感情を押し殺してニシキを見据えているのかが、ケラルトには手に取るようにわかった。

 

スゥ…と一度息を吐き、カルカは威厳ある姿を見せる。

 

「ニシキ様!聖王女の名において、あなたにヤルダバオトの討伐を命じます!!」

 

「はっ…!」

 

ニシキは、頭を深く下げ、その命に従う。

 

そしてそのまま影分身を解除しようとするが、その前にカルカが制止するように口を開く。

 

「ニシキ様!必ず、必ず無事に戻ってくると、お約束ください…!」

 

「…カルカ様」

 

カルカは、頬を赤らめながら、しかしとても真剣な眼差しでニシキを見据える。

 

「奴を斃し、無事に戻ってくるまでが……命令です…!」

 

「承知いたしました…。必ず…」

 

そう言い残し、ニシキは煙に包まれ、掻き消えた。

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓、アインズの執務室にて、本体側のニシキが大きくため息をつく。

 

そのため息には、先ほどまで含んでいた怒りはなく、アインズとヘロヘロはそれを察して、些少の安堵を胸に抱く。

 

しかし、もう一人の人物は違った。

 

真っ赤なスーツを纏った悪魔は、身体も心も震えっぱなしといった様子であった。

 

「…南部の保守派たちをどうにかしたいって話をしたのも、なんかいい作戦を考えてって言ったのも俺だもんな…。叱責は早とちりだった…悪かったなデミウルゴス…」

 

「いえ!全ては…全ては私の不徳の致すところ…ッ!弐式炎雷様が謝罪されることは一切ございません!」

 

デミウルゴスの心には、後悔と恐怖が渦巻いている。

 

ニシキが懇意にしているローブル聖王国は現在、亜人侵攻が沈黙を見せているものの、問題はそれだけではない。

 

ニシキの力をもってしても、根本から覆らないものがある。

 

というよりも、悪化の一途を辿っている問題がある。

 

それが、南部貴族派閥、通称保守派と呼ばれる存在だ。

 

保守派は、そもそもニシキが北部聖王国で台頭する前から、聖王女派閥とは軋轢があった。

 

代々男子が継いでいた聖王という地位に、女子でありながらそこに座しているカルカ・ベサーレスへの不満が事の始まりであった。

 

類まれなる美貌に、第四位階の魔法詠唱者という点がそれを可能にしたのだが、それだけであれば、保守派の力で追い落とすこともできただろう。

 

しかし、その供回りが良くなかった。

 

歴代の聖騎士として最強の力を誇るレメディオスと、頭脳明晰で弾圧と制裁を躊躇なく行うケラルト、カストディオ姉妹の存在が、保守派の妨害や策略を無にしてきた。

 

ただでさえ軋轢があったのに、それが何重にも積み重ねを見せるような不仲へと発展してしまったのである。

 

そこに追い打ちをかけるようにして現れた黒金の英雄ニシキと、その力を掌握した聖王女派閥。

 

保守派達は、自身の権威と権力の低下に、爆発寸前であったのだ。

 

だが、保守派達もバカではない。

 

怒りと反発心を心の中に何とかとどめながら、機会を窺っていた。

 

デミウルゴスは、そこを突いたのだ。

 

『保守派が聖王国を掌握したいのなら、協力して差し上げましょう』と…。

 

しかし、それは真っ赤な嘘であることは言うまでもない。

 

真の狙いは、『弐式炎雷様にとっての邪魔者を排除する』という点に他ならない。

 

しかしそこで齟齬が生まれる。

 

それは報告する機会がなかったり、弐式とデミウルゴスで考え方に違いがあったりなど、ほんのわずかなものであるが、それが重なった結果が今に至る。

 

「でも、ヤルダバオトが村を襲撃したというのも嘘…つまりは被害は出ていないわけですよね?」

 

「作戦の本質としては悪くないと思いますよ。話し合いでどうこうなるなら、ここまでこじれていなかったと思いますし」

 

アインズとヘロヘロは、異常なまでに縮こまっているデミウルゴスにそっと助け舟を出す。

 

だが、譲れない部分があるのも事実である。

 

「だが、実行前に相談をしなかったというのは問題だな…」

 

「そうですね…。報告連絡相談は基本ですからね…」

 

「大変申し訳ありませんでした…。弁明の言葉もございません」

 

デミウルゴスは、更に頭を深く下げる。

 

そんなデミウルゴスに対し、既に怒りの感情を抱いていないニシキは、ある疑問を投げかけた。

 

「だが、分からないのは、それをお前が理解していなかったとは到底思えないことだ…。お前ほどの知恵者が、なぜ報告を怠ったんだ…?」

 

ニシキの疑問はもっともである、といった具合でアインズとヘロヘロも頷く。

 

それに対し、デミウルゴスは迷うような素振りで口を開いた。

 

「恐れながら、弐式炎雷様に直接お伝えする機会がなく、ご報告が遅れてしまいました。アインズ様には書面で今回の計画書をお渡しし、承認を得ていましたので、ニシキ様にも伝わっていると思い、実行させて頂いたのですが…。しかしこのようなことは、言い訳にならないは重々承知しております。どうか、無能な私に罰をお与えくださいませ!」

 

アインズ達は、その言葉を理解するまでに、数秒を要した。

 

そして理解し、顔が引きつったニシキがオロオロと言った様子で口を開く。

 

「え…ちょっとまって…。デミウルゴスはアインズさんから許可貰ってたの?」

 

「はい。書面上ではありますが、認可を頂きました」

 

デミウルゴスは申し訳なさそうに呟く。

 

「アインズさんが許可を出したから…デミウルゴスは南部聖王国の保守派に接触して、この作戦の準備を進めていた…」

 

ヘロヘロもつらつらと呟くように言葉を並べる。

 

「その通りでございます…。ですが、ニシキ様にも直接お伝えするべきでした」

 

…ニシキとヘロヘロの視線が、アインズへと向く。

 

その視線は、信じられないものを見たような視線であり、向けられた本人が動揺しているのは言うまでもない。

 

アインズは記憶をたどる。

 

『デミウルゴスが考えて、アルベドが承認している内容なら、問題ないか…』と、中身を精査せずにひたすら魔導ハンコを押した書類たちを…。

 

「え…ちょっと待て…。あ、南部聖王国に関する作戦案ってやつがあった気がするけど…もしかしてそれか…ッ!」

 

「そうでございます」

 

アインズが、大口を開けてポカーンとしている。

 

ニシキの眉間に皺が寄る。

 

ヘロヘロがゆっくりと息を吐くのが分かる。

 

………。

 

「「悪いのお前じゃねーかッ!!!!」」

 

「ごめんなさーーーい!!」

 

叱責と謝罪の怒号が、執務室を支配した。

 

 

 

 

 

首都ホバンス、大会議室。

 

巨大な長方形型のテーブルを囲むようにして、聖王国の主要な貴族たちが集まりを見せていた。

 

上座に当たる場所は、何段か高い位置に豪華な椅子が置かれており、そこには聖王女カルカ・ベサーレスが座している。

 

現在、国の上層部が集まりを見せ、宮廷会議が行われていた。

 

普段であれば、この場で怒号が飛ぶことはない。

 

粛々と、しかし舌戦が繰り広げられるのであるが、今回は違った。

 

本来の議題を先送りし、緊急の議題がそれを齎している。

 

「南部の要所であるデボネ近郊でヤルダバオトが出たという情報は本当なのですかッ!」

 

「村が何カ所か落とされたという話も聞きましたぞッ!」

 

「デボネは…デボネの被害状況はどうなっている!」

 

「黒金は向かわせているのか⁉すぐにでも彼のいるカリンシャに使いを送るべきではないかッ⁉」

 

貴族というのは、ありとあらゆる情報網を有しているものだ

 

数日前にカルカ宛へ届いたヤルダバオト出現の一報は、デボネの兵士や領主を中心に他貴族にも伝わりを見せ、宮廷会議初日には既にカルカから事の説明をする前に、ある程度の情報を得ている貴族が多かった。

 

「どうか、お静かに願いたい。カルカ聖王女殿下より、詳しいご説明があります」

 

カルカの傍に控えるケラルトが、紛糾する貴族たちへ畏怖を込めた一言を発する。

 

彼女の恐ろしさを知っている貴族、特に南部貴族は一瞬で静寂を有し、皆の視線がカルカへと注がれる。

 

それを察して、カルカはゆっくりと、威厳のある声を発する。

 

「先日、城塞都市デボネ近郊の村で、魔皇ヤルダバオトが出現したとの報を受けました。それにより、数カ所の村落が甚大な被害を受け、デボネの兵団長を中心に討伐隊を編成の上進軍。しかし、その後の討伐隊の消息は不明。ヤルダバオトも、その姿を消しております。…そうですよね?カマーセ侯爵…」

 

説明の後、カルカは1人の中年の男へと話を投げる。

 

南部貴族筆頭であり、城塞都市デボネを領内に収める、カマーセ侯爵であった。

 

南部貴族筆頭に加え、保守派の中で最も力を持つ人物であり、いわばカルカ達の最大の政敵でもある。

 

頭髪は白髪が目立つ。侯爵というだけあり、身に着けている服装や装飾品は豪華そのものであり、しかし大きく出ている腹がそれを台無しにしている。

 

だが、さすがは侯爵というだけあり、その立ち居振る舞いと威厳ある顔つきは名前負けしていなかった。

 

「その通りでございます。ヤルダバオト襲撃の際、私は既にホバンスにおりますれば、詳細な状況はわかりかねておりますが、私の配下の者からの早馬では、そのように聞いております」

 

「なるほど…。聖王女陛下とカマーセ侯爵の意見が一致しているなると、間違いなく事実なのでしょうな…」

 

カマーセの後に次いで、それを肯定するような発言をした男は、南部聖王国の中央に領地を持つ、アテーウマ伯爵であった。

 

年の頃は30前後と若く、金髪に荒々しい見た目をした貴族であった。

 

「ふむ…。聖王国でも随一と謳われるデボネの兵士団が帰ってこないとなると…ことは重大であると認識せざるを得ませんな…。それで、聖王女陛下はどのように対処為されるおつもりですかな?…まさかとは思いますが、敵にまで強固な姿勢を見せない…などとは言うますまい?」

 

煽る様な言い方でカルカを見据える男は、頭頂部が禿げあがり、見た目だけで言えば50代に片足を突っ込みかけている男であった。

 

カルカの慈悲深さを逆に非難するような言い方に、レメディオスとケラルトがあからさまに怪訝な表情を見せる。

 

「…心配には及びません、フミダーイ伯爵。すでに、アダマンタイト級冒険者である黒金のお2人に調査と討伐を依頼しております。既に、デボネの街で対応して頂けている頃かと思います…」

 

カルカは、フミダーイのあからさまな挑発に乗ることなく、淡々と、そして威厳を崩すことなく返答する。

 

「そうですか…。それを聞いて安心いたしました。王国でヤルダバオトを撃退したという彼であれば、何の心配もありますまい…。何せ、カルカ様が直接その力をお認めになった人物ですからね…」

 

フミダーイは、下品な笑みを浮かべながら、ニシキへの信頼を口にする…ように表面上は見せている。

 

しかしその言葉に隠された意味は、『聖王女が認めたニシキが敗北したときは、あなたにも責任があるのだぞ』という比喩が含まれていた。

 

貴族社会で裏の裏の裏まで読んで生きている彼らにとっては、あからさまな言葉にすら聞こえる。

 

ヤルダバオトという国家の存亡がかかっているにもかかわらず、それでも派閥争いというのは沈静化を見せないのである。

 

些少の邪険な雰囲気を持っていた会議室であったが、ある人物が挙手をし、注目を浴びたことで一応の収まりを見せた。

 

それに気づいたカルカが、どこか安心したような表情を浮かべる。

 

「ユアライ侯爵…何かご意見がおありなのですか?」

 

カルカから声がかかり、ユアライは一度小さく頭を下げる。

 

「陛下…失礼ではございますが、我々は会議をしている場合なのでしょうか?ヤルダバオト出現は国家の危機と同義…。であれば、聖王国全戦力をもってことを進めるべきなのではないですか?…いくら過去に奴を撃退した黒金殿に依頼をしているとはいえ、任せきりというのは国としていかがなものかと存じます」

 

北部聖王国、プラートを領内に持つ聖王女派閥の重鎮であるユアライが静かに口を開いた。

 

「ユアライ侯爵の意見は至極ごもっともですが、奴が一人なのか、はたまた軍勢…悪魔どもを率いているのかわからない状況では、できることは限られるのではないのかね?」

 

「カマーセ侯爵の仰る通りです。被害が出ていると言っても、村の1つや2つ…。それでは国家を挙げて軍を編制するというのは、いささか早計ではござらんか?」

 

「私も、カマーセ侯爵とアテーウマ伯爵と同意見です。現状では大きな被害も出ていないとなると、会議を中止してまであたる事案とは考えられんな…。何より、黒金殿が全力を尽くしてくれているのでしょう?リムンを一夜にして壊滅させた、かの地獄の帝王なる怪物を斃すほどの御仁です。無用の心配であると、私は考えております」

 

南部3人衆が、ユアライの意見をあざ笑うかのように発言する。

 

しかし、当のユアライは、目線の1つも向けず、じっとカルカへとそれを固定していた。

 

「ユアライ侯爵…あなたの意見はもっともです。しかし、ヤルダバオトの動向が分からない以上、国として軍を編成することは難しいと考えています。それに、ヤルダバオトが悪魔を引き連れているという情報は、今のところ入ってきておりません。今は、黒金のお2人の働きを待つべきだと考えております」

 

「…承知いたしました。出過ぎた発言、どうぞお許しくださいませ」

 

カルカの発言をもってして、ユアライは潔く引き下がる。

 

「それで陛下…。ヤルダバオトの件も一旦この辺りでやめて、本来予定されていた議題に移りませんか?何の情報もない今、これ以上は、時間の無駄かと思います。」

 

アテーウマ伯爵が、話題を変えるように進言すると、他の貴族の何人かもそれに賛同を見せる。

 

確かに、情報が不足しているこの状況下では、ヤルダバオトについていくら議論をしたところで、解決の糸口は見えない。

 

そう判断したカルカは、その提案に乗る形で、本来の議題をもってして会議の進行を始めた。

 

 

 

 

早朝8時から始まりを見せた宮廷会議は、何度か小休憩を挟みながら続けられ、今は昼の長い休憩時間へと差し掛かっていた。

 

2時間という、食事と休息を兼ね備えたその時間は、既に1時間を過ぎ、その殆どが各々食事を終え、休息へと移行していた。

 

カルカ達ローブル3姉妹も例外ではなく、執務室にて寛いでいたのであるが、突然カマーセ侯爵からヤルダバオトの件で個人的な謁見の申し出があったため、玉座の間へとその身を現していた。

 

「それで、カマーセ侯爵。ヤルダバオトの件で話があるとのことでしたが、先ほどの会議では言えないことだったのですか?」

 

カルカは、カマーセに対し、怪訝な様相を見せる。

 

休息の時間を奪われただけでなく、ヤルダバオトという重大な事柄の情報を隠していた可能性があるのだから、それもそうであろう。

 

「申し訳ありません、陛下。あの場ではどうしてもお伝え出来ぬことでしたので…」

 

「そうですか。それで、一体何でしょうか?」

 

カルカはその言葉を鵜呑みにしているわけではないが、彼があからさまに弱み、政敵であるカルカに対して攻撃の的となるような行動をするとも思えなかったため、その話を些少信用していた。

 

本当にあの場では話せない、ということがブラフであるとは、どうしても思えなかったのだ。

 

「はい。ヤルダバオトの一件なのですが…実のところ、村は襲撃されていないのです」

 

カマーセの言葉は、カルカだけでなく、傍にいるカストディオ姉妹をも驚かせる。

 

「それは…一体どういうことでしょうか?」

 

「そのままの意味でございます。村は襲われていないのです」

 

「…嘘、だと仰りたいのですか?」

 

「どういうことだ!カマーセ侯爵!!」

 

カルカとレメディオスが、それぞれ熱量は違くとも、圧倒的な不信感をカマーセに向ける。

 

しかし、カマーセは一向に弁明しようとはしない。

 

「何をお考えなのですか?…まさか、ヤルダバオトの出現すらも嘘であると?」

 

ケラルトは、声のトーンを何段階も下げ、尋問するかのように感情のない言葉を向ける。

 

「ヤルダバオトが出現したというのは、本当のことでございます」

 

「…話が見えてきません。きちんと仰っていただけますか…」

 

カルカは、含みある言い方を続けるカマーセにあからさまに不満を露にする。

 

政敵である保守派にも多少の慈愛をもって接してきたカルカにとって、それは非常に珍しいことであった。

 

「申し訳ありません。ヤルダバオトが出現した…というのは語弊がありましたね…。正確には出現する…という言い方の方が正しいでしょう」

 

「お前はさっきから一体何を言っているんだ⁉」

 

痺れを切らしたレメディオスが、ズカズカとカマーセに詰め寄る。

 

それを見たカルカとケラルトが止めようと唇を動かすが、カマーセの一言に遮られる。

 

「おっと、カストディオ聖騎士団長殿…。それ以上近づくと…」

 

カマーセが言い切る前に、何かがレメディオスを襲う。

 

真っ黒な影のようなものが、レメディオスを抑え込むようにして現れる。

 

「な、何だ⁉これは⁉」

 

いきなり現れた黒い影に、カルカ達も焦りを見せる。

 

「カマーセ侯爵⁉これは一体どういうことですか⁉」

 

「彼は、シャドウデーモンという、隠密に長けた悪魔です。あなた方でも気付けないほどの隠密性でしたでしょう?」

 

「シャドウデーモン?悪魔ですって…。カマーセ侯爵…!あなたまさか…⁉」

 

ケラルトの問いに答えたカマーセに、カルカが一抹の疑惑を抱いたその瞬間……。

 

玉座の間の空気が変わった。

 

圧倒的な何かが、支配するような感覚。

 

それを感じ取ったカルカ達は身を震わせ、しかしカマーセは狂ったような笑みを浮かべている。

 

「どうやら、計画通りのようですね…」

 

その声の主は、どこか高貴な紳士の様相を思わせる男であった。

 

しかし、その服装と存在を見て、カルカ達は大きく目を見開く。

 

真っ黒な異国風の服装に、青い不気味な仮面、銀色の太くて長い尻尾…。

 

パッと見ただけで、それが何者であるのかを理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

カマーセは、その存在に片膝を突いて平伏する。

 

本来であれば、聖王女であるカルカに向けるべきそれを、その男に向けていた。

 

「お待ちしておりました…。ヤルダバオト様」

 

カマーセの平伏を歯牙にもかけず、ヤルダバオトはカルカ達を見据えていた。

 

 

 

 

 

 




※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97

※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1
・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M 
・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M 
・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M 
・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。