弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

36 / 38
拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第36話 クーデター

「お、お前が…ヤルダバオトッ!」

 

「どうして…ここに…」

 

シャドウデーモンを引き剝がし、聖剣を引き抜いたレメディオスと、玉座の間から立ち上がったカルカが、驚愕の表情を浮かべながら口を開く。

 

「そうですね…。ご説明差し上げた方がよろしいですか?ケラルト・カストディオ神官団長殿」

 

非常に礼儀正しく、しかし、皮肉たっぷりなヤルダバオトの言葉に、名指しされたケラルトが、緊張と恐怖を抱きながらも、キッと視線を鋭くする。

 

「…カマーセ侯爵と手を組み、クーデターを起こさせた…ということですか?」

 

ケラルトの発言に、カルカとレメディオスが目を大きく見開く。

 

そこには、怒りの感情が見て取れた。

 

「はい、その通りです」

 

「わかりませんね…。なぜあなたがこんな男と手を組んだのですか?…あなたにとって、聖王国にそこまで魅力があると?」

 

「いえ、私は、聖王国に興味はありません…。どちらかというとそれは、カマーセ侯爵の方ですから…」

 

ヤルダバオトの発言を受け、カマーセが大きくゆがんだ表情を見せる。

 

その下品な笑みに、カルカは非常に不快感を覚えながらも、ヤルダバオトの目的を探ろうとする。

 

嫌な予感は感じていたが、確認しないわけにはいかなかった。

 

「では、あなたの目的はなんです?」

 

「…おわかりになりませんか?聖王女、カルカ・ベサーレス殿」

 

趣味の悪い悪魔だ。

 

カルカがヤルダバオトに抱いた感情であった。

 

「…ニシキ様、ですか?」

 

「ご推察どおりです」

 

苦悶に似た表情が、カルカに顔に浮かび上がる。

 

最悪のシナリオが、奴の考えている計画が垣間見える。

 

「…カマーセ侯爵と手を組み、南部にあなたが現れたという虚偽の情報を私たちに送り、ニシキ殿を派遣するように仕向けた…。ニシキ様がいない間に聖王女派閥を排除し、ニシキ様が戻ってきたところを襲撃する…と言ったところですか?」

 

「な、なんと卑劣なッ!!」

 

ケラルトがその頭脳を活かして予測を立て、それを聞いたレメディオスが激高する。

 

「ふむ…。まあ、及第点と言ったところでしょうか…」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

ヤルダバオトの試すような口ぶりに、カルカは低く唸るように言葉を放つ。

 

「まず一つ…私が組んだのはカマーセ侯爵ではありません」

 

「何を言っている!!今こうしてカマーセが裏切っているだろうッ!!」

 

レメディオスがそう叫んだ途端、玉座の間の扉が乱雑に開かれる。

 

そこから数多くの男が入ってくる。

 

その表情は一様によくない笑みを浮かべており、それがヤルダバオトの発言の意図を察していた。

 

「アテウーマ伯爵に…フミダーイ伯爵まで…ッ!ま、まさか…」

 

「はい…。南部保守派の主要貴族、その8割と手を組みました…」

 

「あなた達…ッ!なんてことッ!」

 

カルカが、悲痛の叫びを口にする。

 

しかし、カマーセやアテウーマ達は、ヒヒッと笑い声をあげるだけで、特に口を開くことはなかった。

 

「き、貴様らー!弁明すらないのかッ!!悪魔なんぞと手を組みやがって!!」

 

レメディオスが聖剣を握りしめ、ヤルダバオトに飛び掛かろうとする。

 

それを見て、控えていた聖騎士団も腰に差した剣に手をかけるが…。

 

「『その場を動くな』」

 

「「「ッ!!」」」

 

ヤルダバオトの発言により、カルカ達はビクッと身を固める。

 

「な、なんだ…これは…ッ!」

 

「身体が…」

 

「動かない…ッ!」

 

カルカ達と同様に、玉座の壁際に控えていた聖騎士や神官たちも動きを止める。

 

全力で全身に力を籠めるが、その努力も空しく、身体は言うことを聞かない。

 

「…さて…。ああ、そうでした…。もう一つ、ケラルト神官団長の予測には誤りがあります」

 

ヤルダバオトが思い出したように口にした言葉は、カルカ達の視線を集める。

 

「貴方は、戻ってきたニシキ殿を私が襲うと言いましたが…果たしてその必要がありますでしょうか?」

 

「…どういう…ッ!ま、まさか!!」

 

ケラルトは、今までにない驚きと恐怖を混ぜ合わせたような表情を浮かべる。

 

ヤルダバオトが目の前にいて、且つ20人を超える、裏切った南部貴族…。そして、先のヤルダバオトの発言…加えて動きを封じられた自分たち…。

 

ケラルトを震わせるには、十分すぎる状況であった。

 

「…あなた方が人質に取られた状態で…ニシキ殿は剣を抜くことができますかね…?」

 

ヤルダバオトが、仮面越しにも笑みを浮かべているのが手に取るようにわかる。

 

「この…ッ!卑怯者…ッ!」

 

「くそがッ!!」

 

カルカとレメディオスも、ヤルダバオトの発言でその意味に気付き、炎を宿したような瞳を向ける。

 

「ふふっ…。いい表情です…。嫌いじゃない表情ですよ…。そう、私はただ…あなた方が人質にとられ、何の抵抗も出来ないニシキ殿を殺すだけのこと…。襲う必要などないのですよ…」

 

 

 

 

保守派の南部貴族と手を組んだヤルダバオト。

 

ヤルダバオトの力で玉座の間は完全に無力化され、且つ彼の配下の悪魔たちによって、宮殿内も制圧されてしまった。

 

加えて、宮殿を中心にゲヘナの炎によって取り囲まれたその内側には、同じくヤルダバオトの配下と思われる悪魔たちが大量に発生し、聖王国側は完全な劣勢状態にあった。

 

玉座の間にいるカルカ達は、ヤルダバオトの支配の呪言によって一切の身動きが封じられ、何の抵抗もできないまま、ヤルダバオトの一挙手一投足に身を預けることとなってしまっている。

 

「さて…宮殿内は完全に私の悪魔たちが制圧に成功したようですし、後はニシキ殿が戻ってくるのを待つだけなのですが…。ただ待つというのも味気ないですね…」

 

ヤルダバオトは、手で顎を触りながら、趣味の悪い笑いを見せる。

 

一番にそれに反応したのは、カマーセ侯爵であった。

 

「であれば、ヤルダバオト様…。聖王女達の泣き声をお聞きになるというのはいかがでしょうか?…そう、女としての泣き声を…」

 

「なるほど…ニシキ殿が来るまでの暇つぶしにはなるかもしれませんね…」

 

カマーセとヤルダバオトの会話に、カルカ達の全身に悪寒が走る。

 

「な、何を言って…ッ!」

 

「ま、まさか…貴様ら…ッ!」

 

「………ッ!!」

 

ケラルトとレメディオスが、その瞳に珍しく恐怖を滲ませる。

 

カルカに至っては、声すら出ないほどの悍ましさを感じている様子であった。

 

「どうやら、この男たちは、あなた方の身体を求めているようですので…。あなた方も是非楽しんで頂ければと思います」

 

カマーセ達が、ゆっくりとカルカ達へと忍び寄る。

 

その顔には、劣情と欲望を抱いた表情が読み取れ、それだけでカルカ達は何をされるのかを感じ取ってしまう。

 

「くっ!」

 

「く、来るな!」

 

「やめなさい…ッ!」

 

表情と言葉で、威厳を示しながら抵抗するが、しかし身体が動かず、圧倒的劣勢な状況下において、恐怖が滲み出る。

 

カマーセはカルカ、アテウーマはレメディオス、フミダーイはケラルトの前へと躍り出る。

 

カマーセがカルカの顎に手を添えると、カルカは形容しがたいような表情を浮かべる。

 

「聖王女陛下…私はずっと、あなたのその美しい身体を我が物にしたいと考えていたのですよ…」

 

「…ッ!」

 

カルカは、キッと目を尖らせ、精一杯の抵抗を見せる。

 

カマーセの欲情に満ちた手が、敬愛する主人に触れたことで、レメディオスが無理に身体を動かそうとする。

 

「おっと、聖騎士団長殿、あなたのお相手は、私ですよ」

 

「アテウーマッ!きさま~~!!!」

 

アテウーマの手が自身の足を這う様にして触れるのを感じたことで、悍ましい不快感が襲う。

 

「フミダーイ伯爵…このようなことをして、ただで済むと思っているのですか?」

 

恐怖と怒りに支配されているカルカとレメディオスとは対照的に、ケラルトは何とか威厳を保ちながらアテウーマへと口を開く。

 

「流石はケラルト神官団長…この状況下でも一切の弱みを見せないとは、尊敬に値しますよ…だが…」

 

フミダーイは、そう言いながら、ケラルトの、カルカよりも少し大きい乳房へと手を伸ばし、強く揉みしだく。

 

「……ッ!」

 

だが、実際にその手が欲望をもって自らの身体に触れてきたことで、一気に崩壊を見せる。

 

「所詮は女…こうして男がちょっと触れれば、恐怖で冷静など保てない…」

 

「この…クソ野郎が……」

 

「ははっ!あなたからそんな言葉が出るとは、驚きですねー」

 

フミダーイは、下卑た笑みを浮かべながら手を動かしているが、「きゃああああ!!」という甲高い悲鳴が耳に入ったことで、その手を止めてそちらに視線を移す。

 

目の前のケラルトやレメディオス達も反応を見せる。

 

なんと、カマーセがカルカの神官に似た礼装、その前部分を引き裂いていたのだ。

 

大きく形の整った乳房の殆どが露になり、艶めかしいほどの身体、その腹部までが晒されようとしている。

 

「「カルカ様ッ!!」」

 

主人の上半身が晒されかけているのを見て、ケラルトとレメディオスが悲鳴に似た叫びをあげる。

 

「想像以上の美しさですね、聖王女陛下…。そんなあなたを、これから私の手で汚すことができるとは…。心躍りますね…」

 

「ひぃ…いや…やめて…」

 

カルカは、上半身の殆どが晒され、剰え目の前にいるカマーセにそれをまじまじと見られている状況下に、思わず涙を浮かべる。

 

カマーセの手が、ゆっくりと伸びてくるのが分かる。

 

「(いや…いやだ…ッ!)」

 

カルカは、その現実を否定するように、ギュッと瞼を閉じる。

 

そして、いつぞやかと同じように、頭の中で必死に懇願する。

 

「(助けて…助けてください…ニシキ様ッ!!)」

 

…いつまでたっても、カマーセの欲望に満ちた手指がカルカの身体を襲うことはなかった。

 

「ぎゃああああああッッッ!!!」

 

代わりに、これでもかという悲鳴が湧き上がる。

 

その悲鳴を受け、カルカは大きく目を見開く。

 

目の前にいるカマーセの右腕が、肘の少し下で切断されていた。

 

カマーセは、痛みに悶えながらカルカから一歩ずつ後退する。

 

何が起こったのだろうか…。

 

それを自身の中で理解する前に、抑揚のない声が玉座の間に響く。

 

「これは驚きましたね…。随分とお早いご到着だ…」

 

カルカは、ヤルダバオトの言葉と、レメディオスとケラルトの視線から、これを為した人物が自身の後ろにいることを理解する。

 

だが、振り返りたくとも、それが誰であるのかを確認したくとも、呪言の影響でそれは叶わない。

 

後ろから、黒い布がバサッという音を立ててカルカの身体を包みこむ。

 

その布は、露になったカルカの身体を隠すようにして包み込む。

 

「ぐっ!」「がっ!」

 

瞬間、フミダーイとアテウーマからも血が噴き出し、その場へとうずくまる。

 

何かとんでもなく速い物体が、2人に衝撃したようであった。

 

カルカは、その様相に驚きを見せながらも、後ろに突然現れたであろう人物が、ゆっくりと前へ歩む音を耳で捉える。

 

そして自身の横を通り過ぎる、と言ったところで、ヤルダバオトが再び口を開いた。

 

「お待ち申し上げておりました…黒金のニシキ殿…」

 

カルカは、熱のこもった吐息と、圧倒的な安堵をその身に宿す。

 

かつて感じたその感情を…、今まさにもう一度、味わっていた。

 

 

 

 

 

カルカは、視界に入った、全身を黒を基調とした防具を身に纏っている人物の背中を、大きな目で見つめている。

 

瞳に溜まっていた涙が、ボロッと頬を伝って落ちる。

 

「ニ…ニシキ…様…」

 

か細く、それこそ発した自分ですら聞き取れないほどの声であったが、それでもニシキは反応を示してくれた。

 

振り返った顔には、いつもの優しさと気高さがあった。

 

その顔と、絶望的な状況から救われたことで、思わず頬が赤く染まるのを感じるカルカであったが、それを気にする余裕もなく、じっとニシキの顔を眺める。

 

「遅くなって申し訳ありません、カルカ様」

 

ニシキは、微笑を浮かべてそう答えると、再びカルカから視線を外す。

 

そして、その外した視線は、同じく黒い服装を身に纏った、しかし人間にはありえない長く太い尻尾を有する人物へと移ろいを見せる。

 

「…やってくれたな、ヤルダバオト…。すっかり騙されたよ」

 

「光栄ですね…、貴方ほどの御方を騙せたというのは…。しかし、これほど早く戻ってくるとは思いませんでしたよ…。本来の計画では、聖王女達がこれ以上ないほどまでに汚されてから、あなたが現れる予定だったのですが…。なぜこれほどまでに早く到着することができたのですか?」

 

ヤルダバオトは、計画通りに行かなかったとは思えないほどの冷静な口調で答えている。

 

ケラルトは、とりあえずは目の前の下卑た男の脅威から解放されたことで、明晰な頭脳が復活を果たす。

 

「…飛雷神の術…ッ!」

 

ケラルトの言葉に、カルカとレメディオスも理解に至る。

 

「…飛雷神の術…?なるほど、どうやらそれは、転移魔法に似た忍術のようですね…」

 

「ほう…?名前だけで術の本質を見透かすとは…。やはりお前は随分と頭の回る悪魔のようだ」

 

「いえいえ、ただ、この状況を見て、名前の意図を汲み取っただけのこと…。しかし、あながち間違えではなかったようです…。あなたにそのような能力があるとは思いませんでしたよ…。忍術というのも奥が深い」

 

ヤルダバオトは、どこか本心から喜んでいるような雰囲気を見せる。

 

ニシキがその両手に短剣を携えても、その喜びに似た様相は崩れない。

 

「この状況下で、この私と戦うつもりですか?…たった一人で、動くこともできない聖王女達を守りながら、この私に勝てるとでも…?」

 

ヤルダバオトの言葉に、カルカ達は再度苦悶の表情を見せる。

 

ヤルダバオトは、自分たちを人質にしようと考えているのだ。

 

ニシキの到着が予定よりも早く、完全な人質として利用することが敵わないこの状況下であっても、奴の力で指先1つ動かせないカルカ達は、格好の餌食となる。

 

実際、戦闘能力だけで言えば圧倒的に優位である南部貴族共に、いいように身体を弄られていたのがその証左である。

 

今の彼女らには、何一つ抵抗する手段がないのだ。

 

それはつまり、ニシキによって大きな足かせとなるのは火を見るより明らかであった。

 

カルカやケラルト達は、役に立たないどころか、足手まといとなってしまっている自分たちが情けなく、そして悔しく、鋭い瞳にじわりと涙を浮かべている。

 

だが、ニシキはそんな状況下であっても、一切の動揺を見せない。

 

「確かに、一見すれば圧倒的に不利な状況だが…。お前の言葉には驕りと誤りがある…」

 

「ほう?それは一体何でしょう?是非教えて頂きたいですね」

 

ヤルダバオトは、ニシキの言葉に揺さぶられることなく、余裕たっぷりと言った様子であった。

 

「…お前はカルカ様達を呪言で縛ったまま、全力の俺と戦えるのか?」

 

「…ッ!」

 

そう言い終えるのと同時に、ニシキは魔力を解放する。

 

純粋な魔法詠唱者に比べれば、その魔力量は半分より少し多い位であったが、ヤルダバオトを含めたこの場にいるものを驚かせるのには十分すぎるものであった。

 

それこそ、ヤルダバオト以外はニシキが解放した魔力の重圧だけで身動きが取れないほどのものであり、支配の呪言の影響を受けていない南部貴族たちの動きを封じる。

 

「なんなの…これ…」

 

この中で唯一、かつてニシキの力の解放を垣間見たことのあるケラルトが小さく呟く。

 

自身がニシキにお願いし、力の一端を見せてもらった時を思い出していた。

 

だが、その時とは比べ物にならないその力に、ケラルトは驚愕を超えた表情を浮かべる。

 

「(これが…ニシキ様の全力…ッ!こんなの…ありえない…ッ!)」

 

ケラルトはふと自身の身体が、些少の動きを有するのを覚える。

 

ニシキの魔力に充てられて自由には動けないのであるが、その身体には、ヤルダバオトの支配を感じなかったのだ。

 

「(まさか…まさか魔力だけで…ヤルダバオトの力を解除しているの…ッ!)」

 

ケラルトは、驚きを畏怖と恐怖に切り替える。

 

「これは…ッ!なるほど、どうやら私は、あなたを過小評価していたようです…。まさか、これほどの力を有していたとは…ッ!」

 

ヤルダバオトから、余裕の一切が消え失せる。

 

カルカ達でもわかるくらいの警戒を見せていた。

 

しかし、やはりどこか嬉しそうな雰囲気がヤルダバオトにはあた。

 

「…しかし、それでもあなたが不利なことに変わりはありませんよ…。あなたには、守るべきものが多すぎる…」

 

ヤルダバオトの言葉に、ニシキはふっと笑みを浮かべる。

 

その笑みに、ヤルダバオトは不穏な様相を見せる。

 

「言ったはずだ…。驕りと誤りがあると…。お前は俺の力を自分よりも下だと思っている…。それが驕りの部分だ…」

 

「ほう?では、これとは別に、誤りがあると?」

 

ヤルダバオトが更に不穏な様相を見せたタイミングで、玉座の間の扉が吹き飛ぶ。

 

轟音が玉座の間に響き渡り、皆の視線が一斉に吹き飛んだ扉へと集まる。

 

扉を背に、戦車の悪魔が事切れて転がっていた。

 

それは遠目で見ても理解できるほどに、焼けこげている。

 

「…理解できたか?…お前の言葉の誤りを…」

 

扉が吹きとんだことで、玉座の間と廊下が吹き抜けとなる。

 

そして、元は扉があった場所に、一人の人間のような存在が立っているのが見えた。

 

「…これは失念しておりました…。『黒金』とは、何もニシキ殿1人を指す言葉ではありませんでしたね…」

 

粉塵に似た煙が晴れ、その姿が誰の目にも鮮明に映る。

 

それに合わせるようにして、ヤルダバオトがゆっくりと口を開いた。

 

「黒金の…ナーベラル…」

 

黒い髪を、後ろで一つに束ね、絶世の美しさを有する女性が立っていた。

 

 

 

 

 

ヤルダバオトは、ニシキとナーベラル、その両方の動きに警戒しながら、その視線をナーベラルへと固定する。

 

「…まさかあなたが、難度150を超える戦車の悪魔を斃すほどに強いとは思いませんでした…」

 

ヤルダバオトの言葉に、反応を見せたのはニシキでもナーベラルでもなく、カルカ達であった。

 

その驚きは、ナーベラルの実力もさることながら、その美しさと凛々しさであった。

 

初めて会うわけではないカルカやレメディオス、ケラルトですら驚きで声を出せないのだ。

 

初めて見た南部貴族たちや、聖騎士や神官たちの驚きなど、言うまでもないだろう。

 

だが、ナーベラルはその驚きと雰囲気に、一切反応を示さず、その視線はただ一点を、ニシキを捉えていた。

 

「ニシキさーーん…。宮殿内に侵入した悪魔は、この玉座の間を除き、全て排除しました」

 

ナーベラルの言葉に、ヤルダバオトが一瞬動揺したような様子を見せる。

 

「ほう?…宮殿内には、1000を超える悪魔を投入していたのですが…。いや、戦車の悪魔を斃せるほどの貴方であれば、嘘ではないのでしょうね…」

 

ヤルダバオトの称賛するかのような言葉に、カルカ達は感嘆に似た表情を浮かべる。

 

ニシキと同等の力を持つと言われるヤルダバオトが、まるで褒めるかのようなその様相に、驚きを隠せなかったのだ。

 

ナーベラルが一瞬、その言葉に頭を下げたように見え、一瞬疑問がカルカ達の心に生まれるが…。

 

「…ナーベラル」

 

「はっ…」

 

ニシキの言葉に、先ほどとは比べものにならない平伏を見せ、先の疑問を完全に吹き飛ばすことになる。

 

「お前は南部貴族と隠れてる悪魔達から、カルカ聖王女様たちを守れ…。俺は、ヤルダバオトを討つ…!」

 

「承知いたしました」

 

ナーベラルが腰に差した刀を抜き取ると、南部貴族たちは酷く狼狽したように震える。

 

しかし、そんな南部貴族とは対照的に、一切の狼狽を見せないヤルダバオトに、ニシキは低く唸るような声で言葉を投げる。

 

「…場所を移すぜ…ヤルダバオト…」

 

「…その提案に、私が乗るとお思いですか?」

 

ヤルダバオトは、煽るようにしてニシキへと返答を返す。

 

「まあ、そういうと思ってたよ…」

 

ニシキの姿が、一瞬で掻き消える。

 

ヤルダバオトは大きく目を見開くが、それと同時に、自身の右わき腹に何かが当たる様な感触を得る。

 

視線をそこへ移すと、ニシキが右手を添えている姿が目に映る。

 

それに反応しようとするが、それは間に合うことがなかった。

 

「『雷遁・雷撃波』…」

 

ニシキの掌と、ヤルダバオトの間に、円状の雷の衝撃波が発動し、ヤルダバオトが玉座の間から、宮殿外へと吹き飛ばされる。

 

ヤルダバオトと思われるそれが、首都ホバンスの城下町へと衝撃をもって撃墜する。

 

「…ニシキ様、ご武運を…」

 

「お前もな、ナーベラル」

 

ナーベラルの言葉を短く返し、ニシキは玉座の間からその姿を消した。

 

 

 

 

 




※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv97

※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1
・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M 
・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M 
・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M 
・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。