弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第37話 白焔

ニシキの働きによって、玉座の間からヤルダバオトが離れたことで、支配の呪言が解除され、カルカ達はその身を自由に動かせるようになる。

 

それと同時に、そんなに隠れていたのかと思わせる数…。

 

優に100を超える様々な悪魔たちが現れる。

 

「あ、悪魔共ッ!私を守れ!!」

 

「聖王女達を捕らえろッ!!」

 

カマーセとアテウーマが、それぞれニシキから受けた傷の痛みに耐えながら、みっともなく叫び散らかす。

 

先ほどまで圧倒的優勢を盾にふんぞり返り、自分たちの身体を弄っていた貴族どもに、カルカ達は軽蔑の視線を向ける。

 

だが、大して脅威とならないカマーセ達を視界の端に移し、カルカは大量の悪魔達へと視線を変え、最後にナーベラルを捉える。

 

「ナーベラル様ッ!まずは、この悪魔どもの掃討に御助力頂けますか⁉」

 

「…無論です」

 

ナーベラルは、そう言った途端、悪魔の間を縫うようにして翔る。

 

ナーベラルが翔るたびに、悪魔達は斬り伏せられ、霧のように飛散して消滅する。

 

その動きは、聖騎士団団長であるレメディオスを遥かに超える力と速度で、どこかニシキを思わせるような強さを有していた。

 

「(強い…ニシキ様に及ばないのは確実だけれど、少なくとも私達よりはるかに強い…ッ!)」

 

ケラルトは横目でナーベラルの動きを見据えながら、目の前の悪魔に聖なる光線を放つ。

 

カルカやレメディオスも周りの悪魔を掃討している様子が見え、100を超える悪魔が跋扈している場であっても、一切負ける気がしなかった。

 

カルカも同じように考えているのか、ニシキから掛けてもらった黒い布を纏いながら、威厳のある声を発する。

 

「この場にいる聖騎士、神官、その全員に命じます!悪魔達を確実に掃討し、裏切り者を捕縛しなさい!!」

 

カルカの宣誓に、聖騎士や神官たちは大声をあげながら、戦いに身を投じる。

 

悪魔の背中に隠れるようにしている南部貴族は、まるでその悪魔達を自分の配下であるかのように命令し、叫び散らかしている。

 

聖王女派閥と、南部貴族の争いが、玉座の間で騒々しく始まった。

 

 

 

 

 

ニシキによって、首都ホバンスの城下に吹き飛ばされたヤルダバオトは、まるで一切のダメージを負っていないかのようにゆっくりと立ち上がる。

 

立ち上がったそのタイミングで、ニシキが目の前に着地するようにして現れる。

 

「素晴らしい…あの状況下でこの私を玉座の間から引きはがすとは…」

 

「…自分から跳ぶように吹き飛んでったお前に言われても、嬉しくはないな…」

 

ニシキとヤルダバオトの会話を聞いているであろう、聖王国の人間は見当たらない。

 

しかし、それが確実性のあるものでないため、どちらも演技を忘れない。

 

「それでは…その御命、頂戴いたします」

 

ヤルダバオトは悪魔の諸相・鋭利な断爪を発動させ、真っ黒な長く細い爪を両手に携える。

 

「とれるものなら、とってみろ。ヤルダバオト!」

 

それに対し、ニシキは二振りの短剣、『天照』と『月読』を構える。

 

両者の間に暫しの沈黙が流れ…。

 

衝突。

 

両者がぶつかり合った場にある瓦礫は、悉くがその衝撃によって四方八方へと飛び散った。

 

 

 

 

 

玉座の間における聖王女と南部貴族(悪魔)との戦闘は、些少の時間を要したものの、ナーベラルを筆頭にローブル三姉妹の力もあり、終始優勢な形で決着がついた。

 

悪魔の殆どがナーベラルによって屠られたことで、すでに南部貴族たちに抵抗の意思はなく、項垂れるようにしてお縄についていた。

 

「カルカ様ッ!今すぐにこの裏切り者どもを死刑にすべきですッ!」

 

縄で縛られ、身動きの取れない南部貴族たちを見下しながら、レメディオスは1人の貴族の首元に聖剣を突きつける。

 

「ま、待ってくれ…。わ、私たちはヤルダバオトに脅されていたんだッ!」

 

首元に剣を突き付けられたカマーセ侯爵は、怯えきっていた。

 

「黙れッ!どんな理由があろうと、カルカ様への不届きの数々、万死に値するッ!!」

 

レメディオスは怒り心頭であった。

 

それもそうであろう。

 

目の前の男は、自身の敬愛するカルカに逆らっただけでなく、その御身を欲望のままに犯そうとしたのだ。

 

…あの時ニシキが助けに来ていなければ、カルカは自分たちと聖騎士達の前で屈辱的なまでの凌辱を受けていたことだろう。

 

まあ、それは叫び散らかしているレメディオス本人や、その妹ケラルトも同じ状況ではあったのだが…。

 

もし…、とあったかもしれない未来を想像するだけで、はらわたが煮えくり返る思いであった。

 

聖剣の切先が、怒りで震えるのが、自身でもわかるくらいであった。

 

「レメディオス、この者らを殺すことは許しません」

 

「カルカ様ッ!ですがっ!」

 

カルカは、黒い布を纏いながら、レメディオスに剣を引くように視線を送る。

 

レメディオスは納得がいっていない様子を見せたが、同じような視線をケラルトからも受けたことで、渋々と言った様子で引いて見せる。

 

「おお、さすがは慈愛の聖女と言われるカルカ・ベサーレス聖王女陛下…私、カマーセは、改めてあなた様に絶対の忠義を…」

 

「黙りなさい…」

 

カマーセがオイオイと取り縋るように口を開くが、それを待たずしてカルカが冷酷に短く言葉を発した。

 

その言葉には一切の慈悲はなく、その様相には、一欠けらの慈愛も込められていなかった。

 

また、言葉のみならず、瞳には光もなく、ただただ汚物を見るような視線を有していた。

 

その言葉と視線は、レメディオスやケラルトすら畏怖を覚えるものであり、長い付き合いであったが、今までに見たことのないものであった。

 

それ故に、カルカがどれほどの怒りを有しているのか、理解できた。

 

「仮に、あなた達がヤルダバオトに脅されていたというのが事実だとしましょう…。ですが、あなた達はその対価に聖王国を、私達を手にかけようとしたことは事実…。違いますか?」

 

「そ、それはその通りですが、我々は本当に脅されていただけで…」

 

「ガガンボ…。嘘もほどほどになさい」

 

「…ッ!そ、それは一体…ッ!!」

 

カルカの言及に、なんとか言い訳をしようと声を震わせていたカマーセであったが、ナーベラルが一枚の羊皮紙を差し出しように見せたことで、南部貴族たちは大きく目を見開き動揺する。

 

その羊皮紙には、ヤルダバオトとの協力関係の締結と、それに見合った対価、つまるところ南部貴族からヤルダバオトへの要求が書かれていた。

 

…主要南部貴族の印章と共に…。

 

ナーベラルは、その羊皮紙をカルカへと乱雑に渡し、カルカがスッと視線を落として黙読する。

 

「…どうやら、脅されていたというのも、嘘だったようですね」

 

「そ、そんなものは知らない!!本当ですッ!!」

 

カルカの冷酷な言葉と視線、見知らぬ羊皮紙に、カマーセは酷く狼狽して見せる。

 

だが、南部貴族の主張に耳を貸すものなど、誰一人としていなかった。

 

「カルカ様ッ!今こそこいつらの首をはねて…!」

 

「私は待ちなさいと言ったはずよ、レメディオス」

 

「……ッ!こいつらを…生かしたままにするというのですか…」

 

カルカの今までにない冷徹な物言いに、一瞬尻込みしたレメディオスであったが、その所業を許すまじと、なんとか具申を口にする。

 

「今はまだ、という意味よ。この戦いの後、民の前で処断致します」

 

「私も、それが良いかと思います。まあ、気持ち的には姉さまと同じで、今すぐにでも殺してやりたいくらいですが…」

 

ケラルトがいつにもまして、憎悪を抱いた視線を南部貴族たちに向ける。

 

カルカの見たことのない冷徹な視線と、ケラルトの圧倒的な憎悪の視線に、南部貴族たちは更に縮こまる。

 

「この者達を地下牢に閉じ込めておきなさい」

 

「「「はっ!!」」」

 

カルカの命令により、聖騎士達がゾロゾロと南部貴族たちを乱雑に押し引き、玉座の間から連れ出す。

 

悪魔との戦闘でボロボロとなった玉座の間に静寂が訪れると、カルカはナーベラルへと身体を向け、ゆっくりと頭を下げる。

 

「ナーベラル様、この度は御助力頂き、ありがとうございます。あなた様がいらっしゃらなければ、今頃我々は…」

 

「下等……聖王女…さーまが頭を下げるべきは、私ではありません。あなた達が助かったのは、ニシキ様の類まれなる洞察力と行動力によるものです」

 

「それは…どういうことでしょうか?」

 

ナーベラルの言葉に、ケラルトが小さい呟きをもってして疑問を投げかける。

 

「…デボネ到着時、ヤルダバオトの襲撃が近くであったという噂はなく、街の雰囲気からも一切、その一端を垣間見ることはできませんでした。町の住民や兵士たちに聞いても、何の情報も得られなかった。…それを怪訝に思ったニシキ様が、危険を承知の上で領主であるカマーセ侯爵の邸宅に侵入。先ほどの書面は、そこで発見したものです。ニシキ様の頭脳と力がなければ、ここまで早く戻ってくることはできなかったでしょう。故に、頭を下げるべき相手は私ではない、と申しているのです」

 

…もちろん、ブラフである。

 

実際は先の書面はヤルダバオトがニシキに渡したものであり、カマーセの邸宅から持ち出したわけではない。

 

加えて、ニシキがその高い頭脳をもってして、怪訝さからこの事件を暴いたというのも真っ赤な嘘であり、それもやはりヤルダバオトから事前に聞き及んでいただけに過ぎない。

 

しかし、南部貴族がヤルダバオトと手を組んでいたことは事実であり、それが後から様々な尾ひれがつこうが、疑うものなどいるはずもないのである。

 

「そうですね…。ニシキ様へこそ、我々は頭を下げなければなりません…」

 

「理解したようですね。あなた方の身も心もその全てを捧げても到底足りませんが…。それでも多少マシにはなるでしょう」

 

ナーベラルの思わぬ発言に、カルカとケラルトは「み、身も心も…ッ」と動揺しながら顔を赤くする。

 

レメディオスは「それは言いすぎだ!」と顔を赤くして憤慨して見せる。

 

だが、そんなほのぼの?とした雰囲気も、長くは続かなかった。

 

城下に巨大な火の柱が発生したのが、ニシキが玉座の間に作った大きな壁の穴から垣間見える。

 

「な、なんだ…あの炎は…」

 

レメディオスが、天を突かんばかりの炎の柱を見て、思わず言葉を震わせる。

 

「あれは…ヤルダバオトの…」

 

「ヤルダバオトの仕業だというのですか⁉」

 

ナーベラルが小さく呟くのを聞き、ケラルトが狼狽しながら口を開く。

 

巨大な火の柱が天を焦がしているのだから、無理もないだろう。

 

「ヤルダバオトが本気になった…。いえ、本来の姿に戻ったというべきでしょうか…」

 

「ほ、本来の…姿…⁉」

 

カルカは、ナーベラルの言葉を聞き、炎の柱をその視界に捉えながらゆっくりと口を開く。

 

そして、強大な黒と赤の体を有し、炎の翼を携える、見紛うことなき悪魔の姿を遠目で確認するに至った。

 

 

 

 

 

ニシキとヤルダバオトの戦闘は、炎の壁の内側で悪魔達と死闘を繰り広げていた聖騎士や神官たちの目にも入り、その凄まじい戦いにより、大きな衝撃と驚きを齎していた。

 

地上で、空中で、至る所で両者がぶつかり合うようにして繰り広げられていた戦闘は、一時静寂を迎える。

 

ニシキが片手に青い球状を有した力を、ヤルダバオトに叩き込み、吹き飛んだことでその静寂は生まれた。

 

だが、その静寂は一瞬で終わりを迎える。

 

ヤルダバオトが吹き飛んだ先が、巨大な炎によって包まれたのだ。

 

その炎は天まで上昇し、まるで炎の塔を思わせるようなその壮大さに、首都ホバンスにいる全ての者が注目する。

 

その注目を狙ったように、炎の塔からヤルダバオトの声が大きく響き渡る。

 

「どうやら…本気を出す時が来たようですね…!」

 

ヤルダバオトがそういうと、炎の塔は一瞬で飲み込まれるように収縮し、その後塵のように空中へ飛散する。

 

炎の塔が掻き消えたことで、ヤルダバオトの姿が露になるが、それは元の姿とはかけ離れた、悍ましい悪魔の姿であった。

 

…正直、先ほどの人型の方がまだ愛嬌というか、かっこよさがあったと言える。

 

全身は黒い鎧のような見た目をしており、身体の所々が赤く染まり、燃え上っているようだ。

 

顔に関しても、鬼のような姿で、強大な角すら有している。

 

その姿に、兵士や聖騎士、神官達は酷く狼狽している。

 

だが、そんな中でもニシキの様相は変わらない。

 

本気を出すと宣言したヤルダバオトを警戒こそしているものの、怯えや恐怖は一切見られない。

 

その様子が、兵士たちに鼓舞を与える。

 

かつて、地獄の帝王を単騎で討伐せしめたというだけでも心強いのに、それを超える魔皇ヤルダバオトを目にしても、雄大な姿を見せる英雄に、感嘆に似た吐息を吐く者もいた。

 

「そうか…。これがお前の本当の姿…そして、本来の力か…」

 

…しかし、その言葉とは裏腹に、ニシキの心情は違った。

 

ヤルダバオトが変身したと思わせたそれは、彼が召喚した『憤怒の魔将』なのだ。

 

玉座の間の時と同じように、ニシキの攻撃を受け、あからさまに吹き飛んで姿を隠し、炎の塔を形成して転移の魔法で入れ替わる。

 

「(ま、これで一先ずはデミウルゴスに無駄な怪我を負わせずに済むな…)」

 

仲間が作ったNPCを、むやみやたらに傷つけることはしたくない。

 

だが、いつかはヤルダバオトを斃さなくてはならない。

 

漆黒のモモンとヘロヘロの台頭、モモンとニシキの旧知の仲の証明、そして今回の南部貴族の始末…。

 

これをもってして、ヤルダバオトの役目にいったん終止符を打つ。

 

それが、デミウルゴスが考えた策である。

 

しかし、そこにはある問題があった。

 

ヤルダバオト=デミウルゴスという点である。

 

ヤルダバオトを斃すということは、デミウルゴスを斃すことと同義。

 

茶番のために仲間が創造したNPCを殺す、なんて笑い話にもならない。

 

まあ、復活自体はできるから問題はないかもしれないが、消費される金貨とは釣り合わない。

 

その点をアインズが尊大に指摘したのであるが、さすがはデミウルゴス。その対処を考えていないわけもなく、それがこの憤怒の魔将との入れ替わり大作戦なのであった。

 

そして、憤怒の魔将は単純な膂力だけで言えば、デミウルゴスを超える。

 

ヤルダバオトがこれまで本気で戦っていなかったという点も加味すると、憤怒の魔将が本気でニシキとやり合えば、『本来の姿と力』というのにも納得がいくし、何より説明がつく。

 

そもそも納得させる必要も、説明をする必要もないほどに、ヤルダバオトという存在は、周辺国家において脅威であり、世界の敵として認識されているのであるが、念には念を入れておくことは安心に繋がる。

 

「そうだ…黒金のニシキよ…。まさか戦意を喪失した…とはいうまいな?」

 

うーん、これは嘘がばれてしまうかもしれない。

 

明らかに先のヤルダバオトと口調が似ても似つかない…。

 

声の変化は、変身によるものと捉えられるであろうが…。

 

まあ、口調も変身したことで殺戮と破壊の衝動が高まったことで変化した、ということにしておこう…。

 

もし誰かにそこを突かれたら…であるが。

 

そんな風に一丁前に知恵者の真似事をしていたニシキであったが、先のヤルダバオトの言葉に返答する。

 

「…当たり前だ…。来い…ヤルダバオト!お前の本気を見せてみろッ!」

 

 

 

 

 

炎の塔が消失し、遠目からでもその悍ましさが分かるほどの姿に変化したヤルダバオトを見て、カルカ達は根源的な恐怖を抱く。

 

それは、且つてエスタークイスナと対峙した時と同じ感覚であったがゆえに、良くない感覚が呼び起こされる。

 

カルカは、その感覚がイスナに対する恐怖心のトラウマに似ていると感じた瞬間、強大な破壊音が耳を劈く。

 

「「きゃあッ!」」

 

「なんだ!」

 

「…ッ」

 

カルカとケラルトが甲高い悲鳴をあげ、レメディオスが怒号に似た声を上げる。

 

ナーベラルは黙りこくっているが、どこか不快感のようなものが滲んでいる。

 

カルカ達のいる玉座の間に、何かが激突したようであった。

 

その正体を探ろうと、砂ぼこりと瓦礫片が飛び交う場所へと視線を向ける。

 

「かはっ…」

 

咳き込むようにして血反吐を吐き、瓦礫にもたれ掛かるニシキの姿があった。

 

「「ニシキ様ッ!」」

 

カルカとケラルトが、悲鳴に似た叫びをあげる。

 

ケラルトが即座に一歩踏み出し、ニシキに駆け寄ろうとするが、後ろから何者かに服を掴まれて動きを止める。

 

「ッ!ナーベラル殿!一体どういうおつもりかッ!」

 

「…あなたこそ、どういうつもりなの?死にたいのかしら?」

 

ナーベラルの感情のこもっていない声に、ケラルトは更に怒りのボルテージを上げるが、彼女の言っている言葉の意味を理解する。

 

身体を、ゾワッと良くない悪寒と恐怖が支配する。

 

「全力の私の攻撃を受けて、その程度とは…。いや、その眼の能力でうまく受け流した、というべきだな…」

 

その悪寒と恐怖を生みだしている存在、本来の姿を現したヤルダバオトが、崩れた玉座の間の壁の近くに鎮座していた。

 

ニシキはゆっくりと立ち上がりながら、ヤルダバオトを右目で捉えつつ、閉じた左目からは鮮血をポタポタと流している。

 

ヤルダバオトの発言と、ニシキの様子から、カルカはその力が何であるかを理解する。

 

「…輪廻(りんかい)

 

カルカの呟きは、非常に小さいもので、ヤルダバオトに届く声量ではなかった。

 

「…その赤き瞳は、写輪眼の上位種…確か、万華鏡写輪眼という名だったか?」

 

「…驚いたな…。この眼を知っているのか…」

 

「かつて、古い文献を目にしたことがあってな…その際に知りえたものだ…」

 

「へえ、お前みたいな悪魔でも、本を読むとは驚きだな」

 

ニシキは、皮肉たっぷりに言葉を吐き捨てるが、ヤルダバオトの感情は特には揺るがない。

 

「万華鏡写輪眼…写輪眼の上位種であり、長い歴史の中でも開眼者は極僅かとされる伝説の瞳術…。その開眼条件は、『最も親しい者との死別』…だったと記憶しているが…」

 

「………」

 

ニシキは、その言葉に否定も肯定をせず、ただただ黙りこくっている。

 

それを聞いて驚きを見せたのは、カルカ達であった。

 

「最も親しい者との死別…ッ!」

 

「それが開眼条件…」

 

「なんという…条件なんだ…」

 

カルカ、ケラルト、レメディオスが胸に湧き上がる悲しみに似た感情を、言葉に乗せて吐き出す。

 

「そして、万華鏡写輪眼を開眼した者は、左右それぞれに固有の瞳術を得ることができる…。私の攻撃をうまくいなしたのが、その左目の瞳術なのだろう?…さしずめ、見つめた対象の時を遅らせる…いや、戻す…と言ったところか?…素晴らしい能力だ」

 

「…よく観察しているな…。一発で俺の左目の能力、輪廻を暴いたのは、お前が初めてだよ…。ヤルダバオト…」

 

「お褒めに預かるとは、光栄だな…。だが、それだけ強大な力故に、リスクも存在する…。魔力の消費量が多く、且つ発動後に激しい痛みを生じる…。しかし、それだけではないだろう?」

 

「はっ…。随分と詳しいことだ…。どうやらこの瞳についての知識を得ているというのは、嘘ではないらしい」

 

ニシキは、ヤルダバオトの知識を褒めながら、左瞼を何度か瞬く。

 

しかし、輪廻を発動した直後ということもあり、未だ視界はぼやけ、鈍痛を有している。

 

「万華鏡写輪眼の最大のリスクは…、使用するたびに視力が低下し、最終的に光を失うことだ…」

 

万華鏡写輪眼の開眼条件に驚いていたカルカ達であったが、光を失う、つまりは失明するという話を聞き、先ほど以上の、言葉にならない驚きを見せていた。

 

「聞いた話ではあるが、お前は聖王女と神官団長を救うため、既に2回ほど輪廻を使用している…。そして先の私の攻撃を受け流すために1回…。既に3回ほど使用しているが、一体どこまで視力が落ちているのだ?」

 

「…それを、お前に教える必要があるのか?」

 

「ふっ…確かに、それもそうだな…」

 

ヤルダバオトが、低く唸るような笑い声をあげると、それに反応したようにニシキも少しだけ口角を上げて見せた。

 

「…だが、代わりと言っては何だが…。俺の『右目』の瞳術を見せてやろう…」

 

「ほう?…わざわざ使用を宣言するということは、それほど強力な、自信のある力なのだろうな…」

 

ニシキが、未だ痛む左目を無理やりに開き、対照的に右目をスッと閉じる。

 

「…喰らえばわかる…」

 

右瞼の端から、じわっと鮮血が滲み出る。

 

輪廻を発動しようとした左目と同じ様相であったが、ヤルダバオトが一つの違いを感じ取る。

 

「(魔力量が輪廻の比ではない…これは…ッ!)」

 

ヤルダバオトがその異常性に気付き、ニシキの視点が合いにくくなる、後方へと大きく退く。

 

と同時に、ニシキは右目をガバッと見開く。

 

右目の白目部分の血管がビキッと浮かび上がる様は、見ているだけで痛々しく、同時に畏怖を植え付けるものであった。

 

「『白焔(びゃくえん)』!」

 

瞬間、ヤルダバオトの目の前に白く輝く炎が発火する。

 

その炎はヤルダバオトにあと少しというところで、直撃しない。

 

ヤルダバオトがその白炎の危険性を一瞬で察し、更に後方へ、さらに左右へと動き回る。

 

白炎は、そんな逃げ惑うヤルダバオトを捉えようと、ニシキの瞳の動きに合わせて空中に一筋の線を描くようにして発火する。

 

暫くして、ヤルダバオトの左腕に白炎が届く。

 

「ぐっ…視点が合うだけで、そこに白い炎を発生させる瞳術か…ッ!」

 

ヤルダバオトへと発火したのを見て、ニシキはバチンっという表現が似合う程に、強く右目を閉じる。

 

「ぐっ…」

 

右手で右目を抑えるさまは、ニシキをもってしても耐えがたい苦痛であることを示していた。

 

「なるほど素晴らしい能力だ…。だが、私に炎の類は効きませ…ッ!!」

 

ヤルダバオトは、白炎を打ち消そうと、自身の紅蓮たる炎を纏わせるが、逆にその炎が白炎に飲み込まれて掻き消える。

 

「気付いたか?…その白炎は、決して消えることはない…。対象が灰になるまで、燃え続ける!」

 

「まさか…こんなことが…!だが、それならば…ッ!」

 

ヤルダバオトは、自身の左腕を、右手をもってして引きちぎって見せる。

 

瞬時の適切な判断に、ニシキは思わず目を見開く。

 

「一撃必殺に近い能力ではあるが、発火した部分を引き剥がしてしまえば、何の問題もない!!」

 

「ちっ……『白え…』…ぐっ!」

 

一直線にこちらへ向かってくるヤルダバオトに、ニシキは再び白焔を発動させようと、右目を見開くが、激しい痛みに思わず目を閉じる。

 

「連発出来ないのは、左目と同じようだなッ!!」

 

ヤルダバオトの燃え盛る拳が、ニシキへと肉薄する。

 

「「「ニシキ様ッ!!」」」

 

カルカ達は、意図せず声を合わせ、名を叫ぶ。

 

ドンッという音と共に、凄まじい衝撃と火炎が、玉座の間を、宮殿の外壁を包みこむ。

 

ナーベラルは、それを見て雷の盾のような魔法を展開し、カルカ達を火炎から守る。

 

ヤルダバオトがニヤッと笑みを浮かべる。

 

ギリギリであったが、攻めるべきタイミングを見切れた…そんな印象を思わせるような笑みであった。

 

…パキッ。

 

自身の拳が当たる先から、奇妙な音が聞こえたことで、その笑みを消す。

 

何かに防がれたような音と感覚であったからだ。

 

その感覚は的中しており、暗い黄色…トパーズ色をした、巨大な骨のようなものが、ヤルダバオトの拳を受け止めていた。




※現在の弐式炎雷のレベル

・Lv97



※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)

・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1

・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M 

・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M 

・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M 

・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1
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