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ニシキへの謁見と面会を終えたカルカ達は、ニシキを見送った後、執務室へと戻った。
「しかし、なんでカルカ様とケラルトはあんな悲鳴をあげたんです?」
レメディオスが呈した疑問は、間違いなく先ほどのニシキの変化の術によるものであろう。
カルカとケラルトは、ビクッと身体を震わせた後、些少の顔を赤らめて口を開いた。
「姉さま!観察するだけで相手とそっくりに姿形を変えられるのですよっ!!」
「恐ろしいわ…。ケラルトや私の身体を有することができるなんて…」
ケラルトとカルカは、まるで呪詛を吐くかのようにブツブツと呟きを見せる。
2人が悲鳴をあげた際、ニシキは即座に変化を解き、あたふたしていた。
ニシキはニシキで、なぜ2人が悲鳴をあげるに至ったのかを理解することはできなかった。
その後、即座に多くの兵士たちが客間へと乱入し、ニシキを取り囲んだが、『剣を収めろ!』というレメディオスの覇気と、『問題はありません』というカルカとケラルトの発言に、収束を収めたのであった。
「しかし、その、姿形は見た目だけなのでしょうか?…例えば、触っても同じような感触なのかしら…」
「う…それを聞かずに帰らせてしまったのは失態でした…」
ケラルトとカルカは、再び呪詛を吐くかのようにブツブツと呟く。
「しかし、あの変化という忍術、私は非常に便利なものだと思うのだが…」
「…?姉さま、それはどういうことでしょうか?」
ケラルトは、呪詛を吐くのをやめ、スンとした表情を見せる。
「あの術があれば、カルカ様の影武者ができるではないかっ!」
レメディオスの発言に、カルカとケラルトがはっとしたような表情を浮かべる。
「た、確かに…」
「…ええ、あのそっくり加減…影武者として利用するには十分すぎるわ…」
カルカとケラルトはむむむっと考え込む。
そして、ケラルトははっとネガティブな考えに至る。
「…ですが、場合によっては非常に危険ですね…」
「…ん?なぜだ?」
ケラルトの結論に、レメディオスは疑問を呈した。
「…もしニシキ殿との関係が悪化して敵対した場合、あの忍術を使って裏工作などをされると非常にやっかいです…。例えば、カルカ様の姿を有して民を虐殺して回るなどされてしまえば、聖王女派閥は一気に窮地に立たされます…」
「なっ!あのニシキ殿がそんなことをするはずはない!!」
「今は確かに…。ですが、明確に敵対をした場合は、可能性はゼロではないでしょう…」
ケラルトのもっともな意見に、レメディオスはやはり言い返すことができず、黙り込んでしまう。
カルカは、ケラルトの発言と可能性に一定の理解を示しながらも、一種の決意のような感情を抱いて口を開く。
「ニシキ殿がそのようなことをされるお方ではないというのは、私も感じているところです。その上で、私達はニシキ殿と確実に良好な関係を築く必要があるということですね…」
カルカとの謁見から3日ほどが経過した。
冒険者ギルドがある大通りに、身分の高そうな2人が佇んでいた。
ケラルトとパベルであった。
ケラルトはカルカと共に首都ホバンスに、パベルは城壁へと戻ることになっている。
そのため、挨拶を兼ねてニシキの元へきたのだ。
主なる目的は他にある。
「パベル兵士長。現在、ニシキ殿と最も関係性が高いのはあなたです。」
「…承知しております。できる限りのことは致しましょう」
「よろしく頼みますわ」
パベルはそうして冒険者ギルドの扉を開ける。
冒険者ギルドは、街と大通りのほぼ中心に位置している。
故に冒険者ギルド前の大通りでは、一番の活気があるのはいつものことであったが、今日はそれ以上に騒がしいものであった。
その騒がしさは、普段街の大通りに顔を出さない2人にとっても、感じ取れるくらいであった。
「なにかあったのかしら?」
「ええ…騒がしすぎますね」
ケラルトとパベルは、この騒がしさの原因を探ろうと、人込みへと近づく。
そして、その原因を発見するに至る。
「「なっ!」」
喧騒の原因の片割れが、まさかの2人が会いに来たニシキを中心に起こっていたことに、大きく驚いて見せた。
街の広場には、公報の掲示板のようなものがあり、カルカとの謁見終了直後に、ニシキの功績と褒美の内容が記されていた。
その情報がカリンシャの街中に広まるのに時間はかからなかった。
豪王バザーと100体の山羊人の単騎討伐、ギガントバジリスク2体の単騎討伐。
一般的な常識では考えられない功績に、住民は信じられないと言った様子であったが、王政府が発行している掲示のため、それが真実であると信用するのに、そう時間はかからなかった。
そんな中、ニシキはカルカとの謁見から3日間でカリンシャの冒険者ギルドへの移籍、長期間の宿屋の確保、街の散策を行った。
王国のリ・ロベルとは違った、より中世ヨーロッパを思わせる街並みであった。
ニシキが街を歩くと、「あれが噂の…」、「黒金のニシキだ!」、「カリンシャは安泰だ!」などと声を掛けられる。
基本的に人付き合いが苦手ではないニシキではあったが、ここまで露骨に好意を向けられると、照れてしまう。
「(有名人って、こんな感覚だったのかな…)」
リアルで有名だったコメンテーターやアイドルなどを思い出しながら、彼ら彼女らの心情を想いつつ、住民に軽く手を振りながら、冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
ニシキは、今日カリンシャにて初の仕事を請け負おうとしていた。
「おはようございます、ニシキさん」
「おはようございます、セリンさん」
移籍登録の際に顔なじみとなった受付嬢のセリンに軽く挨拶をした後、掲示板へと向かう。
しかし、ミスリル級の依頼は見当たらなかった。
「セリンさん。現在の依頼はここにあるもので全部ですか?」
「はい。申し訳ございません。ニシキさんにご依頼するほどのものは現状ない状況でして…」
セリンは、申し訳なさそうに表情を暗くして頭を下げる。
「あなたが謝ることはありませんよ。ミスリル級の仕事がないほどに平和ということでもありますしね」
「そ、そういっていただけると助かります」
ニシキは軽く笑いかけると、近くのテーブル席に腰かけ、果実酒を注文した。
果実酒が届き、口に運んだタイミングで、乱暴にギルドの扉が開かれる。
ちらっと視線を向けると、そこには戦士、魔法詠唱者、野伏…と見られる5人組が入ってくる。
非常に人相も態度も悪い。が、彼らの胸にぶら下がる冒険者のレートは、ニシキと同じミスリル級であった。
「よお、嬢ちゃん。俺たちミスリル級冒険者に見合った仕事はねえか?」
背中に大きめな剣を背負った戦士と見られる男が、カウンターの上にバンッと手を付きながらセリンに声を掛ける。
「申し訳ありません。現在プラチナ級以上の依頼はありません」
セリンは受付嬢としての経験からか、淡々とした態度であった。
「はっ!なんだよ、つまらねーな」
ミスリル級の男は、チッと舌打ちをしてセリンを睨みつけると、仲間の元へと戻っていく…と思われた。
しかし、男はなぜかニシキの座るテーブルへと移動してきた。
そしてニシキの顔を眺め、胸元の冒険者プレートを見ると、はっと不貞腐れたような笑みを浮かべる。
「…お前が最近ミスリルになったっていう、黒金のニシキか…」
面倒なのに絡まれたな…と思いながら、ニシキは微笑を浮かべながら答える。
聖王国においては最高峰のミスリル級冒険者同士の接触は、冒険者ギルド全体が固唾をのんで見守っていた。
「えぇ…。そういうあなたは、聖王国南部の城塞都市デボネのミスリル級冒険者『剣狂』の方ですね。以後、お見知りおきを…」
ニシキは、情報収集で得た情報を元に、絡んできた男からの挑発的な態度に気にした様子もなく、丁寧に対応して見せる。
だが、それがかえって彼の怒りを助長させてしまった。
「はっ!お高く留まりやがって!豪王バザーだかギガントバジリスクだかを運よく仕留められて一気にミスリルとは…羨ましい限りだぜ…」
近くに座っている男の仲間たちも「全くだぜ」と言った様子で口を開く。
これを受け、ニシキは些少の警戒心を抱く。
「なるほど…確かに、豪王バザーも山羊人の群れも、ギガントバジリスクも大した相手ではありませんでしたよ…」
「ッ!!…な、何を言ってやがんだ…てめえは…」
「……思った通りのことを口にしたまでですが?それとも、あなた方『剣狂』では手に余ると?」
ニシキはスッと目線を鋭くして男を睨む。
男は、その視線に一瞬なにか尋常ならざる寒気を感じたが、喧嘩を吹っかけるような発言をした手前、引き下がることもできずに大きく口を開く。
「てめえぇ!!誰に向かって口きいてんだ!!」
男は、ニシキの前に置いてあった果実酒の入ったコップを払いのけて激高する。
吹き飛んだコップは、果実酒を床に巻き散らしながら、壁まで飛んでいき、カラカラと小さな音を立てたのち、沈黙した。
その激昂を皮切りに、テーブルに座っていた仲間4人もゾロゾロトニシキを取り囲むようにして立ち上がる。
「なるほど…場所を変えましょうか?」
大通りを支配している喧騒の元凶が、聖王国の冒険者として最高位であるミスリル級同士の喧嘩だと知ったパベルは、急いでそれを止めようとする。
しかし、ケラルトに制止され、その動きを止める。
「ケラルト殿⁉一体どういうおつもりかっ!」
「パベル殿…。これはニシキ殿の実力を実際に見るいい機会だと思いませんか?」
ケラルトはよろしくない微笑を上げながら呟いた。
「お戯れを…剣狂が死にますぞ…」
「まさか…ニシキ殿ともあろうお方が、街中で人殺しなぞ致しませんよ」
ケラルトは、ふふっとさらによろしくない微笑を浮かべる。
しかし、この微笑が2つの意味で大間違いであったことに、すぐ気づくことになる。
「お前、仲間を探してるんだってな?」
根も葉もない言いがかりに対して、軽くあしらったり、小さく牽制していたニシキであったが、先の言葉を聞いて、ピクッと身体が一瞬震える。
「それがなんだ?」
ニシキの雰囲気の変化を感じ取った剣狂のリーダーは、ここぞとばかりに畳みかける。
「いや、ただ、てめえみたいな実績を捻じ曲げるような奴の仲間なんざ、碌な奴じゃねえだろうと思ってな…。さしずめ、てめーと同じような嘘つき野郎なんだろ?」
「はっ!ちげえなえや!!」
仲間も同調するようにして、笑いながら口を開く。
剣狂のメンバー全員が大口を開けて笑っていると、ニシキははあ…と怒りをこめたため息をついた。
「…やめだ」
「ああ?」
ニシキの呟きが小さく、聞き取れなかったため、リーダーの男が不機嫌そうに聞き返す。
「…ミスリル級たる先輩方に手ほどきをうけた…という体にして丸く収めようとしたが…。やめだ…」
「何を言ってやがる?」
ニシキの発言の意図が分からず、剣狂の5人組は些少の戸惑いを見せる。
「かかってこい…。お前らに剣を抜く必要はねえ…屈辱的なまでの敗北を教えてやる…」
ニシキは怒りの孕んだ声を発しながら睨みつける。
その姿を見て、剣狂も怒りをさらに滲ませる。
「剣を抜く必要がないだと…?調子に乗りやがって…!てめえらは手を出すな!俺がやる!!」
リーダーの男は、背中に背負った大きな剣を構えると、足に力を入れて構える。
ニシキを視界にしっかりと納め、集中する。
しかし、それでもやはりニシキは剣を抜く素振りはない。
直立不動であった。
それに対し、再度抗議しようと口を開こうとした瞬間…。
「どうした?ビビッてんのか??」
「ッ!!!」
ニシキの挑発的な言葉により、男は一気に冷静さを失う。
「『能力向上』!!」
男は武技を発動させ、一気に地面を踏み込んでニシキへと距離を詰める。
その速度は、ミスリルの名に恥じぬものであり、周りの野次馬では認識できないものであった。
野次馬たちからおおっと感嘆の声が上がる。
「(俺の速度に反応できていない…ッ!やはりあの功績は偽りか!!)」
「『剛撃!!』死ねやぁぁぁぁぁ!!!」
男はニシキに向かって大きな剣をたたきつけ…られなかった。
バゴッ!!という衝撃音が発生する。
ニシキに向かっていったはずの男は、いつの間にか地面にすごい力で叩きつけられている。
男が伏している石畳の地面は、円を描いて窪んでおり、周りにはその衝撃が伝わったことがわかるようにひび割れがいくつも出来ていた。
ニシキは、男の顔から拳をゆっくりと引く。
男の顔をみると、右のこめかみのあたりに深くくっきりとした拳の跡が見て取れる。
すでに意識は刈り取られているようであった。
男の仲間である4人も、周りの野次馬たちも、一体何が起こっているのかわからないと言った様子で呆然としていた。
「次はお前らだ…」
「く、くそッ!…ッ」、「なんなんだ、一体…ッ」
ニシキの目線が自分たちに向いたことで、内の2人が武器に手をかける。
しかし、武器を抜刀する間もなく、両者ともに手で顔を握られ、そのまま地面へと叩きつけられる。
リーダーの男を殴りつけたときほどではないが、地面には大きく亀裂が入り、2人も即座に意識を刈り取られた。
ニシキがゆっくりと両手を戻し、立ち上がる。
「「ヒィ…こ、降参だ!!」」
残った二人は、持っている武器を遠くへ投げつけ、攻撃の意思がないことを示す。
あまりの出来事に呆然としていた野次馬であったが、残った2人が武器を捨てた瞬間……。
「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」
と、カリンシャ全体を埋め尽くすほどの大歓声が上がる。
「すげーーーーーーーー!!!」
「武器持ちを相手に拳だけで…ッ!!」
「全く攻撃が見えなかったぞ!!」
「ざまあねえぜ!剣狂の奴ら!!」
「これがカリンシャのニシキさんの実力だ!!」
剣も抜かず、拳1つでミスリル級冒険者チームを下した。
しかも、誰もがその瞬間をとらえることもできずに…だ。
「(な、何がおこったというの…?)」
野次馬に混ざって事の顛末を見ていたケラルトは、目を見開いて驚愕していた。
ケラルトは、自身の身体がブルッと震えるのを感じる。
それは紛れもない恐怖によるものであった。
余りにも一方的過ぎる喧嘩…いや、蹂躙といえよう。
相手が弱いのではない…。
ニシキが桁違いに強すぎる…。
「(実力を実際に見るいい機会?…浅はかだった…まさかここまで…)」
ケラルトは、チラッとパベルへと目線を向ける。
恐らくその目には、驚きと畏怖が混在していたに違いない。
パベルはケラルトの視線に合わせた後、すぐに反らしてニシキへと移す。
「ですから、お伝えしたではありませんか…。剣狂が死ぬ…と」
パベルの額に、ツウっ一筋の冷や汗が流れる。
ケラルトはというと、一筋では収まりきらない冷や汗が、全身に発生していることを認識する。
「と、とめないと…パベル殿…」
「ええ、一刻も早く…ッ!」
降参を表した残り2人の剣狂に、ニシキはゆっくりと歩いて近づく。
「ま、待ってくれ!降参だ!!悪かった!謝るから!!」
2人は、あまりの恐怖にしりもちをついて後ずさる。
「俺はな…謂れのない悪口を言われようが、実績を疑われようが、大抵のことは水に流してやる…だがな…」
2人に後1mといったところで歩みを止め、見下ろす。
全身を震えさせ、刃をガチガチと鳴らしている。
失禁したのか、ツンッと鼻に突くような臭いも立ち込めている。
「友と仲間を侮辱することだけは、絶対に許さない!!!」
「「ひいいいいいいいいいいいい!!!!」」
ニシキは怯え切っている2人に対し、ゆっくりと拳を振り上げる。
野次馬も、
「やっちまえー!」
「俺たちのことを散々バカにしやがって!」
「調子こいたことを後悔させてやれ!」
とニシキの背を後押しするかのように叫んでいる。
が、それに反するような言葉が場を制する。
「そこまでです!!」
ニシキの拳は、2人に振り下ろされる前に、動きを止めた。
「し、神官団長!?」
「ケ、ケラルト・カストディオ様だ!!」
聖王女の腹心であるケラルトの登場により、野次馬たちは一気に静寂を取り戻した。
ケラルトはそれを確認した後、生唾を飲み込んでニシキの元へと歩み寄る。
ニシキは、じとっとした目線をケラルトに送っていた。
思わず恐怖が心を支配するが、ケラルトは意を決して口を開いた。
「ニシキさん…ここは私の顔を立てて頂けませんか?…」
抽象的な内容であったが、それが何を意味するのかを理解できないニシキではなかった。
「…仲間を侮辱した奴らを見逃せと…?」
「ッ…!そ、それは…」
視線に怒りが滲んだことで、ケラルトは限界とばかりに言葉をつまらせる。
言葉も足も震えるのを感じる。
こんな経験は初めてであった。
ケラルトは、自分が自負するくらいには頭が回る。
そして、第5位階の信仰系魔法詠唱者である。
頭脳でも、戦闘でも、彼女はこれまで恐怖を覚えたことはなかった。
姉を含め、戦えば負けると思える人物は数いるが、恐怖で思考も身体も言うことを聞かなくなるなどという経験はない。
それこそ、戦力差があろうとも、この頭脳をもってして制する算段を付けることができると考えている。
実際に20年間、そうやって生きてきたのである。
しかし、目の前の男はどうだろうか?
恐らく、思考を張り巡らせる間も、魔法を唱える間もなく命を刈られるであろう。
加えて、これが全力ではないというのが恐ろしい。
彼は剣も忍術も一切使っていない。
全力どころか、力の一端すらも見せていないかもしれない。
だが、それでも勝てない。
その圧倒的なまでの実力差が、ケラルトに平常心を許さなかった。
目に涙すら浮かびかけたその時、助け船が来る。
「ニシキ殿。私からもお願いしたい…どうか、怒りを収めて頂けないだろうか…」
「…パベルさん…」
パベルの登場に、ニシキは今だぶるぶると震える2人を見下ろす。
そして、はぁとため息をついて怒りを鎮めるように口を開いた。
「…あそこで伸びている3人を連れて、とっとと失せろ」
「「は、はい~~~~~!!!」」
2人は、すぐさまガバッと立ち上がり、そそくさと仲間を連れて大通りから逃げるように駆けて行った。
「…申し訳ありませんでした!頭に血が上ってしまい、とんだ失礼を…ッ!」
ニシキは、自身が宿泊している宿屋の一室で、ケラルトとパベルにバッと頭を下げていた。
先ほどの間での強者のオーラと雰囲気はどこへやらと言った様子であった。
「いえ、お気になさらず…。私の一存で様子を伺っていたのも事実ですので」
「すぐに止めに入るべきでした…。申し訳ない」
ケラルトとパベルは頭を下げているニシキに対し、お互い様だという様子を見せる。
しかし、実はケラルトは腹に一物を抱えていた。
「それで、お願いというのが、私と初めてお会いした際に頂いた……」
ケラルトは、パベルの声を耳に入れながら、自分の世界へと入り込む。
「(私としては、複雑な気持ちですが…)」
その真意は、別にミスリル級冒険者とのいざこざが原因ではない。
そもそも、ギルド内の人間やその場にいた冒険者に聴取したところ、剣狂が難癖をつけて喧嘩を売り、ニシキがそれを買ったのである。
いうなれば、剣狂の責任ということである。
故にそこに怒りも疑問も抱いていない。
ケラルトが抱いているのは、『自分に恐怖心を植え付けたことである』。
他人に恐怖心を植え付けてばかりいたケラルトからすれば、自分がそのような経験をするのは、まさに初めてであった。
しかも、人前で些少とはいえ涙を浮かばせてしまったことをとても気にしているのだ。
少し出た涙を根性で目の中に戻したため、誰にもバレてはいないだろう。
不幸中の幸いである。
だが、同時に、ケラルトはニシキに今までとは違う感情を抱いていた。
それは、恐怖というよりは、興味…いや好奇心と言った方が適切であろう。
自分が今迄経験したことのないものを与えた者に対して興味を抱くことは、人間として正常なことではある。
だが、カルカ以外は特に何の興味もなかっただけに、この新しく生まれた感情に些少の戸惑いがある。
「(まあ、今考えても仕方ないわね…。でも、とりあえずはカルカ様にはしっかりとご報告しなければ…。ニシキ殿の力は、我々の認識を超えること…。そしてお仲間への無礼は禁忌であることを…)」
そう考えながら、無意識にニシキの怒りを孕んだ視線を思い出す。
うっ…と一瞬身体が震えるような不安を覚えるが、それをすぐに制御する。
それによって、ニシキとパベルの会話が徐々に耳に届く。
「…ケラルトさん、それで2本のお渡しで大丈夫ですか?」
「え…?」
ケラルトは、自分の世界に入っていたことで、どこまで話が進んでいるのか理解できず、聞き返した。
「えっと、私がパベルさんにお渡しした赤いポーションが必要だとか…。そちらのご要望通り、2本であればお渡しできますが」
「え…。よろしいのでしょうか?その、非常に貴重なものであるとの…」
「ケラルトさんの頼みとあらば、よろこんで。それに、この赤いポーションが増産できれば、私も非常に助かりますから」
ケラルトはまだうまく思案ができず、パベルへと視線を向ける。
パベルはそんなケラルトを見て、怪訝さを覚える。
交渉ごとにおいて、ケラルトが言葉を詰まらせたり、狼狽したり、感情を見せたりすることが珍しいからである。
冷静沈着、そして冷酷。
これが聖王国に住まうケラルトに対する評価である。
故に、どこかに意識を飛ばしたり、剰え話を聞いていなかった…。などということは稀有なのである。
だからこそ、パベルは怪訝に思った。そして思考した。
カッとその恐ろしい目つきを動かす。
もしやケラルト殿は…と。
しかし、それは現時点では大きな勘違いであり、一つの火種となるのであった。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv78
※新しく得た忍術
・写輪眼Lv1 ・形態忍術Lv1 ・時空間忍術Lv1