弐式炎雷と共に! ≪一時休載≫   作:ペリカン96号

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拙い文章で読みずらい、理解しずらい点多々あると思いますが、お楽しみいただければと思います。
感想、評価、是非お待ちしております!


第7話 アンデッド襲来

カリンシャの城にて、ニシキがカルカに謁見をしてから、約2か月が経過しようとしていた。

 

謁見後に聖王国の首都であるホバンスに戻ったカルカは、いつも通り政務をこなしていた。

 

ニシキの出現により、予定よりも大幅に長くカリンシャに滞在していたため、業務が溜まりに溜まっていたのだ。

 

「ふぅ…ヒョギョリ大臣、そちらは終わりそうかしら?」

 

「あともう少しで終わりますれば…聖王女殿下はいかがですかな?」

 

ヒョギョリと呼ばれた、初老に差し掛かった大臣は数センチにもなる白いひげを整えるように触りながら答える。

 

「私は終わりました…。いえ、終わらせたという方が適切かしら?」

 

カルカは、ぐっと両手を上に向けて身体を伸ばす。

 

豊満な胸が強調され、プルッと揺れるさまは、柔らかさが感じ取れる。

 

赤子の頃からカルカを認知していた大臣にとっては、もはや見慣れた者であり、変な劣情を抱くことはない。

 

「確か、今日はカストディオ姉妹とお茶会でしたな…」

 

「ええ、忙しい日々の少ない楽しみですから、無理に終わらせたわ…」

 

カルカは、腕を掲げるのを辞めると、今度は首をグルっと回して見せる。

 

そして、時計をチラッと見つめる。

 

「そろそろ来ると思うのだけれど…」

 

そこまで言いかけ、執務室の扉がノックされる。

 

「カルカ様、ケラルトです。お迎えに上がりました」

 

「今行くわ」

 

カルカは扉の向こうから届いた声に答えると、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「ではヒョギョリ大臣、後はお願いしますね」

 

「承知いたしました。存分に楽しんできてくださいませ」

 

カルカは美しい笑顔を向け、執務室を後にした。

 

それを見送ったヒョギョリは、小さくため息をつく。

 

「カストディオ姉妹と会うのは楽しみなのでしょうが…。話す内容は政務に関することなのでしょうな…」

 

ヒョギョリは、憐れみの含んだ声で呟き、再び書類に目を通し始めた。

 

 

王城の宮殿、カルカ専用ともいえるバルコニーに、3人の美しい女性がテーブルを囲んでいた。

 

「それでは、聖王国内にはニシキ殿が求めるお仲間の姿はなかったと…」

 

「はい、全ての貴族に通達を出し、回答を求めましたが、アインズ・ウール・ゴウン、ナザリック、モモンガ、ナーベラル…その全てにおいて知っている者や聞き及んだものはおりませんでした」

 

カルカは神妙な面持ちで、視線を豪華な白い丸テーブルへと落とす。

 

そこには、真っ白なカップに入った紅茶と、手の込んだ洋菓子が並んでいた。

 

「…聖王国内で発見できれば、これ以上ない僥倖だったのだけれど…」

 

「そうですね…。ニシキ殿のお仲間は、国外にいる可能性が高いかと…」

 

カルカとケラルトは、些少の落胆を覚えながら、はぁ…とため息をつく。

 

それを見たレメディオスは菓子を頬張りながら口を開いた。

 

「なば、ぞもぞもニャジャギどぼば、ばんべばばばとばぶぼぎゃんば?」

 

「…はい?」

 

「姉さま、口の中の菓子がなくなってから喋ってください。はしたないですよ」

 

カルカは呆れたように聞き返し、ケラルトは侮蔑するような目でレメディオスを見つめる。

 

高速で口を動かし、嚥下するレメディオスを見て、更にため息が漏れる。

 

「んぐっ…。すまん。いや、そもそもなぜニシキ殿は仲間とはぐれたのだ?豪王バザーやギガントバジリスクを難なく倒し、ミスリル級冒険者チームすら素手で制する程の御方が、そんな迷子みたいなことにはならないと思うのだが…。あ、道は間違えていたな…そういえば…」

 

最後の一言は余計であるが、それはカルカとケラルトも最もだと思う疑問であった。

 

しかし、カルカとケラルトはパベルから直接報告を受けているので知っていたのだ。

 

なぜ一緒ではないのかを。

 

「そうだったわ、レメディオスに伝えてなかったわね…」

 

カルカはケラルトに目配せをする。

 

ケラルトはその意図を察し、ゆっくりと口を開く。

 

「姉さま、今からお話しすることは、他言無用はもちろん、ニシキ殿の前でも決してお話してはいけませんよ?」

 

「む、なんだ。それほどの内容か?」

 

レメディオスは、紅茶を啜り、あちっと反応した後、少しだけ真剣な表情になる。

 

「ニシキ殿のいらっしゃった国、アインズ・ウール・ゴウンは…その、滅亡したらしいのです…」

 

「なっ!!」

 

レメディオスは持っていたカップを大きく揺らし、紅茶を盛大に零す。

 

「…モモンガという親友の方と、家族と思われるナーベラルというお方は、もしかしたら、もう生きてはいないのかもしれませんね…」

 

「そ、それでは、探すだけ無駄ではないか!?」

 

カルカの発言にレメディオスは狼狽して見せたが、その発言を聞いてカルカとケラルトは酷く鋭い視線を送る。

 

「レメディオス!そのような発言は絶対にしてはなりません!」

 

「そうですよ姉さま!…もし仮に、カルカ様の生存が絶望的な状況であったとして、あなたは諦められるのですか!?」

 

突然、謎の発言をケラルトから齎されたカルカは驚く。

 

「えぇ…変なこと言わないでよ、ケラルト…」

 

「あ…ごめんなさい、カルカ様…つい…」

 

ケラルトは、あはは…と言った様子で平謝りして見せる。

 

レメディオスはそれを聞いて、はっと目を見開く。

 

「…確かに、そうだな…。礼を欠いた発言だった…」

 

誰もが見てわかるくらいに、しょんぼりしたレメディオスを見て、カルカとケラルトは思わず笑みを浮かべる。

 

「わかればいいのよ、レメディオス」

 

「すぐに非を認められるのが、姉さまの良いところです」

 

レメディオスは、「そ、そうか?」と少し照れくさそうにして見せるが、また新たな疑問が頭の中に浮かんだのか、その照れは長くは続かなかった。

 

「しかし、ニシキ殿ほどの強者がいる国が滅亡するなど…一体なにがあったのだろうな…」

 

「そう…そこなのよ」

 

「国家間の戦争という線もありますが…何か強大な存在が出現したという可能性も捨てきれないわ…」

 

「むう…なら直接聞いてみればいいのではないか?」

 

カルカとケラルトの心情をぶち壊すような発言を、レメディオスはぶちかます。

 

「あのね、姉さま。こういうのはとてもデリケートな話なんですよ」

 

「そうよ。まずはしっかりと信頼関係を…」「聖王女殿下!!!」

 

カルカの言葉を遮るようにして、伝令役の兵士が突撃するかのような形相で現れる。

 

突然の出来事に、カルカやケラルトは大きく身体を揺らし、レメディオスは立ち上がって、聖剣の柄を握る。

 

「なんと無礼な!!カルカ様は今…」「レメディオス!」

 

そんなレメディオスの激高を、カルカは聖王女として手を伸ばして制する。

 

それにより、レメディオスは剣の柄から手を離すことはしなかったが、動きを止める。

 

「礼を欠いてでも、お伝えする内容なのでしょうね?」

 

ケラルトは、姉が一先ず些少の落ち着きをもったことで、無礼な伝令にキッと視線を向けながら、声を低くする。

 

伝令役の兵士は、そんな様相に一瞬身体を硬直させたが、自身の役目をきちんと果たそうと勇気を振り絞る。

 

「ッ!無礼は重々承知でございます。その上でご報告させて頂きます!アベリオン丘陵に、1万を超えるアンデッドの集団が現れました!!」

 

 

カリンシャの街に来てから早2か月半…。

 

ニシキは、大分カリンシャの街に慣れを見せていた。

 

それはニシキだけでなく、カリンシャの住民たちも同様であった。

 

豪王バザーやギガントバジリスクを討伐したという、ニシキの類まれなる功績を聞いた住民は、最初は半信半疑であった。

 

それこそ、聖王女、つまるところ国家がそれを認めたという内容であっても、完全に信じるには至っていなかった。

 

しかし、それを信じざるを得ない、いやもはや真実であるという出来事が起こった。

 

それが、ミスリル級冒険者チーム、『剣狂』をたった一人で、しかも素手で制した事件であった。

 

あの日以来、ニシキを担ぎ上げるものがわっと増え、時期が経つにつれその噂は広まり、今では『カリンシャの英雄』とも言われるまでに至っている。

 

直接カリンシャの危機を救ったわけでもないのにだ。

 

ニシキがひとたび街に姿を表せば、

 

『黒金のニシキさんだ!』

 

『カリンシャの英雄!万歳!!』

 

『サ、サインください!!///』

 

と大騒ぎになる。

 

当の本人であるニシキは、悪い気はないまでも、些少の鬱陶しさを感じていた。

 

故に、今はカリンシャの街を離れているのだ。

 

そして、どこにいるのかというと…。

 

「噂以上だったな…まさか一撃も当てられないとは…」

 

「とんでもない。数多の武器を用いた攻撃は、見事でしたよ」

 

全く嫌な気のない男の発言に、ニシキはカラッとした声で答えて見せる。

 

「だから言ったろうオルランド…結果は見えていると…」

 

「結果だけが全てじゃねえですぜ、旦那。俺はただ、強い奴と戦いたかっただけでさぁ…」

 

オルランドは、整理体操をするように、身体をグネグネと動かす。

 

「申し訳ない、ニシキ殿。せっかく来ていただいたのにこのバカに付き合って頂いて…」

 

「とんでもないですよ、パベルさん。私もよい経験になりました」

 

ニシキは、この異世界で初めて出会った友人ともいえるパベルに、嬉々として口を開く。

 

ニシキがいるのは、アベリオン丘陵とローブル聖王国を分断している、全長100㎞にもなる要塞線の中央砦であった。

 

「それで、オルランドの決闘の申し込みで聞きそびれてしまいましたが…今日は一体何用でここまで?…もしかして国外に行かれるのか?」

 

パベルは一抹の不安を抱きながら、ニシキの顔をじっと見つめる。

 

「いえ、国外にはまだ…。今日来たのはパベルさんに用があったんですよ」

 

「私に…ですか?」

 

パベルは思いもよらないニシキの発言に動揺して見せる。

 

「ケラルトさんに聞いたんですけど、パベルさんには素晴らしい娘さんがいるとか…。それで、ぜひその話を聞かせて頂ければと思いまして…」

 

ニシキの発言を聞いたオルランドは、目をぎょっとさせて怯える。

 

しかし、そんなオルランドの表情の変わり映えに気付かないニシキは、ちらっとパベルを見つめる。

 

パベルは、狂気にも満ちた表情でニシキを視界に捉える。

 

「なんとっ!私の娘の話を…。おぉ…それはとても光栄です!!是非とも、じっくりお話をさせてください!!」

 

パベルの豹変に、ニシキも目を見開いたが、娘を想う父というのはどこも同じだな…と思いながら笑顔を浮かべる。

 

「ええ。ご迷惑でなければ、ぜひに」

 

「迷惑など!…少し小汚いですが、私の兵士長室でもよろしいか?ささ、こちらへ!!」

 

「ありがとうございます」

 

ニシキはパベルに案内されるがまま、後をつけるようにして歩く。

 

ニシキが兵士長室に案内され、パベルが椅子を差し出す。

 

その椅子にニシキが腰かけたときには、いつの間にか、オルランドの姿は見えなかったという…。

 

 

「…それで、最近は何かと避けられることが多いのですよ…。小言を言っているわけではないのに、ですよ?」

 

「なるほど…ですが、16歳という年齢を考えると、思春期で親離れの最中って感じじゃないですかね?」

 

パベルは、ニシキの真剣な眼差しに感銘を受けていた。

 

娘は、目の中に入れても痛くないほどに愛している。

 

故に、普段は必要以上に言葉を発しないパベルであっても、娘のこととなると性格が変わったように口を開く。

 

だが、娘の話を真剣に長時間聞いてくれるものは少ない。

 

オルランドのような部下であろうと、昔なじみの友人であろうと、最後には心無い相槌を打たれて終わってしまう。

 

それがどうだろうか。

 

すでに3時間近く話しているというのに、目の前のニシキは、一切面倒くさがる様子もなく、きちんと聞いてくれているのだ。

 

その証拠に、一度言ったことを聞き返されることが一度もなかった。

 

そればかりか、『こう思っているのではないですかね?』などと、ネイアの気持ちを推察したり、『そうお考えなんですね』などとパベルの気持ちを受け止めてくれる。

 

…これほどまでに気持ちよく娘の話をできたのはいつぶりであろうか。…いや、なかったかもしれない。

 

その幸福を感じながら、パベルは先のニシキの言葉に疑問を抱く。

 

「思春期…ですか?」

 

「ああ、えーと、大体それくらいの年齢にある子どもの成長過程のことを指す言葉なんですが…。ご存じありませんか?」

 

「詳しく教えて頂けませんか?」

 

パベルは初めて聞く『思春期』という言葉に、身を乗り出すようにして耳を傾ける。

 

「…思春期というのは、子どもから大人へと身体的にも精神的にも大きく変化する、所謂移行期みたいな時期なんですよ」

 

「子どもから…大人に…ですか?」

 

「ええ。生殖能力、つまるところ子どもをもうけられる身体へと成長する時期という以外にも、心理的な不安定さや親からの独立心が芽生え始めるんです。故に不安や戸惑いを抱えやすくなるんですよ」

 

「なるほど…。確かにそれであれば、ネイアがここ数年冷たいのも、私の言葉を聞き入れてくれないのも納得がいきますね…」

 

パベルは、今日までのネイアとの関りを思い出しながら、顎に手を当てて真剣な表情を生み出す。

 

「どこの親子でも、同じような時期があるものですよ。それに、パベルさんに関しては父親と娘…それが顕著に出るのは自明の理かと思います」

 

ニシキは一息つくと、そのまま続けて口を開く。

 

「だから、パベルさんが本気で嫌われているということはないかと思います。…本気で嫌っていたら、口喧嘩も何もないですよ。『無関心』つまりは関りすら発生しないのですから」

 

「おお…では、ネイアは私のことが好きであると…」

 

「嫌ってはいないと思いますよ。好きという感情よりも尊敬とかの感情の方が強いように思いますね、まあ、話を聞いている限りではありますが…」

 

「そうですか~。いやー、今日ニシキ殿とお話ができて幸運でした。なんだか、胸のつかえが取れたように思います」

 

イスの背もたれに身体を預け、パベルはほっと息を付く。

 

「ただ、気を付けて頂いた方が良い点がひとつ…」

 

「そ、それは一体ッ!!」

 

背もたれに身体を預けたのも束の間、パベルはガッと前かがみになってニシキに視線を送る。

 

「過度の干渉は抑えてください。ネイアさんは今、自分で考え、自分で実行し、親から独立しようとしていますから」

 

「干渉を控える…ですか…。しかし、ど、独立…。それはそれで悲しいと言いますか…」

 

「確かに、娘さんを想う気持ち、痛いほどわかります。ではここで一つお聞きしたいのですが、パベルさんはネイアさんが天寿を全うされるその時まで、傍にいることができると、確実に言えるでしょうか?」

 

「そ、それは…ッ!」

 

できるはずがない。

 

何せ自分は親なのだ。

 

つまり、真っ当に行けば先に死ぬのは自分…。

 

この質問の意図するところはつまり…。

 

「そうです。絶対じゃない。いや、むしろ先にパベルさんの方が死にゆく可能性が圧倒的に高い。つまり、ネイアさんは自分の足で立って生きていける様にならなければならない。…今は、その成長期なんですよ。だから衝突することも増える…。当たり前です。成長し独立しようとする子どもと、大切な我が子を守り導こうとする親。…衝突しないわけがない」

 

「つまり…今が自然であると…」

 

「むしろ、しっかりとした親子関係であるかと…」

 

パベルは思わず笑みが零れるのを、自分でも感じ取っていた。

 

「例えば、ネイアさんが自分で決めて聖騎士を目指しているのであれば、それをまずは見守ってあげるのもいいかと思います」

 

「ですが…先ほども申しましたが、ネイアは私と同じで野伏や弓としての才能があり、反対に剣の才能は…」

 

「ええ、承知しておりますよ。それでもです。もちろん、ネイアさんに野伏や弓の才能があるのは事実でしょう。きっと彼女もそれには気付いている。だけど、それでも聖騎士になりたいんですよね?ならば、そこは受け入れ、見守ればいい。聖騎士としてうまくいけばそれはそれでいいですし、ネイアさんが挫折し、落ち込んだ時は、パベルさんが手を差し伸べればよいのですよ…。聖騎士になった後、他の道に行けなくなるわけじゃないでしょう?」

 

ニシキの言葉を聞き、パベルは大きく目を見開く。

 

次第に口を開き始め、ははっと小さく笑って見せる。

 

「…ニシキ殿は、一体何ゆえそこまでお分かりになるのですか…。娘の話でここまで言いくるめられた…いや、納得したのは初めてですよ…」

 

「あー、それはですね…。以前…というか昔に…」

 

ニシキが話すかどうか些少の迷いを持ちながら、しどろもどろと言った様子を見せていると、兵士長室の扉が激しい音を立てて開かれる。

 

2人はあまりの轟音にバッと扉を見やると、先ほど(3時間以上前)いつの間にか姿をくらませたオルランドが立っていた。

 

「お前は毎度毎度…ノックくらいしたらどうなんだ…オルランド!」

 

パベルは、至高たる娘の話を遮られたことで、酷く怒りを露にする。

 

「そんなこと言ってる場合じゃねーんだよ、旦那!!…ニシキ!あんたも来てくれ!!」

 

「何かありましたか?」

 

ニシキは、自分も指名されたことで、少し目を見開く。

 

「アンデッドの大軍だ!1万はいる!!しかもデスナイトのおまけつきだ!!」

 

「何だとっ!!」

 

パベルはばっと椅子から立ち上がり、その目を凶眼の名に恥じぬ視線へと変えていく。

 

ニシキもオルランドの報告に怪訝な表情を見せ、すっと立ち上がって見せた。

 

「ニシキ殿…ッ!」

 

「行きましょう…。オルランドさん、ご案内して頂けますか?」

 

「ああ、こっちだ!」

 

パベルとニシキは足早に兵士長室から出ると、オルランドを先頭に城壁の上部へと駆けあがっていった。

 

 

 

パベルとニシキは、オルランドと共に中央砦の城壁上部へ到着する。

 

「早馬は出したのか?」

 

「もちろんでさぁ…つい今しがたではありますがね…」

 

「首都ホバンスまでは早くても2日はかかるか…」

 

パベルは非常に難しい顔をしている。

 

あのアンデットの集団は、2日も待ってはくれないだろう。

 

「奴さんの動きはどうだ?」

 

「はっ!じりじりと前進しております。しかし、未だ弓も魔法を届かぬ距離で陣取っており、手出しできない状態です」

 

オルランドの言葉に、一人の兵士がはきはきと答える。

 

その2人の会話を聞きながら、パベルは鋭い視線をさらに鋭くさせ、アベリオン丘陵を視界に納める。

 

「距離にして300m…なるほど確かに届かんな…届いたとしても、有効打にはならん」

 

「…ならばどうする…。このまま様子を見るか?」

 

パベルの言葉に、オルランドが静かに口を開く。

 

「デスナイトがいる以上、いつまでも様子を見るのは愚策かと…数が増えるだけです」

 

「ええ…しかし、もう少し近づいてきてくれなければ、取れる手もない…」「オオオオォォォッッ!!!」

 

「「ッ!!」」

 

ニシキの発言に、パベルが考え込むようにして口にしたそれは、夥しい不気味な声によって遮られる。

 

「な、なんてことだ…ッ!」

 

「どうしたんだ、旦那…」

 

アベリオン丘陵を視界から外さずに警戒していたパベルは、驚愕に目を見開く。

 

パベルの目には、アンデットの群れの後方から駆けてくる複数のデスナイトが映った。

 

「デスナイトが…1、2,3,4…」

 

パベルの数える数字がどんどんと増えていくのを聞き、オルランドは震えるようにして口を開く。

 

「おいおい、冗談だろ…」

 

「…10体…こんなこと、ありえないぞっ!」

 

アンデット集団の先頭へと躍り出たデスナイト達は、悍ましい雄たけびを上げ、アンデットたちを引き連れて城壁へ侵攻してくる。

 

「ッ!戦闘準備!!」

 

パベルは即座に周りにいる兵士たちに指示を飛ばす。

 

このままではまずい…。

 

アンデッド1万であれば、城壁の優位性を用いて、ここにいる兵士や魔法詠唱者だけでも対応はできる。

 

しかし、デスナイトとなれば話は別だ。

 

推定難度は100を超え、1体存在するだけで大都市が死都と化す伝説級アンデットである。

 

それが10体…。城壁の優位性をもってしても、勝つことはおろか、最悪突破されるだろう。

 

そうなれば、聖王国が死の国と化す。

 

少なくとも、南部都市のデボネと北部城塞都市カリンシャは陥落する。

 

それほどの危機的状況であった。

 

「(どうする…)」

 

そうして考えていると、はっと冷静さを取り戻す。

 

そして隣にいるニシキへと視線を向ける。

 

パベルが口を開こうとするが、ニシキの方が少し早く言葉を発した。

 

「パベルさん…あのアンデッドの軍勢を、ここの兵たちで食い止めることはできますか?」

 

パベルは表情を曇らせる。

 

そして、ニシキが何を言いたいのかを理解したパベルは意を決して口を開く。

 

「難しくはあるが…スクワイア・ゾンビや、ゾンビだけであれば…。ニシキ殿、あなたであれば、あのデスナイトを倒せるか?」

 

「ッ!旦那!無茶言うなよ!…いくらニシキが強いからって…相手はあのデスナイトだぜ!!1体ならまだしも、たくさんいるんだぞ!」

 

オルランドは、パベルに突っかかるようにして声を張り上げるが、ニシキの返答は、抜刀という形で帰ってきた。

 

「私はデスナイト優先で行きます…。パベルさん方は、アンデッドの群れをお願いします。デスナイトを倒しきったら、合流します」

 

パベルはその姿と言葉を目の当たりにして、思わず息を呑んだ。

 

そこには、洗練された、まるで暗殺者のような雰囲気が感じ取られたからだ。

 

「信じて…よろしいか?」

 

「確実に…」

 

パベルの短い質問に、ニシキも短く答える。

 

そしてニシキは、城壁から滑り落ちるかのようにして、アベリオン丘陵に降り立った。

 

 

自分の方へ突っ込んでくるデスナイト10体とアンデッドの群れ1万体以上…。

 

ちょっとした修行くらいにはなるかな…と呆けた様子で、ニシキは両手に持った剣の柄に力を籠める。

 

デスナイトのレベルは35。

 

ニシキにとっては大した、いや全然脅威ではない。

 

ただ、どんな攻撃もHP1を残して耐えるという特性があるため、少なくとも2撃を与えなければならないのが面倒なくらいである。

 

最初のデスナイトのサーベルを右の刀で受け止める。

 

ニシキからすれば対して重くもない一撃であったが、受け止めたニシキが立っている地面に亀裂が入る。

 

右手に力を籠めると、サーベルが紙のようにスパッと切れ、デスナイトの胴体へと衝撃する。

 

『グオオオ…』と呻き声を上げているデスナイトに、左手に握っている刀を振り下ろす。

 

その斬撃をうけ、デスナイトは天を仰ぎ見ながら消滅していく。

 

まずは1体。

 

続けて2体目、3体目と相対していった。

 

 

城壁の上でアンデッドの様子を伺っていたパベルは、距離を測りながら弓兵たちに向けて指示を飛ばす。

 

「放て!!」

 

放たれた弓矢はアンデットの身体を貫き、動きを鈍らせる。

 

遅れて放たれた魔法、第三位階魔法である『火球(ファイヤーボール)』は、アンデッドの身体に当たると、爆発を起こして炎上する。

 

「デスナイトには放つなよ!ニシキ殿が戦っている!!」

 

再三の注意であったが、万が一にも間違いで当たってはいけないため、繰り返し檄を飛ばす。

 

パベル自身も迫りくるアンデッドに向けて弓矢を放つ。

 

一般の兵士に比べ、圧倒的な投擲力と、スキルによって増大した矢の数は、一回で数十体ものアンデッドを地に伏せる。

 

「旦那…さすがに砦前には迫られるな…」

 

「ああ、だが、もしそうだとしても、特攻するような真似はするなよ」

 

「へへ、いくら俺でも、ニシキのようなことはしませんし、できませんよ」

 

オルランドは、アンデッドの大軍に身体が疼く感覚を得ていたが、さすがに城壁という優位性を捨ててまで戦いに身を投じるつもりはなかった。

 

そもそも、上官であるパベルの指示に反してそんなことはできようはずもない。

 

ただ、弓矢と魔法がアンデッドへと無数に飛びかうのを黙って見ていた。

 

そんなオルランドに、一人の兵士が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「班長!!デスナイト共が!!」

 

「あん?どうした?」

 

オルランドに向けられた発言であったが、パベルもそれに反応して兵士の方へと意識を向ける。

 

「デスナイト共が全滅してます!!」

 

「「なっ、なにっ!!」」

 

両者ともに驚きを見せるが、パベルだけは瞬時に先ほどまでデスナイトが固まっていた場所へと目線を写す。

 

大きく目を見開く。

 

確かに、先ほどまでいたデスナイトが一体も見当たらない。

 

「ど、どういうことだ…⁉」

 

「ニシキって御仁ですよ!!目にも止まらぬ速さでデスナイトを屠って、全滅させてしまいました!!」

 

オルランドの部下であろう、荒くれ者みたいな様相の兵士は、興奮冷めやらんと言った様子で口を開く。

 

「じゅ、10体ものデスナイトをかっ!!」

 

オルランドも狼狽していたが、この会話は長くは続かなかった。

 

「っしょ!」

 

パベルたちの前に、正確にはパベルたちが立つ城壁の塀にスチャッと着地をして見せるものがいたからだ。

 

「ニ、ニシキ殿!」

 

「少し時間がかかってしまいました。申し訳ない、パベルさん」

 

ニシキは、両の刀を背中の鞘に納めながら、軽い様子で謝罪していた。

 

「デ、デスナイトは!?」

 

「大丈夫です、全部片づけました」

 

「ま、マジかよ…」

 

パベルの質問に、さらっと答えるニシキを見て、オルランドは雀のような声を出す。

 

オルランドの傍らにいた荒くれ兵士に至っては、あまりの衝撃に、言葉すら発していない。

 

「あとは、このアンデッドの群れですね」

 

「…え、ええ、だが、スクワイア・ゾンビが多数いる…そう簡単には撃退できない」

 

「この数ならまあ、仕方ないですね…わたしもお手伝いします」

 

ニシキの言葉に、パベルは、ぎょっと目を見開く。

 

「何を仰る!ニシキ殿はもう十分に戦った!奥で休んでいてください」

 

「そうだぜ…。無茶は禁物だ」

 

デスナイト10体を相手取ったのだ。

 

パベルとオルランドの判断は正しいと言えよう。

 

…その相手がニシキでなければ、の話だが。

 

「いえ、私がやる方が効率的かと」

 

「そ、それはどういう…」

 

「火の忍術を使います…。あまり使う機会がないので、試させてください」

 

ニシキは塀の上に器用に立ったまま、両手を色々な形に組み替えていた。

 

その行為がなんであるのか、パベルたちには理解できなかった。

 

「火の忍術…?一体何をされるおつもり…」

 

パベルの疑問は、終止を見ることはなかった。

 

「『火遁・豪火球の術』!」

 

ニシキは両手を動きを止めると、大きく息を吸いこんで吐くと、その口から凄まじい炎が噴き出す。

 

位階魔法で例えると、第5位階前後の威力を持つ巨大な炎の球は、アンデットの集団目がけて迫る。

 

アンデッドたちに衝突をすると、更に炎は勢いを増し、四方八方へと燃焼範囲を広げる。

 

その圧倒的なまでの火力に、パベルは目と口を大きく見開いた。

 

オルランドや他の兵士はおろか、似ても似つかないとはいえ、ファイヤーボールを連発していた魔法詠唱者でさえも驚きを見せていた。

 

見ている者達からすれば、明確な位階が分からないとはいえ、自分たちが放っていた第三位階を遥かに超える炎が放たれているとあっては、当たり前であろう。

 

ニシキの口から炎が吐き出されるのが終わっても、前方にはまるで炎の壁のような豪炎が立ち込めている。

 

「こ、これがニンジュツだというのか…」

 

「相当な数をやれたんじゃねえか?」

 

パベルは、のどに何かがつっかえているような物言いで、小さく呟く。

 

オルランドはパベルよりは冷静さを取り戻し、状況の把握に努めている。

 

暫く炎の壁を見つめていたパベルであったが、次第にその炎が勢いをなくすと、生き残ったアンデッドたちがゾロゾロと進軍してくる。

 

「うーん、やっぱり広範囲の火遁の方がよかったか…」

 

ニシキの呟きに、ありえないといった口調を見せたのは、オルランドであった。

 

「い、今のが広範囲じゃなかったのか!?」

 

「え…?はい、今のはどちらかというと、対個人ですね」

 

当たり前だろ?と言った様子で答えるニシキに、オルランドは失笑する。

 

それを特に気にもせず、ニシキは再度両手を何度も組みなおす。

 

その速度は常軌を逸しており、まさに目にも止まらぬ速さであった。

 

「…あの手の動き、あれがニンジュツを発動させるのに必要なのか?」

 

ようやく冷静さを取り戻したパベルはニシキの行動をじっと観察しながら呟く。

 

「ご明察通りです、『印』といいます」

 

「イン…」

 

パベルはニシキの答えに、その名を覚えようと復唱する。が、それはすぐに驚きへと変わる。

 

「『火遁・豪火炎の術』!!」

 

先ほどの豪火球とは違い、ニシキの口から放たれた炎は、瞬時に左右へと広がりを見せる。

 

幅は50mにもなるであろうか。

 

炎の熱や威力そのものの凄まじさは豪火球の方が上のように思えたが、効果範囲はけた違いであった。

 

アンデッドの大軍がまるで波であるのと同じように、ニシキの放った炎もまた、火の波のようにアンデットへと襲い掛かる。

 

悲鳴とも呻きともとれる声と動きを表したアンデッドたちは、次々と燃え尽き、最後には焼けこげた身体が残るのみとなった。

 

平原が、パチパチと焚火のような音を立てる焼け野原になっているのを見た城壁の兵士たちは、暫くの沈黙の後…。

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」」」」

 

という大歓声を上げるに至った。

 

これは、アンデッド襲来を確認してから、わずか数時間のうちに起こった出来事であった。

 

 

 

 

 

 




※現在の弐式炎雷のレベル

・Lv80

※新しく得た忍術

・写輪眼Lv1 ・形態忍術Lv1 ・時空間忍術Lv1 ・火遁忍術Lv2
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