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首都ホバンスの宮殿前広場では、聖王女カルカを中心として、聖騎士団団長レメディオス率いる聖騎士団と、神官団団長ケラルト率いる神官団がゾロゾロと集結を果たしていた。
4時間ほど前、城壁の中央要塞線から、複数のデスナイトを含めたアンデッドの集団1万体以上がアベリオン丘陵に出現したという報を受け、急ぎ揃えた精鋭部隊であった。
数は聖騎士団と神官団合わせて300名にも満たない。
しかし、これとは別に兵士団約2万に、カリンシャとホバンスの間にある大都市プラートから出撃命令を下している。
地理的に先に城壁へ到着を果たすのは、兵士団である。
恐らくは、カリンシャからも相当な部隊が城壁へ援軍を送っているはずだ。
何としてでも、城壁が破壊される前に兵士団本隊だけでも到着できることを祈りながら、カルカは集まりを見せている聖騎士団たちに、急ごしらえの壇上の上で声を張り上げる。
「現在、アベリオン丘陵に、アンデッドの集団が確認されています!すでに、要塞線では苛烈な戦いが繰り広げられていることでしょう!皆も承知の通り、城壁が破られれば、聖王国の無垢の民が傷つくのは必至!故に、何としてでも食い止めなければなりません!!」
集められた聖騎士と神官からなる精鋭たちは、カルカの言葉に身を震わせながらも、真剣な様相で直立して見せている。
カルカは、そんな精鋭たちにこの上ない心強さを抱きながら、言葉を続ける。
「聖王国における精鋭たるあなた方の力が…ッ」
しかし、それは結びを迎えることはなかった。
ケラルトが酷く狼狽した様相でカルカに耳打ちをしてくる。
本来、いやそもそも聖王女たるカルカが、その言葉をもってして鼓舞を行っている時に、横やりを入れるなどあってはならないことである。
あるとすれば、何もわからぬ無能の行動か、それを理解したうえでも伝えなければならぬ事柄の二択となろう。
しかし、神官団長にして、カルカの右腕とも評されるケラルトが、前者のような振る舞いをするはずはなかった。
となると、必然的に後者である。
これから共に出撃する精鋭たちに対しての鼓舞に、ちゃちゃを入れる程の事なのかと、カルカは些少の疑問をもって、手を伸ばせば届く距離へと近づいてきたケラルトへ身体を寄せる。
暫くケラルトからの報告を受け、そして徐々にその表情を驚愕へと変えていく。
「なんですって!!」
その報告が驚きを齎しているのは確実で、思わず大声で叫ぶ。
その声を聞いた精鋭たちも、戸惑いを隠せないのかざわざわとしてみせる。
「ええいっ!一体どうしたというのだ!!」
聖騎士団団長であるレメディオスは、雰囲気が一瞬にして戸惑いを見せたことで、苛立ちを隠しきれない。
それを齎した自分の妹であるケラルトに、些少の怒りを向ける。
「…確かな情報なのですね?」
「はい、確かです」
「…わかりました。あなたを信じます」
カルカは、額に流れる汗を感じながら、精鋭たちに再度意識を向ける。
「どうか冷静に聞いてください…」
カルカの神妙な言い方に、精鋭たちは一抹の不安を抱く。
まさか、すでに城壁が突破されてしまったのか?
アンデッドの軍勢が増えたのか?
そんなネガティブな感情が、図らずも精鋭たちの心に共通して湧き上がる。
しかし、カルカから齎された言葉は、180度違った内容であった。
「…ミスリル級冒険者『黒金』のニシキ殿により、アベリオン丘陵に出現した1万のアンデッドは…完全討伐されたとのことです…!」
暫しの沈黙が流れる。
それは端から見れば数秒であっただろう。
しかし、この場にいるものにとっては、ひどく長いように感じられた。
そしてその沈黙ののち…。
「「「「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」」」」
300名を超える精鋭たちの驚きの声が、首都ホバンスの空へと駆け巡った。
「どういうことか、詳しくお話しください、パベル・バラハ兵士長」
カルカは、目の前に座るパベルへと真剣な眼差しを向けながら、珍しく声を低くして尋ねる。
パベルの顔には、酷く疲労が溜まった様子が見られ、凶眼と恐れられているその眼光は見る影もない。
戦闘に参加し、2日でホバンスに、馬で駆けてきたのだ。
疲労がないほうがおかしいだろう。
しかし、そんなパベルを労うにしても、まずは先の信じられない情報の詳細を聞かなくてはならない。
本来、執務室とはいえ、カルカとの謁見で来訪者が座ることは許されてはいない。
座ることを許したのは、せめてもの労いであった。
カルカの両隣にいるレメディオスとケラルトも、カルカと同じように真剣な表情を見せている。
「はい、実はニシキ殿が中央要塞線の城壁へ足を運んでくださり、そこで談笑していたのですが…」
「その折、アンデッドの集団が発見されたと?」
「はい、その通りでございます」
カルカの問いに、パベルは疲労で疲れ切った頭を何とか回して答える。
カルカは、パベルが渡した羊皮紙に書かれた内容にもう一度目を通す。
すでにケラルトとレメディオスも目を通している。
何度も確認するのは、そこに書かれた内容が、即座に信じるには難しい内容であったからだ。
「しかし、にわかには信じがたいわ…。スケルトンやゾンビなどの集団1万であれば、時間は要しても、レメディオスでも討伐は可能でしょう」
「勿論でございます!カルカ様!!…ですが、伝説級アンデッドであるデスナイトが10体もいるとなると…。正直、私でも一対一でなんとか勝てるかどうかといったところです…」
「…そのデスナイト10体を悉く討伐した後、火の忍術…火遁という名でしたね…。それを2発放ち、アンデッドの集団を焼き尽くしたと…」
カルカ、レメディオス、ケラルトが、それぞれの言葉を補うようにして口を開く。
書状には、パベルはもちろんのこと、中央砦の責任者である兵士団団長のユーゴ、更に要塞線の最高責任者である将軍の名前と印章までついている。
この3名が結託して聖王国に不利益をもたらすことを考えて偽装している可能性もあるが、その可能性はゼロに等しい。
故に、それが示す意味は、悉くが真実であるということだ。
「想像を遥かに超える…などという言葉では言い表せない程の功績と実力ですね…」
「全くだ!まさかこれほどであったとは…!」
カルカは些少の動悸を見せながら声を震わせていたが、レメディオスはまるで自分のことのように目を輝かせている。
なんなら、口角は上がり、表情は笑顔を有している。
「…デスナイト10体を一人で相手取り、勝利を収めるというのも信じがたいことではありますが…。私は火遁という忍術が気になります…」
ケラルトは、どちらかというとカルカと同じように驚きで表情を失っている側であったが、そこには若干の恐怖を滲ませていた。
「ニシキ殿は、火遁・豪火球の術、火遁・豪火炎の術と言っておりました。城壁で実際にそれを見た魔法詠唱者を指揮する者は、どちらも第6位階相当、若しくはそれ以上の威力であったと…。私も、それに準ずる威力のものであったと感じました…」
「第6位階…人間が至る最高位の魔法よ…。正確には忍術だから違いはあるのだろうけれど…」
「デスナイト10体を容易く屠る双剣使いでありながら、第6位階相当の魔法と同等の忍術を扱う…ということですか?」
ケラルトとカルカは、言葉にして改めてニシキという男の力に驚きを隠せなかった。
「彼こそ、聖王国の希望だ!!ニシキ殿がいれば、怖いものなど何もないな!!」
カルカとケラルトの驚きをよそに、レメディオスはははっと大口を開けて笑う。
しかし、それは非常に的を射た発言であった。
「カルカ様、これはニシキ殿に更なる地位の確立と褒美を与えるべきかと…」
「…そうね。冒険者としての最高位、アダマンタイト級も考えなくては…。いえ、もはやアダマンタイト級などという枠を超えている実力だわ…こんなの…」
「ええ。ですが、現状冒険者の最高位はアダマンタイトです。それは確実に与えられるよう、冒険者組合に打診、圧力をかけるべきかと…。これほどの功績、しかも裏付けのしっかりとした功績があれば、組合も首を縦に振ると思います」
「おおっ!となると、聖王国初のアダマンタイト級冒険者の誕生ということか!!これは素晴らしい!!」
カルカとケラルトの発言に、レメディオスは子どものようにはしゃいで見せる。
そんなレメディオスをまるで無視するように、カルカは一つの提案を示す。
「ねえ、ケラルト。前回はニシキ殿に九色を与えるのを保留にしたけれど、今回もそれは難しいかしら?できれば、聖王女として直接の褒美も授けたいのだけれど…」
「…そうですね…。無理をすれば可能かと…ですが、南部の貴族派閥が黙っていないかと思われます。現在、北部と南部の緊張度は非常に高いものとなっておりますから…」
「そうよね…。何か手はないかしら…。出来れば、これほどの力を持つニシキ殿を、国外はもちろんのこと、国内である南部にもとられるわけにはいかないわ…」
カルカは、考え込むようにして小さくため息をつく。
もしニシキが国外に魅力を感じ、移籍してしまえば北部聖王国の民たちは総じて心の支えを失うことになる。
今回の功績が広く知れ渡るのは時間の問題。
であれば、それをいち早く聖王女派閥のものとして有しておきたい、というのは当たり前の発想であった。
同じ国内でも、南部に移動されるとそれはそれで困ったことになる。
ニシキ殿はとても人が良いと、カルカは確信している。
無垢の民のため、力なき人のために、例え危険だと承知していても戦いに身を投じる。
これまでのニシキの功績と、その人柄を見て聞いていれば、誰でもそう思うだろう。
そんなニシキが南部に渡り、もしどこかの貴族にいいように使われてしまえば、聖王女派閥を打ち砕く矢じりにされる可能性もある。いや、非常に高いと言える。
そうなれば、そんなニシキを止められるものはどこにもいないだろう。
敵に回せば、もしかするとたった一人で北部聖王国を制圧することすら可能かもしれない。
それほどの力を、ニシキ殿は持っているのだ。
カルカは、そんな頼りになりつつも危険性も孕んだその力を、何としてでも手放すわけにはいかなかった。
「恐れながら、一つご提案があります…」
そんな心情を察したパベルは、カルカに呟くようにして口を開いた。
「何か妙案がおありなのですか?」
「はい。聖王女様方連名で、短剣を送るのはいかがでしょうか?」
「短剣…。なるほど…それであれば、ニシキ殿の功績を称えるという面目も立ち、且つ聖王女派閥がニシキ殿に必要以上に擦り寄っているという印象を与えなくて済みますね…。少なくとも、九色を与えるよりは、異議は些少で収まります」
ケラルトはパベルの発言に、その手がありましたか…と言った様相で口を開くと、続けてカルカへと視線を送る。
「わかりました。では、今回はニシキ殿にその2点をもって褒美といたしましょう。今回の功績は、前回を遥かに超えるものであると、私は確信しております。故に、その褒美は、ここホバンスの宮殿で大々的に行うのが望ましいと思っています」
「はい、是非そのように致しましょう。パベル殿、ニシキ殿の今後の予定は把握しておられますか?」
カルカの提案を嬉々として受け入れたケラルトは、即座にパベルへと意識を向ける。
「恐れながら、このようになるだろうと考え、ニシキ殿には首都ホバンスへ足を運んでくださるように言質をとっております。到着までは、1週間程度かと」
「おお、さすがはパベル兵士長!先が見えておるな!」
パベルの先手を打った行動に、レメディオスは賞賛を湛える。
「パベル兵士長、あなたの働きにより、聖王国には更なる安寧が齎されるでしょう」
「とんでもございません!すべては、ニシキ殿の功績によるものです」
「そんなことはありません。あなたとニシキ殿の友好があったからこそ、ニシキ殿はあの日あの時、城壁にいたのです。そして、あなたが身体に鞭打ってこの情報を届けてくださらなければ、今頃我々はホバンスを離れ、ニシキ殿への更なる褒美を授ける話も遅れていたことでしょう」
カルカの言葉を聞き、パベルは深々と頭を下げて応える。
「パベル兵士長。聖王女の名において、あなたに明日からの5日間、特別休暇を与えます。身体を休め、英気を養いなさい。以上です。」
「はっ!ありがたく頂戴いたします!」
パベルはふらつく身体を何とか持ち上げ、執務室を後にした。
パベルが去った後の執務室は、暫し静寂が支配したが、ケラルトが大きくため息をついたことでそれは破られる。
「はぁ…。お疲れ様です。カルカ様」
「あなたもね…。ケラルト…。でも、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったわ…」
「全くですね…。本来なら今頃は、馬車にゆられていたことでしょう」
「それもこれも、全てはニシキ殿のお力によるもの…ですね…」
カルカは些少の笑みを浮かべ、窓の外を見る。
そこには、雲一つない、きれいな青空が広がっていた。
城塞都市カリンシャの街は、ここ最近、類を見ないほどの活気を見せている。
それは、ミスリル級冒険者『黒金のニシキ』の誕生と活躍に他ならない。
豪王バザーと山羊人100体の討伐、そしてギガントバジリスク2体の討伐。
これらの功績に加え、南部を拠点とするミスリル級冒険者チーム『剣狂』の制圧。
亜人の大侵攻があった場合、真っ先に攻撃を受けるこのカリンシャにとって、かような強者の誕生は、生活の安定と安寧を齎すものとなっている。
身の安全が保障されれば、経済をふくめ、様々活気だつものである。
ただでさえ活気だっていたカリンシャの街であったが、更なる活気をもたらす出来事が起こった。
伝説級アンデッドであるデスナイト10体と、アンデッド集団1万の討伐である。
これにより、カリンシャの英雄としての格と噂が更に高まり、今では『(北部)聖王国の英雄』とまで言われつつある。
…さて、そんな活気あるカリンシャの街の中心人物と化しているニシキであったが、今は首都ホバンスにある宮殿の一室でため息をついていた。
「(…どうしてこうなった…)」
アベリオン丘陵において、デスナイトとアンデッドの集団を打ち倒した功績を称え、祝典を執り行う、という旨をグスターボから聞いた際には、目玉が飛び出るほどの衝撃を受けた。
それもそのはずで、ニシキが首都であるホバンスに足を運んだのは、パベルから『ぜひ個人的にお礼をさせて頂きたい』という誘いから来るものであった。
「…かんっぜんに騙された…」
ニシキはパベルの顔を思い浮かべながら、些少の恨みを言葉に乗せて小さく呟く。
すると、一室の扉の前で立っている年端も行かない女性がそれに反応する。
「ど、どうかされましたでしょうか?」
「ああ、いえ、なんでもありませんよ」
短めなショートカットを有する髪型は、少しクリーム色が混ざった金色をしている。
年の頃は10代半ばと言ったところであろうか。
非常に緊張した面持ちでニシキへと視線を向けるが、その緊張が彼女の特徴的な目を更に鋭くさせていた。
「(ほんとに、パベルさんにそっくりだな…)」
彼女の名は、ネイア・バラハ。
何を隠そう、ニシキが懇意にしているパベル・バラハの娘であった。
というよりか、説明をされずとも娘であることは明白であった。
なにせ、首都ホバンスでの生活において、英雄の案内役兼、身の回りの世話役、つまるところ従者や小間使いとして紹介された際に、その目つきを見て、思わず『バラハ殿⁉』と声を張ったくらいである。
ネイアはネイアで、突然休暇となった父から、散々とニシキのことについて聞かされていたため、名乗る前に素性がバレたことに、特に驚きはしなかった。
しかし、それとは別に、北部聖王国の英雄と呼ばれるニシキの従者という聖騎士見習いにとっては大役を任され、過度な緊張を抱いていた。
「(どうして私なんかが…)」
ネイアの想いは尤もであるが、それに関してニシキに責任はない。
あるとすれば、父であるパベルと、カストディオ姉妹である。
パベルからすれば自分の娘、レメディオスからすれば自身の部下、ケラルトからすればニシキが聖王国にて最も親しい友であるパベルの娘という3者同意のもとに彼女が指名されたからだ。
ネイアからすればたまったものではない。
「(でも、想像より遥かに優しそうな人だな…)」
ネイアは、ニシキの功績とそれを為す強さを散々父から聞かされていたため、脳内ではゴリラみたいないかつい男性を想像していた。
しかし、いざ会ってみれば、高身長で筋肉質な身体を有してはいるものの、その容姿は整っており、穏やかさの中に力強さを感じるものであった。
まあ、容姿だけ取れば、ローブルの至宝と言われるカルカ・ベサーレス聖王女殿下には及ばないが、その腹心であるカストディオ姉妹と同格といえるだろう。
「あー、えっと、何かお話でもしますか?」
「えっ…!!」
ネイアは突然のニシキの提案に、うまく返事ができずにいたが、頭だけは冴えわたっていた。
「(うっ…。気を使わせてしまったかな…)」
宮殿の一室に入るまでは、自己紹介と父の件で簡単な会話を有していたが、部屋に入ってからは一切会話は為されていなかった。
ニシキが何かを考え込んでいる様子もあり、ネイアは中々声を掛けることができなかったのだ。
「何か話題でもあればいいのですが…」
ニシキは少し困った様子で笑いを浮かべる。
「(年頃の娘さんにお父さんのことを話題としてあげるわけにもいかないしなー…)」
ニシキはどうしたものか…と考えこむ。
「で、でしたら。その、もしご迷惑でなければ、忍者についてのお話をお聞かせくださいませんか?」
「忍者…ですか?」
ニシキは想像していなかった話題の提案に、少し戸惑う。
「は、はい。私、父からニシキ殿の話を聞くまでは、忍者という言葉自体知らなかったものですから…」
「なるほど…」
ユグドラシルにおいて、忍者とは、特定の職業レベルを有して獲得することのできる職業で、そこに至るまでには高レベルを必要としている。
この世界の平均的なレベルにおいて考えてみれば、忍者を名乗る者がいないのも納得がいく。
「…あの、ご迷惑でしたら、結構ですので…」
「とんでもない。お聞きしたいというのであれば、お話しさせて頂きましょう」
ニシキは、ネイアの緊張と不安を解くようにして、忍者について語り始めた。
「(やっぱり、いざ実際に扉の前に立つと、緊張するな…)」
ニシキは、先ほどまでのネイアと会話していた時の心の平穏が消えていくのを感じながら、大きな扉の前に佇んでいた。
この扉は、首都ホバンスの宮殿内にある玉座の間の扉であった。
目の前の扉が、ギギッという音を立てながらゆっくりと開かれていく。
アンデッド侵攻騒動から約1週間。
パベルの話によると、本来は大観衆の前で式典を開く案もあったようだが、時間の都合上それは断念したらしい。
まあ、ニシキにとってはそっちの方が都合がよかったとも言える。
聖王国の首都でそれをやられた日には、何十万人という大観衆になるだろう。
とてもじゃないが、そんな大人数の前で無事に祝典を終えられる気はしない。
しかし、聖王女カルカを始めとする、多くの王族。
加えて、北部聖王国の貴族たち、俗にいう聖王女派閥の貴族たちが、開かれた扉の前で列を成しているのが見える。
開かれた扉の先にある玉座の間は、カリンシャの城とは比較にならないほどの広さと装飾が施されていた。
壁、柱、窓枠、天井に至る細部まで、白と金を基調とした豪華な装飾が見て取れる。
窓から差し込む陽光が、更にそれを煌びやかに見せていた。
玉座の間まで敷かれている深紅の絨毯、その左右に列を成す王族と貴族は、これまた煌びやかな礼装を纏っていた。
カリンシャの祝典では、聖騎士と神官がこの立ち位置にいたため、この点もその時と異なっていた。
緊張をほぐすため、ニシキはゆっくりと鼻から息を漏らす。
ゆっくりと歩みを始めると、王族貴族たちが拍手喝采で出迎える。
その拍手は、玉座の間を包むのに十分な音量であった。
途中、様々な王族や貴族からの賛美の声に、ニシキは更に緊張を高める。
それが表情に出ていないことを祈りながら、ニシキはぴしっと歩みを止める。
玉座は、三段の階段を有する壇上の上にある。
その後ろには、ローブル聖王国の紋章と共に、四大神の紋章が掲げられていた。
玉座の間にはもちろん、聖王女カルカ・ベサーレスが座していた。
これこそ清廉な聖女と言わんばかりの美しさであった。
以前あった時よりも、更に美しさが増しているように見える。
恐らくは化粧の類であろう。いや、美しさを齎す魔法の可能性もある。
それにより、その美しさは自身がかつて創造したNPC、ナーベラル・ガンマにも引けを取らないものであった。
そんな些少の情念を抱きながらも、ニシキはその場でゆっくりと片膝を突いて見せた。
ほんの数か月前にもやって見せた所作は、どこか洗練されたものに見える。
「面をおあげください」
聖王女が、透き通るような声をニシキに向けて発する。
「カルカ聖王女陛下より許可が出た。ニシキ・エンライ殿、面を上げよ」
隣に控えるケラルトが、綺麗ながらも威厳のある声を発する。
ニシキはゆっくりと顔を上げ、再びカルカをその視界に収める。
「ニシキ殿。此度は強大なアンデッドを含む1万体の討伐、お見事です。この功績は、他に類を見ない、偉業であると私は捉えております。この場にいるものを含め、多くの民の安寧を齎すものでしょう」
「恐れ多くも過分なるありがたいお言葉。恐悦至極に存じます」
「決して過分ではありません。あなたが居なければ、要塞線である城壁が崩壊し、多くの民が苦しんでいたことでしょう」
「…はっ」
「そこで、聖王国聖王女カルカ・ベサーレスの名の下に、聖王国から此度の功績に相応しい褒美を与えます」
カルカは、淑女たる身のこなしで玉座から立ち上がると、壇上から降り、
ケラルトが小さな、それでいで煌びやかな装飾が施された小箱を持ってくる。
カルカはその中に手を入れる。
「アダマンタイト級冒険者プレートでございます。王政、並びに冒険者組合との協議の結果、満場一致で異議を唱えるものはおりませんでした」
カルカは、尊厳な様相を保ちながら、ニシキの首にアダマンタイト級冒険者プレートをかける。
そして、ゆっくりと立ち上がり、威厳のある表情と声をもってして、玉座の間に宣言する。
「今ここに宣言を致します。ローブル聖王国史上初となる、アダマンタイト級冒険者『黒金』のニシキの誕生です!」
玉座の間に、ニシキの入場時を超える拍手が巻き起こる。
暫く続いた拍手が鳴りやむと、ニシキは再度頭を深く下げる。
「ありがたき幸せにございます」
カルカはその言葉を聞き、慈母のような微笑みを受けべる。
「しかしながら、今回の功績に対して、これだけでは褒美として些か不足しております。加えて、ローブル聖王国聖王女カルカ・ベサーレスより褒美を取らせます」
カルカの言葉に、今度はレメディオスが前に出てくる。
レメディオスは、豪勢な布を床とした短剣を両手に添えるように前に出てくる。
「聖王女、及び聖騎士団団長、神官団団長、九色より連名で、ニシキ殿に短剣を贈呈します」
聖王国において、聖王女が短剣を褒美として取らせることは、騎士の中で素晴らしい功績を挙げたものに対する褒美である。
本来であれば、国に仕える貴族や聖騎士、騎士に対してもたらされるものであるそれを、冒険者であるニシキに取らせたのには大きな意味があった。
それは、ニシキが『聖王女陣営』であることを『南部貴族陣営』に知らしめるのが大きな目的である。
そんなこととは露知らず、ニシキは仰々しくそれを受け取る。
「ありがたき幸せにございます」
再び拍手喝采が起こり、そのまま無事に祝典は終わりを遂げた。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv80
※新しく得た忍術
・写輪眼Lv1 ・形態忍術Lv1 ・時空間忍術Lv1 ・火遁忍術Lv2