第三章 1話
エデン条約の騒動が収まってから約1週間。私は小銭を稼ぎながら、特に問題も起こすこと無く日々を過ごしていた。このまま順調に進めれば次のメインストーリーはカルバノグ編、RABBIT小隊とのひと悶着があるはずだ。ただ、イベントでのハプニングなどの時系列が曖昧で、下手に行動を起こすとごっちゃになってしまうだろう。
"どうしようか......でもこのイベントを起こさなければ、パヴァーヌ編でのリオの横領も出来なくなり、元のストーリーに支障が出てしまうかもな......ならば──!"
思い立ったが吉日、私は早速行動を起こすことに決めたのだった。
あれから反省部屋を抜け出し、無断で債券を発行させ、とある学校に向かっていた。
"ここが『オデュッセイア海洋高等学校』かぁ......海、綺麗だな。"
私の目的は、『ゴールデンフリース号』に乗り込んでハプニングを起こし、調月リオの横領の隙を作る事。勿論、私自身が横領した分の債券は私が日頃で稼いでいるポケットマネーからある程度補填するつもりではある。流石に全ては無理だけど...。確か、『ゴールデンフリース号』はオデュッセイアとしても、半分管轄外の船のはずだ。ならば、侵入は容易いだろう。勿論、ノア先輩には先んじて連絡を入れていて、ユウカには時間を開けてそれとなく伝えるように頼んでおいた。これで何の問題もないだろう。
──あれから私は、誰にも気づかれること無く無事客室まで潜入できていた。ふと空いたクローゼットの方を見ると、そこには黒と白を基調としたバニー服に黄色の入ったウサギのカチューシャがハンガーに掛かっていた。
"確か...この船ってバニー服に着替えないといけなかったよな......。"
少々恥ずかしかったが、置いてあったバニー服に私は身を通し、その上から改めてセミナーのスーツを羽織って外に出る。どうやら、そこまで怪しまれてはいないようだ。私は少々の気恥ずかしさを抱えながら、プレイラウンジへと足を進めるのだった。
債券の横領から1日が経とうとしていた頃、私はプレイグランドでとある「ゲーム」を目の前にたじろいでいた。あくまで私は「白兎の黒崎コユキ」だ、自分の欲求のままに動いているように見せかけるように演技をしなければならない。
"──なるほど、この『ゲーム』の内容は向こうの世界のスロットと同じ感じなのか。そして、出た目によってランクが決まる...と。"
よくもまぁこんなゲームが流行るものだ。向こうの世界ではスロットなどの遊戯はあまり好きではなかったから、あまり遊んだことはないのだが...。あまり気は乗らないが、やるしかないか。
"やるぞコユキ、頑張れコユキ、行けるよコユキ!!自分の力を信じよう!!伝説の『S』を目指して!"
私はそう意気込み、「ゲーム」を開始するのだった。
私が債券を横領してから1日が経った頃、「ゲーム」で遊んでいると予想外の事が起きていた。
「なんとなんと!こちらのコユキ様が、わずか5回目でAランクを獲得しました!」
"......なんでなんですか!?!"
どうして!?まさかビギナーズラック!?いや、物欲か!?コユキを演じようとしているのに、なんでこんなにも目立ってしまうの!?
......私はコユキにはなれないのか?いや、元は違う人なのだ。突然別の人、それも女性になって完璧に模倣なんてする事出来るはずがない。これはしょうがないのだ。
──元は...違う......?
そうだ、そうだった。私は男性だった、いつから私の一人称は"私"になっていたんだ...?
どうして今まで気づかなかったんだ?
思えばそうだ、確かに違和感は存在していた。最近ノアと会話をする時、癖で「ノア先輩」と呼んでいた。
違和感が存在していたはず......はずなのに──。
どうして違和感を持てなかったんだ?
私は...僕は──
"──僕は...一体誰なんだ......?」
「おめでとうございます!この勢いで一気にSランク、VIPとなるのでしょうか!?......どうしました?」
船の職員が聞いてくる。そうか、今は確かここで「ゲーム」をしていたんだった。あれ?いつの間にかAランクになってる!この調子でいけば伝説の「S」に...VIPになれるんじゃ!?
「にははは!!任せてくださいよ!この私が伝説の『S』になって、皆を驚かせてやりますよ!!」
そうして私、黒崎コユキはまたゲームの席に着き、伝説の「S」を目指して行くのだった。
エデン条約の騒動が落ち着いた頃、私はユウカに依頼され、C&Cの4人と一緒に『ゴールデンフリース号』に潜入していた。
ユウカからの依頼はこうだ。
1.オデュッセイア海洋高等学校のクルーズ船、ゴールデンフリース号に潜入して、先日反省部屋から脱走した「白兎」の二つ名を持つミレニアムサイエンススクール1年生の黒崎コユキを捕まえる。
2.C&Cが何かと騒ぎを大きくしがちなので、騒ぎが肥大化する前に私がブレーキをかける。
しかし、私には違和感があった。彼女、黒崎コユキはエデン条約でも活躍をしてくれていて、彼女の人となりもある程度把握はしているつもりだ。そんな彼女が債券の横領などするように見えなかったのだ。
"この違和感...なんだろう?"
私は一抹の疑問を抱えながら、情報で手に入れたプレイグラウンドへ足を運んだ。すると、台に八つ当たりをしている彼女、黒崎コユキ本人がいた。しかし、どこか様子がおかしかったのだ。
「......え、Bじゃん。要らないんだけど!?ねーなんでぇーーーー!?信じらんない、今日いくら入れたと思ってんの!?そろそろ確定でSが出ても良くない!?」
そんな事を言う彼女は、エデン条約で見た黒崎コユキとは全く違っていた、もはや別人と呼べるほどに。
「一体いつになったらVIPになれるのさぁ!!もう待てないんだけどーーーー!!!」
そう言って台を叩いて、ガードマンに怒られていた。怒られた彼女は悪びれる事無く、またゲームに集中し始めていた。すると、大画面にアスナの姿がドアップで移った。
「おめでとうございます!この勢いで一気にSランク、VIPとなるのでしょうか?」
すると、コユキは映し出された大画面を見て驚いていた。
「えっ!?今のアスナ先輩じゃん!?ど、どうしてここに......!?っていうことは......。もしかして......?」
そう言う彼女に私は近づき、声を掛けた。
"こんにちは。"
「うわああぁぁぁぁぁっ!?こんにちはぁぁぁ!?」
声を掛けられて驚いた彼女は振り返りもせず、警備員に叫びながら逃げていった。
"あちゃー......面倒くさいことになっちゃったかもね...。"
すると、後ろからネルが私に言い放った。
「おい、先生。下がってろ。それから......こいつぁ、流石に見逃せ。」
そう言って私たちは戦闘を始めるのだった。