sudoの先に在るもの   作:わるいおとな

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第三章 2話

あれから私たちは警備員との戦闘で、臨時の牢屋に放りこまれていた。

 

「あーくそ、ちょっと擦りむいたじゃねーか......。先生、大丈夫か?怪我とかしてねぇか?」

 

そう言うネルに私は心配をかけないように明るく返す。

 

"うん、大丈夫。ネルが守ってくれたから。"

 

すると、ネルは小恥ずかしいような表情で「はんっ......。」と相槌を返した。そして、言葉を続ける。

 

「にしても、あんな狭ぇ場所で『1対100以上』とか流石に多すぎんだろ......どんだけ警備のやつら暇なんだよ......。」

 

確かにそうだ。いくらネルが強いとはいえ、数の暴力には敵わない。

 

"まぁ、こういう事もあるか。"

 

そんな楽観的な思考を巡らせていると、ネルからツッコミが入る。

 

「先生......あんまりにも楽観的過ぎると足元すくわれるぞ......。そんな思考回路でよくここまで生きてこれたな...。」

 

"あはは...返す言葉もないよ......。"

 

そんな会話をしていると、牢屋の扉が突然開いた。

 

「やっはー!先輩、先生、ひっさしぶりーー!!」

 

開いた扉の先にいたのは、勝ち誇った顔を浮かべているコユキが居た。

 

「いやー、びっくりしましたよもー。急にアスナ先輩の懐かしい顏がドーンって出てきて、まさかと思ってぼーっとしてたら後ろから急に声を掛けられたんですもん。」

 

いつもと違う彼女はなんてことないといった表情で私たちを見る。

 

「ま、でも今は全然大丈夫!なんたって私は、この船のお客様(仮)として丁重に守られているからね!ここにいる大量の警備は、全部私の護衛兵みたいなもの!いくら先生の指揮があろうとも、流石に多勢に無勢なんじゃないですか~?」

 

やはりおかしい、彼女はこんな事を笑顔で言う人じゃなかったはずだ。もっと人を思い、考え、最善を尽くして力を使うのが彼女のはずだ、一体どうしてしまったのだろうか...。そんな思考を巡らせながら、彼女に質問をする。

 

"先輩たちが心配してたけど、変なこととかしてないよね?"

 

すると、彼女は少し困惑の表情を浮かべ答えた。

 

「変なこと、ですか......いえ、特に何も?」

 

"債権とか横領したって聞いたけど......。"

 

「......債権?ああそれは、あそこでゲームをする為にちょっと使いましたが......。」

 

そんな事を言う彼女にネルは言い返す。

 

「おい、金額は聞いたがちょっととかいう額じゃねーだろ。てめぇ自分がいくら使ったか把握してんのか?どうせ何も考えずに使ったんだろ?」

 

そんな会話を聞いていると、また扉が開いた。その先にいたのは、カリンとアカネだった。

 

「あらあら、全集合ですね。」

 

そんな事を言うアカネを見て、助けに来たと思ったネルが余裕を見せた瞬間、カリンから言われる。

 

「......ごめん、私たちも捕まった。」

 

そんな彼女たちを見て、ネルは再び呆気に取られるのだった。すると、コユキから笑い声が聞こえてくる。

 

「にははは!いやー、生きているとこんな日も来るんですねー!!天下のC&Cが捕まっている様を、こうして見下ろす日が来るなんて!」

 

そんな事を言う彼女を見て、私はネルに静かに問う。

 

"コユキっていつもこんな感じなの...?"

 

すると、ネルは飽きれたように答えた。

 

「先生。こいつは元からこういうやつだ。全っ然話が通じねぇんだよ。」

 

ネルから見た彼女はイメージ通りらしい。では、今まで見た彼女は何だったのか?初めて会った日に感じた"何か大きな使命感"は?廃墟に同行し、手を貸してくれた彼女は?エデン条約時、己の体も顧みず、身を投じてくれた彼女は?

 

 

──全て偽物だったというのか?

 

 

そんな予想が私の脳内を埋め尽くす。しかし、私はすぐにそんな予想を振り払い、彼女に......コユキに向き直る。そして質問をしようとした瞬間、再び扉が開いた。その先に待っていたのは、警備員を連れたアスナだった。

 

「あ、コユキじゃん!ここにいたんだ?」

 

彼女はそんな事を言い、牢屋に入ってきた。すると、コユキは彼女が捕まったと思ったのか、笑いながら警備員を労う。

 

「にはははは!こんにちは、先輩!そして警備のみなさんはお疲れさまでした!」

 

そんな事を言う彼女は気づいていないようだが、警備員は何処か様子がおかしい。すると、警備員の一人が私たちに声を掛けた。

 

「そちらの方々。......大変失礼いたしました、釈放です。」

 

「......へ?」

 

なんだろう、「ガーン...」という効果音が聞こえた気がする...。それに、釈放という事はつまりアスナが......。

 

「Sランクをお持ちのVIPであるアスナ様の指示に従い、皆さまを釈放とさせていただきます。上でのお話合いがありまして......大変申し訳ないことに、先ほどまでの戦闘の被害額だけはご請求させていただきますが......。」

 

どうやらアスナが無事にSランクになったらしく、そこで得たVIPの権限を使って私たちを釈放しに来たらしい。すると、ネルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「......ははっ。そうかそうか......。つまり、とりあえずてきとうにお金さえ払っとけば後は何をしても良い、と。別に学校間の問題にもならない......そういうことで良いんだな?」

 

そう言ったネルとコユキは何処か危ない『鬼ごっこ』を始めたのだった。

 

 

一方その頃、ノアは......

 

「コユキちゃん、大丈夫でしょうか?」

 

私はセミナーの仕事をしながら、唐突に独り言を零した。黒崎コユキと入れ替わってしまった彼は、何を思ってかゴールデンフリース号に潜入、そしてミレニアムの債権を使っての大掛かりな問題を起こしている。お陰でC&Cも出動する始末だ。

エデン条約の一件で、私は彼にある程度の信頼を寄せてはいるが、彼は元はキヴォトスの外から来たみたいなニュアンスの話し方をしていた。キヴォトスの外という事は、恐らく銃撃戦とは無縁の世界からやってきたのだろう。彼が危ない目に遭っていないといいのだけれど......。そんな事を考えていると、後ろから声をかけられる。

 

「ノア?どうかしたの?」

 

ユウカちゃんだ。私は彼の要望通り、彼が騒ぎを起こした後少し時間を置いてからユウカちゃんに報告をした。恐らく、その間に進める『計画』があるのだろう。取り合えず、今は彼を信用しよう。

 

「いえ、何でもありませんよ。コユキちゃん、早く見つけられるといいですね。」

 

私が誤魔化すと、ユウカちゃんはため息をついて返答を返した。

 

「本っ当に困った事をしてくれるわね......コユキ。帰ったらどうしてやろうかしら...。」

 

私は笑いで返しながら、再びセミナーの仕事に手を付け始めるのだった。

 

 

あれから、個人用の脱出ドローンを装備して逃げようとした彼女を撃ち落とし、溺れそうな彼女を引き上げて拘束していた。

 

「し、死ぬかと思った......。」

 

そんな事を言う彼女に私は質問を投げかける。

 

"──コユキ、どうしてこんな事をしたの?"

 

その質問にコユキはなんて事無いといった様子で答える。

 

「え?そんなのミレニアムから離れて、自由になりたかったからだけですよ?」

 

やはり、何処かおかしい。前までの彼女はやる事する事全てに何か大きな理由があったような気がした。しかし、今回の彼女にはそれを感じない。

そして、事態が落ち着いた事でようやく気付いた。彼女の...コユキのヘイローが変わりかけているのだ。前までは澄んだ水色だったヘイローが段々とピンク色に...そして何より光が強くなっている。それはまるで、彼女の人格を上塗りしていくような形で。

 

"貴方は......本当に──。"

 

私がまた質問をしようとした瞬間、護送のヘリが到達した。私はその質問を問いかけることも出来ずにコユキはヘリに護送されていったのだった。その後、私たち用の護送ヘリも到着し、無事ミレニアムまでの帰路を辿るのだった。

護送中のヘリの中、私は皆に質問を投げかけた。

 

"みんな、自分のヘイローについてどんな形をしているか分かるかな?"

 

私の唐突な質問にC&Cの面々は少し困惑を浮かべながらも答えた。

 

「自分のヘイローは分かりますね。」

 

「ったりめぇだろ?」

 

どうやら皆、自分のヘイローは見えているらしい。だったら──。

 

"──なら、他の人のヘイローは?"

 

私のその質問に皆固まる。どうやら私の予想は当たったらしい。風の噂程度だが、聞いた事はあった。『他人のヘイローはしっかりと認識できない。』私はキヴォトスの外から来た大人、恐らくその"ルール"に縛られないのだろう。だから彼女達のヘイローが認識できる、ならば──。

 

"みんなからは他の人のヘイローはどう見えているの?"

 

私の質問に、彼女たちは黙った。いや、言葉を選んでいると言ったほうが正しいだろう。すると、アカネが真っ先に答えた。

 

「何と言いましょうか...そこにヘイローが"ある"とは感じるのですが、詳しい形などは分からないんです。」

 

そうか、通りで彼女の......コユキの違和感に気づけなかった訳だ。彼女達はそこにヘイローが"ある"と認識出来るが、そのヘイローの形や色は認識出来ないならば、コユキのヘイローの変わりようなどに気づけなかったのにも筋が通る。

そんな考えを巡らしていると、彼女達が心配そうな目で私を見る。冷静になった私は、彼女達に無駄な心配をかけるのは良くないと思い、言葉を紡いだ。

 

"いや、風の噂で聞いてね。少し疑問に思って質問しただけよ。"

 

そう言った私を見て、彼女達は特に疑問に思う事も無く、別の話題を切り出すのだった。すると、隣にいたアスナにヘッドホンを外され、耳元で囁かれる。

 

「取り合えず今のコユキの事は心配ないと思うよ。」

 

そう聞こえた。これまでの関わりから、彼女の勘の鋭さは理解している。ここは彼女を信じよう。私は彼女に"分かった"という一言だけ答え、なんてことも無かったかのようにに会話の中に混ざるのだった。

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