私が説明したことは3つ、コユキの中にいるのは全く違う、別人格である事、その彼女はこのキヴォトスの未来を知っているという事、彼女は何の影響かは分からないが、本来の自分を忘れてしまっているという事。
「......なるほど、つまり本来彼女が宿していた人格とはまた別の人格が彼女の中に居る、そうだね、仮で人格Iと名付けよう、その彼女は近い将来起こりうる問題を知っている。そして、その未来を回避しようとしているという事。そうして本来の彼女を演じながら、動いているている間に本来の自分を見失ってしまったという事だね。そして、人格I本来の人格を取り戻す為に私達に手を貸してほしいと。」
理由を説明し終わった時、セイアがそう零した。
"そう、彼女の中で一体何が起きているのかが分からないけど、現状放っておけないのが事実。手を貸してくれないかな?"
そう私は問いかける。正直、彼女達には何ら関係のない話だ、わざわざ介入する必要もないのだから。すると、隣で同席しているノアが立ち上がって頭を下げた。
「私の方からもお願いします。今のコユキちゃんは自分を忘れてしまっている。そして、その自分を知っているのがあなた方なのです、手を貸してはくれませんか?私は彼女を助けたいと思っています。今のキヴォトスの問題を解決するために、彼女が奮闘する姿を私は見てきました。でも、彼女の悩みを私は知ろうとしなかったのです。」
下げた頭を上げて、言葉を続けた。
「私は、彼女に甘えていました。一人でなんでも解決してしまう、そんな彼女に。どんな問題も、彼女に任せたらきっと解決出来るだろう、と。でもそれは違う、彼女は少し重い運命を背負わされた一人の人間です、そんな彼女に甘えてしまっていたら、私達も成長出来ないし、彼女が潰れてしまう。彼女には隣で支えてあげられる『対等な』存在が必要なのです。きっとこれは私のエゴ...なんだと思います。でも、一人で戦って潰れてしまった彼女をこのまま放っておく訳にはいきません。どうか......どうか、私達に力を貸してください!」
そう言い、さっきよりも深く頭を下げて、ノアは彼女達にお願いをする。私も立ち上がって、頭を下げた。
"私からもお願いするよ。私も彼女に救われた身だ、このまま放っておくわけにはいかないんだ。どうか、手を貸してはくれないかな?"
すると、彼女達からは思いの外軽い返答が返ってきた。
「いいよー!コユキちゃんの為に出来る事なら、何でもするよ!」
ミカが最初に言うと、他の2人も頷いて言葉を返した。
「そうですね、彼女には大変お世話になりましたし、ここで借りを返させていただきましょう。」
「そうだね、私としても彼女に恩義を感じているのだ、ここで返さないで何になる...と言ったところかな。ぜひ手伝わせてほしい。」
──少し前の彼女達ならば、こんな事言っても手を貸してくれなかったのかも知れない、あくまで他校生徒、私達とは関係がないと言って関わろうとしなかったのかも知れない。それがエデン条約以降、「手を取り合う」という言葉を知って、覚えて、皆で同じ方向を見る事が出来るようになって、彼女達はとても変わった。その成長を見て、私は少し目尻に涙が浮かんだ。
"3人とも、成長したね。先生として誇らしいよ。"
3人の了承も得られた事だ、本題に入ろう。
"さて、じゃあ作戦会議だ。そうだね、さっきセイアが名付けてくれた人格Iさん、まず彼女を取り戻す為に私達が出来る事を一つずつ考えていこう。"
──作戦会議が始まってから、大体1時間たったころであろうか、私達は早速行動に移すのだった。
"粗方方向性は決まったね。それじゃあみんな、行こうか。"
「はいはーい!まっかせて!!」
ミカが元気よく返事をした。そうだ、伝え忘れていたことがあった。これは伝えないと。
"そうだみんな、これはあくまで休暇だから思い詰めずにゆっくりしていってね。"
すると、ナギサが言葉を返した。
「──分かりました、先生も一人で抱え込まれないようお願いしますね。」
"...分かったよ。"
そう返事を返したら、ナギサたちは先に部屋を出ていった。
(ごめんね、ナギサ。これはどうしても生徒達には言えない事だし、みんなに心配をかけたくないからね。これは私が...大人として、"先生"として責務を全うしなければならないんだ。一生徒にこんなにも重荷を背負わせてしまったことに対する罪悪感、私の不甲斐無さが招いた結末だ。"私"が何とかしなければ──。)
「先生?どうかされましたか?」
どうやら表情に出ていたらしい、ノアには敵わないな。
"いや、何でもないよ。これは私がやるべき事だからね。"
「そう...ですか。」
それだけ言って、ノアは何も聞かずにみんなの元へ戻って行った。
"さて、私も行こうかな。"
そう言って、私が部屋を出ようとした途端、出口でとあるものが落ちていた。
"...これは?"
私はそれを手に取り、見て驚いた。
『人物Iの神名文字』
私はこのカケラを見たことがある、これは生徒達の神秘そのものだからだ。このカケラは生徒には見えない物ではあるが、このカケラがあれば、生徒達の神秘は飛躍的に上昇し、能力を底上げさせることが出来る物だ。しかし、このカケラは他のカケラと比べて、明らかに違う所があった。それは、カケラの中に顔が無いのだ。いや、顏はあるが、靄が掛かっていて見れないのだ。
"人物I...これはもしかして、コユキの中の...?"
すると、シッテムの箱から突然声が聞こえて来た。
「先生!そのカケラ、解析させてくれませんか!?」
アロナだ、私は言われるがまま、アロナに解析をお願いした。解析が始まってから一分程時間が経った頃だろうか、どうやら解析が完了したようだった。
「先生!このカケラの解析結果が出ました!」
"結果はどうなんだ?"
すると、アロナは「落ち着いて聞いてください」と言って話を続けた。
「このカケラはコユキさんのもう一つの人格そのものです、記憶のカケラと言っても差し支えないと思います。これをコユキさんに差し上げれば、本来の彼女を取り戻せるかもしれません!しかし、これ一つだけでは足りないかと...予想では、あと4個ほど必要になると思います。しかし、出現条件やなぜこんな形でコユキさんの人格が出てきたのかは不明です...。」
その答えを聞いて、私は──。
"──本当!?ありがとう、アロナ!アロナのお陰で希望が見えて来たよ!"
「ふふん!このスーパーAIのアロナに任せればこのくらい楽勝ですよ!!」
ありがとう、本当にありがとう。やっと一筋の希望が見えて来た。私はその希望を胸に、皆の元へ向かうのだった。