あれから予定通り、大図書館に足を運んだ私はその景色に驚かされていた。
"おぉ、こんなに本がいっぱい...。"
それは文字通り、大図書館と言った風貌。こんなにも大きい図書館は初めてだ。
だが、この中から私の欲しい情報など見つけられるのだろうか?そう思っていると、後ろから静かに声を掛けられた。
「何かお探しですか?」
この人は確か...
「初めて見る顏ですね...。初めまして、私は古関ウイと申します...。宜しければ、お探しの本を教えてもらえればご案内出来ますが...。」
"初めまして!私は..."
偽名を名乗った方が良いのでは?この子、ウイはこれでも意外と情報通だ。ミレニアムの事情などある程度把握しているかもしれない。だが偽名はどうしようか...確かコユキの二つ名は白兎だったよな...白兎と言えばいなばのしろうさぎ。よし、決めたこれにしよう。
"イナバと申します!よろしくお願いします!"
「イナバさん...お探しの本は何ですか?」
よし、特に怪しまれてはいないようだ。そうだな、先ずは...。
"このキヴォトスの歴史についての本はありますか?"
「その子はこの大図書館の右奥の方にまとめてあります...。そこまでご一緒しましょうか...?」
"いえ、大丈夫です!ありがとうございます!"
そう言って私はこの大図書館の奥の方へと速足で向かったのだった。
私、古関ウイは人と関わる事は嫌いだ。だが、彼女...イナバさんは何か違う気がした。彼女はキヴォトス人であってそうではないような...そんな気がしたのだ。だが、これは単なる勘、当てにはならないだろう。だが....
「少し、警戒しておいた方がいいかもしれませんね...。」
私は手元に置いてあった、アイスアメリカーノを口に流しながら、また古書の復元作業へと戻るのだった。
あれから小一時間程、キヴォトスの歴史について調べているが、全く進展が無かった。いづれこのキヴォトスに来るであろう"破滅的な何か"、そのヒント所か一文字も出てこないのだ。これはお手上げ...か。そんな事を思いながら本を棚に戻して、周りを見渡してみると、「禁書庫」と書かれた部屋が隅にあった。扉は固く閉ざされており、南京錠もかかっている普通は入るべきではないのだろう。だが、私はその扉の奥が無性に気になったのだ。南京錠はダイヤル式で、数字が5つ並んでいた。私はその数字5つを感覚で合わせ、南京錠を解除する。そして、ゆっくりと扉を開けた私は少し驚いた。そこにあったのは、地下へ続く階段だった。
"これ以上行くと引き返せないだろうな。"
そんな独り言を零し、私は警戒を怠らずゆっくりと階段を下って行くのだった。
階段を下りた先に広がっていたのは、大きな本棚が2~3個並べてある部屋だった。色々な本を見て回ったが、これと言って情報になるようなものは何一つ無かった。不思議だ、禁書庫と書かれているのに、内容はありきたりな物ばかり...
"ここ、本当に禁書庫なのか...?"
そう思いながら、本を元の場所に戻していると、ふと目の前の本棚に一つだけ少し飛び出ている本を見つけた。私は無心で、その本を奥へと指しなおした。すると、何かがハマったような感覚と同時に、目の前の本棚が動き始めた。
"うわ、なんだこれ!"
少し経つと、目の前には奥へと続く道が出来ていた。私は警戒しながらも奥へと足を進めるのであった。
その先に在ったのは質素な部屋だった。机と椅子、その上に本が一つだけ。まだ読みかけだったのか、ページはまだ浅かった。その本に目を通すと、こう書かれていた。
『いづれキヴォトスに来るであろう"破滅的な何か"について。』
私は身を乗り出してその文字の続きを追った。そこにはこう書かれていた。
『キヴォトスには"忘れられた神々"が存在している。その"忘れられた神々"を消滅させようとしている存在がいる。かつてのキヴォトスの主で、"名もなき神"を崇拝している、現在では既に淘汰され痕跡を残すのみとなった筈の存在。"無名の司祭"だ。』
"無名の...司祭...?聞いたことが無いな...。"
だが、相当厄介な相手なのだろう。禁書になるほどだ、これは警戒をしていて損は無いのかもしれないな。そう思いながら続きを読み続けた。
『無名の司祭は"色彩"を利用して、"忘れられた神々"を、このキヴォトスを消滅させようとしている。』
"そうか...そういう事か...。通りで、コユキが絶望する訳だ。"
そうだ、無名の司祭はこのキヴォトスの要である、"忘れられた神々"を消滅させようと企んでいる。その戦闘力はどれほどの物か、私には分からない。だが、コユキは...彼女はきっと、この無名の司祭によって、絶望に叩き落されたのだろう。
私は久しぶりに苛立ちを覚えていた。それはそうだ、いくら一人で生きていけているとは言え、まだ15歳やそこらの年齢の彼女達が絶望的な...生きる意味を見失うような目に遭う可能性があるのだ。ならば...ここは大人として、子供を...生徒を守る立場の人間として、放っておく事は出来ない。どんな生徒も、そんな目に遭う必要なんてないのだから。これは私や先生の...大人の責任なのだから。
"絶対に救ってみせる"
私は決意を固め、その部屋を後にするのだった。
それから私は、大図書館を出て、外を見回っていた。どうやら、時間は思ったよりも進んでいたらしく、月が夜を照らしていた。状況は混乱を極めていて、いつ皆が暴走してもおかしくないような状態だった。そして、医務室の前を通り過ぎると、皆を心配している先生の姿が見えた。どうやら先生は無事一命をとりとめたようだった。恐らく、これから先生はヒナの家へ向かい、説得をしに行くのだろう。きっとこれからエデン条約締結、その一歩を踏み出すのだろう。ならば、私のするべき事は...
私は一人、とある場所へと足を進めるのだった。
私は...何がダメだったのでしょうか...。セイアさん殺害の件で、代理でホストの座に就任した私は真偽不明の情報の嵐に晒される始末。その中で、セイアさん殺害の理由がエデン条約締結の阻止だと気づいた私は、今後私が排除され、ホストがミカさんだけになったとしても、出来るだけ負担が残らないように尽力してきました。
そこで、「補習授業部」を設立、将来を望まれた天才から一気に転落したハナコさん、経歴が不明のアズサさん、正義実現委員会に対する牽制としてのコハルさん、ブラックマーケットに出入りしている噂の立っているヒフミさん。彼女らを補習授業部に入部させ、万が一には一度に退学に追い込めるように準備してきました。そして、その「箱」を制作するためにシャーレの超法的権限の利用もしました。しかし、先生は私のやり方には賛同せず、彼のやり方を突き通しました。
おかげで私は随分と疑心暗鬼になってしまいました。誰も信じれなくなり、「全ては大義の為」という建前を使い、度を越えた悪辣な手段も使った。その結果がこれだったのです。
『あはは......えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』
「うぅ....。」
どうして...どうしてこうなってしまったのでしょうか?何か...何か正解は──
"何か正解はあったのでしょうか?ですよね...にはは、確かに難しいですよね。"
「──ッ!?あなたは...一体!?」
一体何故ここに生徒が!?ここは私のセーフハウスのはず...。
"いやー、分かります。私も何が正しくて、何が間違っているか。分かりませんもん!"
彼女は"でもですね"と言い、言葉を続けた。
"先生みたいな人に...信頼できる大人に助けを求めるのは間違っていないと思いますよ!自分の中にひたすらに溜め込んで、そんな事をしていると今みたいに、どこかで破綻してしまいますから。"
彼女は優しく微笑みながら、私のしてきた今までの行動を知っているかのような口ぶりで言った。
"相談が出来るくらい信頼できる人を作ってみては如何ですか?例えば先生など、あの人はちゃんと信頼できますから!"
「そう...ですね。そうだったのかもしれませんね。」
今日初めて会った彼女にこんな事を言われるだなんて、人生まだまだ何があるか分かりませんね。
「でしたら、貴方にその役割を与えても宜しいですか?」
"あ、そうなるんですね...。"
彼女、桐藤ナギサは私に向かってそんな事を言い出した。何故そうなる!!もっと相談できる人が居るでしょう!先生とか!!なんて言っても無駄か...。仕方ない、受け入れるしかないだろう。
"...しょうがないですね、わかりました!私がその役を務めましょう!"
「ありがとうございます...。」
そう言った彼女は目に涙を浮かべ、下を向いた。そんな彼女を私はそっと腕で包み込み、安心させてあげたのだった。
「すいません、お見苦しい所を見せてしまいました...。」
しばらくして、ナギサは落ち着きを取り戻していた。まだ目元は赤いが、涙を流したおかげかどこかすっきりしたような表情をしていた。
「それで、貴方は一体どなたなのでしょうか?」
それはそうだ、セーフハウスに急に入ってきて、彼女が困惑しないはずはないのだ。そうだな、ここは素直に言っておくとしよう。
"そうでしたね。初めまして、私はミレニアムでセミナーをやっています!黒崎コユキです!"
そう自己紹介をすると、彼女はとても驚いたようだった。まぁそれはそうだろう。だって、ミレニアムの生徒がトリニティの制服に身を包み、挙句の果てに自分のメンタルケアまでしていたのだから。
「なぜミレニアムの方がこちらに!?それにそのトリニティの制服...一体どこで?」
"そうですね、その理由は明日以降にしっかりとお話するつもりです!なのですいません、実は時間があまりなくてですね。今日はこの辺で失礼します!"
そう言って私はその部屋から飛び出した、出た瞬間、「あ!ちょっと待ってください!」なんて声が聞こえたが私は無視を決め込むのだった。
そして、これから向かう場所は...
"そろそろ行くとするか、古聖堂に。"
そう言って私は古聖堂に...彼女達のブルーアーカイブを見届ける為に足を進めるのであった。