外へ出てしばらくした後、雨が降ってきた。私は花屋の前で雨宿りをしながら、どうしようか悩んでいると、店内から声が聞こえて来た。
「宜しければ休まれて行かれてはどうですか?夜も深くなってきましたし。」
"え、いいんですか!?"
「はい、以前トリニティの方にはお世話になったので、恩返しをと思って。体も冷えますので、どうぞ中でくつろいでいってください!」
そうか、今の私はトリニティの制服に身を包んでいる。トリニティ生と間違われてもなにも間違いじゃないのか。ここは素直にご厚意に甘えよう。後で何か恩を返せればいいのだけれど...。
"ではお言葉に甘えて...。"
そう言い、店の中に入った私は綺麗なお花の数々に目を奪われた。
"お花...とても綺麗ですね!こんなにいっぱい綺麗な花が揃っているだなんて...。お花をとても大切にしているんですね!"
素直な感想を言うと、花屋の店主は笑みを浮かべた後、少し寂しい顏をして言った。
「ありがとうございます。ですが、最近お花を買っていかれる方達もめっきり減ってしまいましてね。そろそろお店を畳もうかなと思いまして...。」
"──!!"
「時代は移り変わる。その言葉を私は他の人たちよりも理解しているつもりです。ですが、私は『好き』を仕事にしたかったんです。でも、時代の流れは残酷で...最初はお花を買っていく方々もいて、経営は安定していたのですけれど、最近は...特にエデン条約の話が出てきてからはめっきりお客様が減ってしまって。」
確かに、時代の流れは残酷だ。ついこの前まで流行っていた物、それが今ではもう古いと言われ、皆の話題から無くなってい行く。それはどんなものでも同じで、結局は時代に流されて皆の興味から薄れていく。でも...でも私はこの綺麗な、とても生き生きとした花を無くしたくない。無かったものにしたくないのだ。だから...
"ダメです。"
「...え?」
"止めたらだめです!絶対に!"
「何故そこまで...。」
"私には分かります。この花は生き生きとしている、それは貴方が大切に、愛情を込めて育てていたからですよね。私はその努力を無駄にしてはいけないと思います!"
「ですが、お客様も来ないこのお店をどう経営していけば...。」
"私が全て買います!"
「えぇ!?そんな無茶な!」
"無茶ではありません!それに、私が購入して皆さんに配って行けばこのお店の宣伝にもなります!"
私は決して善者ではない。他人に無条件で善意を渡す事は出来ない。でも、恩を貰ったのに、それを返さないのは私の人情が許さないのだ。だから、恩を貰った分、しっかりと返したいと思う。私はトリニティ生ではない。だから、「トリニティ生だから」と言って恩を貰ってしまうわけにはいかないのだ。貰った分はしっかりと返したい。だから、これは"私"の恩返しだ。
「──!!そこまで言って下さるのですね...ありがとうございます。」
店主は少し涙を流し、私に感謝の言葉を言った。感謝をするべきなのは私の方なのに...。雨が降ってきて途方に暮れていた時、手を差し伸べてくれて、泊まる場所も用意してくれて。こんなにも優しい人がこんなにも苦労しているのだ。恩を返さずしてどうする。私はそんな事を思いながら、雰囲気を変える為、話を切り出す。
"こんな暗いお話をしていてはお花達が枯れてしまいます!取り合えず、お腹もすきましたので何か食べましょう!"
「...そうですね。ではこちらへどうぞ。」
そう言って店主はカウンターの後ろの階段を上って行ったので、私はその後を追いかけるように上って行ったのだった。
どうやら、花屋の上は自宅になっていたらしく、暖かいリビングが私を出迎えてくれた。すると、店主の方は「適当な場所に座って待っていてください。すぐご飯をおつくり致しますので。」と言い、キッチンへと向かっていった。私はふと目に着いたソファーに身を預けていると、睡魔が襲ってきた。それはそうだろう、なにせ今日は一日中動きっぱなしで疲れていたのだから。でも、折角ご飯を作ってくれているのだから、食べたいなぁ...。そんな事を思いながら私は深い眠りの底へ行ったのだった。
「ご飯が出来ましたよ...おや?寝てしまいましたか...。」
かのエデン条約で事態が混乱を極めている状況で、この方もトリニティの為に色々動いていたのでしょう。疲れていても無理はありませんね。
「また恩が出来てしまいましたね...。ゆっくりお休みなさいませ。」
私はそんな独り言を零しながら、寝ている彼女の体に毛布を掛けてあげるのでした。
"んぅ...ここは...?あぁ、そういえばここに泊めてもらって..."
あれから早朝にになり夜が明けようとしている頃、起きた私は辺りを見回していた。どうやら私が眠ってしまった後、店主の方が気を利かせて冷めないように毛布を掛けてくれていたらしい。
「おや、起きましたか。おはようございます。」
"あ、ありがとうございます!にはは...すいません、昨日は途中で眠ってしまって...。"
私は昨日ご飯を食べられなかった事に謝罪を返すと、店主の方はなんてことない。っと言った風に首を横に振って、「ちゃんと休めましたか?」と聞いてきた。
"はい!お陰でぐっすり出来ました!ありがとうございます!"
そう言うと私はすぐに支度をし、出る準備をした。すると、後ろから声が聞こえてくる。
「もう出られるのですか?せめて、ご飯は食べていかれてはどうですか?」
"いえ、そう言う訳には...。"
そんな事を言っていると、店主の方は少し強めの口調でこう言った。
「ダメです!朝ごはんは何よりも大事なんですから!是非食べていってください!」
"そういう事なら...。"
私はその圧に負けて、ご飯を食べる事にした。
朝ごはんを食べた後、私は改めて店主の方にお礼を言った。
"改めて、昨晩は泊めていただきありがとうございます!また近いうちに来ますので!その時はぜひお花を買わせてください!"
「いえいえ、お礼を言いたいのは私のほうです。あんな励ましの言葉を貰ったのは初めてですし。お店、まだ続けてみようと思います。」
"──!!にはは、ありがとうございます。ではまた!"
そう言って家を出た私はまだ雨の降る早朝を駆けて行ったのだった。
あれからすっかり朝になり、古聖堂に着いた私は、あのファウストコールの現場を目撃していた。
"わぁ...ホントに揃っちゃってる...よくあんな恥ずかしいコール出来るなぁ。"
ぞろぞろと周りに人が集まってきた。どうやら、あのアリウススクワッドを包囲したようだった。すると、こんな声が聞こえて来た。
「アズサちゃん、私は今すごく怒ってます。すっごくです。」
平凡な彼女は言う。
「......。」
「ですが......それ以上に、無事でよかったです。すっごく怒ってましたが、よく考えてみればそれはアズサちゃんのせいではありません。ですから、私はもう怒っていません。」
言葉を続ける平凡な彼女に一度絶望に飲まれた少女、白洲アズサはは反応する。
「ヒフミ......。」
平凡な彼女は...力強く言葉を続けてい行く。
「ですが、あの方々についてはまだ怒っています。殺意ですとか、憎しみですとか......それが、この世界の真実ですとか......それを強要して、全ては虚しいのだと言い続けていましたが......それでも私は......!」
平凡な彼女は精一杯自分の気持ちを彼女達、アリウススクワッドにぶつける。
「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です......。そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!」
雨はまだやまない。
「私には、好きなものがあります!平凡で、大した個性もない私ですが......自分が好きなものについては、絶対に譲れません!友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰めあって......!苦しいことがあっても...誰もが最後は、笑顔になれるような!」
「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!」
空に光が差し込める。
「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!私達の描くお話は、私達が決めるんです!終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
段々と空に光が戻っていき、平凡な彼女の姿がはっきりと見える。
「私たちの物語......。」
平凡な彼女......阿慈谷ヒフミは強く、希望に満ちた声でその言葉を言う。
「私たちの、青春の物語(Blue Archive)を!!」
いやはや、まさか自分の目でこの名シーンを見れるようになるとは夢にも思わなかった。きっとこれからも、彼女の青春の物語は続いていくのだろう。そこにはきっと、苦難や葛藤もあるだろう。だが、その苦難や葛藤と同じくらいの喜びや幸せが待っている。
私は...大人はそんな彼たちを守るためにここにいるのだ。だから...だからその青春を...夢を壊そうとする者を私は許せない、子供の夢を...壊したり、否定したりするのは間違っている。これは私の..."僕"のやるべき事なのだ。
""ここに宣言する。""
""私たちが、新しいエデン条約機構。""
私たちは、あの大人たち..."ゲマトリア"に向けて、宣言する。「大人」のやり方には「大人」のやり方で、仕返しをさせてもらう。この借りは必ず返す。私は決意を固め、戦っている生徒達を援護しながら、一足先にアリウス自治区へと足を進めるのだった。