あの宣言から1日、アリウス自治区に身を置く私は紛争に紛れて逃げて来たアリウス生徒に手当と、食事を用意していた。何故アリウス自治区か、理由は二つ。一つ目はアリウス生徒達の土地勘だ。アリウスで育ってきた彼女達なら、手薄の場所などが把握しやすかったり、私の目的地への案内をお願い出来るからである。二つ目は敵の裏を突く事だ。あの大人、ベアトリーチェは恐らく逃げ出した生徒も把握しているだろう。あの大人はきっと、逃げるならトリニティもアリウスも関係のない場所に逃げるだろうと考えるはずだ。その裏をかいて、この後の戦いを少しでも有利に進めたい。戦える者はここで鼓舞し、無理な者は逃がす経路を作る。これが目的だ。
「ありがとう、イナバさん。痛みが大分引いてきた。」
"いえいえ!お安い御用です!それに、私は責任を全うしただけなので!にはは!"
「まるであの大人......先生みたいな事を言うんだな。私にもあの先生がいてくれたらどれだけ心強かっただろうか。」
"あなたはまだやり直せますよ。きっとこの先に続く未来には、無限の可能性がありますから!自分の夢...なりたい自分を目指して頑張りましょう!"
「はは、ありがとうよ。それで、私はどうすればいい?」
私の最終的な目的地は「アリウス・バシリカ」アリウススクワッドの一人、秤アツコが連れ去られた場所。そして、私の目標は先生に大人のカードを使わせない事。恐らく、先生とは鉢合わせる形になるだろう。だがこれも狙っている事だ、恐らく先生はこの状況をちゃんと理解して、的確な指示を出してくれる。私は彼に大人のカードを使わせずにこの戦いを終わらせたいのだ。あの大人のカードは代償がどういう形で出てくるか私にも分からない。だが、使わないに越したことはないのが確かなのだ。ならば、使わないように手伝う事が何よりも重要だ。ならば...
"──そうですね、嫌じゃなければですけど......一緒にベアトリーチェを殴りに行きませんか?"
「分かった。マダムを──ベアトリーチェを殴りに行くんだな。」
"案外普通に受け入れてくれるんですね、もう少し怖気づくと思っていたのですが。"
「いやなに、私もあの大人には恨みがいっぱいあるからな。10発程度殴ってやりたいと思っていたんだ。」
"その意気です!では、よろしくお願いしますね!"
そう言って私は彼女に手を差し出した。すると、彼女は少し大きめの声で回りの人たちに言った。
「今からマダムを倒しに行くことにした、ついて来れるやつはついて来い!無理なやつは後に起こす乱戦で外に逃がす、いいな!」
すると、周りは頷く者、涙を流す者、怒りを露わにし、気合を入れる者で溢れかえった。どうやら皆、私の立てた作戦に賛同してくれたらしい。ならば、一先ず夜まで体を休め、準備を進めよう。そう思い、私は愛銃のメンテナンスを始めながら、時間を潰すのだった。恐らくタイムリミットは明日の夜明け、それまでにアリウススクワッドと先生の一同と合流をし、彼女...秤アツコを救う。そして、先生に大人のカードを使わせない事。きっと事態は混沌を極めるだろう、だが私はやって見せる。それが、私の責任なのだから。
あれから夜が深まり、皆も体力が回復してきたようで廃墟内は活気に溢れていた。どうやら、ベアトリーチェはアリウススクワッド達を見つけるのに躍起になっているようで、私たちの存在は知られていないようだった。
"皆さん!そろそろ「アリウス・バシリカ」に向かいます!向かう途中で乱闘を起こしますので、逃げる方はその場の混乱に乗じて逃げてください!一緒に戦ってくれる方はそのまま「アリウス・バシリカ」までご同行をお願いします!"
「「了解した!」」
私は少し笑みを浮かべ、目的地「アリウス・バシリカ」までの歩を進めるのだった。
夜が深くなった頃、私たちはやっとの事で乱闘を制圧し、「アリウス・バシリカ」前まで来ていた。どうやらこの乱闘で、逃げる者たちはしっかりと逃げれたらしい。そんな安堵をしていると、中から爆発音とデカくて硬い何かが倒れる音と物凄い地響きがした。これは...
「錠前サオリ──こうして、あなたが綺麗に残ってくれて良かった。」
どうやら一番マズイタイミングで着いてしまったようだった。
「あれは──トリニティの聖園ミカ...?どうしてここに?」
"──ッ!!隠れてください!!"
そう言って、彼女の体を引っ張る。するとさっきまで体のあった場所に凡そ銃撃とは思えない一撃が通っていった。その一撃は後ろで爆散し、綺麗な聖堂の壁だった物は瓦礫の山になり果てていた。これが──聖園ミカ。トリニティのティーパーティ、パテル派のリーダー。彼女はその圧倒的なパワーで回りの建物を破壊して回っていた。恐らく、先生を合流させない為だろう。それはそうだ。たとえ1対1だったとしても、先生が付いているのと付いていないのでは、歴然の差が出てしまうのだから。そんな事を考えていると、後ろから声がかかってきた。
「イナバさん、どうする!」
そうだ、本来の目的を忘れるな。だが、どうする?錠前サオリと聖園ミカの戦闘は波乱を極めていて、周りの影響など考慮していない。下手に動くと巻き添えを食らってこの後の戦いに支障が出るだけ...いや待て、アリウススクワッドには先生が付いている。あの先生は生徒を見捨てる事を果たしてするのだろうか?いや、きっとしないだろう。ならば──。
"......今は待ちましょう。彼を──先生を信じましょう。"
「──ッ!!ホントに信じていいんだな!」
そう言うと、アリウスの生徒達は皆身を屈め、この戦いの行く末を見守る事に専念するのだった。
彼女達の戦いはまだ終わらない。
「......面白いね、うん。ゲリラ戦でいくんだ?まぁ、この地形を考慮したらそれが最善だろうね。」
鬲泌・ウは言葉を続ける。
「それに......それってサーモバリック手榴弾でしょ?あはは☆ちゃんとたくさん用意してる?少量で私を相手にできるなんて思わないでよね?」
鬲泌・ウは挑発的な声色で言う。
「......これなら、うん。今からちゃんと相手するからさ......全力で抵抗してみてよ?──あなたにとっては、すべては虚しいものなんだろうけど。」
そう言った鬲泌・ウに希望を見出した彼女は言葉を返す。
「そうか──なら、最後までもがいてやろう。」
鬲泌・ウは不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ......退屈させないでよね?」
戦いは勢いが増すばかり、そう思っていた矢先彼女、錠前サオリの体が宙に浮かんだ。地形を利用したゲリラ戦、有利を取れるようにカオスを作り出す為の手榴弾、でも......どうやら相手との実力はそのカオスでは埋まらないほどの差があったらしい。すると、彼女達は小さな声で会話をしていた。
「......そうか。そうだな......私は負けたのか。」
そんな会話が聞こえて来た。これは彼女達が成長するために必要な会話だ、邪魔はするべきではないだろう。そう思い、見守っていると先生が合流した。どうやら別ルートを探して、無事戻ってこれたらしい。
そして先生は...大人は言う。絶望に飲まれ、己の罪に押しつぶされそうになっている彼女達に希望を与えるために。
"チャンスは、なければ作り出せばいいからね。"
"もしそれがダメでも、次のチャンスを作ればいい。失敗したとしても、何度でも。"
大人は彼女達に手を差し伸べる。
"道が続いている限り、チャンスは何回だって生み出せる。"
"──ミカ、サオリ。"
大人は彼女達の名前を呼び、こう言葉を続けた。
"一度や二度の失敗で道が閉ざされるなんて事はないんだよ。"
"──この先に続く未来には、"
"無限の可能性があるんだから。"
大人はその肩に圧し掛かる責任を胸に、言葉を続ける。
"チャンスがないというなら、私が何度だって作るよ。"
"──生徒が未来を諦める事なんてあってはいけない。そういう時は、大人に任せて。"
彼女達はその言葉に目を覚まされたようで、どうやら歩幅は合ったようだった。すると、突然声が聞こえて来た。
「戯言もそこまでにしなさい!」
見つけたぞ。子供の──生徒の夢を踏みにじり、すべては虚しいと吐き捨て、他人の命を軽く扱う者。私はお前を許さない、大人として、必ずその身に罰を下してやる。
""ベアトリーチェ......!""
すると、いつの間にかユスティナ信徒に周りを囲まれていた。
私たちは咄嗟に臨戦態勢に移る。ユスティナ信徒の対応に気を取られていると、先生達の姿がいつの間にか見えなくなっていた。どうやら、先生達は先に至聖所へ向かったらしく、もう姿は見えていなかった。
"これは...どうしましょうか──!!"
すると、アリウスの生徒から言葉が飛んできた。
「ここはいいからイナバさん!アンタは先に行ってくれ!マダムを──ベアトリーチェを倒してきてくれ!」
"──!!分かりました、ではここは任せましたよ!"
その時、ふと聖園ミカと目が合ったような気がした。私はそんな些細な事に触れる余裕も無く、至聖所へ向かうのだった。
「......?あの子──トリニティの生徒?なんでここにいるんだろう?それにここにいるアリウスの生徒達...あの子が連れて来てくれたのかな?」
私は一瞬見えたトリニティの制服を着た彼女を思い出していると、目の前に弾丸が飛んできた。
「うわっと!危ない危ない。此処を託されたんだから、ちゃんと守らないと...。」
きっと彼女達、アリウススクワッドの皆はこれから今までの自分を否定しに行くのだろう。それはきっと......辛くて、痛くて、苦しい物なのかもしれない。でも──その先にはきっとハッピーエンドが待っているはずだから──。
「あなた達のために......祈るね。」