「──"君"は何故そこまでするんだい?」
私は夢の中で"彼"がどう動くか、どういう選択をするのか、ずっと見て来た。
普通なら関わることのない私たちの為に、あそこまで体を張れる人は少ないだろう。それこそ、"先生"くらいだろう。"先生"は生徒を......夢を守る為に戦っている。彼の行動理念は何時でもそうだ、生徒の夢を壊さない為にいつも頑張っている。しかし──
「"君"は"先生"ではないだろう?何故そこまで己の体を張れるんだい?」
私が彼に届かないはずの問いかけをすると、彼は聞こえたと言わんばかりに独り言を呟いた。
"それはね、コユキが守ろうとした世界を──託された私が守りたいと思ったからだよ"
「そうか、"君"も"先生"と同じなのだね。守るものがあるから体を張る、例えそれが一人の少女の為でも......か。」
私が至聖所へ着いた頃、アリウススクワッドとベアトリーチェの戦いは既に戦いの火蓋が切られていた。
"アレが──ベアトリーチェ!?"
その花は狂気に満ちていた、まるで私たちは搾取されるべき存在だ、私の養分なのだと言わんとばかりに咲き誇っていたのだ。
その花のおぞましさに足が震える。こんな相手、勝てるかどうかも分からない。でも──やるしかない。すると、その花はアリウススクワッドの不意を突くために、隠れて必殺の攻撃を溜めていた。マズイ、アレを食らえばアリウススクワッドも無事じゃいられない、何とかして守らないと...。私は身を乗り出して、彼女に向かって言葉を発した。
"ベアトリーチェ!!貴方を倒しに来ました!"
「──ッ!?......貴方は一体誰なんですか!?」
"その声......コユキ!?何故ここに!?"
皆は私が来た事に驚いたようで、少し反応に遅れが生じていた。私はその隙を突き、すぐに"トリッキーな変数"を投げ、ベアトリーチェの攻撃を阻止した。
「ぐっ!余計な事を!!」
どうやら先生は状況を理解出来ていないながらも、最適解を見つけたようで、すぐにアリウススクワッドの皆に指示を飛ばしていた。
"先生!私の事は大丈夫ですので、その方たちへの指示をお願いします!"
私はあくまでサポート、先生の指示で出来た味方の隙を私の攻撃で埋め、少しでも余裕を持たせるのが役目だ。
「ぐっ、ああ......なりません......!!私の権能が......!たかが......たかが貴様ら如きに......!!」
勝てる。
私は油断してしまった。そのお陰で、その一撃を防ぎ切れなかった。その攻撃によって、私の体は壁まで飛ばされ意識を手放してしまった。
「──"君"は何故そこまでするんだい?」
そんな声が聞こえる。
「"君"は"先生"ではないだろう?何故そこまで己の体を張れるんだい?」
確かにそうだ、普通ならここで関わるべきではないのだろう。だが、彼女から......好きな人から託されたのだ。この「世界」を......ならば──。
私はその手放した意識を再び手に取り、意識を覚醒させる。そして立ち上がり、言葉を放つ。
"それはね、コユキが守ろうとした世界を──託された私が守りたいと思ったからだよ"
すると、突然聞こえるはずのない歌が流れて来た。その歌は慈悲に満ち溢れていた。
──Kyrie Eleison
これは慈悲を求める歌。
"主よ、憐みたまえ"
私は手を合わせ、祈る。アリウススクワッド、あなた達はきっと赦される。希望を捨てる必要はないんだ。すると、ベアトリーチェは言葉を発した。
「......!!なりません!!!なりません!私の領域で慈悲を語る歌を響かせるなど!」
ベアトリーチェは動揺する。
「楽器も蓄音機もすべて破壊したというのに!──奇跡が起きたとでも?なりません!!生徒は憎悪を軽蔑を......呪いを謳わなければなりません!」
汚い大人はいっぱいの憎悪を発する
「お互いを騙し傷つけ合う地獄の中で、私たちに搾取されるべき存在であるべきなのです!」
すると、先生は怒りを露わにした。
"黙れ"
「......なに!?」
"私の大切な生徒に話しかけるな。あなたは偽りの教えで子供たちを奈落へ落とした。あなたを絶対に許せない。"
「よ、よくも私にそのような......言葉をぉおおお──!!」
どうやら、第二回戦の始まりのようだ。私は先生に言う。
"先生。"
先生は希望に満ちた表情で私を見る。さっきまであの大人に向けていた怒りが嘘だったかのような笑みで。
"なんだい?コユキ?"
私は先生に言う。
"彼女達を──よろしくお願いしますね。私はミカさんの援護をしてまいります。"
先生は驚いた表情で私に聞く。
"コユキも一緒に戦ってくれないのかい?"
私は精一杯の笑みを返して返答する。
"にはは!彼女達の目を見れば分かります!きっと、彼女達だけでも勝てますよ!それじゃあ、私はこれで!"
そう言って私はミカが戦っている場所へ走って行くのだった。
"コユキ...ありがとう。"
私はそう言って、目の前の生徒達を見る。どうやら、諦めの二文字は頭に無い様だった。その顔は希望に満ち溢れていた。ならば、その期待に応えよう。
"最後の戦いだ!みんな行こう!"
「は、はい!!」
そうして、私は最後の戦いに身を投じたのであった。
来た道を戻っていた私は、一緒に来たアリウスの生徒達が座り込んでいるのが見えた。私は咄嗟に声を掛けた。
"大丈夫ですか!?"
すると、アリウスの生徒達は少し笑みを浮かべて、こう言った。
「なんとかね、あのトリニティのお偉いさんが守ってくれなかったらやばかったよ。見ての通り、皆やられてしまって今はあのお偉いさん一人で戦ってるよ。相当な手練れだね。」
"!!"
私は立ち上がり、まだ銃声のする方へ足を向ける。すると、心配する声が聞こえて来た。
「あそこに行くのか!?無茶だぞ!」
確かに無茶かもしれない。だけど、放っておく理由にはならないだろう。
"私は行きます。例え無茶でも、彼女が一人で苦しむよりかはマシでしょう。"
私はそう言って、まだ銃声のする方へ走って行ったのだった。
「うわー......全身傷だらけだ......。」
でもまだ諦めちゃだめだ、きっと彼女達はまだ戦っているのだろう。ならば、ここを通すわけにはいかないのだ。
「でも、キツイのには変わりないかな☆」
私が軽口を言っていると、ふと目の前に銃口が突き付けられる。これは避けられない、そう思い目を瞑る。だが、弾丸は私に飛んでくる事は無かった。何が起きたか分からず、目を開けると目の前にさっき見えたトリニティの制服を着た少女が立っていた。その服は、若干汚れていて、綺麗な髪のツインテールも少し崩れていた。さっきまで戦っていたのだろうというのが容易に想像できた。だが、その背中は...とても大きく見えた。まるで、先生の背中のように。そんな少女が言葉を発する。
"......先生の。"
"先生の大切なお姫様に何してるんですか!!"
「わーお......あはは!それ貴方が言っちゃっていいのかな?」
これ、自分で言っててなんだが、かなり恥ずかしいな。私は少し頬を赤らめたのだった。すると、ミカから言葉が飛んでくる。
「まあ、励まされたわけだし、もう少し頑張ろうかな☆」
私たちは並び、目の前の途方もない敵を見る。
「ついて来れる?」
"にはは...ついていきますとも!"
私たちはそんな会話をし、迫りくる敵に向かって反撃を開始したのだった。