悪魔のはびこる世界に正義のヒーローは必要でしょうか?   作:一夜漬 唄刃

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この前、映画プリキュアとチェンソーマンをはしごしたら脳内に『キュアチェンソー』なるヤバイ概念が舞い降りたので発散のために供養

主人公をソラにしたのは作者が単にソラが一番好きだから


第1話:謎のデビルハンター、その名もキュアスカイ

 

 空は曇天。

 地面はジメジメと()れていて、踏み出す度に脚がぬかるみに沈み、滑って転んでしまいそうになる。転倒したが最後、身に纏うおろしたての私服もどぶ色のインクまみれに何もかも台無しになり、即座の帰宅を余儀なくされるだろう。

 表現するに、この身は白紙の画用紙だろうか。

 否、表面は白でもその下には幾層にも重なった油絵具が、今の私(・・・)を形成しているのだから、まっさらという表現は正しくない。

 

 思うに――アイデンティティとは、この世で最も"精細なカオス"だ。

 人格という一枚の用紙に、何度も何度も重ね塗ったそれは、一度乾いてしまえば消す事は不可能で、上から白で塗って表面上は隠す事は出来ても、無かったことにはできない。

 

 そうして、あらゆる経験が何色、何百色、何千通りの色合いで混ざりあったものが"人"だ。

 

 

 

 と、ここまでポエムちっくなことを言って何だと言うと……

 

「はい。この四千万で、"その子"を引き取らせてください」

 

 そのカオスの中でも、最も価値の高く、精巧で、これ二つと代えがたいものを手元に置くには、相応の代価を支払う価値があるということ。

 

「そいつは付加価値がある。もう一千万足して……五千万ならやるよ」

 

 男はそう言った。

 だから私は、頷く。

 

「……わかりました。取引成立ですね」

 

 リュックサックから札束を取り出して置くと、そのまま私は男の傍に居る金髪の男子の手を取った。

 

約束通り(・・・・)、来ましたよ。さあ、行きましょう」

 

「………アンタ、なにもん?」

 

 金髪の少年は目を向けて、私に問うた。

 濁りの中にも一筋の純粋さがある、そんな目だ。悪人のそれじゃないし、だからと言って善人のそれでもないだろう。でも、生きる事への渇望だけは強く感じて、私はそうして見定める間にも笑顔を浮かべた。

 

「ソラ。――私の名前はソラ・ハレワタール。以前にも言った通り、通りすがりのヒーローですよ」

 

 

 

 

 私がこの少年。

 デンジくんと出会ったのは、この世界に来てから三年ほどが経った頃だった。経緯は今語る事でもないので省略するとして、奇妙な縁でこの『悪魔のはびこる異世界』に来た私は、一先ず食い扶持を稼ぐ方法を確立し、衣食住を確保、ようやく"普通の"生活をするにも慣れてきた。

 そして、何と言っても一番大切だったのが、ヒーローとして人々を脅かす悪魔と戦い、倒す。

 これが出来る。

 

 辛くて、苦しい事も多くて、大切な人に会えなくても、とにかく頑張って私の持てる力全てを使って戦う日々。

 

 

 そんな折だ。

 その日もまた、悪魔の気配を感じて『プリキュア』に変身して、現場に急行した。私の変身時の身体能力は並みのデビルハンターや悪魔、魔人よりも上だ。余程強力な悪魔でもない限り、遅れは取らないし、誰よりも早く駆けつけることができる。

 

 しかし、そこで見たものに私は驚愕した。

 何せ、私よりも小さな少年が、チェーンソーのような頭の悪魔を武器にして、悪魔と戦っていたのだ。

 

 でも、その悪魔は少年が相手するには強大で、あわややられる寸前と言った所で私が助けに入って、事無きを得る。私は少年に聞いた。

 

「なぜあなたのような子供が、悪魔と戦っていたのですか?」

 

 と……少年はこう答えた。

 

「こうしないと生きてけねぇからだよ」

 

「そんな……子供が一人で何て……」

 

 怒りも悲しみもない。

 そんな声音で言う少年に、私は意味をすぐには理解できなかった。親は?御家族は居ないのか?仮にそうだとしても、この世界の日本にはそういった子供が問題なく生きて行けるような場所や制度があるはずだ。

 しかし、私の世界にだって残念ながら、天涯孤独で明日を生きるにも苦労している人達は居た。

 

 何処にだって、そういった人は居る。親の居ない子供なんて、誰だって思いつく典型的な例だ。そうだとしたら、私にだって出来る事がある。例え全ての人々を救う事は出来なくても、目の前の幼い少年くらいなら……。

 

「行く宛てがないのですか?」

 

「家ならあるぜ。くっせぇし、汚ねぇけど……ちゃんと寝れて、ポチタとも一緒に居れる場所だ」

 

 自分を不幸とも、現状を不満にも思っていない。

 ただ今を生きれている事に満足だと、少年は本気でそう思っているようだった。

 

「……そうですか。悪魔を狩っていたのは、お金を稼ぐために?」

 

「ああ、それと親が残した借金を返すため。悪魔は高く売れるらしいからな。臓器を売るよりも割が良いし、そうしてるうちは生きて行ける」

 

 確かに、彼が言っている通り悪魔の死体は行政に引き渡さず非合法に売ると相当な高値になる。

 弱いのでも数十万、強ければ百万を超えることもある。勿論私はそんな事はせず民間のデビルハンターとして行政に引き渡しているけど、それでも相当な額の報酬が貰えているから、少年がそれで生活できているというのも頷ける話だ。

 

「でも、大変なんじゃないですか?悪魔と戦うのは常に危険と隣合わせですし……」

 

「まあな。実際に貰える金もせいぜい数千円くらいで、飯もろくなの食えねぇけどよ。金が用意できなきゃ、臓器バラされるんだししゃーねぇだろ」

 

「い……いやいやいや、仕方なくないですよ!?悪魔を倒した報酬がたったの数千円って……借金のカタにしたって天引きされ過ぎです。そんなのじゃ、毎日三食たべられないじゃないですか!」

 

 驚愕の事実にも程がある。

 悪魔なんて存在が居る時点で世知辛いなんてもんじゃないけど、それにしたって酷すぎる。彼自身がどう思っていても、彼の境遇は悲劇的だ。

 

「お前には関係ねぇだろ。助けてもらったのはありがてぇけどさ?そこまで言うってことは、お前が俺のこと飼ってくれんの?」

 

「飼うって……いやでもそれは……」

 

 彼の言う通り、責任の伴わない言葉は単なるお節介だ。

 そんなもので彼の空腹は満たされないし、周囲の環境が良くなったりもしない。私も、これ以上踏み込むなら腹を決めるしかない。心の奥底にある信念に従うなら、ヒーローとして、どうにかしてあげたいと、そう思うのは当然のことだった。

 

「ん~、いいでしょう!私もヒーローとして、自分の言葉には責任を持ちます!ここまであなたに言ったからには、放っておくなんてしません。――あなたが良いのなら、来てもいいですよ。私の家に!」

 

「は、はぁ?」

 

 いきなり変な事を言っているのは分かっているけど、撤回するつもりはない。

 私の大切な人――ましろさんが、私にそうしてくれたように、私だって誰かにそうしてあげたいのだ。

 

「でも、借金返しきらねぇと絶対に自由になんかなれねぇぞ?」

 

「だったら私が代わりに返します!幾らですか?」

 

「残りは確か……四千万くらい」

 

「よ、よんせ……!っ、構いません!一か月で用意します!ヒーローの名にかけて、二言はないと誓いましょう」

 

 もうこうなったら勢いだ。

 それに、彼の言った金額は普段から悪魔を狩っている私なら、頑張れば払えない額じゃない。命と痛みの積み重ねで得たもので、私は私のしたい事をする。

 

「私の名前はソラ――ソラ・ハレワタール!あなたは?」

 

「デンジ、だけど……」

 

 私は彼の小さな両手をとって笑いかけた。

 

「待っていてください、デンジくん。私が必ず、あなたをそこから救い出してみせます」

 

 

 

 

 これが私とデンジくんの出会い。

 その後、私は彼を連れて自分の住んでいるマンションに帰ったのだけれど、彼は意外な事に私を少しも警戒することなくポチタと一緒についてきてくれた。今日を迎えるに当たって色々と考えていただけに、ちょっと肩透かしをくらった気分。

 

「うおー!ひれぇ!!」

 

 開口一番、私の部屋を見て彼はそう言った。

 

「そうですか?特に何の変哲もない1LDKだと思いますけど……」

 

 家賃は少々高いくらいで、普段から悪魔退治をしているような人間なら全く問題にならない額だ。

 報酬は命とトレードオフと言えば、それも当然の報いというもの。私はヒーローを目指しているけど、ヒーローは必ずしも報酬や見返りを求めてはいけない、とか考えるほど極端な思考は持っていないつもりだ。

 勿論、最初からそれ目当てでやっている訳じゃないが……

 

「いやー、俺って今までボロ小屋みたいな場所で暮らしてたもんだから、床が綺麗なだけで感動なわけっすよ!な?ポチタ」

 

 ワン!とポチタが答える。

 

 彼の前の住居は見たことないけど、何となく想像がついた。

 私もスカイランドで旅をした時には、夜に野ざらしの上で寒い風に晒されたことがある。壁が薄い小屋、エアコンなんて当然なくて、熱い日も寒い日も雨風凌げるだけの部屋で過ごすのは、この年の少年には大層難儀だったはず。

 

「その綺麗な部屋が、今日からあなたのおうちです。毎日三食たべられて、ベッドは寝心地抜群!借金の取り立てに怯える必要もなく、今日からあなたは人並みの生活を送れるんですよ」

 

「ほへぇ、なんか想像もつかねぇくらい凄そう……」

 

 輝く目線は年相応で、そんな仕草に私は安堵する。

 私はまだ背の伸びきっていない彼に正面から目線を合わせて、努めて安心させるような笑顔で言った。

 

「デンジくん、ポチタさん。あなた達の身の安全と、暮らしは私が保証します。もう無理して戦う必要もありません」

 

 私にも出来ることと出来ないことがあって、歯がゆい思いをすることもある。

 だけど、これでも自分なりに精一杯頑張って来たつもりだ。そうした過去があって、この今、巡り合わせて縁となったこのか細い線を私は守り抜かなくちゃいけない。

 

「訳があって、あなたを学校に通わせて上げる事は出来ないんですけど……身を守る手段と、最低限の教養を含めた生きる術はきっちり教えます」

 

 最後の最後、これで良かったんだと思えるように、私は自分に対して契約を立てた。

 

「ようこそ、デンジくん。ポチタさん。ここが今日から、あなた達の帰る場所です」

 

 

 

 

 

 

 私の普段の生活は、朝は日も昇り切らぬうちに起きてランニングに出て、帰ってきたらお風呂に入って心身を整える。

 そしたら朝ごはんを作って、その日のニュースと悪魔の情報を確認しながら食したら、幾らか家のことをした後、そそくさと準備をして家を出る。

 

 この街は都心部である事もあって、大から小まで、強から弱まで悪魔の出現も多い。それこそ、公安だけでなく民間のデビルハンターもかなりの数が活動しており、それぞれ依頼として回って来るか、ゲリラ的に見つけたその場でデビルハンターの仕事は始まる。

 

 

「さて、今日も…ヒーローの出番です。――スカイミラージュ」

 

 

 私は人目に付かない場所で『キュアスカイ』に変身すると、持ち前の身体能力で建物の上を駆ける。

 不思議なことに、プリキュアになった私は、近辺に居る悪魔の"気配"を察知できるのだ。漠然と『こっちに居る』という感覚が常にあって、それに従って進めばそこに悪魔が居るのだ。強さに関しても、気配の強弱で分かる。

 

「今日は……ちょっと強いのが居ますね」

 

 その中から、誰にも見つからず潜み、悪事を働く悪魔を見つけ出す。

 賢い悪魔は、無暗に路頭に出たりしないし、潜んで人を襲うことが多い。見つかった時には、すでに何十人と犠牲者が出ている場合が殆どなのだ。でも、私ならそんな悪魔もすぐに見つけ出せる。

 

「放っておけば、どんなに被害が広がるか分からない。今日も又―――ヒーローの出番です!」

 

 そこは取り壊し前の廃ビルだ。

 電気が通っていない、不気味な様相の建物の中に入っていくと、より気配が強くなる。間違いない、ここに居る。そう感じて、スプレーで落書きの書かれたむき出しのコンクリート壁に手を当てて目を閉じる。

 

 この全身を包む嫌な感じ。

 まるで空気その物が憑りつかれたみたいに重い。

 

「………やはり、この悪魔は――」

 

 そうして確信を持った私は目を開いて、拳にエネルギーをためて振り抜く。

 その拳は壁ではなく、その向こう(・・・)に居る存在を捉える。プリキュアに変身した状態で、スカイランドで会得した武技を要すれば、このように少し応用を効かせた技が仕えるようになる。

 

 希望の象徴である浄化のエネルギーは悪魔にとっての劇物だ。

 負の感情を餌にする奴らにとって、これを撃ち込まれることは耐え難いこと。

 

 だから―――

 

『グギャァアアアアアア!?』

 

 瞬間、悲鳴のような耳をつんざく音が響いて、地面が激しく揺れた。

 

「スカイ―――悪魔を発見。これより戦闘を開始します」

 

 通信機で最低限の情報を行政に送って、戦闘開始だ。

 私は激しく揺れる地面に手をついて、体勢を整える。すると、今度は壁が隆起して槍のように突出してくる。

 

「周囲の物体と同化するタイプ。たまにいる面倒なやつですね。核は非常に見つけづらく、手こずっている間に標的を食い殺す」

 

 おそらくは、コンクリートの悪魔だろうか。

 周囲のコンクリートを支配下におき、こうして自身の懐に入った獲物を殺戮する。しかし、この悪魔がこの廃ビルに潜んでいたのは、自分の得意な庭じゃなければそんなに強くないからだ。

 例えば、周囲が木々に囲まれた樹海なんかだと、支配できるコンクリートが無くて赤子も同然。

 そして、不純物が混ざっていたり、連続性がないコンクリートなんかも苦手とする。

 

 こんな風に、廃ビルなんかはかの悪魔にとって絶好の安所。

 ゆえに立てこもられると厄介だが、私ならそんなの関係ない。

 

「ヒーローは、相手がどんな強敵だろうと屈さず、悪事を許しません」

 

 私は四方八方から襲い来る攻撃を掻い潜り、窓から外に出て建物の壁伝いに駆け上り跳躍。

 上空から廃ビルを見下ろす格好になり、奴の手を出せない空中で最高の一撃を用意する。

 

「ヒーローガール………」

 

 この腕が放つ一撃は、どんな悪魔であろうとも浄化(・・)を免れない。

 闇のエネルギーを消し去る力を持つプリキュアの大技を受ける事、それすなわち悪魔の無力化を意味する。

 

 そのまま落下を始めた私を、振りかぶった拳にためた空色のエネルギーが包み込み、一筋の流星となる。

 

「スカイパンチ!!」

 

 拳を建物の屋上に振り抜く。

 そこから浄化のエネルギーが建物全体に伝播して、たちまち潜む悪魔の力を根こそぎ奪う。スミキッタ悪魔は、もう二度とその異能を使うことが出来ない。魔人ならばしばらくの間能力が封印され、純正の悪魔なら存在ごと浄化される。

 

 そうして、私はまたひとつの悪魔を倒した。

 ヒーローとして、他ならぬ私の信念に従って。

 

 

 

 

 

 

「いつもありがとうございます。岸辺さん」

 

 都内某所のカフェ。

 その一席で、一仕事終えた私はテーブルを挟んでとある人物と向かい合っていた。くらびれた容姿をした、スーツ姿の男。彼の名は岸辺、公安対魔特異4課と呼ばれる『対悪魔』を専門とした組織の隊長をしている人だ。

 四六時中酒を呑み、覇気のないその風体はとても強者には見えないかもしれないが、これでも百戦錬磨のデビルハンターである。

 

「礼を言うなら、早いところウチ(4課)に入ってくれると助かるんだがな。これでも俺は忙しいんだ。平日の昼間から『悪魔倒したから回収しに来てくれ』なんて要件で呼び出されても、そうおいそれと行ける立場じゃない」

 

「そうは言っても、毎回なんやかんや来てくれるじゃないですか」

 

「それは嬢ちゃんが倒すのが、いつも危険度の高い重要な悪魔だからだ」

 

 言いながら、彼は濁った目で私を映す。

 こうしたやり取りをするのも慣れて、私はカフェオレを嗜みながら会話を進める。

 

「感謝はしています……でも、私は公安には入りませんよ。あそこは"ヒーローの居るべき場所"じゃありません。少なくとも今は、まだ曖昧な立場のままで居た方がいい」

 

 この世界の『公安』と呼ばれる組織は、さながらスカイランドの騎士団を彷彿とさせる。

 悪魔を退け、弱き人々を助ける。言葉にすれば、私のヒーロー像にこれでもかとマッチするけど、様々な理由があって私はあの組織に入る事を拒んでいる。

 

「気持ちは変わらず、か。俺の部下になれば、更にイカしたヒーローにしてやるって言うのに……」

 

「仮に入ったとしても、岸辺さんのシゴキは色んな意味でキツイので遠慮します」

 

 この人はさっきも言った通り、人間だと思えないくらい強い。

 正体がなにがしの悪魔って言われても、信じるどころか納得してしまうと思う。恐らく変身前の状態でやりあったら、私であっても勝率は四割切る。だからこそ、その強さゆえに信用も出来る。

 

「ふむ、ならそろそろ仕事の話をするぞ。倒した悪魔に関しては、いつも通り『スカイ』の名義で受領しておいた。脚は付かないように振り込んでおくが、そっちも迂闊なことはするなよ」

 

「分かっています。私が『キュアスカイ』の正体であることは、決してバレてはいけませんから」

 

 この世界においても、私は正体を隠して戦っている。

 その方が都合がいいとか、それ以外にもやむにやまれぬ事情があるのだが、具体的には先程言った公安に入りたくない理由にも直結してくる。

 

 ――謎のデビルハンター『キュアスカイ』。

 しかしその正体は謎に包まれている。

 

 一応『スカイ』の名で民間のデビルハンターとしては登録しているけど、それ以外は全部岸辺さんや知り合いの全面協力により隠してもらっている。きっと、内閣官房長官だって私の正体は掴めていないはずだ。

 

「今回倒したのは……コンクリートの悪魔。コイツは周囲のコンクリートと同化して、逃げ隠れする厄介な奴だ。特にビルの中なんかに立てこもられた場合、相性の良い力を持つ悪魔と契約している者か、魔人の手が必要になる。……よく勝てたな?」

 

「私の力は知っているでしょう?浄化の力は、使いこなせば物に伝播させることもできるんです」

 

「なるほど、合点が行った」

 

 私の返答に岸辺さんは納得した風に頷く。

 

「前回は(ナタ)の悪魔、その前はムカデの悪魔。遡ればそれ以外にも沢山……どいつも危険度が高く、即座に特異課へ回されるような厄介な悪魔ばかりだ」

 

 資料をめくりながら、順番に言葉にしていく。

 続く言葉は紙面の文字や写真ではなく私を見て紡がれた。

 

「なあ、ソラ。いや、スカイ(・・・)。これは率直の疑問なんだが、お前は一体"どの程度の悪魔"までなら()れるんだ?」

 

 その問いからは返答を強制させるような圧や、必要以上の探りを入れるようないやらしさは感じない。

 ただ純粋な疑問として放たれたそれだったが、その目は一切の偽りを見逃さないことを雄弁に語っている。やはり特異課の隊長は伊達ではない。私は適当に答えても仕方がないので、少し思考を挟んだ後に答える。

 

「……どう、でしょうね。自惚れ抜きに、大抵の悪魔には遅れを取らない自信はあります。ですが、そのラインが如何ほどまでなのかは……」

 

 思考する過程から口に出して、考えを語る。

 

「まず思い当たるのは、世に名高い『銃の悪魔』。あれの力が情報通りなら、間違いなく今のまま(・・・・)ではどうしようもないですね」

 

 なにせ、今あげたのはこの世で最も憎まれ、恨まれ、そして恐れられている悪魔だ。

 悪魔はその概念そのものが恐れられれば、られるほど、その力を増す。プリキュアが人々の希望を束ねる一方で、正反対の性質を持つのが悪魔。

 その中で"最も"というレベルになると、私ひとりでどうこうするのは不可能に等しい。

 

「次に、根源的な恐怖の対象……例えば、死とか、戦争とか。とにかくそう言った、人が幾ら頑張っても克服することが出来ないような"恐怖"の名を冠する悪魔。こっちも恐らく厳しい」

 

 銃の悪魔と比べてどうこうは流石に分からないが、どっちにしたって人の倒せる相手じゃないだろう。

 しかし、対抗策が全くないかと言うとそうでもないのだ。

 

「ただ今あげたどちらも、相性によりけりですが……なりふり構わず倒すことのみ考えて(・・・・・・・・・・・・・・・・)ようやくって所だと思います」

 

 この『ようやく』とは、倒せるではなく戦える可能性という意味でだ。

 直接的でかつ有名な死因に直結するような事象とか、それ以外にも地獄とか奈落とか、潜在的に恐怖を彷彿とさせる概念はきっとどれも格が違う。

 毒とかきっとヤバイ。アンダーグが使っていた『闇』なんか想像したくもない。

 

「まあ、全部予想ですけどね。実際に遭遇したことも、見たこともないですし……」

 

 存在自体を知っているだけで、何も根拠がない。

 もしかしたら勝てるかもしれないし、手も足も出ないかもしれない。私もとっておきの奥の手はあるが、これが通用しない可能性だって十分にある。そこまで考え出すと、もう予測すること自体に意味がなくなってくる。

 

「いや、十分な情報量の回答だ。こう言った与太の類いにもくそ真面目に付き合ってサラっとヤバイことを言う所は、お前のイカれポイントの一つだな」

 

「貶すか褒めるかどっちかにしてください」

 

 ため息交じりにジトっと睨み返す。彼はどこ吹く風だ。

 

「用は済んだし、俺はもう行く。さっさと酒を飲みたい」

 

「体に悪いので程ほどにしてくださいねー」

 

 用が済んだからとそそくさと去っていく岸辺さんの背中に、私は手をひらひらと振る。

 私もカフェオレを全部飲み干すと、席を立つ。

 私の生活はここ二年ほどこんな感じで、ソラシド市に住んでいた頃に比べれば、ある意味では刺激的で、ある意味では寂しい日々を送っている。

 けれど、まだ帰る訳には行かないから、泣き言は言わない。

 

 伝票を取ろうとするとそこにはもう何も無くて、苦笑交じりに息をついた。

 




一応読み切りなのでここまで
続きは気が向けば書くかも・・・

あまり深く考えずに書いたのですが、これは一応『チェンソーマンがキュアチェンソーになるまでの物語』なので
希望とシリアスのカオスこそが常に物語の根本にテーマ的な何かとしてあります

だからちょっと所々の表現も遊んでみたのですが
うーん……

でも最後には希望のキュアスカイが何とかしてくるんじゃないでしょうか
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