悪魔のはびこる世界に正義のヒーローは必要でしょうか?   作:一夜漬 唄刃

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やっぱ続き書きました


第2話:ささやかな幸せ

 

 悪魔を退治すると言っても、毎日のように危険なのが出没する訳じゃない。

 見つければ倒すし、人が襲われていれば助ける。放っておくのは論外だが、だからと言って街中に居るのを片っ端から探し出して倒したりしたら、他のデビルハンターの妨害になる場合もあるので、何事も加減とメリハリが大事なのだ。

 

 例えば、ナマコの悪魔なんかは危険度が極めて低い。

 ……が、悪魔である以上は人に危害を加えるし、放っておくことは出来ない。

 

 しかし、わざわざ私が倒さなくてもすぐに他のデビルハンターが倒す。そうして彼らは食い扶持を稼ぐのだ。立派な仕事である。公安のデビルハンターが、民間のデビルハンターの獲物を勝手に横取りしたら違反となるのはそういうこと。

 だから私は、民間のデビルハンターでも対処できるのを見つけた場合はあえて手を出さず、彼らに任せる。

 

 色々と基準は決めてあって、当然だが強いのが見つからない日もある。

 とどのつまり、今日は"そういう日"だった。

 

 

「平和ですね~。人々の生活が脅かされず、悪魔が出てもちゃんと民間のデビルハンターが退治してくれる。天気も良くて、モーニングの心地よさも格別です」

 

 バルコニーにあつらえた白いテーブルとロッキングチェアでカフェオレを楽しむ。

 早朝のトレーニングを終えて、シャワーを浴びて、街に危険な悪魔の気配がなければこうしてゆっくりとするのが最近の私の生活習慣だ。以前までは時間があろうものなら、働くか、家のことをするか、勉強か、トレーニングか……と言った感じで、とにかく体を動かしていた。

 

 しかし、程良く力を抜く事の大切さやその心持ちを、大切な人が教えてくれた。

 

「……さて、やりますか」

 

 マグを持って、席を立つ。

 バルコニーからリビングに入ると、卓上の時計は朝の八時を刻んでいる。それを確認した私はまず台所に赴き、食パンをオーブンに放り込むと慣れた手つきでダイヤルを回す。それから先程作った朝食を、レンジに入れて温める。

 そうしていると、タイミングを見計らったかのように洋室の戸が開いた。

 

「くぁ~、よく寝た……おっ、今日は居る。はよっす、ソラ姐さん(・・・)

 

 出て来たのは淡い色をした髪の少年と、チェンソーの頭をした子犬のような悪魔。

 デンジくんに続いてポチタさんもワン!と鳴き声で返答した。

 

「おはようございます。デンジくん、ポチタさん。いま朝食の準備をしているので、その間に顔を洗ってきてください」

 

「ほいっす」

 

 先日増えた同居人にして、形式上は私が引き取った孤児のデンジくん。そんな彼は、意外にも朝はちゃんと起きてくる。普段は洋室にあるソファーベッドで眠っていて、配置的には私が寝ているベッドから反対の壁際だ。

 一緒の部屋で眠っていても、お互いに窮屈することもなく問題なく過ごせている。

 

 

 ……と、話が逸れた。

 彼はいま十二歳で、この年の子供と言えばお寝坊さんなことが多い。

 

 私やましろさんには無縁でしたが、そういう物だと言うのは知っている。しかし、デンジくんはその例には該当せず、こうして朝もちゃんと起きてくるのだ。

 

「いよっし、目ぇ覚めた!ソラ姐さん、今日はデビルハンターはお休みなんすか?」

 

「はい。こないだ、それなりに強いのを倒しましたし、今は急を要する案件もないですから……基本的に用事はないですね」

 

 言いながら机に朝食を広げると、デンジくんも席について早速朝食をありつき始める。ポチタさんにも食パンをあげると、もしゃもしゃと食べ始めた。

 彼はジャムを塗った食パンが好きで、いつも必ず二つの味をミックスして食べている。でも、食べ方はまあお世辞にも綺麗とは言えない。

 

「こら、またそんなにこぼして、お行儀が悪いですよ」

 

 だからこうして、朝を一緒できる日は食べかすをとったり、こぼしたのを片付けたりと世話を焼くのが日課になっている。

 

「ん……いや~、すいません。俺、今までまともに食事とかしてなかったから、こういうの分からなくて……」

 

「それは仕方ないですけど……せめて、他人の前で汚いと思われない程度の所作は――」

 

「あー、はいはい。分かってますって」

 

 調子よくへこへこして、そうしながらも朝食に夢中なデンジくんに私はため息交じりに見据えた。

 

「………将来、好きな人が出来た時に困りますよ」

 

「え!マジすか?」

 

「大マジです。女の子は基本的に清潔感のある人が好きなので、このままでは百年の恋も覚めるでしょうね」

 

 デンジくんは、割と俗な性格をしている。

 可愛い女の子のことは好きだし、恋人が欲しいとか、そういう年相応な願望もある。それを知ったのは彼が私との生活に慣れた頃、ある日デンジくんは私にこう語ったのだ。

 

『俺、夢ェ叶うなら……女と付き合ってから死にてえんすよね』

 

 イチャイチャしたいとか、抱きたいとか、内容自体は凄くマセていたけど、声音は切実だった。

 だから私は彼の夢をバカにはしなかったし、愚かだとも思わなかった。客観的に見た荒唐無稽さで言えば、私の『ヒーローになりたい』という夢もそっち側だ。会話の引き合いには出すけど、引いた一線は守っている。

 

「やると心に決めたんでしょう?夢を夢で終わらせたくないなら、あなた自身も頑張ることです。以前まではそれすら難しかったかもしれませんが……その為に今は私が居ます」

 

「ソラ姐さん………やっぱアンタ、最高にイイ女っすね!」

 

 それは果たして喜んでいいのだろうか。

 でも、これは多分だけど、彼が私に恋愛感情を抱く事はないだろう。根拠は、私が彼の親代わりのような立場になったのもあるし、単純に彼の好みからも外れているからだ。そもそも、私にだって心に誓った大切な人が居る。

 

「もう、調子いいこと言ってないで、さっさと食べちゃって下さい。朝食が終わったら、今日は久しぶりに私が勉強を見ます。午後からはトレーニングですから、ちゃんと食べないとぶっ倒れますよ」

 

「うへぇ……フルコースじゃないっすか……」

 

 げんなりしたデンジくんを他所に私は、ポチタさんを撫でて愛でながら今日のスケジュールを頭に思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 デビルハンターが休みの日は、基本的にデンジくんの勉強を見ている。

 彼は学校というものに行った事が無いらしく、生きるための知識が本当に最低限しかない。例えば、お金の使い方や金銭の管理なんかは出来るし、デビルハンターとして必要な知識も持っているけど、算数や国語などの教養の類いはからっきし。

 

「そこの計算はこうするんですよ」

 

「うげぇ……」

 

 だから、私の居ない日は事前に渡した教材で自習してもらい、休日にこうして詰めるといった方法を取っている。

 

「漢字は覚えて、書くの繰り返しです。教えたところから順番になぞっていきますよ」

 

「ぐへぇ………」

 

 本当は学校に通わせてあげたい。

 でも、私の"複雑な立場"がそれを良しとしない。引き取った手前、出来る事は全部してあげるつもりでいるけど、こればかりは無力な自分が恨めしい。

 

 

 

 まあ泣き言いっていても仕方がないから、今は彼への指導に集中する。

 私が決めたことです。知恵も力も彼に伝授して、初めて私はやるべきことをやったと言えるのだ。そして、教えるのは当然勉強だけじゃない。午前の勉強タイムが終われば、昼食と休憩を挟んで午後からはトレーニングタイムに入る。

 

 場所は自宅から移って、近所にある山。

 そこの河原が丁度いいトレーニング場所。

 

 ジャージに着替えた私とデンジくんがそこに居る。

 最初に基礎トレ、体が温まったら拳法の型。それらを一通り終えれば……

 

「――おいでなさい」

 

「うおおぉおお!!」

 

 後はひたすらぶつかり稽古。

 手法はデンジくんに打ち込ませて、私がそれを受けながら、たまに反撃を織り交ぜて防御も教え込んでいく。

 

「戦いは常に応用と実践の繰り返しです。学んだ基礎を振りかざすだけでは未熟……常に思考と工夫を忘れないように!」

 

 指摘を織り交ぜながら、デンジくんの攻撃を捌く。

 因みにデンジくんがここまで必死なのは、手を抜いたり怠けたりした場合に『きついお仕置き』が待っているのを知っているから。彼は最初、乗り気じゃないとまで行かなかったが、そこまで熱烈まじめにやり込むような性分でもないから、ここまで必死に打ち込んではくれなかった。

 

 だから私は、彼にこう言った

 

『これが、この生活をあなたが続けるための仕事だと思ってください。働かざる者食うべからず。今までデビルハンターとして使っていた分の労力をこっちに回すだけですよ』

 

 私は別に彼を甘やかすつもりはない。

 やるべきことはきっちりやってもらうし、それがこの先の為になると分かっているから手も抜かない。時には厳しいことも言うし、嫌な事だってしないといけない。

 いつまでも私が傍に居れる訳じゃないのだから……

 

 

 

 

 

 

 そうしてやっているうちに、もう夕日がくれ始める時間帯になっていた。

 

「はい、今日はここまで!よく頑張りましたね」

 

「うっぐ……死ぬ……マジで死ぬ」

 

 完全に伸びてグロッキーになっているデンジくんに、ポチタさんが寄って行ってじゃれている。

 私もそんな彼に近づいて、手を貸して体を起こさせた。

 

「お疲れ様です、デンジくん。弱音を吐いても、ちゃんとへこたれずやり切れるのは凄いです!偉いですよ」

 

 労いの意味をこめて頭を撫でる。

 思えば私はエルちゃんにも褒める時はこうしていた。認めて貰えるのとそうでないのとでは全く違う。この行動こそ、ささやかだけど必要な事だって私は知っている。

 

「……まあ、この生活続けていく為なら、死ぬ気で何でもやるって決めてるんで……」

 

 偉い、もっとなでなでしたくなる。

 所々困った所はあるけど、こういうどんな理由であれ純粋な所は好感を持てる。受けた恩にも一途に報いようとしてくれるし、とてもヤクザの元でデビルハンターしながら育ってきたとは思えない。

 

「ふふっ、その意気だよ(・・)

 

 そうして、健やかに育っていって欲しい。

 例えそれが世間一般な道筋ではなくとも、その頑張りはきっと私が受け止めるから。

 

 

 

 黄昏に染まる街を、デンジくんとポチタさんと歩く。

 いつもなら後はスーパーによって食材を買って帰るだけなのだが、どうせならついでにカフェによってお茶して行く事にしたのだ。特に、今日はデンジくんも頑張っていたしたまにはこういうご褒美があってもいいだろう。

 

 そこはいつも岸辺さんと会う行きつけのカフェで、まばらな客入りと落ち着きのある店構えが好きで、何度も足を運んでいる。

 

「あまり食べると夕飯が入らなくなるので、スイーツと飲み物を一品ずつ。その代わり、何でも好きなのを頼んでいいですよ!」

 

「えっ、いいんすか!?」

 

「えぇえぇ、どうぞどうぞ。今日は頑張ったデンジくんへのご褒美なので、ポチタさんの分も含めて私にどんと任せてください!」

 

「やっぱソラ姐さんサイコーっす!一生ついていきます!」

 

 言って、こっそり一緒に入ったポチタさんとメニュー表を見始める。

 カフェでデザートを奢るくらいでここまで感極まれると、こっちもむずがゆい気分になってしまう。照れくささを紛らわす為に頬をかきながらも、私はすでに頼むものが決まっているから彼らを待つ。

 

「んじゃ、俺はこれ!このサイキョーそうなパフェっつうやつ!」

 

「んー、どれどれ……おっ、それですか。いいセンスしてますね。私もそれ、好きなんですよ。……となると、飲み物は私と同じでハーブティーがいいですかね」

 

 彼が選んだのは、私もたまに頼む盛り付けの多いパフェ。

 すいませーんと手を上げて、店員さんを呼んで注文をする。私は甘ーい蜂蜜の沢山かかったミニホットケーキとハーブティー。最近の私のイチオシで、どの時間帯に食べても問題のない格別の一品だ。

 

 そう長く待つこともなく注文の品が来ると、私、デンジくん、ポチタさんは揃って目を星のように輝かせる。

 

「「おー!おいしそう!」」

 

 後は至福の時を過ごすだけ。

 そして、こういう時の為にしっかり食べる時のお行儀について教えて来たのだ。ここで口酸っぱく説教なんてするなんて事は出来る限りしたくないので、私は自分の分を食べ始める前にデンジくんの様子を伺う。

 

「いただきまーす!」

 

 彼とポチタさんは一緒にパフェを食べ始める。

 スプーンでクリームや果実を(すく)って、動作は多少そそっかしいけれどちゃんとこぼさずに食べられている。感想はおおかなびっくり、でも食べ応えのある甘さに緩まった笑顔を浮かべている。

 

 そんな二人を見て安堵し、私も自分の分に集中する。

 切り分けたホットケーキを口に入れると、ほんのりとした上品な甘さが広がって頬がとろけていく。いつもと同じように、とても美味しくて、でも今日はちょっと違う(・・)。つい一か月ほど前までは一人で過ごしていた時間に、今日は私以外の笑顔が溢れている。

 それがきっと、時間までも彩ってくれている。

 

 ――出会いから、物語は無限に広がっていく。

 これも、私が大切な人達との出会いで知ったことの一つ。

 

 嗚呼、やっぱりあの時デンジくんを引き取る決断をして良かった。

 きっとそれが運命だったんだと、自信を持って言える。

 

 

 

 カフェを出ると、並んで帰路につく。

 

「ふぅ、うまかったぁ……」

 

「気に入ってくれたようで何よりです。言っておきますけど、夕飯もちゃんと食べてくださいね?」

 

「もちろんっす!ソラ姐さんの(めし)はいくらでも入るんで、心配しなくてもだいじょーVでしょう!」

 

 調子の良い子だ。

 でも、確かにデンジくんは間食を挟んでも私の作ったご飯を食べてくれる。それが作る側としては凄く嬉しくて、その事もあって一人だった頃よりずっと張り切っているのは内緒だ。

 

「じゃあ、今日はハンバーグにしましょう!沢山トレーニングしたので、お肉を食べてスタミナを付けるんです」

 

 あとデンジくんは、これまでの生活でまともな食事を殆ど食べたことがないくらい苦労をしてきたから、その分沢山おいしいものを食べて欲しいのだ。

 私の料理の腕は、きっとましろさんやあげはさんにはまだ遠く及ばないけど、誰かを笑顔に出来るならもっとずっと上手くなろうって思える。

 

 この世界に来てから、血生臭い戦いの中にずっと身をおいて来たけど、一年前の自分はこんなにもささやかな幸せが手に入るとは夢にも思っていなかった。

 目的を果たして、ソラシド市やスカイランドに帰れるようになるまで、ずっと一人で戦い続けるしかないんだと思っていた。私は、そんな日々の中で今希望を生み出せている。

 

 この先どうなるかは分からないけど、これから紡いでいく沢山の時間が"良いもの"でありますようにと、私は空に願いをこめた。




頭から離れないんだ
仕事中も、他の作品を書いてる時も、キュアチェンソーの名が……
この概念を浄化できるまで私の戦いは終わらないだろう
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