悪魔のはびこる世界に正義のヒーローは必要でしょうか?   作:一夜漬 唄刃

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ゆるーくゆるーく三十話くらいでしめたいねぇ……


第3話:少年と私

 

 人から何かを求められる。

 それは私にとって、根源的かつ潜在的な欲求に繋がる。ヒーローを目指したのだって、根っこには誰かのため、誰かを幸せをしてあげたいとか、奉仕の精神があってそこに憧れのエッセンスが加わったから夢として形になったんだ。

 

 要するに、私は他人に、特に親しい人にそういう機会が訪れた時に、如何なる理由があっても拒みたくはないということ。

 私が誰かからそうしてもらったように、私も誰かにそうして夢を与えられたらって考えた事は何度もある。

 

 だからだろうか――

 

「私が戦っている所を実際に見てみたい?」

 

 いつも通りの朝、ふとそんな事をデンジくん言われて意外にも否定の言葉は出てこなかった。むしろ、その理由や真意を問うような声音で聞き返していた。

 

「あぁ……俺がここに来てから、そろそろ三ヶ月くらい経っすよね?それで、ソラ姐さんに言われた事とか、教わる事とかから、ちょっと考えてみたんだ」

 

 それはまるで、必死にした工作を親に見せる子供のよう。

 こういう時に恥ずかしがるわけでもなく、ただ適切な伝え方を知らない様はちょっと微笑ましくて私は穏やかな気持ちで「それで?」と続きを促した。

 

「ソラ姐さん。この前俺に『夢を夢で終わらせたくないなら、あなた自身も頑張ることです』って、言いましたよね?それで、俺の夢は今でも変わってないんすけど……まずは仕事だなって。金がねぇと遊ぶことも、何なら飯を食う事もできねぇし、やるからそこからでしょ」

 

「なるほど、そういう事だったんですね」

 

 けっこう現実的な事を考えるものだと感心する。

 彼の言っていることはおおむね正しい。彼は『彼女を作ってから死にたい』などと大層に(うそぶ)くほどには、そこに固執している。生い立ちゆえに、世間一般の子供が抱く様なキラキラとした夢を持てなかった。その術を知らなかった。

 だけど、私がそこを問題だと思っても仕方がないことで、むしろ本人がこうして曲がりなりにも求めている未来像があるなら、そこを後押しするべきだ。

 

 その為に本人が考えた事ならなおさら。

 

「確かに、デンジくんはもともとデビルハンターとしてお金を稼いでいましたし、私もそうですから、あなたの考えは間違っていません」

 

 と前提をおく。

 私としては、デンジくんにはもっと他の……身の危険がないような仕事を目指して欲しいのだけれど、それはあくまで私のエゴだ。そして、今の私にそういった道を教え、提示できるか言うと否だ。

 

「頑張って考えたんだね。偉いよ、デンジくん」

 

 私は彼に常日頃から努力は怠るなと言っている。

 それが私の示せる唯一の生きる道で、私はそういった愚直でコツコツとした方法しか知らないから、器用で合理的な方法というやつを教えてあげられない。ましろさんなら、あげはさんなら、ツバサくんでも違っただろう。でも違う。違うからこそ……

 

「そんなあなたの努力に、私も応えなければなりませんね」

 

 腹を括るしかない。

 

 

 

 

 

 

 こうして、私はデンジくんに、私がデビルハンターとして活動する姿を見せる事になった。

 第一には、ちゃんと働く姿を見せる事が重要。しかしそれ以外にも、これはヒーローとしての一面を見せるチャンスでもある。どうせならカッコイイところを見せたい。

 

「まずはパトロールです。ヒーローたるもの、悪を退け人々を救うことも重要ですが……まずはその悪を見逃さず、また悪事を起こさないようにする事も大切です」

 

「おー、そういうもんなんすね」

 

 街を歩きながら、その意図を伝える。

 デビルハンターとは一口に言っても、毎日ずっと戦いに明け暮れている訳じゃない。一回悪魔を討伐すれば、安くて数十万は貰えるから、月に一回か二回討伐できれば食い扶持としては間に合っているのだ。

 私は中でも強力な部類の悪魔を月に何度も相手するため、金銭的な面で不自由した事は無い。デンジくんを引き取れたのも、そんな生活を三年も続けて、お金も最低限しか使っていなかったから。

 ゆえに、その活動のほとんどはこう言った地味なパトロールに尽きる。

 

「今まではヤクザの方が悪魔を見つけ、それをデンジくんが倒すと言った形だったと思いますが……本来なら探すのも仕事のうちです。地味でもコツコツとやっていくしかありません」

 

「へぇ、"ふつう"のデビルハンターって大変なんだな」

 

「その分、悪魔を倒せば十分なお金が貰えます。その辺はデンジくんもよく知っているでしょう」

 

 なんだかんだ、身寄りが無く伝手もないデンジくんが毎月うん十万の借金を返せていたのは、デビルハンターがそれくらい儲かるからだ。

 デンジくんは既に、弱い悪魔なら倒せるだけの実力がある。現実には強さだけでどうにかなる訳じゃないが、デビルハンターとして必要な要素なのは間違いない。それに、トレーニングを重ねれば、これから成長もっとしていく事だって出来る。

 

「それに……街を歩いて回り、人を助け平和を守る。お金以上に、デビルハンターとしてその行為自体に意味を見出せるようになれば、あなたはもっと人として成長できますよ」

 

「ははっ、俺には縁のなさそうな話っすねー」

 

 彼は何の気もなくそう言うけど、私はそうは思わない。

 

「そんな事ないですよ。いずれ、あなたにも分かるようになります」

 

 今はそのままでいいけれど、この世に成長できない人なんて居ないのだから。

 でも、別にすぐそうなって欲しい訳じゃなくて、絶対にそうなって欲しいという願望がある訳でもない。私はどちらかと言えば、彼にこうなって欲しいと願う以上に、どんな風に成長するのか楽しみに待っていたい。

 

「俺ぁ、ソラ姐さんみたいに殊勝な人間にゃなれそうにねぇけどなぁ……」

 

「ふふっ、別に無理してなろうとする必要はないんですよ?デンジくんはデンジくんのままで、少しずつ大人になればいいんですから……さっきのはちょっとしたアドバイスみたいなものです」

 

 それまで一緒に居られるか、そこまでは分からないけど、少なくとも数年はこの状況は動かないだろう。

 子供の成長は早いから、それだけの時間があれば彼だって十分に自己を確立できる。この歳であの額の借金を抱えてもなおちゃんと生きて来たんだ。自立できるかという点に関しては気にする必要はない。

 

 今の彼がこうでも、未来まで同じなんて事はない。

 人の一生は野菜の育つ過程のように、時間が立てば甘くなることも苦くなることもある。私だってまだまだ道半ばなのだから……

 

 

 そうして、軽く雑談しながら街を歩く。

 道行けばいくつもの『Hello World(喧噪)』が街頭には溢れていて、その一つひとつが成長への入り口だ。それに触れることこそが、巡る事の意味。そう気づけたのは、スカイランドから遠い異世界へと渡って来たからこそ。

 

 騒音、楽音、不協和音。

 そこに絵がつき色が付いて飛び出す絵本になっていく。

 

 この世の全てはファンタジー……

 

「と、やっこさんがお()でのようですね」

 

 それが不規則になっていく。

 道行く人々の波がそれまでとは反転して、ある物から逃げるように一方向へと一目散に散っていく。

 

「うぇ、なんだあのキモイ悪魔……タコ?」

 

 隣に居るデンジくんが街路の先に鎮座する偉業の怪物を見て顔をしかめる。

 そこには吸盤がついた足を何本も持つ、大通りを埋めるほど大きな赤色の化け物。その見た目は一言に言い表せばタコ。そう、海とかに住んでるあのタコさんだ。

 

「みたいですね。さながら、タコの悪魔といったところでしょうか?あまり怖がられるような概念ではないと思いますが……いや、フィクションとかも入れるとそうではないかも?」

 

 映画とかでは凄く大きなタコが船を沈没させるとか、神話にはタコのような見た目の怪物も居る。

 そういう物への恐れも含めれば、必ずしも無害とは言い難い。ナマコやトマトなどよりは厄介だろう。

 

「周囲に他のデビルハンターは居ないようですね」

 

 そして、第一発見者は私たち。

 

「コイツ、どうするんすか?これくらいなら、普段は手を出さないんすよね?」

 

「……いえ、これ以上道を塞がれても迷惑です。この場で私が倒します」

 

 幸い、今は周囲に人はいない。

 活躍を交えてちゃんとしたデビルハンターとはなんたるかを見せるには絶好の機会だ。それに、目の前で人様の迷惑になる行為をしているのを見て許すほど、私も優しくはない。

 

「さあ、ヒーローの出番です!」

 

 ミラージュペンを取って、タコの悪魔に向ける。

 光が集まって、その姿は変わって、巡る力は世界を守る正義のヒーローのそれへ。スカイブルーのツインテールが揺らめいて、ソラ・ハレワタールから『キュアスカイ』に変身を遂げる。

 

「見ていてください、デンジくん。これが、私がデビルハンターとして戦う姿です」

 

 言って、地を蹴る。

 倍増した身体能力で一気に迫ると、タコの悪魔の足が四方八方から襲い来る。

 

「そんなの、当たりません!」

 

 それを軽やかに次々と躱して、距離を着実にゼロへと近付けていく。数は多いが、動きそのものはノロマだ。冷静に見れば避けられる。

 あとはこの巨体だ。打撃一発で沈める事も出来ようが、確実に倒すならより効果的な攻撃が求められる。それに、戦いを激化させて周囲に被害を広げるのもあまり好ましくない。狙うなら必中必当、二撃目まではもつれさせない。

 

「一撃で終わらせたいですが、そう自由に動かれると厄介ですね」

 

 まずはその自由を奪う。

 あえて足を止めて一瞬停止して、縦横無尽に舞う足を一点に向けさせる。

 

「そこですッ!」

 

 そこで軽やかに身を躱し、束ねられた足を両腕で掴む。

 

「プリキュア~~」

 

 そのまま力一杯に引っ張り、巨体の重量も物ともせず振り回す。

 

「大回転!!」

 

 遠心力が十分についたら、上空に打ち上げる。

 巨体がビルの屋上よりも上に飛んでいく様は気持ちいいの一言だが、それで終わりじゃない。

 

「からの……大ジャンプ!!」

 

 私は放り投げたタコの悪魔を追って跳躍し、瞬く間にタコの悪魔を追い越してその上に飛び上がる。

 

「ヒーローガール――」

 

 右脚を天高く振り上げる。

 

「スカイキック!!」

 

 かかと落としの要領で全身全霊のキックを上空からの加速も交えて放つ。

 浄化の力も込められた全力の蹴りは、タコの悪魔に突き刺さってそのまま地面に叩き落とす。その衝撃は地を揺らすほどのもので、当然その直撃をくらったタコの悪魔はスミキッターという幻聴を残して浄化される。

 

「万事解決です」

 

 そうして、邪の気が抜け殻となった悪魔から降りて、通信機ごしに岸辺さんへ回収の連絡を居れた。

 

 

 

 

 

 

 後の処理は岸辺さんたちに任せて、私たちは再びパトロールに戻った。

 悪魔を倒したからといって、順路は必ず回り切るのは私の信条で、それこそヒーローはいついかなる時も、だ。しかし、流石に一日に何度も遭遇するような事は滅多になく、大抵はそのまま帰路につく流れ。

 途中でファミレスにでも寄って、軽い昼食にしようかと考えていると、横から声がかかった。

 

「いつもあんな感じでやってるんすか?」

 

「あんなって、あぁさっきのですか」

 

 悪魔を倒すと、私は即座にひとけの無い場所に隠れて変身を解く。

 倒して、回収の連絡した時点で、私の仕事は終わり。それ以降のことは、公安の人達に任せ下手に関わらないというのが岸辺さんと私で決めたルールなのだ。

 

「そうですよ。私の場合は正体を隠して活動しているので、特別な処置を取ってもらっていますが……普通は、討伐に参加したデビルハンターは後処理の時まで現場に残るものです」

 

 そこまで説明すると、デンジくんは思いがけない疑問を口に出した。

 

「自分がやっつけたって、知ってもらいたくないの?」

 

 心底から出た問い。

 きっと彼は褒められる事をしたなら褒められるべき、自慢できることは自慢するのが当たり前と思っているのだろう。その考えは殆どの人にとっては当たり前のもので、ならばこの質問だっておかしいことじゃない。

 そんな彼に、私は胸の中から本心を話し出す。

 

「名声を求めてやっている訳じゃないですからね。勿論、そういう人を否定するつもりはありませんよ?……でも、"私"にとって重要なのはそこじゃないんです」

 

 これはかつてから、幼い頃からずっと抱いてきた思い。

 何度も砕け、そして育んできた憧れと夢だ。

 

「"ヒーローとして正しいことをする"……それが、私がここで(・・・)デビルハンターをやっている理由です。唯一無二、私の決めたことですから」

 

 守り抜く、ずっと。

 じゃないと、今もきっと元気で居るはずの大切な人に顔向けできない。

 

「それに、ヒーローは悪を倒せば颯爽と去るものでしょう?」

 

 そう締めくくると、デンジくんは「そういうもんか?」とまだあまり理解していない様子で、そんな反応も当然かと苦笑する。

 だけど、彼の質問はそこで終わりじゃなかった。

 

「じゃあ……何でソラ姐さんは、俺と会った時最初から本名を名乗ったの?」

 

 今度こそ的を得た気がした。

 何とも鋭く、そして直球に来るものだ。

 だけどその質問にだけは、私はすぐに明確な解は出せず、少し考える時間を要した。

 

「……考えた事もなかったです。でも、そうですねぇ……私、あの時点ですでにあなたを引き取る事は決めていたので、だからでしょうか?かなり勢い任せだったので、今となっては推測の域をでませんが……」

 

 あの時は、本当にそれ以外が頭になかった。

 まるでこれが運命だとでも言わんばかりで、不確かで曖昧な何かが私に決断させたのだけは覚えている。でもきっと、それはちゃんと自分で決めた事だから何かしらの思いがあったはずなんだ。

 それはなにか……

 

 そう。

 

 ――ヒーローとして日々、誰かを救っていても、ふと思った事があった。

 不特定多数の皆さんではなく、ただ一人に救いの手を差し伸べて、救ってあげたいと。

 

 それはきっと、ヒーローとしては正しくない考えだろう。ヒーローは特別扱いなんてはしてはいけない。皆平等に守って救うものだ。でも、私の中の『ヒーロー(ましろさん)』は私というただ一人にあまりにも多くのものをくれた。

 居場所も、特別な想いも、あまねく多くの光を――

 

 だから、私もきっと同じように誰かにそうしたかったんだ。

 そうすることで、私が"この世界"で紡いだ人生にも凡庸じゃない何か特別なものが宿ると、意味が生まれると信じて。

 

「それだけ……ですかね。気にしてくれて、ありがとうございます」

 

「えっ、今の俺がお礼言われるとこ?」

 

「そうですよ。お陰で胸の中が整理出来てスッキリしました。それに何事にも感謝は大事です」

 

 想いが見つかる事は重要なことだ。

 そのきっかけをくれた彼に、それほどの事だと彼が思っていなくても感謝するのは私からすれば当然のことだ。これで、この先も見失うことはない。デンジくんはというと、そんな私を見て感嘆していた。

 

「……やっぱ、めっちゃイイ女っすね。ソラ姐さん」

 

 そう言われるのも、最近は案外悪くない気がした。

 

 




関係性って思ったよりも大事ですよね
これってちゃんと書かないと伝わらなくて、こうした一幕が後から大事になってくると思います
なんか気が付いたら夢中になってる
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