悪魔のはびこる世界に正義のヒーローは必要でしょうか?   作:一夜漬 唄刃

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一話が読み切り時代のままだったので多少改訂しました
取っ散らかっていた部分がスッキリしてより話が繋がりやすくなったかと


第6話:降り始め

 

 その日はもうそれ以上デカい悪魔と遭遇する事はなく、そのままキュアスカイの状態で全速力でパトロールを終えて家に帰った。

 緊急事態だったので仕方がなかったとは言え、雨の中で変身して悪魔の討伐に行ったので、全身ずぶ濡れだ。これでは傘を持って行った意味がない。

 

「はぁ、朝お風呂に入ったばかりなのに……」

 

 ため息交じりに家に上がって、風呂場に直行する。

 気温が上がり始める梅雨とは言え、濡れたまま放置して体を冷やすのは得策ではない。服を乱雑に脱ぎ、畳んでネットに入れて洗濯機に放る。

 

「どうせデンジくんも濡れて帰ってくるでしょうし、洗濯を回すのはその後にしましょう」

 

 因みに、浴槽には出かける前に湯を張ってある。

 そのおかげで浴室にはすでにあつい湯がたんまり用意されており、さっと軽くシャワーで身体を洗い流すと冷えた体を労わるように浴槽に浸かる。

 

「ふぅ~……極楽ですぅ」

 

 梅雨のお風呂もまた格別だ。

 寒い季節とはまた違った快感が、身体に染みて溶けてしまいそう。こんな世界でも楽になれる場所があるって思うと、それすら幸せに思える。

 

「~~♪」

 

 そうして、しばらく湯につかって鼻歌でも唄っていると、玄関の方から扉の開く音が聞こえた。

 

「あっ、デンジくん。帰ってきた」

 

 だとしたら、優雅な入浴タイムもここまで。

 さっさと空けないと彼が体を冷やしてしまう。そう思って、名残惜しさを抱えながら立ち上がろうとした時だった。

 

 ドタバタと音が響いて脱衣所の戸が開く音がした。その一瞬後、蹴破るが如き勢いで浴室の扉までもが開け放たれる。

 

「――ソラ姐さん!ちょっと話が……ゴハァッ!」

 

 そうして現れた闖入者(ちんにゅうしゃ)に、コンマ一秒の反応で手に取った風呂桶を投げる。

 プラスチックの堅いフチが少年の頭に直撃し、とうのデンジくんはつんのめって後ろに下がると額を押さえて蹲った。その間に浴室内にかけてあったタオルを素早く体にまいて、私は仁王立ちもかくやといった所作で彼の前に立った。

 

「イチチ……いきなり何するんすか!?」

 

「それはコッチのセリフです。突然、女性の風呂場に入って来てなんですかその態度はッ!私が相手だから良いと思っているようなら許しませんよ!」

 

 指さして猛然とした勢いで説教を繰り出す。

 当然のことながら、この家において風呂など互いのプライベートな空間に許可なく入る事はNGだ。別にデンジくんに見られた所で恥ずかしがるようなものでもないけれど『親しき中にも礼儀あり』ということわざがあるように、ごくごく常識的なマナーである。

 

 それを家の中だからとおざなりにする事は彼の為にもならない。

 だからこそ厳しくする必要がある。

 

 だと言うのに――

 

「良いじゃん別に、見られて減るようなもんでも……」

 

「はい?」

 

 なおもこちらを甘く見たような態度をとるデンジくんの胸倉を掴み上げる。

 

「二回目ですよ。一度目の制裁は風呂桶で済ませましたが……二度目は"こっち()"の方がいいですか?」

 

「ひっ」

 

 満面の笑みを作って拳を見せつければ、流石のデンジくんも顔を青くする。

 こういう事はあまりしたくないが、感情論を抜きにするなら必要な時だってあるのだ。

 

「なにを言うべきか、わかりますね?」

 

「すいませんでした!二度とやりません!ナメた口もききません!」

 

 あえなく降参の意を評した彼は床に頭をこすりつけて土下座した。

 別に普通に謝るだけで、そこまでしろとは言ってないのだが、気遣う空気でもないのでため息ひとつに留める。

 

「分かったならいいです。ホントに次はないですから……話は終わったので、あなたも早く風呂に入っちゃってください」

 

「は、はい……」

 

 そう言うと、彼はちょっとしゅんとした様子で視線を下げていた。

 この時点で放っておけなくなるのは、私の悪い所だって常々思う。

 

「……びしょ濡れのままじゃ、風邪ひいちゃいますよ。話は後でちゃんと聞いてあげるから、今は…ね?」

 

「そっ、すね」

 

 そう言って頭を撫でると、デンジくんの調子も戻ってくる。

 本当に分かりやすい子だ。そんな風に思いながら浴室に入った彼を見送って、私は着替えに袖を通した。

 

 

 

 

「――って事なんだけど……ソラ姐さん。俺、どうすればいいと思う?」

 

 お互い風呂から上がって、紅茶を淹れてリビングで一息。

 さっき約束通り彼から紡がれた相談。私はどんな事でも真摯に受け止める覚悟で臨み、そうして語られた内容に早くも頭を抱えそうになっていた。

 

「じ、事情は何となく(・・・・)分かりました。それで……その『レゼさん』と出会った流れでお茶をして、また会う約束をしたと?」

 

「そう!そういうこと!」

 

 必死に脳内で噛み砕いた結果を口にして確認を取ると、デンジくんは両手の人差し指をこちらに向けて首肯する。

 

「場所は例のカフェで、日時は三日後の正午……やることは特に決めてない。ふむふむ、字面だけ見れば確かにデートですね」

 

 中学二年ていどの同い年の男女が、カフェで待ち合わせとくればデートしかない。

 彼の話した一連の出来事が全て誇張抜きの事実であるならば、偶然できた友人同士の小粋な遊びという線もまずないだろう。

 

「でしょ?だから聞いてんですよ。当日はどうするべきなのかって……デートプランってやつ、の参考とか!」

 

「え?い、いやぁ……そう言われましても……」

 

 煮え切らない風に言葉を濁す。

 

 いや一応あるにはあるのだが、それを彼に勧めるべきか否か。

 マストなのはお化粧品のショップや、洋服の買い物。駅近のモールへ繰り出し、適当にブラついたりウインドウショッピングを決め込むのも悪くない。ただ、相手はこのデンジくんを出会ったその日に誘うような方だ。

 

 そんなありきたりなデートプランを本当に期待しているのだろうか?

 無い、と思う。

 

 普通の女の子が望むようなものなら、ましろさんから多少教わったお陰もあって分からないこともない。しかし、だからと言って男女の恋愛について無知なのも事実。そもそもの話、会っても居ない女の子の好みなど考えても分かる訳がないのだ。

 

「やっぱ、難しいっすか?」

 

「そうですねぇ……実際、アドバイス自体は出来なくもないんです。ただ、デンジくんの場合はそれがかえって逆効果かもしれないと言いますか……」

 

 慎重に言葉を選んで伝えるべきことを形にしていく。

 

「まず、デンジくんが"そういうこと"を相談してくるのが凄く意外なんです。あなたっていつも、悩むくらいなら何も考えないって感じでしょう?」

 

「そりゃあ、俺だって悩まずに済むならそうしたいよ。でもさぁ、あの()って確定で俺のこと好きだぜ?それって、めちゃくちゃチャンスって事じゃん!」

 

 この凄まじいまでの自信は何処から湧いてくるのか。

 でも多分きっとこれがこの子のいい所なんだろうな。誰にもない、彼だからこその精神性は美徳とかってありきたりな言葉では片付けられない。独特の面白味があるのだ。

 

「だったらもう、いっその事ノープランでいいんじゃないですか?何も考えずに行く方が上手くいくでしょう、デンジくんなら……」

 

 これは勘だが、恐らく当たらずとも遠からずではあるはず。

 こんな大雨の日に、ただ同じ場所で雨宿りをしたというだけで、わざわざデンジくんに沢山話しかけてカフェでお茶までしたのだ。

 一言二言も話せば、彼の性格なんてあけすけに分かったろうに、なおも次があるのは"その上で"ということ。

 

「えぇ~なんすかそれ……真面目に考えてくださいよ」

 

「ハイハイ分かりましたって、今日は奮って私特製のビーフシチューですよー」

 

「マジィ!?やったぁ、ソラ姐さんやっぱサイコーっす!!」

 

 こういう所がカワイイのだけれど、それはそうと行き先や将来やら人間関係やらが心配になってくる今日この頃でした。

 

 

 

 

 

 

 そうしてあっという間に三日が経った。

 朝の十時頃、約束よりもずっと早い時間帯にデンジくんは出かけて行った。私に出来る事と言えば、そんな彼の成功を祈るのみ。それに合わせて今日はパトロール自体を休みにしているので、私の方も好きなことに時間を使おうと思う。

 

 昼までに家の事をきっちり終わらせると、私も出かける。

 

 

 こういう時、目的もなく町へ繰り出してぶらつく事がある。

 何の目的もなく、何にも縛られない。

 ヒーローと言っても、所詮は一人の少女に過ぎない私が年中無休で頑張り続けるなんて不可能。予想外に体調を崩す事もあるし、休息だって必要でしょう。機械にさえメンテナンスや休みが必要なのだから、人なら尚更だ。

 

「さてと、今日は何処まで行きましょう……」

 

 遠くへ行くならプリキュアに変身しても良いし、バイク(ちゃんとこっちで免許を取りました)を使うのも悪くはない。

 ……とは言え、今日はなるべく徒歩圏内で済ませるつもりだったので二つの出番は無さそう。バイクの方は月に一回は走らせないと可哀想なので、今度ちゃんと遠くへ連れていってあげよう。

 

 そう思いながら、足を町へと向ける。

 なるべくパトロールのルートからは外れて、伸び伸びとするのがミソだ。

 

「デンジくん、上手く行ってますかねぇ」

 

 しかし、漏れる呟きは大抵そんなもの。

 ちょっと奮発して寄ったお高めなお食事処でも、見るのは大抵空か外か。

 

 そりゃ気になるでしょう。

 何と言っても、この三年愛情を込めて育てて来た子の夢が叶うかもしれないのだ。レゼという女の子が優しい人ならいいな。デンジくんは素直だから、自分を好きな人をちゃんと好きになってしまう。

 今日は今のところ晴れだ。

 日和の方はとてもイイ。

 

 どうか天気だけでもそのままであってくれ。

 

 

 

 

 ――と、そんな私の願いは文字通り儚く散る。

 

「って、めちゃくちゃ大雨じゃないですかー!何なんですかもう!!」

 

 上野公園でまったりとした時を過ごしていると、そろそろ帰ろうかと思い始めた夜ごろ。突然、晴天だった空を雲が埋め始めて、嫌な予感がして急いで屋根のある場所に避難するとすぐ大雨が降り始めた。

 

「天気予報では一日中晴れだったのに……おかしいでしょこれ。通り雨って感じでもないし……」

 

 通り雨のような薄い雲ではなく、長いこと晴れそうにない深く淀んだ雨雲。

 いや分かっている。これは普通の自然現象なんかじゃなくて、異常事態。言わずともわかること、この大雨には悪魔が関わっている。目を閉じて集中すれば、そう遠くない場所から悪魔の気配をヒシヒシと感じる。

 

「……悪魔ですね。それもかなり大きい」

 

 これまで感じた中でも、上位に入る強度と大きさ。

 町に降りて来れば、それだけで何千何百という人が犠牲になるようなレベル。一個の災害に匹敵するような敵が、この町の何処かに居る。まるで自身の力を誇示するように放たれる圧がその証拠だ。

 

「天候に影響を及ぼすほどです。何かしら、災害に関する悪魔と見た方がいいかもしれません」

 

 野放しにはしておけない。

 ミラージュペンを手に取ると、黒に近い鼠色に包まれた空を睨む。

 

「ヒーローの出番です!」

 

 私の体は光に包まれてヒーローに変身する。

 

 

 

 スカイになって向かったのは、とある学校だ。

 その場所から強い悪魔の力を感じる。だが、イマイチ焦点が定まらない。実際に校舎の中に入ってみても、まるで霧のように掴みどころがなくて探知しきれない。気配が分かると言っても気配の強弱と大まかな場所が分かるだけだから、こういう事もあるにはあるのだが……

 

「見つからない。これだけ大きな気配なら、すぐに見つかりそうなものですが……」

 

 いつ悪魔と戦闘になってもいいように、変身は解かずに校舎の中を探索する。

 外は大雨で窓から先の景色は殆ど見えない。

 

 収穫がないままとうとう無駄足を覚悟し始めた。その時――

 

「ん、今あっちの方から人の声がしたような……」

 

 プリキュアになった事で強化された驚異的な聴力が捉えた音。

 この反響する廊下だったのもある。耳をすませてみると、やはり聞こえた。走る音と、それを追うようにして大声でわめく男性の声。

 

「やっぱり、気のせいじゃありません」

 

 十中八九この建物内に居るであろう悪魔と関係があると踏んで、超人的な脚力に物を言わせて急ぐ。

 その先は校舎の屋上。大雨のため、普通なら出ようと思わないそこで異変が怒っている。

 

「――ここ!」

 

 一瞬にして到着して屋上のドアを一息に開け放つと、そこに広がる光景は思いもよらないものだった。

 

「え?」

 

 そこに居たのは薄い紫色の髪をした少女と、ナイフを持った異質な男。

 その立ち位置は、私と少女の間に男が居る形。

 

「なっ、誰だお前はァ!?」

 

 男はこちらにナイフを向けて叫んだ。

 心底予想外な事が起こったとでも言いたげに、まくしたてる男よりも、私はその向こうに居る少女こそ気になった。

 

 ――あの女の子、何処かで見た事あるような……そうだ、思い出した!三日前に悪魔から助けた子です。

 特徴的な娘だったから覚えている。問題はその子が、どうして今こんな状況のさなかに居るのか、だ。

 

「誰も近づけさせないんじゃなかったのか……?何でこんなガキがここに居る?」

 

 男はナイフを持ったまま私との距離を少しずつ縮めていた。

 その動作から一般人じゃないのは確定的。一気に襲い掛かるのではなく、踏み込んで一息に屠れる位置まで詰めようとするのはそういうノウハウがある証拠。

 

「まあいい。騒がれても面倒だ。こういう場合は、さっさと始末するに限――」

 

 ならば、今更なにを構う必要もない。

 そう思って、私は常人離れした早さで男の背後に回り込む。

 

「誰を……さっさと始末すると?」

 

 男が背後に回った私に気付く頃にはもう遅い。

 まず変なことができないようにナイフを弾き飛ばし、そのまま流れるように急所を致命傷にならない威力で殴る。男はその動きを捉えられずまともに喰らって、負け惜しみを言う暇もなく意識を手放す。

 

「あなたのような悪人に、簡単に始末されるほど軽い命じゃありません。牢屋の中で悪行をしっかり反省しなさい」

 

 拘束用の手錠でさっと拘束すると、屋上の柵に固定しておく。

 未だ降りやまない豪雨に濡れながら、私はもう一人の方へと視線を向ける。

 

「また会いましたね。あなたとは何かと縁があるみたいです」

 

「えっと……キュアスカイ、さん?」

 

 紫髪の少女は私を目の前にして困惑している。

 まあそれも仕方がない。

 彼女がどんな事情で、こんな時間に、どうしてこんな場所に居たのかは知らないが、とんでもない事件に巻き込まれていたのは紛れもない事実。

 

「はい!正義のヒーローがまた、あなたを助けに参上しました!」

 

 言って、少女の手を取って微笑む。

 少女はまだ状況を上手く理解できていないのか、何とも言えない表情で私を見ていた。

 

「さあ、もうお帰りなさい。こんな豪雨の中でずっと居たら、悪漢に襲われる前に病気にやられてしまいます」

 

「う、うん……」

 

 とにもかくにも、このまま屋上に彼女を留まらせるのは得策じゃない。

 導くようにして屋上の入口へ促すと、少女は気が乗り切っていないようなおもむろな動作で歩いて行く。水を踏む音が一本ずつ遠ざかる中、私はその後ろ姿から目を離さず見送る。やがてその足が校舎内に戻る扉をくぐった時だった。

 

「……ねぇ、キュアスカイさん」

 

 彼女は、一度振り返って私に声を掛けた。

 エメラルドの瞳がくっきりと私を捉えて、そこにはどことなく有無を言わさない圧があった。

 

「あなたはなんで、ヒーローなんてやっているの?」

 

 その問いにどんな意図が込められているかは、私に推し量る事は出来ない。

 純粋な疑問かもしれないし、もっと別の何かがあるのかも……しかし、その答えを彼女が求めているという事だけは確かで、ならば私の吐ける解など一つしかない。

 

「それが私の夢で……私がありのままに"私"であるからです」

 

 それ以外に有り得ない。

 憧れだとか、奉仕の精神だとか、色々と細かい理由はあるけれど、言葉にするとどれも不足を感じて、しっくりくる表現はそれ以外に思いつかない。

 その夢は私の中に根差す『根源的な希望』そのものなのだ。

 どんな恐怖にも負けない、純粋で混じりけのない真の白。このカオスにまみれた人の精神に純白の想いがあるとするならば、私の場合はこの"在り方"こそがそれに該当する。

 

「ふぅーん……」

 

 それをそのまま伝えると、少女は一度目を細めた後「助けてくれて、ありがとう」とだけ言い残して階段を降りて行った。

 見届けた私は、続いて校舎の中に戻るのではなく屋上を反対方向に歩き出す。

 

「渦巻いた雲。まるで、この嵐こそが学校を囲む檻みたい」

 

 肌に突き刺さる雨の勢いは鮮烈で、いつもは町を見渡せるであろう屋上からであっても景色は霧がかかったように何も見えない。

 ただ頭上に鎮座する黒い雲だけ。そんな中で、私はようやく見つけ出した(・・・・・・)

 

「随分と上手く隠れていたようですが……さっきの一幕で尻尾を出しましたね」

 

 両手に浄化の力を込めて高める。

 これからやることはいつもと何ら変わりない。隠れた悪魔をおびき出し、その姿を詳らかにする工程はもはや手慣れたものだ。

 

「出て来なさい。この嵐を作り出した悪魔!」

 

 両手に込めた浄化の力を、身体の前でぶつけ合わせて弾けさせる。

 それによって全方位に浄化の力が散って、降り注ぐ雨粒の一粒一粒にも伝播していく。その雨粒の行き先は当然、この屋上の排水口であり、浄化の力がふんだんに乗せられた水を"その悪魔"は一身に浴びる事になる。

 

【ぐぎゃあああぁぁぁあああ!!!??】

 

 やがて断末魔が響き渡り、排水口から小さなシルエットが姿を現した。

 ――捉えた。

 

 私はそれを逃さず、瞬時に距離を詰めて掴み取る(・・・・)。それは手のひらサイズ小人だった。ただし、それは握りしめた私の手を内側からガリガリと不快な音を立てながら削る。

 

「こんな暴風雨を巻き起こす悪魔です。どうせ大きさも自由自在なのでしょう?まさかそんな相手と町中でやり合う訳にもいきません。少しばかり場所を変えさせてもらいます!」

 

 手に走り続ける激痛も意に介さず、腕を振りかぶって、一息にぶん投げる。

 小人サイズの悪魔は凄まじい速度で飛んでいき、私もプリキュアの身体能力でそれを追いかける。投げた先は東京都郊外の山々の連なる地帯。多少規模の大きな戦闘を巻き起こしても被害が広がり辛い地域だ。

 

 即座に大都会はなりを潜めて、自然豊かな山々の只中へと至る。

 その向こうで変化があった。

 

【やったなぁぁあああ!】

 

 それはまるで巨大な赤ん坊だ。

 赤い渦巻を纏ったそいつは、それこそ着地するだけで地響きを鳴らすほどだ。更に周囲に吹き荒れる凄まじい暴風は、まさしく嵐を纏っていると言っていい。

 

「強い悪魔だとは思っていましたが……凄まじいスケールですね。まるでフィクションの大怪獣です」

 

 完全に予想の上を行くレベル。

 そんな巨大なバケモノを前にして尚、私の心には一片の恐怖もない。間違いなく、これまで遭遇した中でも上位に入る強敵であるにも関わらず、私は血の滲む右手をぎゅっと固く握りしめて"台風の化身"に向けた。

 

「これ以上、あなたの好きにはさせない。この風も豪雨も、ここで終わりにして、晴れわたる空に変えてやります!」

 

 ヒーローは恐れない。

 相手が例え、どんな強敵であろうとも。




次回は対台風の悪魔
そして初の大規模戦闘です
ソラの強さを今一度見せてもらいましょう
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